空振り三振   作:T-

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心操と同じように、入試向けじゃない個性持ちだったら。と考えていたら、思いついた話です。駄文ですが、温かい目で見てくれれば幸いです。


一話

殴る。

殴る。

殴る。

目の前の動く鉄の塊を必死に殴る。

殴って、殴って、手の皮膚が破れ、骨の軋む音が聞こえてきても殴って、硬く冷たい腕に吹き飛ばされ、口元を紅く染めてもまだ殴る。

殴って。殴って。殴って。ようやく動く鉄の塊が動かない鉄の塊と化した所で、また新たな動く鉄の塊が現れる。

それを殴って、殴って、殴って。動きが鈍ってきてもまだ殴って。トドメにそれの精密そうな首めがけて、拳を振り下ろそうとして

 

 

 

ジリリリリリリリリリリリ…

 

 

 

 

「……………」

 

布団から腕を伸ばし、目覚まし時計(ヴィラン)めがけて振り下ろす。メキィ、と決して時計という精密機械から出ては行けないような音がして、目覚めを報せる騒音が鳴り止んだ。

 

「……………」

そのまま流れるように二度寝に移行する。当たり前だ。まだ四月の上旬、しかも朝だ。長い長い冬が明け、草木が芽吹き、アリが社畜の如くせっせと働く季節になったとしても朝は寒い。

そんな中、布団に湯たんぽ(エデン)から抜けろという方が酷な話である。つまりこれから二度寝をすることは悪いことではない。むしろ正義。神聖ニシテ犯スベカラズ。そもそも春とは出会いの季節。入園式、入学式、入社式…沢山のライフイベントがあり、新しいことに期待と不安を馳せるだろう。新しい友達できるかな、女の子と話しちゃったりして、あわよくばそのまま…と。つまり生まれてこのかた、他人と目すら合わせたことのない俺には関係ないことである。はい証明終了(Q.E.D)。さて、説明も終わったことだし、夢の世界にさあいkーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「全然関係あったッ!?」

 

冷や水を掛けられたかの様に、全身のあらとあらゆる器官が目を覚ます。そうだよ!四月!?今日入学式じゃん!全然関係あったわ!むしろ出会いの季節謳歌するべき人側にいたわ!

 

「二度寝してる場合じゃねぇ!今何時だ!?」

 

布団の側に置いてある目覚まし時計“だった”物に目を向けると

 

 

 

 

 

目覚まし時計「8時だヨ!全員集合〜!」

 

 

 

 

 

「シャレにならん!」

 

急いでクローゼットから新品の制服を取り出し、袖を通す。

 

「ここから駅まで歩いて15分…チャリで行けば間に合う!」

 

本当は朝飯食っていきたいが、入学式当日に遅刻する方がヤバイ。チャリの鍵はどこに置いたっけ…?いつもの定位置には無いし……あんまり朝から起こしたくは無いが仕方ないか。

 

「おじいちゃん〜俺のチャリの鍵知らなiーー」

 

「朝からドタバタうるさいぞ!まず起きたら爺ちゃん挨拶しなさい!その次は婆さんに挨拶だ!だいたいなんだ高校生にもなって。朝食は食べたのか?どうせ食べてないんだろう?いつも言ってるじゃないか!朝食は1日の始まり!これを食べなければ1日を始める資格なんてないぞ!爺ちゃんはな、どんなに寝坊したとしても、朝食は食べたもんよ。婆さんと爺ちゃんの出会いは朝食があったからこそと言っても過言ではない。そうだなあれはある…」

 

そう、お気付きの方も多いだろうが、おじいちゃんは堅いし頑固者だ。

朝起きたら真っ先に挨拶しに行かないと行けないし、新しいものを進めても、俺には必要ない!と言ってすぐ捨てるし、朝昼晩全部和食だし、最近の若者は…ってすぐ言うし、何より話が長いし説教をする。孫だぞ。もう少し甘くしてくれてもいいだろ。

 

「…てな?そしたら婆さんがこう言ったんだ。」

 

「おじいちゃん、本当に学校遅れるから。入学式遅刻はシャレにならんから」

 

「コレッ!人の話は最後まで聞け!えっとどこまで話したっけ…。そうだそうだ婆さんの話か。それでな婆さんがこういったん」

 

「行ってきます!」

 

これ以上長話されたら本当にマズイ。チャリが使えなくなった今、俺の脚を信じるしかない!

俺は仏壇に向かい、線香をあげた後、荷物を抱え全速力で駅まで走った。

 

 

 

 

 

 

「な、なんとか間に合った…」

 

後1分遅かったら危なかった…。しかも乗ってから気づいたけど、一時間早く家出てるじゃん…。あのヘッポコ目覚ましめ…!帰ったら捨てよ。←既に亡き物にしてる

しかし、早い時間に乗ったおかげか、席に座れるほどではないにしても車内はそこそこ空いている。これならあまり人とぶつからずに学校へ行けそうだ。ぶつかったら一々めんどくさいからな。っとと。

 

「すいません」

 

「いえこちらこそ」

 

早速人にぶつかったよ。高速フラグ回収しちゃったよ。これ満員電車の中だったら俺疲労で倒れる自信しかないな。対策練っとかないと。……しかしこの人、ジロジロと制服見てくるな。なんかついてる…わけでもないし。

 

「何か?」

 

「いえいえ何も。失礼しました。」

 

そう言って、何かを確認した会社員はまあそうだろうな、という顔をして、スマホに目線を移した。車内をよく見れば同じように制服を見て、何かを確認しては興味を失ったかのように別のことをする人達がいる。

同情、呆れ、嘲り、反応は違えども受けてとても気持ちの良いものではない。何処を確認してるのか気になって目線を追ってみると、特に制服の肩辺りに集まっていることがわかった。

 

「…………」

 

ふと、今朝の夢を思い出す。

…切り替えろと何度も自分に言い聞かせたはずなのに、まだ引きずっているらしい。そんな憂鬱な気分の中、声を聞き取り易くする個性であろう車掌の気だるげな声が聞こえてくる。どうやら駅に着いたらしい。駅に着いたことを報せる車掌の声が無性に煩わしく感じて。

そんな自分に嫌気がさした俺は逃げるように車内を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

「相変わらずでっかいな〜。」

 

入試の時もきたが相変わらずでっかいな。ドアもでかいってどういうこと?ってなった覚えがある。確か異形型の個性の奴を配慮して〜とか行ってたような気がしないでもない。

 

「いっち年C組ど〜こだっと。…あったあった。」

 

いやしかし早いところ校内のとか覚えておかないと本格的に迷うな。さっき職員室まで行って場所聞いちゃったし。開けた瞬間目の前に寝袋入ったオッサンがいたことにはビビったけどな。ここの教員はプロヒーロって聞いたがあのオッサンもプロヒーローなのか?…まさかな。

 

「俺がいっちばーん!…あれ?」

 

俺が一番だと思ったらどうやら上には上がいたらしい。思いっきり扉を開けた際に発生した大きな音にビクついたそいつは不機嫌そうな顔しながらこっちを睨んできた。驚かせちゃったかな。

 

「すまんすまん。ちょっとはしゃぎすぎた。びっくりした?」

 

謝りながら、これから級友になるであろう彼を覚えるべく、席に近づいていく。ちょうど俺の席隣だし。

手入れはあまりしていないであろう紫色の癖っ毛に、さも不健康ですと周りにアピールするかのごとく、目の下に拵えた大きなクマ。それ以外では特に言うこともなく、強いて言うならちょっとだけ筋肉がついてるかな〜くらい…って!

 

「心操じゃないか!」

 

「相変わらず朝からうるせーなお前。」

 

「そう言うなよ〜。また俺と同じクラスになれて嬉しい癖に〜。しかし久しぶりだなぁ。二ヶ月ぶりくらいか?」

 

「うるさいよ。まぁ大体それくらいだな。」

 

こいつは心操人使。俺の幼馴染その1でガキの頃から付き合いがある。いやぁ〜てっきり他の学校に行ったと思ってたから、最初わからんかったわ〜。

 

「お前も雄英に入ったんだな。」

 

「……普通科だけどな。」

 

さっきまでの再開を喜ぶ空気がガラッと変わり、一気に重くなる。

……まぁ気づいていると思うが、俺たちはヒーロー科の試験を受けて、見事に落ちた。雄英の普通科はヒーロー科に落ちた人がよく入る。入れるから入ったとか、学力が高いからとか、人によって理由は異なるが、ヒーローがいる学校に通っていたら、何かチャンスがあるかもしれないと、淡い希望と諦めきれない夢を持って入る人が大半だろう。少なくとも俺は身の丈に合わない夢を諦めきれず、なんとかなるんじゃないか、と未練タラタラな気持ちでこの科に入った。多分朝見てきた人たちは制服の肩にある意匠の違いを確認していたのだろう。

あぁ、こいつヒーロー科落ちて普通科入ったんだなと。

失礼な。俺が第一志望で普通科受けてるかもしれないだろ。いや合ってるけど。第一志望ヒーロー科だよ。試験受けて物の見事に落ちちゃったよ。

 

『お前はヒーローになれるような資格を持っていない。』

 

まだ北風が身に染みるあの日、震える手で開けた封筒の中にそう書いてあったことを思い出す。

 

「そ、そうだ!お前入試で何ポイント取った?因みに俺は」

 

「取れるわけないだろ。あんな入試内容じゃ。」

「…まぁそうだな」

 

昏い空気を吹き飛ばそうと話を変えようとしたんだが、普通に話変わってなかったわ。むしろ話を掘り下げてどうすんだ。バカなのか。バカだったわ。

 

「俺がいた会場でさ」

 

ウンウンと俺がこの昏い雰囲気を吹き飛ばす最高に面白いネタを考えていたら唐突に心操が話を振ってきた。

 

「ウン?」

 

「0ポイントの奴が出たんだよ。あのでっかい奴。」

 

あー、なんかそんな奴いたな。他のロボ壊すので精一杯だったからどんなもんだったかあまり覚えてないけど、とにかく大きかったとは聞いている。

 

「そいつをさ。たった一発のパンチでぶっ壊した奴が居たんだよ。」

 

……は?

 

「え、えっ?ちょっと待て。あれめちゃくちゃでかいんじゃなかったのか?それを一発?」

 

嘘だろ?増強型の個性にしても規格外すぎる。ちょっと盛ってない?と心操の顔を見るが…嘘を言ってるような顔じゃないな。

 

「…すごいな。とんだ当たり個性じゃん。」

 

そんな個性を持っていたら当然撃破ポイントもすごいんだろう。あの0ポイントを倒したってことは救助(レスキュー)ポイントもガッポリ貰ったに違いない。当たり前だ。あのデカブツに立ち向かったのだ。まさしくヒーローになれる資格を持っている。

 

「力が上がるってだけでも羨ましいよな…」

 

「ホントだよ。増強型の個性か〜。シンプルだけどいいよな。俺も欲しかった。」

 

無い物ねだってもしょうがないが、こればっかりは言ってないとやってられない。俺だって貰えるなら、もっと派手でかっこいい個性が欲しかった。

 

「そういえばあいつらも普通科に入ったらしいぞ。木津はワンチャンありそうだと思ったが、やっぱりダメだったらしい。」

 

個性の話で昏くなりかけた思考が心操の声により遮られる。

 

「へぇ〜あいつらも他のとこにはいかなかったんだ。」

 

「体育祭に賭けてるんだと。まぁ大半の理由はお前がいるかーーーー」

 

ガラガラ。と扉が開く音がして振り返る。

 

「お、久しぶりだな。」

「………」

 

そこには、ガキの頃から見慣れた顔触れが並んでいた。

 

 

 

 

「というわけで、君たちは雄英生として誇りを持ち、勉学に励みつつ青春を謳歌して欲しいのさ!一度きりの高校生活、やはり〜〜」

 

何故校長の話とは長いのか。かれこれ8…10分は経っている気がする。おじいちゃんの説教の長さといい勝負だ。中学生の時は前に心操がいたから、駄弁ってれば良かったけどあいつ三個も前にいるんだよな。移動したいが初日から先生に目をつけられたくないし、何よりあそこにいる犬の先生まじ怖いし。横通りかかった時、ちびりそうだったもん。危なかった。

 

(そういえば、A組いなくね?)

(え?確かに…何してんだろうな。)

(もうヒーローになるための訓練してるとか?)

(まさか。初日でしかも入学式だぜ?)

 

後ろからヒソヒソと話し声が聞こえてくる。

…確かに列が一つ少ないな。ヒーロー科は別のところで入学式をやってるのか?いやでもB組はいるしな。

 

(ヒーロー科が何しようが俺らには関係ないだろ)

(まぁ俺たち落ちたしな。)

(俺の会場、爆破の個性を持ってる奴がいてさ。どんどんロボ壊してたよ。ああいう恵まれた個性持ちが、ヒーローになるんだろうな。)

(所詮、俺たちみたいな凡人が努力しても、ああいう才能マンには敵わないんだよ。)

(違いない。)

 

後ろからまた話し声が聞こえてくる。あいつらもヒーロー科受けて、落ちてしまったのだろう。

 

恵まれた個性持ち。

才能マン。

凡人が努力しても敵わない。

 

そんな言葉が頭の中を反芻する。

 

『お前はヒーローになれるような資格を持っていない。』

 

その事実を改めて突きつけられた気がして。

昏く濁っていく思考を振り払おうと、強く拳を握りしめた。

 

 

 

 

「校長の話長ぇ〜」

「俺貧血でぶっ倒れそうだったよ」

「しかもあれで短くした方なんだろ?」

 

 

入学式も終わり、ぞろぞろと自分の教室に戻っていく。

しかし本当に長かった…。30分も話されるとは普通思わないだろ。

 

「いやぁ〜校長の話長かったな。あたし寝ちゃったよ。」

 

「え?立ちながら?すげぇなお前。」

 

俺の横に並んで歩いている幼馴染その2こと彼女は木津 創(きず つくる)

肩に掛かるかどうかというくらいまで短く切られている薄紫の髪に、ツリ目気味な紫紺の眼。背は174㎝ある俺とそんなに変わらない。一目で鍛えられているとわかる体に、女性とかろうじて分かる…かも怪しい大きさのナニか。

 

「おい今失礼なこと考えなかったか?」

 

「全く?」

 

男勝りな口調にサバサバした性格。ボーイッシュと言うには少し大人びている彼女は何系女子と表せばいいのだろうか。

まぁ俗に言う男っぽい女というやつである。こいつ女子にモテるし。男子と普通にサッカーしてたし。バレンタインでもらった本命チョコの数は学校一だった気がする。因みに俺は爺ちゃんから飴詰め合わせ(ハッカ味)をもらった。ハッカが美味いかどうかは戦争に発展するので明記は避けておく。

 

「いや〜、心操も不和もいっしょのクラスになれて嬉しいよ。今年もまたみんなでどっか行こうぜ?去年はプールだったから今年は海に行きたいな。」

 

「海か。いいな。」

 

プールも中々眼福だったが、海はもっと気持ちの良い光景が広がっているだろう。待ってろ、水着のお姉さん達!

 

「あたし釣り道具一式持ってるからさ。みんなで朝から夜まで釣りして、何匹取れるか勝負しようぜ!」

 

「あ、海ってそっち?」

 

てっきり泳ぐ方かと思ったが釣りだったか…。グッバイ水着のお姉さん…。

 

「急だけど今日みんなでラーメン行かね?」

 

妄想の中のお姉さん達に別れを告げていると、彼女が不意に話題を変えてきた。釣りからラーメンって。共通点何もなくね?

 

「本当に急だな。別にいいけど…何でラーメン?お前ラーメン好きだっけ?」

 

「いや、そんなに」

 

「なんだよ。じゃあなんでラーメン?」

 

「いや、お前確かラーメン好きだったろ?」

 

「え、俺?」

 

ラーメンは大好物だが…わざわざ俺の好きな物にしなくていいのに、本当にどうしたんだろうか?

 

「何か…思い詰めてるって言う程でもないけど、難しいこと考えてるだろ、お前。」

 

……え?何で分かったの?いや確かにさっきまで考え事してたけど…エスパー?エスパーなの?あなたそんな個性じゃなかったでしょ。

 

「よく分かったなって顔してるな。何年幼馴染してると思ってんだ。どんな気分かくらいは顔見ればわかる。」

 

「……」

 

「あたしはバカだから相談には乗れないが、飯くらいには誘えるさ。パーとやって、難しいことなんて忘れちまおうぜ?」

 

「……お前本当に女?」

 

「ぶん殴られたいか?」

 

…多分こういった、一々男らしい言動ばっかりしてるから、女子からモテるんだろうな。正直俺、キュンとしたもん。

 

「バカなこと言ってないで、さっさと行くぞ!」

 

「待て待てまだホームルーム終わってないから。このまま行ったら無断早退になっちゃうから。」

 

まぁお陰で少しは気分が楽になった。お礼と言っては何だが、今日の飯代は俺が持とう。

 

 

 

そのあと、木津がアホみたいに食いまくって俺の財布が寒くなったのはまた別のお話。

ラーメンそんなに好きじゃないって言ってたじゃん。

こいつ本当に女かよ。

 

 

 




幼馴染って…いいよね…

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