1972年の秋。
今年もまた、この日がやって来た。
「なによう、あんた達。去年は少ししか来なかったのに今年は何度も来るのね」
ピーブズにからかわれていたマートルがうじうじと水場から顔を覗かせる。セブルスはこの夏で手に入れた伯父さんお下がりの魔法薬作り用の器具を手に入れてホクホク状態。
3階トイレで器具を広げたセブルスはニコニコ笑顔で薬草の洗浄作業に入った。
「別にいいでしょ、マートル。色んな所使ってみてここが1番使いやすいって分かったんだから。まぁ、魔法薬学準備室の次にだけど」
羊皮紙に書き込みながらマートルと話をする。卑屈で捻くれ者。少し道を変えていたらセブルスの未来はこんな感じだったのかもしれない。
「ねーぇー、今年は何やるの! 去年は1年だから優しいのにしたけどド派手いいよね!」
ピーブズがクルクル飛び回りながらセブルスの集中力を乱そうとする。
「今年はそうだなぁ、先生方の協力もあるから怪我しない程度の物で……──派手にやってみよっか」
「そう来なくっちゃ」
ニヤリと笑ったセブルスの言葉にピタリと止まったピーブズは、心底嬉しそうに笑った。
天使が笑ってる、喋ってる。しんどい、辛い、可愛すぎて苦しい。もう世界はセブルス・スネイプを祭り上げてもいいと思う。この可愛さは世界を救える。私の英雄。
いや、でも私だけとか勿体なさすぎるからやっぱり世界に広めるべきだと思う。
……でも大人数に知られたらセブルスは人気になって私達に構ってくれなくなって。
いや、セブルスを思うなら!
「幸せになってね!」
「また脳みそバグったか」
無駄に問答を口に出さず結論を伝えているのにこの親切が伝わらないという不親切仕様の言語壁。
ガチャガチャと準備を整えていたセブルスはピーブズに向き直った。
「さて、今ある薬品や器具はコレくらいだ。ピーブズ、お前の長年の経験を生かさせてもらいたい」
「OKOK、去年で大体キミらの行動可能範囲って言うの理解したからピーブズ考えちゃうよ」
「もちろん僕も考えるけど……──そうだピーブズ、去年なんでポッター達にバレたんだと思う?」
「んーーーっ、さてねぇ」
セブルスがヘニョりと眉を下げて首を傾げる。
可愛い。この空間に可愛いが溢れてる。
胸が苦しいよその表情はずるいよォ! セブルスは世界で最も卑怯で最強の精神攻撃を仕掛けると得意だねェ! 被害に遭うのはいっつも私! ついでにルシウス・マルフォイという同志……。あの人セブルスと一緒の寮なんて羨ましすぎる。
スリザリンと言えば今年度からシリウスの弟であるレギュラスが入ってきた。可愛いんだよ、あの子。うへうへ、私より年下! 可愛いね! シリウスに似なくて良かったね〜! ってヨスヨスしたらスヤァしてた。
……私の手には眠りの作用があるのかも? と今年いっぱいで卒業する同志ルシーに言えば、全肯定botになった。私に構うのがめんどくさかったらしい。
軽くショックを受けているとルシーは笑顔で黙っていれば100点ですよ、って言って褒めてくれたのでルンルン気分でシリウスに報告したら、アイツ「ヨカッタナ」ってまるで機械のような表情で言った。
何か腹立ったから月一のコワルスキークッキングはシリウスだけお預けという扱いで終わらせたけど、あまりにも理不尽だ!って叫んでるのこの前見たなぁ。つまりは今月、つまり9月のお菓子作りもシリウス抜きでやる。うっへっへっ、リリーに食べて貰ってその血肉を作り出したいなー! ん? 待てよ。
「セブルスは、私が作った……?」
「僕は作られた覚えも育てられた覚えもないぞ」
こちらを見向きもしないでセブルスが訂正を加える。いやいや、血肉を作る栄養分は私が作ったんだから私がセブルスを作っ──えっ、ヤバい、私こんなに罪深くていいの?
はぁ、可愛い成分の摂取過多で息が苦しい。
それにしても今学期始まってから変わりなかったのに今日はすごくおかしな気分だ。うーん。
「……セーブルース。ちょっと気になった事言っていい?我ながら頭おかしいと思うんだけど」
ピタリと止まりこちらを向くセブルス。顔は驚愕の色に染まっていた。
「コワルスキー自ら頭がおかしいと思いながらも発言する、だって? ちょっと待ってくれ、覚悟を決める」
スーハースーハーと呼吸を整えだした姿をこれぞ私の天使と眺めながら待つ。どうぞ、と言いたげな視線を受けたので私は口を開かせてもらった。
「この空間、可愛い成分が強過ぎる。絶対セブルスの可愛いを3倍くらいにした感じ。私の可愛いものセンサーが訴えてきてる」
「……何を、言っているのか、サッパリ分からない」
可愛い天使が理解の範疇を越えた顔をしていた。
私の言葉を聞いてピーブズはギャハギャハと笑いだす。とりあえずキミは私に自分の体を埋め込むのやめてください。
私のお腹から顔を出したピーブズはぐるりと上を向いて私と目を合わせた。
「ピーブズさァ!お気に入りアンタに決めた!」
「ありがとう。えーっと、可愛いの気配が強いのは……──」
「お前相当頭おかしい発言してるの分かってるか?」
「とっても」
まだ笑い続けるピーブズが空中でゴロゴロと転がる。私は女子トイレを見渡して、何も無い空間をじっと見た。
「猫か」
セブルスが猫って言う姿可愛過ぎないか???
何も無いところをじっと眉寄せて見てる猫っているよね、あれなんでなんだろう。幽霊でも居るのかな。可愛い幽霊。
あの現象に名前を付けたい。
「あれはフェレンゲルシュターゲン現象と言うぞ」
「初めて知った」
「だろうな、20年前にドイツの物理学者が発表した研究結果だからな」
「フェレンゲルさん?」
「いや、フェレンゲルは愛猫の名前だ。シュターゲンが学者名」
「へぇー!賢いねぇセブルス!可愛い!」
「…………コワルスキーって馬鹿なんだなぁ」
しみじみと言われた。
そんな改めて言われても認めるしかないよね!
可愛すぎて悶えた。
間違いなくセブルスは私を殺せる。
……は!
「ここだァッ!」
何かの気配を感じ取って私は空中を掴む。すると手にはサラリとした水の様な手触り。
これは、キメ細やかな布……?
思いっきり姿の見えない布を引っ張る。
ある程度の反発、まるで布団に丸まった人間が布団を外すなと抵抗するような感覚に眉を顰めた途端、その場にはとある4人の姿が現れた。
「ジェームズの馬鹿! 何がバレないだよ!」
「だって去年シリウスと一緒だった時は全く気付いて無かったんだよ!?」
「俺達の常識をついに超越しやがったなコワルスキー!」
「ここまで来ると逆にすごい」
天パを揺さぶる姿と感心したように見てくる姿を見て私は思わず呟いた。
「可愛い子居た」
「──正直気味が悪い」
セブルスの辛辣な言葉はご褒美にしかならないのである。参った。
==========
「Mr.ジェームズ・ポッター」
「はい……」
「この透明マントで去年覗いてたね?」
ピーブスのポルターガイスト現象に捕まったジェームズはしらーっと目を背けた。
「……Mr.シリウス・ブラック」
「全てはジェームズが悪い」
仲間のあっさりとした裏切りにジェームズは百味ビーンズを丸呑みしたような顔をした。
「ジェームズはよからぬ事を企まないと生きていけないの?」
「ふぅー、流石ミリー! そのワード気に入ったよ! 我、よからぬ事を企む者なり!」
「開き直るなァ! もういいよ! こうなったら私はマクゴナガル先生の所に駆け込んでジェームズ・ポッターとシリウス・ブラックが女子トイレに入ってきましたって涙ながらに報告するから!」
「やめて! ただでさえエバンズの評価が『うふふ、ダメな子ね』みたいな感じで僕は新たな扉を開きかけてるのに!」
「ようこそ!!!」
「……へこたれてないな」
「ジェームズってエミリーの同類だよねぇ」
「でもミリーは節操なしだよ?」
「どの道、両方頭はイカれてる」
シリウスのドン引きした顔は心底どうでもいいが、背の低いピーターとセブルスの2人を覆い被さる様に肩を組んで体重をかけたリーマスのおかげで過呼吸おこしてしまいそう。尊い。この光景が尊い。
天使が意識せずに仲良くしてる姿を見るこの瞬間、世界が輝く。ジェームズのことなんてどうでも良くなってきた。ありがとう世界、ありがとう宇宙。
「ねェジェームズ。事前に種を知っている悪戯ほどつまらないものは無いんじゃない?」
「でもさ! 悪戯されておきながら余裕、または無傷の方が絶対カッコイイよね!?」
「予めネタ知ってる方がかっこわっっっるい!」
「そんな心から言わなくても!」
個人の感情でどうでも良くてもセブルスの思惑─ジェームズとシリウスに日頃の仕返し─を守るためには断固譲ってはならない。
あとホグワーツ生活の生き甲斐が失われてはならないから!!
「もういいよコワルスキー」
セブルスが可愛くため息を吐きながらジェームズを見た。当のジェームズは分かりやすく肩を揺らすと小さく唸った。
「な、なんだよスネイプ……」
「僕はガッカリだポッター」
「えっ」
セブルスはわざとらしく肩を竦めているのに、ジェームズは親に怒られた子供のように表情を歪める。
うっわめちゃくちゃ可愛い。
実はセブルスってSっ気入ってるよね。そしてセブルスは元よりだけど、実はジェームズもセブルスに苦手意識あるよね。
「そんなに卑怯者だっただなんて、ガッカリだ」
「う……!」
「傲慢で目立ちたがり、だが差別を全くしない騎士としての精神が備わった真のグリフィンドール生だと思っていたのに……!」
演技がかった落胆の言葉の数々にジェームズはじわじわと顔を赤くしていく。
あ、これ泣くな。瞬時に悟った。
「あァ、最低だ卑怯者!」
「そっ、そんなァ!」
ハシバミ色の瞳に水が貼っていく様子を確認すると、セブルスはジェームズに背を向けた。
その表情はおかしくてたまらないとばかりに笑いを堪えている。
しかし残念ながらセブルス・スネイプ、実は笑い上戸なので笑いを我慢するなど無理な話。蹲って笑い声を誤魔化す方法に入った。
────可愛い。
「どうしようシリウス」
「あーはいはい、カワイイナ」
シリウスカット入りました。
「えっ、泣いてるの、ごめん、ごめんねスネイプ。お願いだからガッカリしないで、もうしないから、ごめんってば!卑怯な事もうしないから!」
声に出さずに笑っているセブルスの周囲をグルグルと回りながら半泣き状態でジェームズが必死に言葉を紡ぐ。
流石に私も耐えきれなくなったので思わず吹くと、それにつられて傍観側の天使が笑い始める。
シリウスは己の相棒を不憫に思ってか、引き攣り笑いしか出来ないようだった。
セブルスって大分強くなったなぁ。
※女子トイレである
2年生突入しました。去年のハロウィンでネタバレしてたのは透明マントで双子がこっそり見てたからですね。仲良し親世代楽しいなぁ!
リリーがこの場に居ないのは少し残念だけど仕方ない。