機動戦隊アイアンブラッドサーガー悪魔と少女と機甲ー 作:野生のムジナは語彙力がない
前回の更新から4週間……ようやく書けたのです……
というのもですね、ムジナこの頃体調の方があまり良くなくてですね……本当は1週間で書き上げたかったのですが、急に喉が痛くなって、熱が出て……回復したと思ったらぶり返して寒気に頭痛、鼻づまりに咳とデバフのオンパレードで、ぶっちゃけ今もしんどいです。なので書くのに相当な時間がかかりました。すみません。
症状的には例のクソコロナではないと思いますが、どちらにしろ抵抗力がなくなっているので気をつけたいと思います。はい。
ところで、コロナって狸もかかるんですかね?
同じ哺乳類である犬や猫でも発症例があるって聞いたのですが、これはいかに?
まあまあまあ、何はともあれ、とにかくムジナは生きてます。
ムジナです よろしくお願いします。
沢山の閲覧と評価、コメントをありがとうございます。
それでは、続きをどうぞ……
アランバハ城侵攻作戦終結から1時間後……
「アリス〜、生きてる〜?」
アランバハ城の援軍を率いていた赤いバルキリーのパイロットが、頭部を失い倒れて動かない青いバルキリーの元へ移動した。
赤いバルキリーを操る彼女こそ、G.O.E.傭兵社に所属し、傭兵界に名を馳せる『ローズトライスター』の隊長……『強襲の薔薇・ミア』だった。
A級ライセンスを持つ彼女は、主に近〜中距離からの強襲戦に長けていた。その為、トリプル・ドッグを基本戦術とするローズトライスターにおいてはメインアタッカーの役割を担っている。
男勝りな性格で、その恋愛対象も女性である。
「もうダメ〜死ぬわ〜」
ミアの呼びかけに、青いバルキリーが反応した。青いバルキリーのスピーカーから、やけにのんびりとした女性の声が周囲に響き渡った。
「嘘だぁ、外から見ていても分かるわ。アリスのその機体はまだ大丈夫だってね」
そう言ってミアは機体のマニュピレーターを操作し、青いバルキリーのコックピットブロックを指先で軽くノックした。
ノックによる小さな振動が、パイロットの体を揺らした。
「ちょっと〜、怪我人に向かってそれはないんじゃない?」
青いバルキリーのコックピットが開放されると、その中から1人の女性が姿を現した。ミアに向かって批難の声を上げつつ、腕に出来た小さな擦り傷を示す。
ローズトライスターの一員であり、青いバルキリーのパイロットでもある彼女は『薔薇の棘・アリス』
ミアと同様A級ライセンスを所持し、ローズトライスターの中で最も近接戦闘能力に長け、部隊の切り込み隊長として活躍している。
アバウトでだらしなく、幼い男児が好みという彼女だったが、その反面、整備士のライセンスを所持しており、その腕前は一流である。
「それに……あぁ、私のバルキリーをこんなにしちゃって」
アリスはバルキリーのなくなった頭部をチラリと見て、深いため息を吐いた。整備士である故に、壊れたBMを修理する難しさをアリスはよく知っていた。
「アリス、大丈夫ぅ?」
そこへ、遅れて黒いバルキリーが近づいてきた。
パイロットの少女は青いバルキリーの側に機体を跪かせると、コックピットを開けて心配そうな表情を浮かべ、アリスへと声をかけた。
黒いバルキリーのパイロットであり、B級ライセンスを持つ少女は『運命のタロット・ルル』
戦闘スキルこそ他の2人に劣るものの、鋭い第六感を持ち、ローズトライスターにおける妨害・撹乱および情報戦を担当している。
タロットによる恋占いが趣味で、よく2人の恋愛相談に乗っていたりする。
(ところでスリーローゼスなのに、なんでルルだけ通り名が『薔薇』じゃないのです? そこはもっとほら……『運命の薔薇』とか、あるのでは……?)
「ありがと〜ルルちゃん! あたしの事を心配してくれるのはルルちゃんだけだよ〜」
「そっか、よかった〜」
アリスが自身の無事を伝えると、ルルはホッとした様子で胸を撫で下ろした。それからアリスはミアへと振り返り……
「それで……ねぇ、ミア」
「なに?」
「あたしのバルキリーを壊した、あの黒い奴はどこ?」
「ああ、それなら……」
そこでミアは、首を振って自身の後方を示した。アリスがその場所へ目を向けると、そこには大破した巨闕が地面に横たわっていた。
アリスが破壊した右腕だけでなく、頭部は半分に潰れ、左足は関節部から先がなく、胴体は銃弾でズタズタに引き裂かれていた。
「おお! 倒したの? やったじゃん!」
「まあね〜、と言っても……燃料切れで動けなくなったところに火力を集中させただけなんだけどね」
「ふーん、それでパイロットは? 武帝は?」
「それがね……逃げられちゃった」
「逃げた!?」
少しだけ言いにくそうにしながらもミアがそう答えると、アリスは非常に驚いた様子を見せた。
「まさか……機体を失って、この包囲網の中を生身の体で走り抜けたってこと!?」
「いや、そうじゃなくてね……実は」
ミアは、アリスがやられた後に白いBM(ウァサゴ)が戦闘に乱入してきたことと、武帝の巨闕を撃破した後に、白いBMが巨闕のパイロットを回収してそのまま包囲網を突破して逃げてしまったことを伝えた。
「ああ、なるほどねー」
ミアの言葉を聞いてアリスは再び巨闕に目をやった。巨闕の手の中には見慣れぬ白いライフルが未だ力強く握られており、何者かの乱入を示す証拠としてその場に残されていた。
「で、その白い機体は?」
「第16、17BM大隊に追跡を命じたよ。いくら単独で包囲網を突破できるくらい強くても、あれだけの追撃を受ければただじゃ済まないだろうね」
「そう? 今ならまだ追いつけるかな?」
そう言ってアリスは青いバルキリーの操縦席へと戻った。
「アリス? そんな機体でまだやろうっての?」
「当たり前でしょ! たかが頭をやられただけだし、それにミアだって、あんな老いぼれにしてやられて悔しくないわけ?」
「あー……それはねー……」
再起動し、目の前で立ち上がる青いバルキリーの姿を見つつ、ミアは少しだけ考えた後、ウンウンと頷いた。
「いいね〜、リベンジマッチ! 行こうか?」
「お! 流石ミア! 分かってるねぇ〜」
ミアとアリスは、互いにニヤリと笑った。
「ちょっと待ってよ! わたしたち、カピラ城に侵攻するんでしょ?」
リベンジに燃える2人を止めたのはルルだった。
「ミアとアリスが追撃部隊の中に加わるんだったら、誰が侵攻部隊の指揮をするって言うの!?」
「あ〜、そうだったねぇ……それじゃあ、あたしら2人は武帝を追うからさ、ルルはカピラ城の侵攻部隊の指揮をお願い?」
「ミ、ミアじゃないんだから、そんなのわたしには出来ないよ……」
ルルが気弱にそう答えると、2人は「冗談だよ」と笑った。そんな2人の様子に、ルルは小さく唸って頬を膨らませた。
そして、3人は大破した巨闕の所へと移動した。
「こんな旧式のクセに、ようやるねぇ」
バルキリーの頭部に損傷を与えた腹いせをするかのように、アリスは地面に沈み込んでいる巨闕を足蹴にし、転がした。
「お?」
巨闕が仰向けの状態からうつ伏せの状態になり、そのバックパックに装備していた黒い物体がアリスの目に入った。
「ねえ〜、ミア」
「ん? 何〜?」
「これ、使えないかな?」
アリスはバックパックに装備されていた物体を巨闕から乱暴に引き剥がし、ミアに手渡した。
「これって、武帝の旗?」
受け取った旗をしげしげと見回しながらミアは呟いた。つい先ほどまでは見る者全てを惹きつけるほどの存在感を放っていた武帝の旗も、戦闘の余波に晒され今では見る影もないほどボロボロになっている。
「どこかで使えると思わない? ついでにこの銃も」
アリスは巨闕の手からウァサゴの白いビームライフルを抜き取って示した。それを見て、ミアがどう使おうかと考えていると……
「ねえ、2人とも……」
ルルが少し戸惑った様子で2人へと声をかけた。
「その旗と銃……使わない方がいいかも」
「え? なんで?」
「なんだか凄く嫌な予感がするの」
ミアが聞き返すと、ルルはポーチの中からタロットカードを取り出し、カードをコントロールパネルの上に手早く並べ、そこで占いを始めた。
「……逆位置の吊るし人、うわぁ…………」
「何それ? そんなに酷いの?」
「酷いってもんじゃないよ、これは相当……」
「でも、所詮はカード占いでしょ。ほら……よく言うだろう? 占いは当たるも八卦当たらぬも八卦って、そんな科学的な根拠のないものに一々囚われていちゃ、仕事も何も出来なくなるよ」
「でも……」
ミアの的を得た言葉に何も言い返す事が出来ないルルだったが、それでも何とかこの嫌な予感を2人へ伝えようとするのだが……
「大丈夫大丈夫〜そんな占いの結果なんて軽く吹き飛ばすくらいの良い作戦を考えるからさ〜、ルルはいつも通りあたしらの支援についてくれてれば十分にやれるさ〜」
怯えた様子のルルを安心させようと、ミアは軽い口調でそう告げた。ミアの顔に映る頼もしげで自信たっぷりな表情を見ていると、ルルは自分のやっている占いの結果など本当に吹き飛ばしてしまいそうな風に思えた。
「うん、分かった〜」
きっと占いが間違っていたのだろう。よくあることだ……ルルは自分にそう言い聞かせて、素直にミアの言葉に従うことにした。
だが、武帝の旗とウァサゴのライフルを使おうというミアの判断が、後にあのような最悪の事態を引き起こすことになるとは、この時まだ誰も予想だにしていなかった。
機動戦隊アイアンブラッドサーガ
第29話:小隊(前編)
アランバハの戦いから5日後……
カピラ城下
停泊中のダイダロス
「これは……ファントムの腕?」
「うん、行った先で見つけた」
ダイダロスの格納庫にて、葵博士は三日月が持ち帰ったファントムの左腕を恐ろしげに見つめていた。黒い装甲、腕周りと一体化している大口径機関砲、そして多くの人間の生き血を吸ってきているであろう、鋭く尖った大きな爪……
本体から切り離されても尚、それが放つ禍々しい雰囲気は未だ健在で、放置しておけばいずれ動き出し、一帯を更地に変えてしまうのではないのかという錯覚さえ感じられた。
「まさか、ファントムと交戦したの!?」
葵博士は自分の隣に立つ三日月へ振り向いた。
「いや……俺は行っただけ、戦ってない」
三日月はそう言ってナツメヤシの実を口にした。
カピラ城下でファントムの情報を集めていた三日月が、とある人物から得られた謎の光の目撃情報を元に捜索を始めてから4日後……葵博士の待つダイダロスへと帰還した三日月は、今回の捜索での報告を行なっていた。
「アイツがあの場所にいたのは確かだと思う、それじゃあ」
「ま、待って!」
早々と報告を終え、格納庫から出て行こうとする三日月を、葵博士は慌てて呼び止めた。
「何?」
「ねぇ! 他に何か見かけたりしたものはないの? 例えば……そう、何かの残骸だとか、ファントムの目的に繋がりそうなものだとか……」
「ん……」
三日月はそこで少しだけ考えた後、ファントムの左腕を見つけた場所でのことを詳しく伝えることにした。
「辺り一帯がおっきな穴になってた。多分、なんかの爆発があったんだと思う……見つかったのはこの腕だけ、穴の周りを見てみたけどアイツの足跡みたいなものは見つからなかった」
「穴……クレーターのことね。謎の光の目撃情報といい、極東で確認された被害と一致するわ。ファントムは極東で使った技をこの場所でも使ったという訳ね」
葵博士は考えをまとめようと、顎に手を当てた。
「ファントムはこの場所で何者かと交戦し……そして、腕を切り落とされた。この近くには天界宮があることから場所的に考えて、交戦したのはブラーフマ陣営の部隊……?」
「うん、でも……アイツと戦っていたのはここの国の軍隊じゃないと思う。だって、軍隊の人たちも調査に来てたから」
三日月は軍人たちとのやりとりを細かく話した。そして、軍人たちが追っていたファントムとはまた違う、別の黒い機体のことについても口にした。
「ファントム以外の謎の黒い機体ですって……!? しかも、全長約70メートル……!? そんな巨大なBMが存在するなんて、ソロモンでも聞いたことは……」
「ソロモン?」
三日月にそう聞き返され、葵博士は思わずハッとなった。
「なんでもないわ。今の言葉は忘れて頂戴」
小さく息を吐いて、葵博士は言葉を続ける。
「話を戻すわ。それで……交戦したのがブラーフマの軍隊でないと考えると、何者なのでしょうね」
「うん。そいつ、強いよ」
「同感だわ……あんな化け物相手にダメージを与えられるなんて相当なものよ。最高級のBMとスーパーエースを寄せ集めた軍隊でも投入しない限り……」
そこで葵博士はふと何かに気づいたかのように口を噤んだ。そして、三日月に背を向けて少し考えるようなそぶりをみせ……
「まさか……彼らが動いたとでも……?」
ポツリと、そう呟いた。
「彼ら?」
三日月がその言葉に反応すると、葵博士は小さく息を吐いてから三日月の方へ向き直った。
「三日月くん、白鯨の伝説を知っているかしら」
「はくげい? なにそれ」
「白い鯨と書いて『白鯨』 またの名を『モービィ・ディック』世界を股にかけて暗躍しているとされている伝説の傭兵集団よ」
葵博士は自身の知り得る白鯨についての情報を、口にし始めた。
「噂によれば……彼らは少数精鋭でありながら、その科学力は我々が知り得ているものの20年先を行くとされていて、その気になれば全世界を3回も制圧できるほどの戦力を有しているそうよ」
「その人たちが、アイツと戦ったの?」
「確証はないわ。でも、状況的にファントムと戦ったのは彼らである可能性は十分に考えられるわ。天下無敵とさえ呼ばれたあの極東軍ですら一蹴するファントムを、ブラーフマ陣営がまともに対処できるとは思えない……いえ、最早アレとまともに戦える軍隊なんて、この世界に存在しないと思うわ」
「そう、彼らを除いて……」
葵博士は自分の言葉にそう付け足した。
「ふーん……」
三日月はナツメヤシの実を口にしながら、黙って葵博士の言葉を聞いていた。
「組織のトップであるエイハブは謎の多い人物よ。男か女かすら分からない、その正体はAIであるという不確かな情報もあって……いえ、エイハブという名前すら、本名ではないのでしょうね」
「公的な記録こそないものの……かつて、傭兵でありながら合衆国とブリテンの間に勃発した大陸間戦争を初めとする3つの大規模国家間戦争と、12の内戦の泥沼化を回避し、平和的解決へと導いた『伝説の指揮官』が存在した」
「エイハブは……その、名もなき『伝説の指揮官』と同一人物であるとされているわ」
「でも、エイハブとされている『伝説の指揮官』は、今から数年前に何者かによって暗殺され、それと同時に指導者を失った組織も空中分解を引き起こし、彼らは歴史の闇の中に消えてしまった。そう……その筈だった」
「でも、最近、死んだはずの『伝説の指揮官』が復活したという情報を耳にしたわ。彼は自身をエイハブと名乗り、MSF……『国境なき艦隊』の設立を宣言した」
「世間では、伝説の指揮官(エイハブ)が白鯨(モンスター)を従えて復活したと話題になったわ。それから時を同じくして、世界各地の紛争地域で白鯨の出現情報が上がってきた……極東にて、復興支援の為に彼らの艦隊が集結したのもその内の一つね」
「彼らは、まさにオーバーテクノロジーの塊のような存在よ。ファントムと好き好んで戦おうとするだなんて、白鯨以外に考えられないわ……」
「でも、倒しきれなかった」
三日月は葵博士の言葉を引き継ぐようにして呟いた。
「そう言える根拠は?」
「……ないよ。でも、俺には分かる」
そこまで言って、三日月はナツメヤシの実が入った袋をポケットに戻してから続ける。
「アイツは俺たちのすぐ近くにいる。このチュゼールって国のどこかに、必ず」
「…………そうね」
三日月の言葉に、葵博士はどう答えて良いか分からず髪をかきむしった後、三日月の目を真っ直ぐに見つめた。
「でも、これだけは分かっておいて。あなたが戦おうとしているのは、そんな彼らでも倒せなかったような敵ということ……あなた1人で、そんな敵と戦おうなんて、ハッキリ言って無茶よ」
「それでも戦うよ。アイツは何が何でも倒さなくちゃいけない、それが俺に与えられた役割だと思うから……それに」
三日月は格納庫の空きスペースを流し見た。今は出払っているが、そこは三日月が信頼する銀髪の傭兵の愛機と極東で出会った青年の乗機が格納されていたスペースだった。
「俺は、1人じゃないから」
三日月の鋭い視線に、葵博士は溜め息を吐いた。
「……聞くまでもなかったようね、もういいわ」
「ん、それじゃあ」
三日月は葵博士に背を向けて格納庫の出口へ
「そうそう、忘れるところだったわ」
「ん?」
呼び止められ、三日月は振り返って葵博士を見た。
「最後にひとつだけ、ミドリから伝言よ」
「ミドリちゃんから?」
「本部での仕事が片付いたから、姉妹と一緒に輸送機でこちらへ向かっているそうよ。早ければ明日の朝には到着しているでしょうね」
「ん……分かった」
三日月は格納庫を後にした。
そのまま通路を抜けてダイダロスから下船し、カピラ城下へと移動した。時刻は夕暮れ、チュゼールの大地に巨大な太陽が沈みかけていた。
沈みゆく太陽を背に、三日月は町の酒場へと向かった。
目的は、ファントムに関する情報を収集する為でもあったが、それと同時に謎の光の目撃情報を提供してくれた人物と再び接触をする為でもあった。
「あの人、いるかな?」
道、人だかり、露店、住居、そして空気……その全てが夕焼けで紅く染まった通りを抜けて酒場の前へたどり着いた三日月は、酒場の扉に手をかけ……
「アランバハ侵攻作戦の部隊が戻ってきたぞー!!!」
ちょうど、三日月のすぐ後ろを町の青年がそんな叫び声を上げて走り抜けていった。
「…………?」
三日月が振り返ると、遠くの方でカピラ城の巨大なゲートが開き、今まさにアランバハ侵攻作戦に参加していたアルチン将軍率いる部隊が、カピラ城へと通じる大通りに姿を現した所だった。
「帰ってきたのか? だが……」
「ああ、数が少ないな」
「嘘だろ……出た時と比べると半分以上も減ってるぞ」
「まさか、負けちまったのか?」
町人たちは大通りを進むBMと戦闘車両で構成された行列を見て不安の声を上げた。出陣の際には車両1台に至るまで完璧な整備が施され、美しい隊列と共に城を後にしていたそれが、今では見る影もなくボロボロになっていた。
部隊は半数以上がいなくなり、辛うじて撃墜を免れた機体も少なからず損傷を負い、無傷のものは1つとしてなかった。
また、戦闘車両の天井には定員オーバーで乗り切れなかった兵士たちが身を寄せ合っており、その表情は皆一同に疲れ果てていた。
そんな彼らの様子から、彼らが戦いに負けたということは想像に難くなかった。
「…………」
ベカスと影麟がアランバハ侵攻作戦に参加していることを知っていた三日月は、酒場の前で少しだけ考えた後、扉から手を離して大通りへと向かった。
ーーーーー
カピラ城へと続く大通り
(アランバハ侵攻軍で埋め尽くされている)
敗戦のショックが、8割以上の戦力を失った部隊全体に暗い影を落としていた。敗北に打ちひしがれていたのは隊列の先頭を進む若き将校、シヴァージも同様だった。
「…………」
シヴァージは黙ってBMを進めていた。部隊を率いていたアルチン将軍を始めとする数名の将軍が戦死したことにより、繰り上がりで部隊の指揮を執った彼だったが、肉体的にも精神的にも限界を迎えていた。
その時だった、帰ってきた部隊を取り囲むようにたむろしていた群衆の中から、老齢の女性が飛び出してきたかと思うと、そのまま大通りの中心へ走り出た。
「…………」
老婆は何かを訴えかけるように両腕を上げるも、しかし、失意に苛まれているシヴァージがそれに気づくことはなかった。
「シヴァージ様!」
「……!」
その時、彼の親衛隊が呼び止めていなければ老婆の体はシヴァージの操るBMに踏み潰されていたことだろう。シヴァージはすんでのところで我に返り、機体を停止させた。
「何者だ!」
親衛隊の1人が老婆にライフルの銃口を向けた。
「よせ……!」
シヴァージは慌てて親衛隊を制し、機体を跪かせるとコックピットからワイヤーを伝って老婆の前へと降り立った。
「あなたは……確か……」
「はい……私めはアジャンタ家長男イヴァンの母でございます」
それは親衛隊に所属していた兵士の名前だった。
シヴァージよりも年上で腕が立ち、誰からも好かれる性格をしており、シヴァージとは直接的な血の繋がりはないものの、長らくシヴァージの補佐を務め、多くの経験を共有していたこともあって、シヴァージは彼のことを兄のような存在として慕っていた。
しかし……
「イヴァンは、どこでございますか……?」
兵士の母親はキョロキョロと辺りを見回し、親衛隊の一員である彼の乗機が見当たらないことを嘆いた。
「…………それは」
シヴァージは唇を噛み締め、後ろで待機していた部下へと目配せした。それに反応した兵士がシヴァージへと近寄り、小さな箱を差し出してきた。
「これだけしか、回収出来ませんでした……」
受け取った箱を開け、その中身をしばらく凝視した後……シヴァージは意を決したかのように小箱を老婆へと差し出した。
「回収……?」
老婆は恐る恐る小箱の中を覗き込んだ。そして、中に入っていた血まみれのタバコ入れを見て、老婆の顔が蒼白に染まった。
「そんな……」
次の瞬間、老婆は泣き崩れた。
親衛隊に支えられるようにして、老婆が群衆の中へと連れられて行くのを背中に感じながら、シヴァージは彼との最後のやり取りを思い出し、酷い脱力感に苛まれてしまった。
それはアランバハから撤退している際の出来事だった。イヴァンは追撃部隊の放った弾丸から身を呈してシヴァージを庇い、重傷を負った。その後は共に安全圏へと退避することに成功するも……受けた傷が影響して、彼はシヴァージの無事を見届けるようにして事切れてしまった。
シヴァージは彼の遺体を回収しようとするも、いつ敵が現れるか分からない状況下でそのような余裕はなく、やむなく彼が生前愛用していたタバコ入れを遺品として持ち帰ることしか出来なかった。
シヴァージは、それが今は亡き彼の父親から譲り受けた形見であることを知っていた。「父亡き後、これからは自分が一家の大黒柱として、たった1人の母親を支えていこう」……それは母親思いの彼が抱いた決意の表れだった。
「彼は、死んでいい人間だったのか……?」
BMの脚部に手をついて体を支え、シヴァージは自問自答した。彼亡き今、これからは一体誰が彼の母親を支えて行くのだろうか?
いや、彼だけではない。
この戦いで死んでいった多くの兵士たち、彼らもまたそれぞれに愛する者がいたはずだ。その中には、シヴァージが知らないだけでイヴァンのような境遇の者も数多く存在していたことだろう。
彼らは皆、兵士であるがゆえに死ぬ覚悟は出来ていた。それはシヴァージも同様である、しかし、兵士たちを指揮する立場になった時、それはシヴァージにとっての重荷でしかなかった。
アルチン将軍が戦死し、繰り上がりでそうなったとはいえ、それまで1部隊を任されていた自身が、突然部隊全体の運命を預けられる身となってしまったのだ。
自分の選択一つが多くの兵士たちの命運を左右する……初めて感じる、兵士たちの上に立ち、彼らを指揮する者としてのプレッシャー、そして重荷……
結果としてカピラ城に帰還することはできたが、それでも多くの兵士たちを失った。
あの時、違う選択をしていれば……
もっと迅速に行動していれば……
押し寄せる罪悪感と後悔、そして自責の念。
次々と押し寄せてくるそれらに、シヴァージは猛烈な息苦しさを覚えた。
(いや、それ以前に……)
シヴァージはアランバハ城へ立つ前……作戦会議での一幕を思い出した。
(あの時、私がブラーフマの南征軍を叩くべきというベカス殿の主張にもう少し耳を傾けていれば……激昂するアルチン将軍を抑えることが出来ていれば……?)
シヴァージは両手で顔を抑えて思案した。
(しかし、会議の場で罵倒されたにもかかわらず、彼らは殿となって部隊全体の撤退を支援した。殆ど赤の他人である我々の為に、命を投げ出す義理もないというのに……むしろ、極東から遠路はるばる救いの手を差し伸べてきた彼らに対して、我々は何ということをしてしまったのだろうか……?)
シヴァージは部下たちの証言から、影麟が武帝の旗を掲げて敵の注意を引きつけていたことを知っていた。大部隊に囲まれボロボロになりながらも孤独な戦いを続ける彼のことを……そして部隊が安全圏へ逃れた後、1人……彼の救援に向かったベカスのことも……
(彼らは、失ってよい人間だったのだろうか……?)
シヴァージがそう考え始めた直後だった。
「なんだお前は?」
突然、大通りに兵士たちの罵声が響き渡った。
「……?」
シヴァージが声のした方向へ目を向けると、1人の少年が大勢の兵士たちに囲まれていた。
「ねえ、ベカスと影麟はどこ?」
(…………!)
少年の放ったその言葉を聞いて、シヴァージはヒヤリとするものを感じた。
「そんな奴は知らん」
「アンタらと一緒に出撃したって聞いたんだけど」
「だから、知らんと言っているだろう!」
そう言って兵士たちは少年に銃を突きつけ、大通りの端へ移動するよう促した。仕方なく、少年が群衆の中へと戻ろうとした時……
「待て……!」
シヴァージは慌てて少年を呼び止めた。
力を振り絞って少年の元へ近寄る。
「君は……確か、ベカス殿と一緒にいた……」
「ベカスを知ってるの?」
「…………ああ」
「そっか、じゃあ……ベカスと影麟はどこ?」
「…………」
「作戦に参加したって聞いたんだけど?」
「それは……」
押し黙るシヴァージのの様子を見て、黒髪の少年……三日月の視線が強くなった。
「何があったの?」
「ついてきてくれ……」
シヴァージに連れられ、三日月はカピラ城へと向かった。
ーーーーー
三日月がカピラ城へ辿り着いた時には、外は既に暗闇に包まれていた。その頃になると、カピラの軍隊が完膚なきまでに叩きのめされたという情報は市街全域にまで広まっていた。
チュゼール屈指の堅城であるカピラ城だったが、その兵力は出征前と比較すると大幅に減少しており、最早まともな防衛戦を構築することすら困難を極めるほどの人手不足に陥っていた。
この事態に、カピラ城下の住人たちは不安に駆られるのだった。
カピラ城
謁見の間
シヴァージに連れられ、謁見の間へ通された三日月は、そこで女王・シャラナの姿を初めて見ることとなった。
シャラナ姫は褐色の肌をした美しい女性ではあったものの、数ヶ月前より続くクーデターを発端とした肉体的・精神的なストレスにより、酷くやせ細ってしまっていた。
シャラナ姫は三日月の顔を見て、悲しげな表情を浮かべた後、側にいた従者に指示を送って、三日月に小袋を1つ手渡すよう命令した。
「なにこれ?」
従者から小袋を受け取った三日月が袋の口を開けてみると、中には美しいルビーの宝石がたっぷりと詰め込まれていた。
「それはベカスさんと影麟さんへの報酬です」
そう言って、シャラナ姫は恥じ入るように俯いた。
「本来ならば、2人に直接手渡したかったのですが……こんなことになるのなら、最初からベカスさんの意見を聞いておくべきでした……」
「姫様。恐れながら、それは私の責任でございます」
落ち込んだ様子のシャラナ姫の前で、シヴァージは恭しく膝をついた。
「私がもっと早くベカス殿と影麟殿の持つ能力の高さに気づき、その有用性をアルチン将軍に伝えることが出来ていれば、こんなことにはならなかったはず……全ては、私の責任でございます」
「そんな! シヴァージは悪くないわ……悪いのは……」
「いいえ、姫様! それを認めてはなりません。そもそも貴女は一国の姫君であって兵士ではありません。だからこそ、将校であり一介の兵士である私が責任を取る必要があるのです」
「シヴァージ! 駄目よ! 貴方だけの責任ではないわ! ベカスさんがあの極東武帝が認めた最高の弟子だということを、私がアルチン将軍に伝えることが出来ていれば……」
「いいえ、姫様は……!」
シャラナ姫とシヴァージはお互いに罪を被りあって、一歩も譲らない様相を呈していた。
しかし……目の前で意味のわからない会話を繰り広げられ、しかも一向に終わる様子を見せなかったことに軽い苛立ちを覚えた三日月は、小さく息を吐いた。
「ねえ、いい加減話して欲しいんだけど」
2人に向けて、三日月は苛立たしげな視線を向ける。
「……!」
「……ああ、すまない」
三日月の言葉と視線で、ようやく我に返った2人は慌てて三日月へと視線を戻した。
「ベカスと影麟はどこ?」
「それは……」
三日月の問いにシヴァージは、まずアランバハ侵攻作戦で敗れたことを伝え、それからベカスと影麟は敗走する自分たちの為に殿となって一挙に敵の追撃を引き受け、敵の大部隊の中に呑み込まれてしまった……ということを伝えた。
「ん……そっか」
シヴァージから説明を受けている間、三日月は立ったままナツメヤシの実を次から次へと口にしていた。怒られたら止めようと思っていた三日月だったが、結局……シヴァージが話し終えるまで、誰1人として三日月の行儀の悪さを指摘する者はいなかった。
「じゃあ、まだ2人は生きているかもしれないんだよね」
「しかし、敵の数はBMだけでも優に200を超えていた。あのような大部隊を相手に……いくら極東武帝の弟子とはいえ、たったの2人で抑え切るなど不可能……」
「じゃあ聞くけどさ……」
三日月はナツメヤシの実を飲み込んで続ける。
「ベカスと影麟が死んだところ、見たの?」
「しかし、あの数を相手にしては……」
「見たの?」
「…………いや、見ていない」
シヴァージは念のために隣に待機していた親衛隊の1人に聞いてみると、自分もそのような話は聞いていない……という答えが返ってきた。
そもそもカピラ陣営は逃げることに精一杯で、殆どの兵士たちが自分達の背中を守る2人のことなど知る由もなかった……というのが現状だった。
「ベカス達は生きてるよ、じゃあ……ベカス達が帰ってくるまでこれは俺が預かっておくから」
シヴァージと親衛隊のやり取りを聞いていた三日月は、ポケットにルビーの袋を押し込んで、代わりにナツメヤシの袋を取り出した。
「あるのか? ベカス殿が生きているという確証が!」
「確証はないよ」
そう言って、袋の中から2粒の実を取り出した。
「でも、あの2人は……」
三日月が言葉を続けようとした時だった……
「……!」
その時、三日月は自分の目先に一筋のスパークが走るのを感じた。そして、背後から漂ってきた強烈な気配に振り返り、懐の拳銃に手をかけた。
三日月の足元にナツメヤシの実が落ちる。
「何を……?」
女王の前で突然銃を取り出そうとする三日月の凶行に戸惑ったシヴァージだったが、三日月の向いた先……謁見の間の入口から何者かが来るのを見て止まった。
その人物は、シャラナ姫の近衛兵だった。彼は慌てたように一礼し、急ぎ足でシャラナ姫の元へ近寄ると、王女の耳元で何かを囁いた。
「…………」
その間も三日月の視線は入口へと向けられている。
「何ですって!?」
近衛兵の言葉に、シャラナ姫が驚いた様子を見せた時だった。ブーツの底が床を叩く時に生じる高い音を響かせながら、それは暗闇の中から謁見の間へと姿を現した。
「…………」
臨戦態勢に入った三日月は、懐の拳銃をいつでも抜くことができる姿勢で、その人物の一挙一動をジッと見つめた。
「…………」
それは黒髪の東方人女性だった。
静かな美を感じさせる顔立ち、黒いスーツにも似た装束に身を包み、腰に一本の刀を差し、その瞳は三日月のポケットに押し込まれたルビーよりも神々しい輝きを放っている。
「…………」
「…………」
黒髪の女性は刀に手を当て、一言も喋ることなく三日月のことを凝視し、謁見の間を進む……そしめ、2人はお互いの姿がハッキリ見える距離まで接近した。
それだけで、謁見の間の空気が一瞬にして凍りついてしまった。三日月の放つ荒々しい獣のようなオーラと、女性の放つ刃よりも鋭い雰囲気が空中でぶつかり合い、まるで空中に巨大な斥力を発生させているかのようだった。
これには親衛隊たちも近づくことは出来なかった
「アンタ……誰?」
先に口を開いたのは三日月だった。
「…………朧」
三日月の問いかけに、黒髪の女性は短くそう答えた。
「朧……! まさか、極東最強の剣!?」
その名前を聞いて、シヴァージは驚愕した。
「剣……」
シヴァージの言葉に、三日月の視線が朧と名乗る女性が持つ剣へ吸い寄せられた。朧の腕の中で僅かに引き抜かれ、紅い刀身が露わになっている剣に、三日月の瞳の色が写り込んだ。
「その人は敵ではないよ、三日月君」
「…………!」
突如として響き渡った声に、三日月はピクリと反応した。見ると、暗い通路の向こう側からゆっくりと、謁見の間へ立ち入ろうとする1つの影があった。
それはダスターコートを着た男だった。
端正な顔立ち、貴族のような佇まい。彼はまるで目を瞑っているかのように目を細めて、顔に薄笑いを浮かべた。
「赤い人? なんでここに?」
三日月はその人物に見覚えがあった。この人物こそ、三日月にファントムの出現情報をリークし、探索からの帰還後に酒場で落ち合うことを提案した情報提供者だった。
「何、君がここにいると聞いたものでね。それに、こちらもシャラナ姫には大事な用があってだね、もののついでというわけだよ」
男性は朧の隣に立ち、彼女と三日月の間に手を差し入れ、双方に制止するよう求めた。
「…………」
彼のそんな指示に、朧は剣から手を離し三日月から一歩退いた。それを確認してから男性は女王へと向き直り、彼女の前で膝をついた。
「護衛の失礼な行為と突然の無礼をお許し願います、王女」
そう言って男性はシャラナ姫に謝罪した。
護衛と聞いて、三日月は懐の拳銃から手を離す。
「アランバハで敗北し、人手不足ながらも警戒厳重となってしまったこの状況下でスムーズに貴女様とお会いになる為には、このような手段を使わざるを得なかったのです」
「このような手段……あなた、まさか……!」
男性の言葉に、シャラナ姫は最悪の事態を考えた。それと同時に親衛隊たちの中にざわめきが生じる……それに対し、男性は小さく手を振って否定を示した。
「ご安心を、彼女は誰も殺してはいません。ただ、騒ぎになっては困るので、出くわした兵士たちには少しの間だけ、眠ってもらっただけですので」
男性はニヤリと笑った。
「……そ、そうですか」
シャラナ姫は安心したように息を吐き……それから眉間にしわを寄せ、目の前に佇む男性と、その隣で無言を貫いている朧を見つめた。
「極東最強の剣を護衛にするなんて……閣下は一体……?」
「私はオスカー……しがない商人でございます。以後お見知り置きを……」
男性は立ち上がり、恭しく頭を下げた。
「此度は、貴女様との取引の為に伺いました」
「取引……?」
「そうです。私には、貴女様を苦境から救い出す為の策があります」
シャラナ姫はオスカーの言葉を聞いて驚いた様子を見せた。しかし、すぐさま平静を取り戻すと、オスカーへと聞き返した。
「オスカー殿、それは一体……?」
「はい、それはですね……」
オスカーの提案を要約すると、こうだった。
シャラナ姫の窮地を救うべく、チュゼールの南方を治めるカリンガ藩王が、とある条件と引き換えにして軍隊の派遣を実行するとのことだった。
南方の裕福な藩王が味方につけば、まだブラーフマと互角に渡り合える可能性はあった。しかし、シャラナ姫にとってはその条件に問題があった。
カリンガ藩王の出した条件、それはシャラナ姫を自らの長子であるヴァーユの妃として迎えることだった。それにより、内戦終結後に自身の息子がチュゼールの王として君臨するための根回しをしようとしていた。
しかし、ヴァーユは典型的なドラ息子として有名だった。権力を盾に弱者を弾圧し、贅の限りを尽くし、時には違法薬物に手を染める。庶民からすれば良い結婚相手なのだろうが、彼のことを嫌う王女にしてみては、ヴァーユがチュゼール王になるよりは、王としての器はまだブラーフマの方にあるのではないかと思えてならなかった。……最も、どちらにしろ許してはならないのだが
「それが、カリンガ藩王からの伝言でございます」
「……そうですか」
「いやならそれで結構……私は……」
「いえ……」
シャラナ姫の心は凍りついていた。しかし、いくらヴァーユの素行に問題があるとはいえ、父親を殺害したブラーフマが王になるよりは遥かにマシだと、王女は少し躊躇ったように小声で続けた。
「少しだけ考えさせてください」
そう言ってシャラナは玉座から立ち上がった。
「大丈夫……そう長くは、待たせないわ……」
近衛兵に支えられるようにして、ヨロヨロとその場から立ち去ろうと足を進め……
「お待ち下さいませ」
オスカーの言葉にシャラナ姫の足が止まる。
「貴女様がお嫌ならこの提案、断ってもよろしいかと。私はそのことをカリンガ藩王にお伝え致しますので」
「だから、長くは待たせないと……」
「失礼ながら、誰が策は1つだけと言ったのでしょうか?」
「え……?」
それまで、オスカーが自分のことを急かしているのだとばかり思い込んでいたシャラナ姫は、驚いた様子で振り返った。
「お話は最後までお聞き下さいませ」
そんなシャラナ姫に、オスカーはゆっくりと続ける。
「貴女様もご存知の通り、カリンガ藩王は貴女様を自らの長子であるヴァーユに娶らせることで、ゆくゆくは彼がチュゼールの王になることを画策しております。しかしながら、私にはヴァーユがこの広大なチュゼールを統べる王となるに相応しい存在であるかと問われると、ノーと言わざるを得ません」
オスカーはシャラナ姫をジッと見つめた。
「彼にはこのチュゼールをまとめ上げるだけの力はない。それは誰の目から見ても明らかです。仮に貴女様がこの条件を呑み、内戦が終結し、ヴァーユがチュゼールの王になったとします。しかし、ヴァーユのような弱き王の存在は、第2第3のブラーフマを生み出し、新たなる内戦の火種となるでしょう」
オスカーの言葉には説得力があった。
ブラーフマがチュゼール王を殺害したことから端を発したこの内戦は、そもそもブラーフマが強すぎたことが原因とされていた。
強い臣下を持つことは悪いことではない。しかし、それらを従える王に彼らの上に立てるだけの器量がなければ、それは臣下たちの顰蹙を買い、力関係は瞬く間に瓦解し、下克上が発生してしまう。
王が臣下たちの力量を見定めている時、臣下たちもまた王が自らが仕えるに値するかどうか見定めているのだ。
「そこで、我々の出番です」
オスカーは大きく両腕を広げた。
「我々は、貴女様にお力添えをする用意があります」
シャラナ姫はチラリと朧を見た。
「たった1人の戦士では今の状況を……」
「いえ、戦士は1人ではありません」
オスカーの瞳が怪しい光を放った。
「この地で第2第3の内戦が勃発することは、我々にとっても都合の悪い事態と言えます。我々が掲げる大いなる目的の為に、我々はこのようなところで足踏みをするわけにはいかないのです。その為ならば、我が主人は惜しみなく戦士を遣わせることでしょう」
「我々……? 大いなる目的……?」
オスカーの言葉に、シャラナ姫は眉をひそめた。
「閣下は、貴殿は一体……?」
「これはあまり公にはできないことでして……失礼ながら、お耳を拝借してもよろしいでしょうか?」
「……いいわ、来て」
シャラナ姫が周りの親衛隊たちを下がらせると、オスカーは彼女の元へ近寄り、小さな声でそっと耳打ちをした。
「我々は…………です」
「まさか! 貴殿はその一員だと言うのですか!?」
「はい。ですが、力を貸すのは我々だけではありません。ここにいる彼……三日月君も、貴女様が頼みさえすれば喜んで力を貸すことになりましょう」
そう言って、オスカーは三日月を示した。
「は?」
オスカーとシャラ姫の会話を聞き流しながら、床に落としたナツメヤシを食べようか悩んでいた三日月は、突然名指しで呼ばれて顔を上げた。
「赤い人? アンタ何言ってんの?」
怪訝そうな表情を浮かべる三日月に、オスカーはフッと微笑みかけた。
「三日月君、私の与えた情報は役に立っただろう?」
「なんでそれ知ってんの?」
「何、私にはいくつか情報のツテがあってだね。何なら、君がクレーターの中からファントムの左腕を見つけ出したことも知っているさ」
「それで?」
「ファントムの腕は解析に回され、いずれ君にとって有益な情報をもたらすことになるだろう。では、発見の元となった情報を君に提供した情報提供者に何らかの見返りがあってもいいのではないかと思ってね?」
「遠回しに言わなくても分かるよ。つまり、俺に戦争の手伝いをして欲しいってことなんでしょ?」
「そういうことだ。私に協力してくれたらファントムに関する情報は最優先で君に回すことにしよう。そうそう……ベカス君と影麟君の行方も同様にね」
「へぇ……何でも知ってるんだね」
三日月は床に落ちたナツメヤシの実を勿体なさそうにしながらもポケットにしまい、反対側のポケットから新しいナツメヤシの実を取り出して口にした。
「いいよ。やる」
「ま、待て!」
オスカーの提案にあっさりと頷いた三日月に、シヴァージが慌てて反応した。
「彼はまだ……子供ではないか! 子供に戦争をさせるなど……」
「シヴァージ殿、彼をただの子供と侮ってはなりません。彼の実力は、我が主人も注目するほどのものです……朧君、君も同意見だろう?」
オスカーは三日月の後ろに立つ朧を流し見た。
「…………三日月」
「うん、そうだけど」
朧は目の前の三日月を見つめた後……
「ああ、そうだな……彼は強い」
それだけ言って、三日月から目を逸らした。
「……?」
朧が目を逸らした一瞬のうちに、三日月は彼女の瞳に何か温かいものが映り込んだのを感じた。まるで何かを懐かしむような、三日月のことを親しい者と重ね合わせたような……そんな感覚。
「剣聖殿のお墨付きを得た所で、シャラナ姫……我々の協力を受け入れるか否か、ご決断のほどをよろしくお願い致します」
「その前に1つだけ、聞かせてください」
「……なんなりと」
シャラナ姫はオスカーへ強い視線を向けた。
「貴殿は、これを取引と仰いましたよね」
「はい」
「では、そちらが戦力を提供するとして……貴殿らは私たちに、一体何を求めているのですか?」
「ふむ……」
オスカーはニヤリと笑った。
「資源ですか? 領土ですか? 何らかの利権ですか? それとも、チュゼールにおける政治的な発言権や決定権ですか?」
「いいえ、姫様。我々がチュゼールに求めているのはそのようなものではありません……」
オスカーは少しだけ間を置いてから、続けた。
「我々が求めているもの……それは即ち、我々に対する信頼です」
「信頼……?」
オスカーの言葉に、朧とその近くで淡々とナツメヤシの実を食べる三日月以外の全ての人間が驚愕した。
「金や領土など、実体のあるものではなく……?」
「ええ」
「私たちの政治にも口を出さないと?」
「そうです」
「とすると貴殿らは、実質的になんの見返りがないにも関わらず、私たちに協力したいとでも言いたいのですか!?」
「その通りです」
オスカーはハッキリと言い切った。
「そんな馬鹿な……姫様!」
それまで、黙ってオスカーの言葉に耳を傾けていたシヴァージだったが、ついに耐えきれなくなったのか声を上げた。
「この者は何かがおかしい! この状況下で戦力を提供しようとするだけでなく、その対価が信頼? あまりにも話しが美味すぎます!」
シヴァージはオスカーのすまし顔を指差した。
「言え! お前たちの目的は! お前はこのチュゼールで何をしようと言うのだ? 一体、何を企んでいると言うのか!」
「シヴァージ殿、私は……いえ、我々は別にチュゼールでどうこうすると言うつもりは一切ございません。ただ、この取引は我々の崇高な理想を実現させる為に必要なことなのです」
「崇高な理想だと……? なんだ! それは!」
「『オペレーション・アイアンブラッド』……」
「何……?」
その時、光の加減のせいだろうか?
ゆらり……と、
オスカーの背後に怪しい影が浮かび上がった。
「全ては、あのお方が目指す未来を実現させる為に。世界を破壊し、そして全てを作り変える……今は、私の口からはそれだけしかお伝えすることができません」
「世界を破壊だと……!」
シヴァージの顔に一筋の汗が流れた。
「お前たちはテロリストにでもなるつもりか!」
「そうお呼びして貰って結構でございます。今の我々は、まず間違いなく世界の敵ですので」
シヴァージはシャラナ姫へと振り返った。
「姫様! やはりこの男は怪しい! このような妄言を放つ者の言うことなど……」
シヴァージが尚も反対意見を述べようとした時だった
ビー! ビー! ビー!
突然、場内の至る所からけたたましい警報音が鳴り響くと共に、謁見の間の天井に備え付けられたランプが赤く点滅した。
「なんだ!?」
『緊急警報発令!』
シヴァージが驚いて見上げると、壁話に備え付けられたスピーカーから、兵士の慌てたような声が響き渡った。
『敵軍襲来! 繰り返す! 敵軍襲来!』
その場にいた者たちはすぐに動き始めた。シヴァージは状況を確認するべく司令所へ問い合わせを行い、シャラナ姫は親衛隊の制止を振り切ってバルコニーへと飛び出した。
三日月たちもシャラナ姫の後に続いてバルコニーに向かった。
「あっ……!」
シャラナ姫は短い悲鳴を上げた。
「敵が……もうこんな近くに……?」
バルコニーの手すりから身を乗り出し、カピラ城を囲む壁のすぐ向こう側を目視したシャラナ姫の表情が絶望に染まった。なぜなら、壁のすぐ向こうに側に敵の大群が押し寄せていたからだ。
陸上戦艦1隻、その他陸上艦艇4隻、その周囲に展開された200を超える大量のBM及び装甲車。それらから放たれる無数の光が、夜の地上を明るく照らし出していた。
「ほう、これはまた大群で……」
バルコニーの端に移動し、オスカーは軍勢を見渡した。
しかし、その顔には余裕さえ伺える。
「あれ全部敵なんだ、そっか」
「…………」
余裕の表情を浮かべているのはオスカーだけではなかった。オスカーの隣に並ぶ三日月も、相変わらずナツメヤシを片手にどこか興味なさげな表情を浮かべ、朧に関しても、大部隊を見ても顔色一つ変えなかった。
「馬鹿な! 監視所は何をやっていた!?」
シヴァージは壁に備え付けられたモニターで壁外の様子を確認しつつ、内線を通じて司令所へ抗議した。
『それが、人手不足で……』
「くっ、何ということだ……!」
舌打ちをして通信を切り、バルコニーへと走った。そして、バルコニーから目の前に迫りつつある大群へ一瞥を送りつつ、震えを隠せずにいるシャラナ姫の腕を掴んだ。
「姫様! ここは危険です、お逃げください!」
「この状況下で、どこへ逃げろというのですか!」
シャラナ姫を避難させようと彼女の腕を引き寄せるシヴァージだったが、しかし、シャラナ姫は手すりに捕まって動こうとしない。
「とにかくお下がりください!」
「待って……あっ! アレは一体何をしているの?」
驚きのあまり敵の軍勢から目を離せなくなってしまっていたシャラナ姫だったが、シヴァージに腕を引かれたことによって、その視線が奥側の軍勢から外れ、壁外のさらに手前側にいる小規模なBM部隊へと止まった。
「……なんだ……?」
シャラナ姫がそれを必死に指し示すと、シヴァージもそれに気づいたのか、シャラナ姫の腕を離して壁外の手前を見つめた。
それは3機編成のBM小隊だった。
ブラーフマの率いる反乱軍が使うBMは主に日ノ丸や極東製のゴツゴツとした印象を受ける機体がその殆どを占めていたのだが、手前側にいるBM小隊が運用している機体はヴァルハラ製のスマートな機体……バルキリーのカスタムタイプだった。
赤いバルキリーを先頭に、青色と黒色のバルキリーがその後に続いている。
「バルキリー? 反乱軍の機体にしては珍しいな」
それを見て、シヴァージは思わず呟く
「え? テッサ?」
それを聞いて、三日月は思わずシヴァージの視線を追った。テッサの使っている機体がバルキリーと呼ばれるものであることと、近いうちにテッサたちがチュゼール入りするという話を葵博士から聞いていたからである。
「違うか」
だが、そこにいたバルキリーが自分のよく知るバルキリーではないことに即座に気がつき、三日月の興味は一瞬で失われた。
「三日月君、どうしたのかね?」
オスカーは三日月をチラリと見つめた。
「ん……ただの人違い……いや、機体違い……?」
「ああ。まあ、そういう事もあるさ」
「赤い人もそういうの、よくあるの?」
「ふむ……そうだな。いや、私はそれほどでもないな」
「ふーん、そっか」
「ところで、三日月君」
「何?」
「どうして君は、私のことを『赤い人』と呼ぶのかね?」
「え? だって…………あれ?」
三日月はそこで改めてオスカーを見て……そして、何かに気づいた様子を見せると、自分の発言に対して疑問符を浮かべた。
「え? 俺……なんでアンタのこと、赤い人って呼んでるんだろ?」
混乱した様子の三日月に、オスカーは小さく笑った。
「フフフ……どうやら君は、殆どの人には見えていない何かが見えているのかもしれないな。人の外見に惑わされることなく、その本質を見抜く力というべきか……」
「……よく分からないけど。じゃあ、これからアンタのことなんて呼べばいい?」
「いや、今まで通り『赤い人』で結構だ」
「そっか、分かった……で、そっちの人は……」
そう言って、三日月は朧を見つめた。
「……私か?」
「うん」
三日月に見つめられ、朧は気まずそうに髪をいじった。
「あだ名をつけられるほど親しくなった覚えはないが……」
「人の名前って覚えにくい。だから、アンタは家族想いの人ね」
「……! なぜそれを……!?」
『家族想いの人』と呼ばれ、朧は驚いたように三日月を見つめた。てっきり無難に『剣の人』とでも呼ばれると思っていたため、その驚きは更に高まった。
これに関して、三日月はA.C.E.学園で出会った佐々木光子に対して既に『剣の人』と名付けており、光子との被りを避けるために除外し、それ以外の彼女に対するイメージから思いついた名前がそれだった。
「え? 何となくだけど……違った?」
「いや、間違っては……いないが……」
朧は何か言いたそうな表情を浮かべるも、結局何もいうことができず引き下がることしかできなかった。それを見て、オスカーは高らかに笑った。
「ははは! 朧君、どうやら彼は本物のようだね」
「……そうですね」
小さく同意して、朧はため息をついた。
「??」
3人が呑気な会話を繰り広げている一方で、シヴァージらカピラ陣営の人々は違っていた。三日月の後ろでは親衛隊たちが慌ただしく動き回り、集結している敵戦力の把握に努め、そこからカピラ城防衛の為に必要な戦力について内線を用いて司令所と議論を交わしていた。
だが、アランバハの戦いで疲弊しきったカピラ陣営には、最早カピラ城を防衛することができるだけの戦力など、あるはずもなかった。
「あのバルキリー……一体何をしているんだ?」
双眼鏡を手に、バルコニーから謎のバルキリー部隊を観察していたシヴァージが呟いた。三日月がチラリとそこへ目をやると……3機のバルキリーの内、先頭の赤いバルキリーが腰部のハードポイントに装備したそれを突然引き抜くと、高らかに掲げ上げた。
『これがブラーフマに背いた罰だ!』
バルキリーのスピーカーからパイロットのものと思わしき女性の声が響き渡った。拡張された声は外壁を通り越し、カピラ城のバルコニーからもしっかりと聞き取ることができた。
赤いバルキリーが掲げたもの、それはボロボロの黒い旗だった。金色の刺繍は煤でみずほらしく汚染されていたものの、辛うじて『極東武帝』という言葉は読み取ることができた。
また、旗の先端には白いライフル銃のようなものが取り付けられており、一見するとそれは旗の上に取り付けられた髑髏のようであった。
『投降しな! シャラナ王女! 極東武帝でもアンタを救うことはムリだった!』
「降伏勧告だと? しかし、アレは……」
シヴァージはバルキリーの掲げた旗を見つめ、唇を噛んだ。
「まさか、極東武帝の……旗……?」
バルキリーの持つそれを見て、シャラナ姫の顔が真っ青になった。「やはり……彼らは……」何度見返しても、それがよく知る極東武帝の旗であることに変わりないことに気がつき、シャラナ姫はバルコニーの床に崩れ落ちてしまった。
「あれって……ベカスの……?」
旗を見てシヴァージを始めとするカピラの者たちが言葉を失っている中、三日月の注目は別のところに向けられていた。
それは、旗の先端に取り付けられたライフル銃だった。三日月は、そのライフル銃がベカスの愛機であるウァサゴの主砲であることを記憶していた。そして、そのライフル銃が敵の手にあるということは、即ち……
「ベカスが……死んだ?」
その瞬間、三日月の瞳孔が開いた。
それからしばらくの間、夜空を仰ぎ見ていた三日月だったが、ふと我に帰り、ポケットからナツメヤシの実を取り出して口にした。
「やはりそうか……」
その時、オスカーからアランバハ侵攻作戦での出来事について一通りのことを聞かされていた朧は、予想通りだと言いつつも、残念そうな表情を浮かべた。
『アイツは確かに強かった! だけど、傭兵会社G.O.E.に所属するアタシらローズトライスターと、アランバハ守備隊の敵じゃあなかった!』
赤いバルキリーのパイロット、ミアは高らかに名乗りを上げた。G.O.E.に所属するローズトライスターは強者として広く知られている小隊であり、ミアは極東武帝の戦死と自らの小隊が持つネームバリューによる示威効果で、王女に早々と投降することを迫っていた。
その効果はあったようで、シヴァージを始めとするカピラの兵士たちは皆、ローズトライスターが敵に回ったと知るや否や一同に青ざめた表情を浮かべた。
「ほう、ローズトライスターか」
ミアの言葉を聞いて、オスカーは腕を組んだ。
「強いの、アイツら?」
そんなオスカーに、三日月は横から尋ねた。
「ああ。傭兵会社G.O.E.の顔を務めることもある彼女たちは、皆傭兵としての腕前は一流と言っても過言ではない。特性の違う3機のバルキリーによる、全距離に対応した連携攻撃には定評があってだね……なるほど、彼女たちならばベカス君たちが負けるのも無理はないのかもしれないな?」
「ふーん、そっか」
オスカーの言葉を聞いた三日月は、そこで何を思ったのかバルコニーの手すりに手を置くと、跳躍して手すりの上へと飛び乗った。
「む……どうする気かね、三日月君?」
「ちょっと……確かめてくる」
そう言って、三日月は下を眺めた。
バルコニーからは壁に向かって大きく広がる城下町を見ることができたが、同時に身がすくむような高さでもあった。
吹き付ける風が三日月の体を危なげなく揺らす。
「な……っ、何をしているのだ!?」
手すりの上に絶妙なバランス感覚で佇む三日月の姿を見て、シヴァージはヒヤリとするものを感じた。
「そこは危険だ……! 早く降りなさい!」
「それじゃあ、行ってくる」
慌てるシヴァージとは裏腹に、三日月は淡々とした口調でそう告げると……次の瞬間、三日月は何の躊躇いもなくバルキリーの手すりから身を投げ出した。
「なっ……!」
それに気づいたシヴァージが即座に駆け寄るも、既に三日月の体は空中にあり、重力に従って彼は真っ逆さまに落下していった。
カピラ城の壁面に接触してしまうギリギリのところを、三日月は猛スピードで落下し続ける。
「来い……バルバトス!」
そして、三日月がその言葉を呟くと……
ドォン……!
次の瞬間、轟音と共に三日月の真下……カピラ城の地面が割れたかと思うと、そこから巨大な白い影が飛び出し、落下中の三日月の元へと跳躍した。
白い影……バルバトスは、まるで意思を持っているかのように空中で三日月を捕まえると、彼を自身のコックピットの中へと誘った。
そして、阿頼耶識システムにより三日月とバルバトスが物理的な繋がりを持つと、バルバトスのツインアイが強い輝きを放った。
「さあ、行こう……!」
垂直に落下するバルバトスを、三日月はスラスターを用いてバランスを取りつつ水平にさせ……次の瞬間、バルバトスの巨大な足が、カピラ城の壁面を蹴った。
ーーーーー
「あー、繰り返す! シャラナ姫、アンタはもう終わりさ!」
ミアによる投降の呼びかけは依然として続けられていた。
「アランバハで大敗を喫したアンタらに、これだけの戦力から身を守るだけの力なんてものがないっていうのはお見通しさ! それに、弱っちいアンタに救いの手を差し伸べる奴なんて誰もいない! 大人しく我々に投降して、カピラ城を明け渡しちまいな!」
さもなくば……ミアはそこで旗を地面に放り投げ、そこに向かって銃撃を行った。それにより、極東武帝の文字は悉く引き裂かれ、ただでさえボロボロだった旗は最早原型をなくした。
「見ろ、アンタらの運命はこの旗と一緒さ! そうなりたくなければ大人しくこちら側の指示に従って貰おうか! 回答期限は……そうだな」
ミアは少しだけ考えた後……
「30分だけ猶予を与える!」
そう言って、3本指を出して示した。
「ちょっとミア〜、それは短すぎでしょ?」
「そうだよ、もう少し待ってあげても……」
先程からミアの降伏勧告を聞いていたアリスとルルが口を挟んだ。アリスの乗る青いバルキリーはミアから見て右側に、ルルの乗る黒いバルキリーは左側に展開している。
「30分を超えても友好的な回答が得られなかった場合……ちょっと! 今いいところなんだから邪魔しないでよね。大丈夫〜全部アタシに任せなって〜」
ミアはバルキリーで肩をすくめるような仕草をし、2人へ視線を送った。それに対して、2人は「やれやれ」と言いたそうにため息を吐くのだった。
「さて……」
ミアはタイマーを30分にセットし、カピラ城を見やった。
「30分を超えても友好的な回答が得られなかった場合、もしくはそちらに投降の意思がないと判断された場合、こちらは一斉攻撃を開……」
しかし、ミアの言葉は途中で打ち切られた。
……ドン!
突然、3人の目の前で爆発が生じた。
正確に言えば、カピラ城を囲む巨大な壁の一部が何の前触れもなく崩壊した。
「……なっ!?」
3人が驚愕したのもつかの間……
爆発によって生じた土煙の中から、黒く刺々しい巨大な鉄柱を持つ何かが姿を現した……かと思うと、それは土煙の中でモスグリーン色のツインアイを発光させ、3人の姿を視界に捉えた。
キイィィィィィィィィィィィィンンンン……
ローズトライスターの3人は、壁を突き破って飛び出してきたそれが、白い人型兵器だと認識することすら出来なかった。
次の瞬間、それはブースターを吹かし、地面スレスレを超低空飛行で移動すると一瞬にしてローズトライスターへと迫った。
白い人型兵器……三日月の操るバルバトスは、邪魔な壁を破壊したことでボロボロになったメイスを捨てると、どこからともなくレンチメイスを取り出し空中で構えた。
そして……
「……る?」
ミアの左側にいた黒いバルキリーのパイロット……ルルは、目の前に迫り来るバルバトスと巨大な鉄の塊に反応することすら出来ず、疑問符を浮かべた。
次の瞬間、黒いバルキリーの真正面へ降り立ったバルバトスは、レンチメイスによるフルスイングを実行した。
結果、それは黒いバルキリーの右腕部を押し潰し、腰部へと直撃……圧倒的な質量の衝突によって生じた衝撃により、黒いバルキリーの体は空中で真っ二つに引き裂かれ、その上半身は100メートル近い距離を転がった。
上半身は地面を転がる過程で頭部と両肩にさらに甚大な被害を受けたものの、コックピットブロックだけは辛うじて原型を留めていた。
これはバルキリーの持つ高い防御性能のお陰だったのだが、もしもルルが搭乗していたのが別の機体であったのならば、まず間違いなく彼女の命はなかったことだろう。
「…………え?」
ミアは自分の仲間かやられたことで、ようやく状況を理解することができた。呆然とした様子で、つい先ほどまでルルがいた場所へ視線を送ると……
「まず、1つ」
バルバトスのツインアイが、ミアのバルキリーを捉えた。
バルキリーとバルバトスの視線が交錯する。
未だショックから立ち直れずにいるミアに対し、三日月はレンチメイスを突き出した。恐竜を思わせるレンチメイスの巨大な顎が、バルキリーの左肩をキッチリと咥え込んだ。
「アウっ!」
ミアは悲鳴をあげた。
「このッッッ、ミアを放せ!」
アリスはレンチメイスで拘束されているミアを救出すべく、青いバルキリーを突撃させた。そして、エンジンドリルの先端をバルバトスに向け……
「よっと」
しかし、エンジンドリルがバルバトスの装甲を直撃しようとしたところで、三日月はレンチメイスを振り回して迎撃を行った。
「な!? うわあぁぁぁぁ!」
結果、ミアのバルキリーがレンチメイスに拘束されていたこともあって、2機のバルキリーは機体を激しくぶつけ合って、双方共に大きく損傷した。
アリスのバルキリーは制御を失って転倒、ミアのバルキリーも同様に転倒しかけるも、バルキリーの左肩に食い込んだレンチメイスがそれを妨げた。
「ねぇ」
三日月はバルキリーを引き寄せると、パイロットであるミアに声をかけた。
「…………?」
軽く脳震盪を起こしかけているミアは、朦朧とする意識の中でその言葉を聞いた。
「さっきの言葉……アレ、嘘でしょ?」
「…………?」
「えっと……さっきの、極東武帝が死んだとかって言う話……それと、あの銃の持ち主も生きてるんでしょ?」
「…………!」
朽ち果てた旗の先端に取り付けられたライフル銃を指差して三日月が指摘すると、ミアは明らかに動揺した。
「やっぱり、そうだったんだ」
ミアが放った息を呑む気配をスピーカー越しに感じ取った三日月は、そこで確信を得たのかその表情を僅かに明るくした。
「なぜ……」
「ん?」
「なんで、分かったの……?」
「何となくだけど……まあ……」
三日月は一度バルキリーから目を離し、少し考える素ぶりを見せた後……
「アンタら、大して強くないから」
淡々とした目つきでバルキリーを見下ろした。
「なん……だと……?」
「アンタらじゃ、あの2人は倒せない……そう思ったから」
三日月は、大切な人を失った者だけが発揮することのできる『強さ』を知っていた。それはオルガ・イツカを始めとする何人もの『家族』と呼べる存在を喪った過去を持つ自分自身の経験からくるものであり……また、三日月の周囲には自分自身と同じような状況に立たされた人物が数多く存在していた。
幼い頃に、最愛の母親を亡くしたテッサもその内の1人だった。そんな人々を長きにわたって見続けてきた三日月は、彼ら彼女らが心に宿す強い意志が、やがて大きな力となって結実する瞬間を見届けてきた。
それは、極東武帝と呼ばれる存在を喪ったベカスと影麟も同様だった。2人とも、極東武帝とは血縁関係こそないものの……三日月は2人の瞳に映る強い意志を感じ取っていた。
カピラ陣営によるアランバハ侵攻作戦の前日……
夜、2人が修行していたあの瞬間……
影ながらそれを見守っていた三日月は、彼らの中に存在する強い意志が、新たなる力として現れた瞬間を目撃していた。
だからこそ、三日月は確信していた。
例え無数の敵に囲まれようとも……、例えローズトライスターのような、それなりに強い者たちと交戦しようとも……
あの2人が、こんなところで終わるはずがない、と
「だからさ……」
レンチメイスの内側に仕込まれたチェーンソーが起動し、甲高い音(まるで歯医者で歯を削られる時のような不快な音)と共にバルキリーの左肩を切断していく
「教えてくれて、ありがと」
皮肉とも取れる三日月の感謝の言葉は、しかし自らの操るレンチメイスから発せられる高音によって遮られ、ミアに届くことはなかった。
胴体と左肩が分断されることでレンチメイスの脅威から解放されたバルキリーは、ゆっくりと地面に崩れ落ちた。武装を喪失し、パイロットであるミア自身も戦闘のダメージで既に気を失っており、最早これ以上の戦闘継続は困難だった。
「お前! よくも2人を!」
しかし、アリスはまだ生きていた。
制御不能から回復すると、バルバトスに向き直ってドリルを回転させ始めた。しかし、アリスの駆る青いバルキリーは先ほどのバルキリー同士の衝突により深刻な損傷を受けており、特に左半身のダメージは深刻で、左腕が完全に動かなくなってしまった他、肩部のミサイルが使用不能になっていた。
「……なんだ、まだ生きてたんだ」
「死ね! このクソ野郎!」
アリスは右肩のミサイルを斉射した。
三日月がそれをレンチメイスで叩き落とすと、ミサイルの弾頭部分に内蔵されたフレアーによる爆炎が周囲を満たし、三日月の視界を奪った。
「今度こそ!」
アリスはバルバトスの大体の位置を特定すると、バルキリーをブーストさせ、爆炎の中めがけてエンジンドリルによる刺突を繰り出した。
「なに……!?」
しかし、アリスの攻撃は空を切るに終わった。バルバトスがいると思われていたその場所には、何もいなかった。
「いない!? どこ……!?」
アリスはバルバトスを探して爆炎の中を見回すも、それらしき影は一向に見当たらない。このまま爆炎の中にいることは危険だと判断したアリスは、機体を後方へと跳躍させ……
「見つけた!」
「な!? うわぁぁぁぁぁぁぁあ!!!」
アリスが跳躍した先には、三日月の操るバルバトスが待ち構えていた。その腕には顎の開いたレンチメイスが握られており、バルキリーは背後から巨大な開閉機構に食いつかれ、捕縛されてしまった。
「クソッ! クソッッッ! 離せ! この卑怯者め」
「卑怯者……?」
罵声と共に振り回されるドリルに注意しながら、三日月はレンチメイスを片手で引き寄せると、青いバルキリーの頭部にもう片方の手を置いた。
「で……? それが何?」
そして、バルキリーの頭部を手で掴むと……そのまま、バルキリーの頭部を力任せに引きちぎった。何かが切断される嫌な音と共にバルキリーの頭部が胴体から引き離されると、脳幹に繋がる脊椎のごとく、電気系統の配線がその後に続いた。
その瞬間、青いバルキリーはパワーダウンを引き起こし、ゆっくりと地面に倒れ伏した。エンジンドリルの回転もやがて収束し、そして周囲は沈黙に包まれた。
「…………次」
三日月はスパークを立てるバルキリーの頭を握り潰して投げ捨てると、戦場のとある一点へと視線を送った。
そこには、照射砲やライフル砲で武装した敵部隊が展開していた。それはローズトライスターを支援するために後方に控えていた部隊で、その数は20機を超えていた。
三日月はバルバトスをブーストさせ、敵部隊へと強襲をかけた。それと同時に、敵は三日月めがけて一斉射撃を開始した。
「そんな攻撃」
三日月は前方へ進出しつつ、必要最低限に左右へのブーストを行い、ジグザグ移動で攻撃を回避する。そして……
「そこ!」
前に出ていた一機へと狙いを定めると、三日月は勢いそのままレンチメイスを振り回した。レンチメイスというただでさえ重たい得物に、ブーストによる加速を上乗せしたその一撃は、強固な装甲を持つ極東製のBMを一瞬にして粉砕せしめてみせた。
三日月の攻撃はまだ終わらない。
今度は先ほど倒した敵のすぐ近くにいる敵へ狙いを定めると、レンチメイスを突き出した。直ちに巨大な顎が敵機を捉え、内部のチェーンソーを使うまでもなく閉口すると、敵機はあっさりと圧壊し、スクラップと成り果てた。
三日月はレンチメイスを振り回し、顎の中のスクラップを他の機体へと投げつけた。それは見事に命中し、バルバトスにライフルの照準を合わせていた敵を転倒させた。
それからバルバトスを跳躍させ、転倒した敵の真上にくると、レンチメイスの先端を真下に向けて落下……スクラップに覆い被さられた形で転倒した敵を、スクラップごと押し潰した。
こうして、三日月は一瞬にして3機を撃墜した。
それに対し、敵は左右からの挟撃を敢行
しかし、その銃口がバルバトスを捉える前に……地面に突き刺したレンチメイスから手を離した三日月は、素早く両腕を広げ、腕部に搭載された機関砲を次々と放った。
攻撃は全てワンショットキルだった。
バルバトスの両腕から放たれた巨大な砲弾は、敵機の装甲を易々と貫通し、彼らに永遠の眠りを与えた。
背後から実体剣を構えて迫り来る敵は、バルバトスの背部に搭載されたサブアームで斬撃を受け止め、それから振り返りつつ強烈な肘打ちを食らわせて転倒させた後、コックピットめがけて容赦なく機関砲を撃ち込んだ。
さらに、三日月はレンチメイスで近場の敵機を捕獲したかと思うと、それを盾にして前進……敵味方識別信号の存在からか、攻撃し辛そうにしている敵のことなど御構い無しと言うように、敵のど真ん中でレンチメイスを振り回し、叩き潰し、蹴り付け、発砲し、拳を叩き込んだ。
そうして、合計25機のBM部隊は沈黙した。
「ふぅ……」
最後の敵を討ち倒し、三日月は息を吐いた。
が、そこで何やら嫌な気配を感じた三日月は、バルバトスを僅かに傾けさせた。
その直後、バルバトスの装甲を無数の曳光弾が掠めた。三日月が弾道を辿ると、そこには新たな敵BM部隊が展開しており、三日月へ銃口を向けていた。
部隊の規模は先ほどよりも大きい。BM部隊による一斉射撃が始まると、それと同時に反乱軍の最後尾に陣取っていた5隻の陸上艦船からも艦砲射撃が行われた。
「これは、避けられないか」
迫り来る弾幕を見て、そう呟いた三日月はレンチメイスを地面に突き刺し、腕を組んで防御姿勢をとった。次の瞬間、無数の銃弾が殺到し、度重なる爆炎がバルバトスを包み込んだ。
反乱軍によるバルバトスへの一点集中攻撃は実に20秒間に渡って行われた。それにより、戦場は巨大な爆煙に覆われ、厚く張った弾幕は戦場に大量の空薬莢を散乱させるという結果をもたらした。
だが、それだけの攻撃に晒されたにも関わらず
「…………ん、終わった?」
恐ろしいことに、バルバトスは健在だった。
戦場を覆い尽くしていた爆煙が晴れ、殆ど無傷の状態でその場に佇むバルバトスを目撃した兵士たちは、呆気にとられて息をするのを忘れた。
「……じゃあ、今度はこっちの番ね」
損傷したレンチメイスを回収し、死刑判決とも取れる宣告と共に、三日月が滑空砲を取り出した時だった……
「…………ん?」
三日月は、自分の目先にスパークが走るのを感じた。
しかし、先ほどの朧の時とは違って敵意はなく、三日月にとって嫌な感覚ではなかった。むしろ、それは自分にとって大いに友好的で、親しみのあるもので……
「ああ、そうだった」
そして、その正体に気がついた三日月は動きを止めた。
先程からなんの動きを見せない三日月に対し、反乱軍は徐々に距離を詰めてくる。それに対し、三日月は敵の真正面であるにも関わらず、無防備に夜空を見上げた。
「…………来た」
三日月がそんな呟きを放った瞬間……
キイィィィィィィィィィィィィンンンンンンン
深淵に包まれた夜空の中から、耳を劈くような音と共に高出力の光線が放出されたかと思うと、それは三日月へと迫る敵BM部隊の中心部に着弾……一瞬にして、部隊の約半数を消滅させた。
三日月はジッと、高出力ビームが発射された位置を見つめた。すると、間も無く空の端にキラリと光輝くものが浮かび上がったかと思うと、次の瞬間、それは三日月の真上を通過した。
暗い闇に包まれ、肉眼ではほぼ捉える事のできない高高度を超高速で駆け抜けるその姿は、まさしく流星と呼ぶに相応しい物だった。
流星は全部で3つ。編隊を組むように、それぞれ一定の距離と速度を保ちながら、赤・青・黒の軌跡を描いて深淵の中を駆け巡っている。
「なんか、綺麗だな……」
三日月がそれを眺めていると……3つの流星の内、赤色の流星が突如として編隊から離脱し、こちらへと真っ直ぐに降下してくるのが見えた。
ーーーーー
3つの流星はカピラ城からも観測されていた。
「何だ……今の光は……?」
突如として流星の中から光が放たれたかと思うと、それが迫りつつあった敵部隊を一瞬で焼き払ったことに対して、シヴァージは戸惑いの表情を浮かべた。
「シヴァージ様! 通信が入ってきました!」
その時、司令所との情報交換を行っていた通信兵が、バルコニーにいるシヴァージの元へ駆け寄ってきた。
「後にしろ!」
「いえ、それが……通信の発信源を辿ってみると、それはこのカピラ城の真上からで……」
「真上だと!? まさか……」
カピラ城の真上……つまり上空と聞いて、シヴァージは空を仰ぎ見た。まさか、流星が通信を行ってきたとでも言うのだろうか? そんなことを考えつつ、シヴァージは通信兵に聞いてみることにした。
「……読み上げろ」
「は!『こちらは、OATHカンパニー所属』……」
ーーーーー
赤い流星が猛スピードで三日月へと迫っている。
しかし、もう間も無く地面へと接触しかねないという時になって、流星は空中で姿勢を変えると、6枚のウィングで構成されるフライトユニットの全推力を下方向へと向け、減速を開始した。
ツインアイから発せられるモスグリーンの輝き
赤い軌跡が真下へと伸び、大きく翼と両腕を広げて着地のための揚力を確保しつつ、三日月の正面へゆっくりと降り立った。
6枚の巨大な翼を生やした人型機、フライトユニットから放出される赤色の推進剤も相まって、その姿はまるで、赤い十字架を背にした天使が地上へと降臨したかのようだった。
それは、ローズトライスターの隊長……ミアも使用していたヴァルハラ製、バルキリーだった。しかし、このバルキリーを構成するありとあらゆるパーツは全て高精度なものへと換装され、武装やバックパックに関してもオリジナルのものを遥かに上回る性能のものが採用され、既存のバルキリーとは最早別物と呼んでも過言ではないほどにフルカスタムが成されていた。
『オーガス小隊、戦闘二参加ス』
通信兵によって部隊名が読み上げられるのと、液体の名を冠したバルキリーが顔を上げたのは、ほぼ同時だった。
「…………」
コックピットの中には1人の少女の姿があった。
母親の忘れ形見であるルビーのネックレスを首にかけ
自身の背後に佇む、大切な人の存在を感じながら
少女は決意を胸に秘め、操縦桿を強く握りしめた。
機動戦隊アイアンブラッドサーガ
第29〜30話:『オーガス小隊』
to be continued...
いつのまにか3万字近く書いてて草
そりゃ書くのに時間かかるわけです……あと、編集のためのスクロールで指が痛いのです。
謎の人物、エイハブに関する設定はムジナの先読みが含まれているので、絶対に齟齬が起こるだろうなと思いつつ書きました。(大陸間戦争の件などで)まあ、深刻な矛盾など生じた場合にはひっそりと差し替えるので……ひっそりと
久しぶりに三日月の活躍を書くことができて楽しかったです。
次回はテッサら小隊メンバーと共にもっと暴れまわることになります。
(次回予告はお休みです)お楽しみに!
それでは、また……
アイサガで貴方の好きなキャラを教えてください。(回答はこちらではなく気軽にコメントの方へお願いします)
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境界戦機もっと流行れ
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鉄血・ブレットもっと流行れ
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水星の魔女×鉄血のオルフェンズ?
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あと、アイサガのエンディングも作ります