─矛盾─   作:恋音

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4-34.学生の証言

 

 とあるボーバトンの学生はこう言った。

 

「最初出会った時は、聡明で心優しくて、女の子が大好きな女の子だと思ったんです」

 

 ホグワーツは寒く、フランスの暖かい土地からやってきた生徒たちは皆凍える寒さに身を震わせていたのだという。

 すると、愛用しているという保温魔法をかけてくれて、ボーバトンの生徒達は寒さに凍える時間が少なくなったと。

 

「魔法が得意な子なんだと思ってました。でも、実際は苦手って言葉も烏滸がましい位。だから代表選手に選ばれた時は、それはもう本当に驚きました」

 

 ハッキリと物事を口にするのだろうという性格は分かっていたけれど、決定的な事が1つ。

 

「だって彼女、ゴブレットへの投函が終わるまで、ずっとボーバトンの誰かと一緒にいたんですよ。私たちも最初は疑いましたけど、彼女のアリバイと、何より校長先生が一緒にいたことから徐々に『本当に巻き込まれただけなのでは無いか』と思う生徒が多く。多分、ホグワーツやダームストラングより誤解が溶けるのは早かったんじゃないでしょうか」

 

 そもそもアリバイのほとんどがボーバトンの生徒。だから余っ程の事がない限り彼女が先生から羊皮紙を受け取りゴブレットに入れることは不可能だ。

 

「私たちって、どちらかと言うと陰湿で。謝っても関係を修復出来るかは分からなくって。だから一部の人があの子に……ううん、私も疑っていたので、謝ったんです」

 

 するとクスクスと笑った生徒は頬に赤みを浮かべた。

 

「そしたら『フラーにそんな風に考えてもらえる私ってすごく幸運で恵まれてる!』って喜んでくれたんです。謝られたことでも、信じたことでもなく、私がミリの事を考えたからって。たったそれだけで。あの子にとって多分、『好意』も『憎悪』も方向性が違うだけで同じ丈にあるんだって気付いたんです」

 

 彼女は愛に溢れた人間だ。

 感情に鈍いわけではなく、鋭いからこそ悪意の裏側にある関心にさえも気付くし愛おしいと抱きしめてしまう。

 

「だから……。多分闇の魔法使い達に対する態度も、私たちに対する態度とそんなに変わらないんですよ。本人が悪い事をした、いい事をした、そういう尺度がそもそも違う。間違えたことに対する許容範囲が違うというか、ミリにとって彼らの経歴や所属はとっても些細なことで、気に止める理由が無いんだと思います。……私たちが犯した嘲笑が彼女にとっての傷にならなかった様に」

 

 フラー・デラクールは祈るように手を握りしめて、頭を下げた。

 

「ミリの説明会に私がこっそり隠れて参加したことを先生方はご存知だと思います。私はその時、ミリの事ちょっと人知の理解が及ばない場所にいる存在なんだなって思いました。」

 

 

「お願いします、彼女は、ミリは闇の魔法使いなんかじゃないんです。絶対に。闇の帝王の復活に力を貸してなんかないと誓います」

 

 

 

 

 ==========

 

 

 

 

 とあるダームストラングの生徒は言った。

 

「彼女は清濁併せ呑む性格なんだと思う。そしてとんでもなく優秀で、とんでもなく理解が及ばない」

 

 天才と馬鹿は紙一重という様に、彼女もまたそうなのだろう。理解が及ばないレベルに高度で、理解したくないと思うほどに繊細で大胆だと言う。

 

「かつてホグワーツに在籍していた叔母が闇の帝王に殺された、という時点で……まぁこの十年はそのような人間は多いだろうが、その悲劇の大きさに尺度は無いと思う。そんな親戚と名前と同じだったからこそ、彼女の悲劇は始まってしまった」

 

 単に名前が同じだからと、最高学年にしか許されない難易度の課題に4年生という未熟な年齢の子が参加せざるを得ないというのは流石に同情したが、第一の課題ではフォローに回るどころか、不利な状況にも関わらず自分がフォローされたと語る。

 

「彼女にはとても救われました。彼女にとって僕は好みではないのに、彼女の親切にはその垣根が無い。課題が続き、第一の課題からあった彼女の優秀さを目の当たりにしました。末恐ろしく、皆が警戒するのも分かる。僕の校長は重度の純血主義で、彼女の事を馬鹿にすると思っていたのですが、彼でさえ口を閉ざすようにしていました」

 

 ソワソワと足が行き場なく何度か地面を叩く。それは不安感から来るものか恐怖から来るものか、パッと見では判断出来ないだろう。

 

「第三の課題の最中、僕らは互いに優勝を目指し優勝を譲り合った。折衷案として一緒に掴むことを提案したのは彼女だ。彼女の、ミリのせいだとは思っていない。おかげで、僕らが巻き込まれた。証人が増えたと言っても過言では無いだろう。……ポートキーになっていた優勝杯で飛ばされた先には、身の毛もよだつような空気に満ちていた。ハリーポッターが墓に縛り付けられ、周囲には不気味な仮面をつけた魔法族が両手で数え切れないほどいた。ハリーポッターは軽症ではあるが血を流していて、仮面を外した三人の男がいた」

 

 ひとりはピーター・ぺティグリュー。

 ひとりはバーテミウス・クラウチ・ジュニア。

 

「──あれはヴォルデモートだ。僕らが飛んできた時には、既に復活していた。僕らは課題をしていて復活に関与なんか出来ないし、ハリー・ポッターもあの状態では何も出来ない。真実薬(ベリタセラム)を飲んだって良い、僕らは、ミリは何もしていない。ただそこにあることを咎めなかった、ただそれだけだ」

 

 真っ直ぐな目を向けていた生徒は、次第に視線を逸らした。

 

「闇の帝王は恐ろしく、一目見ただけで死を覚悟した。こちらに視線を向けられれば間違いなく邪魔者だと殺してくると確信した。ハリーポッターと、それから囮としてミリが奴らの視線を集めなければ、僕達は死んでいただろう。……情けない話だ、年下の女の子の背中を僕はずっと見るしかできなかった。咄嗟に動いたのもセドリックで、守ったのはミリだった」

 

 ミリへの信頼はあるが、己への不甲斐なさを実感しているのだ。ビクトール・クラムはこころから浮かび上がる嫌悪をグッと押しとどめて言った。

 

「英語をしっかり聞き取ることが出来なかったが、確実な事として、ヴォルデモートは彼女の事をエミリー・コワルスキーと呼んだ。そしてジェームズ・ポッターとリリー・ポッターが突如姿くらましで現れ、僕らを競技場へ戻した。それからもうひとつ」

 

 

「イゴール・カルカロフ校長の姿が、無い。疑うべきはミリではなく僕らの校長だ。ずっといけ好かないと思っていたが……狙われていてずっと一緒にいたミリより疑うべき人間がいる」

 

 

 

 

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 とあるホグワーツの生徒は言った。

 

「ぜっっっったいに、何も分かっちゃいない。彼女が2年の時に出会って、それから今年1年割と近い位置にいたけど、それでも理解してはいけないという事を分かっちゃいないんだよ皆」

 

 初対面でバジリスクに巻き込まれるという類を見ない特大事故に出遭った生徒は呆れたように、怒る様に深く息を吐いた。

 

「ホグワーツは間違いなく、彼女が選ばれた事に憤慨していただろうけど、ダームストラングよりはマシだった。何故かって?ミリ・コワルスキーが何たるかをよぉく知っていたからだ。特にブラックの当主であるブラック先生があそこまで苛烈に反対しているのに、彼が協力して出場選手にするわけがない。エミリー・コワルスキーの名前が書かれた羊皮紙はブラック先生の物だったんだろう?」

 

 盗むのは別だけど、確信がある。それは盗むなんて真似はせずにあの子なら確実に真正面から『寄越せ』と言っただろう、ということに。

 

「第一の課題がドラゴンと知った時、僕は何も心配しなかった。第二の課題が『得意分野』だって言うから、あの卵が魔法生物に関係する何かだってことを知った。第三の課題では、闇祓いに追われながらも魔法生物の対処を指し示してくれた。ミリ・コワルスキーって人間を『ホグワーツ4年生』として扱うには常軌を逸してる」

 

 魔法生物に関しては最早語るまでも無い。

 ただ、まだあくまでもここまではギリギリ常識の範疇に掠っている。入ってはいないが。

 

「問題はあの変態性。ポートキー?どうせハリーが危険な目に遭ってると無意識で察知したミリが飛んで行ったというほうがまだ説得力がある。そう思いませんか?僕は思う、というかホグワーツ生はそれが真実でなくても真実だと思っていますよ。ミリ・コワルスキーならやる、やってしまいますって」

 

 知れば知るほど現実味の無い方が『ぽい』のだ。考えうる方法の中で、一番有り得そうな選択肢は一番無い。

 

 生徒は頭の中で少しずつ思い出していた。

 

「最初飛ばされた時、ミリはハリーを酷く心配したあと、あの人に軽く挨拶をしました。1年の時だから3年ぶりだ、と。それからあの人の呪文を受け、飛ばされた。それからそこにいたアラスター・ムーディ氏に化けていた……あぁバーテミウス・クラウチ・ジュニア。彼に杖を向けられたあと……ミリは死喰人一人一人に向かって話しかけていきました。まるで、僕らに視線が向かないようにするために。その間に僕はハリーの拘束を解きました」

 

 ミリの行動にツッコミどころは内心多かったが、その時の緊張はそれを上回っていたのだという。

 

「それからミリはヴォ……あの人に声をかけた。『私は誰か?』と。そこからフレンドリーに話しかけ始めましたが、元々知り合いなのか、知り合いのフリをしているのか、そこら辺は考えるだけ無駄なので割愛します。僕はその時には気付かなかったのですが、僕らのそばに来たミリはこう言いました。『自分が死ぬ直前まで引きつけるから、フラーとハリーを逃がせ』『信頼出来る人はハリーが知っている』と」

 

「……気付かなかったんですよ。その考え方に。だからそれを聞いた時、あぁ、ここでミリは死ぬつもりなんだと、僕らは皆気付いて絶望しました。ハリーは理解出来ていなかったのかもしれませんが」

 

 不甲斐ないと言うのは簡単だ。彼はバジリスクに巻き込まれた時もミリに庇われ、その背中で守られていた。

 たった1回だけは必ず守ると言ってくれた。それは命をかけて、ということ。今回は『死ぬギリギリまで』と言った為、少しは成長したのだと思いたいのだ。

 

 まるで愚痴のような懺悔が口から溢れ出る。

 彼は成績優秀な監督生と言われながらも先輩らしいところを見せられていないことに呆れの方が先に来ていた。

 

 しかしその安堵感に頼りっぱなしになっていては終わってしまう。

 

「彼女はエミリー・コワルスキーとして接した。死喰人達の世代は彼女だろうから。同じくそこは割愛します。多分引っ掻き回せればラッキーってつもりだったんだと思います。彼女は大胆に、僕らを逃がした。そしてクルーシオを浴びたんです。僕らが見つかったから、それを庇う為に。もちろん課題を見ていた先生なら彼女の手袋が強力な物だとご存知でしょう……。だけど僕はいくらちゃんちゃらおかしいミリだとしても、置いて行けなかったんです。空っぽの拳銃と未熟な魔法では足手まといになるかもしれないけれど、僕のプライドに関わりますから」

 

 セドリック・ディゴリーは真っ直ぐ前を見た。

 

「死んだと言われていたジェームズ・ポッターさんとリリー・ポッターさんが助けに来てくれるまで、僕らはミリ・コワルスキーに守られたんです。僕の記憶を見ても分からない事は多いかもしれませんが、守られた僕らは必ずミリを庇います。彼女に錯乱呪文を掛けられていることも無いと断言します。だから、どうか平等で正しい判断をお願いします」

 

「僕はハッフルパフ生です。これからミリやハリーに訪れるであろう人の目から守ってあげたいんです。そのための壁にならなります。……あー。やっぱりミリは無しで。きっと美人や可愛い子からの視線だやった、って喜ぶでしょうから。ですよね?」

 

 

 

 ==========

 

 

 

「ヴォルデモートやピーターさんの事は正直どうでもいいんですけど、ミリって本当になんなんですか?ダンブルドア先生?」

 

 とあるホグワーツ生の問いかけに、とある校長は聞きたい。

 

「──わしが聞きたい。本当に心から」

 

 思ってたよりも親しそうなんじゃが?

 

 世間にどう誤魔化すべきなのか頭を抱えた。

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