機動戦隊アイアンブラッドサーガー悪魔と少女と機甲ー 作:野生のムジナは語彙力がない
前回に引き続き、今回も薔薇十字騎士団の話となっております。(本編との整合性を考えると)皆様が期待しているであろう、三日月の活躍は次の話から本格的に書いていきたいと思っていますので、どうか……
それでは続きをどうぞ……
「薔薇十字騎士団所属、騎士・カロル」
紅い機体に乗った少女は名乗りを上げると、ブレードの切っ先を白虎に向けた。
「見せてあげましょう。騎士の戦いというものを!」
「……なんだ……?」
英麒は、白銀の装甲をパージし紅い機体へと変貌を遂げた『ナイト』だったものを見つめた。フリーランスの傭兵として世界を気ままに巡る傍ら、ゼネラルエンジンや地中海複合企業など大手メーカーの開発したありとあらゆるBMを見てきた彼だったが、目の前に佇む機体は、そんな彼にとっても未知の存在だった。
見たこともない独特なフォルム、機体の各所から放たれる赤い輝き……装甲を外して中身が飛び出てきたというのもそうだが、明らかに先ほどまでの『ナイト』とは違った性質を持つであろう、その機体を前に、英麒は奇妙な気配を感じていた。
「驚かせやがって! ただ装甲を外しただけじゃねぇか」
「はっ! そんな骨だけの機体で何ができる!」
「これならオレらにだって!」
しかし、英麒と比べると実戦経験の浅い反乱軍の兵士たちは、『ナイト』が装甲をパージしたことでフレームが剥き出しの状態になったのだと勘違いしたのか、使い物にならなくなったワイヤーを破棄して近接格闘兵装であるシミターを取り出し、余裕の表情を浮かべて赤い機体へと詰め寄った。
「ま、待て! お前ら……」
英麒が部下たちに制止を呼びかけた時には、既に遅く……
「なっ!?」
それはたった一瞬の出来事だった。
赤い機体を前後左右から囲み、逃げられないようほぼ同時にシミターによる斬撃を繰り出そうとした反乱軍兵士たちだったのだが、それよりも早く赤い機体はその場で機体をロールさせ、右手のブレードを……ではなく、回転しながら両腕に装着されたビームピストルを斉射した。
騎士らしく剣による反撃が来ることを見越していた反乱軍兵士たちは、赤い機体のこの行動に全くと言っていいほど対処することが出来ず、4機ともコックピットを撃ち抜かれてあえなく沈黙した。
さらに攻撃はそれで終わりではなく、赤い機体の放ったビーム攻撃は周囲で様子を伺っていた反乱軍機にも向けられた。その全てが機体のコックピットを正確に撃ち抜き、爆発で市街地に被害が及ばないよう機体はそのままパイロットだけを焼き殺してアイラーヴァタ城下の被害を最小限に留めていた。
それまで住民の憩いの場となっていた街の広場は、すっかりスクラップの山と化してしまった。唯一、英麒だけは騎士の行動を警戒していたこともあってギリギリのところで回避することに成功していた。
「次は、貴方です」
カロルはブレードを構え直し、英麒を見据えた。
「チッ……騎士のくせに銃かよ」
自分の部下たちが無惨にもやられていく様を、ただ見ていることしか出来なかった英麒はそんな悪態を吐いた。
「いけませんか?」
「いや、そんなこたぁねぇよ。ただな、帝国騎士を名乗るお前が、剣を使うと見せかけてそんな騙し討ちみてぇなことをするなんて思わなかっただけだ〜」
「……何か、勘違いをされているようですね?」
肩をすくめて皮肉を込めてそう告げる英麒に、騎士の少女……カロルは、彼の言葉を全く気にしていないとでもいうかのように小さく笑った。
「はい、私は帝国の騎士です。いえ……正確には帝国の騎士でした、つい先ほどまでは……」
静かにそう告げるカロルの口調は、今が戦闘中とは思えないほど、とても穏やかなものだった。
「ですが、帝国の騎士という偽装を脱ぎ捨て、私は薔薇十字の騎士として生まれ変わりました。つまり、今この場所に存在する私は帝国の騎士ではなく、他でもない閣下の騎士なんです。ですから、そんな私に帝国騎士のなんたるかについて問われても、お答えすることなど出来ませんね」
「ハッ……そういうことかよ、つまり割り切ったってことか。結局、お前さんの騎士道っていうのもその程度のものだったってことか」
「ええ。何とでもどうぞ? 先程から申している通り、私はあなた方の知っている騎士などではありませんので」
「…………」
いくら挑発しても相手がこちらの誘いに乗ってこないことに気づいた英麒は、やり方を変えることにした。
「お前、一体何者だ?」
先ほどまで嘲笑を消し、英麒は尋ねた。
「残念ですが、それにお答えするつもりはありません。そもそも、これから死にゆく者がそれを知って何になるっていうんです?」
「コイツ……へっ、言ってくれるじゃねーか…………よぉ!」
その瞬間、英麒は赤い機体めがけて白虎を突出させた。部下たちの二の舞いにならぬよう、相手の腕の動きに注意しつつ、短い距離を電光石火のごとく駆け抜けた。
「貰った!」
白虎の両腕に装備された高周波ブレードのカギ爪が鈍い音を響かせる。やがて高周波ブレードの間合いに入った英麒は、剣を保持したまま微動だにしない赤い機体めがけて容赦なく爪を突き出し……
「なっ……!?」
次の瞬間、英麒の視界から赤い機体が消失した。
突き出された高周波ブレードも空を切る。
「い、いない……どこだ!?」
「はい、こちらですよ」
「……ッッッ!!」
騎士の放った声を聞きつけ、英麒が振り返ると……いつからそこにいたのだろうか、英麒の背後と回り込んでいた赤い機体が、今まさにブレードを振り下ろそうとしているところだった。
「うお! あ……危ねぇ!」
英麒は悲鳴をあげた。振り下ろされたブレードを咄嗟に爪で受け止めていなければ、今頃白虎は真っ二つに両断されてしまっていたことだろう。
「み、見えなかった……!? こ、この俺様が……」
斬撃を何とか凌ぎきり、後方に跳躍して赤い機体から距離を取りつつ、英麒は驚愕した。
英麒は完璧な為政者となりうる存在を人工的に作り出す、非人道的な実験・悪魔の所業『霊獣計画』の集大成としてこの世に生を受けた、2つの個体のうちの1つだった。
その為、身体能力や反射神経、学習能力といったありとあらゆる面で人並み外れており、しかも驚異的なほどの回復力を持つことから、生まれながらにして完璧な存在である彼に敵はいなかった。
これに関して、英麒自身も自分の力をよく知っており、内心では唯一、育ての親である極東武帝を除いた自然のまま生まれたこの世の全ての弱者たちを見下している節もあった。
そして、育ての親である極東武帝が災害に巻き込まれてあっけなく死んだ今、自分こそが極東武帝に代わる世界最強の男であると信じて疑わなかった。このくだらない戦争が終わった後は、チュゼールの王になったブラーフマを殺害して王座に着き、ゆくゆくは世界の王として君臨し、自分のような存在を生み出した弱者どもを奴隷のように使うのも悪くない……彼は密かにそんな企みを抱いていた。
しかし、彼のその目論見は……
「今度はこっちの番ですね?」
今まさに、たった1人の少女によって打ち砕かれようとしていた。騎士カロルは、あの英麒ですら反応できないほどのスピードで一瞬にして距離を詰めると、型のない単純な動きで何度もブレードを振り下ろした。
「く……クソが!」
単純な軌道だが素早く威力のある斬撃。
避けることも反撃することもできず、かろうじて防御するも、その度に格闘機であり既存のBMを圧倒するパワーを持つはずの白虎がいとも容易く押されてしまう。
「崑崙製だけあって、意外と耐えるんですね」
「クソッ、クソッッッ! 単純だが全く隙がねぇ、一撃一撃がなんて重いんだ……いくら白虎でも、このままじゃあやられちまう!」
「では、これならどうですか!」
「がぁっ!」
そこでカロルは薙ぎ払いを放って白虎を弾き飛ばすと、姿勢を崩したところを狙って剣を大きく振りかぶった。
「ハッ……! 隙を見せたな!」
しかし、それは英麒の狙い通りだった。
薙ぎ払いを食らって転倒したように見せかけてカロルの全力攻撃を誘い、自身は機体に装備された懸架装置を使ってすぐさま起き上がると、射撃武装としても使える右腕の高周波ブレードを赤い機体に向けた。
威力は格闘武装として運用する時と比較すると劣るが、それでも超振動する刃は敵の装甲をズタズタに引き裂くだけの威力があった。英麒は間近に迫った赤い機体めがけてそれを射出しようとして……
「な!?」
しかし、射出しようとしたその時には既に、カロルは大振りの斬撃をキャンセルして白虎の懐に潜り込んでいた。左腕で白虎の腕を押しのけ、右腕を白虎の胸部へと押し付けてきた。
斬撃をするでもなくマニピュレーターによる打撃をするでもなく、ただ右腕を突きつけられたことに疑問を感じた英麒だったが、すぐさま騎士の意図に気づくこととなった。何故なら、赤い機体の右腕部に装備されたビームピストルの銃口に、光が集まるのを感じたからだ。
「……ッッッ!」
英麒はすぐさまコックピットの中で身を屈めた。
次の瞬間、放たれた粒子ビームが堅固な白虎の装甲を貫いてコックピット内部へと侵入……つい先ほどまで英麒の顔があった位置を通過すると、そのまま後ろ側へと抜けて機体を貫通、何もない空間をしばらく進んだ後、そのまま霧散した。
「あれ? まだ生きてるんですか?」
白虎の胸部に空いた大きな風穴から、ズタズタになったコックピットの中でしぶとく生き残っている英麒の姿を目撃したカロルは、めんどくさそうに彼を一瞥した。
「クソッッッ!!!!」
極東武帝との一悶着以来、久しく死の恐怖を感じた英麒は顔を真っ青にして赤い機体から距離を取った。そして、両腕部の高周波ブレードを射出し……
「な……バリア!? そんなのも貼れるのかよ!」
だが、白虎から放たれた2つの爪は赤い機体に直撃する手前で、見えない壁のような何かに阻まれてしまった。
鋭い金切り音が周囲に響き渡る。
英麒がそれをバリアだと認識した時には既に、バリアとの衝突で爪は一瞬にして摩耗し、高周波も意味をなさなくなっていた。
「それでは、終いです」
カロルはブレードを構え、英麒へと迫った。
「クソがあああああああああああああああ!!!」
高周波ブレードを失った白虎に、最早赤い機体の斬撃をブロックするだけの力はなかった。英麒は白虎に残されたありったけの出力を掌に集中させ、爆発性のあるエネルギー弾を形成すると、それを迫り来る赤い機体めがけて放った。
次の瞬間、赤い機体のバリアとエネルギー弾が衝突し、周囲が爆炎に包まれる。
「……クソッ、タダ働きなんてゴメンだね!」
爆炎から飛び出した英麒は、そんな捨て台詞と共に白虎を反転させ、そのまま脇目も振らずにアイラーヴァタ市街を駆け抜け逃走を始めた。
「逃がしません!」
少し遅れて爆炎の中から飛び出したカロルは、逃げる白虎の背中めがけて右腕のビームピストルを放とうとし……
『イレブン、ブラヴォー・イレブン!』
トリガーを引こうとしたところで、通信機から響き渡った声に反応してカロルの動きがピタリと止まった。
「ネームレスさん、今いいところなのに……」
『いや、もう十分だ。予定通り、アイラーヴァタ残党勢力による反攻作戦も開始されようとしている。これ以上の戦闘は無益だ、直ちにビバークポイントへ帰還せよ……ミッション・コンプリートだ』
「…………了解、イレブンRTB」
通信機から聞こえてきたその言葉にカロルは小さな溜息を吐き、改めて逃げる白虎を探した。しかし、英麒は既にアイラーヴァタ市街を脱出した後だった。
「まあ、今回は右腕だけで勘弁してあげましょう」
そう言ってカロルは、白虎からもぎ取った右腕を興味なさげな様子で地面に投げ捨てると、ステルス装置を起動させアイラーヴァタ市街から姿を消すのだった。
機動戦隊アイアンブラッドサーガ
第34話:騒乱の果てに
数時間後……
アイラーヴァタ城郊外
薔薇十字騎士団ビバーグポイント
「うぅ……」
褐色の肌を持つ少女……ポヨーナが目を覚ましたのは、チュゼールの広大な領土の向こう側に巨大な夕陽が沈もうとしている頃だった。
「ここは……?」
重たい頭を言い聞かせて、ポヨーナはゆっくりと身を起こした。そして状況を確認するべく周囲を見回すと、薄暗いテントの中で自分は簡易ベッドの上に寝かされているのだということに気づいた。
「ここ、どこ……?」
ポヨーナが見慣れない光景に戸惑っていると、その時、テントの中が一瞬だけ明るくなった。見ると、テントの幕が上がり、空いた隙間から差し込んできた夕陽と共に、何者かがテントの中に入って来ようとしていた。
「ああ、目を覚ましたのですね」
テントの中に姿を現した人物……それは女性だった。マントを羽織って純白のパイロットスーツに身を包み、腰にブレードを携え、端正な顔立ちと長く美しいブロンドを持ったその女性は、まるでブリテン神話に登場する伝説の女騎士と呼ぶに相応しい姿をしていた。
その手には、暖かな光を放つランタンが握られており、またパイロットスーツの胸元には薔薇と十字で構成されたシンボルマークが刻まれている。
ポヨーナはその騎士に見覚えがあった。
「えっと……あなたは、私を助けてくれた……」
その女騎士は、数時間前にポヨーナがチュゼールの地下で得体の知れない影に捕らわれ、洗脳されかけていたところを助けてくれた騎士たちの1人だった。
「サー、私は『白鯨』薔薇十字騎士団所属、アルファ・フォー。名をビアンカと申します……以後お見知り置きを……」
女騎士はそう言って小さく頭を下げた。
「き、騎士団……? ということは、あなたはクシャトリアなんですか?」
「いえ、私はグレートブリテン出身……この土地の者ではありません。なので恐縮する必要はありませんよ、ブリテンはバラモン教を信仰してはいませんので」
「そ、そうなんですね……」
ポヨーナは改めてビアンカを見つめた。
上品な佇まい、身なりも清潔で、そして同性である自分ですら思わず見惚れてしまいそうになるほど整った顔立ち。クシャトリアではなくとも、ビアンカと名乗る女性が高貴な身分であることはポヨーナの目にも明らかだった。
「あ、あの……」
「はい、何でしょう?」
「た、助けてくれてありがとうございます」
「いえ、それよりもご無事で何よりです」
そこでビアンカは優しく微笑みかけ、それからポヨーナへと手を差し伸べた。
「立てますか?」
「え? あ、はい……」
そう言いつつも、ポヨーナは自分に向けて差し伸べられた手を素直に取っていいものか心配になった。まさか自分のような賎民に、高貴な身分の人が手を差し伸べることなど生まれてから一度もなかったからだった。
「……あ」
恐る恐る手を伸ばしかけるも、指先が触れ合う直前で気が引けたのか、ポヨーナは手を引っ込めようとした。しかし、そんな彼女の心を察したビアンカは、それよりも早くポヨーナの手を優しく取った。
「あ……あの……っ!」
「大丈夫ですよ」
「いえ、そうじゃなくて……き、汚いですよ?」
「何がですか?」
「だって……私は賎民なんですよ……。私のような汚い人間が、あなたのような綺麗な人に触っちゃうと、あなたのことを汚してしまうんじゃ……」
「いいえ、あなたは汚くなんかありませんよ」
自分から離れて欲しいと必死に訴えかけるポヨーナに、ビアンカはそう言って距離を置くどころか、むしろポヨーナの手を両手で優しく包み込んだ。
「ここにいる限り、あなたは1人の立派な人間です。クシャトリアと賎民のような身分の差もありません。むしろ、こんな時でも私のことを気遣ってくれるのは、きっとポヨーナ様の心がお綺麗な証拠なのでしょうね」
「こ、心が綺麗って……! そ、そんなことは……それに、ポヨーナ様って……わ、私のことは、普通にポヨーナでいいです。いえ、ポヨーナって呼んで下さい……」
「そうですか。では、私のことも普通にビアンカとお呼び下さいませ」
ポヨーナの慌てぶりが面白かったのか、ビアンカは小さく笑ってお返しとばかりにそう告げた。
「そ、そんな……騎士様を呼び捨てになんて、そんな畏れ多いことできません!」
「ではポヨーナ様、何か不自由はありませんでしょうか?」
「……うぅ…………」
どうしていいか分からずポヨーナがオロオロしていると、そんな彼女の様子を見かねて、ビアンカは花のような笑みを浮かべて小さく息を吐いた。
「では、参りましょう」
「えっと……どこへ?」
「皆様が、お待ちになっております」
「皆様……?」
一体誰なのだろう? そんなことを考えながら、ポヨーナはビアンカに手を引かれるようにしてテントの外へと足を踏み出した。
そこは小高い丘だった。
遠くにそびえ立つアイラーヴァタ城とその周囲に広がる城下が一望でき、さらにその奥には赤く染まった空と、今まさにと沈み行く太陽を見ることができた。
少し冷たい風が吹き抜け、黄昏時の神秘的な雰囲気が周囲を満たしていた。その中、テントから少し離れた所で、ビアンカと同様に剣を携えた6人の騎士たちが焚き火を囲んで腰を下ろし、会合を行っている。
「ツー、アイラーヴァタの情勢は?」
騎士たちの内、仮面をつけた人物……仲間たちからネームレスと呼ばれている騎士が声を発した。顔全体を覆う騎士の白い仮面は、目の前で燃え盛る焚き火の光を受け、煌びやかな赤色に染まっていた。
「ああ、城を占領していた反乱軍は、アイラーヴァタ残党によって問題なく制圧された。……少し早まったが、全てキャプテン・エイハブの戦術予測通りということだ」
ツーと呼ばれた茶髪の騎士が、ネームレスの問いかけに答えた。
「制圧? 硬直状態ではなく?」
「そうだ、制圧だ」
「やけに早いな」
「俺もそう思った。だが事実だ……」
ツーは無表情のまま肩をすくめてみせた。
「というのも、どこかの誰かさんが城に駐留していた反乱軍の戦力を予想以上に叩いたことが影響している。つまり、やり過ぎたってことだ。尚、城のトップは戦死、No.2であった極東出身の長官は単独で敗走し……この時点で指揮をする者のいない反乱軍の負けは決まっていた」
「そうか。で、それをやったのが……この『新米』というわけか」
ネームレスの視線が動くのに合わせて、その場にいた全員の視線が『新米』と呼ばれた1人の小柄な騎士へと注がれた。
「あー……あはははは……」
『新米』と呼ばれたその少女……カロルは他の騎士たちのじっとりとした視線に思わずブリテンの伝統料理・スターゲイジーパイを食べる手を止め、苦笑いを浮かべた。
「ま、まあいいじゃないですか! こうして作戦も上手くいったことですし!」
「ハァー……ブラヴォー・イレブン。いや、騎士カロルよ」
奇妙な空気の中、それでも反省することなく明るい調子のカロルを見て、ネームレスは頭を抑え、仮面の中で深い溜息を吐いた。
「そもそも本作戦の目的は、この地に眠る十二巨神・シヴァとそのマスター候補であるターゲットの接触を妨害することにあった。アイラーヴァタ城近郊での作戦行動に当たり、その中でお前に与えられたロールは、作戦遂行の邪魔になると予想されたファクターに対するデコイ……つまり、反乱軍兵士たちの目を惹く囮役だったはずだ」
「はい、そうです。だから私は反乱軍さんたちの目を惹くために頑張って活躍……」
「だからといって、何も城下でエンゲージする必要はなかったはずだ。街中で戦闘を仕掛けるに至って、周りに被害が出るとは考えなかったのか?」
「か、考えましたよ! ちゃんと考えて、手加減して……アイラーヴァタ城の住民たちに被害が出ないように……」
「おいカロル。民間人だけではなく、市街への被害は考えなかったのか? さらに言えば、住民たちは昼夜問わず行われた連日の戦闘で精神的にも疲弊していたはずだが」
横から放たれたツーの言葉に、
「うぅ……」
カロルは悲しげな表情を浮かべた。
「だって……反乱軍さんたちが、あの広場で捕虜を処刑しようとしていたんです。見せしめのためだけに、無抵抗な人たちをあんな……だから、1人の騎士として許せなかったんです」
「その気持ちは分からなくもない。だが、一時の感情に流されて自分勝手な行動に走ろうとするのは、時に部隊全体の……む?」
ツーがそう言いかけたところで、ネームレスは掌を突き出してツーの言葉を遮った。それから彼は咳払いをしてカロルへと向き直り……
「……言いたいことは他にも色々あるが、まあいい。当初の予定であったターゲットの奪還作戦が上手くいったことには変わりないし、何より、お前のお陰でアイラーヴァタ残党がより動きやすい状態になれた。大義だ、騎士カロルよ。この戦果には、マスターもきっとお喜びになられることだろう」
「閣下がお喜びに!? や……やった!」
ネームレスの言葉に、カロルはとても嬉しそうな表情を浮かべた。戦果を上司に認められたのもそうだが、何よりも彼女が敬愛する『閣下』が喜んでくれることを想像すると、ついつい笑みが零れてしまうようである。
「甘いな、アルファ・ワン……いや、ネームレス」
だがその一方で、ツーはネームレスに向けてジロリとした視線を送っていた。
「いい。もう既に、カロルは自分のしてしまったことを理解している。分かっているのなら、わざわざこれ以上責め立てる必要はない……それに、この状況下でも自身の正義を貫き通したことには敬意を表するべきだ」
「それが危険だと言っている。戦場での自分勝手な行動は、己だけではなく……時に部隊全体を危険に晒す。だからこそ、規律は守らねばならない」
ツーの反論に、ネームレスは小さく頷いた。
「……そうだな、規律は守らねばならない。だが、戦場に身を置く中でも、それ以上に人として必要最低限の良心は身につけておくべきだろう。そうしなければ、我々は殺人マシーンと何ら変わらないのだ」
そこまで言って、ネームレスは焚き火の前でおもむろに立ち上がった。それに合わせて他の騎士たちも一斉に立ち上がり、浮かれていたカロルが立ち上がったのは1番最後のことだった。
「総員、注目!」
それからネームレスは真後ろに向かって身を翻し、ビアンカに連れられて焚き火の近くへにやってきたポヨーナを真っ直ぐに見つめた。それに合わせて他の騎士たちも一斉にポヨーナの方向へ体を向けた。
「え……えっと……」
突然の出来事に、ポヨーナは困惑するばかりである。
そんな彼女を前に、ネームレスは続ける。
「ポヨーナ様」
「なんで、私の名前を……」
「我々は、陰ながらずっと貴方様のことを見守ってきました。貴方様のお父上が亡くなられた時も、クシャトリアの男から酷い仕打ちを受けていた時も……」
「え……?」
衝撃的な事実に、ポヨーナは思わず口を開けた。
「我々の力を持ってすれば、今すぐにでもこの不条理な迫害から貴方様を救い出すことは可能でした。ですが、とある事情により今まで貴方様をお救いすることは出来なかった……」
そう言ってネームレスは、ポヨーナの前で素早く片膝をついて頭を垂れた。それはまるで、女王を前にした時のような礼儀正しさと厳粛さが込められているかのようだった。
「どうか、我々の力不足をお許し下さい」
ネームレスに倣って他の騎士たちも、ポヨーナの隣にいたビアンカですらも、彼女の前で素早く地面に膝をついた。
「え……ええ!?」
それを見て、ポヨーナはさらに困惑した。無理もない、出身は違えども自分よりも明らかに社会的な身分は上であろう騎士たちが、何のためらいもなく自分の前でひざまづいているのだ。
賎民という、チュゼールにおけるカースト制度の最下層であったポヨーナにしてみれば、まるで夢のような出来事であると言えた。
「か……顔を上げて下さい! わ、私なんかに……勿体ないです!」
突然の出来事にどうしていいか分からず、ポヨーナは顔を赤くして両手をぶんぶんと振っていると、目の前で膝をつく騎士の1人……カロルと目が合った。
「あ、あなたは……街にいた見習い騎士さん?」
「はい! また会いましたね、ポヨーナさん!」
ポヨーナの視線に、カロルはとびっきりの笑顔と共に手を振ってそう返した。しかしそれもつかの間、横から伸びてきたツーの手がカロルの頭をコツンと叩いた。
「い、痛いじゃないですか!」
「カロル、私語は謹め」
「うぅ……すみませんでした」
指摘され、カロルは目に涙を浮かべつつ姿勢を正した。
「ツー、例のものを」
「了解」
ネームレスに呼ばれ、ツーは1人その場から立ち上がると、ゆっくりとポヨーナの元へと歩み寄った。その手には、小さな電子端末が握られている。
「これを」
ツーは持っていた電子端末を差し出した。
「えっと、これは……?」
「これは貴方が得る筈だったものです」
ポヨーナの手に端末を握らせ、ツーは静かにそう告げた。
「こ、これって……!」
端末の中を覗き込んで、ポヨーナは驚愕した。
それは全世界で使うことのできる国際銀行の電子通帳だったのだが、そこに記載されていた残高は、ポヨーナが今まで見たこともないほどの額が記載されていた。
「な、何でこんなに……?」
「あのクシャトリアは嘘をついていた。貴方の技術は素晴らしい、ならばそれに対する正当な報酬を受け取るべきだろう」
最後にそう告げて、ツーは列の中へと戻った。
「私たちからはこれを……」
ポヨーナの前へ、さらに2人の騎士が歩み寄った。スリーとファイブ、騎士たちは短くそう名乗った後、ポヨーナの前に小さな機械を置いた。
「わぁ、みんな……!」
三体の小さな機械を見て、ポヨーナは思わず歓喜の声を上げた。それは親も兄弟もいないポヨーナにとって、寂しさを紛らわすことのできる存在であり、唯一の家族であるチビロボットたちだった。
「うぅ……みんな無事で、よかったよぉ……」
ポヨーナは地面にへたり込み、自分の足元までトコトコと寄ってきたチビロボットたちを涙ながらに抱きしめた。チビロボットたちも、ポヨーナと再会できたことが嬉しいのか、ピョンピョンと飛び跳ねている。
「ふむ、大規模な設備を必要とせず、たった1人でこれほどのものを作り上げるとは……マスターの言っていた通り、優秀なようだ。是非とも我々の一員となり、共にマスターの理想を実現させる為の手伝いをして貰いたいものだな」
ポヨーナが落ち着くのを見計らって、ネームレスはさりげなくそう告げた。すると、ポヨーナは思わず顔を上げた。
「えっと……それって……」
「貴方がまたいつもと変わらぬ自分の日常に戻りたいというのなら、我々は止めはしない。だが、我々と共にマスターの元へ来たいというのなら、大いに歓迎しよう」
「い、いいんですか? 私なんかが、ついて行っても……?」
ポヨーナはそこで騎士たちを見回した。そして、その場にいた全員が、瞳に強い光を浮かべて自分のことを見つめていることに気づいた。
「貴方だからこそ良い……マスターはそう仰られていましたよ」
ポヨーナの側にいたビアンカが、そう言ってポヨーナに手を差し伸べてきた。
「さすれば、マスターはそれまでにない活躍の場を与え、そして貴方に新しい世界を見せてくださるでしょう……」
「…………」
ポヨーナは黙ってビアンカの手を見つめた。
コツコツと努力を積み重ねてペット製作の腕を上げ、いつか多くの人に認められる技術者になりたい……心の底からそう願っていたポヨーナだったが、しかし賎民である以上、その夢が到底叶うものではないことは彼女自身、重々承知していた。
終わりの見えない道、自分は一体いつまで努力を重ねれば良いのだろうか……? 貧しい現実からふとした時にそう考え、挫折しそうになったことも多々あった。
それでも直向きな努力を続け、寝る間を惜しんで勉強し、食費を削ってまでペットの開発費に充ててきた……そんな彼女の今まで積み重ねてきた途方もない苦労が、遂に結実しようとしていた。
「私は……生まれてきた時から賎民で、だから自分自身が嫌な目に合うのは慣れてるから別にいいんです……」
ポヨーナはチビロボットたちをぎゅっと抱きしめ、それからビアンカを見上げた。その瞳には、ただ流されるだけだった先ほどまでとは違い、強い光に満ち溢れていた。
「でも、この子たちが酷い目に合うのだけは嫌なんです、耐えられないんです! だから……私を、貴方たちの仲間にして下さい!」
硬い決意と共に、ポヨーナは差し出された手を取った。
「ありがとう……これで貴方も私たちの仲間よ、ポヨーナ」
「は、はい……! よろしくお願いします、ビアンカさん!」
ビアンカはポヨーナの手を引いて立ち上がらせると、ふんわりとした笑みを浮かべ、そして最後にこう続けた。
「それじゃあ、早速お引越しといきましょうか」
ーーーーー
数分後……
「こんなところにいたのか……」
新しく加わった人員の引越し作業をする為に、部下たちが出払っている中……薔薇十字騎士団・アルファチームのリーダー、ネームレスはビバーグポイントに留まって機体の整備をしていた。
既に陽は落ち、辺りは暗闇に包まれている。
その中でも月から放たれる僅かな光に照らされ、神秘的な輝きを放つ6機の赤い機体……ICEY-V。その内の1機、先のファントムとの戦闘で右腕を失い、今は寄せ集めのパーツで制作した急ごしらえの右腕を装着している自機の点検を終え、ネームレスがコックピットの中から出てくると、並列するICEY-V……その内の、カロルが搭乗していた近接特化型の肩部に座る、神秘的なオーラを纏った女性の姿を見つけた。
「ICEY」
「…………」
ネームレスは、藍色のバトルスーツを着用した銀髪の少女の名前を呼んだ。しかし、ICEYは身じろぎひとつせず、真上で神秘的な輝きを見せる月をただ見つめるだけで、返事をしなかった。
「そんなところで何をしている?」
「…………」
「相変わらず、無口なのだな」
「…………」
「まあいい。作戦への協力……感謝する」
「……それが『あの人』の意思だったから」
伝えたいことを全て伝え、早々にその場を離れようとしたネームレスだったが、普段無口なICEYが珍しく声を発したことに驚き、思わず足を止めた。
「そうか……フッ、良い忠義だ」
ネームレスは小さく笑ってICEYへと向き直った。
「最後に一つ聞いて良いか?」
「…………」
ICEYの独特な青い瞳がネームレスの姿を捉えた。
「お前……ファントムとの戦闘で消滅した筈じゃないのか? あの光の中で、俺はお前が消えていく様を、この目でしっかりと目撃していた筈なのだが……」
「…………コンティニューした」
ネームレスの問いかけに、ICEYは無表情のまま、淡々とそう答えた。
「なんだって……?」
「…………コンティニューした。だから、私はここにいる」
意味がわからないというように仮面を触るネームレスに、ICEYは言葉を続ける。
「私は人間ではなくロボット。正確に言えばアンドロイド。だから、バックアップがある限り何度でも『やり直す』ことができる。でも、貴方達にはそれが出来ない……だから、私が守る。私が守った。それが『あの人』の意思だから……貴方達がいなくなることを『あの人』は望んでいない」
「…………そうか」
ICEYの言葉から大体の意味を察したネームレスは、深々と溜息を吐いて「マスターは、私に生きろと言いたいのか……」と呟いた。
「まあ、何にせよお前のお陰で助かったことには変わりないか……礼を言わせてくれ。ありがとう、ICEY」
「…………」
ネームレスの放った感謝の言葉にICEYは静かに頷くと、まるで霧が晴れるかのように、一瞬にしてICEY-Vの肩から姿を消してしまった。
後に残されたオーロラが、冷たい月の光を受けてより美しく、幻想的な色を帯びてしばらくの間空中に漂うのだった……
どうも、アイアンブラッドサーガは大体3週間に一度、日曜日には投稿することを目標にしているムジナです。
日曜日といっても、いつもは日付が変わるぐらいのもっと遅い時間に投稿するムジナですが、今回はいつもより少し早めの午後8時前投稿させていただくのです。というのも、今日この日にとあるVtuberさんが引退&最後のライブストリーミング配信をするとのことで、その見守りに行きたいのでこーいう形をとらせていただくのです。
なのでチェックは甘いです。誤字脱字などがありましたら容赦なくご報告下さいませ。そうならないようちゃんと確認はしましたが……それでは、次回予告です。
エル「破竹の勢いから一転、連敗続きになっているブラーフマ」
フル「いよいよ、三日月たちとの最終決戦が始まります」
エル&フル「「次回、『オープンフレイム(仮)』」」
エル「なるほどね! これが『くらいまっくす』なのね!」
アイサガで貴方の好きなキャラを教えてください。(回答はこちらではなく気軽にコメントの方へお願いします)
-
境界戦機もっと流行れ
-
鉄血・ブレットもっと流行れ
-
水星の魔女×鉄血のオルフェンズ?
-
あと、アイサガのエンディングも作ります