─矛盾─   作:恋音

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5-5.首席の答え合わせ

 

「じゃあ、後片付けしてくるから」

 

 そう言って去っていった問題児を止めるすべもなく、彼らは見送った。見送るしかなかった。

 

 

──ヴォルデモートって誰?皆知ってるの?

 

 

 彼女が言った言葉は世間が抱いている謎そのものだろう。闇の帝王が何を企んでいて、一体誰で、どんな存在か。

 普通のホグワーツ五年生であればその疑問は、まぁ有り得なくもない。

 

 

 

 

 

 

「やばい」

「こいつまじか」

 

「──ここに来てヴォルデモートの存在を理解していない馬鹿がどこにいる!?そこにいたなちくしょう!!!!」

 

 初代悪戯仕掛け人はこの事態の不味さにまっさきに気付いた。

 

 

 そう、彼らはかつて学生時代。『ヴォルティーグ』と名乗った男。彼こそが『ヴォルデモート』本人。

 エミリー・コワルスキーを殺した張本人であり、ジェームズ・ポッターとリリー・ポッターを手にかけた、因縁浅からぬ相手だ。

 

 ヴォルデモートが誰か?

 本名こそ知らないものの、彼らはヴォルデモートのことをよく知っている。

 

 

 好きな物、嫌いな物、癖、正確、口調、どのような魔法が得意か、どんな魔法生物が嫌いか、存外顔に出るあの男のことを、悪戯仕掛け人は知らないわけがない。

 

「……まさか、ここまで馬鹿とは」

 

 スネイプがそう口に出すのも仕方ない。

 

 ミリ・コワルスキーが一年の頃から、いやエミリー時代からその片鱗はあった。

 うん、出会った頃からずっと馬鹿だ。

 

 だがミリは純粋なホグワーツ五年生ではなく、七年(特濃マシマシ)+四年の、五年生。

 

 

 

 

 それだと言うのに。

 

 

 ──まさか『ヴォルちゃん』がヴォルデモートだと気付いてない!!??

 

 

 復活を目の前にしておきながら!?

 

 

「ヂッ…」

 

 ネズミのピーターはあの復活の夜を思い出していた。確かにね、確かにあの人のことを『ヴォルデモート』だとは誰も言ってなかったよ。

 あるとしても呼称は『我が君』『闇の帝王』『例のあの人』だ。

 

 

「いやたしかにな、たしかにな、去年俺が『ヴォルデモートに狙われるならハリーもお前も大差ないだろ』って言った時に、『こいつ何言ってんだ?』みたいな顔はしていたが」

 

 似たようなことを代弁するかのようにシリウスが頭を抱えながら言い放つ。

 

「あの鼻削りクソハゲ男をヴォルデモートだと思って無いのか!!???」

 

 言い方。

 だが言いたいことは分かるため、全員が全員、無言で渋顔を作ってしまった。

 

 

 

「あの、ルーピン先生スネイプ先生」

「どうしたんだいハリー?」

「僕らがレギュラスさんに会いに行った時の、その、日記の友人。もしかして、ミリって気付いてない、ですよね?」

 

 トムがヴォルデモートって気付いてないよね?

 そう言外に伝えれば、ルーピンもスネイプも共に視線を合わせて確認しあったあと、馬鹿を認めるかのように頷いた。認証、馬鹿。

 

 ハリーは額に手を当てて天を仰いだ。わぁ、ポッター家の天井って綺麗だなぁ。十数年以上人が居なかった屋敷とは思えないや。

 

 

「あぁ可哀想に、きっと恐怖で記憶が混濁してしまっているんじゃないか」

「「「それはない」」」

 

 モリーが憐れむが、何人かが同時に声を上げた。

 スタージス・ポドモア以外の不死鳥の騎士団は、特にコワルスキーの性格についてよく分かっていない。モリーやアーサーが比較的近しいが、性格を把握出来るほどの交流はなかった。

 

 そのため、『コワルスキーの同級生』達と、セドリックやフレッドジョージは、一気に反対の声を上げた。

 

 まじでそれだけは無い。

 

「そ、そう?」

 

 圧倒的な『傷付いて錯乱するわけが無い』意見への指示に、モリーは混乱しながらも納得することにした。おかしい、年頃の繊細な女の子に対する評価じゃない気がする。

 

 

「それにしても、まだヴォルデモートの復活を信じていない者が多い。ファッジなんかは特にな」

「あいつは事なかれ主義だからな」

「ハリーだけの証言ならともかく、僕やリリーのポッター家の証言、それから他の代表選手達の証言があってもまだ信じられないらしい」

 

 子供たちに聞かせても問題のない範囲の雑談をマッドアイが口にする。

 

 

「ハリーを裁判に掛けるって話も出ていたけど」

「は……!?ジェー、それは聞いてねぇが!?」

「うん、言ってないからね。君たちが到着する前に魔法省から手紙が来ていたんだ」

 

 無論止めた。当然だ。

 何が嬉しくて自分の息子を苦労する場に渡さなければならないというんだ。

 

「自覚が無かったようだが、コワルスキーがヴォルデモートの復活を目にしたのは僥倖では無いかね」

「……そうだねスネイプ。本当に()()()()()()()()()()()と思うくらいに都合が良くて助かるよ。なんだっけ、聞いた話だとシリウスの羊皮紙に『エミリー・コワルスキー』の名前が書かれ、ゴブレットから名前が出てきたんだってね。それから優勝杯も、ポートキーになっていた、と」

 

 あまりにも自分たちに都合が良い。

 ピクリと小さくスネイプの体が揺れる。それに気付いた人物は少なく、ポッター夫婦以外には居なかっただろう。

 

「大変だったね、セドリック」

「そうだよハリー……。一緒に優勝するかと思いきや、だからね」

 

 ハリーとセドリックが互いに苦労を分かち合いながら顔を合わせる。まぁ、セドリックの緊張感とハリーの緊張感では、比較できないほど差があったのだが。その答え合わせをする事は出来なかった。

 

「まぁミリはハリーのこと大好きだから、知らず知らずの内に姿くらましを使って、一緒に僕ら選手が巻き込まれたのかもしれないけれど」

 

 セドリックの中で大きな説はこれである。偶然も何も、変態が成した魔法だろうと言う。

 

 その言葉を聞いてにこりと笑みを深くしたのはジェームズだった。

 

「セドリック、君はとても説得力のある可能性を示唆してくれてるよ。あぁよくわかる、その方が『コワルスキーらしい』からね」

「……?はい、僕はミリならそうなる可能性が高いと思っています」

「本当に……実に説得力がある……。たとえ他の企みがあっても、そう説得してしまえば、誰もが飲み込んでしまうほど」

 

「(あぁ、これは、怒りだ)」

 

 セドリックはジェームズの目を見て思わずゴクリと唾を飲み込む。

 穏やかに、優しく笑うのに、微かに覗く目に怒りの感情が込められている。

 

 蛇に睨まれた蛙の気分だ。

 もっと言うならバジリスクを目の前にした時のプレッシャーがドッと蘇ってきた。

 

「ちなみに──」 

 

 飲み込まれそうになるセドリックを救ったのはスネイプの一声だった。淡々と、ジェームズに向かって言った。

 

「コワルスキーであればマーリン勲章勲二等持ちである」

「……なんだって?」

「二年前、ファッジがそう任命した。ポッター、貴様であれば有益に扱えるであろう……?どこぞの脱獄するしか脳のない阿呆と違い」

「喧嘩だな、買うぞスニベルス。分かったぞお前今無敵だな?無敵だよな?」

 

 実はピーターも勲一等を持っていたのだが、シリウスの無罪放免と共にさりげなく削除されてしまった。

 特に気にした事は無かったが、今のなっては少しばかり惜しい。

 

 

「ついでにもうひとつ情報をくれてやろうポッター。コワルスキーは──」

 

 シリウスの言葉を無視して告げたスネイプの言葉に、ジェームズは思わず笑いを浮かべることとなった。

 

 

「──MACUSAの一員である」

 

「…………は、ははっ」

 

 

 MACUSA。

 アメリカ合衆国魔法議会。

 

 イギリスの魔法省と同じ大きな組織だ。

 

「ホグワーツ入学前の未成年がドラゴン使いの資格を取った。いち早くアメリカ合衆国魔法議会がその情報を獲得し、末席とはいえ『将来への布石』としてMACUSAの魔法生物保護局の局員に、されている」

 

 ジェームズは『目標だったドラゴン使いの資格も既にゲットしちゃってんだ…』と言う気持ちを込めて口元を抑えた。

 

 

 ──MACUSAの局員で、イギリスのマーリン勲章勲二等。

 

 ミリ・コワルスキーの発言は、国際的な問題になるためイギリス魔法省は無視できない。

 国内の貴族よりそれは大きなものとなるだろう。

 

 ジェームズは湧き上がってくる笑みが止められなかった。

 

「ふ、はは、スネイプ」

「なんだポッター」

「一旦、水に流してあげるよ」

 

「……なんの事だか、分からんな」

 

 彼女をヴォルデモート復活の場に巻き込んだ──その張本人を。ジェームズは許すことにした。

 

「(よくぞミリーを巻き込んだ、とは、口が裂けても言えないけど。スニベルスがミリーを巻き込んでくれたお陰で、事態が好転しそうだ)」

 

 ゴブレットにエミリー・コワルスキーと名前を入れたのは、セブルス・スネイプ以外有り得ない。

 

 

「アッハッハッハッハッ!!あぁ、ミリーが居て良かった!なんっって、なんて──都合がいい」

 

 ジェームズ・ポッターの目には恐ろしい程の冷静さが浮かんでいた。

 

「……危険な目に合わせるつもりは微塵もないよ。それより彼女の『貴重さ』を上げる」

「貴重さ……?」

 

「うん。魔法省にぶち込む」

 

 ジェームズ・ポッターは、生き残った。

 

「ハリーの代わりに、魔法省とバトって貰う。彼女なら喜んでやるだろう?」

 

 生き残った彼が魔法界を動かすことなんて、それはそれは、至極当然の未来だ。

 

 

 

 ==========

 

 

 はーい、こんばんは、私ミリ・コワルスキー。

 一足先に後片付けをしているところ。

 

 がやがやと食事の終わった人達が帰路につこうとしている気配がした。

 トンクスも帰るらしい……悲しいけど……闇祓いって忙しそうだもんね……。リーマスは泊まってくれるそうなので、明日の朝ごはんも腕によりをかけなきゃ!

 

「その、ミリ、少しいいかしら」

「うん?どうしたのハーマイオニー」

「その…………」

 

 躊躇いがちにハーマイオニーがキッチンに入ってきた。後片付けをしている私は、一旦片付けを止めて振り返った。

 

「きっ、聞きたいことが、あるのだけど」

 

 緊張した様子のハーマイオニーが手をぎゅっと握りしめて私に問いかける。え、可愛い。もちろん。

 

「ミリは……」

 

 言いにくいのか、迷っているのか、視線がうろつき口が音を出さずに動いている。

 賢いハーマイオニーが言葉を詰まらせる事があるだなんて、意外な新発見と共に愛しくなってきちゃった。

 

 私はハーマイオニーの手を握った。

 

「ゆっくりでいいよハーマイオニー」

 

 一分くらい静かに考え込んだ可愛い天使は、少しずつ思考を言語化するように口を開いた。

 

「何度も何度も、違和感はあったの。それからずっとずっと考えてて。貴女は、あまり自分に頓着しないから()()()()()()()()どうでも良さそうだった」

 

 ハーマイオニーは首を横に振った。

 

「でも違うの、きっと違うのよね、『どちらでもいい』のでは無くて、『どちらも貴女』だったんじゃ、ないかって」

 

 どうしようハーマイオニーが可愛いという感情が先行してしまう。

 喉の奥が締め付けられているのか、つまりつまりでしんどそうな声だ。ハーマイオニーが、私の事でそこまで悩んで勇気を振り絞って話そうとしてくれていること自体が、愛しくて可愛くて、幸せだ。

 

「ミ……っ」

 

 ハーマイオニーは私の名前を呼びかけて、止めた。

 

「エミリー」

「なぁに」

 

 愛しい愛しいハーマイオニー。

 飛び抜けて賢くて、慈悲深くて、可愛くて、優しい女の子。

 

「……ヴォルデモートの事、一体どう思ってるの?」

「うーん。どうでも……?リリーとジェームズを殺したなんて話を聞いた時は絶対許さないと思ったけど、リリーとジェームズは生きてるし」

 

 ハーマイオニーは強く問いかけた。

 

「エミリーはヴォルデモートに殺されたんでしょ!?」

 

 

「……違うよ」

「でも!」

「エミリー・コワルスキーは、自分の手で死んだの。愚かにも、自分がなんでも出来ると思って。大事な人を傷付けて、死んだの」

 

 私の死因がヴォルデモートだと思われているけれど、違う、これだけは言える。

 ピーブズのせいでもヴォルちゃんのせいでもなんでもない。

 

 ただ、本当に愚かだった‎だけ。

 傲慢さが招いた末路だ。

 

「…………なんでも一人で、出来るわけないのにね」

 

 でも後悔したことはない。

 ピーブズやヴォルちゃんには感謝してもし足りない。あぁ本当に、幸せだなぁ。

 

「ミリ、ミリッ!」

「ハーマイオニーどうしたの?」

「私、貴女にとって何!?」

「友達。それで私にとっての天使だわ。大好きよハーマイオニー」

 

 私は可愛いハーマイオニーを見て、思わず笑ってしまった。

 

「なんでハーマイオニーが泣いてるの?」

 

 ポロポロと零れる涙があまりにも愛おしくて、その涙が誰のためなのかなんて、ちょっと考えるだけで分かる。

 ハーマイオニーの涙はハーマイオニーのためであり、そしてほんのちょっと、私のためでもある。

 

「分からない、分からないのっ、貴女のことが、分からなくてくやしくて、っ、私のミリが彼らに取られちゃったの……!」

「流す涙でさえ美しいなんてハーマイオニーの前世は一体何をしたって言うの?世界でも救った?」

「ぐすっ、それなら、貴女の前世はきっと、色んな人を救ったのね」

「そうかな?」

「えぇ」

 

 零れる涙を拭ってそのハンカチを後生大事にしよう。

 

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