機動戦隊アイアンブラッドサーガー悪魔と少女と機甲ー   作:野生のムジナは語彙力がない

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お帰りなさい! 指揮官様!

先週は投稿できず申し訳ありませんでした。
ここのところ少しばかり体調を崩してしまってですね……いえ、コロナではないと思います。この前みたいに咳が止まらなくて辛かったではありますが、味覚はあるし、何より狸はコロナにかかりません。

投稿は出来ずとも、時間はそれなりにあったので今回は久し振りに文字数2万字を超えました。なので、画面上の文字を読むのに慣れていない方は読むの疲れると思うので休み休み読むのをお勧めします。(視力的にもあんまり良くないので)

まあまあまあ……
くだらない話はこれくらいにして
それでは、続きをどうぞ……




第35話:予兆

アイラーヴァタ城での騒乱から数日後……

チュゼールの川岸に沿って、とある部隊が少しずつ前進していた。最新鋭機体・羅刹を配備したBM二個大隊、複数の通常BM大隊、傭兵で編成された三個大隊、そして数百両にも及ぶ戦闘車両に八隻の陸上艦船。

 

それはチュゼールの偽王・ブラーフマの指揮する部隊……いわば、チュゼール各地に展開されている反乱軍の部隊の中でも、最大級の規模を誇る遠征軍だった。

 

その集団の中心部、ブラーフマは部隊の旗艦でもある陸上戦艦のブリッジに設置された玉座に腰を下ろし、鶴翼の陣形で尚も進み続ける自分の遠征軍を眺めていた。

 

しかし、その表情は重苦しいものが漂っていた。

 

「くそっ! くそっ! くそっ!」

 

激昂し、悪態を吐き、苛立たしげに玉座の手すりに拳を打ち付けるブラーフマに、周りにいたアジュガを始めとする彼の臣下たちは何と声をかければ良いのか分からなかった。

 

「何故だ……! 何故、こうなるのだ……ッ!?」

 

憎悪に顔を歪ませ、ブラーフマは激怒していた。

 

 

クーデターによりチュゼール王を殺害してからというもの、ここまで破竹の勢いでチュゼールを支配してきたブラーフマだったが、ここに来て各所で敗戦が相次いでいることに憤りを隠せなかった。

 

シャラナ王女を匿っているカピラ城への攻略作戦は全て失敗に終わり、その攻略作戦の拠点となっていたアランバハ城は敵の反撃に遭って呆気なく陥落し、王国軍に占拠されてしまった。

 

さらに、ブラーフマが幾重にも策を張り巡らせてようやく支配下に置いた筈のアイラーヴァタ城も、その数日後にはアイラーヴァタ城の残党によって、これまたあっさりと支配権を奪い返されてしまうという事態まで起きていた。

 

しかも、その際に発生した戦闘により彼の忠臣であったジャハールと、城に置いてきた数多くの兵士たちが戦死したことにより、反乱軍が受けた損害はとても無視できるものではなくなっていた。

 

さらに言えば、機械教廷の面々を天界宮に招き入れ、教皇・スロカイの暗殺を図った際にも、敢えなくスロカイの逃走を許してしまい、スロカイの暗殺を依頼したシンシアに白い目で見られるという始末だった。また、この時行われた戦闘により、自身の居城であり歴史的な遺産でもある天界宮を半壊させるという事態まで発生している。

 

 

「あああああ!!! クソがぁぁぁぁ!!!」

度重なる不運と屈辱を思い返し、ブラーフマは歯を食いしばってギチギチと鳴らした。恐ろしい彼の形相に、これには周りにいた部下たちも震え上がるばかりだった。

 

「あの英麒とかいう男、全く使えんではないか!」

 

それから、彼は怒りの矛先をとある人物に向けた。

それはアイラーヴァタ城から脱出し、命からがらブラーフマの遠征軍へと合流できた数名の内の1人だった。

 

「くそっ! あの男は、かつて教廷軍との戦いの中で現れた極東武帝と同等の才能を持っていた筈たどいうのに……まさか私の見立てが間違っていたとでもいうのか……?」

 

ブリッジを埋め尽くすモニターの1つに、補給艦の甲板上で補修作業を受けている白虎を見つけ、ブラーフマは思わずそれを睨みつけた。

 

「見掛け倒しもいい加減に……!」

 

「はい。しかもあの男……敗走したことを認めず、我々に機体の改修と未払いだったアイラーヴァタ城攻略に対する報酬の支払いを要求してきています」

 

合流してきた英麒の様子について、ブラーフマの近くに立っていた将校の1人、アジュガがそう告げ口した。

 

「莫迦な……ハッ、何を偉そうに! 鳴り物入りで特権を与えてやったにも関わらず、天界宮では機械教廷の女の1人すら討ち取れず無様に滑落し、アイラーヴァタではジャハールを見捨て、何の成果もあげられず逃げ出してきた奴が何を言うか!」

 

眼をカッと見開き、唾も飛ばさん程の剣幕で怒鳴るブラーフマだったが、その場にいた臣下たちの自分を見る視線に気づき、息を荒げつつも冷静になることにした。

 

「……まあいい、極東の黄色いサルのことはいいとして、だ。それにしても何故、今になってカリンガの軍が出陣してきているというのだ? 王女は彼の息子との結婚に同意しなかったのだろう?」

 

「はい。カリンガ藩王の意図は不明ですが、恐らく情勢が王国軍側に傾き始めているのを見て、少しでも王女に恩を売ろうとしたい意図があると考えられます……現在、息子であるヴァーユがカリンガの主力の半分を率いてカピラ城へと向かっています」

 

「卑劣な老犬め……!」

 

アジュガの言葉に、ブラーフマはため息を吐いて椅子に深く腰を下ろした。

 

「カリンガは現時点では寄せ集めの雑軍に過ぎない。戦力も兵の練度もこちらの方が上、戦えば勝つのはまずこちら側だ……しかし、唸るほどの金がある以上、奴らに時間を与えれば厄介な事態も起こり得る……」

 

「はい。ですので、カピラ城攻略の前にカリンガの方を叩くのが得策かと……」

 

「だが、問題はカピラ城にあるのだ」

 

白いあご髭を触りながら、ブラーフマは続ける。

 

「極東最強と名高い緋色の剣聖、そして堅牢なはずのアランバハ城をたったの一晩で落城させた所属不明の部隊……そして、オーガス小隊なる傭兵部隊」

 

「たった4機で、数百にも及ぶカピラ城攻略部隊を壊滅させたという、あの……」

 

三日月を主力とするOATHカンパニー最強とも呼べる小隊の噂は、既に敗走した反乱軍兵士たちからブラーフマのような将軍たちの間にも広く伝わっていた。

 

「4機ともスーパーエース、S級傭兵どころかSS級……いや、あるいはそれ以上の実力の持ち主かもしれん」

 

ブラーフマは苦虫を噛み潰したような顔になった。

「誰だ……!?」

そして、誰に言うでもなく叫び声を上げた。

 

「誰がこのような化け物どもをこの地に送り込んだのだ!? 私の知らないところで何かが起きている。シャラナと結託し、私を潰そうとしている何者かがいる。この戦争を影から操ろうとしている者がいる……それは一体誰なのだ!?」

 

声高く発せられたブラーフマの言葉に、その場にいた全員が戸惑いを隠せなかった。

 

「閣下、我々はどうすれば……」

 

「……そうだな」

 

アジュガの問いかけに、ブラーフマは少しだけ思案した後、アジュガの方へと顔を向けた。

 

「カリンガの軍は無視し、このままカピラを叩く」

 

「しかし……それでは、我々はカリンガに背を向けることになりますぞ。例の部隊が兎も角、下手をすれば、カピラ城勢力との挟撃に合うやも……」

 

「いや、カリンガ藩王の提示した協力の申し出をシャラナ姫は蹴っている。にもかかわらず今、カリンガの軍が動いているのは、後々の政権運営の為に今の内にシャラナ姫に借りを作っておきたいという浅はかな考えからくるものだ。上っ面だけは立派な出来損ないのカリンガ軍などに、カピラ勢力との連携など出来はしない」

 

ブラーフマはニヤリと笑った。

 

 

 

「数はこちら側に圧倒的有利だ。それに、こちらには教廷の支援した無人の最新鋭機を大量に保有しているのだ……戦いは数ではない、しかし、大量の兵器を投入することに意味がないというわけでもないのだ

 

要は『モノは使い方次第』ということだ。その全てを使いこなせられないのであれば、単純に圧倒的な数の暴力で全てを飲み込ませればいい。兵器は使えば使うほどに劣化して磨耗する。それは人とて同じだ。戦いが続けば疲弊し、いつかは力尽きる。そう例えカピラ側が剣聖やオーガス小隊のような強力なバケモノを揃えていたとしても、それが人である以上、限界は必ず訪れるものだ

 

勝利のためならば多少の犠牲はやむを得まい。カピラ勢力が圧倒的な数を誇るこちら側の戦力を削り切る前にカピラ城を落とすことが出来たなら、大義名分を失ったカリンガは軍を引かせることだろう」

 

 

 

「成る程。確かに、こちら側の全戦力を投入した一点突破ならば、カピラ城の高い城壁も、あの剣聖であろうとも耐えられますまい! それに、カピラ城を占拠することができたのなら、それはカリンガの勢力に対する備えにもなる……と、まさしく攻守一体の策という訳ですな」

 

アジュガの補足に、ブラーフマは満足そうに頷いた。

 

「そうだ。ただし、こちら側は短期決戦にする必要がある。長期化すれば、それこそアジュガの軍に後方から討たれかねないからな……なればこそ、使えるものは全て使うが吉というもの」

 

「閣下、それは……?」

 

「目には目を、歯には歯を、バケモノにはバケモノを……あちら側にいる奴らとは数段劣るのだろうが仕方あるまい。アジュガよ、英麒の機体を改修してやれ」

 

罵倒していた先ほどとは打って変わって、気前の良さを示し始めたブラーフマに、その場にいた全員が嵐の前の静けさを感じた。

 

「閣下、宜しいのですか?」

 

「そうだな。以前、極東共和国との技術支援があった際に古代兵器の技術が少しだけこちらに流れてきただろう? それを元に改造をだな……そして英麒にはこう伝えるといい、報酬はこの戦いが終わった後に大きく上乗せして支払ってやる……なんなら女の1人や2人見繕ってやってもいいと」

 

「承知しました。それで…………ッ!?」

 

アジュガがそこまで言いかけたところで、突如としてブラーフマは勢いよく椅子から立ち上がると、呆然と佇むアジュガの眼前へと一直線に移動した。

 

「だが、3度目はない。もしまた戦場から逃げ出すような事があれば……容赦なく射殺しろ」

 

「承知」

 

 

 

新暦25年

決戦の時は、刻一刻と迫っていた。

 

 

 

 

 

ーーーーー

 

 

 

 

 

数日後……

カピラ城郊外

 

 

 

「はぁ……」

 

バルバトスの中で三日月は小さく息を吐いた。

昼頃、監視台から周囲を彷徨く反乱軍の偵察部隊出現の報がカピラ城にもたらされた。これに対し三日月、テッサ、アイルーの3人が迎撃に当たり、戦闘は会敵から1分足らずで終結。チュゼールの赤い大地は、反乱軍機のスクラップによって埋め尽くされることとなった。

 

周囲の索敵を上空のテッサとアイルーに任せ、戦闘態勢を解いた三日月がバルバトスのコックピットの中で昼食(と言ってもナツメヤシの実なのだが)を食べていると……

 

「ん?」

 

不意に、接近する何かの存在を感じ取った三日月は、姉妹がいる方向とは別の空を見上げた。

 

「……なにあれ?」

 

三日月の視線の先には、浮遊する黄金の人型機の姿があった。全身に金色の特殊なコーティングが施されているせいで太陽の煌きをめいいっぱいに反射し、とても眩いその機体は、一直線にこちらへと飛来していた。

 

黄金の機体はロングバレルのビームライフルを油断なく構えているも、しかし、三日月はその機体のから自分に対する敵意を感じなかった。寧ろ、派手過ぎる機体の色に目を瞑れば、それはベカスの操る人型機・ウァサゴに瓜二つだった。

 

「ほう、もう終わったのかね?」

 

「ん……その声、赤い人?」

 

目の前に降り立った黄金の機体から聞き覚えのある声が発せられたのを耳にし、三日月は思わずそう聞き返した。

 

「そうだ。フッ……相変わらずだな、君は」

 

機体のコックピットを開け、1人の男が姿を現した。

それは武器商人のオスカーだった。

 

彼は三日月がチュゼールの地に降り立ってからというもの、黒いバルバトスの形跡やMIA(作戦行動中行方不明)判定を受けたベカスと影麟の行方など、いくつかの情報を提供している協力者的な存在だった。

しかし、時折浮かべる不敵な笑みと彼の持つ情報網の広さから、三日月はオスカーの背後にいる何者かの存在をうっすらと感じ取っていた。

 

「どうかね? この機体は」

 

コックピットの上に立ったオスカーは、自分の乗る黄金の機体を見せびらかすように両腕を大きく広げた。

 

「ん……ピカピカ光ってて綺麗かな」

 

「フッ……そうだろう? このBMは、ややあって私の友人から没収したものに我々の方で改良を加え、現在はテストの為に私が預かっていてだな。この黄金の輝きは全身に施されたビームコーティングによるものだ」

 

「でも、目立ちそう」

 

「いや、これでいいのさ。この機体は『英雄』の象徴となるものなのでね……それに、この機体は私のものではないから勝手に色を変えては怒られてしまうのでな」

 

「英雄……?」

 

不敵な笑みを浮かべるオスカーに、黄金の機体がベカスのウァサゴと似ている事について色々と聞いてみたくなった三日月だったが、それよりも先に聞きたい事があった。

 

「ねぇ、赤い人は何でここに来たの?」

 

「いや……戦いに赴いて行った君たちの手伝いをしようと思って来てみたのだが、どうやらその必要はなかったようだね」

 

オスカーはコックピットの外に身を乗り出し、反乱軍機の残骸が転がる周囲をじっくりと見渡した。

 

「これだけの敵を一瞬で蹴散らすとは……流石、天下無敵のオーガス小隊といったところかな?」

 

「別に、普通でしょ」

 

オスカーの放った賞賛の言葉に、しかし三日月はナツメヤシの実を飲み込んでから何でもないようにそう答えた。

 

「こいつらもあんまり戦う気はなかったみたいだし、いつもの威力偵察でしょ」

 

「そうか。まあ、ここ最近は毎日のように……いや、数時間おきに偵察部隊の接近があるからな。どうやらブラーフマはよっぽど君たちのことに興味津々なようだ」

 

「俺たち? あのお姫様のところじゃなくて?」

 

「ああ。カピラ城の戦力は、先の戦闘で壊滅的な被害を受け、現在は鹵獲した機体やパーツを使って立て直しが行われているものの、BMどころか戦闘車両の数を合わせるだけでも必死な状況だ。そして、それは誰の目にも明らか……にも関わらず、こうも頻繁に偵察部隊が放たれているというのには、カピラ城の戦力を調査したいという以外の目的が見えてはこないかね?」

 

オスカーはそう言って肩をすくめてみせた。

 

「三日月君、1つ頼みがあるんだが……」

 

「何?」

 

「部隊が未帰還だったことを知ったブラーフマは、またこの近くに兵を送り込んでくることだろう。その際、君たちにはわざと苦戦するような形で迎撃を行なって貰いたいのだが」

 

「え……? ああ……敵は俺たちのこと見てるからか」

 

遠回しに『手加減しろ』と言いたげなオスカーの言葉に疑問符を浮かべた三日月だったが、その理由を考えたところで偵察部隊の目的が自分たちだと言っていたことを思い出し、小さく頷いた。

 

「そうだ。ブラーフマも馬鹿ではない、戦えば戦うほど君たちの情報は収集され、いずれは圧倒的な戦闘力を持つ君たちを撃破するべく、戦術を練り上げて必ず対策を取ってくることだろう。要は、切り札は温存しておくのが宜しいということだ」

 

「じゃあ、いままでのも……」

 

「そう考えてもいいだろう。だが、なにも心配する必要はないさ。いくら偵察部隊を送って君たちの情報を集めようとも、所詮、凡人のブラーフマ程度が練り上げた戦略など高が知れている。君たちには、それを容易く打ち砕けるだけの力があるだろうからね。そう考えると、ブラーフマは無駄に戦力を消耗しているだけと言えるが……君たちに手加減をして欲しいという理由は、もっと他にある」

 

「それって何なの?」

 

三日月の問いかけに、オスカーはニヤリと笑った。

 

「何、君たちの圧倒的な強さに臆したブラーフマがチュゼール征服という夢を一旦諦め、この戦いが終わってしまうかもしれないからさ」

 

「戦いが終わるからいいんじゃないの?」

そんな三日月の問いかけに、オスカーは首を横に振った。

 

 

「ところがそうもいかないのだ。ここの所、王女のいるカピラ勢力は我々の介入によって何とか持ち直すことが出来たが、占領地の数からしてチュゼールにおける勢力優勢は反乱軍側にあるのが現状だ。さらに反乱軍側が余力を持った状態でこの戦いが終結してしまえば領土分割が発生し、シャラナ王女側とブラーフマ側でチュゼールが2つに分断されてしまいかねない

戦いが終結したとなれば我々は引くしかない。しかし、シャラナ王女は違う。国を統治していかねばならない立場上、10年先、20年先……いや、もしかすると明日かもしれないブラーフマの再進撃に怯え、眠れぬ夜を過ごすのだ。しかし、それはこちらとしてもあまり好ましい展開ではないのだ。あの方の目指す崇高な理想を実現するために……逆賊ブラーフマを打倒し、シャラナ王女の下でチュゼールを1つにした上で、戦いを終結させなければならないのだよ」

 

 

オスカーの言った『あの方』という言葉に一瞬だけ反応した三日月だったが、今は特に気にする必要はないだろう……と、ナツメヤシの実を口にした。

 

「じゃあさ、俺たちだけでブラーフマって奴をやればいいんじゃないの?」

 

「ははは……確かに、我々だけでブラーフマを倒すことは可能だろう。しかし、それは最後の手段にしておきたい……」

 

乾いた笑いを消し、オスカーはこう続けた。

 

「かつて、この地は機械教廷の侵略を受けた。その時は極東共和国の参戦によって何とか事なきを得たが、外国の力に頼りきってしまったことで当時の国王は自らの無能さを露呈させてしまった……それが後にブラーフマという存在を生み出したのだ。最も、これに関しては後先考えずに兵を動かした極東共和国にも責任があるとは思うが、歴史は繰り返されるという言葉がある。我々の力だけでこの戦いを終結させてしまっては、またこの地に第2第3のブラーフマを生み出しかねない

少し前に、君と我々でアランバハ城を攻め落としたことがあっただろう? あの時、君や薔薇十字の面々に混じって足手まといなはずのカピラ城の兵士たちも作戦に参加していたのは、あれは単なる数合わせというわけではなく、少数の戦力を伴った王国軍の兵士達によってアランバハ城が落とされたという事実が欲しかったのだよ」

 

「…………ふーん」

長々と話すオスカーを、三日月はコックピットの中から淡々と見つめていた。

 

「無論、実際には部隊を指揮していたのは我々の方で、寧ろカピラの兵士たちはそれについてきただけに過ぎないのだが、第三者からするとそんなことはどうでもいいのだよ。要するに、報告書に記述された結果が全てということさ」

 

「そっか、そういうもんなんだ」

 

そう言いつつも、あまり興味がなさそうな三日月の声色に、オスカーは苦笑した。

 

「ははは……まあ、そういう訳なのだ。なので、カピラ城側の戦力がチュゼールの奪還に最低限必要な程度に回復するまでは、こちらからの侵攻は控える必要があるし、防衛するにしても相手が戦意を無くしてしまわないようにしなければ……」

 

「つまり、わざと手加減して相手に勝てると思わせて欲しいってことでしょ?」

 

「そういうことだ、三日月君。やってくれるかね?」

 

「いいよ……手加減するのは苦手だけど、あんたには黒いバルバトスのこととか、ベカスの捜索とか色々と世話になってるし、これくらい」

 

「それは有難い。それで、その代わりと言っては何だが、1つ情報を仕入れてきた」

 

そう言ってオスカーは、懐から板状の小さな携帯端末を取り出した。そして、それをバルバトスの前に示した。

 

「三日月君、確かブラヴォー・チームのリーダーから情報端末を受け取っていたね?」

 

「うん」

 

「今から送る情報は我が方でも極秘でね、通信傍受の恐れがあるから赤外線での情報共有を行いたい。悪いが端末を持って機体の外に出てきてはくれないだろうか?」

 

「分かった」

 

三日月は足元に置いていたジャケットからオスカーのものと同じ携帯端末を取り出し、バルバトスのコックピットを開けた。

 

「これでいい?」

 

「ああ、それでは……」

 

まもなく端末同士の赤外線通信が行われ、手元の端末から小さな振動を感じた三日月が端末の画面に目を落とすと、そこには『新着情報一件』の文字があった。

 

「これは……?」

 

三日月は端末を操作し、資料と共に添付された画像ファイルを開いた。表示された写真の中央には、カメラからやや離れた位置に佇む1つ目の巨人の姿があった。不気味に光り輝くモノアイ、青い装甲、巨大な体躯、火の海に包まれた何処かの研究施設らしき場所を舞台に、地獄のような光景が広がっていた。

 

「今から数ヶ月前、日ノ丸のとある研究施設が謎のBMによる襲撃を受けた。これは、その時の監視カメラに記録された映像を抜粋したものだ」

 

「日ノ丸……」

 

「この機体は厳重な警備が敷かれた研究施設を単機で制圧し、高橋重工が極秘裏に開発していた兵器を奪取したそうだ。しかも、驚くべきことにこの機体から検出された固有周波数は、ファントム……そう、君の言う『黒いバルバトス』と類似していたとのことだ」

 

「……!」

オスカーの言葉に、それまで淡々と画面を見ていた三日月の目つきがたちまち険しいものとなった。

 

「ファントムに次ぐ謎のBM……我々は、これをアンノウン・エネミー『サイクロプス』と呼称している。神話に登場する1つ目の巨人の名を冠しているのだが……これを見て、何か気づいたことはあるかね?」

 

「…………」

 

しばらく画面を凝視していた三日月だったが、ややあって小さく首を横に振った。

 

「ふむ……そうか。まあ、現状『黒いバルバトス』ことファントムとの因果関係は不明だが、用心する事に越したことはないという訳だ。君も気に留めて……」

 

「でも……」

 

「む? どうしたのかね?」

 

「いや、何となくだけど……俺はこいつのことを一度、どこかで見たことがあるような気がするっていうか……」

 

「何!?」

オスカーは思わず三日月のことを二度見した。

 

「それは本当かな? 思い出せる範囲でいい、この機体に関する情報があれば何でも言って貰いたいのだが……」

 

「…………ん」

 

 

 

言われ、三日月は目を瞑った。

その瞬間、三日月の脳裏に日ノ丸での出来事がフラッシュバックした。A.C.E.学園で黒いバルバトスを撃退し、ベカスたちと無事に合流、その後……敵部隊の追撃から逃れつつ、仲間たちと海岸線沿いに機体を走らせ……

 

そして、ベカスと共に海へ転落した。

 

今思えば、あれは一体何だったのか?

何者かから攻撃を受けたのはまず間違いない。しかし、その瞬間の記憶が何故か三日月の頭からすっぽりと抜け落ちてしまっていた。

 

あるのは『何かを見た』という何のアテにもならない空虚な感覚のみだった。

 

 

 

「成る程……それは恐らく、戦闘のショックによるものだろう」

 

三日月はそのことを伝えると、オスカーは腕を組み、少し考えるような様子を見せてからそう告げた。

 

「強い衝撃を受けて、一時的に記憶が失われるというのはよくある事だ。今後、記憶を取り戻して何か話したい事があるのだったら、端末を使っていつでも私のことを呼び出してくれ」

 

「……分かった」

 

脳裏を支配する歯切れの悪い感覚を振り払うように、そう言って三日月は頷いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

機動戦隊アイアンブラッドサーガ

第35話:予兆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同時刻……

カピラ城下

工作艦ダイダロス2号

 

 

 

「へっっっっぶしょい!!!!」

 

パイプ椅子に腰掛け、格納庫の中で行われている作業を淡々と傍観していたベカスが盛大なくしゃみを放った。

 

「なになにー? 風邪ー? ベカスぅー?」

 

整備用アームのオペレーションを行なっていたドリスが作業の手を止め、そんなベカスのことを気遣うでもなく、からかうように笑って彼へと振り返った。

 

「あー……夏風邪かもな」

 

ポケットティッシュを取り出して鼻をかみ、ベカスは溜息を漏らした。

 

「それでお前ら、本当にあの『外面だけは超高級なビームコーティングを塗ったくった、金色でピカピカで役立たずで詐欺まがいの機体』をミドリのやつに没収されちまったのか?」

 

「説明が長いよ!」

 

ベカスとドリスの2人は、そこで格納庫の空いたスペースを流し見た。つい最近まで、その場所で黄金の威圧感を放っていたウァサゴの実験複製機『ウァサゴG』はいつの間にか姿を消していた。

 

「はぁん。そういえば最近見ないなーって思ってたら、そういう事だったのか〜 没収される前に、さっさと売り払っていればよかったのに……」

 

「くううぅぅぅぅ……! アレを売っていればそれなりのお金になったはずなのに……ドリスちゃんのフルコースが、満漢全席がぁ……」

 

「食い意地張ってるな〜」

 

「ベカスがそれ言う!?」

 

「まあ、何にせよ残念だったな……」

 

声を荒げるドリスに、ベカスは「やれやれ」と肩をすくめてポケットから甘苦を取り出し、口に咥えた。

 

「しかし、没収とはまた災難だな……一体何があったんだ? 葵博士は何かミドリの奴を怒らせるような事でもしたのか?」

 

「それに関してはノーコメントよ」

 

ベカスの問いかけに答えたのはドリスではなかった。背後から聞こえてきた声に2人が振り返ると、格納庫の出入り口付近に葵博士の姿があった。

 

「よお、博士。今オレたち、ちょうど博士の作った金ピカウァサゴのことについて話していたんだが……」

 

「アレについては、何も話すことはないわ」

 

「……まだ何も言ってないんだけどな」

 

そう反論しつつも葵博士のことを真っ直ぐに見つめたベカスだったが、彼女の瞳は「聞くな」と珍しく強めな調子で訴えかけていたことから、これ以上の追求はやめておく事にした。

 

(マジで一体何があったんだ……?)

 

「お陰で本艦の切羽詰まった資金繰りにも拍車がかかることになったわ……はぁ……アレ一機作り上げるのに、いったいどれくらいの費用がかかったと思っているのやら」

 

葵博士は盛大なため息を吐きつつも、やがて気を取り直すかのように額を軽く叩いた。

 

「それで、そちらはどんな感じ?」

 

「オレか? まあ、ご覧の通りさ」

 

葵博士の問いかけに答えるように、ベカスは格納庫の中で絶賛改造中の愛機、ウァサゴを見上げた。今まさに、ドリスの手によって真面目に組み上げられているそれを見て、ベカスは微妙な表情を浮かべた。

 

「契約上、これが最後の仕事になるんでね。お給料を頂くために、そっちのオーダーにはこれまでしっかり従ってきたつもりなんだけどな……」

 

「何か不満でも?」

 

「いや、そーいう訳じゃねぇんだが……元々、この機体の所有権はそっちにあるんだし、今までの剣装型や砲戦型、万能型みたいにどこをどう改造するかっていうのは博士次第なんだろうけどさ……」

 

そう言いつつ、ベカスは手元の艦内用PDA(個人情報端末)を操作し、今まさにウァサゴに対して行われている改造の状況と、その完成予想図を画面に表示させた。

 

「流石に、これは……」

 

実際に改造が行われているウァサゴ、そして端末上のウァサゴ……人型機であるはずのベカスの愛機は、そのどちらも見違える程に大きく形が変わり、最早人の形をしていなかった。

 

「こんなになっちまって……今までのパターンからして、さしずめこれはウァサゴ飛行型ってところか?」

 

 

「いえ『ウァサゴ・パワード』よ」

葵博士は大きな溜息を吐くと共にそう答えた。

 

 

「パワード……? 急にカタカナ出てきたな〜」

 

「悪趣味な形をしているでしょ? 言っておくけど、私はこれの設計に一切関わっていないからね……」

 

「そうなのか?」

 

「ええ。まだ設計図すらない計画段階だったウァサゴ飛行型のデータを元に、とある人が勝手に色々と手を加えて、つい先日、私にこれを作るように命令してきたんだから」

 

「命令? 誰から?」

 

「……ミドリよ」

 

「え……!?」

 

重い口を開けて葵博士が発した思いがけない人物の名前に、ベカスは驚きを隠せなかった。

 

「えぇ……没収したと思ったら、今度は協力?」

 

「勘違いしないで頂戴、協力ではなく命令だったのよ。そう、私に選択権はなかったわ……それに悔しいけど、私以上にウァサゴのことについて知っているようだった……」

 

「博士……本当に何をやらかしたんだ?」

 

「……何もしていないわ」

 

葵博士は一度、ベカスから顔を背けた。それから腕を抑えてベカスに悟られないよう体の震えを堪えつつ、落ち着きを取り戻したところで再びベカスへと振り返った。

 

「ベカス」

葵博士の口調は真剣そのものだった。

 

「あの日のことを覚えているか?」

 

「あの日って、いつのことだよ」

 

「極東共和国にファントムが現れた時のことよ」

 

「……!」

その瞬間、ベカスの体が凍りついた。

それと同時に、彼の脳裏に二度と思い出したくもない悪夢の記憶が蘇った。

 

「ベカス、落ち着きなさい」

 

「……オレは落ち着いているさ」

 

普段通りの口調でそう告げたベカスだったが、実際のところ内心では激しく動揺していた。そして、それを見逃す葵博士ではなかった。

心理学者でもなく、それ以前に人間というものに対して全く興味関心を抱かない性格の彼女ではあったが、壮絶な最期を迎え、変わり果てた極東武帝の姿を間近で目撃してしまった1人として、ベカスの感情は痛いほど理解していた。

 

「あの時、あなたはファントムと交戦した」

 

口の中に酸いもの感じつつ、体の奥底から込み上がってくるものをぐっと堪えながら、葵博士は静かに言葉を続けた。

 

「でも、その途中でウァサゴが全くと言っていいほど操縦を受け付けなくなった事があった。あの時のことを、あなたは後のインタビューで『蓄積したダメージの影響かもしれないが、まるで奴から逃げたいというオレの本心を反映していたかのように、突然ウァサゴが言うことを聞かなくなった』と表現しているわね」

 

「……そうだ」

葵博士の確認に、ベカスは歯を食いしばり、項垂れ、力なくそう呟いた。

 

「あの時のオレは臆病になっていた。あの黒い怪物が怖くて怖くてたまらなかった……だから、ウァサゴが動かなくなったもはオレのせいで、師匠はオレのせいで死んだも同然……」

 

「いいえ、それは違うわ」

死んだ目をしたベカスに、葵博士はきっぱりと言い切った。

 

「え?」

 

「理由が分かったの」

 

葵博士は力なく垂れ下がったベカスの手からPDAを取り上げると、少しばかり操作を行って、再びベカスの手に握らせた。

 

「これを見て。ファントムとの交戦中にウァサゴの中で起きていた異常よ」

 

「……なんだ、この出力は?」

 

そこには、ファントムとの交戦中に計測されたウァサゴの出力をグラフにしたものが表示されていた。しかも、時間が経過する毎にウァサゴの出力が右肩上がりに上昇し、最終的にはメーターを振り切るまでになっていた。

 

「ファントムとの戦闘中、この機体の出力は理論上の最高出力と考えられていた8000を軽々と突破し、観測できただけでも10000を超えていた。その瞬間、機体の最高速度は音速の6倍に達した……それはたった一瞬の出来事だったとはいえ、カメラはその間のあなたの動きを全く捕らえられなかった」

 

「…………そんな事が」

 

葵博士の説明を驚きつつも淡々と聞いていたベカスは、そこで自虐的な笑みを浮かべた。

 

「だけど、それだけの力を発揮しても……オレは奴に勝てなかった」

 

「話は最後まで聞きなさい!」

葵博士はベカスの両肩を掴み、至近距離で睨みつけた。

 

「いい? ウァサゴは既存のBMとは違い、出力が上がれば上がるほど顕著に、より強力な力を発揮することができる機体なんだということ。それは分かるわね?」

 

「ああ」

 

「でも、その一方でパイロットに与える負担も大きくなる。つまり、いかなる防護措置も施されていないあなたは、ウァサゴが10000もの高出力を発揮した時点でGに押し潰されてミンチになり、ウァサゴも機体が崩壊するよりも早くエンジンのオーバーロードで爆発するということよ……!」

 

通常であれば……!

そう告げてベカスから視線を逸らし、再度、彼の瞳を見据えた上で、葵博士は続ける……

 

「でも、ウァサゴは全くの無傷……その上、あなたもまだピンピンしている」

 

「……そうだな」

 

「私の見解では、そのBMには特定の条件下であなたを守る為、または機体自身を最低限守る為に機体の出力を引き上げ発動するという、覚醒システムが存在すると見られているわ。その際、フレーム強度と内部重力を安定させる為に機体をFSフィールドとは違う、別の特殊なフィールドで包み込んでいる」

 

そこで葵博士は小さく息を吐き、ベカスから離れて数歩ほど距離を取った。

 

「これに関しては、ミドリも同意見だった。そして彼女はこの一連の覚醒システムを『AWAKE』と呼んでいた……」

 

「『AWAKE』……?」

 

呆然とするベカスに、葵博士は静かに続けた。

 

「しかも、ミドリはウァサゴに搭載されていたAIの思考ルーチンを解析していた。ええ……ここからが本題よ」

 

 

 

葵博士の話を要約するとこうだった。

ファントムが極東共和国へと来襲したあの日、ウァサゴに搭載されたAIは自分よりも遥かに強大な敵の存在を感じ取り、それに対抗すべく機体の出力を上げることにした。

 

しかし、10000を超える出力の維持がパイロットに与える負荷は大きく、さらに、これ以上の出力上昇に防護フィールドが耐えることが出来ず……AIは超高出力状態での戦闘か、パイロット及び機体の保護そのどちらかの選択を迫られることとなった。

 

最終的に、ウァサゴはパイロットであるベカスの命を最優先することにした。ロボットの三原則である「人間への安全性」と「自己防衛」に従い、何よりも、この広い世界の中で自分のことを見つけ、使い捨てであるはずの一兵器である自身のことを『相棒』と呼んで大切に扱ってくれた唯一のマスターに、生きていて欲しいと願った……だからこそ、ウァサゴはパイロットの意思に反して動かなくなったとのことだった。

 

 

 

「それじゃあ、つまり……」

 

「つまり、あの時ウァサゴが動かなくなったのは……機体の損傷が原因でも、ましてやあなたの臆病な心が原因でもない。機体が、パイロットであるあなたのことを必死に守ろうとしていた結果ということなのよ」

 

葵博士の言葉に、ベカスは思わずPDAを取り落とし、改造中の『相棒』へと勢いよく振り返った。

 

「お前、オレのことを……」

 

当然のことながら、物言わぬ銀色の巨人が言葉を発することはなかった。しかし、ベカスはかの者が訴えかけようとしたパロールを、心の奥底でうっすらと気づくことが出来た。

 

「今のままでは、ウァサゴの出力上昇に機体のフィールドが耐えることが出来ない。それは裏を返せば、そのフィールドさえ何とかする事が出来れば、ウァサゴは真の力を発揮する事が出来るということ……」

 

ベカスの肩に手を置き、葵博士が呟く。

 

「今、ドリスにやらせているのはそういう事。機体のフレームに防護フィールドの代替となる新しいシステムを組み込む事で、ウァサゴのリミッター解除を図っている……でも…………」

 

葵博士はそこで言葉を区切り、辛い想いを振り切るように頭を二、三度振って、それから意を決した様子で続けた。

 

「代替フィールドは安全性が完全には保障されていないシロモノよ……もし、AWAKE状態になっている時に何らかの原因でフィールドが機能しなくなりでもしたら……その時は確実にあなたの命はなくなると思っていい。だから、やめるなら今の内に……」

 

「……それでも、オレはやるよ」

 

「……っ!!」

 

ベカスの言葉に顔を上げた葵博士は、普段の理性的な彼からは考えられないほど、彼が狂気の色に染まった恐ろしい表情をしている事に気付き、思わず言葉を失った。

 

しかし、それも一瞬のこと……

葵博士が瞬きををした一瞬の間に、ベカスはまたいつもの理性的な雰囲気に戻っていた。しかし、その瞳に映る強い輝きは、鬼と化していた先ほどのものと同様だった。

 

「師匠と、約束したから……」

 

最後にポツリと呟き、ベカスはウァサゴを見上げた。ドリスによって今まさに改造が施されているそれは、来るべき時に備えて力を蓄えているように眠っていた。

 

 

 

 

 

ーーーーー

 

 

 

 

 

それから数日後……

再び、カピラ城郊外

 

 

 

「前方、敵三個小隊。散開してこちらに接近中」

 

戦場と化した荒野。上空を飛行し索敵を行なっていたウァサゴGから、オスカーの淡々とした声が通信機越しに響き渡った。

 

「テッサ、右お願い。俺は正面をやる」

 

「はい! 行くよ、アイルー!」

 

「分かったなの!」

 

それを聞きつけ、三日月はバルバトスを正面の敵部隊めがけて突貫させ、さらにそれに続いてテッサとアイルーの乗る赤と青のバルキリーが続いた。

 

「では、私は左だな……」

 

最後に、朧の乗る漆黒のBM……カグヤがそれに続いた。1人が1つの部隊を迎撃することで、各個撃破していくつもりなようだった。

 

「潰れろ!」

 

三日月は超高速で敵BM小隊の懐へと飛び込み、手頃な所にいた人型機めがけてメイスを振り下ろした。しかし、単純な攻撃だったこともあり、三日月の攻撃はすんでのところで回避されてしまう……

 

「ちっ……外した」

 

舌打ちし、素早くメイスを持ち直そうとした三日月だったが、その瞬間、周囲にいた機体がバルバトスめがけて一斉に火器やミサイルによる銃撃を放ち始めた。

 

「くっ……!」

 

とっさに銃撃をメイスで防御した三日月だったが、すぐ背後に迫った敵機の放ったロケット弾がバルバトスのバックパックに着弾。直撃だったこともあり、流石にダメージがあったのか、バルバトスは前のめりになってその場に膝をついてしまう。

 

「あ……やば」

 

三日月の焦ったような声が外部スピーカーから響き渡る。しかし、敵は待ってはくれなかった。バルバトスが立ち上がった瞬間を狙い、側面から対BM用ナイフを構えた敵機が三日月に迫った。

 

「っ!」

 

三日月がコックピット内に響き渡る接近警報を聞きつけ、回避しようとするも時既に遅し……今まさに、敵機のナイフが自機めがけて振り下ろされようとしていた。次に来る衝撃に備え、三日月は目を瞑り……

 

「……ん?」

しかし、いつまで経っても衝撃がないことを疑問に感じた三日月が目を開けると、そこには胴体に大きな風穴の空いた敵機の姿があった。

コックピットを抉り出すかのように装甲が融解しているところを見ると、誰かの放ったビーム攻撃が三日月のことを救ってくれたようだった。

 

「無事かね、三日月くん」

 

「ああ、赤い人か」

 

三日月が振り返ると、空中にオスカーの乗るウァサゴGの姿があった。装備している長距離ビームライフルの砲身は、発射直後らしくうっすらと赤熱化していた。

 

「援護する。今のうちに態勢を整えるといい」

 

「ん……ありがと」

 

オスカーはビームライフルを連射し、三日月に対して銃撃を行なっていた敵機を後ろに引かせた。その間に三日月はバルバトスを起き上がらせ、メイスを構えるも……

 

「あれ、もう終わり?」

 

徹底抗戦すると思われた敵小隊は、意外なことにあっさり撤退を始めた。機体の脚部に搭載されたローラーを全力で回転させ、さらにスモークまで散布していることから追撃は不可能なようだった。

 

「昨日から、こんなのばっかりだな……」

 

「恐らく、敵は我々を疲弊させるつもりなのだろう」

 

メイスを地面に突き刺し、三日月はコックピットの中で小さくぼやいた。オスカーはその隣に降り立ち、敵の行動を分析し始めた。

 

「ブラーフマ率いる遠征軍は、既にこの付近にまで迫っている。我々なしではカピラ城を一瞬で制圧できるほどの戦力を持っているにも関わらず、この場所で小競り合いのような戦闘行為を繰り返すのは……決戦前に、カピラ城攻略で一番の障害になる我々を少しでも消耗させたいという戦略なのだろうね。ブラーフマにしては少々、姑息で小物のようなやり方ではあるが……まあ、それはそれとしてだね」

 

そこでオスカーは前方に広がるスモークから、隣の三日月へと視線を移動させた。

 

「名演技だったな、三日月君」

 

「いや、それはないと思う……」

オスカーの賞賛に、三日月は微妙な顔をして頭をかいた。

 

「というか、手加減ってこんなんでいいの?」

 

「ああ。ブラーフマは徐々に君の戦い方に適応している……そう、君の見た目だけは豪快だが所々で素人っぽさが垣間見える戦い方をする……という演技にね」

 

「説明、長いね」

 

そう言いつつ、三日月はナツメヤシを口にした。

数日前にオスカーから手を抜けと言われた三日月は、それを律儀に守って直線的な戦いをするようになっていた。

つい先ほどの戦闘も、その気になれば敵小隊どころか、光臨システムを使えば3つの小隊を一瞬で血祭りにあげる事も出来たのだが……

その結果、敵は三日月の直線的な下手な戦い方を演技だとも知らずに学習し、こうして三日月のことを手玉に取るようになっていた。

 

「敵に同じ行動を何度も見せつけて見慣れさせておき、油断しているところを討つ……これを極東の戦略で瞞天過海という。いずれ、その効果が現れることだろう」

 

「ふーん、まあ何でもいっか……」

 

興味なさげな様子で欠伸をした三日月だったが、そこで何かに気づいたのかハッと顔を上げた。

 

「ねえ、赤い人」

 

「む、どうしたのかね?」

 

三日月は遠くの方へ視線を送った。カピラ城側から姿を現したBM中隊が、つい先ほどの反乱軍の小隊が撤退した方向めがけて進軍していくのが見えた。

 

「あれって、お姫様のところの……?」

 

「いや、あれはカリンガ藩王の部隊だな。全く……シャラナ姫と藩王の息子であるヴァーユの婚約は却下されたとお伝えした筈なのだが、未だに実現することのないチュゼール王の妄想を抱いているとは……実に愚かなものだな」

 

そう言いつつ、オスカーはウァサゴGの腕を振って、臨戦態勢を取り始めた三日月を制した。間も無く、カリンガ藩王の部隊が三日月たちのすぐ側を通り抜け、スモークの中へと突っ込んでいった。

 

「ブラーフマという共通の敵がいる以上、少なくとも、彼らは敵ではない。今のところはね……ゆえに警戒する必要はないさ」

 

「そう、ならいっか……」

 

「フフフ……そうだ、その必要はないさ。どうせ、今の彼らは皆……もう間も無く冥府の彼方へと送られてしまうのだから……」

 

「え?」

 

「いや、ただの独り言さ」

 

「……?」

 

オスカーの様子を不審に思った三日月だったが、その思考は間も無く打ち消されることとなった。

 

「三日月さん!」

 

リキッドバルキリーに乗ったテッサが、6枚の翼を閃かせ、三日月の隣へ勢いよく着地した。

 

「テッサ?」

 

「あ、あの……ご無事ですか?」

 

三日月の無事を確認するテッサの声は、どこか緊張したものがあった。

 

「うん。俺は大丈夫だけど?」

 

「そ、そうですか……はぅ、よかった……」

 

いつも通りの三日月の声を聞き、テッサは安堵の表情を浮かべた。演技とはいえ、すぐ近くで自身の想い人が一方的に攻撃を受けているのを見るのは、流石に辛いものがあったのだろう。

 

「テッサ、心配しすぎだから」

 

「うぅ……ごめんなさい、三日月さん」

 

「もう! お姉ちゃんは本当に心配性なの!」

 

さらに、ソリッドバルキリーに乗ったアイルーもその場に降り立った。だが、なにやらテッサに対して頬を膨らませ、不満そうな表情を浮かべている。

 

「あ、アイルーまで……」

 

「るる! 三日月お兄ちゃん、聞いてほしいなの! お姉ちゃんったらヒドイなの! アイルーはもう前に出て戦えるのに、お姉ちゃんはいつもアイルーのことを後ろに下げようとするなの!」

 

「そ、それは……アイルーの機体が遠距離攻撃主体だからで……それに、アイルーはまだその機体に慣れてないから……」

 

「それを言うならお姉ちゃんの機体も遠距離攻撃主体なの! それに、アイルーはもうこの機体に慣れてるし、仲間外れは嫌なの! だからアイルーもお姉ちゃんと三日月お兄ちゃんと一緒に前に出て戦いたいなの!」

 

「そ……それは駄目! アイルーにはまだ……」

 

そこで思わず反論しかけたテッサだったが、2人の話をしばらく黙って聞いていた三日月がそれを制した。

 

「ねぇ、アイルー」

 

「なになに〜? 三日月お兄ちゃん〜」

 

「俺やテッサと一緒に戦いたいって言うアイルーの気持ちは嬉しい。でも、俺には俺にしか出来ないとこがあって、アイルーにもアイルーにしか出来ないことがあると思う」

 

「るる? アイルーに出来る事?」

 

「うん。俺はアイルーみたいに機体の整備とか出来ないし、ましてや長距離の狙撃なんて無理……だから、アイルーがいつもしてくれるみたいに、後ろから俺たちのことを支えてくれるだけでも、本当に助かってる」

 

「え、本当なの? アイルーは今のままでも、お姉ちゃんとお兄ちゃんの役に立っているなの!?」

 

「うん。アイルーになら俺も安心して背中を預けられる……だから、今のままでも十分だと思う。テッサもそう思うでしょ?」

 

「え……あ、はい!」

 

テッサが頷くと、アイルーは少しだけ考える素振りを見せた後……それから満更でもないような顔をして、いつも通りの明るい笑みを浮かべた。

 

「るる! 三日月お兄ちゃんが言うなら仕方ないなの〜 アイルー、もうちょっとだけ後ろの方で我慢してあげるなの♪」

 

機嫌を取り戻したアイルーに、テッサは本日2度目となる安堵のため息を吐くのだった。

 

「すまないね、三日月君」

 

「ん? なにが?」

 

オスカーに呼ばれ、三日月は振り返った。

 

「いや、敵を油断させるという我々の策に無理やり付き合って貰ったばかりか、そのせいで君のお友達に余計な心配をかけてしまったのではないかと思ってね」

 

「ああ、別にいいよ」

 

「そうか。ふむ……何しろ、君ら2人が一緒にいると手加減にならないからな…………む?」

 

その瞬間、2人は何処からともなく迫り来る只ならぬ気配を感じ取り、会話を止めた。

 

「オスカーさん、下がって」

 

朧がオスカーの前に立ち、前方に立ち込めるスモークめがけて油断なく緋色の剣を構えた。

 

「何か、来る……」

 

朧がそう呟いた直後……

スモークの中から、それは姿を現した。

 

それは、最新鋭機・羅刹で構成された反乱軍のBM部隊だった。数は20機ほど、それぞれアサルトライフルやシミター、ドローン砲で武装している。

しかし、特筆すべきはダークグリーンの壁を形成して迫り来るそれらの中に混じって、一機だけ白色を基調としたBMが紛れ込んでいたことだろう。

 

「……この凄まじい気配、そして無数の刃のように鋭い闘気……まるで極東の『武帝』のようだ」

朧は剣を油断なく白い機体へと向ける……

 

「へへっ」

 

すると、間も無くスモークを背にした白い機体から嘲笑が漏れた。白虎をベースに改造が施されたのであろう、その機体は、しかし元型機と比べると大きな変貌を遂げていた。

 

白いフレーム、刺々しい金色の装甲、鋭利なテールブレード、腕部に巨大な爪を装備したそのマニピュレーターには、撤退する反乱軍部隊の追撃を行うべく、つい先ほど三日月たちの前を素通りしてスモークの中に突っ込んでいった部隊のものだろう……ねじ切られた夜叉の頭部が握られていた。

 

「なんと美しい……剣気だ!」

 

白虎は部隊の最前に立ち、一心に朧を見つめた。

手にした夜叉の頭部を握り潰し、投げ捨てる。

 

「本当に久しぶりだ。あのジジイにも劣らないような……今にも吐きそうな圧迫感……やはり、一戦の価値があるなァ!」

 

「ん? この声……」

 

白虎のパイロットが放つ声に、三日月は聞き覚えがあるのを感じた。しかし、その間にも狂熱した闘気が白虎から湧き上がり、周りにいた羅刹たちは自然と白虎から距離を取り始めた。

 

白虎はカグヤの前方20メートル程まで来ると、その場で立ち止まり構えを取った。四散した闘気が収束し、練磨されていく……

 

「お前はあの怪物ジジイ以来、俺が出会った最強の人だ。ここで一戦の交えとかねーと、気になって昼も夜も眠れなくなりそうだ……」

 

「…………」

 

白虎のパイロットの言葉に、朧は黙って剣を構え直した。

 

「まあどっちにしろ、あの老いぼれが約束してくれたんだ。お前たちを片付けたら、この国の半分と向こう側の王女をくれてやるんだってな……だったら、その分仕事しなくちゃ……なぁああああああッッッ!」

 

次の瞬間、白虎はカグヤめがけて機体を飛ばした。

そして、その鋭い爪をカグヤめがけて叩き込み……

 

「ねぇ!」

 

「なに!?」

 

しかし、白虎の爪がカグヤに届くことはなかった。白虎の攻撃は、突然2人の間に飛び込んできた三日月のメイスによって阻まれ、バルバトスと白虎は鍔迫り合いのような状態になった。

 

「あんた、うるさい人だよね?」

 

「あぁ!?」

 

思わぬ乱入者の登場により、出鼻を挫かれる形となった白虎のパイロット……英麒は一度態勢を整えるために、機体を後ろに飛ばした。

 

「っテメェ! 邪魔すんじゃねぇ!」

 

「あ、そっか……家族想いの人、ごめん」

 

「い、いや……別に」

 

楽しみにしていた勝負を邪魔され、英麒は怒りを露わにした。それに対して、三日月は戸惑いを隠せずにいる朧へと振り返って素直に謝罪した。

 

「テメェ! オレ様のことを無視するんじゃねぇ! って……その変な呼び名……お前、前にアフリカで会ったガキだな?」

 

「あ、良かった。覚えてた……」

 

「そうか……テメェが最近噂になっているシャラナ姫お抱えの切り札ってことかよ。チッ……まためんどくせぇのに会っちまったな」

 

英麒は三日月めがけて爪を構えつつ、悪態を吐いた。

そんな2人の様子を見て、オスカーは疑問符を浮かべた。

 

「三日月君、これは……?」

 

「ねぇ赤い人……俺、ちょっとこいつと話してみるから、先に緑色のあいつらを倒してきてよ」

 

「む? 見た限りでは、とても話し合いに応じるような者ではなさそうなのだが……まあ、いいだろう。では、朧君」

 

「……はい」

 

三日月に英麟の相手を任せ、朧は群れる羅刹めがけて機体を飛ばした。

 

「ん? 何をしているのかね?」

 

朧の援護の為に空へ飛び上がったオスカーだったが、テッサの乗るリキッドバルキリーがいつまで経っても上昇ししないのを見て思わず声をかけた。

 

「お姉ちゃん、どうしたなの?」

 

「あ、うん……何でもないよ」

 

アイルーに呼ばれ、テッサは慌てて機体を上昇させた。しかし、心配そうなその眼差しは終始、三日月の乗るバルバトスに向けられていた。

 

 

 

 

 

ーーーーー

 

 

 

 

 

チュゼール大地で、2機の白い機体が激突する。

メイスと高周波ブレードの刃が衝突するたびに、空間を振動させるほどの強烈な騒音が巻き起こる。

 

「ねぇ……うるさい人」

 

「誰がうるさい人だ! オレ様のことは英麒様って呼びやがれ!」

 

「長いからやだ」

 

「全然長くねぇだろうがッッッ!」

 

次々に繰り出される爪の刺突を、三日月はメイスを縦に構えて防御する。が、しかし……英麒の放つ攻撃スピードは尋常ではなく、これには流石の三日月も押され気味になっていた。

 

「俺、あんたと戦いたくないんだけど」

 

「はぁ? 今更何言ってやがる?」

 

次の瞬間、全身の闘気を纏わせた英麒の一撃が炸裂した。三日月はそれを見切って防御することに成功するも、強烈な斥力を伴ったその一撃は、防御に使ったメイスごとバルバトスを吹き飛ばすほどの威力があった。

 

「ぐっ……!」

 

「オラオラ! どうしたぁ!?」

 

三日月を弾き飛ばした英麒は、目にも留まらぬ速さで跳躍し、空中の三日月を追い越して落下地点にくると、バルバトスの背中に回し蹴りを放って地面に転がした。

 

勢いよく蹴り飛ばされたバルバトスは、そのまま数十メートルの距離を転がり、地面に深い溝を作りながらようやく停止した。

 

「……っ」

 

頭を振って、仰向けの状態から起き上がろうとした三日月だったが……その時には既に、白虎の腕部から伸びた高周波ブレードの刃がバルバトスのコックピットに突き立てられてしまっていた。

 

「けっ、これがシャラナ姫の秘密兵器かよ? 噂で聞いていた割には全然大したことねぇなぁ」

 

「…………」

 

三日月は虚ろな目で、目の前の白虎を見上げた。

 

「ねぇ、うるさい人」

 

「あぁ? 命乞いか?」

 

「あんたは何で戦うの?」

 

「オレか? いや、聞くまでもねぇだろ」

英麒は自分の後ろのブラーフマの陣営を指差した。

 

「傭兵が戦う理由はただ一つ、金や女の為に決まってんだろ? 本当は真っ先に剣聖を相手にしたかったんだが仕方ねぇ……お前を倒すとボーナスが出るんだ、まずはそいつから先に頂くとするぜ」

 

「……そっか」

 

「まー安心しろ。お前のお仲間も後から1人ずつ送っといてやるからよ……だから、お前はさっさとここでイッちまいなぁ!」

 

英麒はバルバトスのコックピットを一撃で切り刻むべく、高周波ブレードを振り上げた。その瞬間、三日月は腰部のスラスターを全開にして白虎の前から地面を滑るように移動し、高周波ブレードの間合いから抜け出すことに成功……

 

「ハッ! そうくると思ってたぜ!」

 

しかし、三日月がこの状況から抜け出すことを見抜いていた英麒は、三日月が滑り出した方に向かって白虎を跳躍させた。そして、三日月が巧みなスラスター捌きでバルバトスを起き上がらせた時には既に、英麒は高周波ブレードの間合いにバルバトスを捉えていた。

 

「死ねよ、ガキ!」

 

白虎の爪が、バルバトスのコックピットめがけて突き出される。それに対して、三日月は一切の防御手段を取らない……いや、先ほどの吹き飛ばしでメイスを取り落とした三日月に、最早防御手段はなかった。

 

 

 

英麒は自身の勝利を確信した。

キイイイィィィィィィィィンンンン…………

金属同士が衝突し合う、鋭い金切り音が響き渡る。

 

 

 

「何!?」

 

次の瞬間、英麒は驚愕した。

何故なら、英麒の放ったとどめの一撃は、突然2人の間に乱入してきた何者かが突き出した刃によっていとも容易く妨害され、バルバトスのコックピットを抉る手前で止められてしまったからだ。

 

「この機体……バルキリーかよ? ハッ、貧弱なバルキリー如きが、オレ様の白虎と接近戦でやり合おうってのか! 馬鹿かよ!」

 

「テッサ……?」

 

三日月が横を見ると、そこには6枚の翼を持つ赤いバルキリーがいた。言うまでもなく、テッサの乗るリキッドバルキリーだった。

バルキリーは両腕に装備した二本のヴァリアヴルバスターライフル……そのアンダーバレルに装着されたバヨネットで高周波ブレードの刺突を受け止めていた。

 

「な……!? う、動かねぇ……何だこいつ!」

 

白虎の出力を上げ、バルキリーを弾き飛ばそうとした英麒だったが、しかし、貧弱なはずのバルキリーは微動だにしなかった。

 

「……ナ ニ シ テ ル ノ ?」

 

「何だ……女の声?」

 

「コレハ ナニ ?」

 

「何だ、一体何が……!?」

 

 

 

 

 

ーーーオ マ エ キ エ ロ ヨーーー

 

 

 

 

 

「ひっ……!?」

目の前に出現した恐ろしいプレッシャーを前に、英麒は心の底から悲鳴をあげた。

 

次の瞬間、バルキリーのバヨネットに搭載されたギミックが発動。高周波ブレードとバヨネットの接地面を中心に、強烈な指向性ショックウェーブが発生……これにより機体重量を遥かに上回る白虎が軽々と吹き飛ばされ、制御不能な状態で空中を舞った。

 

 

 

 

 

ーーー し ね ーーー

 

 

 

 

 

しかし、それで終わりではなかった。

バルキリーは空中で溺れる白虎めがけて跳躍すると、そのコックピットめがけて膝蹴りを繰り出すべく右足を後ろに下げた。直ちにバルキリーの膝にニーブレードが出現し、白虎のコックピットめがけて一直線に叩き込まれ……

 

「うおおおおおおおおッッッ!!!!???」

 

バルキリーの膝蹴りが白虎のコックピットを叩こうとした……まさにその瞬間、空中で辛うじて制御不能を脱した英麒は、身を捻って回避行動を取った。その結果、バルキリーのニーブレードは白虎の装甲に深い爪痕を残すだけにとどまった。

 

「チッ…………」

 

攻撃が外れたことに気づいたバルキリーのパイロットは、舌打ちをしつつも冷静に三日月の元へ機体を移動させた。

 

「三日月さん、お怪我はありませんか?」

 

「えっと、テッサ……?」

 

「はい。どうかしましたか、三日月さん」

 

三日月はモニター越しにテッサの顔を見つめた。

しかし、そこに映っていたのは、いつもと何一つ変わらない、満面の笑みを浮かべたテッサの姿だった。

 

「いや、何でもない……」

 

しかし、何故だろうか……

テッサの浮かべた満面の笑みの向こう側に、得体の知れない薄ら寒いものがあることに気づいた三日月は、自分の背筋にゾクリとしたものが走る気配を感じるのだった。

 

 

 

to be continued...




本編プレイ済みの方々はご存知の通り、流れ的にもチュゼール編の終盤に入っております。なので、当初の予定通りもう少しでアイアンブラッドサーガも完結すると思うと、なんというか感慨深くてですね……もう少し続けたいなー……とは思う今日この頃。
……と、言いたいところですが、ムジナが目標としていた『鉄血のゲームが出来るまで頑張る』という宣言、そして未だに出ないこの状況……これはまだ頑張れってことなのです……?

まあまあ、そしていつかの設定集で出したウァサゴの新たなる形態の話がチラッて出てきましたね。まだ名前だけですが、それがどういう活躍をするのか、楽しみにして下さると幸いです。



次回予告です

フル「次回はテッサさんvsえーきさんだそうです」
エル「いけ! あんなクソ野郎、ぶっ飛ばしちゃえ!」

エル&フル「次回、『テッサの意思(仮)』」

エル「なるほどね! これが『かませ犬』なのね!」

アイサガで貴方の好きなキャラを教えてください。(回答はこちらではなく気軽にコメントの方へお願いします)

  • 境界戦機もっと流行れ
  • 鉄血・ブレットもっと流行れ
  • 水星の魔女×鉄血のオルフェンズ?
  • あと、アイサガのエンディングも作ります
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