機動戦隊アイアンブラッドサーガー悪魔と少女と機甲ー   作:野生のムジナは語彙力がない

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マス飛のこと調べてたら、案の定コメントにニンジャスレイヤー沸いてて草でした。(思わずイイネしてしまいました)

スロカイ様のお母さんについては……具体的なエピソードがあんまりないのでどれだけ深い間柄なのか不明なのでその辺りは曖昧にします。

キリどころがなかったのでかなり長くなってしまいました。ご了承ください。





それでは続きをどうぞ







第9話:再会へ至る道

夜。カイロの中心にて……

 

その少女……美しいピンク色の髪が特徴的な少女は、一睡もせずカイロの繁華街を歩き回っていた。

 

その目的は、彼女の持つ銀色のペンダント……その中に収められた一枚の写真に写る女性、少女はカイロに到着してから今の今までこの女性の手掛かりを探し続けていた。

 

しかし、収穫は何もなかった。

 

蓄積した疲労と失望が、この誇り高い少女に憔悴の影を与えていた。

 

そもそも、カイロは人口約1000万人にも及ぶ大都市だった。その中から一人の人間を探し出すなど、干し草の山から一本の針を見つけるよりも困難と言えた。

 

そんな少女に突然転機が訪れる。

エジプトの華麗な民族服をまとった一人の男性が、途方にくれる少女の前に姿を現したのだ。

 

男性は『アンネロゼ』という名前の主人から、少女を自分の元へ連れてくるように命じられたと説明した。

 

「!」

主人の名前を聞いた途端、常に冷静な少女は身を乗り出してその話に食いつき、珍しく驚きを隠すことができなかった。

 

男性は続けて、自分の主人はカイロ近郊にある『ナイトパレス』と言う別荘で待っていると告げ、少女の都合を聞き、そこまで案内すると言った。

 

男性の調達したラクダに乗り、かくして少女はその男と共にカイロの中心部を離れて行った。

 

 

 

 

カイロ郊外、少女と男性が古戦場の廃墟を通り過ぎた時だった。

 

突然、前を進む男性が少女へと振り返ったかと思うと、なんの前触れもなく男性は少女へと拳銃を向け……発砲した。

 

「!」

しかし、少女が抱いていたウサギ型護衛ペット『ダークラビット』が機敏に反応し、自分の体で銃弾を受け止めた。

 

「ちっ……やはり簡単にはいかないか」

 

完璧な不意打ちを防がれてもなお、男性は銃口を少女へと向け続ける。

 

「貴様……なんの真似だ」

 

少女は冷ややかな視線を男性へと送る。

 

「……こういうことさ!」

 

男性が片手を上げると砂漠の中にアンブッシュしていたのか、大量の砂を巻き上げ数体の巨人が少女を囲むような形で出現した。

それは完全武装したBMだった。

 

全機が少女へと武器を向ける。

 

しかし、完全包囲されてもなお少女は冷静だった。慌てる様子を見せることなく、ここへ導いた男性を冷たい視線で見つめた。

 

「あなたたちは……何者?」

 

「あなたの命を奪いたい者だ」

 

少女の問いかけに対する男性の答えはシンプルなものだった。

 

「さっきの話は全て嘘だったの?」

 

「あれは気にするな、どうせすぐに死ぬのだから」

 

「あなたたちの手で?」

 

少女は軽蔑の眼差しで周囲を見回した。

 

「あなたは『究極能力者』だ。だが、砂漠でこの能力は……うわあああっ?!」

 

その瞬間、男性は絶叫した。

男性の話が終わる前に、地下から砂漠の海を割って突如出現した鋼鉄の肢体によって彼はラクダごと吹き飛ばされてしまった。

 

その瞬間、ピンク髪の少女は勝利の微笑を浮かべた。

 

「ついてなかったわね、選んだ場所が最悪だったのよ」

 

すると少女の足元から、ずず……ずずず……

 

「ここは古代戦場の遺跡。それがどんな意味を持つか……分かるかしら?」

 

この振動は少女が起こしていた。彼女はその能力で砂漠に埋葬されていた鋼鉄の残骸を地表へと呼び寄せていたのだ

 

「この能力を見られることを光栄に思いなさい」

 

激しい振動とともに少女の足元が割れ、砂の中から赤い鉄の塊が姿を現し……鉄の塊は少女を乗せたまま砂漠の中に浮かび上がると、さらに砂の中から無数の機械の残骸が出現した。

 

残骸は少女の足元で鉄の塊へ次々と融合し、最終的に1体の血のように赤い巨人が生み出された。周囲のBMなど小指で捻り潰すことが出来るほどの巨大な体躯。しかしスクラップの集合体であるにもかかわらずその巨人は少女の命を受け、より兵器として洗練され一切の無駄もない機械生命体としてその場に降臨した。

 

ウオオオオオオオオォォォォォ……!!!

その巨人はまるで血に飢えたケダモノのように、荒々しい咆哮を上げた。

 

「そんな……バカな……機械の残骸を……こんな……」

 

吹き飛ばされた男は自分を襲う咆哮の衝撃に耐えながら、呆然と少女の機体を見上げた。

 

普通の人間ならばこの光景を見ただけで恐怖にかられる筈だ。だが、少女を包囲していた者たちは呆然と驚きはするも、決して逃げ出そうとはしなかった。

 

「お前たちは一般人ではないな。背後にいる首謀者の名前を教えれば教えてやろう、凡人」

 

機械生命体へと乗り込んだ少女は、いつか誰かがやっていたようにナツメヤシの実を口に入れて糖分を補給した後、男性を見下ろして問いかけた。

 

「俺が教えると思うのか、偉大な教皇様」

 

男性は不敵な笑みを浮かべて冷たく言い放った。

しかし、本当は逃げ出したくてたまらなかった。

 

「そう……ならば機械神の元に行くがいい。愚かな凡人ども」

 

機械生命体は腕を上げ、巨大な爪を展開し、振り下ろした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

機動戦隊アイアンブラッドサーガ

第9話:「再会へ至る道」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

もう少しで日付が変わろうとする時刻……カイロ郊外

 

「三日月さん……もう少しでカイロだよ!」

 

「…………」

 

バルキリーに乗るテッサは、後ろを振り返ってヨロヨロと歩くバルバトスへと視線を送った。

 

「カイロに着いたらナツメヤシが待っていると思うから!ちょっと高くなっているかもしれないけど、お家に着いたら沢山買いに行って、思う存分食べよう……ね!」

 

テッサは励ますような口調で三日月へと呼びかける。

 

「そうだね……」

 

バルバトスのスピーカーから三日月の疲れたような声が響き渡る。

 

エレインたちと別れてから2日が経過していた。

 

そこからたっぷりと時間をかけてカイロ郊外まで戻ってきた三日月とテッサだったが、その2日間、一粒もナツメヤシの実を口にしていなかった三日月の体にはナツメヤシ不足による禁断症状が発現していた。

 

その間、三日月はプリンで症状を抑えていたものの、それも限界だった。

 

三日月の瞳から光は失われ、身体能力は鈍り、阿頼耶識で繋がったバルバトスの操縦系に影響を与えるほど集中力も切れていた。

 

ちなみに推進剤の件は、あいにく前の街で売っていたものではバルバトスには適合しなかったこともあり、ガス欠の状態で2日かけてここまで戻ってきたのである。

 

今、三日月の脳裏に広がるのはナツメヤシへの願望だった。

ナツメヤシに支配された脳内を必死に言い聞かせ、三日月はそれでもバルバトスを歩かせる。

 

(なるほどね!これが『頭ダッチー』ならぬ『頭ナツメヤシ』なのね!)

(お姉ちゃん!)

 

 

 

そんな時だった……。

 

「……?」

 

ふと、バルバトスが三日月へと送る膨大な情報の中に、ナツメヤシへの願望に支配された三日月の興味を引くものがあった。

 

「……ナツメヤシ……?」

 

「……え?」

 

テッサが振り返ると、そこには明後日の方向へと視線を送るバルバトス。

 

「ナツメヤシだ……」

 

「ち……ちょっと三日月さん!?」

 

すると、先ほどまでのヨロヨロとした動きが嘘だったかのように、バルバトスは機敏な動きを見せて砂漠のある一点めがけて滑走した。

 

その場所まで来ると、三日月はバルバトスから飛び降りて砂漠へと膝をつく。

 

「ナツメヤシ……あった」

 

砂の上に落ちていたものを拾い上げてみると、それはナツメヤシの実だった。

 

それは幻覚などではなく、正真正銘のナツメヤシの実だった。

三日月がそれを口にした途端、まるで息を吹き返したかのようにその瞳が爛々と輝く。

 

三日月が目を上げると、さらに沢山のナツメヤシの実が落ちているのを目にした。終末戦争以前に作られた童話『ヘンゼルとグレーテル』に出てくる目印のように、一つ一つ適度な距離を空けて落ちていた……。

 

「嘘……どうして?」

追いついたテッサは状況を把握し、驚きの声を上げた。

 

三日月はそれを一粒一粒大切に拾ってはポケットに収め、その後を辿るように砂漠を歩いていく。

 

それはカイロ方面へと続いているようだったが、今の状況ではまるで三日月を誘う罠のようでもあった。それがら本当であれば三日月はいつか巨大な籠の中に閉じ込められてしまうだろう。

 

「三日月さん、危ないかもしれないよ!」

 

テッサの言葉を無視するかのように、三日月は無我夢中でナツメヤシの実を拾い集め続ける。

 

そんな時、ふと前方を見上げた三日月の目に、ナツメヤシの実が続く道の先に……砂に埋もれた何かがあることに気づいた。

 

「……プリンの人?」

 

ピンク髪の少女が行き倒れていた。

その体は三分の一ほど砂に埋まっている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お母さま……」

 

眠り続けるピンク髪の少女。

涙が一滴、また一滴と少女の美しい頰を伝って流れ落ち、シーツを濡らした。その姿にはいつもの傲慢さはなく、母親を恋い慕う普通の子どもと同じように憐れで無防備だった。

 

ベッドに眠る少女を前に、三日月はその体が冷えないよう毛布をかけて小さくため息をついた。

 

カイロへと帰還した三日月とテッサは、オルガ探しの拠点であるホテルまで戻っていた。二部屋取った内、ここは三日月の部屋。こじんまりとしたスペースにシンプルな内装、家具はベッド、椅子、机が一つずつと簡素だった。

 

「……大丈夫。ちょっと疲労しているだけで、脱水症状とかはなさそうだからこのまま寝かせていても問題はなさそう」

 

少女のそばに座り、しばらく容体を見ていたテッサがそう言って三日月へと振り返った。

 

「そっか……」

 

三日月はそう呟き、いつものように袋からナツメヤシの実を取り出そうとして……やめた。落ちていたとはいえ、人のものを勝手に食べるのはどうなのかと判断してのことだった。最初に一粒食べている時点でもう遅いのだが……。

 

「三日月さん、夜も遅いしもう眠って。私はソファで眠るから……」

 

テッサは自分の部屋の鍵を三日月へと差し出す。

自分の部屋のベッドを使って……という意味なのだろう。

 

「……いらない」

 

しかし三日月はテッサの提案に対し、首を横に振った。

 

「疲れてるのはミサイルの人の方でしょ?俺は別に疲れてないから」

 

「でも……」

 

「……そう。だったら」

尚も鍵を差し出すテッサに嫌気がさしたのか、三日月は仕方なくテッサから鍵を受け取ると、何故かテッサの腕を引いて部屋の外へ出る。

 

「え?三日月さん……?」

 

「だったら、一緒に寝る」

 

「ええ?!」

 

鍵をかけてからテッサの部屋へと移った三日月は、テッサをベッドへ放り投げると、自分もベッドに入り、テッサのことを拘束するかのようにその腕を掴み、体を横にする。

 

「い……一緒にって……なんで……」

 

顔を真っ赤にしたテッサは、目の前で自分を拘束する三日月から目をそらす。

 

「俺に眠って欲しいんでしょ?俺も、テッサには眠って欲しいから」

 

そう言って三日月はあくびをした。

 

「でも、こんな……向き合ってなんて……」

 

「……ごめん。俺、背中の機械が邪魔でまっすぐ眠れないし……それに、こうしないとミサイルの人、勝手にベッドから抜け出しちゃいそうだから」

 

目を閉じて、テッサの腕を掴んだまま体から力を抜く。

 

「……わ、私……お風呂に入ってないし、その……に、臭うと思うんだけど……」

 

消え入りそうな、テッサの声

 

「別に……いい匂いだと思うけど?」

 

「〜〜〜〜ッッッ」

 

自分が慕う人からそう言われ、トクン……と、

テッサは自分の心臓が大きく高鳴ったのを感じた。

 

もっとも、かつて多くの戦場を渡り歩いてきた影響で、三日月は体臭に関してはとても無頓着になっていた。汗とオイル、血にまみれた戦場で体臭を気にする余裕はなく、気づいてみれば最後に体を洗ったのが何週間〜何ヶ月も前ということもしばしばだった。かつてアトラからそれを指摘されてからは最低限のことはしていたものの、相変わらず無頓着なことには変わらなかった。

 

むしろ「おやっさん」のような匂いのキツイ人とばかり交流していた三日月の感覚してみれば、汗にまみれていたとしてもテッサの匂いは比較するまでもなく圧倒的に「良い」と言えた。

 

だが、テッサはそれを知る由もなく、一人悶々とした時間を過ごすのだった。

 

「三日月さん……寝ちゃったの?」

 

ふと我に返ったテッサが小声で呼びかけるも、三日月からの反応はない。

 

「……ひきょう だよ」

 

そう呟くと、何を思ったのかテッサは三日月の胸の中へ体を忍ばせ、密かにその匂いを嗅いだ。

 

「三日月さんの、匂い……」

 

テッサは自分の心が温かくなるのを感じた。

 

三日月の発する絶対に「良い」とは言えない匂いを嗅いでもなお、嬉しさを感じてしまう時点で既に、テッサは三日月に感化されてしまっていた。

 

三日月のことを抱き枕がわりにして、テッサの意識はいつしか夢の中へ落ちていった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

長い夜が明け、カイロの街に太陽の光が差し込む。

 

「……うぅ」

ピンク髪の少女が目を覚まし、周囲をぼんやりと見回した。

 

「……マティ、マティ……?」

 

朦朧とした意識の中、少女は徐々に思い出した。

自分は今、機械教廷にはおらず、常に身近にいる教廷騎士もいないということを……

 

「誰それ」

 

「!?」

 

少女が目を向けると、ソファに座った一人の少年が少女のことを見つめていた。

 

「お前は……あの時の凡人……」

 

「うん。これ、プリンの人のものだよね」

 

そう言って三日月は拾い集めたナツメヤシの実が入った袋を少女へと投げた。

 

「……ここはどこ?」

 

「カイロのホテルだよ」

 

その言葉に、少女はベッドのそばにあるカーテンを開けてみた。すぐさま眩しい陽光が差し込み「う……」と、そのあまりの眩しさに少女は顔をしかめる。

 

眩しさに慣れた目で窓からの景色を眺めると、目の前には確かに、朝焼けで紅く染まったカイロの街が広がっていた。

 

「……助けられた、とは思っていないわ」

 

少女はフッと笑い、袋の中からナツメヤシの実を一粒だけ取り出す。

 

「お前は倒れていた余を勝手に運んだだけだ……余は頼んでなど……」

 

そこで鋭い視線に気づき、少女はナツメヤシを手にしたまま三日月へと目を向けた。

 

「…………」

 

三日月は少女の手の中にあるナツメヤシの実を凝視していた。

少女がその視線を確かめるように手を上下させると、三日月の視線もそれを追って上下した。

 

少女がナツメヤシの実を口に入れると、三日月の視線もその口元へ……

 

途端に悪戯っぽい笑みを浮かべる少女

 

「凡人、これが欲しいのか?」

 

「うん」

 

「そうか、ならばくれてやる」

 

少女はナツメヤシの実を一粒だけ差し出した。

 

三日月がそれを受け取ろうとすると、少女は突然腕を引っ込め……

 

「凡人、お手」

 

そう言って空いている方の手を出した。

 

「?」

 

三日月はその意味が分からず首を傾げるが、とりあえず手を出してみた。

 

「……おすわり♪」

 

「あんた何言ってんの?」

 

すると嬉々とした様子で少女はそう続けた。

三日月は「は?」と怪訝そうな視線を送った。

 

「これが欲しいのだろう?ならば余の言う通りにせよ」

 

「…………」

 

疑問よりもナツメヤシへの執着が優ったのか、三日月は渋々といった様子で少女の前に正座する。

 

「まわれ♪」

 

「…………」

 

流石に今度は従わなかった。

少女は「まあ良い」と、三日月へナツメヤシの実を袋ごと返却した。

 

「いいの?」

 

「構わん、欲しくなったらいつでも調達できるしな」

 

そう言って残ったナツメヤシの実を口に入れる少女、三日月は早速ボリボリと、その味を確かめるようにしっかりと噛みしめた。

 

「そういえば、昨日はなんであんなところに倒れていたの?」

 

ナツメヤシを食べながら三日月が問いかけると、少女はその事を思い出したのか、深いため息をついた。

 

 

 

そうして少女は話し始めた。

いつまで経っても自分の母親が見つからない事

挙げ句の果てによく分からない連中に殺されかけた事を

 

撃退には成功したものの、能力を行使したことで体力が保たず、カイロに戻る途中に倒れてしまったことも話した。

 

 

 

「そっか、お母さん……見つからないんだ」

 

「もう、ここにはいないのかもしれない……もしかしたら、もうこの世にも……」

 

珍しく気弱な様子を見せる少女。その様子を見て三日月は少しだけ考えるような気配を見せた後、ナツメヤシの袋をポケットに収めて立ち上がり……。

 

「……わかった。じゃあ、準備して」

 

「は?」

 

少女は何が何だか分からないという風に三日月を見つめた。

 

「今、ミサイルの人が風呂に入ってるからその間に出かける準備をして?ああ、プリンの人も風呂に入るんだったら今のうちにね」

 

そう言ってテーブルの上に鍵を置き、三日月は部屋から出て行こうとする。

 

「待て凡人! ……いったいどこへ行こうと言うのだ?」

 

「どこに行くかって……決まってるじゃん」

 

部屋の出入り口で、三日月は少女へと振り返る。

 

「プリンの人のお母さんを探しに行くに決まってるでしょ」

 

それだけ言って、三日月はテッサの部屋へと戻るのだった。

 

 

 

 

 

それから準備にたっぷりと時間をかけること2時間後……

3人はそれぞれ機体に乗り込み、街の外側を移動していた。

 

「凡人よ、何やら話の流れがおかしくないか?」

 

当然のごとくバルバトスの操縦席に座る少女はそう言って、勝手に袋からナツメヤシの実を取り出して口にした。

 

「ごめん、その前に行くところがある」

 

半裸になってコックピットの端に座る三日月が答える。その掌の中にはいつものように、ナツメヤシの実が握られていた。

 

捜索を行う前に、三日月はこの世界の「おやっさん」に会うために移動していた。カイロでは街中でのBMの使用は色々な意味で制限されているため、仕方なく街の外側から「おやっさん」の経営する工場へと向かっていた。

 

「推進剤の補充をしないと、こいつもいい気分はしないみたいだから」

 

「ほう?お前、機械の心が分かるのか?」

 

コックピットからバルバトスの頭部を見上げてそう告げる三日月を、少女は興味深そうな目で見つめた。

 

「んー……まあ、何となくそう伝わってきただけだよ」

 

「そうか。ふむ……ますますお前が欲しくなってきた」

 

それから二人は工場に着くまで色々な事を話した。

三日月は少女へ「お母さんってどんな人?」と聞くと、少女は時折寂しそうな表情を見せつつも、かつての母との日々を事細かに話した。心温まるその話は、母親という存在を知らない三日月にとっては非常に興味深かったようで、三日月は話が終わるまで少女のことを見つめ続け、一言一句聞き逃さないように少女の言葉に耳を傾けていた。

 

「そういえばお前も人を探していたんだったな?」

 

話し終えた少女は、ふとそんな事を聞いてきた。

 

「うん。でも、まだ手掛かりすら見つかってないんだけどね」

 

「そうか。ふむ……お互い、難儀をしているということか」

 

少女は自嘲気味に笑うのだった。

 

 

 

 

 

工場にバルバトスを預けた三日月は、少女と共に街を進む。

 

テッサは「ちょっとやっておきたいことがある」と言って工場に残ったため、今は2人っきりだった。

 

「それで、余をどこへ連れて行こうというのだ?」

 

「とりあえず、俺が行ったことのある情報屋に行ってプリンの人のお母さんについて聞いてみようと思う」

 

「そうか……まあ、凡人が行くようなところでそう簡単に見つかるとは思えんがな」

 

三日月の隣で少女は肩をすくめてみせた。

 

「ところで凡人、ナツメヤシとは本当に良いものだな。プリンと違って荷物がかさばらない上に、保存が効く。それにいくら食べても食べ飽きない、まさに旅をする上では最高の食べ物だな」

 

「まあ、たまに外れが入ってるし、最近は高くなっているって聞くけどね」

 

お嬢様らしく食べ歩きをしない少女とは違い、三日月はそんなの御構い無しにという風にナツメヤシを食べ続けている。

 

「……おい凡人、歩きながら食べるのはよせ」

 

「え?なんで」

 

「凡人がそのように美味しそうに食べているのを見ていると、余も欲しくなってしまうではないか」

 

「ん、貰う?」

 

「いや、今はやめておこう」

 

ため息をつく少女に首を傾げながら、三日月はふと……カイロで食べたプリンを思い出した。

 

「そういえば……俺も最近、初めてプリンっていうのを食べてみたんだけど……すごいね、あれ」

 

「そうか……それで、どう凄いというのだ?」

 

「うん。表面がプルプルしてて、キラキラ光ってて……まるで宝石みたいに綺麗だったから最初は食べ物とは思えなかった」

 

「……それで?」

 

「食べてみるとナツメヤシよりも甘くて美味しかった。俺のいた所でもチョコとかトウモロコシとか甘いものは他に沢山あったけど、こんなに甘くて美味しいものが他にあったなんて知らなかった……俺、プリンが好きになった」

 

「フッ……そうか」

 

「プリンの人?」

 

意味ありげな様子で苦笑する少女に、三日月はまたしても首を傾げるのだった。

 

その内、情報屋の元へたどり着いた2人。

 

2人が店に入ってきたのを見た店主は、待ってましたとばかりに店の中にいる店員全員を呼び出し、歌と踊り付きのVIP待遇で2人を賑やかに迎え入れ、店の一番奥にある豪華絢爛な部屋へと案内した。

 

「凡人……お前、いったい何者だ?」

 

「ただの旅人だよ。それにこいつらが興味あるのは俺じゃなくて、俺の持ってるこのカードだから」

 

三日月は例のカードを少女へと示した。

 

「いらっしゃいませ三日月さま。先にお飲み物などは……」

 

「じゃあ、あったらでいいからナツメヤシ持ってきてよ。それとプリンを2人分……この店で一番美味しいやつ」

 

「かしこまりました」

 

なぜか頭にウサギの耳をつけたレオタード姿のウェイトレスは三日月の注文を聞くと、すぐにオーダーを伝えるために厨房へと向かった。

 

それから1分も経たない内に2人の前にはナツメヤシの実が山盛りに乗った大皿と……何を勘違いしたのか2人分の巨大なバケツプリンが用意された。しかもバケツプリンはその他に、大量のクリームと果物でデコレーションされていた。

 

「……すごいね」

 

「だが、これは流石に食べきれんぞ?」

 

その圧巻の光景に2人が目を見合わせていると、この店の店主で、アフリカ全土に情報のパイプを持つと豪語するスーツ姿の老人が現れた。しかし、スーツ姿の老人は非常に困った顔をしていた。

 

「三日月さま……まずはご来店ありがとうございます。しかし、三日月さまの探していらっしゃる『オルガ・イツカ』なるお方と『鉄華団』なる組織については未だ情報が入っておらず……」

 

「ああ、違うよ。今日ここに来たのはオルガのことじゃない」

 

「と、言いますと?」

 

「この人のお母さんを探して欲しい」

 

そう言って三日月は少女を示した。少女はその視線に頷くと、銀色のペンダントを取り出して店主へ手渡した。女性の名前を伝えることも忘れない。

 

「なるほど。では、少々お待ちください……まずはこの辺りを中心に捜索を行いますので」

 

「それってどれくらい時間がかかる?」

 

「この方がカイロにいるのなら1時間もあれば!ただ、この街から一歩でも外の世界に踏み込んでいるのなら、それなりに時間をいただきたく……」

 

「分かった。じゃあ、1時間だけ待ってみるから」

 

「ありがとうございます!その間に、店の者による料理と歌、踊りをお楽しみください!」

 

店主が2人の前から消えると、何やら店中が騒がしくなる気配。

 

「これは頼もしいな。では、その結果が分かるまでゆっくりと待つことにしよう」

 

そうして2人はプリンを食べながらゆっくりと時間を潰すことにした。ボリュームだけが取り柄だど侮っていた2人だったが、そのバケツプリンの味は絶品だった。

 

食べきれなかった分は店員の計らいで保存容器に収め、滞在するホテルまで配送してくれるとのことだった。プリンを食べ終えた三日月は腹ごなしにナツメヤシの実を食べながら自分の袋にもひょいひょいと収めていく。

 

店員による歌と踊りをBGM代わりにし、2人は店が用意した暇つぶしのカードゲームに没頭した。カードゲーム初心者の三日月は、それなりに経験があると言う少女に序盤こそ押されてはいたものの、コツがか分かってきたのか徐々に押していき、10戦したところでお互いに5勝5敗の良い勝負となっていた。

 

勝敗の分かれ目となる11戦目が行われようとした時、店主が慌てた様子でVIPルームへと飛び込んできた。

 

「三日月さま!見つかりましたよ!」

 

「何!」

 

店主の言葉に、少女はカードを投げ捨てて飛び上がった。

 

「本当に!?今どこにいるの!」

 

「今、地図をお作りいたします。ついでに、いくつかの目印をピックアップしておきますので……」

 

「早くしろ!凡人!」

 

少女は急かすように叫ぶと、店主は焦ったようにVIPルームから出て行った。

 

「……勝負はまた今度だね」

 

撒き散らされたカードの山を見て、三日月はため息をつくと立ち上がり、座りっぱなしで固まってしまった体をほぐすように背伸びをするのだった。

 

 

 

 

 

カイロ下城区

 

地図を頼りに2人がたどり着いたのは、一軒のこじんまりとした酒場だった。

 

「ここに……お母さまが……」

 

慌てた様子で少女は酒場の扉に手をかけたところで……三日月に止められる。

 

「待って……念のため、俺が先に行く」

 

「……わかった」

 

三日月の言葉に頷くと、少女はその後ろへ

三日月は警戒しつつも扉を開ける。

 

すると微かだが、店の奥から妙なる旋律が響き渡った。

 

「!」

その旋律が少女の耳に届いた途端、少女は思わず息を飲んだ。

これは私がよく知っている音、恋い焦がれていた音、いつも眠る前に聞いていた旋律……。

 

少女は三日月を押しのけるようにして店の中へ、今度は三日月も止めようとはしなかった。

 

ステージは既に始まっていた。酒場は演奏に聞き入っている客でいっぱいだった。少女の後を追い、三日月はステージに面した角のコーナー……遠いがステージ上で演奏する人物を見るのに適した場所に立ち、2人並んでハープを演奏する女性を眺めた。

 

ステージには少女が心から慕う人がいた。

 

ステージでは少女によく似た美しい金髪の女性が優雅にハープを弾いていた。

 

「お母さま……」

 

「プリンの人のお母さんって、写真で見るよりもずっとキレイな人だね」

 

「そ……そうだろう……フッ……」

 

三日月の純粋な感想に、少女は気丈に振る舞ってみせるが、それでも感情の高ぶりを抑えることはできなかったようで……少女は少しだけ俯いて、前髪で自分の目を覆い隠した。

 

ずっと探し続けていた自分の母親を見つけることができた嬉しさと、自分の母親を褒められた嬉しさが相まって感極まる少女。三日月はあえてステージを眺めてそれを見ないようにし、少女のそれが少しだけ引いたのを見計らって、その場から立ち去ろうとする。

 

「待って……」

 

瞳に浮かぶ液体を振り払って、少女が三日月を呼び止める。

 

 

 

「我が名はスロカイ、機械教廷の長である。そして、お前は……?」

 

 

「……三日月……ただの旅人だよ」

 

 

 

ここでようやく、2人は互いに自己紹介し合った。

 

「三日月。ありがとう……お前も、探し人が見つかるといいな」

 

「うん、スロカイも元気でね」

 

スロカイの目には一切の曇りはなかった。

三日月は優しく笑いかけてから酒場を出た。

 

 

 

 

 

「…………」

「……で……アンタ、誰」

 

酒場から出てしばらく進んだところで三日月は振り返り、先程から密かに尾けていたその人物を見上げた。

 

石造りの建物の屋上、そこに佇む一つの影。

仮面と大きな白マントを身につけた男が三日月を見下ろしていた。

背は高く、マントの下に隠れたボディースーツにより肌を一切露出していない。

 

「俺の気配に気づくとは……何者だ?」

 

白マントの男がゆっくりと告げる。

 

「っていうか、気づかせようとしていたんじゃないの?」

 

三日月は敵対心を最大にして、白マントへと向き直った。

そうしているうちに白マントは三日月がいる道の前へと華麗に飛び降り、仮面から放たれる赤い視線を三日月へ向けた。

 

「あの少女とは、どういう関係だ?」

 

「あの少女ってスロカイのこと?それをお前に言う必要ある?」

 

「……言え」

 

「……ただの、赤の他人だけど?」

 

ここで友人や知り合いだとか深い関係を言うことで、この不審な男の魔の手がスロカイへ及ぶことを恐れた三日月は『他人』という言葉を使って全てを片付けようとした……しかし、

 

「そうか……では、なぜ赤の他人を助けた」

 

白マントの男は三日月の考えを見抜いているかのように質問を続ける。

 

「……お母さんに会いたがってたから。俺に親はいないけど、それが大切なものなんだってことは分かる。だから、会わせてあげたいって思った」

 

「それだけか」

 

三日月の答えに、白マントの男は淡々とそう言い放った。

 

「では、赤の他人の女のために死ぬことになっても……お前は後悔しないのか?」

 

鋭い音が鳴り響き、男はマントの奥から剣を抜く。

ビームソードが赤い光を放ち、柄のプラグに差し込まれたコードは、そのビームが男自身から放出されているかのように見えた。

 

「あんた何言ってるの?俺は……死なない」

 

三日月は懐から拳銃を取り出す。

 

「では……その言葉に嘘偽りがないか試させてもらおう!」

 

男が三日月へと斬りかかるのと、三日月が拳銃を発砲するのはほぼ同時だった。

 

「……ほう」

 

「…………」

 

一瞬の衝突の後、三日月の後方へと移動した白マントの男の口から驚きにも似た声が上がる。

 

「まさかあそこで当ててくるとは思わなかった」

 

白マントの男の右肩には一発の鉛玉、それは三日月が放った銃弾だった。

ただの人間であればかなりの痛手となっていたはずであろうその一発を、しかし白マントの男はなんでもないという風に左手で掴み取り、地面へと投げ捨てた。

 

「……そう言う、あんたもね」

 

一方の三日月と言うと、持っていた拳銃が真っ二つに切断されていた。

 

「もうお前に武器はない。これでもまだ、お前は言えるのか?『自分は死なない』……と」

 

「ごちゃごちゃうるさいよ……俺は死なないって、何回言わせるの?」

 

三日月は悪魔の形相で白マントの男を見つめる。

 

「そうか……ならば、そのハッタリが無駄であることを後悔しながら死ねッッッ!」

 

再び斬りかかる白マント

 

三日月は後方へと跳躍するが、それでもまだビームソードの射程内……

 

迫り来るビームソード

 

そこで三日月が取った行動は、白マントに向けて切断されてグリップだけになった拳銃の破片を投げつけることだった。

 

「無駄ァ!」

 

ビームソードの一閃により、いとも容易く消滅するグリップ。

 

しかしそこで、白マントにとって予想外の出来事が起きる。

 

「何……?」

 

グリップを手放してからコンマ数秒後……その短い時間に、三日月はなんと自分の着ているジャケットを白マントへと投げつけたのだ。

 

それはグリップを斬り捨てたことで空白になる、白マントの正面へと飛来した。

 

「むぅ……」

 

三日月が着ていたジャケットが顔に絡みつき、白マントの動きが止まる。

 

左手でジャケットを除去すると、白マントの目の前には依然として後方へと着地した三日月の姿。何やら呟いているが、未だビームソードの射程内!

 

「小癪な……ッ」

 

白マントは一瞬にして三日月との距離を詰め、ビームソードを振り上げた。

 

「……!」

 

が、白マントは何を思ったのかそれを振り下ろす直前に後方へと跳躍

 

その瞬間、白マントの体をかすめて空から鉄の塊が落ちてきた。

 

「チッ……外した」

 

「これは……BM?」

 

突如として三日月の前に現れたバルバトスを見てもなお、白マントは冷静だった。

 

「面白い!では、ここからはコレで決着をつけよう」

 

白マントの男はビームソードで空中になにやら文字を描いた。

するとどこからか「ソレ」は姿を現した。

 

金切り声をあげながら数件の廃棄された店舗を踏み潰しながら、二本の刀を携えた黒い巨人がそこに舞い降りる。

 

『わぁお、わお、マスター。こいつを殺りたいの?』

 

黒い巨人から人工的な声が響き渡る。

 

白マントの男と三日月は素早く機体へと乗り込み、武器を構える。

 

「俺は武器マスター、バイロン……お前は」

 

「……三日月、ただの旅人」

 

某日ノ丸最古の書物に描かれていたイクサ前のアイサツのごとく、2人はお互い名乗り合う。

 

「了解した。では……行くぞ!」

 

 

 

 

 

バトルフィールドが街中から砂漠へ移ってもなお、黒い剣士と白い悪魔は激闘を繰り広げていた。

 

「消えろ」

 

バルバトスは鋭いメイスの一撃を放つ。

 

「遅い!空蝉!」

 

しかし、それが黒い剣士に衝突する瞬間、どういうわけか黒い剣士の姿が消え、メイスは何もない空間を薙ぎ払った。

 

(後ろか!)

 

野生のカンを頼りに、三日月は機体を素早く反転させる。

背後から黒い剣士が迫っていた。

 

「いい反応速度だ」

 

メイスと二本の刀がぶつかり、火花が散る。

至近距離で、戦闘を楽しんでいるかのようなバイロンの声が響き渡る。

 

「……」

 

三日月がそれを薙ぎ払うと、勢いそのままバイロンはあっさりと機体を後退させた。

 

それを好機と捉えた三日月、後退するバイロンめがけて突撃を敢行。目にも止まらぬ速さでメイスの先端を突き出す。

 

だが、速さに関して言えば黒い剣士の方に部があった。

三日月の突撃を紙一重で躱すと、側面から刀を閃めかせる。

 

しかし三日月も負けてはいない、最初から避けられることを見越してメイスの向きは僅かに下を向いていた。突撃の勢いを一切殺すことなく先端を砂漠へ突き立て、メイスの柄を立て、まるでポールダンスをするかのように回転。

 

回転はバルバトスの攻撃力を上げた、その一方で刀の勢いは甘い。

剣士の刀と三日月の蹴りが衝突した。

 

しかし、それも一瞬のこと、

攻撃が不発に終わったと知るや、どちらもその場にとどまることを放棄し、後方へと飛んだ。

 

「やるな」

 

「……」

 

三日月はバイロンが冷徹な仮面の下で、自分を観察しているのを感じていた。

 

「ミラージュクロスに入る気はあるか?」

 

「なにそれ」

 

「この俺をこれほど心躍らせる相手は滅多にいない。お前ならば……」

 

バイロンが言い終わるのを待つことなく、三日月は再度突撃する。しかし、今度はジグザグ移動による複数のフェイントを含んだ突撃だった。

 

「無駄無駄無駄ァ!」

 

フェイントは黒い剣士に通用しなかった。

メイスの振り下ろしの瞬間、再び黒い剣士の姿が消え、バルバトスの後方へと出現する。

 

「……ッ!」

 

振り向きざま三日月は左手にガントレットを出現させる。振り下ろされた刀をガントレットで受け止め、空いた右腕に機関砲を展開、隙間から後方へ砲撃を加えた。

 

だが、黒い剣士は後方へ

さらに空いた右手の剣を回転させ、放たれた砲弾を全て撃ち落とした。

 

「チッ……」

 

「フフフ…」

 

ここまで、両者ほぼ互角の戦いが繰り広げられている中、バイロンは不敵に笑った。

 

「何がおかしいの?」

 

「いや、君に笑っているのではない。君と出会い、君とこうして戦うことができた自分の幸運を笑っているのだ」

 

「なにそれ……いみわかんない」

 

相手の言葉を一蹴し、機関砲を発砲。

 

「ヌぅ……」

 

突然の砲撃は相手の意表を突くことが出来たのか、黒い剣士の姿勢が崩れる。

 

「そこ!」

 

その隙をつき、三日月はバルバトスを相手の懐へ飛び込ませる。

ほぼゼロ距離のその状態からメイスを叩き込もうとして……

 

「空蝉!」

 

直撃の瞬間、黒い剣士の姿が消える。

 

「同じ手を何度も!」

 

三日月は無意識のうちに反転しつつ、左腕の装備をガントレットから迫撃砲へとチェンジ。振り返りざまに一斉射撃する。

 

「……!?」

 

しかし、そこに黒い剣士の姿はなかった。

 

「どこを見ている?」

 

側面から響き渡った声に反応し、三日月はとっさに機関砲をガントレットへと変更しようとするが……すでに遅かった。

 

振り下ろされた斬撃が、機関砲ごとバルバトスの右腕に食い込んだ。

 

刀はバルバトスの腕にガッチリと食い込み、離そうとしない。

その間も迫る、黒い剣士の横薙ぎ。

 

「……ぐっ」

 

破壊された機関砲を右腕の装甲ごと排除し、スラスターを全開にして三日月はバイロンの追撃をギリギリのところで回避する。

 

「俺の空蝉が、ただ敵の背後に回り込むだけのチンケな技だと思ったのか?」

 

バイロンは二本の刀をクロスさせ、刀に食い込んだバルバトスのパーツを排除してそう告げた。

 

これまで三日月に対して行われた空蝉は全て三日月の背後に出現していた。しかし、それはブラフだった。本当はあらゆる位置へ転移することが可能だったのだ。慣れた三日月がそれにいち早く反応する頃を見計らって、バイロンは空蝉の種明かしを実行したのだ。

 

「そっか……分かった」

 

三日月はふとそう呟き、何を思ったのかメイスと左腕の機関砲を亜空間へ格納し……代わりに左腕に、先が2つに割れたクローを展開した。

徒手空拳による攻撃を仕掛けようと言うのか、右手には何も持っていない。

 

「得物はそれだけか?」

 

「ああ、そうだ。速さではあんたに敵わないから」

 

「なるほど……俺の空蝉に対抗するためにスピードが遅くなる武器を捨てたのか……」

 

 

 

 

 

しかし、三日月は知らなかった。

 

バイロンの驚異的な空蝉は、実は敵の格闘攻撃をトリガーとして発動する技だということを……

 

つまり三日月がどれだけ素早い攻撃をしようが、それが格闘攻撃であるならばバイロンはそれよりも早く空蝉を実行することができるのだ。

 

 

 

 

 

そうとも知らない三日月は、クローを正面に向けフェイントをかけつつ、黒い剣士へ肉薄……

 

「そんな破れかぶれのフェイントなど!」

 

黒の剣士は機体を滑走させて三日月から距離を取る。

しかし、敢えて近づかせて空蝉によるカウンターを狙っているのか、そのスピードはやけに遅い。

 

三日月とバイロンの距離が中距離に迫った時……

 

「今だッ!」

 

三日月は左腕に装着していたクローを黒い剣士めがけて射出した。

 

「何?!」

 

全くの想定外にバイロンは焦る。

中距離からの一撃なので空蝉は発動できない。

 

咄嗟に刀で迎撃するも、それを狙っていたのかクローの先端はその腕に食い込んだ。

 

三日月が使っていたクロー、それはかつてガエリオの乗るシュヴァルべ・グレイズとの戦闘の折に鹵獲していた射出型のクローだった。

 

「これであんたは逃げられない!」

 

もう片方の刀でワイヤーを切る隙を与えることなく、三日月はありったけの力を込めて左腕を引いた。

 

「ぐわっ」

 

引き寄せられ、黒い剣士が宙を舞う。

三日月は右手にメイスを出現させ、こちらへと飛来する剣士を迎撃……

 

「無駄だ!風魔手裏剣!」

 

が、宙を舞う剣士の体から突如として巨大な十字手裏剣が生成されたかと思うと、何の予備動作もなく射出されたそれはクローのワイヤーを切断、そのまま地面に突き刺さって消滅した。

 

「空蝉!」

「……!」

 

三日月は右手のメイスを振るも、格闘攻撃をトリガーとしてバイロンはまたしても瞬間移動し、その場から忽然と消え失せた。

 

側面からの攻撃を警戒するのか、動けない三日月。

 

「……俺の空蝉は!」

 

どこからともなくバイロンの声が響き渡る。

 

「敵の上空にも出現できるのだッッッ!」

 

バルバトスの真上に出現した黒い剣士、刀の切っ先はバルバトスのコックピットに向いていた。

 

三日月はそれに気づいていないのか、一切動く様子を見せない。

 

「これで、終わりだ!」

 

この瞬間、バイロンは勝利を確信した。

落下による威力の増加も影響して、黒い剣士の刀がバルバトスの装甲へ深々と突き刺さった。

 

 

 

 

 

 

 

「……対策くらいするさ、いつだって」

 

 

 

 

 

 

 

「何?!」

 

 

 

バルバトスから発せられたその声に、バイロンは思わず耳を疑った。

 

 

 

そしてようやく気づいた。

バルバトスの装甲だと思って突き刺したそれは、装甲は装甲でもバルバトスを保護する最初の壁、増加装甲であると。

 

今、バルバトスの胸部には対キマリス戦で使われた不恰好なリアクティブアーマーが装備されている。

 

刀はリアクティブアーマーを貫通するだけの威力を有してはいたものの、その先のコックピットを貫くだけの威力はなかった。

 

リアクティブアーマーが炸裂し、足場を失った黒い剣士はバルバトスの目の前へと落下する。

 

「捕まえ……た」

 

三日月は左手で落ちてきた黒い剣士の肩を掴んだ。

 

「今度こそ、お前は逃げられない」

 

そのままメキメキと、黒い剣士の右肩を潰しにかかる。

 

「グゥ……まだだ!」

 

バイロンが雄叫びをあげ、左腕の剣をバルバトスへと振り下ろすが……浅い

それはバルバトスのメイスで簡単に防がれた。

 

「だとしても!」

 

バイロンは今の今まで使わなかったザブウェポン、両肩に装備された火炎放射器を発射、バルバトスへ燃焼ダメージを与える。

しかし、それでもバルバトスは相手を掴み続ける。

 

メイスを落とし、空いた右腕で火炎放射器のバレルをへし折り、左腕の力だけで黒い剣士を砂漠へ叩きつけた。

 

「これで!終わりだ!」

 

メイスを拾い上げ、その先端を黒い剣士のコックピットに密着させ、必殺武器である先端のパイルバンカーを発射しようとして……

 

 

 

 

「……どうやら」

 

 

 

 

そこでピタリと動きを止めたバルバトスを見て、バイロンは呟く。

 

 

 

 

「……引き分け、みたいだね」

 

 

 

 

三日月の視線が、いつのまにか自分の後ろに迫っていた黒い影を捉えていた。黒い剣士と同じ見た目をした黒い影がバルバトスの背中に刀を突きつけていたのだ。

 

 

 

 

それは黒い剣士が持つ特殊なシステムによって生み出された、いわゆる「実体を持つ分身」だった。

 

分身は短時間しか戦場で活動することができないが、その代わりに分身を生み出した本体のカタログスペックどころか、操縦者を伴ったその動きまでもフィードバックし、本体と一切変わらない機体性能を発揮することができるという強みを持っていた。しかも、本体が破壊されてもなお分身は動き続けるのだ。

 

故に、今バルバトスがバイロンを始末したとしても……バイロンの動きをフィードバックした分身は確実に三日月の首を刎ねていたことだろう。

 

 

 

 

「見事な戦いだった、少年よ。このミラージュクロスの一員である俺と引き分けたこと、誇るがいい」

 

いつのまにか機体の外に姿を現したバイロンはそう言って三日月のことを褒め称えた。

 

「別に……仮面の人だって、本気じゃなかったんでしょ?」

 

「ふむ……バレちゃあしょうがないな」

 

同じく機体の外に姿を現した三日月がそう告げると、バイロンはあっさりとそれを認めた。

 

「あんた結局……何がしたかったの?」

 

三日月の問いにバイロンは何も答えることなくコックピットから緑色のジャケットを取り出し、三日月へと放り投げた。

 

「あ、これ……拾っててくれたんだ」

 

それは先ほどの白兵戦時、バイロンへと放り投げた三日月のジャケットだった。ナツメヤシの実が大量に入った袋もちゃんと残っている。

 

「左のポケットにカードが入っている。それは賠償金代わりだ、受け取れ」

 

そうしてバイロンは再び黒い機体へと乗り込む。

 

「それではまた会おう……白い坊主」

 

それだけ言って黒い機体はカイロの街へ向けて滑走し、いつしかその姿は見えなくなってしまった。

 

「ほんと……なんなの?」

 

それを見送り、ポケットの中に入っていたカードを見て、三日月は怪訝そうな顔をして呟いた。

 

三日月の持っていたカードと同じカードが、ポケットの中には収められていたからだった。

 

 

 

 

 

数日後、母親と別れたスロカイは機械教廷に戻った。

 

彼女は教皇である自分が長期間離れるわけにはいかないこと、そしてこれ以上自分が傍らにいると、母親を危険に晒しかねないことを理解していた。

 

スロカイが母親といる間、バイロンはその姿を見せることはなかった。彼は常に気づかれない場所で密かに彼女たちを見守っていた。

 

 

 

一方の三日月とテッサ……

 

バイロンとの激闘から数日ほどカイロに滞在しオルガの情報を集めたものの、相変わらず三日月の元にめぼしい情報が入ってくることはなかった。

 

その間、三日月はテッサに戦闘訓練を施すなりして日々を過ごしていた。テッサは三日月による地獄の特訓に何度も悲鳴をあげるが、それでも根をあげることなく何度も立ち上がり、少しずつだが確実にその実力を高めていた。

 

しかし、これ以上の捜索は無駄であると判断すると、その翌日にはカイロを出て、葵博士との合流ポイントへ向かった。

 

 

 

 

 

オルガを探す旅はまだまだ続く!




バイロンはまだ初心者ガチャがなかったころリセマラで2番目に引き当てたキャラクターなので愛着があります。(1番目は姉妹)
バグでめちゃ硬のフレンチナイトに乗せて周回してたのはいい思い出です。
っていうかバイロン、ストーリーとキャラページで一人称違うんですね……知らなかった……仕様?翻訳ミス?


ここに来てようやくスロカイ様の名前を出すことができた…
っていうか、私はテッサに一体何を求めてこのような展開に……



次回予告です。

エル「バルバトスの戦闘データを届けるために、ダイダロス2号へと戻った三日月」

フル「ミドリさんは三日月と出会った時のことを話し始めます」

エル&フル「「次回『バース・デイ(仮)』」」

エル「なるほどね!次回はお誕生日回ってこと……」
フル「違います」

アイサガで貴方の好きなキャラを教えてください。(回答はこちらではなく気軽にコメントの方へお願いします)

  • 境界戦機もっと流行れ
  • 鉄血・ブレットもっと流行れ
  • 水星の魔女×鉄血のオルフェンズ?
  • あと、アイサガのエンディングも作ります
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