─矛盾─   作:恋音

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4-13.大人の世界

 

 コワルスキーと再び出会うことができるという、夢でももっと現実的な夢を見るだろうという状況で俺は新しい人生がスタートした。

 

 アズカバンには居ないし、コワルスキーは死んでない。

 寝ても覚めても夢を見ているみたいで、俺は浮ついていた。

 

 

「……そんなに会いに行きたいなら会いに行きますか?」

 

 世間一般で言う夏休み、レギュラスの提案で気もそぞろな俺はアメリカまで行くことになった。

 

 

 コワルスキーの言っていたブラック家の血が云々という妄言を真に受けて向かえば、ガチでブラック家。

 祖父の兄弟、大叔父がマリウスさん。名前だけはよく聞いていたが、イオ嬢も、よくよく考えればブラック家らしい名前だ。

 

「親父に言うべきか?」

「まぁ、言った方がいいでしょう。父上もコワルスキーのことはそれなりに気に入っていますし」

 

 コワルスキーがいない隙にレギュラスと二人で話し合った。

 

 静かな会話だったが、どこか張り詰めていた。

 

「第一、コワルスキーは転生を隠すつもりがありません」

「……危ないな」

「危惧している点は同じです。父上も、……今はいない母上も、きっと同じ結論に至るでしょう」

 

「……なら、ブラック家の誰かが後見人として背後につく。そうすれば、あいつの防波堤になる」

「父上が適任ですね。あの人の影響力は、底が知れません」

 

 だが同時に、ふたりで顔を見合わせてため息を吐いた。

 

「「……コワルスキーが知れば調子に乗る」」

 

 俺たちは笑いもせず、同じ言葉を吐いていた。

 

「イオ嬢とリアムさんにこっそり許可とる形で、本人には知らせない方向で行こう」

「えぇ、それがいいです」

 

 結論付けて親父に許可を取ったあと、コワルスキーの現在の両親とマリウスさんに提案にしいった。渋る両親に対し、危険性を一番わかっているマリウスさんが後押しする形になった。

 

「何故、スクイブでブラック家の血脈から抹消された貴方がブラック家の決定の後押しをしてくれるのでしょうか?」

「……。よく聞けシリウス・ブラック。お前はブラック家の意味を履き違えている」

 

 マリウスさんは、俺を見据えて言った。

 その目は、長年封じてきたものをようやく口にする者のそれだった。

 

「わしは父、シグナス・ブラック二世に絶縁された。しかしな──よく考えてみろ。あの家系図のタペストリーに『マリウス・ブラック』という存在はない」

「え、えぇ」

「あのタペストリーはただの飾りではなく、もっと複雑に混ざりあっている。一族の守りの魔道具──逆に言えば、呪いにもなりうる。一族を呪う闇の力を、お前らなら防げるが……スクイブのわしには防ぐ手段はない」

「……!」

「それに加え、お前らが幼少期に経験した『悪意』を、スクイブのわしがどうにか出来るか?」

 

 確かに、俺たちは幼い頃から魔法の世界に囲まれていた。

 そこでは悪意すらも、呪文や薬として形を持って襲いかかってきた。

 毒を混ぜられた食事、感情を操る薬、嫉妬や憎悪を込めた護符。

 俺たちはそれらを、防御し、見抜き、攻撃し返すことで生き延びた。

 

「ブラック家はな、血が煮詰まりすぎておる。だからスクイブが生まれやすい。虚弱体質の者も多い。近親婚がどれほどの代償を伴うか……マグルにしか分からんことだ」

 

 虚弱体質──。

 俺の母も、レギュラスも、体は強くなかった。

 他の純血貴族、グリーングラスやゴーントの家でも、子供が幼くして死ぬことは珍しくない。

 

「わしは、親兄弟に守られたからこそ絶縁された。スクイブは、ブラック家に多い。それが何を意味するか、忘れるな」

 

「「…………。」」

 

「良かったな。──兄弟揃って、生きていて」

 

 マリウスさんの声は静かで、あたたかくて、それなのに耳に残るほど重かった。

 俺は、レギュラスの横顔を見た。

 あのとき、確かに感じた。

 この血は、生き延びるたびに誰かを殺していく。

 

 

 

 

 

 

 

 嫌な予感がして、フクロウを飛ばしてすぐさま正式に後見人の手続きをした。

 受理されたのは、クィディッチワールドカップの試合が始まる寸前。

 

「ほー、最近のクィディッチチームは派手だな」

 

 年甲斐もなくワクワクする試合で、負けると分かっていてもスニッチを取ったクラムの試合に対する考え方に感心していた。

 ダームストラングはスリザリンの集まりのような校風と勘違いしていたが、まるでハッフルパフやグリフィンドール生のようだ。

 

 試合が終わり、コワルスキーや子供達はテントの中で興奮冷めない様子で語り合っている。

 俺は会場に来ていた客におべっか並べられ、つまらないながらもブラック家としての仕事をしていた。

 

「久しぶりだな、シリウス・ブラック」

「元気そうでなによりだ。クラウチ。魔法法執行部の部長の貴方が私の再審査に手を加えなかったのが意外だったよ。──あぁ、今は国際魔法協力部部長だったか、栄転おめでとう」

 

 第一次魔法戦争時。

 死喰い人が逃亡した際、この男は俺を含む数人の容疑者を、裁判なしにアズカバンでの終身刑を言い渡した。つまり、俺はこいつのせいで冤罪になったと言っても過言では無い。

 

「まぁいい。君のような者が当主とは、ブラック家も地に落ちたな」

「地に落ちるも何も、地獄を一度見てきましたから。落ち着くものですよ、案外」

 

 魔法省大臣になることに生涯をかけていた男だ。仕事量こそ多いものの、息子であるバーテミウス・クラウチ・ジュニアが闇の魔法使いに堕ち、ロングボトムの夫婦を拷問したとの事からその道を隔たれたため、このようなお祭り騒ぎの責任者をしている。

 

 嫌味のやり取りもそこそこに、それぞれは仕事に向かった。

 

 

 

 

 そして、嫌な予感はやはり当たった。

 

 空が裂けるような叫び。

 闇の炎が夜空を焦がした。

 

 闇の魔法使いたちが現れたのだ。

 

 歓声は悲鳴に変わり、火の粉が宙を舞う。

 テントが焼け落ち、人々が逃げ惑う中──

 俺がまず探したのは、ハリーとコワルスキーだった。

 

 ……ハリーも怖い。けれど、もっと怖いのはコワルスキーだ。

 あいつは迷わず人を庇う。考えるより先に。

 

「ブラック!」

 

 俺に向かって攻撃して来るやつも当然居た。それは死喰人からも魔法省からも。

 

 どさくさに紛れて始末するつもりだ。『乱戦で気付かず……』と言い訳するつもりだろう。

 おかげで俺は、再びアズカバンに放り込まれる幻覚を見た。

 

 本当は俺が子供たちを守りたいが、俺がそばにいる方が危ない。

 

 俺は戦った。

 ようやく戦況が落ち着いた頃、アーサー・ウィーズリーの元へ向かえば、血の気が引く思いをする。

 

「──シリウス!ハリーとミリが居ないんだ!」

 

 

 頭が真っ白になった。

 大事な人は、直ぐに俺の手からこぼれ落ちる。

 

 

 

 俺が駆けつけた時には、クラウチのクソ野郎がコワルスキーに杖を向けていた。

 

 俺が来たからと警戒も何もかも投げ捨てておふざけモードに移行したコワルスキーを俺は殴ってもいいと思う。手加減なしで。

 

 冤罪だと言うのにコワルスキーの杖は出てくるし、杖は無くすし、クラウチとコワルスキーのやり取りは腹立つのに若干おもれぇし。

 

 結局ろくな抵抗もなく、コワルスキーは魔法省に連れていかれた。

 また冤罪でも擦り付けてあの地獄、アズカバンに入れるつもりか。

 そうなる前に握り潰してしまおう。

 

 ハリーがコワルスキーのトランクの中に入っているとの事だったので、トランクを手に取って小声で話しかけた。

 

「ハリー、私だ。シリウスだ。小屋の中で鍵を閉めて、外は危ないからそこで少し待ってなさい」

 

 

 

 マルフォイやウィーズリーに指示を出し、コワルスキーのことをどうにかする手立てを整える。子供たちを安心させた後、俺はブラック家に戻ってトランクの中に潜って行った。

 

 親父が不思議そうな顔をして眺めていたが、慣れた様子ではしごを降りれば、ハリーと見知らぬ顔がいた。

 

「シリウス!ミリは!?」

「ミリは魔法省に連れて行かれた。レギュラスが抗議に向かってる」

 

 ハリーを庇うように杖を持った男。ハリーにとって害を成すような動きでは無いが、コワルスキーが『トランクに男を住まわしている』という状況。

 

 まるで学生時代の夏の悪夢が再来したかのようで、胃の奥がきしんだ。ほんのり焦げた過去の苦味を嚙み締める。

 

「……ところで、お前は誰だ?」

 

 俺の問いに、男は緊張を滲ませながらも、静かに名乗った。

 

「シリウス・ブラックか。私はクィリナス・クィレル。ハリーたちが一年の頃に闇の魔術に対する防衛術の教師をしていた」

「元教師が、どうしてコワルスキーのトランクに?」

「それは……不思議な縁ということで置いてもらおう」

 

「……まさか夏休みの間だけ匿ってもらっている、などとは言わないだろうな?」

 

 クィレルと名乗った男の肩が、ぴくりと跳ねた。

 

 おーいコワルスキーーー。本当にさぁーー。

 

 天を仰ぎ見た。

 

「し、シリウス!クィレル先生はいい人なんだよ、頭の後ろにヴォルデモートを付けてたけど、やりたくてやったわけじゃないし、今はミリの魔法生物のお世話をね!手伝ってるんだ!」

「……ハリー、そうだったとしても。身元もろくに知りもしない相手を信じて身の回りに置いておくのは」

 

 特にコワルスキーはそれで大いにやらかしている。俺は断固として信じない。俺だけは信じてはならない。

 

 

 しかし、魔法生物のラインナップを見て膝から崩れ落ちた。

 

「──魔法生物!凶悪どころの話じゃねぇぞ!!!???」

 

 本当にやばい。全体を見るまではいかなかったが、その節々にやばい魔法生物の痕跡が居る。

 

「おおん……ワンプ……お前が可愛く思えるよ……」

 

 慣れているからか俺に敵意を向けてこない魔法生物にうずくまって危ない奴らから隠れる。

 本当にヤダ……。

 

「お前の主人、ガチでやべぇよ……。本当に俺はどうしたらあいつを守れるんだよ……」

 

 気がつけば、俺はワンプの背中に顔を埋めて泣いていた。情けなくも、心底からの本音だった。

 

 

 

 

 

 ──そして、三日後。

 

「──アズカバンから出てきやしねぇ!」

「さっさとあいつを連れていけ!」

「こっちだって取り出してぇよクソ野郎!」

 

 クラウチの怒鳴り声が響く。

 

 アズカバンにコワルスキーが()()()三日。

 閉じ込めたはずのクラウチが、逆に「早く出せ」と泣きついてきた。いや、実際には泣いてはいない。だが声のトーンは完全に泣いている側のそれだ。

 

 レギュラスの根回しが早かったおかげか、コワルスキーは罪に問われることなく拘束という名の保護措置だけで済んだ。

 

 学業の成績や開心術、それからアリバイは少し厳しかったが、杖が別の誰かに使われている可能性が高いような、杖の損傷が見つかった。

 

 後で知ったが、コワルスキーの杖は他者に使われることを嫌う杖らしい。

 無理矢理使われ、杖が抵抗した痕があるようだった。コワルスキーは杖がうんともすんとも言わなかったが、杖の忠誠心は高いものだったようだ。

 

「何故出ない!?」

「コワルスキーだからだよォッ!」

 

 俺は叫び返した。

 クラウチの顔は怒りとも困惑ともつかぬ色に染まっている。

 あの魔法生物オタクが、まさかディメンターまで性癖範囲に含めてるなんて──誰が想像できる?

 アズカバンの看守や魔法省の人間やクラウチまでドン引きさせる囚人など、後にも先にもあいつだけだ。

 

 俺は頭を抱えた。

 守りたいと思えば思うほど、何かが壊れていく。

 

 

 

 

 

 そしてがようやくアズカバンから引っ張り出し。

 とあるものの準備をし。ようやく一息つけるかと思いきや。

 

 ──早々、闇の魔術に対する防衛術の教師が偽物だとコワルスキーが暴いた。

 

「コワルスキーよぉ……」

 

 しかもそれがクラウチの獄中死したはずの息子だと言う。

 

 魔法省へ急行した。

 廊下を踏み鳴らす靴音が、自分の心音と重なっていた。

 

「クラウチ、どういう事だ?」

 

 息を切らして詰め寄る。目の前の男は、まるで氷の彫像みたいに沈黙している。俺は確信していた──この男を糾弾できる材料が、今ここにあると。

 

 やがてジュニアが魔法省に運ばれてきて、話を聞くと俺は絶句した。

 

「母親がポリジュース薬でお前になり代わり、獄中でお前の振りをして死んだ後、父親がお前を服従の呪いで身動き取れないようにしていたと?」

「あぁ……」

 

 どういうこっちゃ。

 

 しかも透明マントで覆い隠し、服従の呪いにあった状態で常にクラウチシニアがジュニアをずっと身にまとっていたとの事。

 もう、さらによく分からん。

 

「ワールドカップで正気を取り戻した。その後、コワルスキーの杖を奪い、闇の印を打ち上げた」

 

 頭が痛くて仕方ない。

 ひとまず、アズカバンに入れるのも家に戻すのもよろしく無いという事で、マルフォイに預けた。

 頼れ、と言ったのはお前の方だぞ?

 

 

 そして俺は、諸々の手続きを終え。

 

 ──ハリーとコワルスキーを近い場所で守るために、教師になった。

 

 

「ぶち殺して閉じ込めてやろうかあのアマ……」

 

 4人目の代表選手だなんてふざけたものになるろくに抵抗しないクソ女のせいで、俺の堪忍袋の緒はもうぶっちぶちのぼろぼろだ。

 

 さぁ、コワルスキー。

 

 生きてないとできない喧嘩を始めよう。俺は、この喧嘩さえも愛おしいとは思う。

 その前に怒りでうっかり服従の呪いをかけそうだが。

 

 クラウチ、お前の気持ちがよく分かる。目を離してはいけない状態の庇護者を、お前は狂いながら守ろうとしていたんだな?

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