機動戦隊アイアンブラッドサーガー悪魔と少女と機甲ー   作:野生のムジナは語彙力がない

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お帰りなさい! 指揮官様!

お久しぶりでございます。ムジナ(略)なのです。
今回は特に報告はありません。強いて言うならばダッチーが何を血迷ったのか、アイサガ川柳なるものを募集しているようで……は?

まあまあまあ
それでは、続きをどうぞ……


第31話:証言

 

カピラ陣営に加わった三日月たちの活躍により、アランババから放たれた攻略部隊が一掃されてから数日後……

 

 

 

カピラ城外の草原、月の光が静寂な草地を照らす最中を、アランバハ陣営の隠密部隊が音もなく疾走していた。

 

日ノ丸、高橋重工製BM『飛影』

暗闇に溶け込むような黒い装甲、忍者のような印象を受けるフォルム、フレーム効果により分身の生成が可能な他、機体全体に塗装されたジャミングコートは、ステルス装置と併用することによりレーダーや赤外線捜索システムによる探知を完全に防ぐことができる。

 

ステルス装置は多くの電力をするが、短時間の移動であれば飛影の発電システムでも十分に賄うことが可能だった。また、飛影に装備されている武装は2本の実体剣・シミターのみと、電力消費の面で考えると相性も悪くなかった。

 

8機からなる飛影で構成された小隊

 

それはアイシャという名の忍者の少女が率いる暗殺部隊だった。機体の足に装着されたエアクッション装着によって、彼女たちはほぼ無音を維持したまま移動することが可能だった。

 

彼女らの目的は1つ、カピラ城の最大権力者であるシャラナ姫の暗殺だった。

 

夜の闇に溶け込んだアイシャたち暗殺者集団は、カピラ城守備隊に気づかれることなく、一機、また一機と城壁を越えていく……

 

「…………」

 

最後の飛影が城壁を越えたのを確認して、アイシャは飛影のコックピットの中で息を吐いた。これは二度と戻れない自殺行為ではない……彼女は心の中でそう呟いた。

 

(あらゆる手段を用いてターゲットへ接近、有利な状況で一撃の元に葬り去る……後は混乱に乗じて、カピラ城付近に潜伏している仲間と合流する、ただそれだけのこと)

 

アイシャは飛影のモニターを見て、彼女は無線の傍受を防ぐために全ての通信装置をカットした。これにより僚機を始めとする全ての仲間との通信が不可能となったのだが、ハンドシグナルによる意思疎通により部隊の連携は保たれたままだった。

 

アイシャが通信装置を切ったことに倣って、部下たちも一斉に通信装置を切った。ハンドシグナルにより全員の通信管制が実行されたのを確認すると、アイシャは小さく頷いた。

 

それから間もなく、アイシャたち暗殺部隊の面々はシャラナ王女のいる宮殿めがけて機体を走らせた。

 

「……いない?」

 

その道中、アイシャたちはカピラ防衛部隊の詰所をいくつも通過したが、それらは全て人っ子一人いないもぬけの殻だった。

 

宮殿に辿り着く前に交戦があることを想定していたアイシャはそれを不審に思いつつも、これ幸いにと、詰所を素通りして部隊をさらにカピラ城の奥深くへと移動させた。

 

そうして、暗殺部隊が宮殿外部の防衛ラインに到達しようとした……その時だった。

 

「……!」

 

どこからともなく飛来した高出力ビームの直撃を受け、自分のすぐ真横にいた飛影が爆発四散した。

その光景を見て、アイシャは愕然となった。

 

「スナイパー!」

 

「クソッ、どこからだ!?」

 

仲間がやられたことに気づいた暗殺部隊のパイロットたちが、他の仲間へ警戒を促すべく慌てて声を発した。

 

……いや、発してしまった。

 

「なっ?! ぐああああああああ!???」

 

次の瞬間、遥か上空から飛来したビームの火線が、先ほど声を発したパイロットたちの乗る2機の飛影を貫き、瞬く間に大破炎上させてしまった。

 

「!?」

 

……読まれていた!?

その正確無比な射撃を前に、アイシャは一歩も動くことができなかった。動いたらやられる……そんな予感さえしてくる状況に、彼女に出来ることといえば、敵の姿を探すかステルス装置のコンデションを確認するくらいなものだった。

 

しかし、飛影のステルス装置は正常に機能していた。

それは部下たちの乗る飛影も同様だった。

 

『おっと、動かないで下さいね?』

 

その時、どこからともなくおっとりとした女性の声が響き渡った。アイシャたちが声の主を探して索敵を行うと、宮殿の陰から2機のBMが姿を現し、宮殿の上空へと上昇した。

 

1機は長砲身の狙撃銃を所持した青色の機体、そしてもう1機は両腕に龍の口を思わせる巨大なプラズマキャノンを装備した黒い機体……

 

ややあって、アイシャはそれが青と黒のバルキリーであることを理解した。そして、その内の黒いバルキリーのツインアイが、ステルスを展開しているはずの自分を真っ直ぐに見下ろしていることに気づいた。

 

「見られている?」

 

「隊長! あそこにも!」

 

部下に示されるがまま、アイシャは夜空を見上げた。

 

「天使……?」

 

アイシャの視線の先には、美しい赤色の輝きを放つバルキリーの姿があった。巨大な6枚の翼を大きく広げ、月を背中に浮遊する姿は……まるで神話の一節にある、天使の降臨を思わせるほどの神秘的な光景でもあった。

 

『ふふふ〜、見えていますよ〜』

 

黒いバルキリーの外部スピーカーから再び女性の声が放たれたのを聞き、アイシャはそれがブラフではないこと瞬時に悟った。

 

(どういうこと? 私たちが使うステルス装置は最先端の工学設備ですら発見するのが難しいはず……なのに何故、隠密行動中の私たちを見つけることが出来るの……?)

 

アイシャは焦りを感じた。

彼女の持つ褐色の肌は冷や汗でびっしょり濡れている。

 

『隠れてないで、出て来てくださいよ〜』

 

「……どうやって私たちを見つけた?」

 

のほほんとしたような声に応答するべく、アイシャは機体のステルス装置を解除して外部スピーカーを起動させた。

 

『それは簡単です。こう見えても、アンチステルスは私の得意分野だったもので〜』

 

「なるほど、そういうことか。だが、解せない……何故このタイミングで私たちの襲撃があると予想していた? まさか徹夜で警備していた訳でもあるまい」

 

アイシャの問いかけに、黒いバルキリーのパイロットは小さく笑った。

 

『あなた方の持つステルス技術は素晴らしいです。使っている機体からして日ノ丸の技術を参考にしたようですが、正直に申し上げると私たちがいなければ、きっと今頃はシャラナ姫の命はなかったことでしょう』

 

「ではなぜ……」

 

『技術というものは常に進歩し続けているものです。例えば、どれだけその時代で最強と謳われた機体であったとしても、それよりも技術の発達した未来では性能の低い旧型機に成り果ててしまう……分かりますか? 技術が進歩し続けている以上、それは必然的なものなのです』

 

「何が言いたい?」

 

『それはあなた方も使っているステルス技術に関しても同様です。気づきませんでしたか? あなた方が後方で潜伏している仲間たちと食事を共にしていた時、或いは他愛のない雑談を繰り広げていた時……それはあなた方のすぐ近くに潜んでいたということを』

 

「まさか……!?」

 

考えられる最悪の事態を想定し、アイシャは心の底から震え上がった。そして、彼女の後方にいた部下の1人が悲鳴をあげたのは、まさしくその時だった。

 

「何っ!? うわ!?」

 

振り返ったアイシャは、そこで見知らぬ機体が自分たちのすぐ真横にいたことにようやく気づくことができた。

ワインレッドの装甲、ルビーを思わせるメインカメラと赤い結晶体のようなフレームで構成され、全体的に赤色を基調としている機体……

 

機体の名は、ICEY–V。

バックパック飛行用ユニットであるUCEY–Wを搭載し、赤い機体の左肩に薔薇十字のシンボルマークがペイントされている。

 

既存のステルス技術をも凌駕する新たなステルスを展開したそれらは、あたかも暗殺者の一員として部隊に紛れ、仲間たちと別れたアイシャたちのことをぴったりとトレースし、ここまで辿り着いていたのだ。

しかし、そうとも知らない暗殺部隊の面々からしてみれば、赤い機体が急に現れたようにしか見えなかった。

 

「いつからそこに……!?」

 

「隊長! か、囲まれています!」

 

しかも、ICEY–Vは1機だけではなかった。

アイシャたち暗殺部隊を包囲するようにして、さらに3機の赤い機体が、いつのまにかその場に姿を現していた。

 

『何もかも、上には上がいるのものですよ♪』

 

「……くっ」

 

『奇襲が失敗に終り、包囲されてしまった以上、あなた方の負けです。そのまま大人しく投降してくれると嬉しいのですが……』

 

女性の放った降伏勧告に、アイシャは唇を噛んだ。だが、敗北を認めるつもりのないアイシャの部下の1人が、飛影の腰部に秘匿された逃走用のスモーググレネードめがけて密かに手を伸ばし……

 

「ぎゃあああああああ!?」

 

次の瞬間、行動を起こそうとした飛影は天から飛来した高出力の光球に包まれ、一瞬のうちに融解してしまった。撃ったのは、月を背にした赤いバルキリーだった。

 

「ああっ!?」

 

部下が跡形もなく消滅してしまったのを見て、アイシャは悲鳴をあげた。

 

『おいたはダメですよ〜?』

 

全てを見通す黒いバルキリーのツインアイが強い輝きを放った。それに呼応するようにして、アイシャたちの周囲にいた4機のICEY–Vも一斉にハンドガンを構えた。

 

『チュゼールニンジャ=サン、命を粗末になさらないで下さいね?どうされますか? まだやりますか? ハイクを詠みますか? そちらがその気なら、こちらは遠慮なくニンジャ殺すべしさせて頂きますが、宜しいですか〜?』

 

「分かった。投降する……」

 

アイシャはそう言ってシミターを地面に落とし、武装解除を行った。アイシャの部下たちも大人しく降伏勧告に従って武装解除していく……

 

(作戦は失敗か……)

 

飛影を地面に跪かせつつも、しかし、アイシャの瞳には依然として諦めの色は浮かんでいなかった。

 

(だが、ただ降伏して終わるだけではない。後方で私たちの活躍を待つ仲間たちの為にも、せめてコイツらの情報を伝えなければ……)

 

そう考えたアイシャは密かに無線のスイッチを入れた。

 

アイシャたち暗殺部隊の目的はシャラナ姫の暗殺だったのだが、それとは別にカピラ城内部の撹乱というもう1つの作戦目標が存在した。

これはアイシャ達がカピラ城から脱出する為のプランでもあったのだが、それと同時にカピラ城から数キロ離れた位置に待機している攻城部隊による砲撃を支援するということにも繋がっていた。

 

ジャッジメント・シャトー

カピラ城攻撃の為にアランバハより出撃した大型要塞には、堅固なカピラ城の外壁を一撃で粉砕するほどの強力な武装がいくつも搭載されていた。

 

(私たちが窮地に陥っていることを知れば、大型要塞による砲撃が行われるかもしれない……突然の攻撃にさらされれば、コイツらでも混乱するだろう。そうすれば、まだ私たちにも脱出のチャンスが……)

 

『脱出のチャンスがある……もしかして、まだそんなことを考えていたりしますか?』

 

「……!?」

 

まるで心の中を見透かしたかのようなひとことに、アイシャは飛影の中でびくりとなった。

 

『ふふっ……動揺していますね?』

 

「私には何のことだか……」

 

『では、ご自身で確かめてみてはどうですか?』

 

「…………」

 

言われるがまま、アイシャは通信回線を開いて攻撃部隊のジャッジメント・シャトーへ通信を行った。しかし、何度無線のダイヤルを合わせてもスピーカーからは雑音しか響いてこなかった。

 

「まさか……!?」

 

考えられる最悪の事態を想像し、アイシャの顔が絶望に染まった。その時……どこからともなく巨大な爆発音が轟いた。

 

「嘘……」

 

爆発音に気づいたアイシャは振り返ってその場所を見上げた。そこには巨大な黒煙が立ち上り、暗い夜空が一面真っ赤に染まっていた。

 

それは丁度、カピラ城砲撃の時を待つ武装要塞と護衛のBM数個中隊が待機していた方角だった。

 

『あらあら〜、帰るところがなくなっちゃいましたね』

 

機体越しでも明らかに戸惑った様子を見せる暗殺部隊を見て、黒いバルキリーのパイロット……ミドリはコックピットの中で不敵な笑みを浮かべるのだった。

 

 

同時刻

カピラ城から数キロ離れた場所

 

そこには、武装要塞ジャッジメント・シャトーを始めとする大規模な攻撃部隊が展開していた。カピラ城の放った偵察部隊に気づかれぬよう丘の影に身を潜めた彼らは、アイシャたち暗殺部隊によるカピラ城内部の撹乱を期待し、攻撃の時に備えていた。

 

 

 

……つい、先ほどまでは

 

 

 

 

「そんなノロクサ、当たるかよ!」

 

翼を大きく広げ、反乱軍の放った無数の対空砲火の網をすり抜けて地上へ着地したICEY–Vの1機が、反乱軍めがけて手にしたライフルの引き金を引き絞った。

 

連射性能の高いアサルトモード

可変型ライフルによる射撃は、反乱軍の機体を正確に撃ち抜き、その装甲を一瞬でズタズタにし、吹き飛ばして爆散させた。

 

「反乱軍! 恐るるに足らずッッッ!」

 

戦場に生まれる爆煙。薔薇十字騎士団に所属する若き兵士は、ライフルを撃つ手を止めて力強く拳を握りしめた。

 

「調子に乗るな! ブラヴォー・スリー!」

 

戦闘中にもかかわらずはしゃぐ素振りを見せる若い兵士を、その上官に当たる別の兵士が一喝した。

 

今、この場所はカピラ陣営と反乱軍(アランバハ陣営)による熾烈な戦闘が繰り広げられていた。しかし、アランバハの派遣した大規模な攻撃部隊に対し、カピラ城から派遣された部隊はごく少数だった。

 

BMの数だけでも100機近い戦力を投入したアランバハ陣営に対して、カピラ城はその5分の1以下と……これだけでもかなりの戦力差があった。

 

しかし、それほどの戦力差があるにもかかわらず、戦闘は終始カピラ陣営が優勢だった。

 

その理由は、国境なき艦隊『モービィ・ディック』によるカピラ陣営への協力が大きかった。彼らの所有する次世代型BM・ICEY–Vの前には、反乱軍の扱う最先端兵器などオモチャ同然な代物だった。

 

「スリーはテンと共に前進。フォーは側面から回り込め。セブン、ナインはエアカバーを継続せよ」

 

薔薇十字騎士団の2番隊隊長、ブラヴォー・ワンによる的確な部隊指揮により、数の面で圧倒していたはずの反乱軍たちは次々に撃破されていく……

 

「了解! うおおおおおおお!!!」

若い兵士……ブラヴォー・スリーはワンの指示に従ってライフルを右肩の武装コンテナに格納すると、左肩のコンテナからクリスタルで形成されたロングソードを抜刀し、反乱軍めがけて突貫した。

 

迫り来るICEY–Vに対し、反乱軍は弾幕を張って迎撃を試みるも、ICEY–Vの周囲に展開された不可視のエネルギーフィールドが、それらを全て無力化させてしまった。

 

「斬る!」

弾幕を突破したスリーの斬撃が反乱軍を襲った。

反乱軍の機体が次々に両断されていく……

 

「スリー、援護する」

そんな彼を援護すべく、テンがハンドガンによる近接支援を実行した。敵陣のど真ん中へ乗り込み、まるで格闘攻撃をするかのように二丁拳銃による薙ぎ払いを行なった。

 

さらに側面、上空からICEY–Vによる挟撃が行われ、反乱軍のBM部隊に多大な損害が生じた。地上、そして上空を支配するたった6機のICEY–Vの前に、反乱軍は後退を余儀なくされた。

 

「いいぞ、その調子だ」

 

順調に反乱軍を蹂躙していく5人の姿をライフルのスコープ越しに覗いていたワンは、彼らの活躍に小さく頷くと、ライフルを下ろして別の方向へと視線を送った。

 

「貴公も協力に感謝する」

 

炎上するジャッジメント・シャトー

そして、大きくひしゃげた装甲を踏みつけるようにして、その上で堂々と仁王立ちをしている1機の白いモビルスーツ

 

「三日月・オーガス殿、噂に聞いていた通りの強さだな」

 

「別に、これくらい普通でしょ」

 

無線越しに聞こえてきたワンの声に、三日月はバルバトスを操作し、ジャッジメント・シャトーの上部装甲に突き刺さったメイスを取り上げた。

 

偵察部隊からの報告により敵の奇襲を事前に予想していたカピラ勢力は、カピラ城への直接攻撃を防ぐべくカピラ守備二個小隊、薔薇十字騎士団6機、そして三日月・オーガスからなる特別遊撃部隊を編成・派遣し、これの迎撃に当たっていた。

 

その一番槍を担った三日月は、開戦と同時に護衛のBM部隊が埋め尽くす戦場をすり抜けてジャッジメント・シャトーへ肉薄……機体自体が鈍重で、しかも取り回しの悪い範囲攻撃兵器や長距離砲しか装備されていないのをいいことに、三日月は武装要塞へと取り付いた。

 

武装要塞特有の堅固な装甲を持つジャッジメント・シャトーだったが、バルバトスに装備された質量兵器・メイスを用いた攻撃の前には流石の装甲も機能せず、僅か数回の殴打で大破、しまいには車体から日の手が上がり、カピラ城攻撃の為の弾薬が満載されたスペースへと引火……まもなく盛大な爆発と共に、武装要塞はあっけなく炎上してしまった。

 

その爆発によって生じた黒煙は、反乱軍の実質的な敗北を示す狼煙のように立ち上り、遠く離れたカピラ城からでもはっきりと視認することができた。

 

「そうか、末恐ろしい奴だな」

 

何でもないように告げる三日月に、ワンが肩をすくめていると、地上で戦う味方を援護する為に上空を旋回していた薔薇十字騎士団の1人……セブンが2人の会話に割り込んできた。

 

「セブンよりブラヴォー・ワン。敵は撤退を開始しています、追撃戦に移行しますか?」

 

「そうだな。オール・ブラヴォー、敵を追撃せよ」

 

「了解」

 

ワンの指示に、薔薇十字騎士団の面々は逃げ惑う反乱軍めがけて容赦なくビームの雨を降らせた。投降する者に関しては、装備だけを撃ち抜いて無力化し、さらに前進する。

 

「貴公も追撃戦に参加してもらえないだろうか?」

 

「別にいいけど、俺必要ある?」

 

ワンの言葉に、三日月は反乱軍たちを追い詰める5機のICEY–Vを見やった。未だ数の差こそあれど、三日月の目から見ても兵士の練度と機体性能の差は圧倒的で、とても自分が必要なようには思えなかったからだ。

 

「あんたらだけでも十分だと思うけど」

 

「そうだ、敵の追撃は我々だけで十分に事足りるだろう。しかし、今の状況ではただ敵を倒すだけでは足りないのだ……」

 

数日前の戦闘において、三日月たち『オーガス小隊』はアランバハから派遣された大部隊をたったの4機で全滅にまで追い込んだ。

それまでチュゼール各地で連戦連勝と破竹の勢いに乗り、勝利は目前とさえ言われていた反乱軍だったのだが、それ故に、この戦いにおいて反乱軍が受けた衝撃は凄まじいものだった。

 

戦闘の具体的な詳細を求めた反乱軍の情報部には、捕虜になることなく戦いを逃げ延びた兵士たちによって三日月たちの鬼神の如き活躍が伝えられ、僅か数日のうちにオーガス小隊の名はチュゼール全土に広がりつつあった。

 

それは浄化戦争の英雄である極東武帝の再来……あるいはそれ以上、とまで呼ばれるほどだった。

 

「勝ち戦の兵士ほど弱いものはない……それは精神的な意味でも言え、そして逆もまた然り。貴公の活躍は敵に対して恐怖を与え、それまで勝利しか知らなかった反乱軍の連中に対して負の流れをもたらす事になるだろう。逆に、敗北続きだったカピラ陣営の兵士たちにとっては、いつ負けるやもしれぬ暗い道筋の中、初めて見えた希望の光となって彼らを奮い立たせる原動力となる……そのためにも、この戦いにおいて貴公の存在は必要なのだ」

 

「ふーん、そんなもんなんだ……」

 

ワンの言葉を聞き流していた三日月だったが、彼の言いたいことは大体伝わっていたようで、小さく頷いた。

 

「ま、いいや……」

 

それから遠くの敵を見据えると、足元に散らばる武装要塞の残骸を蹴り飛ばして機体をブーストさせ、一気に敵との距離を詰めた。

 

ICEY–Vとの撃ち合いで精一杯だった反乱軍の兵士が、三日月の奇襲に対処できるはずもなく……敵機は三日月のことを認識する間も無くメイスで叩き潰され、あっけなく大破してしまった。

 

「……次……あれ?」

 

次の獲物を撃破すべく、三日月がすぐ近くにいた敵機へ狙いを定めようとしたその時……敵機から降伏を意味する光信号が放たれた。

 

「三日月って言ったか? やるじゃねーか!」

 

三日月の戦いぶりを間近で目撃していたスリーが、思わず声を上げて近寄ってきた。

 

「ねぇ、こいつどうする?」

 

「あー……とりあえず武装は破壊して、逃げられないように足を撃ってそこら辺に転がしておけば、後ろのカピラの野郎どもが捕まえてくれるだろうよ」

 

「そう、分かった」

 

それを聞くと、三日月はバルバトスの両腕に機関砲を出現させ、降伏した兵士の機体めがけて容赦なく数発の砲弾を撃ち込んだ。

 

「うわっ、おっかね……」

 

三日月の放った機関砲は、敵機が携行していたライフル、固定武装、そして両足だけを正確に撃ち抜いてパイロットを殺害することなく機体を無力化させた。

その際、まるでトドメでも刺すかのような三日月の迷いのない動きにヒヤリとくるものを感じ、スリーは小さな悲鳴を上げた。

 

「これでいいんでしょ?」

 

「ま、まあな」

 

その時、2人の背後から湧き立つような声が響き渡った。

 

「お前らぁ! ガキなんかに負けてんじゃねぇ!」

 

「この土地は我々のものだ!」

 

「そうだ! 俺たちが戦わないでどうする!」

 

それは作戦に参加したカピラ城の兵士たちによるものだった。特別遊撃部隊の前衛として展開している三日月と薔薇十字騎士団の活躍に後押しされたのだろう、彼らの士気は一様に高かった。

 

BMに搭乗したカピラ城の兵士たちは、逃げ惑う反乱軍めがけて大量の鉛玉を叩き込み、接近し、シミターによる斬撃をお見舞いし始めた。

 

「ほんとだ、なんか勢いが出てきた」

 

それを見て、三日月は関心したように呟く。

 

「よし、援護する」

 

そう言ってスリーは翼を広げてICEY–Vを飛び立たせると、カピラ兵士たちのエアカバーをする為に機体を上昇させた。

 

「それじゃあ、俺も……」

 

三日月もカピラ兵士たちを追ってバルバトスをブーストさせた。その視線の先には、突出し過ぎたことにより反乱軍からの手痛い反撃を受けている一機のカピラ所属機の姿があった。

 

「しまった! だ、誰か……助け……」

 

「…………」

 

三日月は集中砲火を受け、機体の表面に大量の火花を散らす味方機の前へ降り立つと、メイスを構えて自ら盾となった。

 

「え?」

 

「下がって、邪魔だから」

 

味方に向かってそう言い放つと、三日月はメイスを地面に突き刺して味方機が後退する為の遮蔽物を作り、自身はレンチメイスを構えて敵部隊の前へと躍り出た。

 

反乱軍の兵士たちは迫り来るバルバトスめがけてありったけの火力を集中させるも、標準的なBMの携行火器など、バルバトスのナノラミネートアーマーの前にはあまりにも貧弱で、無力だった。

 

「消えろよ」

 

瞬く間に3機のBMがレンチメイスの餌食となった。さらに機関砲の斉射により、5両編成の装甲車部隊が跡形もなくこの世から消し去られてしまった。

 

撤退の為の殿を務めた部隊が全滅したことを知った反乱軍の兵士たちは、せめて三日月たちの追撃を牽制しようとロケット砲やハンドグレネードによる範囲攻撃を展開しようとして……

 

「…………!?」

 

反乱軍によって攻撃が行われた丁度その時、上空から飛来したビームの雨が、反乱軍の放ったロケットとグレネードを全て撃ち落とし、目標に辿り着く前にそれら全てを撃ち落としてしまった。

 

反乱軍たちが天を仰ぎ見ると、そこにはエアカバーの為に空中へと展開していた3機のICEY–Vの姿があった。

 

牽制が失敗に終わったことを知った反乱軍たちは対空砲火を行うも、ICEY–Vの周囲に展開されたフィールドは弾丸を一切受け付けなかった。逆にICEY–Vの放った濃密な鎮圧射撃により、反乱軍は甚大な被害を受け、そして戦場は大量の爆煙と土煙に包まれた。

 

ICEY–Vによる射撃が終了すると、三日月は何のためらいもなく視界ゼロの爆煙の中へバルバトスを飛び込ませると、バルバトスと繋がったことで拡張された感覚だけを頼りにレンチメイスを振り回し、ICEY–Vが撃ち漏らした敵を片っ端から叩き潰していった。

 

地上と上空という二方向からの攻撃に晒され、結局、反乱軍は混乱から立ち直ることもままならず全滅した。交戦前には100機近く存在したBMもアランバハ城へ辿り着つくことが出来たのは、散り散りになって逃げ落ちた十数機のみだった。

 

 

 

ーーーーー

 

 

 

「ナインよりブラヴォー・ワンへ」

 

反乱軍一掃後、降伏した反乱軍兵士たちの武装解除が行われる最中、偵察のために上空を旋回していたナインがワンへ通信を行なった。

 

「どうした?」

 

「撤退する敵部隊が支援を求めたのでしょう、超光学カメラがアランバハよりスクランブル発進するBM部隊を捉えました」

 

「数は?」

 

「20機です」

 

「了解した。ふむ……戦えば勝てるが、俺たちの役割はあくまでも反乱軍のカピラ襲撃の阻止、及び反乱軍の殲滅だからな」

 

そう言ってワンは外部スピーカーをオンにした。

 

「俺たちの仕事はここまでだ。撤退する」

 

「あれ、もう帰るの?」

 

ワンの言葉に、コックピットの中でナツメヤシを食べていた三日月は不思議そうな顔をした。長期戦になると思っていた彼は、残り少ないナツメヤシの実をどう節約したものか考えていたところだった。

 

「ああ、もう十分だろう」

 

そう言ってワンは近くに駐車していた軍用トラックを指差した。カピラ兵士たちの使っている武器の弾薬を補給するべく遊撃隊に追従していた軍用トラックだったのだが、カピラ兵士たちによって弾薬は全て使い果たされ、その代わりに、荷台には捕虜にした反乱軍兵士たちで満員になっていた。

 

「補給を必要としない俺たちはいいが、カピラの連中はそういう訳にもいかん」

 

「そっか、そうだよね」

予想よりも早く帰れることを知り、ナツメヤシの実を節約する必要がないと判断した三日月は、さっそくバリボリと食べ始めた。

 

「よし、全機撤退………いや待て、通信だ」

 

味方に撤退を指示しようとしたところで、ちょうど通信が入ってきたことに気づいたワンは、通信を行うために手を振って部下を制し、通信の内容が外に漏れないようスピーカーをオフにして沈黙を作った。

 

「ブラヴォー・ワンより遊撃部隊各機へ。モービィ・ディック最高司令官……エイハブからの指令を通達する」

 

やがて通信を終えたワンが再び外部スピーカーを起動させた。三日月や彼の部下を始めとする、その場にいた全員の視線が集中する中、ワンは言葉を続ける……

 

 

 

「さらに追撃、アランバハを落とせ」

 

 

 

「おいおい、マジかよ……」

 

ワンの言葉に、カピラ兵士たちの間に動揺が走った。

 

「いくら今日とこの前の戦闘で、反乱軍がかなりの戦力を消耗しているとはいえ……」

 

「ああ。アランバハにはまだ大量の戦力が残っている筈だ、それを俺たちだけで攻略しろと?」

 

「こんな……たったこれだけの遊撃隊で?」

 

カピラ兵士たちの中には、数日前のアランバハ侵攻作戦に加わった者もいた。数百の戦力を投入しても倒せなかった相手に、いくら強いとは言ってもたったの数十機で戦いを挑むというのだ……屈辱的な敗北を味わった彼らにしてみれば、これからやろうとしていることは無謀な挑戦にも等しかった。

 

しかし、その一方で……

 

「了解」

 

「アランバハか、腕がなるな」

 

「面白い! やってやろうじゃねぇか!」

 

薔薇十字騎士団の士気は高かった。

戦闘の継続を知るや否や、彼らは直ぐにコックピット内のディスプレイ表示や計器を確認し、機体のコンディションや各種武装のチェック、それから予想される敵戦力の計算を行うなどといった戦闘準備を始めた。

 

それに対して、三日月は困り果てていた。

 

「帰らないの?」

 

「疲れたか?」

 

「いや、そうじゃない……けど」

 

ワンにそう告げて、三日月は袋の中を覗き込んだ。

どうせ直ぐに帰るのだからと貪り尽くしてしまったことにより、袋の中のナツメヤシの実は、もう指で数えられるほどしか残っていなかった。

 

「じゃあ……早めに終わらせたい」

 

そう言って、三日月は食べたい気持ちを抑えて手の中に握っていたナツメヤシの実を袋の中へそっと戻した。

 

 

 

かくして襲撃部隊への追撃戦は、三日月を先頭にした特別遊撃部隊によるアランバハ城に対する追撃殲滅戦へと移行することとなった。

 

 

 

程よくナツメヤシの実を切らした三日月の活躍は凄まじいもので、アランバハからの砲撃に一切怯むことなく城内へ突入すると、内部でメイスから光輪システムに至るバルバトスのあらゆる武装を駆使して暴れ回り、攻撃の余波で城の司令室と防衛システムを完膚なきまでに破壊し、アランバハに駐留する反乱軍を大いに混乱させた。

 

そうして、三日月が敵の目を引き付けている間に薔薇十字騎士団とカピラ兵の面々が城内をクリアリングしていき、さらにはリキッドバルキリーに乗ったテッサが駆けつけたことにより、僅か数時間のうちに、戦いはカピラ陣営の一方的な勝利に終わった。

 

 

 

こうして、反乱軍にとっての長い夜が明けた。

 

 

 

この戦いにより、反乱軍は重要拠点の1つと数多くの戦力を喪失し、さらにカピラ陣営に対して修復可能な無数の兵器、多くの兵士・将校を捕虜として取られることとなった。

 

その一方で、遊撃部隊の被害はカピラ兵士たちの方で少なからず損傷が見られたものの、三日月のフォローと薔薇十字騎士団の手厚いエアカバーにより機体・人員共に喪失はゼロだった。

 

この奇跡とも呼ぶべき圧倒的勝利は、すぐさまカピラ城に居を構えるシャラナ姫の元へと伝えられた。シャラナ姫の口からアランバハ城陥落の報せが公表されると、兵士たちからは大きな歓声が響き渡ることとなった。

 

その一方で、先のアランバハ侵攻作戦に参加していたシヴァージは「自分たちのやってきたことは一体……?」と、本来ならば喜ばしい場面であるにも関わらず、頭を抱えてよろめいてしまうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

機動戦隊アイアンブラッドサーガ

第31話:証言

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アランバハ城陥落から数時間後……

アランバハ城、外壁

 

 

 

「はい、三日月さん」

 

三日月を始めとするカピラ陣営によって制圧されたアランバハ城。その外壁の上部にて、テッサは三日月へ小さな袋を手渡した。

 

「え? これって……」

 

三日月が袋を開けてみると、そこにはナツメヤシの実がたっぷり詰め込まれていた。戦闘中に最後のナツメヤシの実を消費し、いよいよナツメヤシの実が恋しくなりつつあった三日月は、そのあまりのタイミングの良さに思わずテッサのことを見返した。

 

「はい、三日月さんの好きなナツメヤシの実です。そろそろ無くなっちゃう頃かなって思い出して、ここまで届けに来ました」

 

そう言ってテッサは小さくはにかんだ。

 

「俺の為に、わざわざ?」

 

「はい! と言っても、バルキリーで飛んできたのでそんなに時間はかかりませんでした」

 

「ああ、それでね」

 

三日月は自分の背後へと視線を送った。外壁の上部、そこに並ぶようにして2機の人型機が膝をついていた。

 

手前に鎮座するのが、言わずと知れた三日月の専用機・バルバトス。そしてその奥にあるのが、テッサの専用機であるリキッドバルキリー。

 

三日月達によってアランバハの制圧が行われている最中、何の前触れもなく突然アランバハの直上に出現したテッサは、そのまま戦闘に加わって城内で激しい戦いを繰り広げる三日月のことを上空から支援したのだった。

 

てっきり、テッサは自分のことを援護する為にアランバハまで来たのだと考えていた三日月だったが、彼女の目的はあくまでも彼の方にあるようだった。

 

「あっ、勿論こっちの仕事もちゃんと終わらせてから来ましたよ? カピラ城に侵入した反乱軍の暗殺部隊は全員捕らえられ、現在はミドリさんによって尋問が行われているところです」

 

「そっか」

 

「一応、ミドリさんの許可を得てはいましたが……三日月さんは、私のこと邪魔だった?」

 

「ううん、寧ろ来てくれて嬉しい」

 

少しだけ悲しそうな表情を浮かべたテッサに三日月がそう言ってあげると、テッサの顔色が目に見えて明るくなった。

 

「そ、そう? えへへへ……三日月さんにそう言って貰えると、嬉しいかな」

 

「うん、ありがと」

 

頬をにわかに赤く染め、ほころんだ笑顔を浮かべるテッサの姿を見ていると、三日月の表情も少しだけ緩むのだった。

 

「はい! 三日月さんの為だったら私は何処へだって直ぐに駆けつけます! 例え火の中、水の中、雲の中や宇宙にだって、何処へでも……!」

 

「ところでこれ、食べてもいい?」

 

「あ、はい。どうぞ!」

 

テッサの許可を得て、三日月はナツメヤシの実を食べ始めた。久しぶりの味を楽しむ三日月のことを、テッサはとても幸せそうな表情で見守っていた。

 

「三日月さん〜」

 

「なに?」(ナツメヤシの実を食べながら)

 

「美味しいですか?」

 

「うん、とっても」

 

「そうですか。よかったです♪」

 

「?」

 

ナツメヤシの実を食べ進める三日月を見て、テッサはまるで自分のことのようにニコニコとした表情を浮かべていた。

そんな彼女の様子から、テッサもナツメヤシの実が欲しいのだろうと考えた三日月は袋の中をからナツメヤシの実を2粒だけ取り出し、テッサへと差し出した。

 

「これ、テッサにあげる」

 

「え、いいんですか?」

 

「うん。1人よりも2人で食べた方が美味しいから」

 

「ありがとうございます。あ、そうだ!」

 

そこでふと何かを思いついたテッサは、三日月の差し出したナツメヤシの実を受け取らずに、何やら三日月の前へと進み出た。

 

「三日月さん、もし宜しければ『あーん』ってしてください!」

 

「え? 別にいいけど……」

 

「やった! それじゃあ……」

 

テッサは喜びを露わにすると、三日月の目の前で両目を瞑って小さく口を開けた。

 

「えっと……それじゃあ」

 

まるで親鳥からの餌を待つ小鳥みたい……目の前で口を開けるテッサを見てそんな思いを抱きつつ、三日月はテッサの口の中へそっとナツメヤシの実を入れてあげた。

 

「ふふっ……三日月さん、これすっごく甘いね」

 

ナツメヤシの実を食べたテッサがそんな感想を述べた。

 

「そう? 今回のは甘さ控えめだと思うけど……そっか、個体差があるのか……」

 

三日月は自分の手の中に残った1粒のナツメヤシの実へと視線を落とした。これは甘いかな? 三日月がそう思っていると……

 

「じゃあ、今度は私の番ね」

 

「?」

 

そう言ってテッサは三日月が反応するよりも早く、彼の掌からナツメヤシの実を摘み上げると、人差し指と親指で挟んで三日月の口へと近づけた。

 

「三日月さん、口を開けて?」

 

「え? あ……うん」

 

テッサに促されるまま三日月が口を開けると

「はい、あーん……」

そう言ってテッサは、先ほど彼にして貰った時のように、三日月の口の中へナツメヤシの実を入れてあげた。

 

「三日月さん、美味しい?」

 

「……ん、美味しいけど?」

 

「そっか、ふふっ……それはよかったです!」

 

「??」

 

照れ臭そうに笑うテッサに、三日月はナツメヤシの実をモグモグしながら小さく疑問符を浮かべた。

 

「それじゃあ、もう一回……あーん」

 

三日月がナツメヤシの実を呑み込んだのを見計らって、テッサは袋の中からさらにナツメヤシの実を取り出し、再び三日月の口元へ近づけようとしたところで……

 

「あー……お取り込み中申し訳ないのだが」

 

軽い咳払いと共に背後から聞こえてきたその声に反応し、テッサの動きが止まった。

 

「あれ? アンタ……」

 

三日月が振り返ると、そこにはライン連邦出身の大柄な男性が佇んでいた。長い黒髪、モービィ・ディックの白を基調とした制服を着用し、騎士道精神の象徴であるブレードを腰に携えたこの男こそ、三日月たち遊撃部隊を統率していた薔薇十字騎士団のブラヴォー・ワンである。

 

「三日月・オーガス、少しいいかね?」

 

「俺? 別にいいけど」

 

ワンに呼ばれ、三日月は何事かと立ち上がった。

 

「いや、肩の力を抜くといい……直ぐに済む話だ。君は確か、先のアランバハ侵攻作戦に参加した仲間を探していると言っていたな?」

 

「ん、そうだけど」

 

「1人は銀髪の若い男性で、黒いコートを着用した傭兵、名前はベカス・シャーナム。そしてもう1人が黒髪の極東人、美しい容姿の男性で、名前は影麟……だったな?」

 

「うん。もしかして見つかったの?」

 

「ああ。つい先ほど、君の仲間らしき2人の姿を見つけたと、オスカーの仲間から君宛に連絡が入ってきた……写真もある、確認を」

 

「見せて」

 

三日月はワンが差し出してきた端末を受け取って、画面の中を覗き込んだ。撮影者によって盗撮されたものなのだろう……その写真には、確かに黒いコートを着たベカスが映り込んでいた。

 

「あれ?」

 

しかし、三日月の興味を引いたのはそれだけではなかった。写真の中で道路を歩くベカスは、何やら見ず知らずの少年の手を引いており……さらにそれだけではなく、彼の後ろには三日月にとっても見覚えのある、ピンク色の髪をした少女の姿があった。

 

「……どうなってるの?」

 

「む? 三日月よ、写真に映るこの人物は君が探しているベカス・シャーナムではないのかね?」

 

「いや、ベカスであってる……でも……」

 

三日月は不思議そうな顔をして画面を凝視した。

「どうしたんですか、三日月さん?」

その後ろで、テッサが心配そうに彼を見つめた。

 

「ううん、何でもない……とにかく、2人がまだ生きているってことが分かってよかった」

 

「2人?」

 

「何でもないよ、こっちの話」

 

三日月はテッサへと振り返ってそう告げると、端末を返却するべくワンへ手を伸ばした。だが、ワンは受け取りを拒否するかのように手を振って示してみせた。

 

「それは君が持っておくといい。それさえあれば、カピラ城内でベカスの動きをトレースしている情報提供者と連絡が取れる……周波数は150.62だ、覚えておけ」

 

そして、ワンはカピラ城の方向を指差した。

 

「ここはもう我々だけで十分だ。アランバハ城の中には、まだ抵抗を続ける反乱軍兵士が立て籠もっている状態だが、間も無くカピラ城からの応援が到着する……地味な仕事は我々に任せるといい」

 

「いいの?」

 

「ああ、君はもう十分にやってくれた。カピラで仲間が待っているのだろう? さあ、我々に構わず行くといい」

 

「ん、ありがと……」

 

ワンへお礼を告げ、三日月はその場から立ち去ろうとして……

 

「あ、じゃあ……はいこれ」

 

「む、これは何だ? 何かの種子……?」

 

「ナツメヤシの実。端末のお礼に……あげる」

 

「あ、ああ……悪いな」

 

そう言って三日月はワンの掌の中に3粒のナツメヤシの実を転がすと、すぐに背中を向けてテッサと共に機体を駐機させている所へと歩き始めた。

 

「テッサ、バルキリーに乗せてって」

 

しかし、三日月は何故かバルバトスの前を素通りすると、まるで最初からそのつもりだったかのようにリキッドバルキリーの前へ歩みを進めた。

 

「え? あ、はい……別にいいけど……?」

 

そんな三日月の様子に疑問符を浮かべつつ、テッサはバルキリーのコックピットから伸びる搭乗用ワイヤーを握りしめた。

 

それからワイヤーの下部に取り付けられた足場に体重をかけ、彼女はワイヤーを巻き取ってバルキリーのコックピットの中へ移動すると、三日月に向かって再びワイヤーを下ろした。

 

「三日月さん、使い方は……」

 

「大丈夫、何となく分かる……これを押せば登れるんだよね?」

 

「はい。そうです」

 

ワイヤーのコントローラーを手にした三日月へそう言いつつ、テッサはチラリとバルキリーの隣に駐機するバルバトスへ視線を送った。

 

「いいんですか? その、バルバトスは……」

 

「うん、別にいい。バルバトスはバルキリーに比べると足が遅いし、それに俺が呼べば何処にでも現れるから……」

 

「あ、そっか……そういえばそうでしたね」

 

テッサは納得したように頷いた。

ワイヤーを巻き取ってよじ登ってくる三日月へ手を差し伸べ、彼の手を取ると、そのままコックピットの中へと誘った。

 

「うん、それに……」

 

ハッチが閉まり、コックピットの中が暗闇に包まれると、パイロットシートの後ろ側へ潜り込んだ三日月がポツリと呟いた。

 

「それに?」

 

「空に連れて行ってくれるんでしょ?」

 

「あ……」

 

バルキリーの起動準備に入っていたテッサは、そこで数日前に三日月と交わした約束を思い出し、淡い輝きを放つコントロールパネルを操作する手を止めた。

 

『テッサが感じた広い空の中に、俺のことを連れてってよ』……あの時と同様、三日月の存在をすぐ真後ろに感じ、背中合わせで交わした約束がテッサの脳裏に鮮明にフラッシュバックする。

 

「テッサ?」

 

急に固まってしまったテッサを、三日月は不思議そうな目で見つめた。三日月の視線を間近に感じ、テッサは少し恥ずかしそうにモニターを見つめた。

 

「テッサ、どうしたの?」

 

「それは……その、まだ心の準備が……」

 

「テッサがダメって言うなら歩いて行くけど」

 

「違うんです、そうじゃなくて……」

 

そこでテッサは自分の胸に手を当てて深呼吸をすると、気を取り直したように三日月へと振り返った。

 

「はい! お、お願いしますっ!」

 

「えっと……お願いしてるのは俺の方なんだけど?」

 

「あ、そうでした……じゃあ、行きましょう!」

 

三日月へと振り返ったテッサは彼へ微笑みかけると、すぐさまバルキリーを起動させた。

 

バルキリーのツインアイに光が灯る。

 

城壁の上で機体が立ち上がったと思った次の瞬間、バルキリーは6枚の翼を広げ、目にも留まらぬ速さでアランバハの上空へと飛び立った。

 

「ふむ、悪くないな」

 

三日月から貰ったナツメヤシの実を口にしていたワンは、カピラ城の方角へと伸びる赤い閃光を見やりつつ、ひっそりと呟いた。

 

 

 

ーーーーー

 

 

 

カピラ城

城下町

 

正午前……

テッサとのフライトを楽しんだ後、カピラ城へと帰還した三日月は、バルキリーのチェックがあると言うテッサとは別行動を取り、先にベカスを探して城下町へと向かっていた。

 

「ここ?」

 

貰った端末で情報提供とやり取りを行いつつ、城下町を進む三日月が辿り着いたのは、カピラ城内で最も豪華で高級とされているホテルの前だった。

 

ホテルへ足を踏み入れようとした三日月だったが、ホテルの入口前に立つドアマンに、子どもであることとその粗末な身なりを指摘され追い返されてしまった。

 

三日月は以前、ミドリから貰った例の黒いカードを見せようかと思ったものの「待つだけなら別にいいか」と、ホテルから少し離れたベンチに座って小さく息を吐いた。

 

それから数分後のことだった……

ドアマンの見送りを受けて、ホテルから出てきた2つの人影を見て、三日月は即座に立ち上がった。

 

「お見送りご苦労〜」

 

「…………」

 

2つの人影のうち、黒いコートを着た男はベルマンたちに気さくに手を振って、堂々とした様子でホテルの入口へと姿を現した。

さらに言うと、男は幼い男の子の手を引いている。

 

「ベカス」

 

「ん……おお、三日月か!」

 

三日月が呼びかけると、男はゆっくりと振り返った。銀髪、腰に刀を携えた傭兵……それは先のアランバハ侵攻作戦の際に、撤退するカピラ陣営を守るべく殿となって、そのまま行方不明となっていたベカスだった。

 

「久しぶりだな、元気してたか〜?」

 

「そっちこそ、元気そうで何より」

 

三日月の姿を見るなり、ベカスはニヤリとした表情を浮かべ、それから三日月に向けて軽く拳を放った。三日月はそれを手のひらで受け止めつつ、安心したような顔をしてそう答えた。

 

「オレのいない間、寂しくて寂しくて仕方なかったんじゃないのか〜?」

 

「ううん、別に……途中からテッサとアイルー、それからミドリちゃんも来たから、全然寂しくなかった」

 

「オイオイ、そこはお世辞でも寂しかったって言うべきところだぜ、三日月よぉ……全く、オレたちがどれだけ大変な思いをしてここまで戻ってきたか、少しは考えて……」

 

「それで、こっちは影麟?」

 

ベカスの言葉を遮るようにして、三日月はそう尋ねた。

 

「お、よく気づいたな」

 

そう言ってベカスは傍の少年……影麟の頭を撫でた。

「…………」

アランバハ侵攻作戦の前には絶世の美青年だった筈の彼の身長は、どういうわけか縮こまり、今ではせいぜい5、6歳くらいの幼い少年と化してしまっていた。

 

「なんで小さくなってるの?」

 

「あー……話すと長くなるんだが、これがまー色々あってな」

 

「ふーん、そっか」

 

ベガスの説明を聞き、三日月は珍しいものを見るような目で小さくなってしまった影麟を見つめた。

 

「…………」

すると、影麟は無言で小さく頷いた。

 

「まあいいや。とにかく、2人が無事でよかった」

 

「反応薄いな〜もっと驚くと思ってたのに〜」

 

「ん、これでも驚いてる。ところで2人はいつからここに?」

 

「ああ、昨日の夜だ。本当はそのままシャラナ姫のところへ行ってもよかったんだが、歩き続けてクタクタでよ……夜遅くに行っても悪いかと思って、ひとまず宿を取ることにしたんだ」

 

そう言ってベカスは親指で背後のホテルを示した。

 

「あ、そうだった」

 

その時、ふとベカスの口からシャラナ姫の名前が出てきたことで何かを思い出した三日月は、ナツメヤシの実が入っているポケットとは反対側のポケットを探った。

 

「忘れないうちに、はいこれ」

 

「ん、これは……?」

 

三日月がポケットから取り出した袋を受け取ったベカスは、ズシリとくるその重さに驚きつつ、袋の口を開けて中を覗き込んだ。

 

「わーお、ルビーがこんなに……」

 

袋一杯に詰め込まれたルビーを見て、ベカスは感嘆の声を漏らした。

 

「三日月、どうしたんだこれ?」

 

「2人に渡してってさ」

 

「渡してって、シャラナ姫が?」

 

「うん」

 

「そっか〜あはははは、喜べ、麟〜どうやらオレたちのタダ働きは免れたみたいだぜ〜」

 

「…………?」

 

上機嫌になったベカスは思わず影麟のことを抱き上げて、まるで赤ん坊にするかのように高い高いをしてみせた。しかし、欲のない影麟は目の前でニヤニヤとした表情を浮かべるベカスに、疑問符を浮かべるのだった。

 

「それにしても、よくこんなところに泊まれるお金あったね?」

 

三日月は高級ホテルを見て小さく呟いた。

 

「あー……実を言うと、持ち合わせてがなかったもんで、そこら辺で知り合った奴に土下座して頼み込んで、何とか別々の部屋に泊めて貰ったんだよなぁ」

 

「そっか」

 

ベカスの言葉に、三日月は端末に保存されている2人の姿が撮られた画像……その中に写り込んだ、少女のことを思い出し、少しだけ考える素ぶりを見せた。

 

「ん? 三日月、どうしたんだ?」

 

「ねぇ、それってさ……」

三日月が言葉を続けようとした時だった……

 

「む? おお! 三日月ではないか」

 

突然、ホテルの方から聞こえてきた声に反応し、三日月はその場所へと振り返った。そこには、ベルボーイだけではなくフロントスタッフにホテルのオーナーと、ベカス以上に大勢の従業員による見送りを受けながらホテルから出てこようとする4つの人影があった。

 

そして、そのうちの1人……

3人の護衛を従え、先頭に立つ少女。

チュゼールの伝統的な衣装とマントに身を包み、フードを目深に被りつつも、目立つピンク色の髪の毛が特徴的な、赤と青のオッドアイの少女……

 

三日月はその少女に見覚えがあった。

 

「スロカイ? なんでここにいるの?」

 

「三日月よ、それはこちらの台詞だ」

 

驚いた表情を浮かべる三日月を見て、スロカイはそう言って肩をすくめてみせた。

 

「なんだお前ら、知り合いだったのか?」

 

「うん、ちょっと前にアフリカでね」

 

「はへぇー……変な縁もあったもんだなぁ」

 

三日月の言葉に、ベカスはしみじみと口元に手を当てた。

 

「陛下、この男は……?」

 

「ああ、彼は三日月・オーガス。以前、余がお忍びでアフリカへ向かった際に、色々と世話になったことがあってだな」

 

「なるほど、そうでしたか……」

 

「因みに、1つ屋根の下、共に夜を明かしたこともあるぞ?」

 

「……ッ!?」

 

スロカイの言葉に、銀髪の護衛……マティルダはかなりのショックを受けてしまったようで、彼女は瞳孔を見開いたままその場に凍りついてしまった。

 

「へ、陛下……この私というものがありながら、外に男を作っていたなんて……し、しかもこんな……こんな……いかにも不潔そうな男などに……」

 

「ふふふ……冗談だ、マティ」

 

「へ、陛下!? …………も、もうっ……驚かさないでください!」

 

スロカイの言葉に、マティルダはホッと胸を撫で下ろした。他2人の護衛……ヴィノーラはその様子がおかしかったのか小さく笑い、一方、ウェスパはいつものように無表情だった。

 

「ベカスとスロカイって知り合いだったんだ?」

 

「おお、よくぞ聞いてくれた。実は、アイリはオレの妹なんだよな〜」

 

「へぇ、そうだったんだ」

 

ベカスの言葉を信じた三日月が意外そうに頷いていると「そんなわけあるか」と、スロカイはため息を漏らしつつ三日月の肩に手を置いた。

 

「余にお兄ちゃんはいないし、存在する必要もない。特に、このロクでなしは余の身内どころか配下としても、例え城の清掃員だったとしても要らぬな」

 

「おいおい、誰がロクでなしだって〜? 地下でヤバそうになってたのを助けてやったのはどこの誰だと思ってるんだよ〜?」

 

「それはこの影麟に助けられたのであって、決してお前に助けられたのではない。それに、あの程度……余たちだけでも十分に乗り切ることができた、そうだろう? ウェスパ」

 

「…………」

スロカイの言葉に、ウェスパはコクリと頷いた。

 

「地下? 2人とも、何かあったの?」

 

「ああ、実はだな……」

 

わけが分からず疑問符を浮かべる三日月に、スロカイはここまでに至る経緯を説明し始めた。

 

 

 

スロカイの話を要約すると、こうだった。

 

ハンニバルの掘削機能を使って無事にブラーフマの魔の手から逃れることが出来たスロカイ一行だったのだが、地中を進む彼女たちが行き着いてたのは、チュゼールの巨大な地下空間だった。

 

偶然の発見を前に、スロカイは地下空間の調査を行うことにした。地熱発電の為にハンニバルを地中深くへと潜らせ、充電の間、一行は地下空間を探索していたのだが……不運なことに、そこで地下空間の警備を行うオートマタと遭遇、交戦状態へと発展した。

 

大量に押し寄せるオートマタを相手に、スロカイ一行は何とかそれを撃退しながら地下空間を進んだ。しかし、倒しても倒しても続々と集結するオートマタに、しかも構造の分からない迷宮の中ということもあり、一行は苦戦を強いられていた。

 

そこに現れたのがベカスと影麟だった。

アランバハ侵攻作戦の殿を務めていた2人は、頃合いを見計らって戦線を離脱……さらにアランバハから放たれた追撃部隊と壮絶な戦闘を繰り広げた末に、地面の崩落に巻き込まれて落下……その際に、この地下空間へと迷い込んでしまっていた。

 

多少のいざこざこそあったものの……その後、彼らは共闘して窮地を乗り越え、最終的に充電を終えたハンニバルの掘削機能を使って巨大な地下空間から脱出することに成功した。

影麟の身長が低くなったのは、突破口を開く為に能力を使ったことによるもので、その代償として幼い少年のような姿になってしまったのだという……

 

 

 

「……と、いう訳なのだ」

 

一通り話し終えて、スロカイは息を吐いた。

 

「そっか……大変だったんだね」

 

「まあな。そして迷宮を脱出した我々は、長旅で消耗した身体を休めるべくこのカピラ城へとやってきたのだ……そのまま教廷へ帰っても良かったのだが、コイツらの目があることだしな」

 

そこでスロカイはチラリ……と、地面の上に座り込んで、影麟と共に袋の中のルビーを数えているベカスを見やった。

 

「この2人には一応、余が機械教廷の教皇だということは伏せている。まあ、薄々気づいてそうではあるがな……」

 

「ふーん、そうなんだ」

 

小声で話すスロカイに、三日月は小さく頷いた。

 

「ああ。それに、このロクでなしのお兄ちゃん気取りがお金がないと言って土下座までしてくるものだから、仕方なくこのホテルに宿泊することを決めたのだ。全く……カピラに仲間がいるのなら、わざわざ余に泣きつかずとも良かったものを……」

 

ボリュームを元に戻したスロカイの声が耳に入ったのか、ベカスが微妙な顔をして彼女へと振り返る。

 

「あ、いや……あの時はそこまで気が回らなかったというか、スゲぇ疲れてたし、あと夜遅くに突然現れるのも失礼かなって思っちまってな……だからアイリ、とても感謝してるぜ!」

 

「それでは、その袋の中身を置いていけ」

 

「え?」

 

「何を呆けている? 一体誰が2人分の宿泊費を支払ったと思っているのだ? 感謝していると思っているのなら、それと同等の対価を支払い、恩を返すべきではないのか?」

 

「いや、対価って言っても……オレら金持ってないし」

 

「同等の対価と言ったはずだ」

 

「いや、でもさ……オレらが泊まった部屋って、あのホテルの中でも最低クラスの部屋だし、あんたらの部屋で出された豪華なディナーだって食べてな……」

 

「は?」

 

「うぅ…………わ、分かったよ…………ちぇ」

 

スロカイの鋭い剣幕に押される形で、争いに負けたベカスは大人しくルビーの入った袋をスロカイへと投げ渡した。

 

「うむ、それでいい♪」

 

スロカイは袋の中を見て、満足そうに頷いた。

その一方で、たった数分の内に大金持ちから文無しとなってしまったベカスは地面に両膝をつき、力なく項垂れてしまうのだった。

 

「ベカス、お腹減ってるの?」

 

「ああ、まあな……」

 

「それじゃあ、はいこれ」

そんなベカスに、三日月はナツメヤシの実を差し出した。

 

「…………ああ、サンキューな」

 

光を失った瞳のまま、ベカスは淡々とナツメヤシの実を口にした。「うまいうまいうまいうまいうまい……」彼の口から、まるで呪詛のようにその言葉が漏れる……

 

「ところで、三日月よ」

 

「何? スロカイ?」

 

「少し話がある。付いてきてくれないか?」

 

「話? 別にいいけど」

 

「よし、マティたちはここで待っていろ」

 

スロカイはマティルダにルビーの袋を託し、2人きりで話をするべく、三日月を従えて路地裏の中へと消えていった。

 

「チッ……三日月とかいうあの男ッ、馴れ馴れしく陛下のことを呼び捨てにするなど……」

 

残されたマティルダが、呼び捨てをする三日月に対して苦々しく思っていると、それを見ていたヴィノーラはマティルダの近くへ寄り……彼女の耳元でこう囁いた。

 

「路地裏、歳の近い男女、2人っきりで、何も起こらない筈もなく〜〜〜」

 

「な!? ヴィノーラ! それは一体どういうこと!?」

 

「さあ〜? 強いて言えば、マティルダの考えていることそのまんまじゃないかな〜」

 

「そ、そそそそそそそそ……それはつまりっ! 陛下とあの男が、あの薄暗い路地裏の中で…………ッあんなことや、こんなことを……ッッ!!???」

 

「わーお、そんなこと考えるんだ〜マティルダってばむっつりスケベ〜〜〜ドーテー」

 

「な!? ヴィノーラ! 貴方って人は!」

 

「あはははは〜〜〜」

 

からかわれ怒りを露わにするマティルダと、子供っぽい無邪気な笑みを浮かべるヴィノーラ。

「…………」

そんな2人を、ウェスパは淡々と見つめるのだった。

 

 

 

ーーーーー

 

 

 

「それで、話って?」

 

路地裏の奥まで進んだところで、スロカイは三日月へと振り返った。スロカイの表情は先程とは打って変わって、真剣そのものだった。

 

「数日前、この地で奇妙な機体を目撃した」

 

「奇妙な機体?」

 

「ああ。三日月よ、情報端末は持っているか?」

 

「うん、これでいい?」

 

「いいだろう、貸してくれ」

 

三日月は持っていた端末をスロカイへと渡した。スロカイはそれを受け取ると、ポケットからマイクロメディアのようなものを取り出して、それを端末へと接続した。

 

「よし、これでいい。端末のファイルに撮影したムービーを送った、確認してくれ」

 

「分かった」

 

端末を受け取った三日月は、慣れない手つきで端末を操作して、スロカイの送ったムービーを探した。そのムービーには、スロカイがブラーフマの追っ手から逃れる際の一部始終が記録されたものだった。

 

「まあ目撃したと言っても、余は遠くからその存在を感じただけなのだが……その代わりに、ハンニバルのドローンを用いて僅かな時間ながら機体の撮影に成功した」

 

端末をジッと見つめる三日月に、スロカイは続ける。

 

「色や外見は大きく違えども、奴から放たれる雰囲気がどことなくお前のバルバトスに瓜二つで……いや、聞くまでもなかったようだな?」

 

「…………」

 

端末を見つめる三日月の体からは、それだけで人を殺しかねないほどの強烈な殺気とプレッシャーが放たれていた。

 

画面の中では、コードネーム・ファントムこと『黒いバルバトス』がドローンに向かって急速接近し、鋭利な爪を振り下ろそうとしたところで止まっていた。映像を見つめる三日月は無表情だったものの、その瞳から放たれる強いものを感じ、スロカイは大体の事情を察した。

 

「三日月よ、コイツは一体なんなのだ?」

 

「…………」

 

「遠巻きに見ただけでも、余が今までに感じたことのないほどの強烈なプレッシャーが飛んできた。さらに外見的な特徴だけでなく、動き方までお前のバルバトスと似ている……偶然ではあるまいな?」

 

「…………」

 

「ふむ、何やら複雑な事情があるようだな?」

 

「ああ」

 

そこで三日月はようやく口を開いた。

 

「……俺は、いや俺たちはコイツに関してまだよく知らないし、分かってもいない。ただ1つ言えることは……コイツは本当にヤバイってことだけ」

 

まさか三日月の口からその言葉が出るとは思いもしなかったのだろう、スロカイは少しだけ驚いたような表情を浮かべた。

 

「そして……」

三日月はスロカイを真っ直ぐに見つめ、こう続けた。

 

 

 

 

「コイツは、俺が倒す」

 

 

 

 




前書きの続き

何が言いたいかと言うと、イミフな川柳募集するくらいなら二次創作を募集しようぜってことなのです。ほらほら、ここ(ハーメルン)に上手い二次創作の作者が沢山いるじゃないですかぁ…… まー……ムジナはその限りではないのですが。そもそも語彙力がねぇのでとても本家に見せられるようなものは無いのです。
やー……最近は他の作者様も素晴らしい作品を沢山作っていて……皆さん何でそんないい感じの話作れるの?とジェラシーを抱きつつも、まあまあムジナも負けてられないなぁと……

まあまあ、それでは次回予告なのです。



エル「次回、なんとあのファントムに異変が?」
フル「その他、ついにあの人がスロカイ様に会いに行きます」

エル&フル「次回、『第3の悪魔』(仮題)」

エル「なるほどね! これが『ムリゲー』なのね!」

それでは、また……

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  • 境界戦機もっと流行れ
  • 鉄血・ブレットもっと流行れ
  • 水星の魔女×鉄血のオルフェンズ?
  • あと、アイサガのエンディングも作ります
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