─矛盾─   作:恋音

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11.星

 

 

「はーっはっはっはっ!」

 

 ジェームズの高笑いが大広間に響く。

 

「今回は僕らの勝ちだった様だねスネイプ! ミリー!」

 

 

 本日はハロウィン。

 私とセブルスは偵察の無くなったのをチャンスに全力で力を入れた。準備期間は9月中頃からハロウィン当日まで約1ヶ月半だ。

 

 教師、そしてピーブズ。

 時には先輩達にも力を借りて計画したというのに。

 

 本気を出したジェームズは心底恐ろしかった。魔法界で育てば魔法についてここまで詳しくなれるのかと思う程。

 

「くっそ、今年はと思ったのに……!」

 

 スリザリン席で項垂れるセブルス。そして同じくスリザリン席で悶えている私。

 

 

 私達の仕掛けた悪戯というのは魂の双子だけじゃなくている大広間全体に対してだった。ピーブズとの約束である『派手である』という事を有言実行したのだ。

 

 私は、普段料理を作ってくれている下僕屋敷妖精─セブルスは苦手らしい─に頼んで、それぞれの寮の机にジャック・オー・ランタンを仕込んだ。そのランタンから薬草の燃える炎色反応を利用した炎の花を空に向かって咲かせた。

 火花、といった所だろう。

 杖を使えないから魔法薬調合して熱を持たない火を作り出したって言うのに!

 

 ジェームズはそれを予感していたとばかりに雨を降らせたの! しかも杖で簡易的に雨を降らせるんじゃなくて、予め悪戯グッズを仕込んだ状態で!

 壁に飾り付けられていたランタンからスプリンクラーの如く水が噴出された時の絶望感と言ったら!

 

 しかも人に当たれば蒸発するという仕様。びしょ濡れにならない様に仕込んだ悪戯というレベルの高さに各寮の上級生は感心した吐息を漏らしていた。悔しい。さらに言うなら蒸発した水が霧状だったので仮装組はテンションが上がる上がる。ランタンの光が拡散されてぼんやりとしたハロウィンらしい雰囲気になっていた。

 

 完敗だ。紛うことなき完敗だ。

 

 

「……来年は絶対アイツらに負けない悪戯を仕込む」

 

 あれ、そんな目的だっけ、と思いながらもセブルスが可愛いので私は全力で肯定した。

 

「で、なんでグリフィンドール生が堂々とスリザリン席で寛いでいるんです。他の純血、あー、スリザリン生は何も言わなかったんですか?」

「んー! レギュラスったらもう今日も可愛いねェ! ヨスヨスしよっかぁ!」

「やっ、やめてください」

 

「……その『やっ』って発音可愛過ぎない? 大丈夫? そんなに可愛くて大丈夫なの? 嫉妬で刺されない?」

 

「僕は彼女にどういう反応をすればいいんですか……」

「睨んでからこう……──」

「えっ、えっ、それで大丈夫なんです?」

「間違いなくいける」

 

 レギュラスはシリウスと同じく背が高い。低身長+座っているセブルスの背に身を小さくして隠れながらボソボソ会話をしていた。

 私の隣に座っているルシーはマルフォイの名前を使ってベストポジションの席を取っているのでニッコニコ笑顔で天使の戯れを全力で観察していた。今日の私は観察対象じゃないらしい。ヒェン四方が好み。

 

 すると意を決したレギュラスは纏う空気を変えて腕を組んだ。

 

「──この僕に対して、随分と頭が高いんじゃないんですか? 立場を知れ、この下賎な輩が」

 

 私よりも大きな背は、立っているからこそ更に大きくて。

 夜のように真っ黒な瞳に睨まれて。

 ポツリと落ちる水滴しか波を起こすことがない洞窟の静かな白濁した湖の様な声が脊髄をごつりと叩く。

 

──ゴンッ

 

 胸を抑えてヒュッという音と共に頭を机に打ち付けた。

 

「あの、ほんとに、これ大丈夫なんですか?」

「うーん、流石にオーバーキルだったか。これが黙らせる程の好みだと思っていたんだけど」

 

 元の様子に戻ったレギュラスの困惑した声とブツブツと呟いて考え唸るセブルスの声で耳も追加で死んでいく。苦しい、苦しい! しんどい! 尊すぎてしんどい! 最高……余韻に浸っていたい……。

 

「スネイプ。なんでコワルスキーが死を迎えてるんだ?」

「あァノット。レギュラスにちょっと頼んで黙らせたんだ。もうそろそろ弱ってる状態で復活する、と思う、多分」

「……Mr.ブラックやMr.マルフォイに色々頼めるスネイプが凄いよ」

「だって、僕には魔法界の王族だとか言われてもピンと来ないし、レギュラスはアイツと違ってすごくいい子だし」

 

 可愛い。可愛いがすぎる。推しが尊すぎてしんどい。

 客観的に捉えて、落ち着いて咀嚼して考えて愛しさと切なさと心強さを追究しようとした。冷静に考えて無理。別に冷静じゃなかった。

 

 腕を組んだ時に人差し指で二の腕を2回叩く所とかもう所作がえっち。

 

 サラサラと髪がなびく所とかほんと無理オブ無理。圧倒的に眼球不足。

 

「コワルスキー?」

 

 尊みに涙を流しているとノットと一緒に行動していたエイブリーとマルシベール(スリザリン非好み貴族達)が心配そうに顔を覗かせた。

 

「落ち着く顔……」

「喧嘩売ってんのか半純血」

 

 マルシベールが私の顔面をガッと掴んだ。ハッハッハ、キレやすいと品が疑われ……待って痛い痛い痛い!

 

「私の貴重な誇れる素晴らしく麗しい顔面が潰れる!」

「謙遜ってのを少しはしろよアメリカ人」

「その発言はやめろマルシベール! 非魔法族含めてアメリカ人全員に失礼だろ! コワルスキーはマグルのアメリカ人以下なんだから!」

「ノットォ!」

 

 この3人組ほんとに私に遠慮しない。ツッコミノットに諦めエイブリーにキレ気味マルシベール。親同士仲良いからって幼馴染になったらしいけどそこまで仲良くないらしい。

 

「……はぁ、Mr.ブラックの視線も言葉もゾクゾクしたなぁ。たまらないなぁ」

 

 先程のレギュラスを見て脳裏に浮かんだのは流石の血筋。彼らの父上であるオリオン・ブラック氏だ。

 

「待ってくれ」

 

 ポツリと呟いただけの筈だがノットがストップを掛けてきた。随分と真剣な顔だ。

 

「……そのMr.ブラックって、どのMr.ブラック?」

「えっ、シリウスとレギュラスのお父上の」

「あのお方に会ったのかお前!?」

 

 ノット十八番の叫びツッコミ。

 私は頬に手を添えてうっとりとした。

 

「あの罵りはさいっっこうだった」

 

 心を込めた言葉に、周辺に居たスリザリン貴族達は汚い雑巾で濾過したミネラルウォーターを飲んだ表情になる。

 

「お前なんで生きてるの?」

 

 生まれたことすら拒否された気分。

 エイブリー、そこに座れ。スウーピングエヴィルの餌にしてくれるわ。

 

 

 ==========

 

 

 

 

「貴女はどうして僕らの家に干渉するんですか」

 

 大広間を出て外をブラブラしているとレギュラスが私を追ってきた。禁じられた森に入る寸前で良かった。

 

「夏休み、貴女が来てから僕の家は荒れっぱなしです」

 

 責めるわけでもない、でも純粋に気になるのだろう。レギュラスはそんな様子だった。

 視線を少し下に向けて私と目を合わせてくれる。

 

 彼は多分、最も『ブラック貴族』から遠い人間なのかもしれない。

 

「母はよくウロウロしてます。貴女みたいな関わったことない人種と触れて混乱してるんだと思います。それと思い出したかのように怒鳴ります」

「あー、レギュラスが被害とか受けてない?」

「父は思い出し笑いが多くなりました。正直、ちょっと気味が悪い程上機嫌です。あと羽根ペンの破損数が多くなりました」

 

 答えられないという事は特に被害を受けてないんだろう。シリウスから何も言われてないし大丈夫なのだと思う。

 

「兄は急に次期当主に向けて色々学びだしました。それら全ては貴女に繋がります」

 

 レギュラスは控えめに私のローブをちょこんと摘んだ。

 

「教えてください。どうしてですか?」

「ん゛っ、ちょっと待って可愛すぎて吐血しそう」

「あ、はい」

 

 胸が一気に締め付けられたので心臓を押さえて深呼吸を繰り返す。

 ある程度落ち着いてからもう一度向き直った。顔が整いすぎているからレギュラスは神聖な物として崇めていいと思う。

 

「うーん、そうだねぇ」

 

 私はレギュラスの手を繋いだ。

 

「おいで!」

 

 スーツケースから魔法生物が現れる。

 雪すら濁った様に見える真っ白な毛並みに、氷のようにキラキラとした瞳。姿形は馬だが、額にある一角が馬ではないと証明してくれる。

 

「なっ、なぁ!?」

「私のユニコーン、名前はユニ。この自慢の毛並み、綺麗でしょ?」

 

 金色の蹄を地面に慣らし、ブルンッと凛々しくひと鳴きするユニ。

 

「……すごく、綺麗、です」

 

 ユニに目を奪われているレギュラス。握っている手をゆっくりと引いてユニの元へと向かう。

 

「っ、ま、待ってください。敬意、敬意を現さないと」

「大丈夫」

 

 私は笑いながら律儀なレギュラスの頭を撫でた。誰もが羨むほどの艶を持ったサラサラの髪を堪能するように。

 

「レギュラス、魔法生物は心から敬意を示している人間くらいちゃんと見分けられるよ」

 

 コクリと息を呑み込んだレギュラスは恐る恐る救いを求める様に手を伸ばした。

 ユニはその手を優しく迎え入れる。

 

「美し……い……」

「ユニは私と同じ年月を共に生きてきたの。ユニコーンの中ではまだまだ若輩者だけど、私は彼を見る度に世界が好きになっていく」

 

 心に響く神聖さ。魔法生物は人間とは次元のズレた尊き存在で、私はちっぽけな存在なのだと思ってしまう。

 

「魔法生物は、私達よりずっと歳上で、気高い。とても優しい存在」

 

 レギュラスはさらりとユニを撫でる。

 

「私達は共存している。スーツケースという小さな世界で共に生きている。浄も不浄も全て引っ括めて」

 

 ユニはレギュラスの体を撫でた。

 

「常に彼らと一緒に居たらさ、私は優しくなれるんだ。シリウスが、家族という小さな世界で共存出来ないのなら、助けてあげたい」

「んっ」

「それはレギュラスも同じ」

 

 可愛いなぁ、と頬を撫でる。

 レギュラスは恥ずかしそうに顔を染めるが嫌がる事は無かった。

 

「私は聖人君子じゃないから嫌いな人間とか普通にいるけど! 好きな人は大事にしたいから! それが理由っ!」

「もしかして、貴女は愚兄の事を…──」

「あっ、それだけは無いんだよね」

 

 似たような反応はこれで3回目だ。

 なんだよ、親子兄弟そっくりじゃないかキミ達!

 

「知ってるかいレギュラス! シリウスって星は2つあるんだよ」

「えっ、そうなんですか?」

「そーなの、実視連星でね、私の予想ではもうひとつのシリウスは地球と同じ位の大きさなのかなーって思ったりしてる」

「うーん、そんなに大きいんですかね」

「予想だから夢見てもいいの!」

 

 ドーン、と地面に寝転がって空を見上げる。レギュラスは仕方ないなぁ、と言った表情で私の隣に寝っ転がった。

 

 無言が続く。

 私達は何も言わずにもう1つのシリウスを探す。

 

「見えないですね」

「でも、人間はよぉーーく見たからもう1つを見つけたんだよ」

 

 冷たくなってきた空気が肺に入り込む。

 

「……」

「………」

 

 これから寒くなってくるんだろう。シンシンと雪が降り積もり、晴れた夜は空との距離が近くなって、キラキラと降り注ぐ星が見えてくる。冬は嫌いだけど、あの澄んだ空気は大好きだ。あの時期ならもう1つのシリウスを見つけられる気がしてくる。

 

「──何やってんだお前ら」

 

 無言で星空を眺める私達を覗き込んだのは、レギュラスと似ている筈なのに全く似てない可愛くない方のブラックだった。

 

「「ぶはっ!」」

 

 あまりのタイミングで二人揃って笑い始める。

 

「ふ、ふふっ、ありましたね」

「あははっ! あったね!」

 

 シリウス探し中にシリウスが現れた。あまりにも可笑しすぎる。

 

「人の顔みて笑うとか失礼過ぎるだろ……。はぁ、ほら、戻るぞ」

 

 未だに寝転がったままの私たちに手を伸ばすシリウス。チラリと一瞬視線を交えた私とレギュラスは、その手を掴んで思いっきり地面に引っ張った。

 

「おわっ!?」

 

 体勢を保てなかったシリウスはそのまま私達の間にドスンと転がり込んだ。闊歩するユニが少し心配そうに見ている。

 

「っ、あははは!」

 

 レギュラスは大声を出して笑う。シリウスは困惑した表情で私を見てくる、と言うより訴えてくる。

 

「人間は目だから! よぉーーく見ないと! もう1つは見つからないんだよね!」

「そうですね!」

 

 第一印象だけじゃ分からない、見えない所はどんな物にだってある。だから私はスリザリンだろうとなんだろうとよぉーーく見れる様に歩みを止めない様にしてる。

 そうやってよぉーーく見た結果、私はその(ひと)の素敵な面を知れる。

 

 差別意識がシリウスAなら、もう1つのシリウスBはその人の本質だ。

 

 

「シリウス見つけた!」

「み、見つかった?」

 

 私はブラックという真っ黒な宇宙に、もう1つのシリウスを見つけて欲しくて、見て欲しくて、そして私がもう1つのシリウスを見つけたくて関わりたいと思っている。

 

 オリオン・ブラック、ヴァルブルガ・ブラック。あなた達のもう1つのシリウスを知りたいから、私はよぉーーく見るのです。

 あなた達が私に語るその言葉を胸に抱きながら。




ブラック兄弟というか、主人公がドMメンタルの他に『なぜ』辛く当たる人間と付き合っていけるのかという話。

英国も米国も、先輩後輩、敬語、などといった認識自体がないので難しいのですけど、基本スリザリン生は上下関係に敬語を付けて表現していきます。もちろん丁寧な英語というのもありますが、私はそこまで英語が詳しくない。以上。

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