友達と友達になった時、どんな場所で、どんな場面で、どんな風にだったか、意外にも覚えていなかったりする。
オレもそうだ。
愉花と、心操と、障助と、ガキの頃から付き合いがあったという事だけで、どういう経緯で友達になったのかはっきり覚えていない。確か家が近いとかどうとかで知り合ったんじゃなかったか。
どちらかというと友達との印象的な思い出は、喧嘩やら、部活動の大会やら、何処かに遊びに行ったやら、そんな近い日常に依存すると思う。
あの時アレが原因で血が出る程殴り合いをしたとか
あの時みんなで勝ち取った試合は最高だったとか
あの時アイツは面白い事を言っていたとか。
割と重要な事だったり、思いの外下らない事だったり、そういうものが、案外記憶に残り、一生モンの宝となっていく。
障助との印象的な思い出は、主に後者の方が多い。
感野 障助
最初の印象は、年齢と精神がかけ離れてる奴、だった。
物心ついた時からオレの後ろにいて、それは危険だと注意したりしてくる、うざい奴。いちいち言動が大人びていて、それが何処と無くシャクで、よく喧嘩をしたのを覚えている。
当時は武道を習っている人間などオレだけだったし、元々ガキ大将の様な立ち位置にいたので、直ぐにボコボコにしていた。
アイツは男の癖に直ぐ泣くし、腕っ節も弱かった。
その割には毎回毎回突っかかって来て、金魚の糞のようにオレの後ろをつけて来る。
その姿がとても滑稽で、自分の出来ない子分として見下していた。たくさん貶したし、たくさん辱めた。今思えば、良くオレと友達を続けてくれたと思う。
アイツとの付き合い方が変わったのは、大した事があった訳じゃない。
いつも通りにオレの元で媚び諂ってくる取り巻きと、それについてきた障助とで、入っちゃいけない山の中を探検しに行った時だった。
危ない、危ないと言ってオレを心配し引き戻そうとする障助にイラつきながらも、みんなでイビりながら森の奥へと進んで行き。
倒木で出来た橋を渡ろうとして、苔で脚を滑らせ落ちた。
橋と底までの高さはそこそこあって、突然の事もあり大した受け身も取れず叩きつけられた。齢四歳では経験した事も無い衝撃と、後から追うように痛みが襲ってきて、そこで人生初の大きい怪我を負った。
足を強く捻っていた。腕には深い切り傷が出来ていた。違和感があって、頭を触った掌にはべったりと血がついていた。
初めて受ける激痛。
初めてみる痛々しい傷。
初めて感じる、
全てが未体験で、どう対処すれば良いのかも分からず怯えた。何せ、怪我の正確な対処など知っている筈もなく、個性が個性だ。普段はちょっとした擦り傷など意識するまでもなかったが、今回ばかりは事情が違ってきた。地面に叩きつけられたから、個性も使えなかった事が、不安を促進させ恐怖へと変えた。
年相応に泣きじゃくりたかった。
誰か助けを呼んでこいと、誰か助けてくれと喚きたかった。
だが、ガキ大将としての立場があったし、変なプライドが邪魔して痛がるに痛がれなかった。
今日は探検を切り上げると言って帰ろう。父さんに、そこらの土手で滑ってコケたとでも言えば、足腰が弱いと叱られるかもしれないが治してくれる。きっと連れの誰かが心配して助けてくれる。その時に、いつも見たいに余裕そうな顔をしていれば全て済む話だ。
そう、思っていた。
『はっはっは!創のやつ、足すべらしておちたぞ!」
『どうする?おとなよぶ?俺たちがたすけるにはすこしきつい。俺どろだらけになるのいやだし、わざわざ下まで下りるのめんどくさい』
『けっこう高いところからおちたけど…だいじょーぶでしょ。創ちゃんだもの、いつものこせいでパーってなおすさ』
『それにおとなよんだら俺らがおこられるだろ。おい創ー、さきいってるぞー』
だが、実際は違った。
創にもだせーことがあるんだな。そう言って連れは笑いながら先に進んで行きやがった。
あいつなら大丈夫。あいつなら助けもいらない。だって、あいつだから。自分が助けて、同じような目にあったら大変だ。
あったのは、そんな固定概念と保身だけ。
誰もオレの事を心配している奴なんていなかった。
思考が停止した。
誰も心配してくれない事に、怒りを通り越して驚愕していた。
貼り付けた余裕と魂胆、それが音をたてて崩れていく、その感覚に唯々動揺して、じわりと恐怖が滲み出る。
なんで、という言葉は紡げなかった。何故ならこの結果を招いたのは他でもない、オレだった。オレの普段の行いから生み出された、最悪の
焦った。動揺した。
助けが見込めない。自分だけでどうにかしないといけない。でも、どうやって?足も動かない。手も上がらない。頭からは血が出ていて、ガンガン殴られているように痛い。
ジッとして、個性が戻るまで…いやダメだ。このまま地べたに身体を付けたままじゃ個性は戻らない。寧ろカウントが増えてしまう。
それに、いつまでもこんな不衛生な場所で傷を晒していたら悪化する。この前テレビで傷から入ったバイキンが脳を壊すと言っていた。
だからと言って立ち上がろうとしても、脚が言うことを聞いてくれない。
ーーー詰んだ。
どうしたって詰み。死んだ。もう終わりだ。本気でそう思った。助けなかった奴らが憎いとも思った。変なプライド抱えて素直に助けろと言えなかった自分が恨めしいとも思った。
このまま個性を発動出来ず、助けも呼ばなければ血が出過ぎて死んでしまう。呆気ない最期だった。
暗くなってきた思考で、そんな事を考えた。泣きたかった。実際泣いた。そこまで、気が滅入っていた。
あぁ、死にたくない…死にたくない…なんなんだよあいつら、ちっとは心配して助けに来いよ!どろだらけになりたくないなら山くんな!
涙がポロポロと頬を伝い、土を湿らせていく。自業自得の事に一方的に弾糾する。ガキがただこねるように、ずっと。
だんだんと、視界が暗くなっていく。泣き疲れてまぶたが重くなったのか、それとも…なるべく前者の方がいいな。
『だれか…助けろよ…!』
その言葉を最後に、オレの意識は完全に海の底へと沈んでいき。
『木津ちゃん、頭を打っていたら大変だよ。怪我が残ったら危ないから、ね?』
直ぐに引き上げられた。小さな小さな手によって。
『えっ…』
『ほら、おぶってやるから早く帰ろ。おじさんなら傷の手当てぇぇ!?え、ちょ、凄い怪我だな!?急いで降りてきたから全然気付かなかったやばい早く運ばなきゃっ…あ、そうだ個性!木津ちゃん個性発動して少し治しておきなよ!』
『オ、オレのこせいはコケたらはつどうできなくなる。たぶんあと10分くらい使えねぇ…』
『えぇぇぇ!?アホ、アホだよ!?ちょっと本気でやばいなぁ!?傷に当たらないように持たなくちゃ…!』
『あ、あとオレあたまも打って血出てるからあまりゆらすなよ…』
『案の定!?馬鹿なの!?もう、しっかり捕まっててね!?』
俺言ったよね!?危ないから帰ろって!
そう言ってオレを優しくおぶって、急斜面を登っていく。
少ない足場を踏み、生えている木にしがみつき、落ち葉で滑りおちても、オレに衝撃が来ないように止まって、また登る。
お世辞でも障助は要領が良くなく、何度も何度も危ない所はあったし、自分だったら登れる場所を迂回したりしたから、もどかしさはあったけど。
それでも、枝やら草に引っ掛けて、身体中に擦り傷作りながら、珠のような汗を流しながら、ゆっくりゆっくり、確実に登っていって。
途方もない感情が心を渦巻く。
『はぁ…はぁ…ようやく上についた…!木津ちゃんって意外に重いんだね…!』
『まぁ、きたえてるからな…それより、なんでだ…?』
『ふぅ…ふぅ…へ、なにが?』
『いや、その、なんでオレを助けた?そんなキズつくってまで、いつもいじめてくるやつのこと。ざまぁみろって笑って、ほかのやつらみたいに、さきにかえっちまえばよかったのに…なんでだ?』
だから、そんな疑問が湧くのも無理はなかった。ぎゅっと肩を握る力が強くなる。聞いた手前、こんな事言うのもなんだが怖かった。彼が、あぁそうだなといったらどうしよう。なんてのは、虫の良い話だが。けど、罪悪感を感じているのも事実、言っても欲しかった。
思考がちぐはぐになる。
『ーーーいや、目の前でコケた奴がいたらとりあえず起こしに行くだろ?』
『ーーー』
泣いてんなら尚更、俺はヒーローになりたいからな!
だからこそ。
なんの迷いもなく言った彼の笑みを見て
ーーーカッコいい
そう強く思った。
それから家について、親父にこっぴどく叱られて、怪我を治して貰った直後に足腰が立たなくなるまで稽古をさせられた。あいつはそばで申し訳無さそうに笑っていた。
次の日も、その次の日も、あいつはそばで笑っていた。笑ってくれた。
そのまま小学校に入って、中学校に入って、
個性の事やアイツの家庭でゴタゴタした時期もあったけど。
それでも変わらずアイツはオレとつるんでくれて。
もう、苛立ちを覚える事はなくなった。
ーーーアイツの様な人間になりたい。
アイツの様な、コケちまった奴をなんの躊躇いもなく引き上げて運んでやれる、そんな
アイツの
「ダ、ラァァアァ!」
膝を振り上げる。唸りを上げる空気、音を置き去りにする一撃が奴の土手っ腹に叩き込まれる。
同時に視界が火花で染まり、カウンター気味に出された爆破が延髄に着弾。
二人とも、衝撃に逆らえず弾き飛ばされる。
「へへ、あっぢぃ…ゴホッ、フっ…」
直ぐ様立ち上がり一呼吸。徐々に減っていたカウントが繰り上がる感覚に反射で不快感を催すが、意志を燃やす事で打ち払う。ふらつく脚に鞭を打ち、必死に大地を踏み締めた。表情だけは余裕そうに。
「しかしながらこう見てみると、オレってばチョロいな。あんな単純な理由でオチるとか少女漫画かよ。ま、全然いいんだけどな」
「黙っとけはよ死ねや」
「ははっ…その言葉、そっくり返してやん、よッ!」
拳を打ち出し、横に避けたところを見計らって薙ぎ払い、爆破で往なされる。爆煙と衝撃に視界を殺されるオレの鳩尾に蹴りが叩き込まれるが、そのまま脚を掴んで肘鉄を数発振り下ろした。爆破で拘束を解かれる。
奴の動きが鈍くならないのに対し、オレの動きはどんどんキレがなくなっていく。
それは何故か。単純、根本的な資質の差だ。
ヒーロー科と普通科、新型と旧式、男と女。それらが生み出した確実な壁。いやという程経験してきた。
その都度、積み上げて来たモノが瓦解する感覚に目眩がするんだ。
生身で壁を登ろうとオレらが汗水垂らして鍛えている中、奴らは壁を登る道具を与えられていて、ちょっとの講習でスラスラ登っていく。
命綱だって備えていて、落ちそうになっても支えられて登り直す事が出来る。
それが堪らなく悔しかった。羨ましかった。なんで自分はって恨めしく思った。
そして何より、オレが一番皆の中でマシな癖に、悲劇のヒロインぶってる事に吐き気がした。
そうだ、そうだよそうなんだよ。オレが一番恵まれてるんだ。鍛えてくれる親父がいて、支えてくれるお袋がいて、健康にも体格にも恵まれ、何より『
心操も、愉花も、障助も、自分の個性で苦しんでいる中、オレだけが違った。オレだけが、
弱音なんて、吐ける筈が無かった。
必死に自分を強く見せた。常に彼らの前では気丈に振る舞った。馬鹿でガサツで男みたいな女、木津 創。そんなキャラを崩さない様に、不安を飲み込み続けた。
愉花の個性だって、全然大丈夫じゃない。見栄を張っていただけだ。本当はドロドロとした感情が胸に溜まってて、抑えるのに必死だった。辛かった。苦しかった。感情のままに蹲りたかった。
それでも、立ち続けた。自分は大丈夫だと笑って見せた。蹲る訳にはいかなかった。それは一重にーーー怖かったから。
オレみたいに恵まれてる奴が、弱音吐いて、泣き喚いて、蹲ったら。
アイツらは、ざまぁみろとオレに愛想を尽くすんじゃないかって。
あの時みたいに、倒れたオレを放ったらかして先に行ってしまうんじゃないかって。
怖くて怖くて、堪らなかった。
「ブッ…ラァッ!!」
堪らな
掌底が鼻頭に突き刺さる。舞う鮮血、霞む意識、褪せる世界。それらを一切合切無視して、返えす刃の要領で回し蹴りを放つ。
苦し紛れに放ったそれは、爆豪に掠る事なく宙を切るが、追い討ちを遅らせる牽制にはなった。沼に足を踏み入れたかの様に重い身体に歯がみ、残りわずかとなった気力を動員させ距離を取る。
そう、全ては過去の話だ。確かにオレは、ドロドロとした不安を抱え
あぁ、なんとまぁ自分は愚かなのだろうか。
もっと早くから気付くべきだった。思い出すべきだった。知らず知らずのうちに、オレは仲間を信用してなかったって訳だ。この心に打ち付けられた楔を隠して、虚勢を貼り付けているうちに、本気で自分は護る立場にいると勘違いしてしまった。
アイツらが『倒れない木津 創』を求めていると、勘違いしてしまった。
それに報いなければ、自分に価値など見出してくれないと勘違いしてしまった。
あぁ愚かだ。どうしようもない阿保野郎だ。本当に馬鹿で馬鹿で仕方がない。頭が悪いってのは貼り付けた仮面でもなんでもなく唯の素顔じゃねぇか。
あぁ愚かだーーー。
「コケたオレを引き揚げてくれた
全部、オレの心の弱さが招いた悪い夢なのだから。
現に、アイツらは引き揚げてくれたじゃないか。心が折れかけて、蹲ろうとしたオレを、見捨てなかったじゃないか。
もう、何も恐れる必要はない。後は己の力を尽くして、抗うだけだ。何度躓こうが、すっ転んで膝を擦り剥こうが、構わず進む努力を続けよう。
きっとあの時の様に笑って引き揚げてくれる、そう信じて。
「…なんて、心機一転したは良いものの、肝心の
しかし、現実は無情かな。
オレの肉体は、もうとっくに許容限界を超えていた。
腕を上げる。ミチミチと嫌な音がなる。
脚を動かす。関節という関節が軋む。
頭を回す。故障を知らせるエラーメッセージで満たされた。
これ以上、目を背けて動くのは危険だと、本能が伝えてくる。最早根性云々の話じゃない。本気の警告音。当たり前だ。ここまで動けていた事が奇跡に近いんだ。いつ崩れるかわからない崖でタップダンスを踊っていただけ。当然の帰結だ。
動けるとして…後2、3手か…
それを超えたら、ミッドナイトに強制的に眠らされるだろう。唯でさえ、もう棄権しろだのなんだのとプロヒーローから野次が飛んできているんだ。命の危険を見逃す訳がない。今もセメントスが直ぐに止められるよう構えている。
「あぁクソ、どいつもこいつも無粋な奴らだ」
ならば、2、3手も要らない。一発で決めてやる。
残りカスもない気力を震わせ、身体を奮い立たせる。腕で顎を守るように囲むスタイル、小刻みにステップ。熱量を上げる。
集中、集中、世界から雑音を消していく。意識するは目の前の敵を殴る事のみ。深く、深く、必要な情報だけを、瞳の奥へと刻んでいく。
「…ッ」
明らかに限界を迎えている奴の、醜い足掻きが続く事に顔を歪ませる爆豪。お気持ち察するぜ。重すぎる一撃を食らわせれば、失格の可能性。かと言って手を緩めて一撃が軽すぎれば、反撃を貰う可能性。今のオレは、相手にするには面倒くさすぎるだろう。好都合だ。
肺を空気で満たし、排す、顔には笑みを。狙うはカウンターによる一発KO。ピッチャー返し。必然的にとる行動は受け身。それを爆豪も分かっているから、直ぐには攻めて来ない。掌を小刻みに爆破させ、機を待っている。
緩慢に時が流れていく。細い糸が、張り詰める。
風が吹けば、ぷつりと切れるような緊張が空間を支配する。まるっきり、試合の出始めと同じ状態。忍べなかった方が、負け。特にオレは。
じりじりと、精神を削る音が響き渡る。じりじりと、じりじりと、煩わしく感じるぐらい、しつこく響き渡り。
風が吹いた。
「ーーーシッ!!」
先に動いたのは、爆豪だった。
掌を後方に向けて、起爆。推進力を活かして空いていた距離を詰めてくる。膨れ上がる闘気殺気、腕に力が籠る。が、まだだ。抑えつける。
狙いは顎。鋭いアッパーが意識を刈り取りに空を裂く。囲っていた腕を最小限に薙ぎ払い、軌道をずらし、米神を掠るまでに留める。力の方向を変えられた事により、爆豪の身体が若干開く。無防備に空いた横っ腹、脚が疼く。
しかし攻撃してはいけない。これは誘いだ。まだ、まだだ。逸る気持ちを噛み殺す。
「ウッ、ゼェなぁッ!!」
そうだろう、そうだろう。今のオレはのらりくらりとしてくる爆弾、うざくて仕方がないだろう。ざまぁみろ、もっともっと苦しめ。その歪んだ顔を、世間様にお披露目してくれ。
爆破を防ぐ。殴打を避ける。脚技を受け流す。
少しずつ脆くなっていく防御に、鈍くなっていく回避行動、思考がショート寸前。誰がどう見ようと、オレの劣勢、勝てるわけがないと野次が飛んでくる。
それでも、オレは諦めない。諦めたくない。
例え現状が、ルールというものに守られて成り立っているとしても、相手が本気を出せば直ぐに捻り潰されるとしても。
オレは、勝負を続けたい。抗いたい。負けたくない。
勝ちたい。なによりも、強く。
立ち続ける強さを教えてもらった。
支えてくれる優しさを教えてもらった。
ーーー躓いた人を起こしてやれる、勇敢さを教えてもらった。
オレは、多くを貰ってここにいる。
そんな、オレに全てを与えてくれた人達の為にも。
「負けられッ、かァッ!!」
想いを、拳に。
迫る右の大振り、業を煮やした爆豪から繰り出される、死神の鎌。本能が、今すぐ逃げろと金切り声、脊髄が無理矢理指令を飛ばそうとする。身体中の機関という機関、細胞という細胞が、これに立ち向かう事を否定する。
だけど、
〝ここで決めろ〟と怒声を上げる。
一歩踏み込む。腰を入れる。身体に流れている血液をフル動員、エネルギーというエネルギーを、出し尽くす。
この一振りで、全て終わらせる。狙うはもちろんーーーピッチャー返し。
「オレも、なるんだッ、アイツみたいな…ヒーローにッ!!」
大きく振りかぶって、打ち抜いた。
「…ク、ハッ、やっぱ、お前、バケモンだよ」
爆豪の、掌を。
「…」
「チッ、わりかし今ま、でで一番、良いパンチだと思った、んだが…話の流れ的に、空気、読めや…」
別に悪い策ではなかった。悪いカウンターでもなかった。追い込まれてる状況だったが、それ故に今までで一番、重く鋭い一撃を、叩き込んだ筈だった。全てを乗せて、放ったんだ。
それでも、敵わなかった。あの体勢から、ほぼゼロ距離から繰り出されたパンチを受け止められるとは思わなかった。
直前まで、オレの鳩尾を狙っていた。そこから此方の思惑に気付いて、瞬時にどの位置に攻撃がくるかを見抜いて、上手く大振りを合わせてきて。
どれほど努力をすれば、奴のような戦闘力を身に付けられるだろうか。
いや、きっと努力だけではどうにもならないのだろう。
思えば、こんなにもタイマン性能バリバリな個性を持ってしても、気付けば爆豪のペースに巻き込まれて、試合を運ばれた。
あんなにも、有利だったのに。これじゃまるで…
「俗に言う、物語の
今のままじゃ、な。
取り敢えず、かませ犬はかませ犬らしく、戦略的撤退でもさせてもらいましょうかね。あーあ、帰ったらみっちり親父にしごかれちまうなぁ…障助も巻き込んでやるか。それなら幾らでもやって良いや。
「参った」
巻き起こる歓声の中、焼け爛れた薄汚い腕を、力なく挙げた。
因みになんとか0個を回避しようと、身内を頼った所
「バレンタインってのは愛を伝える為にチョコを渡すだろ?アタシはいつも貴方の事を愛しているから、チョコを渡す必要はない」
との事。皆喜べ、0個は愛されてる証拠だったんだ。
…はい、次回はなるべく早く仕上げられるように努力します…信用性は皆無ですが