機動戦隊アイアンブラッドサーガー悪魔と少女と機甲ー 作:野生のムジナは語彙力がない
というわけで32話です。
三日月の頼れるパートナーとなったテッサについてですが、今回から新たな属性が明るみになりまして、今後それがどのように活かされるのかが注目のポイントとなっております。また、タイトルにもある『3機目』という部分にも注目していただけるとムジナは嬉しいです。
それでは、続きをどうぞ……
「なるほど、そんなことがあったのか」
三日月は『ファントム』と呼ばれる『黒いバルバトス』のことについて、自身の知っている全てをスロカイに語った。
初戦で手も足も出ずに敗北し、テッサを失いかけたこと。日ノ丸の学園にて、施設の一部と駐留する警備兵に対して多大な被害を齎したこと……そして、たった一機で極東共和国に甚大な被害を与え、ベカスと影麟から大切な人を奪っていったことを
「極東共和国の異変は余のところにも伝わっていた。余はてっきり、原子力発電所でメルトダウンが発生しただとか、そうでなければ宇宙から隕石でも落ちてきただとか、あるいは大規模災害にでも見舞われたのだとばかり思っていたのだが……」
スロカイはそう言って自分の唇に指を当てた。
「解せないな、単機であの巨大国家を壊滅させるなど……全く、極東の軍隊は何をしていたのだ? かつて我々がこの地に送り込んだ軍勢を容易く打ち破れるだけの実力がありながら……」
「……軍勢?」
「いや、気にするな」
スロカイは咳払いを1つして自身の言葉を消した。
「だが三日月、お前の話によると……その黒いバルバトスとやらが日ノ丸に出現した際に、戦って一度は退けることができたのだろう?」
「俺もそう思ってた。でも、違うみたい」
「違う?」
「……手加減されてた」
三日月はファントムとの戦闘を思い返した。
初戦……パワーに反応速度とあらゆる面で劣り、一方的に攻撃を受け、三日月は満身創痍の状態に陥り、バルバトスは大破寸前にまで追い込まれてしまった。
もし、ファントムが逃走を選ばず、あのまま三日月がバルバトスのリミッターを解除していたとしても、恐らく三日月の劣勢が覆ることはなかったことだろう。
続く、日ノ丸での戦い
バルバトスの改造が終わっていなかったこともあり、学園を守るために日ノ丸製BMである軍曹で出撃した三日月は、初戦での苦い経験からファントムに対する意識を変えて挑み、バルバトスの改造が終わるまでなんとか持ち堪えることができた。しかし、軍曹というバルバトスと比較すると絶望的なまでにスペックの低い機体を使っていた以上、ファントムと互角に渡り合えたというよりかは、どちらかというと手加減されていたという見方が割に合っていた。
「それに、今のあいつは前以上に強くなってる。いや、今思えば……あいつは最初から俺のことを殺すことができた」
「だが、そうしなかった」
三日月の言葉を引き継ぐようにして、スロカイが告げる。
「ふむ……何故なのだろうな? 興味本位で生かしてやったとは考えにくいし、あの機体とお前を繋ぐ接点とは一体……?」
「……分からない……でも」
その時、三日月の顔に暗い影が落ちた。
「俺があの時、あいつを倒していればこんなことにはならなかった」
日ノ丸で進化を遂げたバルバトス
かつて手も足も出なかったファントムを圧倒するまでの力を手に入れたものの、しかし倒しきるまでには至らず、まんまと逃走を許してしまった。
そのせいで極東は灰燼と化し、何百、何千万もの尊い命が一瞬にして失われてしまった。三日月は失われてしまった数え切れないほどの人命が、責任となって自分の上に重くのしかかっている気配を感じていた。
「あの時、俺がもっと上手くやれていれば誰も死ななかった。ベカスも影麟も、辛い思いをしなくて済んだ……だから、俺はその責任を取らないと……」
「おい、三日月」
俯きがちに呟く三日月の額を、スロカイは指で弾いた。
「……?」
思わず顔を上げた三日月に、スロカイは続ける。
「自分のせいでこのようなことになっていると思っているのなら、それは傲りだ。三日月よ、確かにお前は強い……だが、なんでもかんでも自分の力だけで解決できると思うな」
「……」
三日月はぼんやりとした表情でスロカイを見つめた。
「そもそも、お前が奴を逃してしまったことでどこが吹き飛んだだとか、誰が死んだだとか……それらは全て結果論であり、お前には関係のないことだ。何故なら……お前は、お前という存在は所詮、この広い世界の中で生きる矮小な存在に過ぎない凡人なのだからな。本来、天災を生み出すような怪物と戦うのは余のような権力者の役割であって、凡人の役割ではないのだ」
「先のことなど、預言者でもない限り誰にも分からない……日ノ丸でお前は被害を最小限にすべく最善を尽くしたのだろう? ならば良いではないか。そうしていなければ、灰燼と化したのは日ノ丸の方だった筈だからな」
「共和国が黒いバルバトスとやらに滅ぼされたことに責任を感じているのならそれは違う。本来、国や人民を護るのは兵たちの責務だ。戦により国が崩壊したのはそこの兵士たちが情けなく、無能だっただけのこと。それもたった1機の機甲すら破壊できないほどにな……それ故に、兵士でもない、ましてや極東人ですらないお前に一切の責任はない」
「…………」
三日月は驚いた様子を浮かべつつも、スロカイの言葉を黙って聞いていた。
「だから、三日月……」
スロカイは、三日月の両肩を力強く握りしめた。
そして、三日月の瞳を真っ直ぐに見つめ……
「思い出せ! 自分自身を! 崩壊した異郷の地に対する同情はやめろ! 見ず知らずの者たちに対する浅はかな哀悼の意など捨てろ! 負の感情に囚われるくらいならな!」
「…………!」
「余が教廷に欲しいと見込んだ三日月・オーガスはこんなものではない筈だ。凡人であるお前はただ、目の前の敵を倒すことに集中するだけでいいのだ……それ以外の、余計なことは考えるな!」
「……」
力強いスロカイの言葉に、三日月は自分の中に力が湧き上がってくるのを感じた。
「いい顔だ。少しはらしくなってきたんじゃないのか?」
三日月の顔色の変化に気づいたスロカイは、三日月の両肩から手を離し……それから訪ねかけるように、三日月の前へ右手を突き出した。
「では聞こう。お前に、アレが討てるのか?」
挑発的なスロカイの視線、言葉。
「ああ、俺は……やるよ。俺の進む道を邪魔するものは何だって叩き潰す。誰だって叩き潰す。俺にはそういう生き方しか出来ないから、だからそうする」
「ふん、それでいい……それでこそお前だ」
三日月の体から放たれる強い闘争心を感じたスロカイは、そう言ってニヤリと笑った。
「……少し話しすぎたな」
「うん、戻ろうか」
「そうだな。これ以上このような場所に2人っきりで留まるのは……フフ、マティが嫉妬しかねないしな……」
「何の話?」
「いや、何でもない」
自分たちが思っていた以上に時間が経っていることに気づいた2人は、そんな言葉を交わしつつ路地裏から立ち去ろうと来た道を戻り始めた。
「ああ、そうだ」
その途中、三日月の後ろを歩くスロカイが急に何かを思い出したかのように肩から下げていたバッグの中を探り始めた。
「どうしたの?」
「これ、好きだっただろう?」
スロカイが取り出したのはナツメヤシの実だった。
それを目の前の三日月へと差し出してきた。
「うん、そうだけど?」
「最後の一粒だ。お前にくれてやる」
「いや、いいよ。沢山持ってるから」
そう言って三日月はナツメヤシの実がいっぱいに詰め込まれた袋を示すも、スロカイは聞く耳を持っていないかのようにナツメヤシの実を突き出してきた。
「さっさと口を開けろ、三日月」
「……分かった」
三日月がしぶしぶといった様子で口を開けると、スロカイは口の中へナツメヤシの実を押し込んだ。
「フフフ……美味いか?」
「うん。美味しい」
「そうか、ならよかった」
「?」
スロカイの意味ありげな言動が気になりはしたものの、特に意味はないのだろうと判断し、三日月は路地裏の出口に向かってまた歩き始めた。
「ところで、探し人は見つかったのか?」
「オルガのこと? ううん、まだ」
「そうか……早く見つかるといいな」
「うん」
そんな言葉を交わしながら、2人は路地裏の外に出た。すると、前後に並んで歩く2人の姿を見つけたマティルダがやけに慌てた様子で一目散にスロカイの元へ駆け寄ってきた。
「陛下!」
「マティ、どうかしたのか?」
「い、いえ……遅いから心配しました。暗闇の中で、この男に何かされたんじゃないかと心配で心配でたまらなくて……」
「フッ……安心しろ、三日月はそのようなことをする男ではない」
「そ、そうですか……」
そう言いつつも、スロカイの身に異変がないかをくまなく確認し、やがて全てのチェックを終えたことでマティルダはようやく息を吐いた。
その間に、三日月は手持ち無沙汰な様子で佇んでいるベカスと影麟の元へと向かった。
「2人とも、お待たせ」
「おう遅かったな、何の話をしてたんだ?」
「まあ、色々ね」
「そうか。まあいいや……行こうぜ」
ベカスは小さい影麟を肩に乗せ、まずはシャラナ姫に自分たちが生還したことを報告するべく、カピラ城に向かって歩き始めた。
「それじゃあ、もう行くね」
去り際に、三日月はスロカイに向かってそう告げた。
「おい、三日月」
「何?」
「死ぬなよ?」
「そっちも、気をつけてね」
最後にそんな言葉を交わして、三日月とスロカイはまた別々の道を歩み始めるのだった。
「あ、三日月さん!」
カピラ城へと続く道を並んで歩きながら、三日月は2人が行方不明になっている間に起きた出来事を簡単に説明していると、前方からテッサが手を振って現れた。
「なんだ。あいつも来てたのか……」
「うん、まあね」
「そうか……よぉ、テッサ〜元気してたか?」
小走りでこちらへと近寄ってくるテッサの存在に気づいたベカスは、少しだけ気まずそうな表情をしつつも、手を振って気さくな挨拶をしたのだが……
「三日月さん、用事は終わりました?」
しかし、そんなベカスのことなど眼中に入っていないのか、テッサは三日月の前へ歩み寄って心配そうな表情を浮かべた。
「うん。まあね」
「そうですか、遅かったのでちょっと心配しちゃいました。てっきり、すぐ戻るとばかり思ってたので……」
「そっか、心配かけてごめん」
「いえ、三日月さんが無事ならそれでよかったです……でも、遅くなるなら連絡してくれると嬉しいなって」
「分かった。じゃあ、次からはそうする」
三日月の言葉にテッサは満面の笑みを浮かべた。
その一方で、自分の挨拶が無かったことにされてしまったベカスは、小さく咳をして「よ、よぉ久しぶりだな〜?」と再び声をかけるも……
「あ、そうそう! アイルーが昼食を作ってくれているそうですよ。なんでも、戦闘続きだった三日月さんと私のことを労って、いつもより豪華に振る舞ってくれるそうです」
「いいね、それ」
「はい! あとでアイルーにはお礼を言って、沢山褒めてあげないとですね。それで、ご飯を食べたら一緒にお風呂に入って、仕事が来るまで一緒に眠ってあげようと思っています」
「そっか、家族サービスってやつだね」
一時期は姉妹の間でギクシャクしていた時期もあったものの、今では以前にも増してテッサとアイルーが良好な関係を築けていることに、三日月は心の底から安心感を抱いた。
「はい! あ、三日月さんも一緒に来てくれますよね? 一緒のお風呂で汚れを落として、3人で川の字になって眠って戦いの疲れを癒しましょう!」
「一緒に眠るのはいいけど、お風呂はちょっと……」
「え? 三日月さんは、私と一緒にお風呂に入るの嫌ですか……?」
遠慮がちな三日月の言葉に、テッサは少しだけ悲しそうな表情を浮かべた。
「嫌っていう訳じゃない。ただ、家族の間に水を差すわけにもいかないし、それにお風呂に行くんだったら服を脱がないといけないし、ほら……テッサもアイルーも女の子だし、俺みたいな男に体を見られるのは嫌なんじゃないかなって思って……」
「私は三日月さんになら裸を見られたって平気ですよ? なんなら、アイルーだって三日月さんのことを本当の兄のように慕ってくれてますし、私たちはもう家族みたいなものです! 嫌なんてことは……あ、もし三日月さんさえ良ければ、私たちは水着を着て……」
尚も、2人の会話は続く……
「わーお、お前ら……いつの間にそんな関係に?」
「……?」
そんなやり取りを隣で聞いて、2人のことをよく知るベカスは小さく口笛を吹いた。ベカスに肩車されている影麟は、テッサを見るのは初めてということもあって状況がイマイチ理解できず首を傾げた。
「あー……麟は気にしなくてもいいと思うぜ? ってか、オレらのこと完全に眼中にねぇなこりゃ……なあ? 麟?」
「…………」
「まあいいや。麟、オレらはさっさとシャラナ姫のところへ行こうぜ……そしてそれから魚料理以外の飯をたらふく食って、安眠を貪ろうとしようぜ!」
「…………」(こくり)
完全に存在を忘れられたベカスと影麟は、側から聞くと甘ったるい会話を繰り広げている三日月とテッサの真横を通ってカピラ城へと向かった。
ベカスと影麟がその場から立ち去ってもなお、2人の会話は続く……
「水着って、海とかで泳ぐ時に着ける服のことでしょ? お風呂の時にそれ着たら、ちゃんと体洗えないんじゃないの?」
「あ、それに関しては心配には及びません! お風呂に入る時用の水着を持ってるってミドリさんが言っていましたので、多分問題ないと思いますよ!」
「ミドリちゃんが? ふーん……」
それは普通の水着と何が違うのだろうか? 三日月はそんなことを考えつつ、テッサの顔に目をやると、彼女はそわそわとした表情を浮かべていた。
「まあ、いっか……少しだけなら」
「本当ですか! やった!」
三日月が提案を聞き入れてくれたことに、テッサはとびっきりの笑顔を浮かべて喜んだ。
「お風呂♪ お風呂♪ 一緒にお風呂〜♫ 」
「そんなに嬉しいの?」
「はい、とっても! 三日月さん、お互いに体の隅々まで洗いっこして、それからお湯に浸かって、2人とものぼせちゃうまでお風呂でゆったりとしましょうね!」
「……少しだけなんだけど?」
あくまでもお風呂は少しだけと釘を刺した三日月だったが、その言葉はテッサには届いていないようだった。
彼女は赤らんだ頰を両手で抑え、うっとりとした表情でこの後の三日月とのお風呂に、期待で胸を膨らませていた。
「あれ? ベカスは……?」
そこで三日月は、自分の隣にいたはずのベカスと影麟がどこかへ行ってしまったことにようやく気づくことができた。
「どうしたの? 三日月さん」
「いや、ついさっきまでここにベカスと影麟がいたはずなのに……どこ行っちゃったんだろうなって」
「え、誰ですか? それ……」
「え?」
2人の姿を探し、辺りを見回していた三日月が振り返ると、テッサはきょとんとした表情を浮かべていた。まるで、つい先ほどまでこの場にいた2人のことをまるで認識していなかったような具合である。
「あ、そっか……テッサは影麟と会うのは初めてだっけ? でも、ベカスのことは知ってるでしょ?」
「……えっと、どちら様ですか?」
「……え?」
疑問符を浮かべて首を傾るテッサに、三日月は彼女が自分のことをからかっているのだろうと一瞬疑いはしたものの、彼女がそうする意味もなければ理由もないことに気づき、疑問符を浮かべた。
「もしかして三日月さんが探していた人のことですか?」
「…………ま、いっか」
なぜかベカスと影麟のことを認識していなかった(ベカスに至っては記憶すらされてなかった)テッサのことを心配しつつも、特に支障はないと判断し……また、カピラ城に行けばベカスたちとはまた会えるだろうと思って、三日月はこのおかしな事象に関することを考えるのをやめることにした。
「そういえばテッサ、バルキリーのチェックは終わったの?」
「はい! だから、三日月さんのことを迎えに行こうと思って」
「別に、俺のことは気にしなくてもよかったのに」
「いえ! 三日月さんの身に何かあってからでは遅いと思って……それに昨日のこともあるから、どこに反乱軍の刺客が紛れ込んでいるのか分かりませんし」
テッサの言う『昨日こと』とは、シャラナ姫の命を狙うべく、反乱軍がカピラ城へ暗殺部隊を送り込んだことだった。
幸いなことに、薔薇十字騎士団とオーガス小隊の活躍によって暗殺部隊のリーダーであるアイシャは捕らえられ、シャラナ姫の暗殺は未然に防がれる形となった。しかし、巨大なカピラ城下内部に、まだ暗殺部隊のメンバーや反乱軍のシンパが潜んでいるという可能性は捨てきれなかった。
「だから、もしもの時に備えて三日月さんは私が護ります!」
そう言ってテッサは目にも留まらぬ速さで腰のホルスターから二丁の短機関銃(MP7)を取り出して両手に保持した。突然、平穏な街中でテッサが銃を取り出したことに三日月は少しだけたじろいだ。
「そんなに心配しなくても、自分の身くらい自分で……」
「まあまあ、そう言わずに♪」
テッサは短機関銃を素早くしまって三日月の隣に来ると、まるで恋人同士であるかのように三日月の腕を自分の胸に優しく抱いた。
「三日月さんには凄く感謝しているんです」
そう言ってテッサは三日月へと寄り添う。
2人の顔が、目と鼻の先ほどに接近する。
「三日月さんがいてくれたからこそ、私は、それまで過去に囚われるだけだった弱い自分を変えることができました。それに、三日月さんは私に明日を生きる勇気をくれたし、私とアイルーに新しい居場所を与えてくれた……貰ってばかりだから、これからはその恩を私の一生をかけて返したいと思っています」
「……俺は何もしてないよ」
間近に迫ったテッサ息遣いを肌で感じながら、三日月は小さく首を振った。
「変わろうと願って努力したのはテッサで、俺はそれを横から見ていただけ。それにテッサの人生なんだから、俺なんかに構わず自分の好きなようにして欲しい」
「じゃあ、好きなようにしますね」
そう言って、テッサは三日月の腕を強く抱きしめた。
「三日月さんが拾ってくれたから、今の私があるんです。今の私はもう、三日月さんのものです。……だから、少しでも三日月さんのお役に立てることが私の好きなことで、私はそれでも……」
テッサが言葉を続けようとしたその時……
「……ッ!?」
次の瞬間、テッサの表情が凍りついた。
「?」
テッサの息を呑む気配を感じ取った三日月は、ゆっくりと彼女の顔を覗き込んだ。彼女の顔からはつい先ほどまでの明るい表情は消え失せ、徐々に暗い影が落ち始めている……
三日月がそれを不審に思っていると、テッサは何やら三日月の体に顔を埋め、大胆なことにその場で三日月の匂いを嗅ぎ始めた。
「テッサ?」
「三日月さんの体から、別の女の匂いがする……」
顔を上げたテッサがそんなことを呟いた。
見ると、実の母親から受け継いだテッサの美しい瞳が光を失い、泥のような濁ったような色をしていた。しかし、三日月がそれに気づいた時にはすでに遅く……
「……え?」
次の瞬間、三日月は正面からテッサに抱きしめられ、少しだけ戸惑ったような表情を浮かべた。
「微かに、だけど…………とっても不快」
つい先ほどまで、スロカイと話をしていたことでつけていた香水の匂いが移ってしまっていたのだろう……とても微かな匂いを探知し、テッサは三日月の耳元で冷淡に囁いた。
「私の匂いで、上書き……しなきゃ」
そう言ってテッサは、三日月の体に自身の体を擦り付け始めた。冷たい笑顔を浮かべて匂いを移そうとしてくるテッサ……彼女の体から放たれる強烈なプレッシャーを感じ取り、三日月は薄ら寒いものを感じた。
「……テッサ」
「…………」
「テッサ!」
「…………ッ!」
三日月の強い呼びかけに反応し、テッサはびくりと体を震わせた。
「え……? って、三日月さん!?」
我に返ったテッサは、いつの間にか自分が三日月のことを真正面から抱きしめている状態になっていることに気がつくと、頰を赤らめ、慌てて三日月から離れた。
その瞳は、いつもの明るい色をしていた。
「わわわわわっ……私は……一体何を!?」
「覚えてないの?」
「うん……」
憧れの人に、自分から抱きついてしまったことに恥ずかしさを覚えたのか、テッサは蚊の鳴くような声と共に小さく頷いた。そして、三日月の目には、彼女がとても嘘を言っているようには見えなかった。
「テッサって、変わったね」
「えっと……それってどういう……?」
「ううん、何でもない」
「そ、そうですか……?」
疑問符を浮かべつつも、つい先ほどまで抱き合っていたことを思い出したのか、テッサは幸せそうな笑みを浮かべた。その表情に、先ほどの黒い片鱗は全くと言っていいほど垣間見えない。
「気のせい、かな……」
そんなテッサを見て、三日月は疲れているから変な夢でも見たのだろうと判断し、そんなことよりもアイルーが作ってくれる手料理の方が気になっていることもあって、2人はミドリの待つ輸送機へと帰宅するのだった……
機動戦隊アイアンブラッドサーガ
第32話:3機目の亡霊
その日の深夜
チュゼール東側
見渡すばかり何もない荒野。周囲に街もなく、道路すらなく、あるとすれば地面から突き出た岩が少しと、単調な色調の大地に緑の抑揚をもたらす僅かな草木ばかりで、それ以外には本当に何もない場所……
荒野の片隅……大岩の隣で、4機のBMからなる小隊が駐留していた。大岩を中心に、大量の反射板と干渉妨害パックで構成された巨大なステルスフィールドが展開され、その中に身を隠すようにして複数名の人物がテントを張り、つかの間の休息を取っていた。
「まだ見つからないの? これで何度目よ!」
会議室用のテントの中で、仲間からシェリーゼと呼ばれる女性が荒々しく叫び、手にしたナイフを勢いよくデスクの上に突き立てた。
「シェリーゼ、君の気持ちは分からなくもないが、オーシン様のためにもうちょっと周囲を探して、手がかりがあるか探してみよう」
シェリーゼの近くにいた1人の男が、調査の為に持っていたチュゼールの地図から目を離し、怒りに震える彼女のことを宥めようと声を発した。
「オーランド! アンタはオーシン様オーシン様って、いっつもそればっかりだよなぁ? ちょっとは他に言うことあるんじゃないの?」
「仕方ないだろう? それがオーシン様の命令なのだから、少しくらい我慢しろ」
「ハッ、オーシン様大好きかよ……飼い犬め!」
シェリーゼはそう言ってその男……オーランドを罵倒した。しかし、オーランドは特に気にした様子もなく、目を瞑って明後日の方向へ目を向けた。
「おい、聞いてんのかよ? ったく、あの舌先三寸の情報屋にあっさり金を払うんじゃなくて、直接縛ってここに連れてこれば良かったのよ……」
「そんなことをしたら、次からは誰も俺たち情報を売らなくなる。そもそも、伝説の古代巨神の手がかりなんぞ金で簡単に手に入るものではない……だからこそ、こうして地道に捜索を続けているんだ!」
「んなこた分かってるのよ! だからって、信憑性のない噂を信じてこんな何もないところをずっと歩きまわるってのはどうなのよ! つまんなすぎ! どうせなら、もっと如何にも何かありそうな遺跡なんかを調べればいいじゃないの!」
オーランドが何を言っても文句ばかりを言うシェリーゼに、同じテントの中にいたソロモンの研究員達は困り果てた表情を浮かべた。
ソロモンの戦闘員である2人は、ソロモンの盟主・オーシンの命を受けて、チュゼールに眠るとされている古代兵器:十二巨神の捜索を行うべく、数ヶ月前より数十名の研究員達と共にチュゼールの探索を行っていた。
しかし、情報屋に大量の金を渡し古代巨神に関する情報を集め、チュゼール領域をしらみ潰しに探すも、ここまで全くと言っていいほど何の成果も得られずにいた。
コツコツと積み重ねていくこと慣れている研究員たちは、この状況に対して何のストレスも抱いてはいなかったが、しかし戦闘員であり、大雑把な性格のシェリーゼにしてみれば、あるかどうかすら不明なものを探すと言うのはただの苦行でしかなかった。
「はいはいシェリーゼちゃんよ、もうオーランドさんを勘弁してやってくれよ」
「黙れ、ハゲ!」
シェリーゼの怒りを抑えられなくなったオーランドに、テントの中にいたもう1人の戦闘員……ブラドレイが助け舟を出すも、シェリーゼはブラドレイの寂しい頭部を指差して一蹴した。
「なぬ!? 人が気にしていることを……」
「あの……皆さん?」
ブラドレイが怒りを露わにしようとしたところで、突如としてテントの中に入ってきた人物に、その場にいた全員の視線が集まった。特に苛立ちを募らせたシェリーゼは一際強い視線を送ったことで、その人物は少しだけ臆したようだった。
「あんだよ? メル!」
「いえ、少しお伝えしたいことがありまして……」
薄汚れた外套を着込み、フードを深く被ったその男……メルは、怒った様子のシェリーゼに思わず尻込みした。
「何よ! 古代巨神でも見つかったっての?」
「いえ、私は研究員ではないのでそれは……ああ、ですが古代巨神なんかよりも、もっと興味深いことが分かりました」
メルの一言に、その場にいたオーランドとブラドレイが意識を向けた。
「メル、なんだそれは?」
「はい……実は、あの機体に関することです」
そう言って、メルはテントの外を指差した。
テントから少し離れた、ステルスフィールドの隅……そこには、巨大な黒色のBMが膝立ちの姿勢で駐機していた。
ワイヤーと鎖で両手両足を何重にも巻かれ、封印された悪魔の姿があった。黒い装甲、V字アンテナ、光を失ったツインアイ、獣のような左腕、そして巨大な右腕が特徴的なその機体……
『LM-08? バルバトス』
強大な古代巨神の力に対抗すべく、オーシンの判断で調査隊と共にチュゼールに送られた『バルバトス』ことファトムであったが……しかし、古代巨神が起動するどころか発見すらされないこの状況下では、ほぼ無用の長物と化していた。
「は? あれがどうしたっていうのさ」
「実はですね、ファントム……いえ、バルバトスの戦闘データを抽出し、解析を行った結果、面白いことが判明しました」
メルはそこで、少し前にバルバトスが自動的に起動し、ステルスフィールドを離れて何処かへ行った時のことだと補足した。
因みに、バルバトスが自律的に自陣を離れた理由としては、機械教廷のシンシアとソロモン上層部が交わした密約(スロカイの暗殺)の為だったのだが、下っ端の戦闘員であるこの者たちがそれを知る由はなかった。
「ああ、そう言えばそんなこともあったな」
「メル、あれは一体何だったのだ?」
オーランドとブラドレイはファントムへ視線を送った。
「アレがどういう目的で行動したのか、詳しい理由はまだ分かっていません。ですがレコーダーを解析した結果、どうやらバルバトスはあの日、謎のBM小隊との戦闘を繰り広げていたことが分かりました」
「あ? 謎のBM小隊だって?」
「はい。その謎のBM小隊はバルバトスと交戦し、しかもほぼ互角にやり合っていたようです。単機で極東を破壊したあの悪魔とですよ? ですが、驚くにはまだ早いです……」
興奮冷めやらぬといった様子でメルは続ける。
「更なる解析を行なった結果、なんとそれが『白鯨』所属機である可能性が浮上してきました」
「なあオーランド、白鯨ってなんだ?」
「さあ? 俺にもよく分からない……」
メルの言葉にイマイチピンと来なかったようで、シェリーゼとオーランドは肩をすくめてみせた。その隣にいたブラドレイも聞きなれない単語に首を傾げた。
「まさか……白鯨を知らないのですか?」
メルは信じられないといったような眼差しで3人を見回した。それから『白鯨』についての説明をするべく、咳を一つして続けた。
「白い鯨と書いて『白鯨』 またの名を『モービィ・ディック』世界を股にかけて暗躍しているとされている伝説の傭兵集団です。組織のトップであるエイハブは謎の多い人物で、男か女かすら不明、その正体はAIであるという不確かな情報もあり……いえ、エイハブという名前すら、本名ではないのかもしれません」
「ふーん、そのモービーなんちゃらって部隊が、あのバルバトスと互角にやり合ったって言いたいわけ?」
「ブラーフマが指揮するチュゼールの部隊だった可能性もあるのではないか?」
メルの説明を聞いて、シェリーゼとブラドレイがそれぞれ抱いた疑問を口にした。
「確証はありません。ですが、戦闘記録とチュゼールに彼らの出現したという最近の噂を踏まえると、ファントムと戦ったのは彼らである可能性は十分に考えられます。貧弱なブラーフマの軍だったという可能性もあり得ませんね」
「確かに、バルバトスの力はとても強大だとオーシン様が仰っていた。口先だけのブラーフマ軍が相手にできる代物ではない」
メルの言葉に、オーランドは納得したように頷いた。
「その通りです。かつて、傭兵でありながら合衆国とブリテンの間に勃発した大陸間戦争を初めとする3つの大規模国家間戦争と、12の内戦の泥沼化を回避し、平和的解決へと導いた『伝説の指揮官』が存在しました。『白鯨』のエイハブは……その、名もなき『伝説の指揮官』と同一人物であるとされています」
「ちょっと待て! メル、合衆国とブリテンの間で勃発した戦争といえば新大陸戦争のことだよな? 帝国が勝利したあの戦いは確か、ゲーテ宰相が合衆国とライン連邦の連携を妨害したことで勝敗が決したとされているはずだが……?」
「……ああ、それはあくまでも表向きの話でして」
疑問符を浮かべて反論したオーランドに、メルはニヤリと笑って指を振った。
「所詮、政治は政治……ゲーテ宰相がどれだけ有望であっても、ただそれだけです。考えても見てくださいよ、いくらリヒャルト様が帝国にいた際に開発した帝騎の性能が、合衆国の量産型BMの性能を遥かに上回るとはいえ、国力の差は歴然、巨大国家である合衆国は機体性能の差を簡単に覆えせるだけの戦力を持っていたのですよ? それが、たかがライン連邦との連携を崩されただけで雌雄が決すると思いますか?」
メルはそう言って肩をすくめてみせた。
「政治だけで戦争は勝てませんよ。新大陸戦争当時の合衆国大統領が綴った回顧録にはこう書かれていました……『帝国がライン連邦との連携を潰してくるのは想定内であり、我々にはそれに代わる新たな戦略を既にいくつも用意していた』とね……しかし、その企みも事前にエイハブによって打ち砕かれ、合衆国は帝国侵略の為の行動オプションを全て失い、やむなく停戦協定に合意した。これが新大陸戦争の真実です」
「つまり、俺たちが知っている新大陸戦争に関する情報は間違っているということか?」
「その通りです。最も、無知で傲慢な帝国の貴族連中はあの戦争に勝利したのは自分たちの力が優れていたからだと信じているのでしょうがね。教科書には載らない裏の歴史です……是非、覚えておいてください」
そう言ってメルは小さく頭を下げた。
「傭兵組織でありながら、巨大国家と対等に渡り合えるだけの戦力を保有している。彼らはまさにオーバーテクノロジーの塊のような存在です。バルバトスと好き好んで戦おうとするだなんて、白鯨以外に考えられません……」
そう言ってメルはファントムをチラリと見た。
「噂によれば……彼らは少数精鋭でありながら、その科学力は我々が知り得ているものの20年先を行くとされていて、その気になれば全世界を3回も制圧できるほどの戦力を有しているとまで……」
「20年先だと? それはあり得んな」
その時、テントの中に新たな人物が姿を現した。
「ん……ああ、リヒャルト様でしたか」
それは白髪の老人……リヒャルトだった。
ソロモンの中で最も優れた研究員とまで呼ばれる彼だったが、どういうわけか怪訝そうな顔をしてメルを見やっていた。
「メルよ。その話はするな」
「どうしてです?」
「奴らの存在は……所詮、噂に過ぎんからだ」
リヒャルトはそこで、盛大なため息を吐いた。
「いいか? いくら奴らが優れた科学力を保持していたとしても、我らソロモンに勝るということは絶対にあり得ない。何故なら、ソロモンは世界各国からこの私のような選りすぐりの天才を集結させているのだからな。たかが一組織の傭兵集団如きが、世界の支配者である我々ソロモンを超えるなど……そう、噂話が多くの人の耳に入る度に、元になった物語にいくつもの尾びれ背びれがつくのはよくあることなのだ」
「それは、そうかもしれませんが……」
リヒャルトの言葉に、メルの声のトーンが小さくなる。
「そもそも、エイハブと同一人物とされている伝説の指揮官は、今から数年前に何者かによって暗殺され、組織は空中分解を引き起こして消滅した筈だ」
「ですが、そのエイハブが蘇ったとしたら?」
「蘇る? いいや、そんなことはあり得ないな。社会に抗い、反旗を翻した世界の敵は海の藻屑と化して消えた……我々ソロモンも、何年にも渡って彼の行方を探したが、結局は見つからなかった。最近になって現れたエイハブという奴も、所詮は伝説の指揮官の名を騙る偽物に過ぎないのだろう……」
「む……やけに詳しいですな、リヒャルト様」
「…………」
メルの言葉に、リヒャルトは僅かな間沈黙した。
「…………ふん、とにかく今後このわしの前でその話はしないで貰いたい。合衆国であの子娘の元に潜り込んでいた時のように、また左遷はされたくないのだろう?」
「ハッ、失礼致しました」
テントから立ち去るリヒャルトを、メルはソロモン流の規則正しい敬礼と共に見送った。
「あのジジイどうしたんだ?」
「さあ?」
シェリーゼとオーランドはリヒャルトの態度を不審に思いつつも、彼にも色々あったのだろうと結論づけ、サラッと受け流すことにした。
「まあ、噂話の真偽がどうかはさておき……こちら側のバルバトスと対等にやり合える奴らがチュゼールにいるというのは少し厄介だな」
「そうだな。下手をすれば、古代巨神の発掘を行う俺たちの妨害をしてくるやもしれぬし……ところで、お前はそのモービィ・ディックとやらのことをよく知っていたな」
ブラドレイはオーランドの言葉に同意見だと示しつつ、何気なくメルへ話を振った。
「ええ。私はキャプテン・エイハブのファンなので」
メルは小さく笑ってブラドレイへそう告げた後、そそくさとテントを後にした。
「へい皆、誰かが来たようだ」
メルがテントを去ってからしばらくして、キャンプの見張りを行なっていたセレニティがテントの中へと入ってきた。
それを聞いたシェリーゼを始めとするソロモンの戦闘員たちは、すぐさま身支度を整えてテントから飛び出ると、すぐ近くに駐機させていた自分の機体(パイモン)へと乗り込んだ。
「フル装備のBM……何者だ?」
ステルスフィールドの中から、ライフルのスコープ越しに自分たちのすぐ近く(数キロ先)を通過する部隊を見つけ、オーランドが呟く。
「さっき言ってた、モービーなんちゃらって奴らか?」
「いや、使用している機甲からして通りすがりのチュゼール軍人の部隊だろう」
近接戦闘用のナイフを取り出したシェリーゼに、両腕に装備した巨大なナックルを打ち付け合いながらブラドレイが答えた。
「奴ら、何故ここに?」
「さあねぇ? もしかしたら、私たちと同じ目的を持っているかもしれないね〜」
「……?」
ライフルのスコープを覗き込んでいたオーランドは、モニターに映るセレニティの顔に目をやった。彼女の表情は、悪意に満ちた笑顔が浮かび上がっている。
「おう? 彼らも古代巨神を探しているというのか?」
「そんなこたぁ関係ないね。肝心なのは、やっと暇潰しできる相手が見つかったってことよ〜」
ブラドレイにそう返しながら、セレニティこと『黒き猟兵』は機体の出力を最大限にまで解放させていく……そして、今まさに出力を解放させてステルスフィールドの中から飛び出そうとした、その時だった。
「待て! セレニティ!」
「あ!? 何だよオーランド?」
「う、後ろだ!」
「後ろ? 後ろがなんだって…………え?」
上ずったようなオーランドの声にセレニティが振り返ると……いつからそこにいたのだろうか、黒い機体がセレニティの真後ろに佇んでいた。
「な……!? バルバトス……?」
機体の動きを封じていたワイヤーはいつのまにか外されており、鎖から解き放たれた悪魔は赤黒いツインアイから凶悪な光を放った。黒い機体から放たれる猛烈なアトモスフィアに、その場にいたセレニティを始めとする誰もが絶句した。
『…………』
しかし、バルバトスはそんなセレニティたちのことなど眼中にないようで、すぐ側を通り過ぎるとそのままステルスフィールドをくぐり抜け、チュゼール軍人の部隊の方に向かって歩いて行った。
「おい、お前……待て!」
ショックから立ち直ったセレニティがバルバトスの方へと向かおうとした時だった。バルバトスの周囲に12個の黒い異空間が出現したかと思うと、その中から合計12本の巨大な突起物が姿を現した。
形からして、突起物はミサイルのようだった。
『ア ト ミ ッ ク……』
バルバトスは数キロメートル先を行軍するチュゼールの部隊めがけて、獣の左腕を突き出した。
『全機、今すぐにFSフィールドを最大出力で稼働させるんだ! 電子回路が焼き切れても構わん!』
その時、4人の機体に装備された通信機にリヒャルトの声が響き渡った。しかも、映像に映し出された老人の表情は蒼白に染まっている。
「どうしたジジイ、何を慌てて……」
『あれは核だ! バルバトスは核攻撃を行おうとしている!』
「……!!!!」
ことの重大性に気づいた4人がパイモンのFSフィールドを最大出力で展開させた、まさにその瞬間……
『……ク エ イ ク!』
巨大な爆発が、チュゼールに生まれた。
生み出された白い光が全てを包み込み
そして、爆心地にいた全てを消滅させた。
ーーーーー
「全員、生きてるか……?」
「ああ、何とかね……」
やがて白い光が収まると、辺り一面は焼け野原と化していた。あまりの高熱で地面の一部は融解し、土中の水分が蒸発しているのだろう……大量の煙が吹き上がり、そればかりか大地の至るところから不気味な青白い焔が立ち上り、4機がFSフィールドを重ねて爆発を防いだ箇所以外は放射能で汚染され、今後数十年に渡って不毛の土地となったことだろう。
『セレニティ、状況を報告しろ』
通信機からリヒャルトの声が響き渡る。
「なんだよ、ジジイ生きてんのかよ」
『かってにわしを殺すな。こんな事もあろうかと、耐爆装備を施したトレーラーを持ってきておいて正解だった……!』
「へっ、それはそれは……死にぞこなったな」
核攻撃の衝撃波を間近に受けてもなお、ショックを受けるどころか元気そうなリヒャルトを見て、セレニティは額に浮かんだ大量の汗を拭いつつ皮肉を言った。
『それで、状況は?』
「アタシらなら全員無事だよ、何とかね……」
『違う! お前達のことなどどうでもいい! それよりもバルバトスだ……バルバトスの状況はどうなのだ!?』
「あ? そっちかよ……でもなぁ状況って言ったってよぉ……この煙の中じゃ何も見えねぇし、オーランド、そっちはどうだ?」
セレニティはオーランドの方へ視線を送った。
「まだ何も…………いや、いた!」
ライフルのスコープを覗き込んで煙の中を見渡していたオーランドは、爆心地の中央に佇むバルバトスの姿を見つけて叫んだ。
『バルバトスは無事か?』
「はい。しかし、酷いな……これは」
12発もの核弾頭が一点に集中して直撃したのだろう……つい先ほどまでチュゼールの部隊が存在していたその場所は半径数百メートル、全高数十メートルにも及ぶ巨大な窪地と化していた。
当然のことながら、核ミサイルによって生み出された膨大な熱と圧力は、爆心地にいたチュゼールの部隊に破滅的な被害をもたらし、機体の欠片どころか人肉の一欠片すら残すことなく焼き払い、部隊を構成していたありとあらゆる物質をこの世から消滅させていた。
「どこへ行く?」
ファントムが窪地に入っていくのを見て、オーランドは危険だと思いつつもパイモンを進ませ、その後を追った。
「奴は何をしているんだ……?」
窪地の手前から中を覗き込むと、ファントムがその中心部で片膝をつき、何やら巨大な右腕で地面を殴り、何かを掘り起こそうとしているのが確認できた。
オーランドが見ている映像は、通信機を介してリヒャルトも見ることができた。しばらくの間、ファントムの様子を伺っていた一同だったが、突然、ファントムが地面から掘り出した金属でできた『何か』を天へ掲げ上げたのを見て、映像を見ていた全員が驚愕した。
『この反応……まさか!?』
トレーラーの中から映像を見ていたリヒャルトは画面上に映し出された新たな識別コードを見て慌てふためき、それから非常に興奮したような様子になると、映像を映し出すモニターに向かって、齧り付かんばかりの勢いで身を乗り出した。
『すぐにオーシン様へ連絡を! そして伝えるんだ!』
リヒャルトは画面に釘付けになったまま、背後の研究員達へ指示を送った。
『新たなゴエティアが発見されたと!』
ーーーーー
ほぼ同時刻
カピラ城下
ファントムの核攻撃によって生じた白い光は、遠く離れたカピラ城下からでも確認することができた。
「あれは……?」
東の空が、まるで夜が明けたかのように光り輝く光景を、白髪の女性……テレサはカピラ城の門の外から目撃していた。
「……くっ!?」
次の瞬間、強い揺れが彼女を襲った。
先のファントムとの戦いで負傷していた彼女は、核攻撃によって遅れて伝わってきた地震に耐えることができずバランスを崩してしまった。
「…………!」
しかし、あわや転倒しかけたところで、その隣にいた人物に抱きとめられ、体を支えられたことによってどうにか転倒を免れることが出来た。
「……ありがとう」
強い揺れが収まると、テレサは自分の体を抱きとめてくれたその人の顔を見上げた。白い制服の上にジャケットを着込み、フードを深く被っている。テレサはその人物に向かって暖かい笑みを向けると共に短く礼を告げると、もう大丈夫であることを示して体を離した。
「…………」
「そうね。行きましょう……」
そうして、その人物と短いやりとりを交わした後、2人はカピラ城下の門をくぐってカピラ市街へ侵入。そして、街の中にある一軒の高級ホテルに向かって足を踏み出すのだった。
(読み飛ばし推奨↓)
核が落ちたことを文字だけで描写する際、他の方々はどのような表現を用いているのでしょうか? 今回はそんなことを思いながら書いていました。そもそもアイサガにおけるエネルギー事情というのはどうなっているんでしょうか? 冒頭の方でもスロカイ様が原子力発電でメルトダウン云々語ってはいましたが、現代より数百年未来の描いたアイサガの世界線でも未だに原子力発電はメジャーなのでしょうか? それともまた別のエネルギー調達の方法が編み出されているのか……非常に気になるところです。
まあまあ、堅苦しいのはここまでで……
本題に入りますが、アイサガ本編では影りんとウェスパたちの貴重なお風呂シーン(テコ入れってやつなのです?)がありまして、尺の都合上、本作ではカットして、その代わりに三日月とテッサたちが一緒にお風呂に入るみたいな展開を入れてみたのです! いや流石にお風呂シーンは描きませんよ? 甘々なのは『おねショタサーガ』でたっぷりやるつもりなので……ここでは別にいいかなって思ったのです。
で、一応お聞きしますが
……見たい?
一応、書けないこともないですよ?
おねショタサーガである程度の甘々な表現は練習しているので、今ならそれなりのものは作れるとは思うのです。ああ、今のところ作る気はないのでご安心を……ただ、ちょっと聞いてみたかっただけなのです。
というわけで次回予告です。
エル「スロカイ様、今会いにいきます!」
フル「あと、アルファチームが再登場です!」
エル&フル「「次回、『アイラ(略)城の悲劇』(仮)」」
エル「なるほどね!これが『噛ませ犬』なのね!」
アイサガで貴方の好きなキャラを教えてください。(回答はこちらではなく気軽にコメントの方へお願いします)
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境界戦機もっと流行れ
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鉄血・ブレットもっと流行れ
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水星の魔女×鉄血のオルフェンズ?
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あと、アイサガのエンディングも作ります