機動戦隊アイアンブラッドサーガー悪魔と少女と機甲ー 作:野生のムジナは語彙力がない
今回の話はアイサガ本編におけるアランバハ〜闘神の間の話です。重要ではないと思われる部分は端折り、説明が必要な部分は要約してありますがそれでも説明が多くなりますのでご了承を……
ストーリー回想でなぜかアランバハと闘神の順番が逆になってたので、一瞬だけ戸惑いました。(ダッチーの展開したムジナ対策なのかと思いまして)
前にも言った通り、今回はベカスと影麟回です。
それでは、続きをどうぞ……
極東で三日月と合流したベカス一行は、葵博士の工作艦に乗って、チュゼール領内のカピラ城下にやってきていた。
彼らがチュゼールにやってきたのは、ファントムと呼ばれるBMの討伐が主だったのだが、ベカスにはもう一つ、チュゼールへ赴かねばならない理由があった。
それは先の戦いで戦死した極東武帝、宏武がベカスへと託した最後の『頼み』だった。
遡ること数十年前……それは宏武が駐在武官としてチュゼールに派遣されていた頃、宏武はチュゼール王の姉と恋に落ちた。しかし王族の人間が外国の武官と付き合うことは、外交問題にまで発展しかねない禁断の恋だった。
それでも密会を重ねていた2人だったが、ついにその日が訪れた。密会の最中に偶然近くを通りかかったチュゼール王の父親にそれを見られてしまったのだ。
しかし、それを救ったのがチュゼール王だった。彼は一世一代の嘘で父親を宥め、最悪の事態はなんとか回避された。
それ以来、宏武はチュゼール王に対して恩義を感じるようになり、いつかその借りを返したいと思っていた。しかし武官としての任務が終わり、それを果たすことが出来ないまま数十年の月日が流れてしまった。そんな中での、チュゼールにおける血生臭い内乱である。
反乱軍の武装蜂起により、チュゼール王は討ち死にし、ついに宏武に先の借りを返す機会は永遠に失われてしまった。そこで宏武は、せめてもの救済としてチュゼールの娘であるシャラナ姫の救出を決断し、実行に移すことした。
しかし、いくら極東共和国がチュゼールと仲が良いと言っても、チュゼールの内政問題であるが故に中立な立場の極東共和国に手出しできる問題ではなかった。
そこで宏武は、シャラナ姫の救出を弟子のベカスに頼むことにした。ベカスは宏武が星の数ほど育て上げてきた弟子の中でもトップクラスにあり、しかも傭兵という立場を鑑みると外交問題に発展する恐れは限りなく低かった。
ベカスは宏武が生前に話した最後の『頼み』を引き受け、反乱軍に追われる身となったシャラナ姫の手助けをするべく国境沿いのカピラ城へと向かった。
現在、シャラナ姫はチュゼール東部で最も大きな兵力を有する辺境の重鎮・アルチンの保護下にあり、そこで反乱軍討伐を掲げ、義勇軍を募っているとのことだった。
そこで、一行は二手に別れることにした。三日月は葵博士と共にカピラ城下にてファントムの情報を集め、ベカスと影麟は義勇軍へ参加する為にカピラ城へと向かった。
新暦25年4月19日
宏武が残してくれた推薦状のお陰で、ベカスは義勇軍に入るどころかすんなりとシャラナ王女の配下に抜擢されることになった。それはカピラ城の将校しか参加することのできない作戦会議において、特別に発言を認められるほどの大抜擢だったのだが、これを好ましく思わない者もいた。
そして、作戦会議での一幕……
反乱軍を率いるブラーフマが自軍の半分近くを中部と南西部の藩王討伐の為に派遣したとの情報が入ったことにより、状況が一変した。
カピラ城の老将・アルチンはこの隙をついて、カピラ城の西部に位置する軍事要塞『アランバハ城』への侵攻を提案した。
アランバハ城は高地にあり、カピラ城を除けばチュゼールでも一二を争う難攻不落の要塞だったが、ブラーフマの招集により半数近くの部隊が出払っていることに加えて、アランバハは王都への途上にあることから、後々の王都奪還に向けた足がかりにしたいとの思惑もあり、アランバハ城への侵攻作戦は即座に可決された。
カピラ城の将校たちが目先の勝利に囚われている中、会議に参加していたベカスは大局を冷静に見つめていた。
いくら藩王討伐のためとはいえ、ブラーフマが全戦力の半数を投入するという暴挙に走ったことに対して、ベカスは奇妙な感覚に苛まれた。
なんとかしてそれを伝えるべく、ベカスは主力であるブラーフマの南征軍を攻めることを提案した。アランバハへ侵攻すると見せかけて南征軍を攻撃することによって、敵の意表を突くことができると示し、遠回しにアランバハ城への侵攻作戦は延期すべきだと伝えたのだが……
しかし……先に述べたように、ベカスの存在を好ましく思わない者がその提案を否定した。それは他ならぬ、アルチンだった。
自身の立てた作戦が遠回しに否定されたというのもあったが、アルチンは最初からよそ者が神聖な作戦会議の場にいることが気に入らなかった。
激しくベカスを糾弾するアルチンに対して、ベカスは冷静にアランバハ城侵攻作戦の穴を指摘し、それからブラーフマの思惑について将校たちへ警戒を促そうと試みるが、激昂したアルチンはそれを全て退けてしまった。
さらに同調したアルチンの部下たちが口を揃えてベカスを否定し始め、会議の場全体を敵に回してしまったことで、ベカスは「失言だった」と引き下がる他なくなってしまった。
アランバハ城への侵攻作戦が決定された。
新暦25年4月25日
アランバハ城侵攻作戦を明日に控えた深夜
「…………」
カピラ城内部の庭園、カピラ城から漏れる明かりに照らされた庭園の中に1つの影があった。穏やかな表情、色白の肌、咲き誇る色鮮やかな花々に負けず劣らずの美麗な雰囲気を放つ極東人……
その極東人……影麟は庭園の中心で目を瞑り、ジッとその場に佇んでいた。暗闇の中で何かを待っているかのように佇むその姿は幻想的で、得体の知れない静謐さがあった。
その時……フワリと、影麟の真横をそよ風が通り抜けた。
「……!」
その瞬間、影麟の腕が目にも留まらぬ速さで動き、自身の真正面へと拳が叩き込まれた。
何もない空間へと突き出され、空を切ったかのように思えた影麟の拳……しかし、掌の中には一片の花びらが握られていた。
影麟はゆっくりと目を開けた。
神速と呼ぶに相応しい一撃は勿論のことだが、真に驚くべきは、その青年は聴覚と感覚だけを頼りに高速で移動する花びらの正確な位置を掴んだということだ。
「…………」
しかし、影麟はそれを誇ることなく、なぜかそこで悲しげな表情を浮かべた。
彼は数週間前のことを思い出していた。
言うまでもなく、極東共和国にファントムが出現した時のことである。圧倒的な力の差を前に、目の前で多くの人が死んでいくのを黙って見ていることしかできず、そして大切な人が残虐に殺された。
ファントムが最後に放った一撃は、形こそ幻舞拳の真似ではあったものの、その完成度は影麟や宏武のそれを遥かに上回っていた。
そして、自分はそれが幻舞拳であると直感的に認識することはできたものの、全くと言っていいほど反応することができなかった。
「…………」
影麟は悔しそうに花びらを見つめた。
ファントムがもし自分と同じような『人』であったのなら、自分が花びらを握る一瞬のうちに3回以上花びらを掴み取っていたことだろう。そう、例え視界を奪われていたとしても……
影麟は自身とファントムの中に広がる決定的な実力差を感じ取り、唇を噛んだ。いったい、自分はあとどれだけ修練を重ねればアレを倒せるのだろうか?
いや、恐らくどう足掻いたとしても自分はアレに勝てないだろう。人の心を持たない破壊と暴力の権化、得体の知れない化け物の巨大さに……
その瞬間、影麟の脳裏に悪夢の光景が蘇った。
無残にも消えていく命、巨大な腕で握り潰される宏武、そして間近に迫ったファントムの凶悪に歪んだ顔……味わったことのない恐怖がトラウマとして影麟の中に植えつけられていた。
その恐怖に付随する形で、宏武の死が影麟の中に反響した。
その姿を見ることはできない
もう、その声を聞くことはできない
大切な人はもういないのだと、分からされた
ザリ……
庭園の中心で影麟が様々な思いを巡らせていると……ふと、影麟の背後で砂利の擦れる音が響き渡った。
「……!」
「お前……」
いつのまにか影麟の後ろにベカスが立っていた。考えることに集中しすぎていた影麟はベカスの接近に気づくことができず、そこで驚いたように彼へと振り返った。
「…………」
ベカスへと振り返った影麟だったが、すぐさまベカスから顔を背けた。しかし、その頬を伝って落ちる雫に気づかないベカスではなかった。
「……思い出したのか?」
「…………」
「そうか……」
影麟の涙を見られまいとする羞恥の心を察し、ベカスは小さく呟いた。それから、肩をすくめて顔を拭い、影麟の背中へと声をかける。
「……師匠も、バカだったな」
「……っ!」
ベカスの口から出てきた思いもよらぬ言葉に、影麟は真顔で振り返った。ベカスは深いため息を一つして続ける。
「もー若くねえってのに、無茶してカッコつけようとするからこうなるんだよ……オレも今まで色んなところに首を突っ込んで、その度に痛い目を見てきたが、死んじまったらそれで終わりだよな」
持論を展開しつつ、ベカスはチラリと影麟を見た。普段温厚な影麟の顔は真顔そのものだったが、その体から強烈な殺気が放たれていた。
自分に向けられるそれをひしひしと感じつつも、ベカスは口を止めない。
「でも師匠は違った。危ないってのは分かってたはずなのに自分から首を突っ込んで、結局首だけになって帰ってきた。死んじまったらそこでおしまいよ……バカだったな、師匠は、オレよりもバカで愚かな……」
「ッッッ!!!」
次の瞬間、影麟はベカスへと飛びかかった。
自分のことをバカにされるのは平気で、幾らでも我慢できた彼だったが、それが自分以外の人、それも自分にとって大切な人となると話は別だった。
「ぐっ!」
ベカスは突き出された拳をガードするも、その威力は彼が予想していたよりも遥かに高く、ベカスは呻き声を上げた。
そのまま、さらに突き出される拳をベカスは真正面から受け止め続けた。一撃一撃が重く、気の遠くなるような痛みがベカスの腕に生じる。
「……!……!!」
「うおっ!」
影麟の放った投げ技により、ベカスの体が宙を舞った。地面へと引き倒し、影麟はベカスに馬乗りの状態になって、彼の首を両腕で掴みかかった。
「……!……!」
「ぐっ……かはっ……」
ギリギリとベカスの首が締め上げられる。
ベカスは苦しそうにしつつも、影麟から目を離さない。
「…………!」
その時、影麟はベカスの視線に気づいた。
そして目撃した。首を締め上げられているにもかかわらず、真っ直ぐに自分を見つめるベカスの瞳……その瞳に映る、血走った瞳を浮かべる自身の姿を……
慌ててベカスの首から手を離した。
それから自分のしたことに恐れを抱いたかのようにベカスの体から退くと、そのまま2、3歩後退した。
「がはっ……ハァー、ハァー…………」
ベカスは咳き込み、酸素を求めて荒い息を吐いた。
「辛いよな……」
倒れたまま、ベカスは声を絞り出す。
「…………」
「オレもだよ」
「…………!」
ベカスはそう言ってよろよろと立ち上がると、幻舞拳の構えを取った。それは極東武帝の構えを見様見真似したものに過ぎなかったが、しかし、影麟の心に宏武があたかもそこにいるのではないかと錯覚させるほどのプレッシャーがあった。
「来いよ、影麟」
ベカスは影麟を真っ直ぐに見つめる。
「そんなに上手くねーが、オレにだって多少の武術の心得ぐらいあるさ……だから、全力で来いよ」
「…………」
ベカスの言葉に、影麟が戸惑った様子を見せていると、やがてベカスは小さく息を吐いて構えを解き、ポケットから甘苦を取り出して口に咥えた。
「影麟、辛いのはお前だけじゃない」
臥薪嘗胆のごとく甘苦の苦味を口の中でたっぷりと味わった後、ベカスは甘苦を親指と人差し指の間に挟んで口から離し、言葉を続ける。
「オレにとっても宏武は……いや、師匠は、出来損ないのオレを育ててくれた恩人で、かけがえのない人だった」
ベカスはやさしげな目で影麟を見つめた。
「怖いか?」
「…………」
ベカスの問いかけに、影麟はゆっくりと頷いた。
「そうだな……オレも、怖い」
ベカスは素直に自分の想いを口にした。
「力の差を見せつけられて、しかも目の前であんなの見せられちまったらな……正直言うと、アレとは二度と戦いたくねぇっていうのがオレの本音だ」
そこまで言って……
「けどな」
ベカスは言葉を返した。
「それでも、オレは抗うぜ」
そう言って、ベカスは再び幻舞拳の構えを取った。
「だから、今からオレはお前にレクチャーすることにする。師匠がお前に伝えられなかったことを、オレとの特訓を通じてな」
「…………」
「だからお前の抱える悲しみを、怒りを、辛さを……オレにも背負わせてくれ。今は、お前の悲しみを……お前の感じた痛みの分だけ、オレにぶつけてくれ! それで、オレは強くなれる!」
「…………!」
ベカスの言葉に応えるように、影麟は幻舞拳の構えを取り……そして、一瞬のうちにベカスとの距離を縮めた。
機動戦隊アイアンブラッドサーガ
第28話:もう怖くない
新暦25年4月26日
この日、カピラ城からBM400機、一般装甲部隊1000輌、重巡洋級陸上旗艦一隻、駆逐級陸上揚陸艦4隻がアランバハ城に向けて出発した。
そして、ベカスは……
「いてて……」
隊列の右端……5台の機動戦車で構成された戦車隊に並走する形でウァサゴを滑走させていた。その両腕には包帯がこれでもかと巻き付けられている。
(流石にやり過ぎたかな……)
苦悶の表情を浮かべながらも、ベカスはなんとかそれを声に出さないようにして平静を保とうとした。両腕の傷は、全て昨晩の影麟との特訓の成果である。
その時、影麟の乗る黒い旧式の共和国製BM……巨闕が突如としてスピードを上げ、ウァサゴの右斜め前へ回り込んできた。
そして「大丈夫?」とでも言いたげに両腕を示しながら、メインカメラ越しにアイコンタクトをしてきた。
(やべ……聞かれたか?)
先ほどの呟きを聞かれてしまったのだろうか。ベカスは慌てて「大丈夫だ」とジェスチャーで示した。それを見て、影麟は心配そうにしながらもスピードを落とし、ウァサゴの後方へ移動した。
ベカスたちは作戦に参加していた。
しかし、先の失言のせいで彼と影麟は当然のように重要度の低い予備隊に配属されていた。
そして数日の行軍を経て、アルチンはアランバハ城に到着した。
4月29日
ー夜ー
アルチンは陽が落ちたと同時に攻撃準備を進めると、その日のうちに陣形を固め、全軍に攻撃開始の信号を送った。ついにアランバハ侵攻作戦の火蓋が切って落とされたのである。
戦いの序盤を制したのはアルチン軍だった。
奇襲は成功し、アルチン軍陣営から放たれた無数の弾丸、ミサイル・ロケットの嵐が次々とアランバハ城の外壁へと着弾、破壊していく……
それにより、アランバハ城は混乱に包まれた。
しかし、アランバハの兵士たちも負けてはいない。混乱から早々に立ち直ると、一斉に反撃の準備にかかり始めた。
巨砲・アグニを展開し、アルチン軍への砲撃を開始した。巨大な攻撃範囲を誇る砲弾がアルチン軍へと迫る……しかし、アグニの存在を知るアルチンはあらかじめ部隊を散開させていたため、アグニによるダメージは軽微だった。
双方による砲撃が数時間にわたって繰り広げられた後、夜が明ける頃になるとアルチンは全軍に撤退の指示を送った。
戦闘車両による砲撃とBM部隊による近接攻撃の末に外壁はほぼ破壊されたものの、兵士たちの疲労は激しく、万全を期す為に明日の総攻撃にかけることにしたのである。
これにより、第一次攻撃は幕を閉じた。
4月30日
ー夜ー
第二次攻撃の幕が上がった。
先陣を切ったのはチュゼールの若き将校、シヴァージだった。BM220機、戦闘車両500輌を率いてアランバハ城の防衛戦を突破し、城を攻め落とすべく進出。
その中に、ベカスと影麟も加わっていた。
本来は予備隊であるはずの彼らだったが、2人の戦士としての才能を認めたシヴァージの提案により、特別に最前線へ立つことを許されていた。
2人の助力もあって、やがてシヴァージは防衛線を突破し、ついにアランバハ城内部へ踏み込むことに成功した。
しかし、それで戦いが終わったわけではない
むしろ、本当の戦いはこれからだった。
城壁内部ではシヴァージ率いる親衛隊と巡洋級陸上戦艦が激戦を繰り広げ、城壁の外では有事の時に備えて、シヴァージの撤退ルートを確保すべくベカスと影麟が東門へ取り付き敵BM部隊と交戦していた。
アランバハ城での戦況は一瞬、拮抗状態に陥るものの、すぐさま状況は一変した。シヴァージが陸上戦艦を撃破し、ベカスたちは東門の制圧に成功した。
この緊急事態に、アルチン軍の後方部隊を砲撃していたアグニの砲兵隊も城内の戦闘に参加せざるを得なくなり、アランバハ陣営は最早風前の灯となっていた。
敵味方含め、その場にいた誰もがアルチン軍の勝利を確信した……その時だった。
「ん……?」
どこからともなく、チュゼール軍で主に士気向上の為に広く使用されているビュークルの音が鳴り響いた。数キロ先まで届く力強い音に、城内のシヴァージが反応した。
「この音、我が軍のビュークルではない……?」
その音はアランバハの南部から響き渡っていた。
「バ……バカな……!?」
陸上巡洋艦のブリッジから、望遠カメラで接近するそれを目撃したアルチンの顔がサアッと青ざめた。
「なぜ、アランバハの軍隊がここに……!!」
そこには、ブラーフマの招集に応えて移動したはずのアランバハ駐屯軍が展開していた。規模はBM2〜300機、戦闘車両数百……彼らは3機のヴァルハラ製BM・バルキリーを先頭に、3組に分かれてアランバハ城の包囲を開始した。
南進したはずのアランバハ駐屯軍は、実際には南征軍とは合流せず、アランバハ南部に身を潜めていたのだ。
当然のことながら、それはアランバハの独断によるものではない。全てはカピラの進軍を予測したブラーフマによるものだった。
「おお……チュゼールの神々よ……」
凄まじい勢いで迫り来る敵軍を見て、アルチンは呆然とそんな言葉を漏らした。迫り来る敵軍に対して即座に迎撃が行われるものの、砲火をかいくぐって3機のバルキリーのうち1機がアルチンの目前へと迫る。
「逃げろ……シヴァー……」
彼の最後の呟きは、ブリッジへと降り注がれた大量の銃弾が爆ぜる音にかき消されてしまった。
「ハァー……言わんこっちゃねぇ……」
東門の縁に立ち、遠くで炎上する旗艦を目撃したベカスは舌打ちとともに大きなため息を吐いた。そこで思わず甘苦を咥えたい気分になるも、今はそんな場合じゃないと、戦場を見回した。
(敵はアランバハ城の包囲を始めている。今はまだ外にいる味方が何とか持ちこたえているが壊滅するのは時間の問題だ……籠城……? いや、城の中にはまだ大多数の敵が残っている、出来るわけがない)
ベカスは冷静に、迫り来る敵軍へ視線を送った。
(こちら側の戦力はBM200機程度、一点突破を実行するならば包囲網の突破に必要な数は十分にあるといえる。あとは、出来るだけ損耗が少なくなるように慎重に撤退ルートを選定すれば……)
やがて、敵の動きを把握したベカスは城内へと踏み込む。
「シヴァージ! どこだ!」
そこで突入部隊を指揮する将校の姿を探した。その彼……シヴァージはいつのまにかBMを城壁の上によじ登らせて、呆然とした様子で迫り来る敵軍を見下ろしていた。
その様子から……将軍を失ったことと、こちら側の作戦を読まれていたことに対して、最前線で指揮を執る者としての自信を完全に喪失してしまっていることがハッキリと分かった。
だが、今はそんな時ではない
ベカスはウァサゴ城壁の上へと登らせ、素早くシヴァージの元へ近寄った。
「シヴァージ! 敵の左翼はまだ完全に包囲を終えていない。部隊を一点に集中すれば、左翼なら突破できる! 全員! 生き残ることができる!」
「…………」
シヴァージの乗るパイモン格闘型と機体を接触させ、ベカスは大声で叫んだ。しかし、シヴァージが無反応だったことに彼は慌てた。
「シヴァージッッッ!!! お前、ここで死にたいのか!?」
「…………!」
ベカスの言葉に、シヴァージはようやく我に返った。
「そうだ、アルチン将軍が死んだ今、私が死ねば一体誰が王女を守るというのか?」シヴァージは思った。
生きる気力を取り戻したシヴァージは、額を流れる汗を拭うと、兵士たちに向けて包囲網突破の指示を送った。
シヴァージの指示は迅速に伝達され、ベカスたちが制圧した東門より撤退が開始されるのだった。
「あいつら、しつこく食い下がってきやがる!」
やがてベカスたちは敵の左翼を突破することに成功した。しかし、それで戦いが終わったわけではない……反乱軍は隊列の最後尾にいるベカスめがけて、次々と追撃部隊を送り込んできた。
「くっ……これじゃあカピラにたどり着く前にみんなやられちまう……なあ、どーする影麟?」
ベカスは機体を後退させながらライフルを乱射しつつ、隣で盾を構えている影麟へと軽口を叩いた。
「…………」
しかし、影麟はベカスの軽口を真面目に受け取ってしまったらしく、小さく頷いて後退をやめた。
「ん?」
突然動きを止めた影麟を見て、ベカスは当初、影麟の乗る機体が戦闘によって受けたダメージにより行動不能に陥ってしまったのかと思った。
そして、影麟は意外な行動に出た。
BMの背中にあるバックパックを開け、内部に収納されていたそれを展開し、バックパック上に大きく掲げた。
それは黒い旗だった。迫力あふれる金色の極東文字で縦に『武帝』と印されている。それは、世界を震撼させた数年前の戦争における伝説の旗……
「影麟……それは!」
ベカスは驚愕した。
それと同時に、影麟の乗っている巨闕が浄化戦争の際に宏武が搭乗し、迫り来る教廷軍に甚大な被害をもたらしたとされているBM『国鉄闘神』であることに初めて気がついた。
「あの旗は……ぶ、武帝!?」
驚いたのはベカスだけではなかった。追撃部隊の兵士たちもまた、突如として戦場に出現した旗を呆然と眺めていた。
「あ、あれが一人で教廷の大隊に突っ込んだって伝説の?」
「聞いてないぞ! 武帝がカピラについていたなんて!」
「いや、そもそも武帝は死んだって専らの噂じゃ……」
「しかし、アレは紛れもなく武帝……まさか生きていた!?」
ベカスらを追撃する敵は、その旗を見て一同に足を止めた。彼らの中には浄化戦争に参加していた老兵も多く、また新兵にしてみても浄化戦争での極東武帝の伝説は有名な話だった。
「影麟……お前、まさか……!」
影麟が戦旗を掲げた意味を察して、ベカスは唖然とした。
もし、巨闕のバックパックに武帝の戦旗が格納されていると事前に知っていれば、彼は影麟の行動を止めていただろう。しかし、今更バックパックの中に旗を戻そうとしたところで、既に敵の注意を引きすぎている……
(だが、敵はいずれ気づくことだろう……)
ベカスはチラリと影麟を見た。
(こいつが、本物の武帝じゃないってことを……いや、そうでなくともこの状況下でその旗を掲げるってことは、自分の命を窮地に陥れているも同じだ!)
ベカスの思った通り、ショックから立ち直った敵は次々に戦闘態勢を取り始めた。そして、その視線の先は一同に影麟の巨闕へと向けられている。
「けっ! 武帝がなんだっていうのさ、相手はたった1人だろう? 奴を倒して、有名になるチャンスじゃねぇか!」
「それに、アレに乗ってるのが武帝って決まったわけじゃねぇ! ヘッヘッヘッ、旧式風情が! この数を相手に生き残れると思ってるのかよ!」
敵の中で、瞬く間にそんな考えが広まった。
「…………」
そして、それは影麟の狙い通りだった。
武帝出現の情報を得た追撃部隊が、武帝へ挑戦するべく続々と終結を始める。それは、ベカスたちを無視してシヴァージを追っていた部隊も同様だった。
(影麟、お前……最初からこれを狙って……!)
影麟は追撃部隊をたった1人で足止めしようとしていた。それも、知り合ったばかりの、ロクに名も知らぬ者たちの為に……
「影麟、逃げるぞ!」
「…………」
ベカスの焦り声に、影麟は「撤退する気などない」というようにジェスチャーで示してみせた。そして、迎撃態勢を取る……
絶対に、帰ってくる……
柔らかく美しい声が、ベカスの回線に飛び込んできた。
「……!?」
ベカスはその声に聞き覚えがあった。
それは、ベカスが崑崙研究所で日々修練に励んでいた頃に聞いた『女の子』の声。そして、それはベカスが聞いた唯一の言葉でもあった。
「…………分かった」
ベカスは影麟のことを信じることにした。最後にそう告げて、ベカスは機体を反転させてカピラ方面に向けて滑走を始めた。
ベカスが立ち去ると、すぐに敵部隊が影麟を完全に包囲した。彼らにはもう、シヴァージ軍のことなどどうでもよく、ただライバルを出し抜き武帝に勝利することだけが望みだった。
「やれ!」
反乱軍の誰かが叫ぶと、彼らは一斉に影麟めがけて機体を走らせた。そうして、影麟の孤独な戦いの幕が切って落とされた……
何度、敵に拳を叩き込んだかはもう覚えていない
何回、スティレットで敵を貫いたのかも覚えていない
何機、敵を倒したのかすら覚えていない
「…………」
影麟の周囲には破壊され、スクラップと化したBMが大量に転がっていた。影麟の乗る巨闕はエンジンオイルで濡れ、装甲は穴だらけで既にメチャクチャ、武装も全て使い切り、残るは左腕の盾のみだった。
荒い息を吐き出しつつ、影麟は最後に残った敵を手刀で真っ二つに引き裂いた。胴体と脚部に分かれた敵が、ゆっくりと地面に落ちる。
「…………!」
その時、巨闕のコックピットにアラートが鳴り響いた。反射的に機体を後方へ飛ばすと、つい先ほどまで影麟がいた位置にむけてミサイルの群れが着弾した。
「…………」
弾道を辿って影麟がミサイルの発射地点を見ると……そこには影麟が今までに倒してきた以上の、さらに大量の敵が横並びに展開していた。
敵の大群を前にしても影麟は無表情を貫いていた。しかし蓄積した疲労は既に限界を超え、息は上がり、その額には大量の玉汗が浮かび上がっていた。
そんな影麟の様子は外からは見えなかったものの、包囲する兵士たちはボロボロになった巨闕を見て、今がチャンスですだと興奮した。そして、彼らは剣を手に一斉に影麟めがけて襲いかかろうとし……
「待ちな!」
その時、包囲網の中からそんな声が響き渡った。
「……?」
影麟が声のする方へ視線を送ると、兵士たちの間を抜けるようにして1機のBMが影麟の前へと姿を現した。
「たった1機で3個中隊以上を倒すなんて凄いねぇ〜! まあ、本物か偽物かどうかは知らないけど、流石は極東武帝を名乗るだけあると言ったところかい?」
それは近接戦闘用にカスタマイズされたバルキリーだった。通常のバルキリーに比べて装甲が強化され、右手には高威力のエンジンドリル、両肩には内蔵式のミサイルランチャーを装備している。
「…………」
依然として煙がたなびくそれを見て、影麟は確信した。この青いバルキリーこそ先ほどのミサイル攻撃を行った機体であると……そして、この敵がこれまでの敵とは比べ物にならないほど強いということを……
「この敵はアタシがやるわ!」
青いバルキリーのパイロットは女性だった。声高々にそう宣言すると、影麟めがけて機体をブーストさせ、エンジンドリルを突き出してきた。
「…………」
突き出されたエンジンドリルを、影麟は盾で防御する。しかし、この時点で既に大破寸前の盾はドリルの高速回転に晒され、あっという間に砕け散ってしまった。
咄嗟に、影麟は機体を後ろへ飛ばした。
しかし、青いバルキリーの攻撃はまだ続く
「喰らえ〜!」
バルキリーの肩に内蔵されたミサイルが後部から火を噴き、一斉に影麟めがけて飛来する。
影麟は回避しようとするが、先ほどの後退で推進剤を使い切ってしまっていた。即座に避けきれないと悟った彼は、機体の両腕をクロスさせて防御の構えを取った。
ミサイルが影麟へ着弾する。
内蔵式ということもあってか、幸いにもミサイルの威力はそこまででもなく、巨闕はミサイルの直撃に耐えることができた。
「…………!」
しかし、ミサイルの爆発で生じた爆煙が影麟の視界を奪った。さらにミサイルの内部にはフレアーが含まれており、高熱が巨闕のセンサーを狂わせた。
煙幕の中、青いバルキリーは爆発から影麟の位置を把握すると、機体を滑らせ影麟の背後へ回り込み、そしてエンジンドリルを起動させた。
「絶対ッ、これで終わり!」
煙幕に包まれた影麟めがけて機体を走らせ、エンジンドリルを突き出し……
「なっ!?」
次の瞬間、青いバルキリーのパイロットは驚愕した。
「…………」
なぜなら、感覚のみで青いバルキリーの位置を把握した影麟がエンジンドリルによる刺突を、右手で受け止めたからだ。
高速回転により巨闕の右手がズタズタに引き裂かれる。それと同時にドリルの先端が巨闕の腕に食い込み回収不可能となる……影麟はそれを狙っていた。
「あっ!」
まさしく『肉を切らせて骨を断つ』
影麟は真正面で動きを止めたバルキリーに向けて拳を叩き込んだ。強烈なその一撃は、頭部を粉砕し、一瞬でバルキリーを戦闘不能へと追い込んだ。
「……っ」
しかし、それが影麟の限界だった。
右腕を失った巨闕が膝から崩れ落ちる。
「よし! やれ!」
それを見た反乱軍の兵士たちが、剣を構えて影麟めがけて殺到する。あらゆる武装を使い切った影麟に、最早大群を相手にする余力などなかった。
「…………」
影麟は迫り来る凶刃に目を瞑った。
シャナム流、ならず者の剣!
「…………!?」
次の瞬間、突如として響き渡ったその声に影麟は目を開けた。見ると、自分の真正面へと迫っていた機体が真っ二つに切断され地面に転がっている。
「よぉ、影麟!」
影麟がすぐ横を見ると、そこには白銀の機体……シヴァージと共にカピラへと撤退したはずのベカスの姿があった。
「……っ!?」
影麟は訳もわからずベカスを見つめた。
「帰ってきたぜ」
ベカスはそう言ってニヤリと笑うと、左手に装備したライフルを地面に突き刺し、右腕の剣を構えて包囲している敵めがけて機体を走らせた。
「な、なんだアイツは!?」
数百と群れる包囲網に対して、何の躊躇いもなく白銀の機体が飛来してくるのを見て、兵士たちは驚愕した。
ベカスは自ら兵士たちの中心へ躍り出ると、混乱のスキを突いて剣を振り回し始めた。鮮やかな弧を描いた薙ぎ払いが行われる度に、反乱軍の機体が一機、また一機と切り落とされていく……
密集した真ん中にベカスがいることもあって、同士討ちを恐れて反乱軍はライフルやマシンガンといった遠距離兵器に頼ることはできなかった。また、辛うじて撃つことができた弾丸もウァサゴのフレーム効果であるFSフィールドに阻まれ、無効化された。
そこで、反乱軍たちは剣を構えて近接戦闘に入ろうとした。一人一人の剣の腕前はベカスに劣るが、一度に多くを相手にするとなるとベカスでも対応しきれない。
その時だった。
何処からともなく飛来したビームが、ベカスに近接戦闘を仕掛けようとした機体を貫き、無力化させた。
「なんだと!?」
兵士たちはビーム攻撃を行った者を見て、驚愕した。
「極東武帝が、銃を使っただと!?」
そこには、左手でウァサゴのライフルを構える巨闕の姿があった。照準をぐらつかせながらも、ベカスの援護のために放たれた火線が包囲網を形成する敵を貫く……
浄化戦争の頃から近接戦闘を好み、自身の専用機にすら遠距離武器を積まなかった武帝がここで始めてビーム兵器を使用したことに、兵士たちは驚愕した。
それもそのはず、遠距離武器を前にした影麟がそうするように仕向けたのは……数日前のベカスとの特訓の成果によるものだった。
いや、ベカスは影麟に射撃を教えたという訳ではない。ベカスが教えたのは、ひとことで言えば『生きる力』だった。
近接戦闘が得意だから、それしか使わない。
遠距離戦が得意だから、それしか使わない。
……そういった戦場における『こだわり』は、時として自らに破滅を導く結果をもたらすことをベカスは知っていた。
赤十字などと言った例外はあるが、基本的に戦場での殺し合いにルールなどない。格闘で敵を倒そうが、射撃で敵を倒そうがどれも同じである。
そして、どんなに優秀な機体・武器、戦術を用いたとしても使い続ければいずれ対策されてしまう。だからこそ求められるのは、常識に囚われることのない、戦場におけるそれまでの型にとらわれない自由な戦い方だった。
その時の地形や気候はもちろんのこと、集団心理、大破した機体、もしくは欠落した機体のパーツや武装……ひとつの戦場を構成しているあらゆる要素を最大限に活用する能力。それこそが、傭兵として長らく外の世界を歩き回ってきたベカスの導き出した『生きる力』だった。
「ナイスショットだ! 影麟!」
真正面の敵を切り払い、ベカスは機体を後方へと飛ばし、再び影麟の元へ舞い戻ってきた。
しかし、それと同時に包囲網から放たれた銃弾がベカスに向かって殺到する。
影麟はとっさにライフルを地面に刺し、大破しその場に転がっていたBMを左手で引きずり上げ、ベカスの前に巨大な盾として構えた。
「…………」
盾の内側で、影麟は「どうして逃げなかったの?」というような視線をベカスに向けた。
「ああ……シヴァージたちは安全圏に逃れたんで引き返してきたのさ、大丈夫……アイツらなら無事にカピラに辿り着けるさ」
そう言ってベカスはライフルを拾い上げると、エネルギーの供給を開始した。そんな彼に、影麟は「そういうことじゃない!」と言いたげな目をした。
「なあ、影麟……お前、怖いか?」
「…………?」
突然発せられたベカスの問いかけに、影麟は少しだけ考えるそぶりを見せた後……小さく首を振って否定を示した。
「そうか……奇遇だな」
影麟が作った盾がボロボロになったのを見計らって、ベカスはFSフィールドを再展開した。そして影麟へライフルを手渡し、自身は剣を手にする。
「少し前のオレなら、こんだけの大群を前にしてると……怖いって思っただろうな……きっと。でも……もっと怖いのを知っちまったからな……」
「だからオレ……もう、怖くないんだ」
ベカスはフッと笑った。
少し前まで孤立無援の状態で戦いを強いられていた影麟にとって、その笑顔はとても頼もしく感じられた。
「だから……一緒に帰ろう!」
「…………!」
「やれるさ、オレとお前なら!」
「…………」
ベカスの言葉に、影麟は強く頷いた。
それから、2人は目の前の包囲網を見据えた。
いくぜ……!
次の瞬間……2機は二手に分かれ、包囲網に向かって勢いよく機体を飛ばした。
本来であればここでベカスはカピラに撤退するのですが、本作ではしません。また、この後ベカスにマキャベリとの遭遇イベントがあり、赤い月やら奪われたものやらベカスの過去(前世?)の伏線が語られるのですが…………別に、要らないですね。必要ないのでカットします。
そんなものがなくとも、あなたは十分に魅力的な主人公ですよ。ベカス
次はようやく三日月を出せます!
やっとです!やっと! 盛り上がりはあんまりだと思いますが
それでは、次回予告です。
エル「カピラ城下へと帰ってきた三日月! でも、ベカスと影麟のMIAを聞いて……」
フル「そんな時、城の外が騒がしくなって……暴れます」
エル&フル「「次回、『ハッタリとメイス(仮)』」」
エル「なるほどね! これが『弱肉強食』なのね!」
アイサガで貴方の好きなキャラを教えてください。(回答はこちらではなく気軽にコメントの方へお願いします)
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境界戦機もっと流行れ
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鉄血・ブレットもっと流行れ
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水星の魔女×鉄血のオルフェンズ?
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あと、アイサガのエンディングも作ります