ある日、魔法薬学のスラグホーン先生に呼び出された。
「「「スラグ・クラブ?」」」
「あァ、実は前々からキミたちを誘いたいと思っていたんだよ」
授業後、呼び出されたのはセブルスとリリーと私。出入口付近で悪戯仕掛け人グリフィンドール男子が遊びながら話が終わるのを待っている。
顔を見合わせた私達。
最初に口を開いたのはリリーだった。
「お誘いはとても嬉しいですスラグホーン先生。しかし、私はグリフィンドール生ですしマグル生まれ。他の上級生の皆さんを不快にさせるわけにはいきません」
謹んで遠慮いただきます。と言った様子でリリーは告げた。
私もやりたいことがあるのでなるべく時間を取りたくないので、遠慮しようと思った。
「それについては心配ない、君達と仲がいい上級生というと、ルシウス・マルフォイがいい例だろう」
「参加させてください」
「コワルスキー、そういう即答は良くない」
セブルスは深い溜息をついて、私をちらりと見た。好みの人間がいたら私は迷うことなく向かう。自然の摂理だ。間違いなく私の摂理だ。
発言を取り消すことがないと分かったのか、セブルスはもう一度深い溜息を吐く。
「コワルスキーが参加するなら、僕も参加します。一応スリザリン生として放置はできない」
「……そうね、同室としても放置できないわ。本当に私が行って大丈夫かしら」
半純血のセブルスと私ならともかく、と小さな声でリリーは不安を漏らした。本人は書き取らせる気はなかったのだろうが、私には聞こえた、むしろ聞こえないはずがない。
可愛い子の言葉は少したりとも逃してたまるか。
「大丈夫です、貴女は優秀な魔女ですから。マグル生まれでこのクラブに誘われた人間は貴女が初めてですが、それだけ素晴らしい才能を持っているのだと、マイナスからのスタートで一気に駆け上がれるほどの才能を持っているのだと自信を持ってきてください」
別の寮とはいえど寮監の先生に褒めらて悪い気になる人間は少ないだろう。リリーが先駆けとなったらこれから後の世代で選ばれたマグル出身の子が入りやすいだろうしね。
「じゃあ、私も参加させてください」
リリーは本当に可愛いなぁ!貧血のセブルスを地面に倒れる前にプリンセスホールドする所とかかっこいいのに。
「コワルスキー今失礼な事考えただろ!」
「シリウス辺りなら姫抱きしても大丈夫かな?」
「忘れてくれっ!」
私の思い出していた出来事を悟ったセブルスは真っ赤になった顔を手で覆った。可愛すぎて無理。
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「おや、セブルス。キミ達もいるのか」
特定の日を除いて不定期に開かれているらしいスラグ・クラブに初めて行くと、早速声を掛けてくれたのはルシウス・マルフォイ、つまりルシーだった。
「はい、こんにちはMr.マルフォイ」
「ルシウスでいいと言っているのにこの子は……」
ルシーは上下関係を守るセブルスの態度にクスリと麗しく笑った。
「初めましてMr.マルフォイ。リリー・エバンズと申します。いつもセブを気にかけてくれてありがとうございます」
「Ms.エバンズ、キミに会えるのを楽しみにしていたよ。まさかここで会えるとは思わなかったけどね」
天国はここにあった。
ルシーが可愛い子(限定)に心から優しくて幸せ。
「ルシーっ!」
「やァMs.コワルスキー!」
私は挨拶の終わったルシーにいそいそとブツを取り出して近付いた。
「単刀直入にこれを見て欲しい!」
私が差し出した封筒を受け取ったルシーはいそいそと中身を取り出し始めた。私のその封筒は写真がいつも入っているからね。
「こっ、これは」
「すっごく綺麗でしょう!?」
ルシーの手にした写真はシリウスとレギュラスのツーショット写真だ。
ただしユニにもたれかかって昼寝をする神聖な写真。
心做しかシリウスまで美しいと思えてくる逸品。
「驚きました、貴女どれだけ写真技術を上げているんですか? しかもこれは、マグルのカメラですね……」
動かないけど、画質は魔法界以上だろう。
ポーカーフェイスを保てないルシーは口に手を当てたまま凝視し続けている。
「ブラック家に訪問した帰り道」
「……本当はそこから問い詰めたい所ですが」
「その帰り道!」
叱られてはたまらない。無理矢理話を進めさせてもらう。
「ロンドンで伯父の迎えを待っている中、マグルの男の子と出会いまして。彼が本当の写真の撮り方を教えてくれたんです」
「なるほど、だからマグルのカメラなんですね」
ぴょこぴょこ跳ねていたセブルスとリリーがルシーに写真を見せてもらえて、そして思わず口を押さえる。可愛い。私の写真技術ではこの可愛さを100%収める事が出来ない! 師匠助けて!
「……貴女の会話能力ってどうなってるんです?」
「えっ、普通ですよー?」
「僕は人間の上限を突破してると思います」
「アメリカって大体こんな感じだけど……」
師匠にはお世話になりました。ホント師匠の写真技術は凄い。
彼の目で見る世界は私と全く違うんだと思ってしまうほど、美しくて、悲しくて、幸せで、激しい情景を1枚の紙に収めてしまう。
また会えるかなー。会えるといいなぁ。
ルシーの疑問に返事をする所セブルスは大体フォローに入る。私に対してじゃなくてルシーに対して味方になる所は解せないけど、可愛いよね。仕方ない。
「おや、皆早いね。さぁ席について歓談しようじゃないか」
軽く雑談をしているとスラグホーン先生が現れた。
部屋の中でこちらを見ながらも雑談していた人達が、何故か慌てて座り出す。別に先生が来たからってそんなに慌てなくていいと思うのに……。
疑問符を浮かべたが、ふと気になり上を見上げる。すると、ルシーは私達に決して見せない笑顔で佇んでいた。す、凄みがある。それでいて美しいとか本当になんなの。
「……」
「おや、Ms.コワルスキー。どうしました?」
「いやぁ、うん……」
ぱっと表情を変えて目を合わせてくれるルシーに苦笑いしか浮かべられない。この人、私が見てしまった事に気付いておきながら動揺した様子見せない所が私を『庇護すべき人間』に括ってない感じがするよね。うーん、同志ルシーが可愛いすぎるぞ。
「……まぁリリーが守られるならいっか」
「そういうとこありますよね」
「お互い様です」
盛大なブーメラン発言にツッコミを入れながら私は席についた。楽しそうなスラグホーン先生が一人一人と交流していく。
聞いたことある名前や交流のある名前をフンフンしながら聞いていた。有名人が多い。
「次は、そうだね、Ms.コワルスキー」
「はいっ」
「君のご両親は何をなさっているのかな?」
スラグホーン先生に聞かれて私は思わず笑顔になる。両親大好き。というか親戚もひっくるめて大好き。
それに父さんの仕事は自慢だからね!
「父は、アメリカでパン屋を開いています。行列が出来てしまうので、近隣にご迷惑をかけないように営業時間の調節をしようとしている最中なんですよ」
「……パン屋、か」
笑顔の私と対照的にスラグホーン先生は分かりやすくガッカリとした顔を見せる。少しイラッとしてしまう。
そこまで分かりやすい態度を取るならハッキリ言って欲しいものなんだけど。
「1度食べたことがありますが大変美味しかったですね……。アメリカ特有の大きさなのかと思いましたが女性でも食べ切れるサイズで、会食で出したいと思う程の味でしたよ」
落胆した様な声に被せるように発言したのはルシーだった。思わずギョッとする。
えっ、いつ来たの、いつ来たの!? 教えてよ!? 会いたかったのに!
ルシーは驚きまくっている私を全く気にしないで話を続けた。
「流石に驚きましたね。Ms.コワルスキーの腕前はここから来ているのかと。去年卒業したスキャマンダーが絶賛するわけです」
ニコニコとスラグホーン先生に名前を連ねていく。
あっ、そうか、コワルスキーって名前はアメリカの非魔法族だからスキャマンダーとの繋がりがあるってあまり知られてないのか。
「あァ、ハッフルパフのアベル・スキャマンダーか。ニュート・スキャマンダーの息子の」
「アベルは夏場アイスティーを飲むのが好きなので暑くなるとよく来ますね。イギリスには冷たい紅茶が無いので」
この発言で合ってるかな……?
よく分からなくてルシーに恐る恐る視線を向けると笑みが深まった。どうやら正解したらしい。
ホッと息を吐く。
イギリス独特の遠回しな言い方が分からないから大分ストレートな言い方になったけど問題ないならそれでいい。さりげなく仲が良いですよアピールって難しいね。
「Ms.コワルスキーは彼と仲が良いのですね。魔法生物が好きなようですし、彼のお父上と交流でも?」
「まぁアベルは従兄ですし、伯父ですから」
「なんと……!?」
流石に驚いたのかスラグホーン先生は席を立ち上がる。慌てて座り直したけど、そりゃそうだろう。普通なら全く繋がりが持てない。
「そ、そうでしたか。Ms.コワルスキーは魔法生物と魔法薬学どちらの道に進むつもりで?」
「魔法生物ですね、魔法薬学はその為の手段ですから」
「……あのレベルで手段か」
ぽつりとセブルスが呟いた。んっふ、可愛い。
「今は! ……セブルスと一緒に色々研究している最中なんです。時々リリーに手助けしてもらう事があるんですけど。ッ、今年のハロウィンは、敗北しましたけど」
普通に魔法薬学の話をしようとしたのに忌々しい出来事を思い出して顔を歪めてしまう。
セブルスもハロウィンを思い出して嫌そうな顔をしていた。
「2年生3人は魔法薬学が優秀だって聞いたよ。良かったら私も助けて欲しいね」
レイブンクロー生が空気を変えるように笑顔で言ってくれた。私でも分かるけどこれは社交辞令かな。
「彼はダモクレス・べルビィ。私の学年では彼以上に魔法薬学に精通している人物は居ないよ」
ルシーが紹介してくれるということは純血の人なのかもしれない。だって好みでは無いはず。
ぱっと顔を輝かせたセブルスが私に視線をくれた。OK、把握した。
「Mr.べルビィ! あの、僕、僕達魔法薬学で研究してて、それで良かったら見て欲しい物があるんです」
私は持っていたスーツケースの、マグルに見られても平気な方をダイヤルで回して羊皮紙を取り出した。私から受け取ったセブルスが手渡すと、彼は興奮した様子で内容を読み進めた。
「……驚いた、私が研究している内容を追い抜かれている」
「ほ、ほんとですか!?」
「特にユニコーンの角をこんなにも使うなんて、入手が難しいのに効果は確かにある……! なるほど、ここがMs.コワルスキーの腕前か!」
「もっと全体の量を少なくするにはどうしたらいいか考えているし、まだまだ効果が甘いので、それでその!」
「キミ達、私の科目で盛り上がってくれるのは教師として嬉しい話だが専門的な会話は他の時間にしなさい」
苦笑いでスラグホーン先生がストップをかける。
リリーも内容を知らないし、他の生徒もそこまで魔法薬学に詳しくないので専門会話は控えた方がいいんだろう。
でも私達3人は顔を見合わせていた。
後でしっかり話し合おう、といいたげな顔だ。
私自身セブルスと違う着眼点を持っているから魔法薬学研究の力になれるけど、やっぱりセブルスは才能が凄い。闇の魔術と魔法薬学に限っては絶対にジェームズもシリウスも敵わないだろう。
「去年引きこもって研究してるんじゃなかった。こんなにも有望な子達が入ってきて居ただなんて……」
ボソボソ呟いていたが頭をぶん殴ったルシーが物理的に黙らせた。研究者の脳みそは大事にしてあげて……。
「ははは、今日は大人しいなコワルスキー」
そう祈っていると知り合いの上級生が声をかけてきた。
「はぁいアルトリウス、最近どう?」
「駆け落ちした兄さんが家に戻ってきたよ」
緑のローブを着た上級生はリリーに似た赤毛にそばかす顔のアルトリウス・ウィーズリーだ。
ウィーズリー家も純血貴族。
ただしルシー達の様なスリザリン貴族ではなく、代々グリフィンドール家系の貴族だ。
「はーーー、これでウィーズリーの当主はアーサー・ウィーズリーになるわけか」
「ごめんルシウス」
ウィーズリー兄弟は3人で、上からアーサー、アルトリウス、アルトス、という獅子王に由来した名前となっている。アルトリウスはルシーと同じ歳で、アルトスはレギュラスと同じ歳。アーサーという話題の人物はルシーと6程離れている様だ。
シリウスに教わったんだけど、ホグワーツにはどの年で入学しても必ず『ウィーズリー』がいるらしい。
「ルシーはそのアーサーって人嫌いなの?」
「嫌いなんてもんじゃない。反吐が出ますね」
「……間に挟まれるアルトリウス可哀想」
「スリザリン寄りなウィーズリー、ちょっと胃が痛い」
アルトリウスはグリフィンドール家系なのにスリザリンに入ったからと実家でギャンギャン言われているらしい。可哀想。
「可哀想なアルトリウスに、アルトスの写真をプレゼントしよう」
「いくら弟の写真を貰ったって別に嬉し…──まってなんだこれめっちゃ綺麗に写ってんなぁ!?」
これからもグリフィンドールをよろしくという心を込めて。
ちなみにノットやエイブリーが去年のクリスマスに言っていた、マグル知識持っている純血貴族というのはこの人の事だ。
「Mr.ウィーズリーは最近何かしているのか?」
「グリフィンドールの生徒に魔法具の作り方教えてる」
私も知らない上級生に声をかけられてアルトリウスは返事をする。
彼がこの場に呼ばれたのは魔法具の才能だろう。特に付与技術が凄い、と、ピーターから聞いた。
……そう、彼が教えているグリフィンドール生はピーターだ。
「なんでペティグリューは魔法具で操られていたのに魔法具に進もうと思ったんだか……」
まだ記憶に新しい『天文台からコードレスバンジー事件』に関わったセブルスは遠い目をしていた。『自分の体が動かないって凄いよねぇ!』ってキラキラと目を輝かせていたピーターがまさかそっちに進むとは、私も思ってなかったよ。
「悪戯仕掛け人ってなんでか一癖も二癖もあるのよね」
「ため息つくリリーアンニュイな雰囲気で素敵っ!」
「癖があるのよね」
なんで2回言ったんだろう。そしてなんで周りは頷くんだろう。
私ほどわかりやすい人間はいないと思うのに。
「悪戯仕掛け人と言えばついにクィディッチデビューが近いな」
「僕はクィディッチどころか箒を折り捨てたい気持ちなので詳しくないんですけど。今年もスリザリン対グリフィンドールから始まるんですよね、伝統ですか?」
「分かる折り捨てたい〜!」
「魔法具にも敬意を払わないと心を通わせれるわけないだろう」
「……僕はコワルスキー程無機物と積極的にコミュニケーション取りに行く人間を知りませんよ」
アルトリウスが叱るが、セブルスはこちらをジトリと見てきた。
「この前エミリーったら椅子に向かって『可愛い子に踏まれる気分はどうだ』って恨めしそうに聞いてました」
「もちろん1年の時は箒に『どう乗ってあげようかな』って口説いてましたよ」
天使な幼馴染コンビが私の情報をボロンと零す。
スラグ・クラブは一体感に包まれる。
心に抱いたであろう言葉を、私は一切想像しない様にした。
天使が可愛いなぁ!
捏造、オリジナル多くて把握しきれなくなるのが今すごく怖いです。
友好範囲の広い主人公が、原作登場キャラが少ない親世代にいるんだからどうしてもオリジナルが多くなりますよね。
まぁ一般的な親世代と仲が良いって事を把握してるだけでいいんですけどね!仕方なく名前を作っているという事でごちゃごちゃしいのは堪忍してつかぁさい。