「よし、準備完了!」
六月に入ると、ホグワーツ城には興奮と緊張がみなぎっていた。学期が終わる一週間前に行われる第三の課題を、だれもが心待ちにしていたみたい。
代表選手は期末試験をスキップ出来る仕様らしい。私はそれを知らずに試験受けていたし、マクゴナガル先生に何も言われなかったから次の代表選手はそこんとこ要注意ね。
そして今日──第三課題が始まる日。
朝からマクゴナガル先生に呼び出された先には、家族がいた。
「ティナ伯母様!ニュート伯父さん!」
「こんにちはミリ」
「やぁミリ」
「え、アベルも来てくれたの?仕事は大丈夫?」
「もちろん来るに決まってるだろ。三大魔法学校対抗試合だからね」
「ミセスも来てくれて嬉しい!アベルの後ろに隠れる姿も美しいわ」
「ちょっとミリ。母さんにあまり近寄らないでよ」
「はいはいロルフ。分かったから」
「ミリ、いい、貴女の実力なら大丈夫だから落ち着いてするのよ」
「ありがとうクイニー母さん」
「ホグワーツってすごいのね……ニュートさんが居なければ迷子になってたわ……」
「そうなのイオ母さん。私も最初の頃はめちゃくちゃ迷子になってたの。おかげで目をつぶっても歩けるようになったんだけどね」
「み、ミリ、危険なことから逃げることも大事だからな?」
「そうだよミリそしてあわよくばアメリカに帰ろう」
「男衆は黙ってて貰っていい?」
「「ミリー!」」
コワルスキー一家とスキャマンダー一家の勢揃い。まさか家族皆やってくるとは思ってもみなかったけど。
でも会えて嬉しい〜!
んふふ、家族の応援としてスキャマンダー一家まで来てくれるだなんて、幸せ冥利に尽きるわ。
「皆さんお疲れ様です」
「お疲れ様です」
「こんにちは」
ぺこりと頭を下げたのはリーマスとセブルスとシリウス。
そう、実は教師のセブルスとその他1名はともかく、リーマスもこの日に合わせて駆けつけてくれていたのだ。
「きゃわいい……頭もげそう……」
「リーマスちゃんは大分久しぶりね、シリウスちゃんとセブちゃんはちょっと久しぶり」
「ミセスもお元気そうで」
「相変わらずお綺麗でいらっしゃる。Mr.スキャマンダーもお元気そうですね」
美しい人々が挨拶を交わしているこの光景が世界一を更新し続けている。見なよ……私の天使を……。
「あぁ、誰かと思えばあの時のスリザリンの。セブルスって君だったか」
「お久しぶりですアベルさん。在学ぶりですね。今は何を?」
「魔法省でつまらん事務仕事さ。まだ珈琲汲みの方がマシだったよ」
「──ちょいちょいちょいちょいミリ」
グイッと私はセドリックに肩を引かれた。
「なぁにセドリック。視線を背けないでいいのであれば話を聞くわ。顔を見なければならないのなら後にして」
「うんいつも通りだね。あの、聞いてもいいかい、なんで先生方が君のご家族とそこまで仲良さげなのか」
ちらりとセドリックの方を見るとエイモスとディゴリー夫人がいらっしゃった。息子の姿見てニコニコしてる。
「簡単に言うと、セブルスやリーマスや、後シリウスも学生時代家に泊まりに来ていたのよ」
「あー、噂のエミリー・コワルスキーの世代?叩き上げ世代とも言える一歩間違えたら死にかねなかった仲良いのか仲悪いのか分からないって噂の」
「そんな噂あるの?」
「うん、特に最近君の叔母さんの話はよく聞くよ。どっかの新聞記者のおかげでね」
「へぇ」
「うわ、興味無さそう。当ててあげよう、君の脳内には好みの人間しかいないから自分や叔母さんのことに関して割く余裕が無いんだろう」
「よく分かっているじゃない。流石監督生……」
あ、セドリックのことをアベル達に紹介しておこうかな。
「アベル〜」
「なんだミリ?」
「彼、セドリック・ディゴリー。ハッフルパフの監督生なの。父はエイモス・ディゴリー。アベルなら在学被っていたんじゃない?」
「あぁ、あのディゴリーさんの息子さんか。こんにちは、ハッフルパフの後輩に君みたいな優秀な子がいて誇らしいよ。アベル・スキャマンダーだ、よろしく頼むよ」
アベルはセドリックに手を差し出す。
「セドリック、彼は私の……従兄……?」
「まぁ親戚」
「そう、親戚のアベル。ハッフルパフの監督生だったの。ちなみに付いてたあだ名はハッフルパフの鉄仮面」
「ミリ」
「やだもう、怒らないでってば」
揶揄う私の頭を軽く叩くアベル。へへ、美人さんにそんなことされても興奮以外なんでもないね。
「初めまして、お会いできて光栄です。後輩としてMr.の恥とならないように全力を出します」
「君が恥になるんだったら、俺はこいつのせいで家から出られなくなるよ」
「確かに……あっ、失礼しました」
素で同意したねセドリック。
「あの、ところでスキャマンダーという姓はまさかと思いますが、彼があのニュート・スキャマンダー氏でしょうか?」
「まぁ君が教科書の著者まで覚えているのなら合っているよ」
「……ミリ、君の親戚にどえらい人がいるんじゃ無いか!!??」
「え、でもフラーは知ってるけど」
「情報に関して美形優遇を辞めて欲しいな!?」
無理。
ふと顔を周りに向けると、クラムが私の方を見ていて、目が会った瞬間呼び寄せられた。
「クラム?何?」
「こちら、僕の両親だ」
『初めましてお嬢さん。ブルガリア語が話せると聞いたので母国語で』
『こんにちは、息子と仲良くしてくれてどうもありがとう』
『大丈夫ですよ。初めまして。ミリ・コワルスキーと申します。家名はそちらだと男の子の言い方のようですので、よければミリと呼んでください』
『ありがとう、ミリ。お言葉に甘えさせて貰うよ』
『クラムはクィディッチの選手のせいで他の子と距離を取られて、人と仲良くするのが苦手だったのだけど貴女のおかげで楽しいみたいで。本当に感謝してるわ』
『お母さん!』
クラムは私と英語でよく話すようになったから1年前と比べて英語が流暢だ。
しかし両親はそこまで英語が得意では無さそうなのでブルガリア語に合わせると、穏やかそうな両親は微笑んだ。
『私的な話になってすまないが、実は……私は父をゲラート・グリンデルバルドに殺されていてね』
『ゲラート、あの美丈夫と直感が囁いているあの』
『君の親戚にそのゲラートを討ち取ったと言われるニュート・スキャマンダーさんとポーペンティナ・ゴールドスタインさんがいるように見えるのだが気のせいかな』
『全く気のせいではないですね』
そういえばゲラート・グリンデルバルドってイギリスでは一切活動をしていなかったみたいで、イギリスにいると話を聞かないのよね。
アメリカやそれこそブルガリアなんかはよく話を聞くのだけど。
『紹介しましょうか?』
『いやいやいや、こちらから声をかけさせてもらうよ』
『ミリさん、私もひとつ聞きたいのだけど』
『もちろん、なんでも答えますよ』
今度は夫人の方が私の親戚を見て聞いてきた。
『ブルガリアの純血貴族がいるように見えるんですけど、気のせいかしら?』
『全然気のせいではないですね』
アベルの奥さん、ブルガリアの純血貴族だからね。
『紹介を……』
『いやいやいやいや、私も結構ですよ。アストロノフはその、私たちの格上の方ですから』
『でも二人ともとても親切な方よ?特にクレイさんはホグワーツ出身だし、身分差とか気にしない美しい方だから。ちょっと内気だからお話が苦手ってだけで』
『……ところで君本当にブルガリア語上手いな?』
『親戚の母国語は完璧に仕上げたいじゃない?』
『なるほど』
納得していただけて嬉しいわ。
「ミリ、最後の課題は大変らしい」
「見たいね。同学年にいるマイケル・コーンが大騒ぎしていた」
「僕はもう君に『無理はするな』とは言わない。ミリは僕にとって庇護すべき者ではなく、優秀な油断出来ないライバルだ」
「あら、そう思って貰えるなんて光栄だわ」
ちなみに背後では昔話に花を咲かせている天使たちがいる。ま、混ざりたいけどなんか悪口言われてる気配がするから一旦置いておこう。
「──今夜は僕が勝つ」
「勝てるものなら、勝ってみなさい。負けないわ」
私とクラムは拳を交わした。
すると私の体に一気に重みが加わった。
「ミリ〜〜っ!ミリミリミリミリ、大変でーす〜」
「フラーに抱きつかれるなんて幸せすぎる。なぁにフラー。お義母さまを紹介してくれるの?」
「それはシマース。でも聞いてくださーい。私、ルールを聞いちゃったでーすけど」
フラーはこんなのは半泣きになるに決まってると言いたげな表情で訴えた。
「闇祓いが妨害になるらしいじゃないデースか!」
「イギリスの闇祓いは、舐めてかかれない」
「イギリスだけじゃなーいでーす!公平を?しる?きす?ために、ボーバトンの卒業生からもダームストラングの関係者からも来てるでーすよ!?」
そう。朝からマイケル・コーンがうるさいくらいに騒いでいたから分かっているのだけど。第三の課題には闇祓いまで出動するらしいの。
どういう流れでそうなったのか分からないけれど、私たちに牙を剥くのは確定だ。
ちなみにフラーの後ろでガブリエルちゃんが母親と手を繋いで手を振っていた。可愛い。愛しい。お母様まで美しいとかどうなの。目が潰れるわ。
……ん?闇祓いって。
「あの、ティナ伯母様?」
「どうしたの、ミリ」
「まさかとは思うけど、ティナ伯母様って闇祓いだったわよね?」
「ご明察。──貴女達の妨害役よ。安心して、贔屓出来ないようになっているから、全力でボコすわ」
私たちは一瞬で四人固まって肩を組んだ。
「まずい、非常にまずい」
「素早い動きねセドリック。えぇ、親戚の私が保証するけど、ティナ伯母様本当に容赦無いから安心して」
「何も安心できませーん!」
「ミリがビビるような人材が、何人も……、特に闇祓いはエリート中のエリートだ。学生身分でしか無い僕らは真正面からやり合っても勝てない」
「ちょっと約束しないか。僕らは敵対しないようにしよう。もちろん競走はするのだけど、今君らまで敵対したくない」
「同感だ」
「私もデース…。負けたくないですけど、貴方達を蹴落としてまで、勝てる自信無いデース……」
「私もよ。四人で生き残りましょう」
「エイエイオー」
「「「エイエイオー!」」」
三人は『闇祓いが妨害役として参加する』と聞いてから呪文の練習をひたすらしていたようだけど。私は早々に諦めたわよね。
ちなみに課題に鞄の持ち込みはダメだったわ。
「……。」
「……」
「……?……、…」
「……はぁ」
「……。」
課題の細かい内容をまず聞いてから対策を速攻で練りましょう。それしかないから。
それにしても円陣組んでるフラー綺麗すぎない?
「──ミリ・エミリー・コワルスキー」
「はぁい♡なぁにセブルス」
円陣からパッと顔を上げて振り返れば、セブルスのそばにリーマスとシリウスも居た。
不機嫌そうなセブルスと、視線を逸らすリーマス。それから仏頂面のシリウス。
ど、どうしちゃったの?
「気分でも悪い?何があったの?」
私が近寄れば、まずシリウスが私の肩に肘をかけ体重をかけてきた。お、重いんだけど。物理的に。
「ミリ、この課題終わったらご褒美をあげるよ。何がしたい?」
「えっそんな、そんなに贅沢なご褒美ある?待ってねリーマス、今脳内フル稼働で考えるから」
反対側の肩に手を添えながらリーマスが笑顔で覗き込んでくる。美しい可愛い。儚い系のお姉さん系美形が私の腰に来る。いや腰はシリウスのせいかもしれないけれどね。
「コワルスキー、しばらく出来ていなかった脱狼薬の改良なんだが、いくつか試してみたい理論がある。それから今年の夏はフィールドワークをしようと思うのだが」
「着いてくわ!もちろん試作もしましょう。この後でいい?」
「課題の後でいい」
セブルスは眉間に皺を寄せたままそう告げた。んぐぅ、可愛い。その眉間の皺を粘土で型とってスタンプにして量産したいくらいだわ。
「コワルスキー、ワーミーの姿を見てないか」
「彼ならクリスマスのパーティーから見てないわ。半年も会えてないの。でもあの時『僕らの賢者の石が出来上がる』って言ってたから、研究してるんじゃない?」
「賢者の石は知ってっけど、ぼくらの?」
シリウスは怪訝な顔をしたけど私に体重を預け直した。
「コワルスキー」
「セブルス?」
「──お手」
「わん」
唐突な無茶ぶりでもセブルスの為ならもちろん反応させていただきます。
「なんでそれに即座に対応出来るんだろうねぇ、君って」
「簡単な内容じゃない」
リーマスは『じゃあもっと難しいの……』と呟いたあと、口を開いた。
「セブルスの名言カレンダー、1974年8月15日」
「『褒めないでください図に乗ります』」
「セブルスの名言カレンダー1975年9月2日」
「『僕はコワルスキーと付き合ってないが?え、というかこの暴虐の限りを尽くす傍迷惑浮気性のとんでも馬鹿と誰が付き合うと言うんだ』」
「言っ……たな、多分」
「正解不正解のジャッジが誰にも出来ないことは確かだが、こいつなら絶対合ってる」
セブルスは機嫌を直すことを通り越してドン引きしている。シリウスがキモイものを見るような目で私を見て居た。
失礼だな、純愛だよ。ちゃんと一文字一句違わず覚えてるよ。
私たちが話し合っている横で、リアム父さんが深ーいため息を吐いた。
「君ら、学生相手に嫉妬するなんて大人げ無いよ」
「「「……。」」」
私の親友達ってほんとに愛おしいのね。