─矛盾─   作:恋音

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4-35.会いたかった

 

「──だから、私は全然何も知らなかったのだけど、とりあえずハリーとフラーとその他は逃がさなきゃならないでしょ?」

「言い方を気にしなさい」

「で、ノット達が居たから話しかけて注意逸らしたんだけど、まぁ楽しかった。おもに発狂してる同級生たち。きっと私があまりにも可愛すぎたのよね」

「十中八九生き返っとるせいじゃよ」

「本当はヴォルちゃんにでも送ってもらおうかなって思っていたのだけど、拒否られちゃったわ。そこでジェームズが足としてやってきて──愛おしい愛おしいリリーがハリーとフラーを抱きしめていた。あとついでにビクトール。眼福」

「……はぁ」

 

 事情聴取というものをダンブルドアから受けていた私。ダンブルドアは呆れたように深く深くため息を吐いていた。

 

 リリーとジェームズはまだ眠っているみたいで、教員たちは慌ただしくバタバタとしており、ヴォルちゃんの事も正直よく分かっていない。

 

 

「おおそうじゃミリ、先程ハリーの地図にクィリナスの名前が載っての」

「え、そうなの?私のカバンどこ行ったかと思ってたの」

「どうやらバーテミウス・クラウチに化けておったジュニアが」

「クラウチ・シニアに化けていたバーテミウス・バーティ・クラウチが何?」

「……お主の好みのバーテミウスが『魔法生物のカバン』は危険だと思って遠くにやっていたようじゃ」

「私の所有物に触れるバーティのなんと可愛」

「そこで!!!クィリナスが姿くらましでホグワーツのギリギリの範囲まで到着し、大人しくカバンの中で待っておったよ。後で褒めてやるんじゃ」

 

 まぁクィレルも指名手配中だから下手に見つかれないし、闇祓い達がビュンビュン過ごしているからね。

 

「……他の代表選手はミリのことを庇っておったよ。彼女は闇と通じているわけではない、と」

「いい子達でしょ」

「うむ」

「まぁダンブルドアは知ってるでしょ?特に弁明とかしなくても」

「そうなんじゃが、腹立つの……。時にミリや、お主があの場に飛ばされたことについて、何を知っておる?」

「…………どうであれ答えはひとつよ。私()天使のために行ったの」

 

 私にそうして欲しい誰かが居たように。

 私のためにそうして欲しい誰かが居たように。

 

 だから私は愛という免罪符を元に彼の好感度を上げに行ったの。

 

「ふふっ、幸せ」

「……楽しそうじゃなあ、人生」

「せっかく生き返ったのだから楽しまなきゃ損じゃない?まぁ死ぬ前も後悔しないほど楽しんでいたのだけどね」

 

「ミリや。かつてお主に寮の垣根について話したのを覚えておるか?わしは、お主の考え方そのものに感銘を受けておるよ。お主の言葉を聞いて、寮杯というものに」

「──覚えてないわ」

「だろうと思ったわ……」

「何年前の話だと思っているの?」

「お主、セブルスの入学の様子は覚えておるか?」

「全体的には中間でも悪戯仕掛人の中では1番最後に呼ばれたの、セブルスの名前が呼ばれた瞬間一瞬手足が同時に出たんだけど、4歩歩いたところで無理やり直して歩いていったわ。椅子に座る時には左回転で前を向いて、裾を直さずに座ったから後で少しシワになってたみたい。帽子がスリザリンと言い放った時、顔を青いまでは行かずとも暗い顔をしていたけど、今思えば友達想いなセブルスってすごくスリザリンと似合うし肌色も青より暖かみがある緑だからそこまで悪くならなくて──」

「さて、着いたからリリーの元に行ってくるんじゃ」

「リリー!」

 

 実はダンブルドアの拷問を受けながら廊下を歩いていただけなので、私はダンブルドアを後回しにして医務室の扉を開いた。

 え?拷問じゃなくて尋問じゃないかって?分かってないわね、特に好みでもなんでもない先生とサシで雑談しながら歩くのよ?しかも天使に会うためのブロードウェイなのに。そんなの精神的苦痛で慰謝料請求出来ちゃう。

 

「呼ばれずとも登場、貴女の愛の代名詞、コワルスキーです!失礼します」

「Ms.コワルスキー、本当に失礼なので静かに入ってくださいね?ちなみに貴女、怪我はありませんよね」

 

 心配性のマダムは私の様子が気になるみたい。きゃっ。愛されてる。

 

「貴女が一番怪我しそうな状況だったのにも関わらず無傷なのが解せないからですよ」

「なんてこと……」

 

 全部避けたら怪我なんてしないじゃない?

 

「ところでマダム、リリーとその他は」

「Ms.コワルスキー、貴女は知らないでしょうがリリー・ポッターにはジェームズ・ポッターという伴侶がいるのですよ。せめて手を出すのは同級生までになさい」

「分かったわ(分かった)」

 

 つまりリリーには愛を囁いていいということね!

 二世代に渡って同級生してる世紀の愛の使者ことコワルスキーちゃんだもの。

 

「医務室では、お静かに」

 

 ダンブルドアが気を使ってくれたのか、マダム・ポンフリーはダンブルドアと一緒に医務室を去っていった。

 

 私は身だしなみを整えて一息吸い込むと、医務室の中に向かって声をかけた。

 

「えっと、カーテン捲ってもいい?」

「ふふっ、いいわよ」

 

 カーテンの向こう側から天使の微笑み声が聞こえて、心臓が思いっきり爆発した。

 

「しっ、失礼します!」

 

 ガラッとカーテンを開けるとそこにはまだ夢の名残を纏ったような仕草で微笑んだ天使がいた。

 

 

 

 肩先にかかる髪がさらりと揺れ、その一房一房が光を含んで淡くきらめいて、部屋の空気を暖かくするような温もりがあった。

 平均より痩せている頬に刻まれるわずかな陰影さえも、その人の生を肯定するようで、むしろそこに至るまでの物語が、彼女の美しさを一段と深く濃くしている。

 

 伏せていた睫毛が持ち上がり、覗いた瞳はそれでいて人を惹きつけてやまない鮮やかさを宿している。瞬きの度にまつ毛が絡まるその音ですら私にとっては福音で、魅力に取り込まれた私は心臓をかなぐり捨てるような衝動に襲われた。今だけは心臓の音が邪魔だ。

 

 近づきがたいほどの完成された美しさの中に、思わず肩の力を抜かせるような温度が混じる。その絶妙な均衡が、彼女という存在をただの美しい人では終わらせてくれない。

 

 あぁ、リリー・エバンズだ。

 私の愛しいリリーの姿だ。

 

 想像なんて烏滸がましいくらい美しくて、脳内の美化再生なんて彼女の前では無駄どころか足を引っ張ってく。

 

 

 ほんの少しだけ首を傾げる仕草をするリリー。

 

「エミリー?」

「無垢な気配と目覚めゆく美しさが交差してまるで朝露を含んだ花がひらく直前のように儚くそれでいて確かな存在感を放っている頃のリリーとは違って、積み重ねた歳月の気配と鮮やかな生命感とが重なり合う佇まいがまるで陽を受けて艶を深める花がなお色を増していく最中のように揺るぎなくそれでいて一層濃い存在感を放っているリリーも最高に好き…………」

「寝起きにだいぶしんどい濃さね。セブ達から聞いて覚悟はしてたけど」

 

 今ここで私は、貴女に求婚したい!!!

 

「──結婚しましょう、リリー!」

「ジェームズに似てきてるわよエミリー」

「知らない男の名前ね」

 

 大好きな大好きなリリーが今私の目の前にいて触れ合える距離にいて笑ってくれている。なんて、なんて幸せなの。

 涙が出てきて視界がぼやけそうになるのを死ぬ気で堪える。美しいリリーの姿をマジマジと見れるのにぼやけさせるだなんてもったいない真似はしないわ。

 

「…………、コワルスキー?」

「えっセブルスの声!????」

 

 声の方に視線を向けると、リリーの後ろにセブルスとリーマスが居た。

 彼らは心底驚いたと言わんばかりの顔をしている。驚いた顔もめちゃくちゃ可愛い。ちゅっ。可愛くてありがとう。

 

 え、というかいつの間に!?

 

「……すごいな、僕のこと見えてなかったのか?」 

 

 セブルスは思いっきり目を開いて口を半開きにし、手も中途半端な位置で止まったままだった。リーマスが隣で同じように驚いていたけれど、彼は一足早くいつも通りの様子に戻った。

 

「スネイプが俺みたいなこと言ってら」

「ミリー、僕らずっと居たよ。君はもっと見えてないと思うけど、シリウスとジェームズもね。君がいると色々混乱するから、先に話していたんだ」

 

 き、気付いて無かった……。

 

「天使の姿が目に入ってなかっただなんて、正直今まで犯したことない大罪すぎて自分でも思いっきり混乱してる」

「そりゃ仕方ないよ、そんな華のない男共と比べて──僕の花嫁と来たら!世界中を虜にしたって可笑しくないほど可愛くて美しくて!」

 

「リリー、元気してた?寝込んでたって聞いたけど、体調はどう?」

「平気よ、知恵熱だもの。寝起きに詰め込まれた情報量に正直着いて行けてなくて、子供の頃の夢を未だに見てるみたいな気持ちだわ」

 

 真ん中頭みたいなリリーもすっごく可愛い。

 

 

 

「ミリー?古い再会をしたのはリリーだけじゃなくて僕もなんだけど……?

 

 ──エミリー・ジェニー・アウローラ・コワルスキー?」

 

 

 ジェームズが呼ぶ懐かしい私の名前に思わず振り返った。

 

「私、ジェームズにミドルネーム名乗ったことあったっけ?」

「たまたま知ったんだよ、そう、七年も一緒にいて、たまたま」

 

 ジェームズはリリーのベッドに座って私の目を真っ直ぐ見た。

 

「たまたま、君の墓前でね」

 

「…………ジェームズ、なんか、怒ってる?」

「別に」

 

 スっと視線を逸らしたジェームズだったけど、天然パーマの頭をぐちゃぐちゃと掻きむしったあと、再び私を見た。

 

「嘘だ、やっぱり怒ってた。君が勝手にいなくなって、こいつら全員泣かせて、リリーをあんなに泣かせて、僕は君にすっごく怒ってた」

 

 ジェームズは投げつけるように次々と疑問を口にする。

 

「君の好きな食べ物は?」

「ホグワーツに来る前はどんな生活をしていたの?」

「風邪を引いた時はどんな風に過ごしてた?」

「好きな服は?」

「嫌いな食べ物は?」

「怖いものって何?」

「バーに入ったら最初のお酒は何を飲む?」

「理想の家は?」

「得意な賭け事は?」

 

「僕は、エミリー・コワルスキーの事まだまだ全然知らなかったよ。大人になったミリーのことも、全然知れなかったんだよ……!」

 

 大人になったジェームズは子供のままの私にそう言った。

 

「…………私は、ミートパイが好き。母さんの作ったミートパイ。それから兄さんの作ったココアも好き」

「それで?」

「ホグワーツに来る前は、魔法生物のこと魔法生物だって知らなくて、頭おかしい子だって言われてたけど。正直全然気にしてなくて、近所の家の外壁に落書きして沢山怒られるくらいにはヤンチャだった」

「意外だね」

「風邪を引いた時には鼻から来るの。鼻が詰まるから苦しくって。父さんが良くはちみつ入りのジンジャエールを使ってくれて、あとチキンスープも良く食べてたかも。兄さんが死にそうなくらい泣き喚くから、健康だけは気を付けてたわ」

「リアムさんなら確かに」

 

 ゆっくり、ひとつずつ存在を確かめるように軌跡を辿って行く作業。

 私にとっては思い返しているだけなのだけど、ジェームズは落し物を見つけたような、それを拾い集めるような顔をしていた。

 

「嫌いなものは……ブラックプティングは最悪だった。イギリス料理って奇抜で激しくて、最悪。でもうなぎのゼリー寄せは意外とイケる」

「良くイギリスで生活出来るね」

 

 

「怖いものは…………皆が、離れ離れになってしまう、事だわ。すごく、怖かった。仲違いをして、傷付けあって、話さなくなって、疎遠になっていく。それがすごく怖い。──でももう信じてる」

 

 ジェームズは、安堵していた。

 

「……本当に、エミリー・コワルスキーなんだ」

 

 小さく零れた言葉に、むず痒さと罪悪感を抱いた。うぐぐ、なんか、湿っぽい。

 

 

「エミリー」

「はいっ、なぁにリリー」

 

「私ね、貴女が好きよ。大好き。誰にも渡したくないくらい」

「私も大好き……!」

「知ってるわ」

 

 聖母のように微笑むリリーに私の中のバブちゃんが産まれてくる。

 

「でもねエミリー。私、ジェームズと結婚しちゃったの」

「ショック!」

「でしょ〜?あはは、エミリー、貴女の顔、酷い顔だわ。絶望した顔して、本当に私の事大好きなのね。悪戯にしてはやりすぎちゃったかしら?」

「リリーの悪戯は可愛いから悲しい気持ちと可愛くって嬉しい気持ちとか戦ってて今嬉しい気持ちが優勢の所……」

 

 リリーは私の手をそっと取った。

 

「私はね、魔法界にとっては孤児も同然だったの。純血や生粋の魔法族こそがちゃんとした身元のある人で、マグルから来た私みたいな人間は、言い方を変えればスラムから来たような後ろ盾も何も無い孤児」

「それは違……」

「違うって言い切れる?」

「言い切りたいっ」

「そこで言い切るとも言い切れないとも言わないエミリーのこと本当に好きだわ……。でね、エミリー。私、1度も、この世に生まれて一度も、一度も酷い事を言われなかったの。貴女が隣で盾になって光になって照らしてくれいたから」

 

 懐かしむリリーの顔に少し陰りが見えた。

 拗ねるような顔をして、リリーはほんの少しだけ目を伏せたあと、再び笑みを浮かべた。いや、貼り付けた。

 

「最後の年、首席になってしまって、誰かから『穢れた血』だとか『マグル生まれ』だとか言われると思ってたのに。皆……私の事リリー・エバンズとして見てくれた」

 

 それは私の成果じゃなくてリリーの人徳と明るさと魅力が成せたこと。

 私のおかげでも、私の力でも無い。

 

 首を横に振る私に、リリーは予想をしていたと言わんばかりに今度は明るく笑った。

 

「私、正直に言うと差別が怖かったのよ。ううん、ずっと怖いの。今もまだずっと」

 

 『私は差別される側だから』と言わんばかりの言葉。ホグワーツで一度も酷い事を言われなかったと言っていたから、入学前には何かあったのだろうか。

 

「この世には想像出来ないほど頑固で差別的な人もいるのよ?ねぇセブ?」

「…………聞こえない」

 

 いたずらっ子の笑顔を浮かべたリリーと目線を逸らしたセブルス。なるほど、幼馴染の内緒のお話だったわけね。尊いよ。

 

 

 クスクスとからかい終わったリリーは、改めて私に向き直った。

 彼女の纏う空気がなんだかちょっと違う。

 

「ねぇエミリー」

「なぁにリリー」

 

 リリーは息を小さく飲み込んだ後、長いまつ毛から緑の瞳を覗かせた。新緑を思わせるようなみずみずしい緑だ。

 

 私の大好きなリリーの色だ。

 

「私貴女と出会えて本当に良かった。私の頑固な正義感が凝り固まってしまう前に、貴女が解して柔らかくしてくれた。誰かさんの頑固な価値観が、今では見る姿もなく崩れ去っていった」

 

 祈るように私の手を強く握りしめた指先がカタカタと震えていく。

 

「諦めないで、信じることを、貴女が見えない糸で紡いでくれた。愛してくれた。愛せた」

 

 

 

 リリーは力強く、幸せだと、涙を浮かべながら。

 

「──でも貴女が居なきゃ意味がないじゃない!」

 

 泣き叫んだ。

 

 

「そんなの、っ、綺麗事なんてどうでもいいのよ!本当は私ッ、子供っぽくって、嫌なことを全然許せないの!勝手にエミリーに好きでいて貰えるように、気を張って!ソワソワしながらエミリーの一番になれるように頑張ってたのに!本当は、本当は……っ、ずっとずっと、エミリーに憧れてただけなのに……」

「リリー……」

 

 リリーの感情が理解より先に胸に深く深く突き刺さった。

 

「どうして勝手に私の前から居なくなっちゃったの!私が生きてる事をエミリーは気づいてたのに、なんで私はエミリーが生きてる事に気付けなかったの!バカ!バカバカバカバカ!エミリーのバカ!なんで、なんで信じれるの!」

 

 私にずっと教えてくれていた。

 自分の命を大事にするほど、大事な人を、特別な人を見つけてって。ずっと教えてくれていた。

 

「私っ、もっと貴女と一緒に子供として生きたかった!一緒に、ずっと一緒に、少しづつ大人になりたかったのに!」

 

 私がいなくなって悲しむ人がいるから、その人を悲しませないためにも生きて欲しいと。生きることに執着して欲しいと。

 

「同じ時間を、同じ速さで生きたかったの!」

 

 今、大事な人を悲しませている。

 

「あぁ、エミリー。貴女が生きてくれてすっごく、とんでもなく、世界が変わるくらい嬉しいのに、なんでエミリーのまま生きてくれなかったのって、悔しくて悲しいの」

 

 私が彼女をここまで泣かせてしまった罪悪感の中にリリーが私のせいで泣いてくれているという仄暗い喜びがあって、頭がおかしくなりそうだ。

 

「エミリー、エミリー!」

「リリーッ」

「もう置いて死んだりしないで……!」

「うん…っ、うん、絶対!」

「貴女が死ぬ時は、私の墓守を20年してから、死になさい!」

「光栄過ぎる役割だわ…!」

 

 愛おしい私の親友。

 お互い涙でぐちゃぐちゃになりながら、強く強く抱きしめ合った。

 

 ──あぁ、本当にずっと、会いたかった。

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