戦闘描写ってやっぱり難しいですね。
ボンッという音ともに体が宙に放り出される。
視界がぐるぐると回り、空と地面を交互に映してきた。どっちが上でどっちが下なのか、そんな事も分からない。やがて体は物理の法則に従い、だんだんと落下を開始する。そんな一時の浮遊感を感じて、
「ガァッ!?」
背中から思いっきり地面に叩きつけられた。肺から空気が抜ける程の衝撃に息ができなくなり、鈍痛がジンジンと身体の損傷を伝えてくる。しまった、着地の事考えてなかった。なんとかジュードーの受け身で頭を守ることができたが…
「くっ…そ!」
脚やら腰やら、他の部分を痛めてしまって上手く立ち上がることができない。まるで産まれたての子鹿の様だ。そんな俺を嘲笑うかの様に、地雷原を抜けた奴らはどんどんと俺を抜かしていく
クソ…せっかく時間を稼いで貰ったのにこのままじゃ…
「障助!大丈夫か!?」
痛みをもって休めと警告してくる身体に鞭を打ち、なんとか走り出そうとすると、後ろから安否を確認する声がかかる。振り返ると、クラスの奴らが数人こちらに向かって来ていた。
「すまん、お前rーーーー」
「今度はしっかり受け身取れよ!!!」
「へ?」
男子の一人に持ち上げられる。
そのままそいつは野球のフォームの様に振りかぶり、
「ッラァ!!」
「え、ちょ、待ってェェェェ!?」
俺をぶん投げた。
遠くまでものを投げることができるぞ!
コントロールがないのが玉に瑕だ!
やばいやばいヤバイ!お陰でどんどん抜かせているが、このままじゃコース外に出ちゃう!俺失格になっちゃうから!
「クソ…!空中じゃ身動き取れないしどうすうおおお!?」
今まさにコースアウトしようとしていたところで、軌道が急に変わる。
後ろを振り返ると、パントマイムの如く何も無い空中を思いっきり引っ張っている女子が見えた。
「よしいいぞ!そのままもうちょい右!」
「わ、わかってるよ…!き、きつい…!」
動いている物体の軌道を変えることができる!動いている物体が速ければ速いほど、重ければ重いほど変更できる範囲が狭くなり、身体に負荷が掛かりやすくなってしまうぞ!踏ん張れ!
よかった…これで失格は免れた。けど空中でブンブン振り回されたから…
「めちゃくちゃ気持ち悪い…ウプッ」
ヤベェ酔った。吐きそう。今吐いたら本当にヤバイ。主に社会的に終わる。
しかしそんな状況でも世界の理とは残酷で。
地球の重力に引っ張られた俺は、吸い込まれる様に地面へと落ちていった。
「あ、危なかった…!」
あの後、何とか前回り受け身を成功させた俺は、そのまま上位の奴らに追いつき、第1種目を突破することが出来た。
しかし、今思うと…何やってんだ俺。下手な事できないって言ったそばから運任せとか頭沸いてんだろ。しかもちょっと失敗気味だったし。ホント、肩石達が居なかったらどうなってたことやら…
「ようやく終了したわね。それじゃあ結果をご覧なさい!」
どうやら全員走り終わったらしい。モニターに順位が映し出される。俺の順位は…12位だ。皆が妨害してくれたお陰か、中々高い順位に着くことができた。流石にこれなら切り捨てられる事はないだろう。ないよね?これで俺切り捨てられたら皆に合わせる顔ないよ?
「問題は俺たちから何人2ndステージに上がれるかなんだが…」
心操や木津、不和は8、9、10位と高順位だ。落とされる心配はない筈。俺も多分大丈夫だと思う。てか思いたい。他は…四人くらいなら上がれそうな気がする。
「予選通過は上位42名!残念ながら落ちてしまった人も安心しなさい。まだ見せ場はあるわ。そして次からいよいよ本戦!ここからは取材陣も白熱してくるよ!気張りなさい!」
よかった、全然余裕だった。これで2ndステージ、所謂本戦に出場できた普通科は、全部で8名。最初と比べて随分人数が減ってしまったが、ヒーロー科相手に本戦の六分の一を占めることが出来たと考えたら、中々上出来じゃないか?
「さーて第2種目よ。私はもう知ってるけど…これ!」
モニターに騎馬戦という文字が出てくる。騎馬戦?どうやるんだ?
「参加者は2〜4のチームを自由に組んで騎馬を作ってもらうわ!基本は普通の騎馬戦と同じルールだけど一つ違うのが…先程の結果にしたがい各自に
なるほど。つまり組み合わせによって騎馬の
「ポイントは一番下から5、10…と5Pずつ上がっていくわ!」
え、まじか。じゃあ仮に俺、心操、木津、不和の四人で組んだら…645…645!?めちゃくちゃ高いじゃん!?嘘だろ!?いや高い事は嬉しいんだけどね!?
「そして一位に与えられるPはなんと1000万!上位の奴程狙われちゃう下克上サバイバルよ!」
皆一斉に緑谷の方に向く。よしよし、俺たちよりめちゃくちゃ目立ってるぞ。絶対狙われるなあいつ。基本的に俺とか心操の個性はバレると対策されちまうから目立たない方がいいんだよな。
「制限時間は15分。騎手はP数が表示されたハチマキを装着!終了までにハチマキを奪い合い保持Pを競うのよ。取ったハチマキは首から上に巻くこと。取れば取るほど管理が大変になるわよ!そして重要なのはハチマキが崩れても、また騎馬が崩れてもアウトにはならないってところ!」
おぉ、ってことは一回取られちゃってもチャンスがあるし、逆に持ってる奴は常に敵がいる状態になるのか。考えられてるな。
「個性発動アリの残虐ファイト!でも、あくまで騎馬戦!悪質な崩し目的での攻撃等はレッドカード!一発退場とします。それじゃ、これより15分、チーム決めの交渉スタートよ!」
「15分!?」
ちょっと短くない!?まぁどうせ普通科の皆と組むから別に良いけどさ。 しかしちょうど8人…4、4で分けられる。問題はどう組むかなんだが…
「おーい障助ー!」
「おぉ木津。予選突破お疲れさん。」
「お前もな!」
騎馬の組み合わせを考えていると、木津がこちらに向かって駆けてくる。他の皆も一緒だ。
「もちろんあたし達で組むんだろ?」
「あぁそのつもりだが…」
「?どうした?まさかヒーロー科の奴らと組むのか…?」
木津さん?目が笑ってないよ?
「いや、ヒーロー科にそんな知り合い居ないし、居たとしても一位の奴だから組めない。」
「じゃあどうしたんだよ?組み合わせの事で考えてんのか?そんなもんパパッとお前が決まれば良いじゃん。お前に限って思いつかないなんて事は無いだろ?」
「いやそうなんだが…」
思いついてはいる。いるんだが…この組み合わせだと完全に俺、心操、不和、木津がメインになっちまう。つまり他の四人は…
「俺たちのことで何か思う事があるなら全然気にしなくていいぞ。」
そんな俺の考えを見抜いたのか、四人が断りを入れてくる。
「けど…」
「普通科の俺たちがヒーロー科を差し置いて、ここまで来れたんだ。悔いはないさ。」
「それに作戦やらなんやら考えたお前らが勝ち上がらないと締まらないだろ?」
「大体君は優しすぎるんですよ。もっと自分の夢の為に私達を利用して良いんですから」
「お前ら…」
俺の言葉を遮り、尚言葉を重ねてくる。
なんでこいつらこんなに良い人なの?普通に泣いちゃいそうなんだけど。
「じゃあ…」
考えていた組み合わせ、作戦を伝える。
そんな良い人達がヒーロー科に入れる様にする為にも、俺たちが必ず勝たなければならない。
例えそれが、どんなに汚い方法だとしても。
例えそれが、ヒーローらしからぬ行動だとしても。
今だけは心を鬼…いや敵にして、勝ちにいこう。
全てはヒーローになる。その為に。
「15分経ったわ。それじゃあいよいよ始めるわよ。」
話し合いの時間が終わり、各自組んだ人と騎馬を作っていく。
「じゃ、後は作戦通りに。頼んだぞ。」
「あぁ任してくれ。お前らを必ず勝ち上がらせて見せる。」
そう言って、騎馬を作り配置に着く濃家達。
『さぁ上げてけ鬨の声!血を血で洗う雄英の合戦が今!狼煙を上げる!いくぜ!残虐バトルロイヤルカウントダウン!』
プレゼントマイクの声が会場に響き渡る。
さぁ、やるか。
『3…!』
「木津」
「おう!」
正面にいる木津を呼ぶ。元気な声が返ってきた。
『2…!』
「心操」
「あぁ」
右にいる心操に声をかける。気ダルそうな声が返ってきた。
『1…!』
「不和」
「…」
左にいる不和を見る。やっぱり君は平常運転なのね。
「いくぞ!」
『スタート!』
俺たちの戦いが幕を開けた。
開始の合図が鳴った途端、皆一斉に緑谷達の騎馬へ距離を詰めていく。やはり1000万の魅力には誰も抗えないらしい。
そんな中、俺たちはというと…
「オラッ!」
「右に避けて、そのまま距離をキープ!濃家達は逆に相手に詰めてって!」
「了解!」
絶賛逃走中だった。まぁ元の点数が高かったし、今は濃家達のPも追加されてるから800近くまで上がっている。
最初に濃家達のPを貰い、点数を合格圏内までもっていく。その間、身軽になった濃家達を盾に終了時間まで逃げ続ける。
作戦をざっくりいうとこんな感じだ。我ながらセコすぎる作戦だと思う。まぁ後悔はしてないが。
「クッ…!共闘とは卑怯な真似を…!お前、男として恥ずかしくないのか!」
そう言って大きくした掌を振り回してくるポニーテール女。
なんとでも言え。今の俺たちにはこれくらいしか方法がない。
毎日訓練してるお前らとは違うんだ。
「天野!」
「任せてください!」
そう言って俺たちの前に出てくる濃家騎馬。
その中の一人、天野が個性を発動する。彼女の手から白い煙が吹き出て、ポニーテール女の騎馬を包み込んだ。
「な、なにこれ!?」
「慌てないで!唯の煙だ!何も気にすることはない!前進んで!」
そう言って俺たちを追うため、前進しようとするポニーテール女達。だが…
「!?何やってんの!?前に進んでって!」
「ち、違っ!?足が勝手に!」
そのまま後ろに下がっていってしまう彼女達。ザマァみろ。
別に普通科だからって、弱い個性とは限らないんだぜ?
彼女の掌から出てくる白い煙を吸うと30秒間、前に行こうとしたら後ろに、右に行こうとしたら左になど、行動が反対になってしまう!なんか、ゲームのデバフでありそうだな!
「ナイス天野。助かった。」
「お安い御用です!」
お礼を言うと、向日葵のような笑顔を向けてきた。可愛い。結婚しよ。
『七分が経過した!現在のランクを見てみよう!』
そんな天野の笑顔で心が浄化されていると、モニターに現在の順位が映し出される。俺たちは…四位か…。微妙な範囲だ。一応合格圏内には入っているが、勝負は何が起こるかわからない。それこそ、五位や六位あたりが一組でもPを奪ったら簡単に抜かされてしまう。
「しかし…A組パッとしてるの緑谷しかいなくね?」
爆豪の奴、何したんだ?いや…B組の奴らが組んでんのか。
あのアマ…!人の事はズルいって言いながら、自分はしっかりクラスの奴らと組んでんじゃねぇか…!許せねぇ…!
「どうする?俺たちもそろそろ取りに行くか?」
俺がさっきの奴らにヘイトを向けまくっていると、心操がそう提案してくる。確かにそろそろ動いた方が良さそうだが…
「いや、もう少し待とう。木津や不和は未だしも、俺たちの個性がバレると不味い。」
「しかし…」
「そう慌てんな。わざわざ俺たちが動く必要はない。なんの為にこんな汚ねぇ作戦立ててると思ってんだ。」
「汚ねぇって自覚あったんだな…」
当たり前だろ?俺を誰だと思ってんだよ。
「楽しげに話してる所悪いがくるぞ!」
周りを警戒していた木津が警告を飛ばしてくる。前を見ると、個性ダダ被りの内の一人、鉄っぽい奴の騎馬がこっちに向かって来ていた。
「オラァ!拳藤の仇だ!ハチマキ寄越せ!」
そんな事を言いながら硬化した腕を振りかぶってくる。拳藤…さっきの奴らのことか!別に俺あいつのPとった訳でも無いし、仇でもなんでも無いからね?
「天野、煙出せ!」
「了解!」
掌から出された煙が相手を包み込む…が。
「効くかァ!吸い込まなければ問題ねぇ!」
突破して来た。後ろに下がる気配もない。どうやら個性のネタが割れたらしい。あいつチクリやがったな!
「これだからヒーロー科は…!」
一回食らっただけでネタ割ってくるんだから、こっちからしたらたまったもんじゃない。
「濃家!守野!」
「クソッ!」
「止まりやがれ!」
濃家が思いっきり息を吸う。その瞬間、視界がグニャリと歪んだ。呼吸がし辛い。頭が割れるように痛くなってきた。
そんな中、守野が何かを生成し、飛ばしてくる。飛んできたそれは俺たちの前で広がり、透明な壁を展開した。
いくらか呼吸が楽になる。た、助かった…!
思いっきり息を吸うことで周りの酸素濃度を下げることが出来る!吸う時間によって、下がる酸素濃度率は変わるぞ!火事現場には引っ張りだこだ!
彼が体から出す物体は、個性による攻撃や効果などを防ぐことが出来る。大きさや形は彼の思い通りに変更出来るぞ!しかし個性とは全く関係ない攻撃には滅法弱い!気をつけよう!
「な、なんだ、これ…!」
「い、息が!」
よしよし、あいつらの足が止まった。今の内に…っ!?
「危なっ!?」
咄嗟に頭を下げる。先程まで頭があった所を、茨の鞭が通り過ぎた。
見ると、鉄野郎の後ろにいる女が、茨の髪の毛を伸ばし、濃家の口を縛っていた。うわぁ痛そう。
「ムー!ムー!」
「先程の行動を見たところ、息を吸うことがトリガーになっていると考えました。少し苦しいかもしれませんが、我慢してください。」
嘘だろ…?あの一瞬でバレたのか…?
「ほんと…未来のヒーロー様は一々かっこいいなぁ!気楼!」
「濃家を離せ!」
気楼が茨に向かって手を伸ばし、個性を発動する。
濃家を縛っていた健康そうな茨はみるみる内に枯草色へ変わっていき、やがて塵となって崩れ落ちた。
その名の通り、水分を吸収できる!吸った水分は体内で保管、放出することができるぞ!但し、吸えば吸うほどその分体重が増えるので、動き辛くなる!
「いいぞ気楼!そのままそいつを牽制しといてくれ!」
今度こそ逃げようとする…が。
「うぉ!?なんだこれ!?」
「クソ…!動き辛い…!」
突如足場が緩くなった。
足を取られた木津と心操から悲鳴が上がってくる。
次から次へと…うぉ!?
「不和!何とか耐えてくれ!」
「…!」
急に騎馬がバランスを崩し、傾く。左を見ると、不和が片膝をついていた。しかし困ったぞ…。ただでさえ不和は左腕の事があってバランスを取りにくいのに、足場も不安定にされたら…もう立て直すのは難しいかもしれない。
「クソッ、濃家達もやられた!来るぞ!」
心操が声を荒げる。前を見ると、同じ様に足を取られてバランスを崩した濃家騎馬を茨で拘束してるところだった。畜生、どうする。あんだけガッチガチに拘束されたんだ。木楼の個性でも抜けるには時間がかかるだろう。つまり、濃家達のサポートを受けれない。そして俺たちは絶賛バランス崩し中だ。焦って無理に逃げようとしても、騎馬が崩れる心配がある。
そんな今の状況では逃げ切る事なんて出来やしない。
まぁ所謂
「ンノヤロォ!いい加減ハチマキ寄越しやがれ!」
どんどんと鉄野郎の騎馬が近づいて来る。何か、何か方法は…
「障助!」
木津が個性を使えと目配せをしてくる。
…仕方ないか。バレたくないから個性を温存して負けましたってなったら笑い話にもならないからな。
個性を発動するため、鉄野郎と茨女に意識を向ける。
カチリと体の中で何かが噛み合った音がした。よし、掛けれる。
「なぁお前ら…」
「?」
急に話しかけられて怪訝に思ったのか、奴らの足が止まる。
こっちとしては好都合だ。
そのままそいつらに意識を向け続けて、
「綺麗な目、してるよな」
発動した
次回、心操vs緑谷を予定しています。