空振り三振   作:T-

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今回は少し短め。
そして文が荒れる。自分でもなにかいてんだろって思ったもん。多分苦手な人いるかもしれません。
その時は、暖かい目(ry


十二話

「ヨォ、お疲れ!今回は割と危なかったんじゃないか?」

 

「木津か。そっか、試合俺の次だもんな。」

 

控え室に戻ると、木津が体を伸ばしている所だった。相変わらず、スポーツマンとしてはいい体してんなこいつ。二の腕まで捲った体操着からは、程よく焼けた筋肉質の腕が伸びているし、確か腹筋も割れていた筈だ。街中で良く男に間違えられる訳だよ。付くもん付いてたら…付いてたら…ウゥ…!

 

「先に準決勝をおっぱじめてもいいんだが?」

 

「ガチですいません」

 

だからなんで毎回毎回心読んでくんの?怖いんだけど。いや失礼な事考えてた俺が悪いんだけどね?お前そんな個性じゃないだろ?

 

「ったく、あんなに言ったのにまだ懲りねぇのかよ。ほれ、顔かせ。」

 

「えぇ俺何処に連れてかれんの!?トイレ!?校舎裏!?いやだまだ死にたくない!!」

 

「馬鹿かっ!傷治すから切れた所見せろっつってんだ!」

 

いやお前に顔貸せって言われたら、大体の人は吊るされるって思うからね?かなり怖かったよ?易辺あたりが聞いてたら泡吹いてるね。心操は多分青い顔して素直に従う。しょうがないね。だって怖いもん。

 

「あーあー結構深く切れてんなこりゃ。ジッとしてろよ。しかしお前って奴は直ぐに怪我すんだからよぉ。さっき治したばっかじゃねぇか。」

 

「不和のやつは不可抗力だろ…。それに試合してんのに怪我すんなってぇのは土台無茶な話さ。」

 

そう言って、木津の前に座った俺の頬を、彼女はゆっくりと撫でていく。そこそこ大きかった裂傷は、彼女のなぞった所から、まるで元々なかったかの様に、綺麗サッパリ消滅した。

相変わらずくすぐったいし、この体勢恥ずかしいんだが。

幾ら男より男らしいとは言え、結構美人な女の子なんだから、距離感考えよ?これ俺みたいな幼馴染だからまだ勘違いしないで済むけど、他の人にやったら即落ちるからね?一回そこの所こいつと話あった方が良いかもしれない。多分言っても別に大丈夫だろ、とか言われて今まで通りになるんだろうけど。いつか悪いお兄さん達に連れて行かれないか心配だ。…ないか。ないな。

 

「良し、オッケー出来たぜ。しかしお前も男とは言え、顔に傷残すのはダメだぜ?跡になったらどうすんだ?」

 

「べ、別に男にとって傷は勲章だからいいんだよ。お前こそ男みたいだけど、一応女の子なんだから気をつけろよ。」

 

「一言余計だ一言。私は大丈夫なんだよ。個性で傷なんか直ぐに治るし、そもそも傷なんか付かないんだからさ。」

 

「それでもだ。例え治るし効かなくても、見てるこっちはヒヤヒヤすんだからな。特にあの傷を相手に移す奴!お前嬉々として相手の攻撃ワザと受けながら、隠しきれない笑みを浮かべんの、割と狂気だからな?しょうがないとは言えあんな事ばっかしてっと、お前お嫁にいけなくなるぞ」

 

「う、ウルセェな!余計なお世話だ!そんなにアタシにあれこれ言うんだったら、まず自分が怪我しないように立ち回れ!」

 

「デスヨネー」

 

いやー俺も人の事言えないんだけど、こいつの戦い方見てて本当にヒヤヒヤするからなーやめてほしいんだけどなー。でも、俺より全然強いし、俺なんて心配するどころかされる立場だけどさー。なんかなーこう、なんかなー。人の事ばっか言って自分が出来てないから言葉に重みがないしなー。

よし、諦めよう。

 

「クソ、お前は毎回毎回、人の心に遠慮なくボディーブロー叩き込んできやがんだから…!」

 

「えっ俺そんなに強い言葉だった?ごめんね?」

 

「チゲェそう言う事じゃねぇよ!もういいから黙っとけ!」

 

「ひ、酷い!木津ちゃん酷い!俺がこんなにも心配しているのに…ショウちゃん悲しい!」

 

「あーもー!アタシもう試合だから行くぞ!じゃまた準決で会おう!」

 

「あ、おい待てよ!すまん悪かったって!何がいけなかったのか分からなかったけど悪かったって!」

 

「そう言う所だよコンチクショウ!」

 

どうやら怒らせてしまった様だ。まぁ昔から何かと怒らせていたし、今回も俺がやらかしてしまったのだろう。

顔を伏せていた木津は、そのまま勢いよく立ち上がり、ぶっきらぼうに挨拶を済ませたかと思うと、そのまま控え室を出て行ってしまった。クソ〜顔ぐらい合わせろよ〜。ショウちゃん寂しくなっちゃうぞ〜。…野郎が言ってもキモいだけだな。うん。やめよう。

 

「…勝てよ、木津。準決で待ってっから。今までお前に喧嘩勝った事ないけど、その借りをここで返してやるよ。」

 

そう、廊下に消えてった木津に、応援の言葉を呟く。

聞こえる筈もないそれは、薄暗い廊下に溶け込んだかと思うと、緩い空気と共に直ぐさま霧散した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あークソッ、まさか試合前にこんな不意打ちが来るとは…」

 

カタンカツンと乱雑で、乱暴な靴音を廊下に響かせる。おおよそ女の子が出す様な代物ではない。こういうガサツな所が、障助にお前女かよと言われる所以なのだが、今は許して欲しい。何しろ今アタシは気が乱れている。足音なんぞに気をつける余裕がないのだ。それに今はジェンダーフリーな社会、こんな女がいてもいいだろう。

そんな言い訳を心の中で反芻させつつ、先程の言葉を思い出す。

 

『例え治るし効かなくても、見てるこっちはヒヤヒヤすんだからな。』

 

「いやなんでそんな事言うんだよォォ…クソォォォ…!」

 

顔が熱くなる。いや何この言葉で顔赤らめてんのと言われても仕方ないほど普通な言葉。しかしアタシにとっては重みが違う。

 

アタシの個性は『傷操作(ダメージコントロール)』。

こんな言い方をすると厨二病みたいになってしまうが、その名通り、肉体に出来ている物に限り、あらとあらゆる(ダメージ)を操作することができる。例え骨折をしようが、擦り傷を創ろうが、アタシにかかればものの数秒で治す事が出来るし、悪化させる事も出来る。そもそも、傷を受けないように設定することさえ出来るのだ。痛みこそ消すことは出来ないが、対人戦ならかなりの強個性だ。つまり、何が言いたいのかと言うと、

 

「アタシは傷なんて受けないんだから、あんなに心配してくれなくても良いだろぉぉぉ…!」

 

これである。要するに、私は緊張でもなく、高揚でもなく、彼の単なる優しい気遣いに心を乱されているのだ。

いやでも優しくない?キュンと来ない?だってアタシ、傷無効化に出来るんだぜ?なのにあんな心配されたら、乙女心擽られるだろ…!自分でもどんだけチョロいんだよと思うが、アタシは個性が個性だし、その分周りの対応も対応だった。小さい頃から、例えその辺で転ぼうと、木から落っこちようと、割と大きい事故に巻き込まれようと、木津ちゃんならあの個性だし大丈夫と、放任されていた。アタシも自分なら大丈夫だと思ってたし、実際大抵のことは大丈夫だった。

 

そこに自分を心配してくれる人が出てきたのである。

いや心にクるでしょ!自分よりも断然怪我する確率が多くて、力も弱い人が、怪我しちゃ危ないよと、怪我しないか見ててヒヤヒヤするよと心配してきたらそりゃ気にもなるでしょ!なんかこう、色々唆られるでしょ!

 

「かーダメだ!熱よ引け!煩悩退散!」

 

必死に頭を振ることで、熱くなっていた顔を風で冷ます。いつもあいつの事を考えると思考が直線的になってしまう。惚れた弱みというのは何よりも恐ろしい。

こんな所、あいつに見られたら誰だお前と言われてしまう。それだけはダメだ。恥ずか死ぬ。

 

「こうやって愉花も落とされたんだろうなぁ…。はぁ…アタシもあんな風に抱きついてみてぇよ…でもなー…イメージ崩れちゃうしなー…何より…ねぇからなぁぁぁ…!」

 

現在進行形でキャラが崩壊しているが、そこは言わないお約束である。

アタシだって、割とそこそこアピールはしているのである。保健室の時のように顔近づけたり、治療の際にペタペタ箇所を触ったり、面倒見を装って味噌汁作ってあげたり。

でもなまじ一番幼い時から付き合いがあるせいか、小さい頃のアタシをみられてるんだよな。一人称がオレだった、あの忌々しき時代を。もうそれで障助の頭ではアタシ=男っぽいって構図が出来上がってんだろうな。だって全部驚くか、擽ったそうにするだけなんだぜ?顔の一つも赤くしねぇの。最後の奴に至っては、お返しにあいつもお味噌汁作ってくれたし。普通にアタシより美味しかった。つい勢いでアタシの為に毎日味噌汁作ってくれって言おうとしたもん。ほんと、自信なくなるなぁ…。

愉花も苦労してんだろうなぁ。この前も登校時間合わせる為に早起きしたけど、心配された挙句、おばあちゃん扱いされたって言ってたもん。あいつマジでヤベェよ。鈍感野郎は度が過ぎると疎まれんだぜ?まぁ、そんな奴に入れ込んじまってるアタシが一番ダメなんだけどな!

 

「ヒーローになるってのも、自分の個性を人助けに役立てたいってのもあったけど、元はと言えば障助がなりたいっていったのが始まりだからなぁ」

 

私の個性は確かに戦闘向きではあるが、それと同時に外科などの医療向きでもある。それでもヒーローになりたかったのは、憧れもあるが、あいつが行く道を共に歩みたかったというのが大きい。あいつの個性と私の個性はめちゃくちゃ相性いいしな。もしこれがサシではなくタッグマッチだったら、障助と無双出来る自信がある。それ程に私の個性とあいつの個性は強力で、馬が合う。出来れば組んで見たかった。二人きりで、苦難を共に乗り越え、勝利の頂きへと至りたかった。だが、まぁそれは

 

「ヒーロー科に上がったら好きなだけ出来るだろうからな。そんなささやかな夢を叶える為にも、負けらんねぇぜ。」

 

この試合の後に好きなだけやれば良い。

 

その為にも必ず勝つ。

 

卑怯な手など使わない。

 

搦め手なんざ必要ない。

 

四人の中で唯一純粋な殴り合いを得意とする私は、倒れる訳にはいかない。膝をつく事は許されない。

 

例えそれが女らしく無くても。

 

全てはヒーローになる、その為に。

 

「しゃぁぁ!行くか!」

 

頬を叩く事で気合いを入れる。声を上げる事で発動機を回す。さぁ、行こう。狙うは真っ向勝負(ピッチャー返し)

 

いざ…尋常に勝負!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「チューーーー!」

 

「…」

 

リカバリーガールがオレの腕を治す為に、箇所へキスをしてきやがる。骨折して赤黒く変色していた腕は、瞬く間にはれが引いていき、色も元の健康そうな肌色に戻っていった。

それと同時に、どっと疲れが湧き出てくる。なんだ?個性の副作用か?

 

「治癒には体力を使うからね。だから大きい怪我は一気に治すことができない。ほら、黒飴お食べ。」

 

「いらねぇよ…」

 

「あら、そうかい。そりゃ残念だ。ともかく、骨折してた腕と、ヒビが入ってた胸骨は治したさね。擦り傷とかは…悪いが絆創膏を貼っておくから、自然に治しておくれ。あんまりコレ(個性)を使い過ぎると、疲れすぎて逆に死ぬからね。それに癖にもなってしまうし。消木嬢ちゃん、易辺坊や、頼むよ。教えた通りに手当てをすれば良いからね。」

 

「は、はい」

 

「承知した」

 

そう言ってリカバリーガールが、近くに待機してたモブ数人の内、二人に声を掛ける。誰だこいつら。リカバリーガールのサイドキック…な訳ねぇよな。タメに見えるし、何より雄英のジャージを着てやがる。どういう立ち位置なんだ?まぁ別にどうでも良いか。

 

「では、失礼する。」

 

そう言って女の方が俺に近づき、擦りむいている箇所に手を翳してくる。そのまま包み込む様に、手を這わせているが…何やってんだこいつ?擽ってぇし汗かなんかでベタベタしてきて腹立つんだが。

 

「おいテメェ何してやがる。擽ってぇんだよ。ベタベタ触んなボブヘアーモブが」

 

「上手いこと言ったつもりか?これは私の個性で怪我した箇所を消毒しているんだ。それにしても本当に口が悪いな。貴様、それでもヒーロー志望なのか?」

 

「アァ!?テメェも大概口悪りぃじゃねぇか!喋り方変だしよ、頭まで綺麗サッパリ消毒しちまったんじゃねぇのか!」

 

「ハキハキ喋っているといえハキハキ喋っていると。この程度の口調も理解出来んとは…ハッ、笑わせてくれる」

 

「上等だテメェ…表でやがれぇ…!」

 

「ま、まぁまぁ二人共、お、落ち着いて。病室では静かにしないと…」

 

「ウルセェんだよナヨナヨ野郎!」

 

「ひ、ヒィ…!ごめんなさい、ごめんなさい…!」

 

「貴様、易辺を怖がらせるとはどういうつもりだ。この畜生目が。易辺も易辺だ。こんな奴に態々(わざわざ)頭を下げなくていい。価値が下がる。」

 

「誰が畜生だ殺すぞ!そんぐらいで怖がんなや!」

 

クソ、こいつらと話しているとイライラするッ!擦りむいた所もピリピリ沁みてきやがるし!てかわざと痛くしてんだろこいつ!さっきからメチャクチャドヤ顔で嘲笑(わら)ってきやがって!殺す!

そんな所業に殺気を飛ばしていると、それに気づいたナヨナヨ男がボブヘアーに軽く手刀を叩き込んだ。ザマァ!

 

「アイタッ」

 

「こら、消木ちゃん。彼は患者なんだからちゃんとしてあげなきゃダメだよ?」

 

「…いや易辺、これは必要処置であって決して私情がある訳ではない。断じてない。信じてくれ。」

 

「消木ちゃん…」

 

「いや易辺本当なんだ。だからそんな呆れた目で見てこないでくれ。…おい、貴様のせいで易辺に怒られたではないか。イメージが下がったらどうしてくれる。」

 

「消木ちゃん!」

 

「…」

 

「クプフー!ザマァねぇなおい!ナヨナヨ男に怒られてやんの!クックック…!」

 

「…ッ!」

 

おいおいそんな睨んできてもしょうがねぇだろ。お前がへんなことしなけりゃ良かったんだよ。

しかし…こいつの個性は本当に効いているのか?

消毒時に感じる独特の痛みが有るということはちゃんと効いているということなんだろうが…見た目が見た目だけに汗が入って沁みてるだけなんじゃないかと思ってしまう。

そんな懸念を他所にボブカットは包帯や絆創膏を取り出し、丁寧に箇所に貼っていく。特に可もなく不可もなしって腕前だ。ま、これぐらい出来て普通だよな。いや、モブにしてはやるほうか。

 

「よし終わった。おい易辺、終わったぞ。後は頼む。」

 

「…ちゃんとやった?包帯ぐちゃぐちゃに巻いてない?」

 

「私がそんなことする訳ないだろ?なぁ易辺、さっきの事は忘れてくれないか?」

 

「…確かにちゃんと出来てるね。良かった。では爆豪さん…でしたっけ?お手数かけますが、背中をこっちに向けてくれませんか?」

 

「易辺、無視しないでくれ。」

 

ボブヘアーの言葉を淡々と躱し、背中を向けるよう指示してくるナヨナヨ男。なんだこいつ。背中の傷はリカバリーガールに治してもらった筈だぞ。

 

「オレに指図すんな。お前がオレの背中に回れ」

 

「貴様…どういう神経してるんだ…!?そこは素直に背中を向けないか!」

 

「まあまあ消木ちゃん、僕はいいから」

 

「おい易辺…!?それは違うぞ…!それはもう優しいっていうか最早お人好しの域だ…!…そ、そんな奴の命令に従うくらいなら、私の言うことも聞いてくれるよな!?」

 

「じゃ、いきますよ〜」

 

「あぁ冷たい!易辺が冷たいぞ!だけど少し悪く無くなってきた!」

 

またしても喚くボブヘアーを無視するナヨナヨ男。あいつキモチワリィな…。ここまで見苦しいモブは初めて見た。

そんなボブヘアーを見て、嫌悪と嘲弄の念を抱いていると、ナヨナヨ男が俺の背中に手を翳してくる。途端、こいつの手から淡い緑の光が溢れ出し、俺の体を包み込んだ。なんだこれ。段々と体の疲れが取れてきた。こいつの個性か?

 

「おいテメェ、こりゃなんだ?」

 

「あぁ、すいません。急に出てきて驚いてしまいましたか?これは僕の個性で疲れを取っているんです。まぁ一人一日3回までしか掛けられないし、僕自身には掛けられないんで、僕がダウンしたら終わりなんですけどね。」

 

疲労回復、か。使いようによってはかなり強い個性だ。リカバリーガールの個性とも合ってるし、もしヒーロー科に入れていたら、間違いなくリカバリーガールのサイドキックとして幕を開けられただろう。まぁ個性が個性とはいえあの入試で合格出来ない奴に、ヒーローなれるかって聞かれたら、首を横に振るしかねぇけどな。つまりこれはモブの意地汚ぇ最後の足掻きって訳だ。ここで働いて自分の有用性をアピールする、未練がましく無様な最後の賭け。考えられてはいるが…滑稽極まりねぇな。この体育祭で使えるだけ、まだ他の嫌味ったらしい有象無象とは違うようだが。

 

「…成る程な。だからテメェはリカバリーガールの手伝いしてるって訳か。ハッ、モブの足りねえ頭にしちゃ中々考えたじゃねぇか。使いもんにならねぇ他の奴らとはちょい違うな。」

 

「貴様…!今そこに直れ!うんと痛い消毒液をかけてやる!」

 

「ははは、ありがとうございます。まぁこれ自体は僕たちが考えた訳じゃなくて、僕たちの委員長が考えたんですが。あと消木ちゃん、少し黙ってて。」

 

「易辺ェ…!そんな目で見られると私あ、何をする香川!離せ!離ーーー」

 

そのまま同じく保健室に待機していた肩甲骨女に連れて行かれる。何か喚いていたが、地味男が手を叩いた瞬間、綺麗さっぱり聞こえなくなった。何がしたかったんだあいつは。

 

「…で、僕たちが考えた訳じゃなくて、委員長がわざわざリカバリーガールに頼んでくれたんですよ。ここに僕らを置いてくれないかって。まぁ色々ありましたが、なんとかここでクラスの為に動く事が出来ました。ほんと、委員長には頭が上がりませんよ」

 

どうやらその委員長様とやらは随分とクラスメイトに慕われているらしい。本来ならば使えねぇモブ供を使えるモブにした奴だ。そこそこの肝っ玉と実力、カリスマ性、そしてあの入試では効果を発揮できない個性を持っているのだろう。同情するぜ。

 

「で?その委員長様はここには居ないようだが、お前等を放ったらかしにしてどこで油を売ってんだ?」

 

「え?あー…。ほら、騎馬戦二位で、一回戦目に芦戸さんと戦った人です。覚えているでしょう?」

 

…あーあいつか!心操とか言うモブが偵察しに来た時、横にくっついてこっちを見ていた奴だ。おちゃらけた雰囲気を醸し出しといて、目だけは獲物を狙う獣みたいな奴。そのクソナードと似てるようで全然違う、チグハグな雰囲気が気味が悪くて、イライラするような、そんなモブだった。

どうせすぐ斃れて居なくなる。そう高を括っていたら、騎馬戦でこっそりと此方を上回ってくる。仲間はどんどん個性を暴け出しているのに、あいつだけは尻尾を出さない。いや、オレが掴めて居ないだけか。

チラリと寝台に横たわっている、先程まで拳を交えていた女を見る。確かこいつと騎馬を組んでいた。こんな、敵に堕ちてしまったらぞっとするような、そんな強力な個性を持った奴らの総大将。身震いがする。怖さからではない。只々、己より優位にある可能性の者を叩き落とし、自分の優位を、強さを、誇示したい、そんな傲慢で完璧な欲望が背中を伝う。普通科の落ちこぼれに翻弄されていては、ヒーローで完膚なきまでの一位を取ることなんざ出来やしない。ただでさえ、先程の試合では無様を晒した。つまりこれは挽回のチャンスだ。容赦なく叩きのめし、そのまま半分野郎へとたどり着く、体のいい踏み台にしてやる。気分がアガッてきやがった。

 

「ホォウ…それは是非とも戦ってみたいもんだァ…」

 

「爆豪さん?顔が小さい子には見せられないような感じになってますよ?正直言って怖いです。」

 

「アァ!?オレは怖くなんかねぇよォ!」

 

「自覚なし!?嘘でしょ!?」

 

そいつを叩きのめす為にも、先ずはあの傷女からだ。バカとはいえヒーロー科の中では屈指の格闘戦闘を誇るあの切島が下された。余裕は持って大丈夫だが、油断はしない方がいい。一回戦目の不和は、搦め手全開の相手。しかしそれが崩れたら、1発を注意さえしてればいい雑魚へと成り下がった。

今回は、純粋な格闘派。しかもダメージを自在に操るときた。字面だけ見ると勝てっこないが強力な個性ほど、何処かに必ず穴がある。先程の不和みたく、聞こえなくする事で、確固たる自尊心(プライド)を持つ事で、跳ね除ける事は充分出来た。オレだって、出せる威力には限界があり、それを行うリスクもある。

 

絶対に、何かがある。

 

「ーーん。爆豪さん?もう治療は終わりましたよ。お疲れ様でした。」

 

思考の海を漂っていると、ナヨナヨ男が声を掛け、引き上げてきやがった。クソ、あともう少しで何か思いつきそうだったんだが。

 

「…」

 

「おい貴様!スカすのも大概にしろ!帰るなら、せめて易辺にお礼ぐらい言ったらどうなんだ!?」

 

「…チッ」

 

「あ、おい!…なんなんだあいつは!あんな奴がヒーロー科に入れて、易辺や香川が入れないなんて…!世の中どうかしている…!」

 

そのまま置いておいた上着を手に取り、保健室を後にしようとする。背中に、二人の拘束を解いたボブヘアーの非難の声が掛かるが無視して廊下に出た。

相変わらず薄暗い廊下だ。梅雨も近いからかジメジメしている。さて、怪我は直した。何処でアップをしようか。

そんな事を考えながら、残り少ない休憩時間を試合前のウォーミングアップに当てようと、場所を探すべく歩き出した。

 

「うぉっ。あいつは確か…」

「あぁ騎馬戦3()()の」

「柄の悪い野郎だ。言動も酷いし。素行が悪くてもヒーロー科入れるなんて、今まで真面目にやってた事はなんだったんだろうな」

「結局実力主義って奴か。ヤダヤダ。ほんと、強個性持ち(才能マン)って羨ましいよ。」

「ま、そういうなよ。どうせこの後、木津か障助が倒してくれるさ。さ、行こうぜ体川」

「そうだな。3()()はほっといて、さっさとクラスのみんなを手伝うか」

 

そう言って保健室に入っていく二人組の会話が耳朶を打つ。

 

薄暗かった廊下は、心なしかさらに薄暗くなった気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




爆豪の描写めちゃくちゃ難しい…。ただただ嫌な奴になった気がする…。
後乗せ忘れたんで乗せときます。ごめんね消木ちゃん。

消木花 彼岸(けしきばな ひがん)個性『消毒』
彼女の指先から分泌される粘液は、毒素や細菌を消し去る作用がある!対象の毒素や細菌の事を詳しく知っていなければ、効果が著しく下がるぞ!勉強だ!頑張れ消木花!

割と名前が変になっちゃった。個性を絡ませた名前って考えるの楽しいけど変になってしまいますね。因みにほかのキャラクターも同じように個性を絡ませた名前となっています。時間があったら考察してみてはどうでしょうか?
ちなみに消木ちゃんは

消す 彼岸花(毒がある)です。

え?もう知ってるって?



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