─矛盾─   作:恋音

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4-18.パーティードレス

 

 控え室からようやく入場となった。

 それぞれがパートナーと共に入場する。

 

 広間の壁はキラキラと銀色に輝く霜で覆われ、星の瞬く黒い天井の下には、何百というヤドリギや、蔦の花綱が絡んででいた。

 各寮のテーブルは消え、代わりにランタンの応かな灯りに照らされた、十人ほどが座れる小さなテーブルが、100個以上置かれている。

 

 

 そういえばヤドリギの下ではキスを拒めないらしい。つまりここは、常にヤドリギの下。

 

「リーマス、キスをしましょう。口でも手でも頬でも額でもリーマスから貰えるものならどこでも幸せ!」

「ぜっっっっったい嫌。事案。そもそも君、僕以外にも強請るだろ」

 

 あ、あれーー?

 拒否されてしまった。おかしいな……。

 

 あとヤドリギには正反対の髪色だとなおいいぜ、っていう言い伝えがあるらしいから、私の薄い髪色の正反対の漆黒で艶やかで美しいセブルスに熱いKISS☆を強請りにいこう。ヂュッ。

 

 

 代表選手たちが審査員テーブルに近づくと、ダンブルドアはうれしそうに微笑んだが、カルカロフはクラムとジニーが近づくのを見て、驚くほどロンとそっくりの表情を見せた。マダム・マクシームはハグリッドのそばに座っており、いつもの黒い編子のドレスではなく、ラベンダー色の流れるような縄のガウンを継い、上品に拍手していた。

 

 バグマンはいつも以上に派手だし、クラウチは地味だし。でもクラウチの後ろにパーシーがいたことにおどろいた。

 

 ガッチガチに固まっているジニーの緊張を解すように、私はビクトールに話しかけた。

 

「ダームストラングはどう言った魔法学校なの?」

「んー。城だよ、ヴぉく達の所は四階建てで……、城はこんなにも大きくないけど、庭はここより広い」

「へぇ?そこでクィディッチの練習をするの?」

「あぁ、冬は日光が出ないけど、夏とかは特に、湖や山の上を──」

「これ、これ、ビクトール!」

 

 カルカロフは笑いながら言った。

 

「それ以上は、もう明かしてはいけないよ。さもないと、君のチャーミングなお友達に、私たちの居場所がはっきりわかってしまう!」

 

 まァもちろん可愛くもないし興味もないのでカルカロフ校長の話は流しておいて。私は続きを聞いた。

 

「ビクトールは、ポジションなんだっけ?キーパー?」

「シーカーよ!」

 

 今度はジニーが応えた。

 

「シーカーって、ジニーも同じポジションだったのよね?」

「え、えぇ。そりゃ、ハリーやあのビクトール・クラムに敵うような選手じゃないけど」

「ハリー?」

 

 ビクトールが不思議そうに名前を復唱したので私は慈愛溢れ出てこびれでびっちゃびちゃになる前に応えた。

 

「私の子供よ……」

「違うね」

「リリーと私の子……」

「もっと違うね。はい、ミリ、いい子にしてようね」

 

 リーマスに強制的に引き剥がされた。ちくしょう。強引なところも、好き!

 

 

「こんなの、なーんてことないでーす」

 

 壁をぐるりと見回し、美しいフラーが言った。

 

「ボーバトンの宮殿では、クリースマスに、お食事のあいーだ、周りには、グルーリと氷の彫刻が立ちまーす。まるでおーきなダイヤモンドの彫刻のようで、ピーカピカ輝いてあたりを照らしていまーす」

「フラーみたいな美しい人が通う学校だもの。歴史だけが取り柄ですみたいな雰囲気を全面に醸し出す事が誇りみたいな顔した、箒すら買い換えないようなおんぼろ学校、比較にもならないわ」

「……そ、そこまでは言ってないでーす」

「いいえ!むしろきっとボーバトンでさえフラーを目の前にしたら霞んでしまうわ!ダイアモンドのような氷の像も、貴女に惚れ込む熱で溶けて消えてしまうわ」

「そこまでは……」

 

 ロジャー・デイビースは魂を抜かれたような顔でフラーが話すのを見つめていた。わかるわ、見つめざるを得ないよね。

 

「そもそも土台の話、ホグワーツってまず校長からセンスがないもの」

「ミリ??????」

「はーあー、せめて校長がマクゴナガル先生か、ゲラート・グリンデルバルドだったらなぁ」

「ミリ??????」

「て、照れてしまいますね……」

 

 ダンブルドア、センスないんだもの。皆無よ皆無。ペットと友人センス以外。

 

 

 

「わぁ!!!ルーピン先生!!」

 

 ハリーがまず驚き、続いてロンが喜んだ声を上げる。リーマス登場に1年生以外の生徒たちはザワザワと懐かしい顔に驚いていた。

 

 

 そんな中、私はあまりの眩しさに膝から崩れ落ちた。

 

 ハリーの衣装は特注の燕尾服だろう。

 漆黒の生地は灯りを吸い、身体にぴたりと沿っている。首元の白シャツは繊細な絹。ボタンの位置まで完璧に大人。

 少年の輪郭をした王子。無自覚に完成された罪。

 

 普段と違う大人っぽいその姿と代わり、普段通りの無邪気な笑顔。

 子犬みたいに純粋な瞳で微笑む。

 こんなの、ヴィーラが泣く。世界が恋をするわ。もれなく私は死ぬ。

 

「ルーピン先生、ミリのパートナーだったの!?」

「そう、実はね」

「てっきり、僕がパートナーになるんだと思っていたけど。ルーピン先生なら安心」

「んぎゃう」

 

 心が激しい鼓動を六十四分音符で刻んでいる。

 ハリーったら、私から誘われるのを待ってたの…?なんて尊いの………?

 

「私のハリーが愛おしすぎる……。大人たちに振られたらまずハリーに傅くつもりだった」

「逆だよね?僕が膝ついて誘うべきだよ」

「むしろ地面を舐めさせてほしい」

「やめてほしい。ほら、スネイプ先生も言ってたじゃん、ミリのことどうにか出来るのは僕とスネイプ先生くらいしかいないから頑張れよって」

 

 言ってた。

 1文字1句違わず覚えているわ。

 

「セブルスそんなこと言ってたんだあ……」

「だから僕が責任を取るべきかなって思ってた。良かった、ルーピン先生で」

「史上最高に幸せ。愛おし」

 

 そんな幸せ溢れる時間を邪魔する男は当然いる。

 

「あぁリーマス!我が友よ!」

 

 ずっとハリーの後ろで我が物顔していた背景が出番が来たと言わんばかりに両手を広げた。

 

「シリウス!」

 

 リーマスとシリウスは熱い抱擁を交わした。

 1.2.3.4……。10秒!

 

「ふんぬ!」

 

 私はべりっとリーマスをシリウスの魔の手から救い出した。

 リーマスは驚いたような顔で私の腕の中で私を見つめている。魔性の瞳すぎるわ。

 

「シリウス、再会を喜ぶ気持ちはひっっじょ〜〜に分かるけど!今日のリーマスは私のお姫様なの。逢瀬を邪魔しないでちょうだい」

「このアマ…!」

 

「……また喧嘩してるよこの二人。いい加減にしてよね」

 

 ロンが呆れたようにため息を吐いた。

 

 ロンのローブはレトロ感溢れるフリルたっぷりの派手派手しいローブだったのだが、とても嫌だったらしく、私に持ってきた。『どうにか出来る?』と頼られた私は張り切ってシンプルなローブに変えた。色変え魔法は出来なかったので、こう、染めたよね。草で。

 

「ところでロン?貴方のパートナーのハーマイオニーは……?」

「ハーマイオニー?それなら」

 

「──まだミリのダンス始まってないわよね、ごめんなさい、少し髪の毛が崩れて……」

 

 あまりの美しさに視界が爆ぜる。

 脳が焼けて、世界がチカチカと溶けていく。

 ピンクのドレスがひらりと翻り、髪の光が肩を滑り落ちる。

 

 瞬間、世界が滅びた。

 美しすぎて。息をすることを忘れる。

 周囲がざわめき、灯りが一斉に彼女を照らした。

 まるで彼女だけが物語の主人公として生まれたみたいに。

 

 女神、いやハーマイオニーが現れたのだ。

 

「……はっ!!」

 

 意識がどこか飛んで行ってたわ。危ない、一秒も無駄にできない。

 

 幼女シスターズという個性的な格好をしたグループの音楽が鳴り響き始めた。

 ゆったりしたもの寂しい曲が流れ始める。

 

「じゃあ、踊ろう。ミリーと合わせるのは始めてだけど、君なら僕の足は踏めないね?」

「ええ、当然!リーマスの足を踏むくらいなら自らの足の甲を踏み抜いたって構わないわ」

「それは勘弁して欲しいかな…」

 

 ダンスが始まる。

 

 最初は互いの動きを探るように、ゆるやかに。

 次第に拍が身体を支配し、彼の手のひらの温度に心拍が追いつかなくなっていく。

 リーマスの視線がふと絡んだ瞬間、世界が少しだけ遅くなった気がした。

 

 やがて曲の終わりが近づく。代表選手たち以外も次々と輪に加わり、テンポが一気に速くなる。楽しくなってもう一曲一緒にリーマスと踊った。

 

「ミリー、楽しいね」

「幸せすぎて心臓がどこかへ行ってしまいそう」

 

 ダンスの曲が続く中、私たちはそっと端に避けた。

 

 リーマスは『ちょっと疲れたから休憩』と言って私から離れる。するとジニーと奇跡的に合流した。ビクトールは飲み物を取りに行っているのか居ない。

 

「ジニー!なんでクラムなんかと組んでるんだ!?」

 

 ロンがわざわざプンプン怒りにやってきた。

 後ろにはハリーとハーマイオニーも居るので、ごめん、と言いたげな二人の視線が突き刺さった。

 

「あいつは、ダームストラングだ!ミリと張り合ってる!敵とベタベタしてるなんて!」

「敵ですって?全く、夏に恋してるみたいに盛り上がってたのは誰?自室にミニチュア人形を置いてる人は誰なの?壁にポスターを飾っている人は?ねぇロン?だぁれ?」

 

 流石はジニー。兄のロンを一気に黙らせた。

 すると飲み物を持ったビクトールがやってきた。

 

「ミリ」

「紹介するわビクトール!私の友人達!クィディッチがとっても好きなのよ。夏にあった試合で貴方にみーんなメロメロ。全く、嫌な人だわ貴方って」

 

 本当に嫉妬しちゃう。ハリーやジニーの視線を釘付けにしちゃうだなんて。

 

「友達?」

「ええ。こっちがハリー、それからハーマイオニーに、ロン」

「ハリーと……」

 

 ハリーが嬉しそうな顔をしたが、ビクトールは躊躇い気味に次の名前を呼んだ。

 

「ハーム-オウン・ニニー?」

「ハーマイオニー、難しい?」

「うん。ミリくらい簡単な名前だったら、良かった」

「ハームって名前可愛いわ。ハーミーの愛称もとんでもなく素敵で可愛いのだけどね」

 

「それから、ロン?」

「そう。ジニーの兄よ」

「はっ、初めまして……」

 

 ロンは先程までのプンプン丸とは打って変わって憧れの選手を前に緊張したような格好をしていた。

 

「それからねビクトール。あっちでチラチラとこっちの様子を伺っているとーっても可愛い金髪の子が、ドラコ」

「ドラコ。かっこいい名前だ」

「私たちの第1の課題みたいでしょ」

 

 ドラコはこちらで噂をしているのを気付いたよう。手を振った。可愛い。可愛すぎる。

 遠くから見ても輝く姿。可愛すぎる。もう教会をここに立てるべき。可愛すぎて眩しすぎてサングラス必須だわ。これ、晩年になればなるほど輝くタイプよ。将来が怖すぎる。

 

「もっと紹介したい人はいるけど、私の友達で──」

 

 私が学校交流を楽しんで続きの話をしようとすると、グイッと引っ張られた。

 

「コワルスキー!俺とも踊ろう!」

「ちょっ、シリウス」

 

 テンションが上がるような激しいリズムの音楽に乗せられ、教わってもないステップでシリウスがリードを始めた。

 

 悔しいことに、練習の時からシリウスのリードは完璧で、純血貴族めという気持ちでいっぱいだ。

 

「あっはっはっ、年甲斐もなく嫉妬した」

「あぁ、シリウスもクィディッチ好きだものね。ビクトールを紹介しようか?」

「そっちじゃ……ねぇ……よっと!」

「きゃあ!!??」

 

 シリウスは上機嫌に私の腰を掴んで、ぐるんと回した。ふわりとドレスが花のように広がる。

 頭がふわふわして、目の前の光がぐるぐると回る。シリウスの笑顔が私を貫いた。

 

「なぁ友よ!」

「なぁにシリウス」

「出逢えて本当に良かった。愛してる」

「私も愛してるわ──」

「天使の次に、だろ?」

 

 シリウスは悪戯を見事当てたような子供っぽいニヒルな笑顔を浮かべた。

 

「さっすが、よく分かってる」

「ははっ!」

 

 ふと視界の端で、双子がバグマンと何やら派手に談笑していた。

 パーシーは遠巻きに見ていて、「迷惑をかけていないだろうか」と顔に書いてある。

 みんなそれぞれの夜を過ごしている。騒がしくて、でもどこもかしこも楽しそうだ。

 

 そして、踊り終わったシリウスの背後──視線の先に、セブルスがカルカロフと並んで立っていた。

 二人が下の名前で呼び合っているのを聞いた瞬間、空気が一瞬、静止する。えっ、二人って仲良いの?でもごめんなさい、多分絶対私の方が仲良いわ。

 

 私は、無理矢理二人の間に割り込んだ。

 

「セブルス!踊りましょ!」

「は……?」

「御機嫌ようカルカロフ!──セブルス、いいから!ほら!」

 

 勢い任せに手を取ると、セブルスはわずかに眉を動かし、静かにため息をついた。

 その仕草に、どこか甘やかな諦めが宿っている。

 

 私はセブルスの手を引いて、煌めくダンスホールの中央までずるずると引っ張った。

 抵抗は感じる。でも、本気で拒む力じゃない。

 むしろ、今日は機嫌が良いのか、皮肉を飛ばす余裕のある顔だった。

 

「ふふ、セブルスと踊れるなんて夢みたい」

「非常に残念ながら、現実だがな」

 

 吐き捨てるような声の奥に、わずかな苦笑が混じる。

 

 意外なことにセブルスはダンス経験があるのか、男性パートを完璧に踊っていた。

 

 裾が翻り、黒と白が絡み合う。

 セブルスのローブが風のように広がるたび、空気が少しだけ冷える。

 彼の動きは無駄がなく、研ぎ澄まされた刃のようだ。

 観客のざわめきの中でも、ここだけが静寂に包まれているみたい。

 踊っているのに、まるで呪文を唱えているような正確さだった。アレンジは、多分出来ないだろうけど。むしろ私が無理。

 

 そして、ふいに、セブルスは私の耳元で囁いた。

 ほんの、息のような声で。

 

「ミリー」

「ぎょうえあ!?」

 

 完全に心臓を撃ち抜かれる。呼吸が止まった。

 彼の唇は動いていないようなのに、私の耳は正確にその1音1音を拾い上げる。あわわわわわ助けて。

 

「禁じられた森の手前に行くといい、エミリーの亡くなった場所だ」

「へ、え?」

「12時までには、帰ってくるように。でなければ、魔法が解けてしまうのでな」

 

 

 

 ==========

 

 

 私が死んだ場所。

 禁じられた森の入口。霧のように白い空気が漂う、いつもの場所だ。

 

「ミリー」

 

 名前を呼ばれて振り返ると、そこにピーターがいた。

 

 ローブこそ着ていないけれど、その姿は天使そのもの。ただピーターが月光の下で立っている。宗教画です。

 

 肩口までの髪が揺れ、目だけが暗闇の奥で優しく光っていた。

 

「セブルスに、人よけの魔法をかけてもらってるんだ」

 

 言いながら、彼は少し照れたように笑う。

 笑顔の形は昔と同じなのに、どこか、大人の魅力を内包していた。

 

 そして彼は、片膝をついて私に手を差し出した。

 その仕草があまりにも丁寧で、まるで儀式のようで、胸が詰まる。涙も詰まる。好きです。

 

「僕と、踊ってくれますよね?」

「もちろん…っ!」

 

 

 触れた手のひらは、かすかに温かくて、どこか懐かしい。

 ホグワーツの方角から、遠く音楽が流れてくるメロディに合わせ、私たちは静かに一歩、また一歩と踏み出した。

 

「とっても、綺麗だね」

「ピーターも、とっても可愛いわ」

 

 思えば。

 私がこうして転生してからピーターとは初めてレベルで会話をしている気がするわ。

 シリウスのドタバタの時には居たけれど、私はピーターを守るためにシリウスにひたすら愛をウェ……(嗚咽)囁き続けていたし。

 

「ずっと、ずっと、君に触れたかった」

 

 囁く声は震えていて、心臓の奥がくすぐったくなる。会えて嬉しいと言わんばかりの視線が私を魅了した。

 

 踊りの合間ピーターの視線が私のドレスに落ちた。

 

「あのね、そのドレス」

「ん?」

「大事に持ってて。あの日、君亡くなった日、セブルスが企画した卒業パーティーで君が着る予定だったドレスだから」

 

 

「──リリーとセブルスが選んだんだよ」

 

 家宝確定です。

 そんな、このドレスにそんな尊いエピソードがあるだなんて。

 

「ネックレスはいらないだろうと思ってたんだ。君の首筋ってすごく綺麗だから、飾りが逆に邪魔だなって。でもイヤリングはいいな。揺れる雫が似合うと思ったんだ。あぁ、シリウスがそのブレスレットのデザインを決めて、リーマスが髪型ならあれが似合うこれが似合うって考えたんだ。すごく、すごく似合ってる」

「っ、えぇ、でしょう。私の、私のだいじな友達が、私に似合うようにとっても苦労したみたいだから」

「楽しかったよ、君抜きであーだこーだ、計画するの」

「えぇ、えぇ!でしょうね!すっっっごく羨ましくて……」

 

 私は笑った。

 

「化けて出てきちゃったじゃない」

「最高だよ」

 

 あぁ。

 皆に、皆に会いたい。会えて良かった。愛おしい私の友人。私の悪戯仕掛け人。私の同級生達。愛しい、愛してる、仲間。

 

 

 ピーターは、そんな私を静かに見つめ、少しだけ口角を上げた。

 その笑みの奥に、何か別の色が混じっているように見える。愛おしいものをみるような、子供をみるような、くすぐったくてなんだか照れくさくなってしまった。

 

「今日、ハロウィンでもないのに、僕も化けて出たのには理由があるんだ」

 

 彼はおもむろに話題を変えた。

 

「譲って欲しい素材があるんだ。しかも、タダで」

「──もちろん」

「即答だねぇ。えーっと、欲しいものはドラゴンの心臓。ユニコーンの角。それから、バイコーン……」

 

 彼は淡々と、でも確信に満ちた口調で列挙していく。まるで聖歌のように、ひとつひとつを大事に唱えるように。

 

 私でも持ってない素材多いけど、わざわざ魔法生物の素材を私に頼んでくるんだから、死力を尽くしても掻き集めるわ。

 

「任せて」

「──それから、君の血」

「何リットル必要?」

「それは死んじゃうね?ここで『死んでもいいわ』なんて言ったらもう頼らないから」

「殺生な!!!!」

 

 ピーターはクスクスと笑った。

 

「もう少しで、もう少しなんだ」

 

 その目は月明かりに濡れ輝いている。

 

「誰にも頼れない。でも、あと少しで、もう少しで、ようやく出来上がるんだ」

 

 その言葉は、祈りにも、呪いにも聞こえた。

 

「僕の──僕らの、賢者の石が」

 

 

 

 ==========

 

 

 

 教員席──

 

 

「(セドリック・ディゴリーは恋人のチョウ・チャン)」

「(フラー・デルクールは妹のガブリエル・デラクール)」

「(ビクトール・クラムは、だいじなものとは言い難いがジネブラ・ウィーズリー)」

 

「ミリ・コワルスキーは、リーマス・ルーピンか」

 

 なるほどなるほど、リーマスであれば大人であるし比較的冷静。

 エミリーの学友たちはミリの手綱を問題なく握れるし問題は無──

 

 

「ん?」

 

 ちょっとまてよ、とダンブルドアは、だいじなもの達を見つめて疑問符を浮かべ、サッと顔を青くした。

 

 ダンブルドアの様子に真っ先に気づいたのはクラウチ。それから続いてマクゴナガルだった。

 

「あかん。これ、だいじなもの、全てミリの起爆剤じゃ」

「「あっ」」

 

 もうダメだ暴走する未来しか見えん。

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