機動戦隊アイアンブラッドサーガー悪魔と少女と機甲ー   作:野生のムジナは語彙力がない

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おかえりなさい!指揮官様!

いつものように業務連絡なのです。
……というか、このアイブラサガですが、いつのまにか書き始めてから1年が経過しておりました。長いようで短く、よくこんな長い間飽きずに書き続けることができたなって思うのです。まあ、長い休業期間もありましたが……

ところで、今回のイベント(2020水着イベ?)どう思います? ムジナ的には良かったとは思いますが……はぁ、ついに出ちゃいましたね『性転換の薬』…日本版には出ないって聞いたからムジナは非公式バレンタインイベでTGMって出したんですが、まさかこのタイミングで出してくるとは……設定が狂うのです。

なるほど、これがムジナ対策ですか……
まあ類似品ってことで流せるんですけどね



まあまあ、それでは続きをどうぞ……





第25話:黒翼の狙撃手

 

 

天界宮

 

 

崩壊し、見る影もなくなった天界宮

その中心部に、つい先ほどまで破壊の限りを尽くしていた巨人が悠々と佇んでいた。

 

通常のBMとは比べ物にならないほどの巨体

 

全身は漆黒の装甲に覆われている。

 

右腕の巨大なドリルは見るもの全てを萎縮させるほどの威圧感があり、左腕のガン・アームの全長はゼネラルエンジンの量産型BM1機分もあった。

 

その巨体を支える二本の脚は太く、それはまるで1000年の時を生き続けている大樹のようだった。決して倒れることのないようしっかりと大地に根を張るかのように、その場に留まっている。

 

そして、特徴的なその頭部……どこかで見たことのあるV字アンテナとツインアイ。また、ツインアイからはモスグリーン色の光が煌々と放たれている。

 

立ち上る火の手に照らされ、漆黒のボディが地獄の業火に照らされたが如く、赤く染まる……これを悪魔と呼ばずしてなんと呼べばよいのだろうか?

 

 

 

ーーーーー

 

 

 

「よし、全員揃ったな」

 

ハンニバルのコックピット内。

広々としたスペースの中で、その最上段にて足を組んで座っているスロカイは、その場に集結した騎士たちを見回して満足そうな表情を浮かべた。

 

「はい! 陛下!」

 

マティルダが膝をついてスロカイを見上げると、ウェスパとヴィノーラも同様に膝をついてスロカイを見上げた。

 

ハンニバルのコックピットはスロカイと教廷騎士の3人が入ってもまだ余裕があった。全天周囲モニターで構成されたコックピットには、中央にスロカイ専用の玉座兼リニアシートが置かれ、その下方にはサブパイロット用のシートが3つ設置されていた。

 

「それにしても、凄いわねぇ〜」

 

膝をつきながら、ヴィノーラは感嘆の声を漏らした。無表情なウェスパも、今回ばかりは興味深そうにコックピットの中をキョロキョロと見回している。

 

「ふふん、そうだろう?」

 

スロカイは胸を張ってニヤリと笑った。

 

「確かに……火力、反応速度、防御性能そのどれを取っても最高と言える出来栄えです。これ程の機甲、テクノアイズは一体いつの間にこんなものを開発していたの……?」

 

「いや、これはテクノアイズ製ではない」

 

マティルダの疑問にスロカイが答える。

 

「この機体はテクノアイズで作られた……だが、この機体の設計はテクノアイズでは行われていない」

 

「陛下、それって一体……?」

 

「うむ、実はな……」

 

スロカイはそこで、数ヶ月前のアフリカでの出来事を3人に話した。自身のことをソロモンファミリーだと述べる人物との接触、そしてその時に渡された1枚のメモリーカード

 

メモリーカードの中に入っていた設計図。

開発コード:『ハンニバル』

圧倒的なスケールであるにも関わらず、それでいて一切の無駄がない高い完成度を誇るその図面を見て、スロカイは当初驚きを隠せなかった。

 

スロカイはメモリーカードを取り出して示した。

 

「設計図をアフリカから持ち帰った余は、テクノアイズの目を盗み、封印された開発室にて1人でそれを組み立てていたのだ。故に、この機体の存在はシンシアも知らぬ」

 

「この機体を……陛下が1人で?!」

 

「ああ、時間こそかかりはしたものの、機械神の加護を受けた余に出来ないことはないのだ。例えそれが敵陣の最中で多勢に無勢を極めたとしても……現にこうして、誰1人として騎士を失うことなく窮地を切り抜けることができたからな」

 

スロカイの言葉には説得力があった。

 

「流石です! 陛下! それにしても、よくシンシア様にバレませんでしたね……」

 

「それに関してはなんてことはない。寧ろ、獅子身中の虫を抱える余としては、1人の方が動きやすかったのでな……それに、このハンニバルに使われているパーツは、どれもテクノアイズの生産ラインで製造できるものだ」

 

「あ、言われてみれば確かにそうね〜」

 

スロカイの言葉に、ヴィノーラは相槌を打った。

 

「この機体の装甲って、聖鋼でしょう?」

 

「そうだ。装甲の表面は最も硬く最も重いとされている教廷製の重金属……聖鋼を使用している。それにマティルダ、お前も見ただろう? この機体のSマインには通常のボールベアリングではなくネイルガンのネイルが使われているのを」

 

「た、確かに……」

 

つい先ほどの、ハンニバルな群がる大勢の兵士たちを一瞬にして蹴散らした場面を思い出し、マティルダは頷いた。

 

「そう、この機体を構成する装甲とパーツ、搭載された武器弾薬……その多くが、テクノアイズの兵器製造過程において不要と見なされ、廃棄された物を使用しているのだ。……普段、資材の備蓄にはうるさいテクノアイズだが、自分たちが棄てたものに関しては呆れるほどに無関心だからな」

 

スロカイはそう言いつつ、クククと笑った。

 

「……とはいえ、この機体を組み立てようと思い至るまでには、余にも多少の気の迷いはあったのだがな」

 

「そうなのですか?」

 

「ああ、考えてもみろ。メルとかいうソロモンの胡散臭い奴から渡された設計図だ。まず怪しいと疑うのが当たり前だろう?」

 

それを聞いて、3人は頷いた。

 

「後は余のプライドの問題もあったのだが……今思えば、組み立てたのは正解だったと言えるな。こうして危機は脱することはできたし、まあ、余なりのアレンジもできたことだし、良しとしよう」

 

「アレンジですか?」

 

「うむ♫」

 

スロカイの言葉を肯定するかのように

 

『…………』

 

一瞬だけ、ハンニバルのツインアイが鋭い輝きを放った。

 

 

 

ーーーーー

 

 

 

怪しいと思いつつも、スロカイがハンニバルの組み立てを決意したのには理由があった。

 

 

 

その理由が、三日月・オーガスの存在だった。

 

 

 

それはアフリカにて、チンピラに絡まれているスロカイを、意図せずして三日月が助けることになったあの日に始まった。

 

仕返しの為に、チンピラ達がBMを持ち出してきた際……それに対して、三日月は自前の機甲で撃退。数の差を物ともせずに、一方的な戦いを繰り広げた。

 

 

 

『来い! バルバトス!』

三日月の呼びかけに応じ、地中から姿を現した白い機甲

 

 

 

その時の光景は、スロカイの心に深く刻み込まれていた。なんの前触れもなく地中から現れたバルバトスに対して、スロカイが受けたショックは大きかった。

 

機械神の力で土中に埋まった機械霊を呼び覚ますことができるスロカイではあったが、三日月は機械神の力を使うことなくそれを成し得たのだ。(正確には違うのだが)しかも、彼が自らの機甲に向ける視線……それは言うなれば『絶大な信頼』だった。

 

それは、スロカイが教廷騎士に対して抱く感情そのものだった。しかし、人工知能すら搭載されていない、ただの物言わぬ機械に対して……そのような感情を向ける者が三日月を除いて果たして他にいるだろうか?

 

そして、こう思った。

『自分も欲しくなった!』……と

 

機械神の力を使うこともなく、主人の呼びかけに応じていつでもどこでも姿を現わす最強の機甲。それでいて、教廷騎士と同じく、心から信頼することのできる唯一無二の存在。

 

偶然にも、ハンニバルはスロカイの求めていたものに合致していた。

 

圧倒的な性能は勿論のこと、地中を自由に動き回り、地球の裏側でも必要に応じて現れる。呼び出す際には専用のインタフェースを用いるだけなので、機械神の力に関係なく使用できる。

 

そもそも機械神の力は非常に強力なのだが、体力の消耗が激しいという欠点がある。アフリカではそれで体力を使い果たし……その結果、三日月の世話になるという事態が発生した。

(それに、場所によっては機械神の力を全く発揮できないという状況もあり得た→アフリカにて砂漠のど真ん中で襲われたのはそのため)

 

ハンニバルの製作は、その時の反省からくるものもあった。ハンニバルの存在は、スロカイの従来からの課題であった『体力の消耗を抑える』という役目も果たしていたのだ。アフリカで様々な人との出会いを経て、成長していったのは三日月だけではなく、スロカイもまた同様だった。

 

 

 

三日月との出会いが、スロカイを成長させたのだ。

 

 

 

こう見えても、スロカイは機械教廷の最高司令官なのだ。いくら機械神の力に絶対的な自信を持っていたとしても、過去の反省から何も学ばず、同じような過ちを繰り返すほど愚かではなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

機動戦隊アイアンブラッドサーガ

第25話:「黒翼の狙撃手」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(ふふっ……三日月は息災かな?)

 

スロカイは機械神の力に固執し過ぎていた自身の中に、新たな風を吹かせてくれた少年のことを思い出して、心の中でほくそ笑んだ。

 

ハンニバルの特徴的な頭部……V字アンテナとツインアイは設計図にはなかったものなのだが、三日月のバルバトスからインスピレーションを受けて設置されたものだった。

 

「陛下?」

 

顔に出ていたのだろうか? スロカイの様子が気になったのか、マティルダが声をかけてきた。

 

「いや、なんでもない」

 

そこでスロカイは、ハンニバルの各所に配置されたセンサーとカメラを用いて混乱する天界宮を見回した。ブラーフマ軍は態勢の立て直しにかかっていた。

 

「お嬢ちゃん、これからどうする?」

 

シートに腰掛けたヴィノーラがのんびり尋ねた。

 

「そうだな……このままここを制圧するのも良いが、これ以上、機械教廷に面倒ごとを持ち込むのは余としても避けたいところ……いや、今更だがな?」

 

スロカイはその場で振り返り、崩れかけた天界宮を眺めてため息を吐いた。正当防衛とはいえ流石にやり過ぎである。

 

機械教廷が再びチュゼールにて問題を引き起こしたとあれば、本来ならばその同盟国である極東共和国は黙っていなかったことだろう。だが、今の極東共和国は自国のことに手一杯で、国外へ軍隊を派遣する余裕はなかった。なので、それに関しては何も問題はない。

 

拡大主義者ではないスロカイに出来ることといえば、歴史的建造物である天界宮の損害を少しでも広げることなく、この場から撤退することのみだった。

 

「……むう」

 

撤退の為に、ハンニバルを人型からマッドアングラー形態へとトランスフォームさせようとしたスロカイだったが、何を思ったのか変形の途中で人型へと戻した。

 

「陛下?」

 

「あれ、帰るんじゃないの〜?」

 

「…………?」

 

スロカイの行動に3人は疑問符を浮かべた。

 

「そうしたいのは山々なのだが……」

 

そこでスロカイは何やらキーボードを操作し、空間投影モニターを周囲に出現させ、それを見ながら何やら計算を行い、少し思案したのち……大きなため息を吐いた。

 

「マズイな、これでは潜れぬ」

 

「え?」

 

スロカイの言葉に、一同は驚愕した。

 

「……いや、潜れないことはないのだ」

 

そう言いつつ、スロカイは3人の周囲に計測した地質データがまとめられたモニターを出現させた。最も、見たところでそういった知識のない3人の中で、それを理解することができた者はいなかったのだが……

 

「実は、ハンニバルが引き起こした地震により、この辺り一帯の地盤がかなり緩んでしまった。今この状態でハンニバルが潜ってしまうと、深刻な地盤沈下に見舞われてしまう」

 

そんな3人に向けてスロカイは要約して伝えた。

 

「それじゃあ、天界宮は……?」

 

「ああ、全損は免れないだろうな」

 

スロカイはまたもため息を吐いた。

 

「余としても、これ以上、この異国情緒溢れるここを破壊するのは躊躇われる……チッ、ハンニバルの掘削能力が地質に対してこれほどのダメージを与えることになるとは……まだまだ改良の余地があるということだな」

 

「……ということは?」

 

マティルダが気まずそうな顔をして尋ねる。

 

「このまま、歩きで帰るしかない」

 

その時、ハンニバルのセンサーに反応があった。

 

「お嬢ちゃん、11時方向に敵が集結しつつあるわ」

 

「案ずるな。たかがブラーフマ軍の機甲に、ハンニバルを撃破できるほどの火力を持つものは存在しない……このまま敵を蹴散らしつつ、正面突破する」

 

スロカイの言葉に、ハンニバルのツインアイが凶悪に染まった。右腕のドリルが低速で回転を始め、左腕のガン・アームの砲身がバラバラに彷徨った。

 

「…………」

 

「ウェスパ? 何を見ているのです?」

 

スロカイが機体を戦闘モードにしている間、何か気になることがあったのか、ウェスパは全天周囲モニターの一箇所を見つめていた。

 

「…………ん」

 

「あれは……教廷の戦車?」

 

ウェスパが指差した方向には、一台の重戦車が配置されていた。ドリルとトゲトゲのついた、黒色を基調とし、所々赤いラインが入っているのが特徴的な戦車だった。

 

「なぁに、あれ?」

 

ヴィノーラも目を細めてそれを見やる。

 

「あれは、教廷が開発した超重戦車だな」

 

スロカイは戦車を流し見て答えた。

 

それはアウグストゥスと呼ばれる戦車だった。

浄化戦争にて極東共和国が介入してきた際、劣勢に立たされた教廷軍が急遽開発した機体で、当時の極東共和国が得意としていた戦法『装甲突撃戦術』に対抗すべく、テクノアイズの司祭が不眠不休で作り上げたものだった。

 

余談だが、超重戦車と呼ぶだけあって戦車にしては巨大ではあったものの、それでも全高はハンニバルの膝上にも及ばなかった。

 

「へぇ〜」

 

ヴィノーラは素っ気なく答えた。

デザインのせいで戦車に1ミリも興味が湧かないらしい

 

いや、興味が湧かなかったのは全員が同じだった。最初こそ奇抜なデザインで全員の注意を引いたものの、その先はなかった。最初に見つけたウェスパですら、あっという間に興味をなくした。

 

「さあ、行くぞ」

 

ぐしゃり……

 

ハンニバルの巨大な足で踏み潰され、アウグストゥスは無残にも大破した。損傷の大きさから、走るどころか修復すら困難であると見られた。

 

「あの……陛下?」

 

「なんだ?」

 

「あの戦車……なぜわざわざ踏み潰したので?」

 

「マティ、我々はこれから地上を歩いて帰るのだ。となると追撃部隊がアレを投入してくる可能性は大いにある。ならば潰せる時に潰しておくのが吉だろう?」

 

「そうですか……」

 

スロカイの行動に、何か別の意図があるように感じられたマティルダだったが、空気を読んでそれ以上は何も言わず、サブパイロット用のシートに腰掛けるのだった。

 

 

 

ーーーーー

 

 

 

ー天界宮・東門ー

 

「ば……馬鹿な……」

 

ブラーフマは見るも無残な形となった居城……天界宮を見て、愕然とした。スロカイの暗殺が成功するまでの間、天界宮・東門付近にある地下シェルターに退避していたので、天界宮の倒壊に巻き込まれることはなかった。

 

だが、それ以前に発生した謎の地震により、天界宮が倒壊する前に地下シェルターが崩壊。断線により電力供給は絶たれ、ブラーフマは救出部隊によって瓦礫の撤去作業が行われるまでの間、暗い地面の中を過ごす他なかった。

 

最も……ブラーフマが東門ではなく広場の地下シェルターに隠れていたのなら、ハンニバルのドリルに巻き込まれ、そこで事切れていただろう。

 

ブラーフマが着ている豪華絢爛な服は、土と泥にまみれ、とてもこの地の支配している者とは思えないほど見ずぼらしい格好となっている。

 

そうして……なんとかシェルターから脱出することに成功したブラーフマは、そこで初めて天界宮の状況を知ることができた。

 

「わわわわ我が城が……わわわ我が住まいが……」

 

ブラーフマの体が膝から崩れ落ちる。

兵士たちは慌ててブラーフマを支えにかかるが、完全に脱力したブラーフマが地面に倒れる方が早く……ブラーフマの顔が地面にめり込んだ。その顔色はすっかり青ざめ、絶望的な表情を浮かべている。

 

すぐさま医療班による診察が始まり、アドレナリン注射を受けたブラーフマは、顔色が悪いながらも意識を取り戻した。

 

「あの……小娘えええええええええええ!!!」

 

ブラーフマの眼は怒りに満ちていた。

 

「ブラーフマ様、落ち着いてくださ……ぐはっ!?」

 

怒りの矛先は、ブラーフマの手当てを行なっていた医療兵に向けられた。医療兵を殴り飛ばし、ブラーフマは持ち前の強靭な精神力で立ち上がった。

 

「あの小娘はどこだあああああああ!!!」

 

ブラーフマは情報を統制した上で、自身の親衛隊『ヴィシュヌ』と、出撃可能な全てのBM隊と航空隊及び戦車隊を、スロカイへの追撃に差し向けるのだった。

 

ありったけの戦力を投入すれば、絶対にスロカイを殺すことができると……ブラーフマは完全に思い込んでいた。

 

しかし、言うまでもなくそれは机上の空論だった。なぜなら、ブラーフマはスロカイの操るハンニバルを見ていなかった。

 

もし、ブラーフマがハンニバルを少しでも目撃し、正しい戦力評価が行われていればもっと違った運命があったのではないだろうか……?

 

結論から言うと、現状のブラーフマ軍の戦力では、スロカイの乗るハンニバルを撃墜どころか、その足止めすらまともに出来ないからである。

 

 

 

ーーーーー

 

 

 

撤退を続けるスロカイ一行。

ハンニバルが黒鉄の装甲を震わせ、巨大な脚で大地を踏みしめ一歩一歩前進する度に、チュゼールの地に地響きが生じる。

 

その進路を遮るかのように、ブラーフマ軍の機体がハンニバルめがけて殺到する。BM、飛行機、戦車……それだけではなく、ブラーフマはこの追撃戦に陸上戦艦をも投入していた。

 

「落ちろ蚊トンボども!」

 

スロカイはハンニバルの胸部に搭載された最強武器・アトミック焦土レーザーの砲門を開き、拡散モードでトリガーを引き絞った。

 

ジュッ……

 

ハンニバルの胸部から膨大な出力の拡散レーザーが放たれ、一瞬にしてハンニバルの前方に展開していたブラーフマ軍の航空隊が跡形もなく消滅する。

 

「まだだ!」

 

しかし、それで終わりではなかった。

スロカイは胸部より未だレーザーが放たれているハンニバルを屈ませ、そのまま地対地攻撃を敢行。

 

ジュッ……

 

迎撃のために、数キロ先から砲塔を回していた戦車隊は無数のレーザーに包み込まれ、あっという間にこの世から消え失せた。

 

「さあ、次だ!」

 

遠距離からアサルトライフルを放つ敵BM小隊に左腕の先を向け、ネイルガンを発射。大口径の5連装砲から放たれる極太ネイルの群れが小隊に向かっていく。

 

大量に、高速で飛来するネイルに対して回避行動を取ることもままならず、ネイルは敵機の装甲をいとも容易く貫通すると、勢いそのまま、その両隣にいた別の機体に向かって跳弾し、貫通し、蹂躙し、地面に串刺しにした。

 

その時、ハンニバルの足元の土が盛り上がったかと思うと、アンブッシュしていた3機のBMが姿を現し、至近距離から照射砲を放った。

 

「痛くも痒くも……ないな!」

 

しかし、それらは全てハンニバルの装甲に弾かれてしまう。スロカイは足元に視線を送ると、高速回転するドリルを敵機に向けて振り下ろした。

 

その一撃で、3機のBMは土にまみれた鉄屑の山と化した。

 

「まだだ!」

 

さらに、アトミック焦土レーザーを拡散モードから収束モードに変更。背後へと振り返り、徐々にこちらへと迫っていた陸上戦艦へ照準

 

「失せろ!」

 

ハンニバルの胸部から極太レーザーが放たれる。

 

レーザーの直撃を受け、陸上戦艦の強固な装甲はあっという間に融解し、蒸発し……やがて巨大な水蒸気爆発を生み出した。

 

「やった!」

 

マティルダが歓喜の声を上げる。

 

「玉砕! 粉砕! 大喝采!!!」

 

スロカイは掲げた拳を握りしめて、高笑いした。

 

「…………!」

 

ウェスパは無表情だが、その顔はどことなく喜びを分かち合っているような色をしていた。

 

「やった! やった!」

 

ハンニバルの戦果に対し、ヴィノーラも同様に歓喜してはいたのだが……彼女の歓喜は、どちらかというとブラーフマ軍のとあるBMが撃墜される度に多く上がっていた。

 

「アレがそんなに気になるのか?」

 

ヴィノーラのそんな様子を見て、スロカイは側面に展開していた黒いBM……『夜叉』にネイルガンを向けて示した。

 

「だってアレ、極東の機体でしょ?」

 

ネイルでズタズタに引き裂かれた夜叉を尻目に、ヴィノーラが尋ねた。浄化戦争を経験している彼女は、極東で開発された機体全てを目の敵にしているらしい。

 

「ヴィノーラよ。確かにあの機甲……夜叉の出自は極東の崑倫研究所製とされているが、アレは崑崙研究所の技術支援を受けたチュゼールが現地生産を行なっている機体だ」

 

スロカイは淡々と説明する。

 

「なのでどちらかというと、極東共和国ではなくチュゼールの機体といえよう」

 

「そっか、残念……」

 

途端にしょんぼりとするヴィノーラに、スロカイはフッと笑いかけ……

 

「まあ、極東の技術を用いて生み出された機体であることに変わりはないがな……どちらにしろ、我々の敵だ」

 

スロカイはそう言いつつトリガーを引くと、ハンニバルの装甲が一部スライドし、そこから大量のドリルミサイルが出現する。

 

ハンニバルの全身から射出された数百機のドリルミサイルが、後方から迫りつつあった夜叉格闘型数十機へと飛来し……小規模の爆発がいくつも生まれた。

 

「陛下」

 

「なんだ? マティ」

 

「我々は教廷に向かっているんですよね?」

 

「いや、ひとまずチュゼールの国境に向かっている。機械教廷の方面に脱出するよりも国境を越えた方が早いのでな、奴らもそれ以上は追撃することはあるまい……普通なら」

 

マティルダはスロカイが最後に付け足した『普通なら』という言葉に反応した。

 

「ブラーフマが、簡単に我々の逃走を許してくれるでしょうか?」

 

「……ああ、前言を撤回しよう。チュゼール王の象徴である天界宮を破壊され、彼奴の怒りは頂点に達していることだろう。たかが国境を越えたところで、追撃が止むことは……まずないだろうな」

 

「では、機械教廷に救援を……?」

 

「いや、その必要はない。国境まで行けば軟弱地盤は越えていることだろう、そこから先はマッドアングラー形態で追っ手を振り切る。しかし、掘削中は完全に無防備な状態となる……その為にも今のうちに敵を撃退する」

 

 

 

ーーーーー

 

 

 

ハンニバルの上空

ー雲の上ー

 

 

 

「とんでもないバケモノね……」

 

スロカイがハンニバルを呼び出してから現在に至るまで、それはずっとスロカイを追ってハンニバルの真上を飛行し続けていた。

 

一面の夜空に浮かび上がる星々の間をすり抜けるようにして、透明な何かが旋回する。そして、誰もその存在に気付かない

 

「流石というべきかしら……こんなものを作り上げた機械教廷もそうだけど、あの人のところで設計されただけあるわね」

 

彼女は、コックピットの中に取り付けられたライフルスコープ越しに、歩き続けるハンニバルの姿を覗いていた。

 

「このまま行くと、国境に出る……」

 

そう呟き、一度ライフルスコープから目を離した彼女は、手元のコントロールパネルを操作した。

 

「……トレース終了。『ディアストーカー』ウェポンセーフティ解除……『エアウルフ』ウェポンセーフティ解除、ステルスカウンターシステム起動……コンバットオープン」

 

コックピットの中で彼女が呟くたびに、それに巻き付けられていた鎖が解かれていく。そして、全ての封印が解かれた時……それは主人の命令に忠実な猟犬と化した。

 

 

 

「悪いけど、機械教廷に帰すわけにはいかない」

 

 

 

彼女が左手でスロットルレバー引き、右手で操縦桿を倒すと……機体の角度が変わり、それは猛スピードで下降を始めた。

 

機体後方のスラスターを全開にし、視界を遮る雲を突き抜け、地上を悠々と歩行する黒い影……ハンニバルの元へ急速接近する。

 

彼女が行おうとしていたのは、いわゆる急降下爆撃だった。

 

コックピットが激しく振動する

 

機体のレーダーがそれを捉えた。

 

ディスプレイ上に赤い光点が煌めく

 

機体後部のウェポンベイが開かれる。

 

そこから1発の爆弾が下りてきた。

 

赤外線誘導式EMP爆弾のオーラルトーンが唸っている。

 

トリガーを引けば確実に命中する。

 

「あなたちに、恨みはないけど……」

 

彼女の指がトリガーに触れる。

 

「アタック!」

 

その言葉とともにトリガーが引かれ、爆弾が投下された。

 

 

 

 

 

ーーーーー

 

 

 

 

ハンニバル、コックピット内部

 

 

 

「ッ!?」

 

突然、どこからともなく投げかけられた得体の知れない奇妙な視線を感じ、スロカイはびくりと震えた。

 

「陛下?」

 

ふとマティルダが振り返ると、いつのまにかスロカイは玉座から立ち上がっていた。何かを探しているかのように、全天周囲モニターの上方……深淵に包まれた空を見上げている。

 

……その時だった

 

「!」

 

ハンニバルのレーダーを見つめていたウェスパが、突如として出現した赤い光点に気づいた。見ると、アンブッシュしていた夜叉が土中から飛び出し、こちら側に照射砲を向けている。

 

しかし、潜伏に気付かないスロカイではなかった。

 

「黙っていれば見逃してやったものを!」

 

視線を戻した時には既に、ネイルガン・アームの砲口が夜叉を捉えていた。後は、トリガーを引くだけで夜叉はバラバラに砕け散ることだろう。

 

しかし、スロカイはトリガーを引けなかった。

 

「なに!?」

 

なぜなら……直上より、実際には聴こえるはずのない甲高い風切り音が響き渡ったからだった。機械神の力を封じられようとも、スロカイの感知能力の高さは未だ健在だった。

 

しかし、ここではそれが災いした。

サイレンの如く響き渡る空耳に気を取られ、スロカイはトリガーを引くのを躊躇う。

 

夜叉の照射砲から光が放たれ……

 

「ッッッ!」

 

次の瞬間、ハンニバルのコックピットが眩い光に包まれた。

 

いや、それは照射砲の直撃を受けたことによるものではない。なぜならこの時、ハンニバルに攻撃を仕掛けようとしていた夜叉は既に……

 

チチチチ……バチッ……バチッ……

 

照射砲を抱えたまま、完全に機能を停止していたからだ。砲弾で撃ち抜かれただとか、損傷しているだとか、攻撃を受けたような形跡は一切見当たらない。

 

それにもかかわらず、機体の各所からはスパークが生まれ、白煙が立ち上っていた。

 

「これは……電磁パルス……?」

 

敵のそんな様子に、訳も分からず戸惑ったスロカイだったが、自分を取り巻く空気の中にピリピリとした違和感を覚え……反射的にその単語を口にした。

 

「陛下! 敵だよ!」

 

「……!」

 

後方を警戒していたヴィノーラが叫ぶ。

スロカイに考えている暇はなかった。彼女たちのすぐ後ろから……ブラーフマの差し向けた新たなる航空隊が迫っていたからだ。

 

「無駄なことを!」

 

スロカイは先程したように、アトミック焦土レーザーでその全てをなぎ払おうとして……止めた。

 

「ん?」

 

なぜなら、スロカイがトリガーを引くよりも早く……航空隊の中で謎の爆発が生まれたからだ。それも1つだけではなく、夜空に爆発が生まれていく度に黒煙に包まれた飛行機が墜落していく。

 

「あれ? 消えちゃった……陛下凄い」

 

「いや、余は何もしていない」

 

スロカイは思わず空を仰ぎ見た。

 

「なんだ? 何が……?」

 

スロカイは自分の周囲に複数のモニターを出現させ、空にいる何かを探した。ハンニバルに搭載された広域レーダー、赤外線センサー、光学カメラ、ドップラーレーダー等、ありとあらゆるレーダーとアンチステルス装置をフル活用するも……しかし、それの発見には至らなかった。

 

「ならば……」

 

上空へ意識を集中させ、神経を張り巡らせると……ハンニバルの上空に満ちる大気の流れがおかしいことに気づいた。

 

「そこか……!」

 

スロカイは空中のある一点に、ハンニバルの視線を向けた。

 

 

 

…………ジ、ジジジジジ………………ジ…………

 

 

 

すると、それまで空に隠れていたそれはあっさりと姿を現した。ステルスを解除した時に生じる空間の歪みとスパークを経て、夜空の中に浮かび上がった。

 

それは黒い飛行機だった。

爆撃機にしてはやや小さく、戦闘機にしては大きい

 

飛行機の形を例えるなら、それは南国の海を悠々自適に泳ぐオニイトマキエイ(マンタ)にも似ていた。機体後方に伸びるテールキャノンがそのイメージをより強いものにさせる。

 

機体表面は特殊なコーティングが施されているのか黒光りしており、その輝きは希少なブラックダイヤモンドを彷彿とさせた。

 

マンタにも似たその機体は、まるでハンニバルのことを見下ろすかのように、夜空にホバリングしている。

 

「やはり、気のせいではなかったか」

 

それを見て、スロカイは少し前に天界宮の空に感じた違和感を思い出した。黒い飛行機からは、あの時感じた感覚と同じものを感じた。

 

『何者だ』

 

スロカイがスピーカーで呼びかけると……

 

……カコン

黒い戦闘機の下部ハッチがゆっくりと開き、格納庫らしきその場所から、スマートなシルエットの青白いBMが姿を現した。格納庫から伸びたアームがバックパックを掴み、BMを飛行機の下に吊り下げている。

 

「……!」

 

スロカイは身構えた。

なぜなら、吊り下げられたBMは右手には、そのスマートな機体には不釣り合いなほどビッグサイズの長距離ライフルが握られていたからだ。

 

ひとたびアレで撃ち抜かれれば、いくら堅固なハンニバルといえど損傷は避けられないだろう。

 

すると、何を思ったか……青白いBMは頭部センサーを鋭く光らせ、飛行機に吊り下げられた状態のまま、明後日の方向めがけて長距離ライフルを構え……一筋の光線を放った。

 

青白いBMのとった謎の行動に、疑問符を浮かべたスロカイだったが、間も無くその疑問は解決した。

 

「……な!? 当てただと! この距離で……!?」

 

先ほどの長距離ビームによる攻撃は、ハンニバルに搭載された広域レーダーでも感知しきれない、地平線の彼方にいた敵の戦車を破壊していた。それによって生じた僅かな爆発を感じ取り、スロカイは驚愕した。

 

戦車を撃墜したBMは、自らの功績を誇ることなく、まるでアイコンタクトでもするかのように、頭部メインカメラから放たれる視線をハンニバルのツインアイと交錯させた。

 

「光通信……?」

 

メインカメラから放たれる微弱な光を感知したハンニバルのCPUが、光通信を自動的に読み解く。

 

「陛下! 解読できました!」

 

「読み上げろ」

 

「はい!『こちらテレサ、援護する』……だそうです」

 

「テレサだと?」

 

スロカイは上空の青白いBMを見つめた。そして、右肩のアーマーに『QUICK SAND』の文字が入ったロゴマークを見つけた。

 

「流砂……」

スロカイが呟く。

 

青白いBMが黒い飛行機の中へと格納庫されていく

そして下部ハッチが完全に閉まると、黒い飛行機は空中で反転し、迫りつつある追撃部隊へ機首を向け、アフターバーナーを焚いて飛翔した。

 

「あの数を1人で相手する気か? 面白い……!」

 

急速に離れていくアフターバーナーの青い火を目で追いながら、スロカイはニヤリと笑った。

 

 

 

ーーーーー

 

 

 

ブラーフマ軍の追撃部隊へ迫る黒い戦闘機。

開発コード:『エアウルフ』

 

それはバイエルン製戦闘爆撃機をベースに、独自のカスタマイズが施された無人偵察爆撃機(兼輸送機)だった。その特徴は、機体の格納庫にBMを収容できるという点で……これにより、陸戦型BMの輸送は勿論のこと、BMに対して高高度戦闘能力及び高速移動能力を付与することが可能となっている。

 

その内部に格納された、青白い狙撃型BM……

『ディアストーカー』は、パイロットであるテレサの戦闘スタイルに合わせてカスタマイズされたもので、その改造には砂漠の村を1つ買い取れるほどのマネーが注ぎ込まれていた。

 

「戦術プランの受信を確認……」

 

そのコックピットの中で、パイロットであるテレサは受け取ったメッセージを開き、淡々とその情報を頭の中に叩き込んだ。

 

「なるほど……とても効率的な作戦ね」

 

小さく頷き、メッセージを閉じる。

その時、ミサイル接近を知らせる警報が鳴り響いた。

 

それはブラーフマが差し向けた航空隊によるものだった。並列する5機の戦闘機から同時に放たれた空対空ミサイルが、テレサの元へ飛来する。

 

「フレアー!」

 

叫び、操縦桿のスイッチを押すと、黒い翼の付け根から大量の火の玉が放出される。殆どのミサイルはフレアに吸い寄せられ明後日の方向を彷徨うこととなったが、フレアの防御網をかいくぐった1発のミサイルがなおもテレサの元に迫る。

 

「ブレイク!」

 

テレサは操縦桿を軽く引き、スピードを極力落とさないようエアウルフを上昇させた。ミサイルも飛行機を追って上昇する。

 

「…………」

 

ミサイルとの距離が縮まっていく。

距離が近すぎてフレアは役に立たない。

 

しかし、テレサは冷静だった。

エアウルフを垂直に立てると、一気に雲の上まで上昇。

その後を追って、ミサイルもまた垂直に上昇。

 

そして、機体とミサイルが縦一直線に重なった。

 

その機を逃さず、テレサは武装セレクターでテールキャノンを選択。ディスプレイに表示されたターゲットスコープの中心に、背後より迫り来るミサイルの影が映り込む。テレサはトリガーを引き絞った。

 

エアウルフの後方に配置されたテールキャノンから、一筋の光線が放たれ……光線は真後ろのミサイルを貫き、爆発へと追い込んだ。

 

「やったか?」(フラグ)

十分引きつけた末の爆発により、手応えを感じたブラーフマ軍のパイロットたちは謎の黒い戦闘機を撃墜したのだと思い込んでしまった。

 

そこから、テレサの攻勢が始まった。

高高度へと移動したのはミサイルから逃れる為だけではなく、空戦において有利不利を握るとされている『高度』の確保だった。

 

上昇を続けていたエアウルフは、スピードを落とすことなく宙返りをして、今度は機首を真下に向けて下降を始めた。その途中でハッチが開き、格納庫からディアストーカー姿を現した。

 

コックピットの中でライフルスコープを構えたテレサの動きに連動して、BMもまた長距離ライフルを構える。

 

「狙い撃つ」

 

逆さまの姿勢でライフルを構え、テレサは雲の一点へ照準……ライフルスコープのトリガーを引き絞った。

 

……ボンッ

次の瞬間、放たれた長距離ビームが雲の下を飛んでいた飛行機を引き裂き、爆発音が轟いた。

 

「……撃つ」

 

間髪入れずに、トリガーを引き絞る。

雲の下で、またも爆発が起きた。

 

たった数秒の間に2機の戦闘機を失った航空隊だったが、すぐさま状況を理解すると、テレサのいる雲の上めがけて上昇を始めた。

 

敵機の接近に気づいたテレサはディアストーカーを格納し、エアウルフを水平に戻すと、迫り来る敵機に背を向けるように機体を滑らせた。

 

やがて3機の戦闘機が雲を抜けてきた。

彼らのレーダーにエアウルフの機影が映り込む。

 

それから、航空隊は二手に分かれてテレサを追い立て始めた。2機がテレサの背後から迫り、もう1機は先回りしつつテレサの真上から攻撃を仕掛けようと移動を始める。

 

偵察爆撃機であるエアウルフの空戦能力はそれほど高くない。大型のブースターを搭載してはいるものの、機体が大型で、しかも機体内部にBMを格納しているため鈍重……そのため、あっという間に戦闘機に追いつかれ、真後ろを取られてしまった。

 

「目標をロックした。トーン良好」

いち早くテレサの背後へ取り付いた3番機のパイロットが淡々と呟き、ミサイルのトリガーに触れた。

 

「フォックス……」

しかし、3番機のパイロットが言い終えるよりも早く……

 

「なに!?」

そこで、3番機のバックアップについていた1番機のパイロットは驚愕した。なぜなら、3番機が今まさにミサイルを放とうとする前に、エアウルフのテールキャノンから放たれたビームが3番機を真っ二つに引き裂いてしまったからだ。

 

「あの機体……後ろにビーム砲が!?」

1番機はテールキャノンによる反撃を恐れ、エアウルフから距離を取った。

 

「だったら俺が行く!」

エアウルフの進路に先回りしていた5番機のパイロットが叫び、エアウルフの真上から一撃を浴びせかけるべく機体を急降下させた。

 

5番機がミサイルを発射しようとしたその時……

「何!?」

そこで、1番機のパイロットはまたも驚愕した。

 

なぜなら、今まで真後ろにしか撃てないと思い込んでいたエアウルフのテールキャノンが、日ノ丸における想像上の生き物『鯱(シャチ)』のごとく尾ひれを持ち上げ、その砲身を5番機に向けたのだ。

 

「うわあああああ!!!」

真上に伸びたビームの直撃を受け、5番機が火に包まれる。

 

「真上にもだと!」

1番機のパイロットは落ちていく仲間に気を取られ前方のエアウルフから目を離してしまった。それが、命取りとなった。

 

「なっ……!?」

パイロットが視線を戻すと、いつのまにかエアウルフの下部にディアストーカーが出現しており、長距離ライフルの銃口を真後ろに向けていた。

 

「撃つ」

テレサはトリガーを引き絞った。

エアウルフの背後で大爆発が引き起こされた。

 

「フェーズワン終了……フェーズツーへ移行する」

 

テレサはディアストーカーを機外に出したまま機体を旋回させ、雲の下へと高度を落とした。彼女が向かう先には、11両の戦車と8機のBMで構成された混成部隊がいた。

 

上空から迫りつつあるエアウルフを見とめた追撃部隊のパイロットたちは、散開しつつ、戦車砲や照射砲、対BMリボルバーなどを用いて対空砲火を開始する。

 

猛烈な対空砲火に晒されながらも、テレサは追撃部隊の1番端にいた夜叉に向けて長距離ビームを放つ……しかし、狙いが甘い。

 

「どこを狙っている?」

夜叉に難なく回避され、ビームは地面を抉った。

 

「…………」

追撃部隊を通り越し、テレサは無言で機体を旋回、反転させると……今度は先ほどの夜叉とは逆側にいた戦車めがけて、エアウルフに搭載された2問のウェポンポッドから対地ロケットを斉射した。

 

「さっきのビームは紛れ当たりかよ!」

しかし、それも戦車に難なく躱されてしまう。

 

その後も、テレサは追撃部隊とすれ違いざまに長距離ビームや真下に向けたテールキャノンをお見舞いするのだが……攻撃は全て回避され、地面を抉るばかりだった。

 

「任務……完了」

 

そこで何を思ったのか、テレサはディアストーカーをエアウルフの中に格納すると、そのまま雲の上に向かって機体を上昇させた。

 

「逃げる気か?」

追撃部隊のパイロットたちがそう思い込んだ時だった。

 

「なに!? うわああああああぁぁぁぁ!!!?」

次の瞬間、追撃部隊がいた空間を巨大な光が通過した。やがて高出力の光が収まった時には、そこにはもう何も残っていなかった。

 

「お見事」

テレサはハンニバルを見て呟いた。

 

「つまり、こういうことなのだろう?」

アトミック焦土レーザーのトリガーから手を離し、スロカイはニヤリと笑った。

 

 

 

ーーーーー

 

 

 

戦闘が集結し、テレサはハンニバルの元へ移動すると、ハンニバルから少し離れたところで格納庫のハッチを開いた。

 

「固定用アーム解除」

 

テレサが呟くと、ディアストーカーのバックパックに繋がれていたアームが解除され、エアウルフからディアストーカーが降下する。

 

ハンニバルの正面に着地を決めたテレサは、持っていた長距離ライフルを地面に刺し、機体を跪かせた。

 

「少し、いいかしら?」

それからコックピットを解放して、話がしたいとでも言いたげな様子で両手を上げて姿を現した。彼女の青白い髪の毛と、灰色のコートが風を受けて僅かになびく。

 

「陛下……どうします?」

 

「…………」

 

ハンニバルのコックピットの中、モニター越しにテレサの様子を伺っていたスロカイだったが、小さく息を吐くと、外部スピーカーを作動させた。

 

『さっきは、余の顔を立てたということか?』

 

「そう」

 

テレサは淡々と告げた。

2人の話す『さっき』というのは、先の戦闘のことを指していた。追撃部隊に対地攻撃を仕掛けたテレサが攻撃をことごとく外していたのは、広範囲に散開していた敵を誘導し、一箇所に集めることを目的としていた。

 

そもそも、地平線の先にいた戦車すら撃ち抜いたテレサの実力ならば、対空砲火が届かない高高度から、追撃部隊を一方的に殲滅することができたはずだ。

 

それを、わざわざ対空砲火に晒されてまで、低空飛行での戦闘にこだわる理由……遠くから戦いを見ていたスロカイは、すぐにテレサの意図を察して焦土レーザーの使用を踏み切った。

 

『余計なことを……まあよい』

 

スロカイは改めて、ディアストーカーのアーマーについた『QUICK SAND』の文字を見やった。

 

『流砂のテレサ……聞いたことがある』

 

スロカイは以前、アフリカで母親探しをしている時に、偶然小耳に挟んだ話を思い出した。

 

『金さえ払えばどんなに汚い仕事でも引き受ける冷酷な傭兵組織「流砂」。その中でも、たった1人で小国を買い取れるだけの個人価値を持つ、最凶の殺し屋がいる……その名は「テレサ」、お前がそうだとでも言うのか?』

 

「意外ね……機械教廷の教皇ともあろうお方が、私のような暗闇の世界にいる人のことを知っているなんて……」

 

テレサは両手を下ろした。

 

「そう、私は『流砂のエース』テレサ」

 

スロカイの言葉に、テレサは小さく頷いた。

 

(エースって……じ、自分で言う……?)

2人の話を黙って聞いていたマティルダは、心の中で密かにそう思った。

 

「でも、今の私は流砂ではない」

 

『どういうことだ?』

 

「それは言えない」

 

テレサの口調は相変わらず淡々としていた。

 

「でも、これだけは言える……私に与えられた役割は貴女の『護衛』そして、貴女を私の『依頼主の元へ案内』すること……大丈夫、あなた達の身の安全は保証するわ」

 

『この状況で、それを信じろと?』

 

「ええ、信じて貰うしかない」

 

『ならば答えろ! お前の雇い主は誰だ?』

 

「それは……」

 

スロカイの質問に、テレサが答えようとした時だった。

 

「…………ッッッ!!!」

 

ディアストーカーのコックピットから警報が鳴り響いた。素早くコックピットの中に戻ったテレサは、モニター表示された警報の詳細を見て、凍りついた。

 

「まずい……」

 

淡々としていたテレサの顔に焦りが浮かぶ。

警報は、偵察のために上空を旋回していたエアウルフから送られてきたものだった。

 

エアウルフの広域レーダーが、こちらに接近する『敵』の存在を捉えた。レーダーに表示された光点は1つ、それだけならまだいい。しかし、その機体から発せられる固有周波数は……

 

『なんだ? どうした?』

 

テレサの様子を不審に思ったスロカイだったが……

 

(ッッッ!?)

 

間も無く、スロカイは明確な悪意を持ってこちらへと近づく『敵』の存在を感じ取り、びくりと体を震わせた。その顔が蒼白に染まる。

 

「陛下!?」

 

スロカイの身に起きた異常を感じ取り、マティルダは慌てて玉座へと駆け寄った。

 

「余は、大丈夫だ……だが……」

 

マティルダに支えられ、スロカイは全天周囲モニターの一点を見つめた。

 

 

 

『……なんだ、このプレッシャーは……?』

 

 

 

弱々しいスロカイの声は、ハンニバルのスピーカーを通って、ディアストーカーの中で情報統制を行なっていたテレサの元へ届いた。

 

 

 

「やはり『ファントム』が来る……」

 

 

 

徐々にこちらへと迫りつつある『敵』の固有周波数を何度も確かめたテレサは、それが以前、極東共和国を完膚なきまでに破壊した悪魔……『黒いバルバトス』こと『ファントム』であるということの確証を得て、震えた。

 

「なぜ、このタイミングで……? まさか……!」

 

テレサはハンニバルへと振り返った。

 

「ファントムの……いや、彼らの狙いは教皇?」

 

テレサの予想は当たっていた。

シンシアの依頼を受けて、ソロモンは教皇暗殺のためにチュゼールの地に『LM-08? バルバトス』を放っていた。

 

最悪の事態を想定したテレサにできることは1つだった。上空のエアウルフを呼び戻し、ディアストーカーを機内へ格納させると、再び空へ舞い上がった。

 

『教皇!』

 

ハンニバルの中にいるスロカイへと呼びかける。

 

『ここは私に任せて、撤退を』

 

『……いいのか?』

 

『ええ、ここで貴女を失うわけにはいかない』

 

テレサは焦りを悟られないよう語りかけた。

 

『それに……あの人と約束したから。貴女のことを絶対に護り切ると……だからお願い、私にあの人との約束を守らせて』

 

『……分かった。死ぬなよ』

 

スロカイは機体のトランスフォームに入った。

 

「そう、それでいい……」

マッドアングラー形態に変形し、後ろで掘削に入っているハンニバルをチラリと見つめ、テレサは小さく呟いた。それから、通信機を取り出すと……

 

「『デルタ・ワン』より旗艦『ピークォド』」

 

スイッチを押して通信機に声を吹き込む。

 

「我、ターゲットと接触なるも、作戦展開地域にファントムが出現。狙いはターゲット……いや、教皇と見られる……ランデブーは中止! 繰り返す、ランデブーは中止!」

 

そして、最後に言葉を付け足した。

 

「これよりターゲットの防衛行動に移る。なお、救援の必要はなし……『ピークォド』は撤退する教皇への接触を第一とし、戦力を温存せよ。アウト」

 

一方的な通信を終えると、テレサはフッと笑った。

 

『戦力を温存せよ』

自分で言っておきながら、なんという不釣り合いなセリフだろうか? 自分のことしか考えられなかった『かつての自分』からは到底考えられない自己犠牲の言葉が、他ならぬ自分の口から出てきたことに、テレサは揺れ動く感情を抑えられなかった。

 

小さくため息を吐き、ライフルスコープを覗き込む。暗闇に紛れたそれとは、まだ視認不可なほど距離が開いていた。しかし、テレサの高い視力はファントムの歪なシルエットを捉えていた。

 

「攻撃開始」

 

テレサはファントムめがけて機体を飛翔させた。

 

 

 

 

 

to be continued...

 

 

 

 




ムジナの大好きな言葉、『努力』と『成長』
今回は、僅かながらスロカイ様の『成長』が感じられる話となっております。スロカイ様がアフリカでの失敗から学び、備え、それをチュゼールにて活かす。……それはまさしく『成長』と呼べるのではないでしょうか? 失態が続く本編では見ることのできないスロカイ様の成長譚を、ムジナはアイブラサガか始まる1年前から計画しており、今回の話を書くことで『1年越しにそれを実現できた』と言うことになります。ベカスとの旅でスロカイ様に『成長』がなかったと言うのなら、三日月との旅でそうさせよう!って思ったのがそもそものきっかけなのです。アウグストゥス? そんなクソザコ必要ないね!

(要約↓)
……スロカイ様の成長譚を書きたかった。
ベカスと会わせなかったのはそのため(泣く泣く)→近々会わせます

前回のハンニバルに続いて『エアウルフ』なる新型が出てきましたが、これはハッキリ言ってオーバースペックの機体です。(設定集とは若干違います)そしてここから更にオーバースペックの機体が順次登場していきますので、乞うご期待くださいませ。



それでは、次回予告なのです



エル「流砂のエースとファントムが正面衝突!」
フル「果たして、テレサさんの運命は……?」

エル&フル「「次回、『テレサ』」」

フル「え、このタイトルってもしかして……?」
エル「なるほどね!これが『死亡フラグ』なのね!」

アイサガで貴方の好きなキャラを教えてください。(回答はこちらではなく気軽にコメントの方へお願いします)

  • 境界戦機もっと流行れ
  • 鉄血・ブレットもっと流行れ
  • 水星の魔女×鉄血のオルフェンズ?
  • あと、アイサガのエンディングも作ります
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