「ティナ伯母様の戦闘風景があんまりにもとっても麗しすぎて──ぎゃん!!!」
「ちょこまかとしぶといわよミリー?いい加減観念しなさい!」
「美人さんの言うことは聞くという信念の元生きているのだけどね叔母様、私には今言うこと聞けない理由があるのー!!」
第三の課題には妨害の闇祓いが選手の所属国からやってくる。他にいるかは分からないけれど、アメリカ……この場合イギリス?からはポンペーティナ・ゴールドスタイン伯母様が割と全力で私の妨害行為を行っている。
飛び交う美しい魔法。洗練された無駄の無い杖捌き。潜める眉も、流れる汗も、白髪が風で靡く度私の心は大袈裟なまでにときめいていく。
この心拍は代謝かトキメキか。
うん、トキメキね。脳内コワルスキーが満場一致で沸き立ってるもの。私は理性のコワルスキー、そう、今はとにかく。
「逃げるべきよね!!」
「待ちなさいミリー!」
「待てと言われて待つ馬鹿は──ここにいます。どうぞバカと呼んでちょうだい」
「プラキアビンド」
お願いされたら体が言うこと聞いちゃう……。トキメキのエマージェンシー。
伯母様は私を思いっきり縛り付けている。くっ、拘束プレイなんて興奮するわ……!最高ね伯母様。
「貴女、呆れるくらい本当にお馬鹿ね……」
はい、馬鹿です。
伯母様が私にトドメの呪文を放とうとする瞬間──
「──ミリ!フラーが君のこと呼んでるよ!」
「今行きます!!!!」
「エマンシパレ!」
セドリックが突如現れて私に呪文をかけた。
私の愛しのフラーが呼んでるですって!?そんなの行くしかないじゃない!
私は慌てて立ち上がりセドリックの後を追う。
「ごめんねティナ伯母様!」
私、セブルスに優勝しろって言われてるから絶対に優勝するつもりなの。
セドリックと共に迷路の中に飛び込んでティナ伯母様から逃げ出す。セドリックが何やら魔法を唱えて追っ手が来ないように邪魔をしているのを、私は感心して見ていた。
焦った表情で何かから逃げ続けている様子だ。
「ありがとうセドリック、さぁフラーの所へ向かいましょう!」
「ごめんそれよりも助けて欲しいんだけど」
セドリックは焦りを浮かべたまま、別の方向から現れた生物を指さした。
「ところでしっぽ爆発スクリュートの対処方法を知ってる!?」
「もちのロンよ!そういえばロンってロナルドかロナウドかどっちだったかしら!」
「今はどうでもいいから早くしてくれよ!」
どうやらしっぽ爆発スクリュートに追われていた様子。しっぽ爆発スクリュート。確かハグリッドの自作魔法生物。違法行為だけどこんな公に出すって事は色々認証とか働いていたのね。
もちろん授業で触れ合ったからには、ある程度の攻略法はある!
私はスカートを捲り上げ、ホルスターに入れていた銃を取り出した。
セドリックに投げ渡す。
私は目の前の通路が蜘蛛の糸塗れであることを見て杖を取り出していた。スクリュートはセドリックに任せて、私は蜘蛛の巣の方。
「撃って!」
「ええっと、引き金、だっけ!? どこに向けて撃ったら」
「空砲だからどこに向けたっていいわ、馬鹿でかい音を鳴らすのよ」
杖を魔法としてではなく、本当に枝としてその杖に物理的に蜘蛛の糸を巻取らせていく。
1人通れるようになれば十分よね。
──バァン!!
大きい音が放たれ、蜘蛛の糸に絡め取られながらも振り返れる。セドリックの放った空砲の音にびっくりしたのか、しっぽ爆発スクリュートは踵を返した。
「すっごいね、マグルの武器!」
「スクリュートもだけど、大概の魔法生物は生存本能があるから大きい音にびっくりして退散してくれるってわけ」
「大概ってところが引っかかるけど……」
「ご明察!」
例えば誇り高い魔法生物や短気な魔法生物だと逆効果ね!
「それから同時に闇祓いも引き付けちゃうと思うの!」
「逃げろ!!」
人がやってくる前にさらにかけ出す。蜘蛛の糸を無理やり引きちぎって先導した。
そう、こっち、こっちよ。
「こっちフラーの気配がするの、フラー!」
「えっ、うそ、ミリ?ミリでーす!クラム、ミリがいまーす!」
「なんだって」
「私だけじゃなくてセドリックも居るわ!」
蜘蛛の糸を頭につけながらも進めば、顔を赤くして息を切らしたフラーと、所々に傷が目立つクラムがいた。
「無事で良かった…」
驚くべきことに代表選手が奇跡的に揃ったのだった。
「危なかったデース……誰かが失禁呪文を飛ばしてきて」
「それをヴォくが止めた。……元々対人戦を視野に入れていたから」
「ちなみにクラムの方もわたーしが止めまーした!」
自慢するようにエッヘンと胸を張るフラーが可愛くって仕方ないわ。本当に無事でよかった。ベリーキュートすぎる。
「お互い邪魔しないという約束だったけど、そんなことより魔法生物も闇祓いも妨害も激しすぎる」
「ほんとよ、伯母様も本気で……感想はあとね、魔法生物の気配がするわ」
話しながらも走りながら道を進む。すると迷路の先から、美しいヒッポグリフが現れた。
「ミリ!後ろから闇祓いも来てる!」
「ヒッポグリフは、えー、と、どうするんだったか」
セドリックが後方を警戒していたのだけど、声を上げる。先頭のクラムが躊躇った。
「これは課題よ、課題ってことはあくまでも答えがあるって事。退けられない障害物は無いって事」
私のヒントに答えを導き出したのはフラーだ。
「──お辞儀!でもお辞儀してる時間なーんて無いでーす!」
大正解すぎてこの世の中の正解という言葉をフラーのものにすべき。語彙独占法を生み出しましょう。
私は杖に絡ませて、体に纏わせ、手で握りしめていた蜘蛛の巣をヒッポグリフのつばさに投げ捨てた。
「フラーの言う通りお辞儀をするのが正しいけど、今はそんな時間ないから蜘蛛の糸を翼に絡めさせるのが力技の戦法かな!」
「本当に力技でーす!」
「さっきの蜘蛛の糸っ、そうやって使えるんだ!?」
私たちはヒッポグリフの足元をくぐって先の道へ進む。
ヒッポグリフみたいに気品高いというかプライドの高い魔法生物って煩わしいと思うとずっと気になるタイプだから人一倍ケアに気を使うのよね。それに大空を羽ばたくタイプは羽を邪魔されるのを嫌う。特にここは迷路だから大きい動きができない、身動きが取りにくいという状態に気を取られちゃうってわけ。
「でも気を付けて、蜘蛛の巣があるってことは」
続いてのかだいです。私たちの目の前に、大きな生物が鎮座していた。
馬車馬のような、八つ目の、八本脚の、黒々とした、毛むくじゃらの人肉を好む巨大な蜘蛛。さーて、誰でしょう。
「あ、っ、アクロマンチュラ!」
セドリックが怯えたように名前を当てる。
「問題よ代表選手達。アクロマンチュラが苦手とするものは?」
私はその手段を今は取れない。
だから私はセドリックを見た。
「っ!バジリスク!」
セドリックは第一の課題のように、植木に魔法を放つ。その植木はバジリスクを模したような姿になった。
ガチガチと警戒音を鳴らしたアクロマンチュラはその姿を見て退散していく。
「は、はは、バジリスクにお目通りしたことで助かることになるとは」
「良かったわね!」
残念ながらここまで大立ち回りをしていれば自動的に人は集まってくる。
その中には当然ティナ伯母様もいた。
「ここだ!」
「くっ、ステューピファイ!」
「インセンディオ!」
「ミリは下がって」
「エヴィル!」
私は懐にしまっていた繭のエヴィルを取り出して襲い来る闇祓いを粘膜でコーティングする。
「あああもう!敵に回ると本当に厄介ねニュートの後継者!」
「光栄だわ!」
ティナ伯母様が憤慨した麗しい顔で粘膜を燃やそうとするので、まだエヴィルの拘束が効いているうちに私たちは急いでその場を後にした。
「はぁ、はぁ……しんどい……」
「つ、疲れる……」
「闇祓い1人だけでも限界だったのに……」
「えっ、3、4人くらいに襲われてたんだけど、比率おかしくない?逆にセドリックと合流するまで魔法生物の姿を見なかったくらい」
体力にだけは自信があるけど、それでもしんどいことには変わりない。
私が息を吐くと、皆がギョッとした顔で私を見ていた。何、フラー以外の視線に興味は無いのだけど。
「なんで君のとこ闇祓いそんなに多かったの?スタート位置を分けられた意味がようやく分かったよ」
「あぁ、ミリに振り分ける闇祓いを、多くしてヴォくらに魔法生物の相手をさせるためだな」
「その通り!徹底的にミリ対策デース!公平じゃありませーん!」
それは、うん、ちょっと思ってたところ。
汗ばむ額を大雑把に拭うと次の障害──スフィンクスを視界に入れる。
「スフィンクス、なぞなぞの前にひとつ問題を出させて。私の問題に正解できたら、貴方の勝ち。不正解なら、私たちを大人しく通してちょうだい」
スフィンクスは頭が人で体がライオンの魔法生物。知能がすごく高く、なぞなぞやパズルをよく好んでいる個体が多い。
きっとなぞなぞを出題させるのだろうけど、私は頭を使うのが本当に苦手なの。だからこちらから仕掛けさせて貰うわ。
「いいだろう……」
「じゃあ問題です」
私は彼の目を見た。
「私は誰?」
その言葉にスフィンクスは首を傾げる。
「ミリ・コワルスキーだろう」
「──残念不正解。私は、エミリー・コワルスキーよ」
揺るがない答え合わせに、スフィンクスは嘘か本当か疑っていたようだけど……私が本当のことしか言っていないと気付いたのか眉に力を入れて項垂れた。
「通るがいい」
「ありがとうスフィンクス、さぁ皆行きましょ」
スフィンクスが素直に道を開けてくれてよかった。私が安堵して突き進むとセドリックが疑問の声を上げた。
「さっきの問いかけは何?」
「まー、簡単に言うと、どれも不正解になる問題かな?」
「どれも不正解?」
「私は今エミリー・コワルスキーとして出場しているからミリやミリ・エミリー・コワルスキーって答えたら不正解。逆にエミリーと答えたら『残念、私はミリ・エミリー・コワルスキーよ』って返すつもりだったの。だから間違い。屁理屈ってわけ」
「なるほど……君は親戚の名前の代打で出ているようなものだったね」
実際は両方とも私だからあまり関係ないのだけどね。
どの答えでこられたって不正解に叩き込んでたわ。屁理屈こねくり回すのが得意な男の子が身近に居たものでね。
「見ろ!優勝杯だ!」
クラムが突然興奮したように声を荒らげる。
視界の先には、台の上に忽然と輝く器がそこにあった。躊躇うように全員がお互いを見る。
誰が取るのか、誰が優勝を得るのか、邪魔をすべきか、色々考えているのだろう。
「僕は……」
「辞退しまーす」
フラーが最初に声を上げた。
「私、第二の課題でミリにいーっぱい、たすけられまーした。今回の課題も、クラムに救われたでーす。だから、私以外の誰かが、取るべきです」
「僕も、思う。僕はミリに取って欲しい。彼女に沢山助けられたから」
「ヴォくは…………優勝、したい、でも」
「なら皆で取ればいいのよ」
私は3人の手を引っ掴んだ。
「私だって三人にいっぱい助けられたわ。でも私も優勝したいもの。私たち、戦友でしょ?」
いいじゃん。史上初、全員優勝。きっと300年ぶりの開催に相応しい結果よ。
「同時に、ってこと?」
「そう、同時に」
だから私たちは同時に優勝杯に手を伸ばした。
フラーの合図に合わせて手を伸ばし。ヘソの裏側のあたりが思いっきりグイッと引っ張られるように感じた。
両足が地面を離れた浮遊感。
ポートキー……!
慣れない嫌な感覚に私達4人は巻き込まれた。
「…………ハリー?」
私の目の前に、涙を浮かべているハリーがいて、血を流していた。それ以外、目に入らなかった。