「──というわけでクリスマスのダンスパーティーが近づきました。決して、ホグワーツ生として相応しくない態度は取らないように」
「えっ」
木曜の変身術の授業。
私は、終盤に告げられたマクゴナガル先生の言葉にガタリと立ち上がった。
「…………あ、これ夢か」
「夢ではありませんよ?」
「!!!!??????」
踊り狂いそうなイベントをマクゴナガル先生から告げられた衝撃で今日学んだ授業は全て飛んでしまったけれど、そんなこと言ってられる暇がないくらいには混乱していた。
「クリスマスに……ダンスパーティーっ!?」
「コワルスキー、うるさいですよ」
「これが静かに過ごせるわけないじゃないですか!!」
授業終わりに早速マクゴナガル先生のところに突撃かましたわ。
「貴女なら来ると思っていたので、わざわざ呼ぶ必要がなくて助かります」
「それはどうもありがとう……でもそうではなくてね!?」
細かく話を聞かせていただきたいですマクゴナガル先生!く、く、クリスマスに、パーティー、しかもダンス!?
幻か幻覚かどちらかなの!?それとも真実!?
「三大魔法学校対抗試合の伝統としてクリスマス・ダンスパーティーがあります。下級生を招待することは可能ですが、四年生以上が参加できます」
「……!……っ!」
「クリスマスは夜8時から、12時。パーティー用のドレスローブを着用して──踊ります」
「踊り、ます……」
この時世界は輝いた。視界はぼやけ、前が見えづらくなっていく。
「マクゴナガル先生……っ、私、卒業のプロム、できないの、本当に悔しくて……!」
「……でしょうね」
「可愛子ちゃんのドレス姿を見れないだなんて未練で死の淵から蘇ってきたと言っても過言では無いわ!!」
「…………否定は出来ませんね」
マクゴナガル先生はふぅとため息を吐き出した。
「貴女、ずっと卒業パーティーは?って騒いでましたもんねぇ。えぇ、こうなることは予想していましたよ」
「ハリーやハーマイオニーのドレス姿が見えるってこと!?ど、ドラコのも見えちゃうの!?うっっっっっっ、三大魔法学校対抗試合万歳……」
生きててよかった。世界よありがとう。私は救われました。
えー、ハリーのドレスってどうするのかな、多分後見人のレギュラスが用意するんだろうけど、チュニーにも1回手紙出してみようかな。
そうだハーマイオニー、彼女のドレスはぜっっっったいフワッフワのお姫様ドレスが似合うに決まってるわ。もちろんハーマイオニーの好みもあるけれど、ハーマイオニーは細くて骨が見えやすい骨格だからボリュームあるドレスがめちゃくちゃ似合うと思うのよね!
そしてドラコ、ドラコ……絶対、あの、目が、溶ける。間違いない。いっそ心の平穏のためにバカみたいな格好して欲しい。ベリーキュート。
「コワルスキー、Ms.コワルスキー、聞いていますか?」
「聞いていませんでした」
「大事なことを伝える必要がありますので、私の言葉を聞き流さないでくださいね?」
マクゴナガル先生は私を注意するように鼻先をツンと指先で触った。猫ちゃんみたいな仕草に思わずキュンと胸が高鳴る。私の表情を見てマクゴナガル先生はくすくすと微笑んだ。えっ、人として好き。
「私初めてなの、マクゴナガル先生が好みじゃないのに、なぜか好きなの」
「光栄ね」
「どうして……?昔とんでもない美人さんだった可能性はありますか……?」
「さぁ?貴女の好みはわかりやすいようで分かりにくいですから」
えっ、こんなにも分かりやすいのに……。
マクゴナガル先生は一呼吸おいて、重要事項を伝えるためにゆっくり私と目を合わせた。
「良いですか、三大魔法学校対抗試合の代表選手は決まって一番最初に踊ります」
「つ、つまり」
「ええ。つまり貴女──」
「──フラーのダンスを幕開けにした最高の夜が始まるってこと……!?」
がくり、と顔を下に向けたマクゴナガル先生は放っておいて私は胸躍らせる。
フラーのあと美しい姿が更にパワーアップしてしまうだなんて、そんな、戦争が勃発するかもしれないわ。
「そうじゃないでしょう……。ミリ、貴女も踊らなければならないのですよ。パートナーを選ばなければならないのですから」
「セブルス!」
「はい。そのセブルスから手紙を預かっています」
は、話が早い。
セブルスからのラブレターをマクゴナガル先生が開いてくれているので、私はワクワクとそのお手紙を待った。
「『──親愛なる変態へ』」
「愛してます」
「……。『いいか、複雑な合いの手を入れてミネルバを困らせるな。今から黙ってきけ』」
はい、黙らせていただきます。
セブルスの、私に対する解釈が高すぎてもう手のひらの上でワルツを踊っている気分よ。くるっくるのブレイクダンス。
「『お前が僕をパートナーとして選ぶだろうが。そうはいかない。断固、絶対、拒否する』」
「…………」
そ、そんな……。
いやセブルスは確かに嫌がるけれど。そんな、少しくらい検討してくれたっていいじゃん……。嫌がるセブルスもかーーわいいから、その姿を見せて欲しい。ギブミー。
「『しかし、お前のパートナーの相手を生徒たちに任せるのは教員一同とても心苦しいとは思っている』」
そうなの?
一同?
その視線をマクゴナガル先生に向ければ視線を逸らされた。
「『よって、お前のパートナーは僕が選ぶ。お前はパートナーを探そうとするな、せいぜいダンスの練習をしておくこと』」
私に選択権が今無くなった。
いいえ、セブルスが選んで決めるのであれば私は大喜びの大興奮。もちろん、答えは一択、いいえ、するまでもないわ。
モチのロンよ……!
「『追伸、ドレスについてはシリウス・ブラックに聞くように』…………以上です」
「ありがとうセブルス、ありがとうございますマクゴナガル先生、はぁ、生きててよかった」
私はそっと手を差し出して手紙を頂きに参る。
セブルスは普段、シリウスのことを家名で呼ぶけど、わざわざフルネームで書いたって事は『レギュラスとオリオン様に突撃しに行くなよ』って言ってる意味だと考えたわ。なんて、思慮深いの。
「……本当に貴女達仲良いですね」
「えぇ、そうなの」
すっごくすっごく、仲良いのよ。
なんてったってずっと一緒にいたもの。
==========
「シリウス〜!」
「コワルスキー?」
私はセブルスの指示に従い、シリウスの部屋まで向かった。そこにはシリウスが次の授業の準備か家の仕事をしていたのだろう、資料や本が雑に積まれていた。
あ、すごい大人の気配を感じる。
「あのさ、ドレスのことなんだけど。何か知ってる?ほら、準備のこと全部任せてたじゃない」
「あぁ、知ってる。お前のドレスも用意してある」
「ほんと!良かった〜!今からドレス探すなんて……流石に難しいものね……」
できる友達を持ってると違うね。
「……第二の課題の進捗はどうだ?」
「あれ?とっくに解けてるけど」
「あ、そうか。お前マピーが居たな」
座れよ、と言いたげにソファを指さされたので私は大人しく座る。
私が座っていると、ココアが出された。
「ん」
「ありがとう」
仕事をしててもいいのに、わざわざ反対側に座ったシリウスは私のことをじっと見た。
「で、肝心の内容の意味は分かってんのか?」
「何となく。あ、道具の持ち込みって大丈夫よね?それ無かったらキツイのだけど」
「それは大丈夫。バグマンが話してただろ、聞いてなかったのか?」
「えぇ!当然!」
「誇ることじゃねぇだろ」
あ、ココア美味しい。私の好きな味付けだ。
ココアといえばリアム兄さんの入れてくれるココアが一番好きだなぁ。冬になると決まって飲みたくなる。チョコをほんの少し入れたココア。
シリウスもチョコを入れてくれているのだろう、とろりと甘い味が舌に広がった。
「ドレスはクリスマス当日に渡す。クリーチャーを呼ぶから、着付けはあいつに頼め」
「分かったわ」
「それから、ダンスの練習も必要か……?」
「そうねぇ。シシーとルシーの踊ってる姿が目に焼き付いているから、覚えてはいるんだけど。体が動くかは別?」
「……キモイなお前。何年前の記憶だよ」
「あの二人が七年の時のスラグクラブが最新情報かな?」
あの時ばかりは世界が止まった。
私の鼻血は止まらなかったけど。
「なら、放課後俺と練習だな」
「えっ、シリウスと?」
「なんだよ。お前の好みとさせると思うか?」
お前はさせてくれないだろうねぇ。
「──お手をどうぞ、プリンセス」
「……様になってるのが腹立つ」
「ときめいたか?」
「アハハ!レギュラスだったらすっごく」
私はシリウスの手を取って記憶の中のルシーとシシーの姿を思い出しながら一歩、踏み出した。
「コワルスキー、俺の意見は変わってない。危険な目に突っ込もうとするなって、ずっと思ってる」
「そっか」
「でも、お前は勝手に進んでく」
シリウスは私の手をぎゅっと握りしめた。
「俺もお前も譲らない。意地のぶつかりあいだ」
「確かにそうだね。お互いに譲らないかも」
でもちょっと待って、あの、足と口と頭を同時に使わせないで欲しい。
もつれる、もつれるから。
「コワルスキー」
「なに……?」
「──お前壊滅的なまでにダンス下手だな」
「うっ、うるさい!!!」
ちなみに私のパートナーはシリウスでは無いらしいので、練習中は死ぬほど足を踏んずけてもいいけど本番は失敗出来ないから死ぬほど頑張ろ。