「ジェームズ・ポッター!リリー・エバンズ!!!何故、何故貴様らが生きている!?俺様はお前たちを殺した!何故蘇った!?」
ヴォルデモートは発狂したように現れた2人を指さした。
ジェームズ・ポッターはミリ・コワルスキーとセドリック・ディゴリーを抱きとめるように立ち、リリー・ポッターはハリー・ポッターとフラー・デラクールとビクトール・クラムを背中に庇った。
「ミリーのゴーストは随分色艶がいいね……まぁいいや」
「リリー……!え、歳をとっても可憐すぎるの才能では!?美しくなるのは分かるけど、可憐さを兼ね備えた淑女になってるだなんて才能が恐ろしくて堪らないわ……!」
「ついでにとってもうるさい」
やれやれと言いたげにジェームズが肩をすくめる。
ハリーはその真っ赤な長い髪を見上げ、うるりと目に涙を滲ませた。
まさか、と思った。でも体に流れる血は彼女が味分と血が繋がった肉親であると訴えてくる。
「……母さん?父さん?」
「そうよハリー、遅くなってごめんなさい。ようやく最近、起きたの」
「ふ、ふふ、あはは、そっか、寝坊助さんだね」
「嫌だわ……その言い方エミリーそっくり……」
「僕エミリーだもん」
死んでいなかった。
ハリーの両親は死んでなんかいなかった!
ハリーが感動するも一瞬、リリーが小さく『私に捕まって』と3人の子供たちに警告を促す。頷いた3人はためらいなく彼女に捕まった。
「色々挨拶したいけど、今は子供たちが優先だからね。ハッフルパフの子、しっかり捕まってて」
「は、はい!」
「──さようなら皆さん、さっさとくたばってくれると助かるかな!」
「待っ────」
バチンと大きな音と不快な浮遊感。内臓がぐちゃぐちゃになる感覚と共に、彼らの視界は一気に変わった。
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それは幻を見ているようだった。
優勝杯に手を伸ばしたミリ・コワルスキーと、残りの3人の生徒。
同時に掴み、4人は姿を消したのだ。
映像が展開されていた為、ホグワーツでは大混乱だ。
無論──友を失った者も。
「コワルスキーッ!」
その映像を見て真っ先に駆けつけたのは当然シリウス・ブラックだった。他の教師や闇祓い達も急いで駆けつけ、空になった優勝杯の空白に佇んでいる。
「コワルスキーが!コワルスキーが消えた!あぁ、お前はまた!俺の前から!消えてしま」
「やかましい」
「い゛ッッッ! スニベルス! てめぇ俺の頭をぐーで行くな!」
ブラック家はネガティブな方向に突っ走りやすい行動派だ。それを身に染みて分かっている為、セブルス・スネイプは一旦冷静に引き上げる。
「……セブルス君、少しシリウス君を黙らせておいてね」
「はい…………よろしくお願いします……」
騒がしくするシリウスをセブルスが抑え込む。その隙に割り込んだポーペンティナ・スキャマンダーは杖を何度か振るう。
「……っ、巧妙ね、魔力の痕跡無しでポートキーを作成してるみたいだわ」
「と言うと?」
「ポートキーのような複雑な魔道具は作成者の魔力が強く反映されるものなのよ。魔力の痕跡や特定を出来るのは闇祓いの基本だけど、ここまで執拗に隠されてると闇祓いでも知らない技術ね」
ニンファドーラ・トンクスの質問にティナが答え、何度調べても犯人が分からなかったのか大きく舌打ちをした。
淑女に有るまじき大きな舌打ちに、その場にいた男共は大きく肩を震わせる。
「ダンブリードール、カルカロフがいマセーン」
「……ううむ」
マダム・マクシームが辺りを見渡し、ダンブルドアは難しい顔をして髭を撫でた。
大事なものを失うことに怯えている。
奇跡のような再会と。
運命のような巡り合いと。
「ごめん!ハリーが!」
そこにもうひとりの友が現れた。
リーマス・ルーピンは真っ青な顔をして、怯えるように声を震わした。
「僕が!僕が目を離したから!」
「リーマス!ハリーがどうしたんだ!」
尋常じゃない友の様子にシリウスが慌てて向かうと、リーマスは過呼吸でも起こしたように荒く息を吐いて、それでも伝えなければとシリウスの肩を掴んだ。
「ハリーが居ないんだ!地図も彼が持ってる!ミリーはホグワーツの敷地内にいない!っ、どうしよ、どうしようシリウス!」
リーマスは対コワルスキーの逃亡劇の為、ミリ・コワルスキーのみが表示される地図を持っている。大元である忍びの地図より大雑把ではあるが、機能としてはしっかり作成されている。なんせ逃げるために作ったのだから。
「どうしよう、僕が目を離したから!」
「リーマス!ハリーがいないって、一体いつからだ!?」
「まだ30分は経ってないけど、最後に見たのはクラウチ氏に連れられてからだ!ゴーストやピーブズを頼ったけど、ハリーの姿が見えなくてっ!」
「クラウチ……!」
懸念人物だった男の名前にシリウスの魔力はより濃くきつくなる。魔法界の王族とは名ばかりではない。純血たる主に相応しい魔力の濃さに一同は冷や汗が流れてしまう。
それを止められるのは限られている。
まるで幻を見ているようだった。
まるで夢を見ているようだった。
「今はともかく、子供達を探し出して……」
──バチン
どさどさと多くの人が地面に叩きつけられる。
芝生に押し付けられ、呻き声がいくつか聞こえた。
「え…………」
本当に本当に、夢を見ているのかと思った。
彼らは友を失っている。
1人、2人、彼らをすくい上げた光のような者たち。沈み込むだけだった未来を明るく照らす光たち。
彼にとって、光は初めて出会った希望だった。
彼にとって、光は時に眩しすぎた。
彼にとって、光は目をくらませ見えなくなった。
彼らは、そんな光を失った。
彼らは、そんな光を忘れたことは無い。1日足りとも。
「っ、なんで」
喉の奥に痛みが張り付く。
彼の心臓がバクバクと訴えていた。
あぁ、これは、夢では無い。
「いててて………」
「皆無事?」
「ハリーは大丈夫デースか……」
ハリー、そしてセドリック、ビクトール、フラーが痛みにうめいて互いの無事を確認し合う。
魔法界は
「ミリー、今って西暦何年?君がゴーストになっているなんて知らなかったけど、随分縮んだんじゃない?」
「リリー♡綺麗ね♡私と結婚しましょ♡」
「エミリー、残念ながら私人妻なのよ。しかも可愛い息子付き」
「ハリーごと私が愛すから大丈夫♡えへへ、綺麗ね♡」
「すごいや、僕のことすんごい無視される」
「それにしてもエミリーのゴースト姿って器用ね……。私の好きな色のままだわ。灰色になってしまったら残念だったもの。私ね、貴女の目の色がとっても好きなのよ」
「私も好き…………」
亡霊たちがそんな話をしている。
「リリー!」
「ジェー!」
「なになになにどういうこと!!!!???」
誰もがその状況を理解出来なかった。
ジェームズ・ポッター
リリー・ポッター
闇の帝王に襲撃され、命を落としたハリーの両親。生き残った男の子と呼ばれる理由となった一因であるポッター夫婦の姿だ。
なぜそこにいるのか、なぜ生きているのか。
分からないまま、彼らは駆け出した。
「あぁ……!ジェー!ジェームズなのか!?」
「シリウス……?ははっ、君随分老けたけど、イケメンさが変わってないどころか倍増してないかい?腹立つな」
「なんで生きてるんだ!!!!???生き返ったのか!!?あぁジェームズ、会えてよかった、本当に良かった……夢では無いのか……?」
「夢じゃないよシリウス。生きてるよ」
シリウスの記憶にあるよりも少し老けて、手足もぞ細くなっている。まるで……退院したばかりのような姿だ。
それでも、こうして触れ合えていることに違いはない。
「リリーっ、リリー!」
「セブ、泣き虫は治ってないみたいね?」
「リリー、生きているのか?僕は、僕は君が居なくなってから色が無くなったような生活だったんだ、君が生きてくれているのなら僕はもう何も…っ!」
「要らないの?ふふっ、欲が無いわセブ。貴方は沢山の友人に恵まれているのに」
リリーに抱きつくセブルスの姿を見て、流石のジェームズもこのタイミングでは止めなかった。
あともう何分かすれば割って入る。
「涙すっこんじゃった……本当に何が起こってるの?」
リーマスが戸惑い、ミリの方を向けばミリは鼻の下を擦ったあと両手を広げた。
「おいでよリーマス、クレバーに抱いてあげる」
「ハリー、怪我はない?(無視)」
「う、うん。あの、ルーピン先生、彼らって本当に僕のお父さんとお母さん?」
「そう、なんだよねぇ……。死んだはずなのに生きてて、すごく混乱しているのだけど、自分より衝撃的な人達がいるから冷静になっちゃった」
「たしかに……」
「リーマスの無視痺れるぅ!そういう所も好き!」
場は混乱の渦に叩きのめされた。
闇祓い達も、誘拐された子供たちが帰ってきた事に安堵するもそれどころじゃあ無い。
割り込んで事情を聞きたいところだが、本当にそれどころじゃない。
尋常じゃないいい歳こいた大人たちの泣きの姿に流石にそっとしてあげようと思ったのだ。翌日のセブルス・スネイプのホグワーツ生活は一旦考えないものとする。
「──ソノーラス!良く聞くがいい、皆の者。今、混乱の中にいる人物は非常に多いはずじゃ。彼らはジェームズ・ポッターとリリー・ポッター。生き残った男の子ハリー・ポッターの、両親!」
動揺する声に、ダンブルドアは増幅呪文を使ってホグワーツ中に届くように声を上げた。
「死んだと聞かされている者しかおるまい──しかし!彼らは死んではおらんかった!今、この時まで、死の呪いに蝕まれ、深く深くいつ死んでもおかしくない状態で眠り続けておった!」
「ジェーッ!なんてことだ!」
「いいじゃん、起きたんだから」
「そうでは無いだろうこの大馬鹿者!」
「スニベルスの言う通りだ!結果論でしか無いだろ!」
死にかけの状態で眠り続けていた。
生きながらも死んだ状態というのは、ネビル・ロングボトムの両親と似たような状態だ。そのためネビルは顔を青くした後、目の奥に希望を見た。
するとスクッと立ち上がったジェームズはダンブルドアに軽く手を上げて立ち位置を変わる。
「ジェームズ、病み上がりじゃ。無理するでないよ」
「ありがとうございますダンブルドア先生」
混乱の最中、ジェームズは冷静に自体を分析していた。
「ソノーラス。──初めましてホグワーツの皆さん。息子がお世話になってるね、ジェームズ・ポッターだ。僕ら夫婦はつい先程、ハリーが1歳の頃のハロウィンから目を覚ましたばかりでこの状態はよく分かっていない。でもひとつだけ伝えなければならないことがある」
増幅呪文でジェームズはこれを一刻も早く伝えなければならない。
「──ヴォルデモートは、生きている」
それは魔法界全体にとって最悪の報せと最高の報せが同時に降って湧いたようなものだった。
「僕らは子供達を連れて脱出した。だから彼が何を企んでいるのか、どういう状態なのか。もしかしたらヴォルデモートが死んでいたのかすら危ういけれど、僕の見立て通りヴォルデモートは死んでいたことになっていたようだね?」
「正しくは、消滅したと言われておったよ」
「おや、それはまた……。なるほどね?まぁ、何はともあれ、皆々様警戒を怠らぬように、彼は──妻を殺した。結果論として生き延びたけれど、その行為に対して僕は少しも許せない」
呪文を切ったジェームズは、踵を返しハリーの元へ向かった。
「ハリー、おっきくなったね。苦労ばかりかけたと思うけど、僕もリリーも生きてる。だから、一緒に暮らそう」
「父さん……っ!」
感動の再会だった。
紛れもない感動の再会に、皆は涙を滲ませる。
「酷い目にあったな……」
「死んでないどころか怪我なく五体満足で帰ってこれたなんて奇跡に等しいよ」
「怖かった…………本当に怖かったデース…何がってミリが何してるか本当に理解出来なくて怖かった……」
「フラーを怖がらせるだなんてなんて罪深いのっ!私っ!」
呆然とする代表選手の傍らで、しれっとミリはコワルスキーをしている。
ジェームズは、緊張と安堵で気絶するように眠った息子をしっかり抱き抱え、その存在を見た。
「…………さっきっからずっと思ってたけど、ミリーのゴーストは流石に鮮明すぎやしないかい?」
「……。」
「………………。」
「……。」
「……んんっ」
訝しげに見ていたリリーはちょいちょいと手を使ってミリを誘き寄せる。
「エミリー」
「なぁにリリー」
「ちょっと引っ張るわよ」
ふんぬっ。
頬を引っ張られたミリは多幸感に口角を上げる。
リリーはここで流石におかしいことに気付いた。
「ゴーストに触れるだなんて……!」
「そういえばさっき僕も触ってたような?」
先程魔法界中を混乱に叩き込んだポッター夫婦に、ティナは躊躇いがちに声をかけた。
「…………ジェームズ君、リリーちゃん。その子、別にゴーストじゃないわよ」
「「えっ」」
「ちゃんと生きてるよ、リリー、ジェームズ」
微笑んだミリの笑顔は、時間が経ってしまっただけのポッター夫婦とはまた違い、取り残された過去から現れたようだった。
「おはよう二人とも。私、ずっと二人に会いたかったのよ。でも流石私の勘ね、あの墓の中にリリーは居ないって思ってたから」
ニコニコと笑っていたミリは、思い出したように顔を上げた。
「優勝杯忘れてきちゃった……、どうしよ!」
「今それどころじゃないだろコワルスキー」
「だってセブルス、私の愛しのセブルスが優勝しろって言ってたのに、優勝杯残してきただなんて腹を切るしか詫びの入れ方が無いわ!」
「やめろ!お前本当に不謹慎過ぎるだろう!」
「「え…………?」」
ポッター夫婦はこの日、起きて速攻最大級の混乱を叩き込まれたせいで1週間ほどベッドと再び親友になったのだった。