─矛盾─   作:恋音

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15.魔法の研究

 

 ゴリゴリと薬草を削る音。

 独特な臭いを放つ調合室でヴォルティーグことヴォルちゃんは研究中の薬の紙をピラピラ見ていた。

 

「……ふーん。理性を保った状態。これが第一目標か」

「それは最優先に仕上げたい薬。名前はまだない」

 

 左に2回、右に3回。いや、もう1回回そうか。

 

「次に作りたい薬は……ほう、目くらましの代用か」

「実はそれは結構出来てたりする。あとは改善の方を研究したいと思っているんだけど、いやぁ、改善って中々難しいよね」

 

 ほうほうと鳴きながら紙を捲る音を聞く。途中でそこは鍋を三周分回すといいと言われたので指示通りにしてみる。おぉ、生ける屍の水薬の色が桁違いに良くなった。やっぱり教科書通りにやることだけが全てじゃないね。

 

 空き瓶に薬品の名前と試作番号を書き込んで中に入れると一段落着いたことになる。

 

「エミリー・コワルスキー、腹が減った」

「はーい。私もお腹空いたし、丁度いいや。お昼にしようか!」

 

 奇妙な同居生活1週間目、実はこの1週間の間に日本に行っていたりする。なぜなら伯父さんが私のスーツケースの拡張作業をしてくれるということだったので、私もヴォルちゃんもスーツケースから離れなければならなかったからだ。

 じゃあもう仕方ねェ! って事でイギリスもテロやら何やらで騒がしいしアメリカも物騒だから日本旅行をしてきた。ヴォルちゃんの魔法様々だよ。削れた鼻とかは包帯やガーゼで骨折した設定にした。ちなみに、魔法界に居たら治せよとか言われるので、包帯を付けるに当たってマグル社会で過ごすことになったんだが。

 

 

「おい、醤油は使え」

「もちろんですとも!」

 

 

 ヴォルちゃんが日本食にハマった。

 ついでに言うと私もハマっている。

 

 

 というかマグルで常識かけ離れた非魔法族が過ごせるか、と言うと実は意外と過ごせるの。文化が全く違う国家だったからってのもあるだろうけど、ほんと曰本やばい。何がやばいってまず思想がやばい。

 

 驚き!日本は魔法族と非魔法族が共存してる!もちろん存在をほのめかす程度の共存なんだけど、()()()()()って言えるくらい魔法に嫌悪感無いの!

 いやほんと日本ってすげぇ。書店に魔法を題材とした物語とか沢山あるし、なんか異文化沢山取り入れてるし、鎖国国家って本当かと疑いたくなった。

 

 

 あ、ちなみに母さんには卒業生と一緒に行くって言っていたから特に嘘ついてないし流してくれていたから大丈夫だと思う。兄さんには拗ねられたけど。

 

「そうだヴォルちゃん、魔法薬学苦手って聞いたけど得意な学友はいるんだよね。紹介してよ」

「チョットダケヨ」

「アンタモ…──って、やったあ!」

「おい、最後までノるならノらんか!」

 

 購入した醤油(ヴォルちゃんの持ち運び用の袋で運んだ物)を水で薄めて牛肉をドーンと入れる。そこから火を通して砂糖を入れて。

 

「パンに入れる」

「味が濃すぎないか?」

「パンなどの食べ合わせはもう挑戦するしか無い。あのオコメって穀物はアメリカでも入手出来るけど高いからなぁ」

「……エミリー・コワルスキー。ギュードンの具はパンじゃなくてピザ生地に乗せたらどうだ?」

「ナイスアイディアっ!」

 

 父さん直伝、と言っても全然味を再現できないあまっちょろい生地だけど、ヴォルちゃんの時間を経過させるとかって魔法のお陰で短時間で作ることが出来た。本当は途中で火加減とか変える方がいいんだけど物質の変化という事で細かい調整は無理らしい。

 これが魔法の限界という事ね。

 

 醤油の焦げた香りが胃と唾液腺を同時に刺激する。原液はとても食べられる様なものじゃないのに工夫を凝らす事でこんなにも美味しい香りを放つのだから堪らない。この塩っぽい香りは日本独特の調味料だからこそだろう。

 

「……六等分か」

 

 ヴォルちゃんが杖を少し振るとピザカッター要らず。早速席について食べ始めた。

 

「美味しい」

「美味しい」

 

 うん、美味しい。やっぱりオコメで食べたかったけど、醤油凄い。中国に似た調味料があるけど、それとはまた違う甘みがある。こっちの方が好きだな。

 

「だがまだまだ本場には遠いな」

「再現頑張るから夏休み中付き合ってよ」

「いいだろう。俺様の時間を取るのだから必ず成し遂げよ半純血」

「半純血めっちゃ頑張る」

 

 人は共通の何かが通じ合うと仲良くなれるのだと分かった。私とヴォルちゃんなら食事ね。

 

「ヴォルちゃんって、料理もそうだし、なんだかんだ魔法薬もそうだけど、研究って好きだよね。なんだろう、私ヴォルちゃん見てると魔法生物を彷彿とさせるんだ」

「魔法生物はさておき、だ。俺様はそもそも魔法開発を中心に活動していた。もとより研究者としての性質が強い」

「へー!なら一緒だね!」

 

 私と一緒だと喜んでいるとヴォルちゃんは顔を歪めた。凄い嫌悪してる感じの顔だ。

 

「お前と一緒だと……?」

「えっ、なんで嫌そうなのよ」

 

「魔法生物が元になった材料に頬を当ててうっとりとする様な変態と一緒にされたくない」

 

 素材の質が全く悪くならない所が変態すぎて腹が立つ、と言いながらヴォルちゃんは喉を潤した。

 

 ……いや、ウチのオカミーに大興奮して凶暴性も忘れてすっ飛んでったてめぇに言われたくは無いな。

 

 私はこっそり言葉を飲み込んだ。

 

「そう言えばこのトランクの中はどれだけの充実具合いなのだ?」

 

 ふと思ったのかヴォルちゃんが聞く。恐らく小屋の中自体は調べ尽くしているであろうから、魔法生物の闊歩する外の方を中心に口頭で説明していく事にした。

 

()()()()()()の出入口であるここ、キッチン兼リビングみたいな空間から繋がるのは3つ。日本で手に入れた醤油とか味噌とか置く食材置き場、地下、そして外」

()()()()の地下は俺様が寝泊まりしている研究兼調合室と気候に合わせた素材の保管庫、それと完成した薬品置き場だったな」

「そうそう。それで多分1番聞きたいだろう外」

「流石に気軽に出歩けぬからな」

 

 ヴォルちゃんの言葉に頷く。それは凄く正しい判断。

 私はどうやら父さん似で魔法生物に好かれやすい体質らしいから苦労した経験は少ないんだけど、私のスーツケースにはそれなりに危険性が高い生物が居る。慢心して貰ったら気軽に命を落とせるよ。

 

「外は複数のバイオームに別れてるの。すぐそこは草原。そこから徐々に変化していくんだけど、小屋を出て右手側に向かうと寒くなって、左に向かうと暑くなる」

「区切りは?」

「緩やかに変化している所もあれば魔法が付与されているカーテンで思いっきり環境変化がある所もあるよ」

「ほう。空きスペースなどはあるのか」

「そりゃね、魔法生物が居ないスペースもある。例を出すなら、草原から真っ直ぐ行く道かな。日本に行ってる最中、伯父さんに追加してもらった川や海とかの水源地帯になるよ」

 

 早く見に行ってみたいなぁ、とワクワクしていると呆れた表情のヴォルちゃんがため息を吐いて呟いた。

 

「それほど広さがありながら魔法が使えんとは嘆かわしい」

「い、移動は魔法生物に頼ってるから!スウーピングエヴィルとか、ヒッポグリフとか!」

 

 1時間だけ臭いを消す魔法とかなんか複雑そうな魔法をかけてくれたから、ちょっと使ってみたんだけど、杖は枝としか作用してくれなかった。つまりいつも通り実技がスクイブ。

 この調子だと目くらましも姿くらましも無理だし、それどころか1年で習得すべき実技も壊滅しているから本当に実技自体使えないかもしれない。

 

「魔法先生」

「なんだその肥溜めに魔結晶を放り込んで火にかけた様な呼び名は」

「魔法先生、私の杖はおかしいのでしょうか」

「………………貸せ」

 

 私の無様さを知っている魔法先生は渋々私の杖を手にした。

 

「芯材と木材は」

「オカミーの鱗と、木は、興味なかったから覚えてない」

「ふむ、まぁいい」

 

 ヴォルちゃんは杖で軽く魔法を使おうとして眉を歪めた。

 忌々しげに私の杖を睨みつける。

 

「杖の分際で抵抗か……。余程他人に使われたくないらしい。よかろう、その抵抗いつまで持つか見ものだな」

「えっ、怖っ」

 

 杖先からバチバチと静電気の様に光が放たれる。その光に照らされたヴォルちゃんの赤い目がぶっちゃけ超ホラー。

 

「フハハハ……!その程度で抵抗か!笑わせてくれる!」

 

 ……危ない人みたい。

 正直ヴォルちゃんって精神が危ない人なんだろうって思っては居たんだけど、これで確信しそう。加虐趣味持ち合わせた俺こそが魔王とか素で言いそうな人。

 

「失礼な事を考えるな!」

「い゛っ!」

 

 静電気の鞭が私の頭を思いっきり打った。え、なにこれ痛いのに外傷が無い……。

 ん?痛いのに外傷がほとんど無い状態どっかで味わったな。

 

「あっ、呪文が完全にぶつからない状態の痛み!」

「よく分かったな。不完全な状態だが呪文としては発動出来た」

「そりゃ、1年の時に赤と緑の2種類の呪文必死に避けてたからね!赤いのはかすった!」

「えっ」

「え?」

「……緑の閃光を放つ呪文を掛けられそうになった事があるのか?」

「アブラカタブラみたいなやつなら」

 

 ヴォルちゃんはドン引きした表情で私を見下す。表情筋全然動いてないのに表情豊かだな。その顔面絶対赤ん坊なら泣くよ。

 

「だから失礼な事を考えるな」

 

 今度は魔法ではなく手で頭を叩かれる。

 ヴォルちゃんは手加減を知らないんですか全く。というか心を読まないで欲しい。自我のある頃から母さんと兄さんがよく読んでくるからだいぶ慣れてるけど、やっぱりビックリして……ビックリ。

 

 え?ビックリ?

 

 

 

「……ヴォルちゃんはゴールドスタイン家だった?」

「阿呆な事を抜かすなこのたわけが!」

 

 投げ捨てられた杖を椅子から転げ落ちながらもキャッチする。心を読むのは母親の血筋だと思ってたけど、魔法だったのか。

 えっ、じゃあなんで兄さん魔法使えないはずなのに使えるんだ? 世界の神秘がよく分かんない!

 

「とりあえずその杖は使えない所かかなり忠誠心が強い。お前以外ではろくに扱えないだろう。俺様に反抗する程度には力がある杖だ。それに魔力を帯びた物が早々主人の意思に反する事は無いのだが」

「……つまり?」

「──お前が問題」

 

 思わず頭を抱えた。

 

 そうか、私以外は扱えないほど忠誠心が強い杖だから使えないのは私が原因ってことか。

 

「忠誠心あるなら私の望む魔法を使わせて!!」

「切実だな」

 

 

 私の不甲斐なさにか、分からないけどヴォルちゃんは呆れた視線を寄せてくる。

 うっ、うっ、と泣きながら杖を見て、流石に項垂れた。魔法界の道具全般と相性が悪すぎる。オーブンなら手足のように扱えるというのにさ!

 

 箒にも杖にも嫌われるこんな魔法界なんてポイズンッ!

 

「嘆く暇があるなら魔法薬でも研究しろ。姿くらましは煙突飛行粉(ブルーパウダー)に、開心術は真実薬(ベリタセラム)に、忘却呪文は忘れ薬で代用できる。お前の欠点は得意分野でカバー出来る。出来ないことを嘆くより出来ることで人より優位に立て」

「でも、成績とか……」

「ハッ! そんなものドブにでも捨てておけ! 全て平均の人間より秀でた分野のある人間の方が使える。平凡など無意味だ」

 

 私は彼が人の上に立つ人間なのだと分かった。これはついて行きたい。

 救いを求める様に見上げるとヴォルちゃんはニヤリと笑った。

 

「求めよ、お前が本当に欲しいものを」

「欲しい物?」

「左様。特別が欲しくないか。秀でる分野の無い平凡で無益な存在で過ごす人生、しかしそれ以上の才能を持ち合わせた時の名声!求めるものも、力も、何もかもを自由に出来る!」

 

 魔法を使えなくたっていい。私は私の得意分野を。

 ヴォルちゃんなら私の長所を伸ばしてくれる。

 

 きっと彼について行けば……──

 

「──じゃないね! 誰が望んで可愛く美しくも無い人間の元に下るか! ヴォルちゃんもしかして洗脳仕掛けていたのかな!?」

「チィイィッ!」

「舌打ちが大きい!」

 

 あまりにも大きな舌打ちに戦慄する。この人のカリスマ性怖い。悪属性付与されてる気分。

 どっと疲れたのでふぅーっと深く息を吐いて呼吸を落ち着かせる。

 

「多分ヴォルちゃん純血主義でしょ。なのになんで私は殺されないんだろうって思ってたよ」

「あァ、正直お前が俺様をここに招いた時殺してしまおうかとは思っていた」

「よかった、私1週間生き延びてる」

 

 今度は安堵の息を吐く。地球の二酸化炭素濃度は上がりっぱなしだ。

 

「使える者は消耗するまで使いこなす質でな」

「だろうね。さては学生時代いい顔して寄ってきた人間を人心掌握で部下にしてきたな?」

「言い方」

「変わらないでしょうに。それで、私はどこがキミの琴線に触れた?」

 

 分かりきった所だろうけど聞いてみる。

 スーツケースに入り、私が小屋に降りてくる(をころそうとしたとき)までの間に起こったことなんて凄く限られている。

 

「まずは外の魔法生物だな。その年で操れるとは中々な才能。後ほど知ったがニュート・スキャマンダーの姪であれば有り得る」

「まぁ自信を持って誇れる分野だしね……って、()()()?他にもあるの?」

「もう1つはこれだな」

 

 魔法生物以外に何か目を引くものがあっただろうかと首を傾げているとヴォルちゃんが取り出したのはフンフンと興味深げに読み込んでいた研究羊皮紙だった。

 

「お前の研究は、俺様の望む結果だ」

「それ第1目標のやつだよね?」

「あァ。これがお前を殺さない俺様の利益だ」

 

 魔法薬研究、最優先目標──

 

「──理性を保った人狼化。ふむ、そうだな。少々言葉になるがお前は今のところ光側だ、ひとまずこれを『脱狼薬』と言っておこうか」

 

 私が半純血でも殺されない理由は、どうやら思っていたより私に利益もあるらしい。




研究者としての血筋が騒ぐぜー!ってやつね。
そう上手く人心掌握出来ないのが主人公。
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