空振り三振   作:T-

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なんか気づいたら、お気に入り数と評価バーがエグいことに…!こりゃ下手な事書けないぞ…!
今回はみんな大好き、爆発三太郎こと爆豪君が出てきます。俺の知ってる爆豪きゅんはこんなんじゃねぇ!と思うところもあると思いますが、暖かい目で見守ってくれるとありがたいです。
では、どうぞ。


八話

「あぁ疲れた〜」

 

不和の勝利と安全を祈っていると、入れ替わりで木津が観客席に戻ってきた。余程疲れているらしく、顔には疲労が浮かんでいる。チャームポイントであるツリ目も、心なしか垂れているように見えた。無理もない。こいつの個性は強力だけど、かなり体力も使うし、神経も使う。寧ろあれだけ派手に個性を使っておいてここまで普通に戻って来れる力があるとか、そろそろこいつに対する認識を改めた方が良いかもしれない。

 

「お疲れさん。しかしお前凄かったな。骨折れるまで相手の攻撃受け続けるとか、男より男らしいよ。もしかしてマゾh」

 

瞬間、俺の顔の横を木津の腕が通り過ぎる。

 

「なんかいった?」

 

「な、何でもありません」

 

え?初動が速過ぎて見えなかったんだが。こんなパンチを打てるんだったら試合で使えよ。てか怖っ!まだ心臓がバクバク言ってんだけど!尿意があったら大変な事になってた。さっきトイレ行っといて本当によかった…。

 

「ったく、煽る相手はちゃんと選べよな。いい加減学習しろよ。あぁ今ので余計に疲れたぜ。易辺、頼めるか?」

 

「う、うん。じゃ、こっち来て」

 

一連の流れを見て顔を青ざめさせた易辺が木津の肩に手を乗せ、個性を発動する。途端、易辺の手から淡い緑色の光が溢れ出す。その光に包まれた木津は見る見るうちに顔色を良くした。

 

易辺 柊(やすべ ひいらぎ) 個性『疲労回復』

彼の掌から出る光は、疲れを癒す効果がある!但し、怪我は治らないので、勘違いしないようにしよう!

 

「あぁ〜効く効く〜。毎度毎度悪りぃな。」

 

「いや大丈夫だよ。僕の個性が皆の役に立っていると思うと嬉しいからさ。」

 

「役に立つも何も大助かりさ!お前がいなきゃ、訓練して体力とか増やしてるヒーロー科に追いつけないからな!」

 

「そ、そうかな。」

 

まぁ実際彼の個性は俺たち普通科が行動する時の要でもある。彼がいなければ、木津も最初からフルスロットルで個性発動出来なかっただろうし、予選でも無茶な事は出来なかった。

普通科割とヒーラー系の個性持ち結構いるんだよな。

体温がおかしくなれば体川に調整して貰えば良いし、安全に患者を運びたければ、安藤を頼れば良い。もしそれが個性による症状ならば、守野の個性を発動すれば良いし、大きな怪我をしたならば、木津に怪我を良くして貰える。万が一リカバリーガールを頼って体力がごっそり持ってかれても、易辺の個性がある限り、万全の体制で競技に臨める。

あれ?結構最強じゃね?他にも病気に効く個性持ちとかいるし、リカバリーガールに売り込めばそっち方面でヒーローになれるかもしれない。もし今回駄目になってしまったら、こいつらだけでも何とかならないか先生に打診してみようか。

 

『さぁ次で一回戦最後の組だな…』

 

そんな事を考えていると、プレゼントマイクの声が聞こえてくる。そろそろ不和の試合が始まるのか。

 

「うわぁ〜緊張してきた〜!」

 

「いやなんでお前が緊張してんだよ。気持ちは分からなくもないが…」

 

「だって相手はあの爆豪だぜ?心操は心配じゃないのかよ。」

 

「そりゃ心配だけどさ…あれお前、前に不和の個性なら爆豪完封出来るとか言ってなかったっけ?」

 

「いや、言ったよ。言ったけども…」

 

障害物競走と騎馬戦の時、チラッとあいつの行動を見たが、あれはセンスの塊だ。それに加えて派手で強力な個性を持っているときた。悔しいが、選手宣誓の時に大口叩くだけはある。

そんな所を見てしまえば、誰だって考えを改めるだろう。

ただ確かに不和の個性は爆豪に対して有利ではある。後は個性が上手くかかる事を祈るだけなんだが…あ、そうだ。

 

「守野、今個性発動出来るか?出来るなら俺たちの前に壁型の奴を貼って欲しい。」

 

「ん?あぁ別に大丈夫だが…何でだ?」

 

「直に分かる。香川、皆に個性を掛けといてくれ。うんと強く頼む。」

 

「え、私?皆に掛けるの?不和ちゃんにじゃなくて?」

 

「あぁ不和じゃなくて皆にだ。頼んだぞ」

 

「は、はぁ?まぁ貴方の事だから何かあるんでしょうけど…」

 

そう言って、守野は俺たちの前に個性を防ぐ壁を作り、香川は肩甲骨辺りにある排気口のような突起から良い匂いのする風を送り出す。その匂いは何処か懐かしい感じがして、忽ち皆の心を落ち着かせた。

 

香川 あろは(かがわ あろは) 個性『アロマセラピー』

彼女の肩甲骨にある突起から出る風は、嗅いだ者の心を落ち着かせる効果がある!人によって落ち着く匂いはバラバラだが、彼女の風はその人に応じた匂いになる為、心配は無用だ!

 

「うんと強く掛けたけど、大丈夫?このままだと皆寝ちゃうんじゃない?」

 

確かに、幾人かは既にコックリコックリと船を漕ぎ始めているが…

 

「いやこれくらいで大丈夫だ。寧ろ今回は寝てくれた方が良いかもしれない。」

 

「はぁ?貴方何を言ってーー」

 

『さぁ8回戦目やっていくぞ!中学生の時からちょっとした有名人!堅気の顔じゃねぇ!ヒーロー科 爆豪 勝己!vs俺こっち応援したい!綺麗な顔におっきな左腕!喋ってる所見たことないけど大丈夫?普通科 不和 愉花!』

 

香川の言葉を遮るように、入場を報せる声が響いてくる。見ると、不和と爆豪が向かい合って開始の合図を待っていた。

 

「お前、騎馬戦の時ニ位の奴の所にいたな。退くなら今退けよ。この先は痛いじゃ済まされねぇぞ。」

 

爆豪が不和に降参するように呼びかける。馬鹿にしている訳では無い。彼なりの優しさなのだろう。相変わらず態度はデカイが、相手の事を気遣っての言葉だった。

『レディー…』

 

「……」

 

「おいテメェ聞いてんのか!」

 

そんな呼び掛けに対し、不和は答えないどころか表情一つ変えない。左腕をゆっくりとあげ、顔の前に持っていく、彼女特有の構えを見せただけだ。

それだけで戦闘の意思有りと判断できるが、彼の事だ。反応を示さない不和に対し、苛立ちを覚えているのだろう。

 

「……」

 

「…ッ!馬鹿にしてんのか…?なんか言えやこのデカ腕野郎!」

 

『スタート!』

 

そんな呼び掛け虚しく、開始の合図が下される。

チッと舌打ちをした爆豪は、このまま会話を試みても無駄だと判断し、動きやすいように構えを取り、

 

 

 

「一々怒鳴らないでくれ、全て聞こえているよ。あと私は女だ、野郎ではない。訂正したまえ。」

 

 

鈴の様に凛とした声が会場内に響き渡る。

それは聞いた者が惚れ惚れする様な美しい声色で、ヒーローよりも歌手や声優などに向いているんじゃないかと思わせてしまう程の魅力を秘めていた。

しかし、そう思えるのも今の内だけ。

 

 

 

 

 

 

同時に心臓を圧迫されている様な不快感が身体を駆け巡った。

 

不和 愉花(ふわ ゆか) 個性『負の感情』

彼女の声には負の感情を引き出す特殊な音波が含まれている!どの様な感情を掛けるかは本人のイメージに依存するが、一番掛けやすい感情は不快感だ!相手が負の感情を抱いていればいるほど、効果は長く、強く掛かってしまうぞ!

 

「うぉ…!なんだこれ…!」

「なんか気持ち悪い…」

 

不和の声を聞いてしまったクラスの数人が、体調不良を訴えてる。守野の防御があり、香川の個性をもってしても完全に防ぐことが出来ない。モロ聞いてしまっている爆豪や、闘技場近くの人達は大変な事になっているだろう。

 

「相変わらず結構くるものがあるな…」

 

「そうか?あたしはもう慣れたぜ。」

 

「強くない?いや余り掛からないって事は心に何も抱えてないって事だから別に良いんだけどさ。」

 

相変わらず木津さんは化け物じみた能力を発揮するよね。

しつこい様だけど、お前本当に女?

しかしそう考えると今体調不良になっている人は何かしら良くない感情を抱えてるって訳か。リカバリーガールってメンタルケアも出来るっけ?まぁ出来ると思うが、もしダメだったらクラス総出で相談会でも開くかな。

 

「それはさておき…音山、不和の声が聞こえ難い様に出来るか?」

 

「あぁ…任せてくれ…」

 

不和の個性に掛かり、暗い雰囲気を纏った音山が思いっきり手を叩く。パンッと小気味好い音が鳴ったと思えば、不和の声が聞こえづらくなった。

 

音山 量斗(おとやま りょうと) 個性『音量』

音量を変える事が出来る!手を叩く事が発動のトリガーだ!

 

「よしよし、これで少しは効果も和らぐだろう。」

 

代わりに不和達の会話が聞こえづらくなったが、背に腹はかえられない。あのまま聞き続けてクラスの皆が行動不能ってなってしまったら目も当てられないからな。特に易辺と香川にはもう少し頑張って欲しいし。

 

「ーーーーー」

 

「ーーーーー!」

 

試合に目を戻すと、不和が何かを言いながら、爆豪に近づいてってるところだった。爆豪は蹲り、喚き散らしている様だがやはりどちらの声も聞こえて来ない。

 

「爆豪の奴は色々闇抱えてそうだからなぁ。掛かり具合も凄いことになってそう。お、いった。」

 

話はついたのか、不和が重い左腕を打ち出せる様、ゆっくりと引き始める。あいつの一撃は見た目通り遅いが高威力だ。1発でもモロに食らえば、即戦闘不能なんて事はザラにある。そんな危機が迫っているのに、爆豪は一歩も動かない。

ーーいや、動けない。

よっぽど心に溜めていたものが大きいのだろう。不和の個性がねっとりと、まるで蜘蛛の巣にかかった蝶の如くあいつを絡め取り、離さない。

これは…ちょっと気の毒だ。不和とは長い付き合いだから、個性の事はある程度把握している。あいつの個性は解除方法がない。俺や心操の様に、意図的に個性が掛からない様にする、という事が出来ないのだ。まぁそれで昔一悶着あったんだが…詰まる所、自然治癒しかあいつの個性の効果を失くす方法が無い。あいつ大丈夫か?もしかしたらこれがトラウマになり、このまま立ち上がれなくなるかも知れない。

本気でメンタルケアの事を考えとくかな。

 

「ーーーーー!」

 

そんな俺の考えを尻目に、力を充分に溜め込んだ不和がその凶腕を解き放ち、容赦なく爆豪に叩きつける。

ドパンッ!という空気が破裂する様な音が、音山の個性を持ってしても俺たちの所まで響いてきて

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「一々怒鳴らないでくれ、全て聞こえているよ。あと私は女だ、野郎ではない。訂正したまえ。」

 

「は?」

 

いつでも動けるように構えていると、さっきから一向に喋らなかった目の前のデカ腕野郎が、急に口を開く。なんだ喋れんじゃねぇか!てことはさっきまで俺の事無視してたのかよ!

 

「テメェ、舐めてんのか…?シカトかますとかいい度胸…!?」

 

突っかかろうとした途端、心臓を圧迫されている様な不快感が身体を駆け巡る。

視界が暗く、褪せて見える。底なし沼に囚われているのではないかと錯覚する程、体が重い。心をぐちゃぐちゃにかき混ぜられ、思考が定まらない。呼吸が苦しくなる。

なんだ。なんなのだこれは。

 

「うわぁ、君かなり掛かりが良いね。相当心に何か溜め込んでないと最初からここまで症状出ないよ?ハッキリ言ってドン引きだ。」

 

「だま…れ!殺…すぞ…!」

 

こいつが喋る度に、苦しさが、苛立ちが、不安が、恐怖が、不快感が、怨嗟が、嫉妬が、憎悪が、破壊衝動が、あらとあらゆる負の感情が溢れ出てくる。最早気を保つのが精一杯だ。立っていることさえままならない。割れる様に痛い頭を抱えて膝をついてしまう。

 

「喋れと言ったり黙れと言ったり、コロコロと意見が変わる奴だなぁ。口も悪いし、君本当にヒーロー志望かい?」

 

「……ッ!」

 

そんな俺に追い打ちをかけるが如く、デカ腕野郎が近づいてくる。その声が大きくなるにつれ、感情の流出に拍車がかかった。

 

「口もきけなくなったのか。全く、この程度でこんなになるとは情け無い。ヒーロー目指す為に戦闘力を磨くよりも、まず自分の感情をコントロール出来るようにしなよ。まぁ私が言うのもなんだけどね。」

 

そう言って蹲っている俺に目線を合わせてくる。手を伸ばせば届く、それ程までに近い。いつもなら遠慮せずに即横っ面に爆破を叩き込んでいるが、今はピクリとも体が動いてくれない。

まるで、蛇に睨まれた蛙のように、ピクリとも。

 

「あーあー濁ってるねぇ。目が濁ってる。どれどれ、今君が抱いている感情は…私に対する怒りや不快感が大半を占めているのか…おや?意外だな。君、今怖いと思っているのかい?それに随分と焦っているようだ。それもこの危機的状況に対してのものでは無い。これは…そうだな…自分の成長具合を他者と比べ、劣っていた時に感じる焦燥感かな?どうしたんだい?そんな気にすること無いじゃないか。安心しなよ、君より上の人なんてそこら中にいるんだから。」

 

ここまでコケにされたのは初めてだ。俺が恐怖を、焦りを感じているだって?そんな馬鹿な事があるわけない。

こんなになっているのは、テメェの個性の所為だろうが…!

 

「あ、因みに私の個性は確かに負の感情を意図的に操作して植え付けるものだけど、そこまで万能って訳でも無くてね。その人が心の底に溜めている感情にどうしても引っ張られ易くなってしまうんだよ。やはり本物の感情に偽物(ハリボテ)を押し付けても敵わないって事だね。」

 

「何、が…」

 

「何が言いたいかって?それくらいは分かりなよ。君も薄々気がついているんだろ?

 

ーーーつまり君のその感情は本物なんだよ。

 

君は本気で何かに焦り、誰かに恐怖している。私はこんな個性だから他人のそういう感情はよく分かるんだ。外れているなんて事はあり得ない。」

 

そんな俺の心を読んだかの様に、つらつらと言葉を並べられていく。ガンと頭を殴られたかの様な衝撃が、俺の身体を包み込んだ。

 

「大方…障害物競走で一位の奴かな?それとも騎馬戦の氷使い?……両方か。特に…あの緑谷って言う子に対しての感情が強いね。風の噂で幼馴染って聞いたけど、これを見る限りあまり仲が良いって訳じゃ無さそうだ。そこんところどうなんだい?」

 

「…!デクは関係…ねぇだろうがァ…!」

 

緑谷という単語が耳朶を打った瞬間、頭が沸騰したかの様に熱くなる。体の奥底で、抑えていた感情が爆発した。

怖がっていると思われているだけでも屈辱なのに、寄りにも寄ってクソナードに対してと言われるとは…!本気でこいつぶっ潰す!俺が、この俺がクソナードに…そんな事があるはずがない!

あるはずが…

 

「おーおー声を荒げちゃって、一気に感情が跳ね上がったね、図星かい?そういうのは隠しておいた方が良いよ。今の時代、何が弱点になるか分からないしね。しかしそうか〜あの子か〜…。とても冴えている様には見えないけどなぁ。確かに個性は目を見張るものがあるけど、ハッキリ言ってそれだけじゃない?心操の試合の時は驚いたけど、あんなのは唯のラッキーパンチだ。しかも制御出来ていないときた。そんな奴がヒーロー科に入ったとなったら、正直此方からしたら良い気分ではないよね。まぁ…君よりはヒーローぽいけど。」

 

「ッ!」

 

視界が赤く染まる。怒りと悔しさを抑える為に、奥歯を強く噛み締めた。ガリッと音がなり、口内に鉄の味が広がる。どうやら噛み砕いてしまったらしい。

 

「冴えない幼馴染を持ち、その差に優越感を感じる。周りも君を手放しに褒めちぎったんじゃないかい?そこに追い打ちをかける様にヒーロー向けの強個性が発現。ま、齢四歳がそんな事になったら自分が一番と勘違いして舞い上がってしまっても無理はない。そのまま長い年月、格下と過ごしながら優越感を感じ続け満足する日々を送ったんだろ?それで、ここに入った時にいざ広く周りを見渡せばあら不思議。正に井の中の蛙状態だ。自分が大海に属していると勘違いしている、哀れな蛙だよ。君にぴったりな言葉じゃないか。昔の人は良く言ったものだね。井戸の中はさぞ気持ちよかったんじゃない?周りが全員自分より凄く無くて、簡単な事でも褒めてくれるんだからさ。まぁ残念な事に、同じ井戸出身の、しかもそこら辺にいる石っころだと思っていた奴に追い抜かされそうになっているけどね。心操の言葉を借りるなら…一番一番煩い癖に、格下に翻弄される今の君の姿は滑稽過ぎて逆に笑えないな。」

 

「……」

 

「君が今まで周りに言い続けたであろう言葉を、敢えて君に送るよ。

 

 

 

 

『君はヒーローになれはしない』。

 

ここまで見下す様な言動をしてきたんだ。当然の報いだと思い給え。」

 

「……ッ」

 

何も、言い返せない。認めては駄目だと分かっているのに、抗わないといけないと分かっているのに、思考に反して体が動かない。いや、本当はそんな事も思っていないかもしれない。憤怒、諦観、焦燥、安堵、様々な感情が混ざり合い、錆の様に身体を蝕む。自分で自分が分からない。頭がチグハグだ。心が深く昏い思考の海に沈んで行く。あぁ苦しい。あぁ辛い。この衝動に身を投げ出したら、どれだけ楽だろうか。そんな誘惑に、一歩、また一歩と足が進んでしまう。

 

「………そろそろか。悪いね。少し言い過ぎた。しかし私もこれくらいしか勝てる方法がないんだ。まぁ今の君には聴こえていないだろうが。」

 

そう言って、大きな左腕を構えてくる。今の状況も合わさって、それは重機の様に凶悪で禍々しく見えた。

 

「生憎、先の試合を見てしまった後だからね。手加減はしない」

 

一発。その一発に力の全てを込めるのだろう。足を踏みしめ、腰を入れ、腕を目一杯引き始める。

まるで断頭台の上に掛けられ、引かれるギロチンを見ている気分だ。勿論、処刑人は俺で、執行人は彼女。

 

「こんな個性でも夢は見てしまうのさ。さ、負けてくれ!」

 

瞬間、ギリギリまで引き絞られた凶腕が解き放たれ、俺を刈り取るギロチンへと変貌する。眼前に迫る拳、避けなければならない。分かっているが…身体が、心が避けなければ楽になると囁いてくる。そんな、悪魔の囁きが俺を二度と抜けられないであろう泥沼に引きずり入れようとして

 

 

 

 

『かっちゃん、大丈夫?頭を打っていたら大変だよ?』

 

 

 

 

そんな呪詛とも呼べるクソナードの言葉が、脳内に流れてきた。途端、頭にかかっていた靄の様なものが晴れる。先程と違い思考が動けと危険信号を発してきた。血液を熱湯に変えられたのではないかと錯覚する程、身体中が熱い。その熱が、身体中に巻き付いていた蜘蛛の糸を焼き切った。

腕を振り上げる。ドパンッ!という音がなり、身体が吹っ飛ばされた。腕を中心に激痛が走る。きっと左腕の骨が逝ってしまっただろう。それ程の高威力だった。

 

 

だがお陰でもう、動けるようになった。

 

 

 

「なっ!?そ、そんな、君、まだ動けたのか!?」

 

腕を打ち出した格好で彼女の顔が驚愕に染まり、悲鳴をあげる。それが耳に入ってきて、また不快感が込み上げてくるが

ーーーー先程までではない。

 

「ふぅーあぶねぇな。危うく俺が夢を捨てる所だった。さっきまで良くもボロクソ言ってくれたな、オイ。だがもう慣れたし、解決策も見出せた。同じ手は食わないぜ。」

 

「クッ…!何が原因で解けたか知らないが、もう慣れた?解決策?ハッ!随分と分かりやすいハッタリをかますじゃないか!それに話を聞いていたか?私の個性には解除方法なんてない!

闇を抱えていない人間などいない!私の声を聞き続ける限り、昏い感情を持つ限り、必ず私の個性に掛かり続けるんだ!まさか君、耳を塞ぎ続けながら戦うつもりかい?それは面白い、是非やって見せてくれよ!」

 

俺の言葉に対し、声を荒げてくる彼女。その顔には焦燥が浮かんでいた。何だ、顔色が変わらねえ奴だと思ったら、意外と表情豊かじゃねぇか。

そんな場違いな事を考えながら、両手を耳に持っていく。まさか本当にやると思わなかったのだろう。嘲笑と呆れを携えた目で俺を見てきた。

 

「はっはっは!まさか本当にやるとは思わなかった!君、相当バカーーーは?」

 

個性を発揮する。爆発音が耳の直ぐ側で響き、俺の鼓膜を襲った。キーンという音が鳴ったと思えば、歓声が、実況が、彼女の声が、あらとあらゆる音が世界から消え失せる。

 

「ーーーー!?ーーーー!!」

 

俺の一連の行動を見て、奴が何かを喚き立てるが全く聞こえない。血は出ていないから鼓膜は破れていないだろう。直に聴こえてきてしまう。だから、それまでにーーー殺る。

 

「ご自慢の個性も聞こえなくちゃ意味ないって自分で言ってたもんな。ったく、手こずらせやがって…。しかし…不和と言ったか?いいぜ、こっからが本番だ。さっきは情けねぇ姿を見せちまったが、今度はちゃんとぶっ殺してやるからよ!」

 

「ーーーー!」

 

そう言って不和に接近して右の大振りを繰り出す。奴も、巨大な左腕を打ち出してきた。

刹那、互いの腕がぶつかり合い、交差する。

 

さぁ第二ラウンド開始だ。

 

 




誤字や文法間違い、単語の意味違くね?という所がありましたら、作者にそっと教えてくれるとありがたいです。
強い言葉で言われてしまうと、作者が新たな扉を開いてしまう可能性がございます。
お手数をおかけしますが、何卒よろしくお願い致します。

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