機動戦隊アイアンブラッドサーガー悪魔と少女と機甲ー   作:野生のムジナは語彙力がない

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お帰りなさい! 指揮官様!

ピーマンやトマトなど、誰にも何かしらの嫌いなものはあるというもので……私の場合、それは電撃文庫でした。(←いや、食べ物の話じゃないんかい笑)
『半分の月がのぼる空』などといったドラマ的なものは好きなのですが、『SAO』とか『とある魔術(略)』などと言ったバトル系のものは吐きそうになる程嫌いで(一応、読んでいない訳ではなく、SAOはアリスなんちゃらのところまで読んでます)まあ、理由は重要じゃないのでここでは言いません。

何が言いたいかというと……
電撃文庫のバトル系ものの中でも、神崎紫電作『ブラックブレッド』という作品だけはムジナ的に大好評なのです。どれくらい好評なのかというと、SAOが本棚の奥底に封印されているのとは対象的に、ブラックブレッドはデスクの一番目につく場所に置かれていると言った具合です。(あとがきへ続く)


まあまあまあ、前置きはこれくらいにして
それでは、続きをどうぞ……


第36話:激突する平原(前編)

「テッサ……」

 

「三日月さん、ここは私に任せて下さい」

 

かつて三日月と行動を共にしたこともある青年……英麒の乗る白虎に対して、テッサはバヨネットの先端を向け、完全に敵対心を露わにしていた。

口調からでは判別しづらいが、テッサの体からは強烈なプレッシャーが放たれており……テッサのすぐ側にいた三日月の目には、まるで彼女の乗るリキッドバルキリーの周囲をドス黒い何かが取り巻いているように映った。

 

「お姉ちゃん……」

 

普段とは違う姉の様子に気づいたのか、上空で待機していたアイルーが心配そうな表情を浮かべた。

 

「……うん、大丈夫だよ」

 

テッサはモニター越しにアイルーへ優しく微笑みかけると、続いて三日月の方へ意識を向けた。

 

「三日月さん、アイルーのことをお願いします」

 

「ひとりで大丈夫? あいつ、結構やるよ?」

 

「はい! 大丈夫です!」

 

英麒の実力を知る三日月は、テッサをひとりにしてしまうことに若干の戸惑いを感じつつも、彼女の瞳に宿る強い意志を感じ取り、やがて小さく頷いた。

 

「……分かった。行こう、アイルー」

 

「り、了解なの……」

 

三日月とアイルーは、一対一で対峙するバルキリーと白虎に背を向け、最前線で反乱軍の精鋭部隊と激戦を繰り広げる朧とオスカーの援護をするべく、移動を始めた。

 

「ねえ、うるさい人」

 

去り際に、三日月は英麒へと振り返り……

 

「あんたが俺を殺したがっていることは分かった。あんたが生きるために必死になっているってことも……でも、俺はまだ死ねない。まだ、俺にはやるべきことがあるから、だからごめん」

 

そう言って、三日月は英麒のすぐ真横を通り過ぎて行く……しかし、それを黙って見逃す英麒ではなかった。

 

「テメェ……誰が逃すかよ!」

 

「やらせない!」

 

なおも三日月の事を討ち取るべく白虎を走らせた英麒だったが、真横からテッサの駆るバルキリーに蹴り飛ばされ、追撃を中断せざるを得なくなった。

 

「ぐあっ…………チッ……!せっかくのボーナスを取り逃しちまったじゃねーか! どうしてくれんだこのアマぁ!? ああ!?」

 

突き飛ばされてもなお、すぐさま姿勢を立て直すことに成功した英麒は、そんな激しい恫喝と共に目の前のバルキリーめがけて白虎を飛ばし……

 

「なっ……!?」

 

研ぎ澄まされた闘気を纏い、白虎の右腕に装備された爪を振り下ろした……まさにその瞬間、バルキリーは6枚の翼を大きく広げ、天高く羽ばたき、英麒の攻撃を難なく回避した。

 

「こいつ、空に……!?」

 

バルキリーの姿を追って空を見上げた英麒だったが、直上から飛来してきた殺気に、慌ててその場から飛び退いた。

直後、先ほどまで英麒が居た位置をバルキリーのライフルから放たれた高出力の火線が通過し、地面を抉った。

 

素早い動きでなんとかそれを回避することに成功するも、しかし、そこへさらに追撃……直上から雨あられの如く降り注がれる火線の嵐に、英麒は全く対処出来なかった。

 

「クソッ、クソッ……!」

 

英麒は上空からビームを放ち続けるバルキリーから逃れようとランダム回避を行うが、しかし、テッサの乗るバルキリーは白虎の直上にぴったり張り付き、その間、下方向に向かって淡々とビームを放ち続けた。

 

「ぐあっ!?」

 

やがて、英麒の回避にも限界が訪れた。

ビームの雨に打たれ、足場の悪くなった地面に白虎のバランサーが対応しきれず、まるでぬかるみに足を取られるようにして白虎は転倒してしまった。

 

その瞬間を狙い、テッサは火力を集中させる。

 

英麒は機体が転倒した状態のまま、両腕の爪でビームをブロックするも、しかし、防御に適していない姿勢では高出力の火線を完全に防ぎきることは出来ず、美しい装飾が施された白虎の装甲が徐々に削ぎ落とされて行く……

 

「ぐぅ……女の癖に、攻撃を当てたからっていい気になるんじゃねぇ!」

 

白虎の中で英麒は怒りに吠えた。

また、この戦いにおいて、高高度からの対地攻撃に対してあまりにも脆弱という、崑崙製BMの弱点が露見することとなった。

 

 

 

白虎を始めとする極東共和国・崑崙研究所製BMは、他国の機体をも凌駕する圧倒的なパワーと高い耐久性で、BMを用いた戦闘が主流となった現代では、ありとあらゆる状況下における陸戦を征するまでになった。

 

しかし、機甲による白兵戦を意識し過ぎた結果、極東武帝の搭乗機である玄武や青龍、闘将など崑崙製BMは地対空能力や対空迎撃能力が全く備わっていないものがその殆どを占めており、空の敵に対して一方的な敗走を強いられるという事例も少なくなかった。

 

なお、これを受けて崑崙研究所では制空権確保の為の航空機型BMの開発が進められてはいたものの、先の極東におけるファントム襲撃事件(イースト・ダウン)により、開発主任と崑崙研究所の責任者の殆どが死亡したことで計画は完全に打ち切られてしまっている。

 

 

 

「ふっざけんな!!!」

 

しかし、白虎の対空能力が皆無とは言え、英麒は他の一般兵のようにただ黙ってやられる程無力ではなかった。

雨あられの如く降り注がれるビームをギリギリのところでかわし、隙を見ては上空のバルキリーめがけて攻撃を放った。

 

しかし、射出型の爪は射程が短く、バルキリーに辿り着く前に勢いを失い、エネルギー弾は弾速が遅く、バルキリーの機動力を前にあっさりとかわされてしまう……白虎に装備されたなけなしの遠距離武器では、空中を高速で飛翔するバルキリーを捉えられない。

 

「クソ! 女だからそんな戦いしかできねぇのかよ!」

 

それでも執念からか、英麒は白虎を跳躍させ、バルキリーめがけて直接爪を叩き込もうとするも、格闘機特有の鈍重な事はもとより、そもそも空中戦など想定されていないこともあって、上空のバルキリーに辿り着く前に白虎は落下を始めてしまう。

そればかりか、自由の効かない着地のタイミングを狙って、テッサは容赦なくトリガーを引き絞り……その結果、白虎が攻撃の為に跳躍する度に、逆に損傷が増えるという有様だった。

 

「ぐぁ……この卑怯者が! 降りてきやがれ!」

 

「は?」

 

思わず心の声をぶちまけた英麒に、テッサは「何言ってんだコイツ?」と、眉をひそめながらトリガーを引き続けた。

 

「くっ……オイ! 誰が援護しろ!」

 

堪らず、通信機を使って随伴した羅刹部隊へ援護を求めるが……時すでに遅し、部隊は既に朧の乗るカグヤによって壊滅させられてしまっていた。通信機から聞こえてくるのは、誰にとっても耳障りなだけでしかないノイズ音だけだった。

 

「この役立たずども……ぐあっ!?」

 

その瞬間、バルキリーの放った火線が白虎の肩部を抉った。英麒はさらなる直撃から逃れようと機体を真横に飛ばすも、それによって徐々に戦闘区域外へと追い込まれつつあった。

 

「クソが! 女のくせに」

 

「…………」

 

そこで何を思ったのか、テッサは地上への銃撃をやめて長い溜息を吐くと、ゆっくりと地上へと降下を始めた。

 

「なんだ、弾切れか?」

 

上空にいれば一方的に攻撃出来たはずのところを、わざわざ地上に降りてきたのを見て、英麒は不思議そうな顔をした。

 

「あのさ、さっきから何かにつけて『女だから』とか『女の癖に』って言ってるけど、それ関係ある?」

 

テッサは苛立ちのこもった口調でそう告げた。

それを聞いて、英麒はニヤリと笑う。

 

「はぁ? 何言ってんだお前」

 

ヘラヘラと肩をすくめるようにして英麒は続ける。

 

「オレら男に比べて、女が弱いのは当たり前だろうが? いつの時代も、歴史ってのは男によって作られてきた。お前たち女は、男を引き立てるだけの脇役で、据え膳だろうがよ」

 

英麒はバルキリーのコックピットにいる女がコックピットの中で苛立ちを募らせる気配を感じ取り、さらに語気を強める。

 

「力もなければ頭もねぇ。女ってのは、オレたち男がいなけりゃ何もできない生き物なんだよ! 男に媚びを売って、男を喜ばせる為だけに身体を差し出す、ガキを作る為だけの道具、いわば孕み袋ってやつなんだよ!」

 

「……アンタ、それ本気で言ってるの?」

 

「お前、あの三日月って奴の女なんだろ?」

 

テッサの問いかけに答えず、英麒は醜悪な笑みを浮かべて言葉を続ける。

 

「お前も災難だよなぁ〜、あんなガキみたいな奴の相手をしなきゃなんねーなんてよ。さぞかし幼稚で満足できない夜を過ごしてんじゃねぇの?」

 

「…………」

 

「お? 反論しねぇってのは、つまりそういうことか? ハハッ……ならオレ様の物にならねぇか? ここのところ欲求不満なんでな、オレ様の側に付くって言うんだったらその分、毎晩たっぷり可愛がって……」

 

 

「決めた」

 

テッサは静かにそう告げると、バルキリーの両手に装備されたヴァリアブルバスターライフルの内、右手の一丁を地面に突き刺し、得物のなくなった腕にナックルガードを展開した。

 

「あんたのことは、この手で殴らないと気が済まない」

 

そう言って、ナックルガードの装着された右腕を構える。

 

「何を言い出すかと思えば……オイオイオイ、そんな貧弱な機体で、このオレ様と格闘戦をやり合おうってか? ハッ……笑えるね」

 

バルキリーの細い腕を、英麒は嘲笑った。

あえてテッサのことを挑発したのは、怒りに身を任せて接近してきたところを迎え撃つという、英麒なりの作戦だった。

そして、その目論見は上手くいき、テッサの乗るバルキリーを空中から地上へとおびき出すことに成功していた。

 

格の違いを見せてやる。

超人を生み出す霊獣計画の片割れであり、かつて極東最強の男である極東武帝から幻舞拳をみっちり仕込まれていた英麒は、自分の近接戦闘能力に絶対的な自信を持っていた。

 

「もし、このオレ様に一発でも拳を叩き込むことができたら、そん時ぁ、地面に頭をつけて謝って……」

 

極東武帝によって行われてきた偏った教育の数々

古い価値観の刷り込み

自然に生まれてきた者たちに対する過小評価

 

それによって形成された慢心が、仇となった。

 

「……なっ!?」

 

次の瞬間、英麒の視界からバルキリーの姿がかき消えた。英麒がそれに気づいた時には既に、拳を振り上げたバルキリーは白虎のワンインチ距離まで迫っており……そして、視界が一瞬だけブラックアウトした。

 

「……がっ……!?」

まともに防御することすらできず、ナックルガードはそのまま白虎の頭部に吸い込まれ……直撃した打撃は白虎の左目を砕き、頭部面積の実に3分の1を消し飛ばした。

 

バランサーは乱れ、激しい衝撃と共に白虎は宙を舞い、無様に地面を転がった。

 

「い、一体何が……ぐあっ!?」

 

地面に跡を残して数十メートルほど転がったところでようやく止まり、そこで機体を立て直そうと英麒は顔を上げるが……その瞬間、バルキリーの振り下ろした足が白虎の頭部を踏み潰し、英麒は地面を舐めることとなった。

 

「ねぇ、今どんな気分?」

 

強烈な圧力に晒され、踏み潰された白虎の頭部からメキメキと音が鳴り響く。それはまるで、白虎が上げる悲鳴のようだった。

 

「無様だよね? あんたは今、ついさっきまであんたが嘲笑っていた女に殴られて、踏み付けられて……地べたを這っているんだよ?」

 

テッサは濁った瞳を浮かべ、尚も白虎を踏み続ける。

 

 

 

ーーーア ヤ マ レ ヨーーー

 

 

 

「……ぐっ」

 

英麒はバルキリーから逃れようと機体のパワーを最大限まで引き上げるも、バルキリーの足はピクリとも動かない。格闘機である筈の白虎は射撃特化のバルキリーに対して、完全にパワー負けしていた。

 

「あのさ、私が何を謝れって言いたいか分かる?」

 

「うっせぇ!」

 

咄嗟に、英麒はブラーフマの提案で装備されたテールブレードを振るい、バルキリーを切り裂こうとした。しかし、テッサはそこで見事なバック転を決め、刃が届く寸前に白虎から距離を取った。

 

「別に、アンタが世の中の女性に対して、どんな風に見ていたかとか……そういうのは割とどうでもよかった。同じ女性として、聞いていて気持ちのいいものではなかったけど」

 

起き上がった白虎に向かって、テッサは告げる。

 

「まあ、アンタが最低な屑だってことは分かった」

 

「て……テメェ! 女の分際で、このオレ様をゴミ屑呼ばわりするたぁ、いい度胸……」

 

「いいや違う、お前はゴミだね」

 

「なっ……!?」

 

テッサの伸ばした人差し指が、白虎の姿を突き刺す。

 

「でもね、三日月さんのことを悪く言ったのだけは、ちょっと許せない。あの人のことを何も知らないくせに……アンタ何言ってんの?」

 

その瞬間、テッサの体から強烈なプレッシャーが放たれた。それはまるで、死んでいい奴を目の前にした三日月が放つ殺気のようでもあった。

 

テッサの意思に応えるようにして、バルキリーのツインアイが鋭い輝きを放ち、全身に張り巡らされた装甲の内側から、うっすらと黒い炎が漏れ出る……

 

「な、なんだ……お前!? なんなんだ……」

 

得体の知れない気配を感じ取り、英麒は生まれて初めて女性に対して恐怖心を抱いた。

 

 

 

テッサはずっと我慢していた。

 

テッサはパラダイス・ヴィラでの戦闘以降、それまでの弱かった自分を変えてくれた三日月に対する感謝と親愛の気持ちから、これまでのような護られる存在ではなく、逆に三日月のことを護ってあげられる存在になろうと心に誓っていた。

 

その心は、かつて三日月と愛を育み、子を成したアトラ・ミクスタの存在を知ってからも変わらなかった。

 

寧ろ、それがテッサの心を激しく燃やす原動力となった。

かつて三日月のそばに寄り添う者がいたという事実は、どうあっても変わらない。ならば彼女がしてあげられなかったことを、今の三日月してあげよう……アトラという存在に対する強い嫉妬心から、テッサはそう思うようになっていた。

 

それからというもの、自身が敬愛する三日月を追い続けるのではなく、いつか彼の隣に立つことを夢見て……彼の背中を預かるに相応しい人間になろうと、テッサは地道な努力を重ねていった。

 

三日月のことを護ろうという気持ちは、オスカーの指示で三日月が手加減をするようになってからというもの、更に高まるようになっていた。

演技をしているのだと分かっているとはいえ、愛する人が目の前で嬲られるのを見るのは耐え難く、三日月が敵の一方的な攻撃に晒されている間、テッサは三日月のことを護りたくて堪らない気分になっていた。

 

それが仕事なのだからと自分に言い聞かせ、何とかその気持ちを押し殺してここまでやってきたテッサだったが……だが、三日月と英麒が戦闘状態に陥り、さらに英麒が三日月のことを悪く言ってしまったことで、ついに堪忍袋の尾が切れることとなった。

 

愛を超越し、三日月に対して執心とも呼べるほどの感情を抱くようになった少女は、それを己の力へと変換した。

黒いオーラを纏い、全身から一触即発のアトモスフィアを放ったその姿は、まさに阿修羅すら恐怖するほどの禍々しさだった。

 

 

 

「私は、三日月さんほど優しくないから……」

 

そう言って、テッサはゆっくりと足を踏み出した。

 

「ひっ……く、来るんじゃねぇ!」

 

英麒は迫り来る憎悪を前に怯みつつも、黒いバルキリーめがけて白虎の両腕に装備された爪を射出した。

 

しかし、爪が装甲に食い込む直前、バルキリーの姿が再び消失した。超人である英麒の目にすら捉えられない機動性で、瞬く間に白虎の背後へと回り込んだテッサは、その背中に拳を打ち込んだ。

 

「ぐああっ!?」

 

弾き飛ばされ、白虎は再び転倒する。

テッサはボロボロになったナックルガードをパージすると、6枚の翼を広げ、超低空で機体を飛ばすと……地面に膝をついた白虎めがけて左手のバスターライフルを照準した。

 

「くそっ!」

 

白虎を素早く起き上がらせ、バスターライフルを構えて飛翔するバルキリーを迎え撃つべく、両腕の爪を構えた英麒だったが……

 

「なに!?」

 

次の瞬間、テッサはライフルのトリガーを引き絞り……ではなく、銃本体を白虎めがけて投擲した。

 

そして、バスターライフルのアンダーバレルには既にバヨネットが展開されている。テッサの取った予想外の行動に、英麒は驚愕した。

 

迫り来るバヨネットの刃を、慌てて爪でガードした英麒だったが……刃同士が衝突したその瞬間、バヨネットの刃に仕込まれた指向性ショックウェーブが発動。

 

「おわっ!?」

 

バヨネットから発生した強烈な衝撃波に晒され、白虎の姿は再び宙を舞った。だが、テッサの攻撃はそれで終わりではなかった……

 

超高速でバルキリーを飛翔させ、空中の白虎へ追いついたテッサは、空いた右手で白虎のテールブレードを掴むと、そのまま機体の推力を全開にした。

 

「あぅ!?」

 

そのまま超低空で飛行し、白虎を引きずり回した。テールブレードを掴むバルキリーの手を振り解こうと、英麒はコックピットの中で闘気を高めようとするも……地面から突き出した岩が次々と白虎に衝突し、その度に機体が跳ね、地面に打ち付けられ、執拗な衝撃にパイロットが脳震盪を引き起こしてしまい、それどころではなかった。

 

引きずられた後が、長い線となって地面に伸びる。

 

数百メートルほど白虎を地面に引きずり回したところで、獲物を捕らえた猛禽類の如く、テッサはバルキリーを天高く飛翔させた。

そして、高高度から白虎を地面に叩きつけようとするも……土壇場で脳震盪から回復した英麒はテールブレードの根元を爪で切断し、無理やりバルキリーの攻撃から脱することに成功した。

 

英麒は落下のダメージを最小限にするべく機体のブースターを下方へ向け、さらに着地と同時に転がることで衝撃の分散を試みるも……

 

「っ!」

 

地面に足がついた瞬間を、バルキリーの肩部レールガンで撃ち抜かれ、バランスを崩した白虎は受け身も取れずに地面に強く叩きつけられてしまう。

 

「か……かはっ」

 

常人ならば圧死してしまうほどの衝撃がコックピット内部に生じたにも関わらず、実験により生み出された人ならざる存在であり、驚異的な回復力を持つ英麒は死んではいなかった。

 

「いてぇ……体がいてぇ、いてぇよぉ……」

 

いや、死ぬことを許されなかった。

その体は既に満身創痍、着ていた豪華なチュゼールの服もボロボロになっている。既に回復が始まってはいたものの、全身に生じた耐え難い苦痛に、英麒は絶叫した。

 

満身創痍なのは白虎も同じだった。

左目と豪華な装飾のなくなった頭部、チュゼールのゴツゴツとした大地を引き回されたことにより全身傷だらけで、左腕の爪は最早再生不可能、右足を撃ち抜かれ普段通りの機動性を発揮することは出来ず、さらに改修時の特徴でもあったテールブレードは根元から切り落としてしまったことで使い物にならなくなってしまっている。

 

それでも、強者としてのプライドか英麒はヨロヨロと機体を立たせる。機体の各所に生じたスパークがその痛々しさを表していた。

 

「へぇ、まだ生きてる……」

 

そんな白虎の上空に、バルキリーが姿を現わす。

その両腕には、回収した二丁のバスターライフルが握られている。

 

殴った際に破損し、パージしたナックルガードを除く、全ての武装・装甲共にほぼ無傷の状態だった。

 

「な、何で……」

 

「何で勝てないんだって、そう思ってる?」

 

英麒の思考を先読みし、テッサは続ける。

 

「答えは簡単……私には、心の底から護りたいと思える存在がいた。お前にはそれがいなかった……ただ、それだけのこと」

 

濁っていたテッサの瞳に光が差しこむ。

 

「人ってさ……自分の為よりも、誰かの為ならもっと強くなれるものなんだよ。その人の為に役立ちたい、その人を護りたいって想う、その気持ちが強ければ強いほど……使える力は強くなる。人はそれを『愛』って言うんだよ?」

 

そう言って、テッサは三日月の姿を心の中で思い浮かべ、安らかな笑みを浮かべた。

 

「私は、三日月さんのことが好き。三日月さんと一緒にいると心がポカポカする、今の自分があるのは三日月さんがいてくれたから、だから私の全部は三日月さんのもの……私は三日月さんのことを愛してる。私は三日月さんの為にもっと強くなる」

 

「う、嘘だ……そ、そんな下らないものに、このオレ様が、オレは……霊獣計画で、人の上に立つべき存在で……最強で、最高の……」

 

「は? なにそれ……まあ、分からないでしょうね。女性を自分の欲望を満たすための道具にしか見ていないアンタには……」

 

テッサの瞳が再び濁り始めた。

バスターライフルの銃口が白虎に向けられる……

 

「でもね、私は私の考えや価値観をアンタに押し付けるつもりはないよ……だって…………」

 

 

 

ーーーオ マ エ ヲ コ コ デーーー

 

 

 

次の瞬間、つい先ほどまで上空にいたはずのバルキリーの姿が消失した。英麒が気付いた時には既に白虎の目の前に再出現し、その眼前にバスターライフルの銃口を突きつけていた。

 

 

 

ーーーシ マ ツ ス ル カ ラーーー

 

 

 

「うわぁぁぁぁぁッッッ!!!」

 

至近距離から放たれる強烈なプレッシャーに絶叫し、英麒は反射的に爪を振った。しかし、テッサはそれを身を翻しただけで回避し、再びバスターライフルの銃口を白虎の頭部に向けた。

 

「!」

 

咄嗟に回避しようとした英麒だったが、損傷した足では動くことが出来ず……そして、バスターライフルから放たれた高出力の火線が白虎の右目を貫き、内部機構を焼き尽くし、後頭部から飛び出していった。

 

メインカメラから送られてくる情報が完全に絶たれたことで、白虎のコックピットは暗闇に包まれた。機体の各所に設置されたサブカメラも、戦闘によって蓄積したダメージにより、とうの昔に機能しなくなっている。

 

「あ……あぁぁぁあ……」

間近に迫った死の恐怖を感じ取り、英麒の顔が絶望に染まる。

 

「…………」

テッサはバスターライフルのアンダーバレルにバヨネットを展開し、両腕に装備したそれを、戦闘不能に陥った白虎の両肩めがけて振り下ろした。

 

接触と同時に発生したショックウェーブが、白虎から両腕を削ぎ落とした。これにより、あらゆる攻撃オプションを失った白虎は、ゆっくりとチュゼールの大地に崩れ落ちた。

 

「ハァー…………大して強くもない癖に……邪魔」

 

テッサは汚いものでも見るような目つきで白虎を見下ろした後、すぐに興味をなくしたかのようにバヨネットを収納し、翼を広げて空へと舞い上がった。

 

「三日月さん、褒めてくれるかな?」

 

それから、遠くで繰り広げられる戦闘を見つけると、にわかに頰を赤らめ、瞳を明るく輝かせた。その表情は、恋する乙女そのものだった……

 

「三日月さん……三日月さんの前に立ちはだかる敵は、誰であろうと全部、私が叩き潰します……だから、今行きます」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

機動戦隊アイアンブラッドサーガ

第36話:激突する平原(前編)

 

 

 

 

 

 

 

 

同時刻

 

反乱軍陣営

ブラーフマの乗る旗艦

 

 

 

「そうか……結局、あの男は奴らに対して微塵も損害を与えられなかったか」

 

部下から英麒の乗る白虎が何の戦果も上げられないまま撃墜されたとの報告を受け、ブラーフマは大きな溜息を吐いた。

 

「期待外れでしたな」

 

「薄々分かってはいたがな。まあ、これで奴に支払うことになっていた多額の報酬も、女どもの提供もなくなったという訳だ」

 

側に控えていたアジュガの言葉に頷くと、ブラーフマは正面の望遠モニターへ視線を送った。そこには、反乱軍の部隊と戦闘を繰り広げるバルバトス、ソリッドバルキリー、カグヤ、そしてウァサゴGの姿が映し出されていた。

 

「だが、あの噛ませ犬も少しは役に立った。カピラ城郊外に展開していた部隊をこちら側へ誘き寄せることが出来たのだからな」

 

「偵察に出した部隊からの報告によれば、どうやら敵部隊の主力であると思われる白いBMは不調のようです。そして、カピラ城は未だ戦力が整わない様子……仕掛けるなら今しかないと判断しますが」

 

「ふむ……そうだな」

 

ブラーフマは玉座から立ち上がると、全部隊へ指示を送るために無線を手に取った。

 

「教廷の無人機を出せ! ありったけだ!」

 

無線機へ声を吹き込み、ニヤリと笑う。

 

「前衛の部隊を撤退させろ。そうだ、一対一で勝てぬのなら圧倒的な数の力で全てを押しつぶせばいいのだ。ククク……緋色の剣聖、そしてオーガス小隊……今日ここで、引導を渡してくれよう」

 

 

 

 

ーーーーー

 

 

 

 

 

「……?」

 

テッサと別れた後も、最前線で反乱軍部隊を迎撃していた三日月は、ある時から急に敵が引き始めたことに気づき、首を傾げた。

しかも、どういうわけか撤退を始める反乱軍兵士達は、皆一同に怯えた様子を見せていた。

 

「逃げる?」

 

その様子に奇妙な気配を感じた三日月は、追撃せずにしばらく様子を伺っていたが……次の瞬間、反乱軍兵士達が消えた先から、うっすらと地響きが聞こえてきた。

 

「地震……?」

 

「いや、違うぞ……これは……!」

 

地響きと共に、大地の向こう側から巨大な土煙が立ち上るのを見て、何やら良からぬ気配を感じ取り、三日月と朧は身構えた。

 

「三日月お兄ちゃん! 大変なの!」

 

上空でスナイパースコープを使って巨大な土煙を覗いていたアイルーが、迫り来るそれを目撃し、驚いたような声をあげた。

 

「アイルー、どうしたの?」

 

「どうしたもこうしたもないなの! あれ全部、戦車なの!」

 

「……!」

言われ、三日月は土煙の中へと視線を送った。

 

ガイウス、ユリウス

広大なチュゼールの大地を、既存の戦車の常識に囚われない独特なフォルムを持つ、機械教廷製の真っ赤な無人戦車が埋め尽くしていた。

 

数にして数百から千台ほどはいるだろう。

一切の隙間なく一定の速度を保って行軍する赤い戦車によって構成されたそれは、まるで赤い絨毯のようだった。

 

赤い絨毯が徐々に広げられ、戦車の進路上が真っ赤に染まっていく……かつてチュゼールが機械教廷の侵略を受けた『あの戦争』のことを知る者がこの光景を見たならば、思わず『浄化戦争の再来』と評することだろう。

 

「ここで虎の子の無人機を大量投入してくるとは……ブラーフマはこの戦いで全てを終わらせるつもりなようだぞ、三日月君! 朧君!」

 

「あれ、全部敵なんだ……」

 

「なんて数だ……」

 

オスカー、三日月、朧は徐々に迫り来る大群を見据え、それぞれ静かに得物を構えた。しかし、これだけの大群を前にしても誰1人として引こうとはしなかった。

 

「なるほど。敵は我々を押し通り、一気にカピラ城を落とすつもりなのだろう」

 

「つまり、ここで俺たちが引いたら……」

 

「ああ。まず間違いなくこの戦争は終わるだろう……ブラーフマ陣営の勝利という形で」

 

いくら堅固なカピラ城の城壁であっても、一度に数百台もの戦車の衝突を受ければ、タダでは済まないことは明らかだった。

そうなってしまえば、カピラ城どころか城下の市街地すら一蹴され、戦いとは無縁な数万もの人々が路頭に迷うこととなる。

 

「そうだ。我々はここで引くわけにはいかないのだ……もう間も無く、シャラナ王女が残存兵力をまとめて出陣なさる。諸君、それまで奴らの侵攻を何とか食い止めようではないか」

 

そう言いつつ、オスカーは不敵な笑みを浮かべた。

 

「フフフ……このシチュエーション、物語の主人公を活躍させる展開としては完璧ではないかね。この状況を我々に提供してくれたブラーフマには、是非とも礼を言って差しあげなくては……」

 

「あんた何言ってんの?」

 

「何、ただの世迷い言さ……」

 

呆れたような口調の三日月に、そんな言葉を返しつつ、オスカーは機体を上空に向かって飛び立たせた。

 

「三日月」

 

「なに? 家族想いの人」

 

入れ替わりに、朧が三日月の元へ近寄ってきた。

 

「お主、ここで引いても構わないぞ」

 

「え?」

 

少しだけ驚いた様子を見せた三日月に、朧はカグヤのマニピュレーターでアイルーの乗るソリッドバルキリーを示し、言葉を続ける。

 

「お主はまだ若い。それに、あそこにいる少女のように、守るべき存在がいるのだろう? ならばこんなところで命を粗末にする必要はないぞ」

 

「それ言ったら、若いのはあんただって同じでしょ……というか、守ってあげないといけない大切な人がいるのは、あんたも同じことでしょ?」

 

「フッ……そうだな」

 

三日月にそう言われ、一瞬、故郷に置いてきた妹のことを……そして、己の忠義を尽くすべき存在のことを考えた朧は、息を吸うように小さく笑った。

 

「では……似た者同士、共に死地へ参ろうか」

 

「ああ……邪魔するものは、全部叩き潰す」

 

黒い剣士は美しい緋色の刀を掲げ……

白い悪魔は巨大な質量兵器を構え……

 

並列した白と黒の人型機は、侵食を続ける赤い絨毯を見据え、同時にツインアイを光らせた。

 

 

 

to be continued...




(前書きの続き)
何が言いたいかと言うと、ニコニコ動画の方で『鉄血のオルフェンズ』と『ブラックブレッド』をクロスオーバーさせた、新たな『異世界オルガ』の動画があるのです。

その名も、『鉄血・ブレッド』

これがですね、もう本当に凄い!(語彙力不足)
ご興味がある方は、是非とも見ていただきたいのです。
(本当はこういう宣伝はついったーの方でやるべきなのでしょうが、ムジナのついったーは凍結しているので無理なのです。ついでにふぇいすぶっくも凍結されてるのです)←デシタルデバイト

少しだけ本編の話をさせていただくと、本当はテッサの三日月に対するヤンデレ具合をもっと事細かに、くどくどと表現したかったのですが、まだムジナの語彙力が足りてないのでこれが限界でした。
三日月とテッサの『アトラに関するやり取り』については、いつか書きたいのです。

それでは、次回予告です。


エル「いよいよブラーフマとの決戦の時!」
フル「ですが、そこへ『あの機体』が参戦します」

エル&フル「「次回、『激突する平原(後編)』」」

エル「なるほどね!これが『四面楚歌』なのね!」

アイサガで貴方の好きなキャラを教えてください。(回答はこちらではなく気軽にコメントの方へお願いします)

  • 境界戦機もっと流行れ
  • 鉄血・ブレットもっと流行れ
  • 水星の魔女×鉄血のオルフェンズ?
  • あと、アイサガのエンディングも作ります
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