─矛盾─   作:恋音

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18.衝突

 

 

 まだ例の件から1日も経っていないと言うのに、マイナスにまで減点されたグリフィンドールの点数を見て『夜中に出歩いた事』がホグワーツ中に広まった。

 

「コワルスキー、この後はどうするんだ?」

「1時間くらい待機して、校長室。セブルスは医務室に監禁でしょ?」

「んー。まぁ。でも医療に携わる薬学知識は医務室が1番手にしやすいだろ? 今は時間が惜しい。トリカブトの知識を頭に入れながらマダムに色々聞いてみるから一覧貸してくれないか?」

「後で音読してくれるなら」

「暗記して音読してやる」

 

 セブルスはウィアウルフに傷付けられても心までは傷付いて無いらしい。むしろ丁度いい情報源が己に生まれたとテンションが上がってる最中だ。

 

 傷を負ったセブルスが全く気にした様子を見せない所か嬉しそうにしているのだ。ジェームズも何も言えないだろう。責任を感じることも。

 優しいな、と心から思うよ。愛おしい。

 

「この時間帯に説明するとか言ってた癖に中々来ないな」

「だよねぇ」

 

 まったりと陽射しを感じながら暴れ柳を眺められる位置に座って待っているとようやくジェームズが現れた。ピーターはシリウスにくっついていて可愛い。

 

「リリーは?」

「説明不要、しばらく話しかけないで、だってさ」

「セブルスが怪我したからねェ、割り切れないだろうね」

 

 地面に座り円卓を囲む。まぁ囲むのは野外円卓の上に置かれたスコーンとぬるめの紅茶なんだけど。

 

「さて、説明をもらいましょうか」

「うん」

 

 スコーンを割いてクロテッドクリームを塗り、ジャムを塗り重ねる。

 ホロホロと崩れるのも気にせず口に含めた。

 

 アフターヌーンティーというのも3年目となると慣れてくるもんだな。習慣化してきてる気がする。ハイ・ティーならアメリカにあるけどさ。

 

「まずはミリー。ごめん、責任を負わせてしまった」

「そこは気にしてないよ。罰則云々は置いておき、夜間外出はいつもの事だし。──でもさ、ウィアウルフを庇うって事は」

 

 減点に関しては寮から色々言わたし、スリザリンの点も減っていことから悪戯仕掛け人だと分かったみたいだけど、リーマスが居ないのにもう1人分減った謎というのはまたグリフィンドール生の誰かが何かをやらかした余分な点数として処理されている。リリーを責める言葉が無いのはいい事だ。

 

 それよりも問題はジェームズにある。

 点数の事に関しては気にしてないようだけど、隠した真実(先生への説明で私が庇った事)に関しては物凄く気にしているようで、グリフィンドールもスリザリンも『あのポッターが夜間外出で減点された事に反省してる!?』とザワザワしている。日頃の行いのせいだね。

 

 というかほぼ毎夜無断外出してるだろうに。私達。

 

「ミリーとスネイプも気付いてるみたいだね」

「流石に、生態とか知ってるし、1年の中盤には気付いてた」

 

 セブルスと顔を合わせて肯定の意を込めて頷く。

 

 

 リーマス・ルーピンが狼人間、ウィアウルフだと言うことを。

 

 

 満月の周辺3日〜5日は毎月学校を休む。全寮制だと言うのに学校自体に居ない。

 両親の事が、って理由を付けてたけど、魔法生物の気配に魔法生物が気付か無いわけないし。治らない傷にも納得が出来る。魔法生物によって付けられた傷は自然治癒しない。

 

「それで、魔法生物に関してなら私が何とか出来るかもって思ったわけね。魔法省分類XXXXXだと分かっていても。私が人に慣らしているから」

「……うん。それに僕達なら大丈夫だって驕ってた……そんなこと無かった……親友だと思ってたのに……」

「それがウィアウルフって生物だよ。狼になった状態では理性なんてタカが外れてる。でも、覚えてるよ。狼になった状態で起こった出来事」

「はぁ〜……絶対リーマスが気に病むやつ……」

 

 今までに無いほど落ち込んでいるみたいだ。

 手を組んで項垂れている。何度目かのため息を吐き終わるとジェームズは顔を上げた。

 

「ほんとごめん」

「俺も謝る。悪い、軽率な判断だった。XXXXXって言うのを甘く見てた。普段がアレだから、より一層根拠の無い自信で危険に晒した」

「僕も巻き込んでごめんね……。リーマスに発信魔法具取り付けて位置情報確認したんだ。大丈夫だって、思っちゃった」

 

 ピーター可愛い。

 

 謝罪する3人に対して首を横に振る。

 

「私も魔法生物の専門家になりたいと思っているのに、魔法生物の危険性を甘く見させてしまった事は本当に悪いと思ってる。これは誰がなんと言おうと私の認識不足」

 

 もっと気付く要素はあった。

 昨日が満月だったとか、叫びの館に向かう事だったりとか、本当は気付かなくちゃならなかった。魔法生物を相手に将来を決めているのに、注意不足だった。

 これは口に出すとジェームズ達に向かって『私が保護者的立場にならないといけない、やれやれ面倒見なくては、監督責任だよ』と責めている様になって、更に傷付けてしまうことなので心の中に押し留める。

 

 魔法生物飼育学のケトルバーン先生が私に魔法生物と交流させない理由がようやく分かった。

 私が簡単に魔法生物のレベル5と触れ合っているから、周りも簡単に見えてしまうんだ。周りの人間の認識を変えてしまう。

 

「ごめんね合戦はそこまでにしろ。時間が惜しい」

 

 セブルスの一声にジェームズは軽く睨んでからスコーンを手にした。ジャムを塗ってクロテッドクリームを上に塗り重ねている。

 文句を言いたいけど、責めるのはお門違いで嫌な言葉を言いたくないから口に物詰める、って所か。ふっふっふっ、翻訳機舐めるなよ。行動でも言葉は分かる。

 

「今日校長室に行かなきゃならないんだけど。聞いておきたいこととかある?」

「は? お前校長室になんのために行くんだよ」

「説明だよ」

「いやそうだけどそうじゃなくてさ、逆に質問される側だろお前は」

「んー、どうだろう。ウィアウルフの件については校長という権力者は知ってないと、ホグワーツから出ることを許さないと思うんだよ。多分、マクゴナガル先生も知ってるのかなー。そこは不安要素」

「……あー。つまり起こった出来事包み隠すつもりは無い、と」

「微塵も無いね」

 

 リーマスを退学にする事、なんて事は絶対にない。だって被害者であるセブルスがそんな事実は存在しないって貫いているんだから。

 それどころか脱狼薬の制作により一層力が入ってる状況。私はセブルスを信じる。

 

「じゃあダンブルドアがホモかどうか聞いといてくれ」

「ゲホッ!」

 

 シリウスの言葉に思わず紅茶を吹く。

 いや、確かにブラック家で言ったけど、それ捏造だからね。

 

「あー、お前の捏造だっての分かってるって。でも妙に腑に落ちてよ」

「罰ゲーム受けてる気分。学校一の権力者に『貴方はホモですか?』って他国の英語の教科書に書かれてあるような文を使うことになるとは」

「コワルスキー、学校一の権力者じゃなくて英国魔法界一の権力者だ」

「ガッテム」

 

 頭を抱えて項垂れてみる。巫山戯た調子のまま、ちらりと横目で伺ったセブルスはすごく不機嫌そうだ。

 何が不服なんだよォ!

 

 私はセブルスとジェームズの固執というか、執着というか。2人の仲は誰にも分からない。下手に介入しない方がいいとは思うけど、心配だなぁ。特にイギリス人って私みたいなアメリカ人と違って内側に入り込まれるのを嫌がる傾向があるみたいだし。

 

「みんなに提案があるんだけどさ」

 

 茶化した私とシリウスのやり取りに目もくれず、ジェームズは口を開いた。

 

「アニメーガスになろう!」

 

 聞き覚えの無い単語に首を傾げる。アニメーガスとは何だろう。セブルスもこの世の人間全てを虜にするレベルの可愛さで首を傾げているのでジェームズが独自で調べだした情報だということが分かる。

 

「……どうせぶっとんだことだろ」

 

 ボソリとセブルスが呟いく。

 え、呆れる姿すら可愛い。腕を組んでるんだよ、可愛い。

 

「あー、アニメーガスって?」

「動物になる魔法だよ、まぁ動物もどきだけど」

 

 頭の中から知識を引っ張り出してくる。

 

 血の呪い、は女性にしか発生しない病だもんな。しかも遺伝子感染。呪いと言われて納得するほど稀有な運命を辿る病だけど。

 ……自由自在に動物になれるからって、意志とは関係なく最終的に永遠と動物になれるんだから最高だよね。多分魔法生物とは会話出来る! 素晴らしい!

 

 まぁ独自で調べていた知識だから天使音読で暗記したものじゃなくて記憶違いがありそうで怖い。そしてアニメーガスとやらでは無いと思う。

 

「変身術か……?」

 

 セブルスが疑問を口に出すとジェームズは分かりやすくドヤ顔をした。あぁ〜! セブルスのイライラゲージが溜まる!

 

「違うんだ、杖を使わずに変身できる。それに自由自在に変われて、人間としての知性も保ったままなんだ」

「……変身術の上位互換って所か」

 

 何故それを身に付けようとしているのか。私は紅茶を飲み干して考えた。

 

「あ、そうか。ウィアウルフは人間を襲う。逆を言うと人間以外は襲わないから動物になってウィアウルフの傍に行って観さ……」

「そう! その通りさ! リーマスの傍に寄り添ってあげようと思って!」

 

 

「「……は?」」

 

 予想しない方向の終着点にセブルスと二人揃って声を漏らした。

 小さな漏らしだったからジェームズには気付かれて無い様だったけど、セブルスの声は分かったのでそちらに顔を向けると『何言ってんだこの脳内花畑野郎が』と言わんばかりの表情をしていた。

 

 ううーーーん、口に出さないだけギリギリセーフ。

 

「僕とシリウスとピーターは1年の途中からやり始めたんだよね、もう少しで掴めそうなんだけど」

「そ、んなに、習得に時間がかかるのか」

「学生の内に出来る人間ってひと握りなんじゃないかな」

 

 セブルスはとても深く息を吐いた。頭が痛いと言いたげな表情でギロリとジェームズを睨んでいる。

 その鋭い眼光にジェームズは怯む。そして私は興奮する。

 

「そんな時間、僕には無い。この話はなかったことにしろ」

「なっ……!」

 

 オブラートなど知らないストレートな言い分にジェームズがガタリと席を立つ。

 

「ちょおっっとぉ! 喧嘩、ダメ、人間、平和、1番!!」

「人間に成り立ての宇宙人かよ」

「黙れシリウス・ブラック!」

 

 あわわわわわ、今までに無いほどな一発触発!

 天使に殴りかからないでねー、ジェームズを煽んないでねー! 頼むから!

 

「セブルス、別の言い方があるんじゃないかなーと……思うんだけど……」

「事実だろう?」

「えっ、可愛い」

「お前絶対中立の立場に立たない方がいいと思うぜ」

 

 シリウスがなんか言ってるがハラハラしてるピーターが可愛いのでこの状況も案外悪くないんじゃないかと思ってきた。

 

「折角僕がっ、仲間外れにならないように気にかけて、誘ってるのに……! リーマスが孤独で苦しんでて、それを支えてあげたくて……! なんでお前は、優しさってもんが無いんだ……っ!」

「ッ、誰が誘ってくれと言った。僕は僕でやりたいことがある」

「それはアニメーガスになることより大事な事なのかよ!」

「そうだよ! そんなその場限りの傷の舐め合いよりももっと大事な研究だ!」

 

 ジェームズの剣幕に一瞬ビクリとしたセブルスだったが拳を握りしめて言い返した。

 私とセブルスの研究している脱狼薬は2人だけではなく、他の人間も関わっている研究。おいそれと概要を教えるわけにはいかない。

 

 まぁ特に私の方の協力者であるヴォルちゃんがヤバめの人っぽいのでそれが原因の大半を占めているんだけど。

 

「はっ、どうせ闇の魔術についてだろ、忘れてたよ、キミが性悪な卑怯者で根暗のスリザリン生だってことをね……!」

 

 どうしよう闇の魔術を用いてることは否定出来ない。トリカブトとか危険薬物だし、それ相応の闇の魔術を使う。

 

 うーん、ジェームズの言いたいことも分かるんだよなぁ。リーマスは満月前になるとすごく悲しそうな、寂しそうな顔をするし。

 心に寄り添うのはリーマスにとって救いになるだろうし大事な事。

 

 ジェームズは心の支えを重視する優しい考え。筆記もだけど実技も優れている彼らならほぼ確実にアニメーガスを習得出来るだろう。

 

 対してセブルスは悩み自体を無くすという根本的な所を睨んでいる。ぶっちゃけ私たちが生きている間に完成するかも分からない途方もない研究だ。

 

 確実に勝ちを狙うか大博打のどんでん返しを狙うかの全く違うスタイル。

 

 価値観の違いで起こる衝突は正解が無いし第三者があーだこーだ言えない。これは参った。どうしよう。

 

 

 セブルスは絶対アニメーガスを選ばない。脱狼薬の確率を下げることは絶対しないしなんなら超が付くほどの頑固だ。2年丸々付き合ってきて、この推理に間違いは無いと思う。ジェームズは折れることは出来るけど基本友達想いの自分が大好きで自己肯定感の塊だから……。

 

「よしリーマスに意見を聞こう」

「「なんでそうなるんだよ!」」

 

 喧嘩してたはずの2人に声を揃えて怒られた。くすん。

 

「だってありがた迷惑とかあああぁぁ」

「ちょっとは空気を読もうねミリー」

「はわ、袖を引っ張るピーター可愛い……」

 

 引っ張られたせいで思いっきり椅子から転げ落ちたけど可愛い天使がいるならOKです。私のピーターがこんなにも可愛い。

 あ、腰がピキって言った。

 

「いくぞコワルスキー。能天気バカと話してても埒が明かない」

「なんだよそれ! っこのアグリースリザリン!」

 

 バチン、と音がした。

 あ、とやらかした表情をするジェームズ。

 

「……っ、い、たいな。ジェームズ・ポッター」

 

 口の端を切ったのか血が滲んでいるセブルスがボソボソ呪詛の様に文句を言い始めた。

 

「大体なんで僕が寝る間も惜しんで研究してると思っているんだ……。一刻も早く完成させないとならないってのに……! 本来ならこんな雑談なんて無視して研究したいのに……! 医務室に缶詰めになるから自由時間は薬物とか触ってたいのにこの脳みそゆるゆるの腐れグリフィンドールが……ッ!」

 

 ぶった。ジェームズがセブルスをぶった。

 あぁ私の天使の顔に傷が……。いや傷なんてお互い今更なんだけどね、薬品の暴発とかで。マートルのトイレは実験失敗してもピーブズの悪戯だと思われてるみたいで誰も来ないんだけどね。

 

 まぁそんなことよりセブルスをぶったジェームズだよ。

 

「ジェームズう」

「な、なんだよ、思わず手が出たけど今回に限り絶対に謝らないからな。危ない研究と友達どっちが大事なんだよ……!」

「お前は独占欲の強い女か! いいや謝れ! 今回に限りじゃないんだよアホ!」

「………………ッ、だってお前ら何の研究してるんだよ! 僕これでも知ってるからね! お前らの会話に出てくるトリカブト、別名が狼殺しだって事!」

「おいジェームズ! 声が大きいッ!」

 

 悪戯仕掛け人の衝突は思ったより目立っている様で、自然と注目を集めていた。シリウスが慌てて口を塞ぐ。

 

 あーーもう! ジェームズのアホ! セブルスぶった! 私はセブルスとジェームズだったらカメムシ1粒程の迷いもなくセブルスを選ぶからな!

 むきぃ! ホルモンバランスが土砂崩れ起こしそう!

 

「魔法生物の餌食に……」

「行くぞコワルスキー! そいつらに構ってるな! お前も校長と話だろう!」

「……行く」

 

 席を立って去ろうとしたセブルスに大人しくついて行く。はわ、セブルス優しいの塊。私が危害を加えようとしたジェームズをさりげなく庇ってる……。こ、これがスパダリ……! 庇われたジェームズが羨ましい。憎しはジェームズ・ポッター、覚悟して。私は杖を握りしめてお前を殴る。ここに真の撲殺天使が誕生したわけだ。あ、でも天使は私じゃない。

 

「……お前今何考えてる?」

「セブルスの打撃値」

「馬鹿だ」

 

 ふっかいため息。

 

「ミリー! そんなスリザリンとつるんでたらどうなっても知らないからな!」

 

 背中からの叫び声に私は無言で頷いた。

 天使の過剰摂取で死んでしまいますよね、分かる分かる。

 

 隣のセブルスは微妙な顔をして私を見ていた。不服だ。

 

 

 

 ==========

 

 

 

「レモンキャンディーーー!」

 

 約束の時間を1時間オーバーして訪れた校長室。なんか律儀に時間守るの癪だったから医務室でセブルスとリリーと戯れてたわ。

 

 合言葉を告げて、中から伸びてきた階段に乗る。ホイホイとトランクを持ちながら上がると、そこには校長がいた。

 

「よく来たねエミリー」

「先生が美形だったら時間を考えた」

「ほっほっほっ」

 

 見るからに高そうな机と椅子が置かれ校長室でダンブルドア先生は座りなさいと言うとにっこにっこ朗らかに笑っていた。

 

「さて、それでは今回の件の真相について聞こうかのう」

 

 あ、この人の目ってアイスブルーなんだ。キラキラしてて綺麗。

 まあ単刀直入とばかりに聞かれたので、私は変な御託を並べずにあっさりと全てを話した。

 

「──と、言った感じで。現在仲違いする可能性もありますね」

 

 今日の出来事まで全て。

 

 別に校長は可愛くもなんとも無いので興味は無い。

 

「そうかそうか、エミリー。よく教えてくれた。そう、そうじゃったか」

 

 あごひげを撫でながら校長は思案顔をする。困ったように眉を下げて私を見た。

 

「エミリー、お主はニュートの親戚筋。魔法生物の話はよぉく聞く」

「えぇまぁ得意科目ではありますからね」

「そこで、じゃ。頼まれてくれるか、リーマス・ルーピンの学校生活を」

 

 リーマスは分類的に言えば魔法生物という立場の方が強い。人狼、ウィアウルフとはそういう存在で、人間だけど人間じゃない存在。

 校長が敢えてリーマスを人間ではなく『魔法生物』として私に頼んだのは、何となくだけど分かる。

 

 私が「リーマスは人間だ!」って言う思想を持ってない事、そして私がリーマスと魔法生物が好きだという事。

 

 だから私は口を開いて返事をした。

 

「──お断りします」

 

 笑顔でそう告げるとぞわりと背筋が凍ったような気がした。気のせいの範囲内、だけど私はこの感覚を魔法生物で知っている。

 ワンプスキャットの開心術と似ていた。

 

「それは、なぜじゃ?」

「ダンブルドア先生が、私を舐めているからです」

 

 引きずり出される本音。なんで私が違和感を覚えるのか。

 あぁ、母さんや兄さんが私の心を読む感覚と似ているからか。

 

 私はひとまず、校長に言葉を言い放った

 

「先生に頼まれなくても、独自で動いてるわ。舐めないで。私がリーマスの事を大事に思っている気持ちを、頼み事なんて真似で踏み躙らないで」

 

 頼まれたから助けるんじゃない。助けたいから助けるんだ。

 前者と後者じゃ全然違うんだ。

 

「……そうか。彼は、とても良い友人を得たようじゃな」

「リーマスの事入学前から気にかけてたんですか?」

「もちろん。ウィアウルフの問題というのは案外根深い。ニュートはよくやってくれていてのう、ようやく、新しい時代に差別が無くなる兆しが見え始めた。それはお主にも分かるじゃろう、実際区別はあれど差別はしておらん」

「…………はい」

 

 ニュート・スキャマンダー、伯父さんは狼人間登録名簿というシステムを作り上げている。恐らくそこにはリーマスの名前もある。ニュート伯父さんは曖昧な立場に居たウィアウルフの地位を確立させようとしている。私は今まで以上に彼のことを尊敬している。

 

 ダンブルドア校長はそれに対し嬉しそうに笑っていた。

 

 

「先生、今開心術使ってます?」

「……。」

 

 

 表情が一瞬固まった。そしておそらく、この思考もバレているだろう。

 そこまで考えるとん校長はわざとらしくもため息を吐いた。

 

「エミリー、キミは勘が鋭い。野生の勘、とも言えるじゃろう。なにかに勘付いた後に理由を見つける、そんな子じゃと思っておる」

「そう、かな? うーん、自覚が無い」

「盲信し過ぎるのもいかんが、頼りにすると危険は回避出来るじゃろう。──だが」

 

 校長はアイスブルーの瞳で真っ直ぐ私を見つめた。

 

「敢えて危険に首を突っ込もうとする。そんなタイプでもある。今回のリーマス・ルーピン達の問題も含めて」

 

 ……それは、全く否定が出来ない。

 例え危険だと勘が告げていても大事な人を守るためなら喜んでに窮地(きゅうち)に赴くだろう。

 

「それでこそ勇敢なグリフィンドール。じゃがのうエミリー、そうと割り切れんのが教師というものじゃ。死んだ後に英雄と呼ばれる様な生徒を、誇らしく思うことはあるが、同時に命を落とす必要があるのかと謎でしかならん」

「それ、は」

「ただの予想でしかならん。お主は賢い。だからこそわしは言いたい。──己の命を無駄にしてまで、他人を生かそうとせんでくれ。子供は守られるべき存在なんじゃ」

 

 思い返すのは1年の終わり頃。

 ピーターとDADAの教師の件、それにブラック家の訪問の件。

 

 己の命の重さ、か。まだ私には理解出来ない。

 私は自分より、誰かの命の方が大事に思うんだ。

 

「分かりません」

 

 素直に笑顔でそう返した。

 私の心のうちは開心術を使っている校長ならきっと分かってくれている。だから言葉は重ねなかった。

 

「愛を学ぶんじゃエミリー。愛を。道を踏み外さないように」

「私が天使を愛してないとでも」

「そうじゃない」

 

 思わずガタリと立ち上がり反発した言葉に、校長は片手を出して落ち着けと言いたそうに静止を掛けた。

 

「愛されること、愛すこと。生に貪欲になれ。誰かを慈しむ心と愛する気持ちは活力になる。自分が死ねば自分を愛する誰かを不幸にすると、そういう愛を学んでんくれ」

「……よく、わかり、ません」

「ほっほっほっ!そこは安心しなさい。ここはホグワーツ。学びの場じゃ」

 

 安心する笑顔だった。

 

「聞いていいですか?」

「うん?」

「なぜアメリカ育ちの私をイギリスの魔法魔術学校に入学を許可したのか、その理由を」

 

 疑問ではあった。伯父さんはここが母校で、ダンブルドアに恩があると何度も言っていたし、お気に入りの生徒の1人。

 だからといって私がアメリカの魔法魔術学校じゃなくてホグワーツに入れる意味が分からなかった。

 

「ホグワーツ創設者の4名は、授業で習ったの?」

「ええ」

「なんでも良い、その4名に対する感想を教えてくれんか」

 

 ゴドリック・グリフィンドール。

 ヘルガ・ハッフルパフ。

 ロウェナ・レイブンクロー。

 サラザール・スリザリン。

 

 魔法史で1年の時に習った基本的な成り立ちしか知識は無い。サラザールは血の在り方への価値観により、他の3人と意見が分かれ、最終的にゴドリックとの激しい決闘の末、ホグワーツを去ることとなった。

 

「仲が、良いんだなって」

 

 校長はただ何も言わずニコリと笑って続きを催促した。

 

「仲が良くないと衝突するほどの意見のぶつけ合いは出来ない。だから彼ら4人は本当に取り繕うことなく意見を交わせる、素敵な関係だったんだと」

 

「私が彼らの意見を正しく拾うことなんて出来ない。でもただ一つだけ分かるのはぶつかり合えた事、それだけは真実」

 

「だから羨ましい」

 

「私は仲良くしようとすることしか出来ない。意見のぶつかり合いで仲違いすることが恐ろしくて堪らないから。そんな勇気が欲しい」

 

「先生は私を勇敢と言いましたが、またそれとは違う勇敢さなんだと思います。そして、私たち生徒の中で、それに1番近いのは……──」

 

 校長にはお見通しだろうが私は自分の口から吐き出したかった。

 

「セブルスとジェームズ。この2人です」

 

 

「だから怖いんです。魔法生物という驚異で脅してもろくな事にならないのは分かっているけど、2人が今みたいに衝突する事が怖かった。今も怖い。仲違いして、憎しみあって、ちょっとしたすれ違いで将来殺し合いにまで発展したらと思うと、とても怖い」

 

「もしも闇と光に別れてしまったら、いがみ合ったまま、憎悪に染まったまま、道が分かたれてしまったら。きっと頑固な2人は喉元に杖を突きつけ合う。そうじゃなかったとしてもきっと、きっと。……死んでしまう」

 

「夢を見るんです。とても恐ろしい夢を。ジェームズも、セブルスも、矛盾に満ちた世界ですれ違って死んでいく夢を」

 

 

 これは創設者の話なんかじゃない。なんでだっけ、どうしてこんな話になったんだっけ。

 

「エミリー、わしはキミのその考え方が好きじゃ。じゃがその恐怖心はより一層の死を引き寄せるとわしは思う。今、2人に曲げられない信念のぶつかり合いが起こっておるんじゃろう? エミリー、傍観してみなさい。──信じてあげなさい」

 

 ボロボロといつの間にか泣いていた。喉がカラッカラなのでいつから泣き出したのか自分でも分からないけど。とにかく泣いていた。

 

 

「エミリー・コワルスキー。お主は立派な人間じゃ。例え親がどんな立場だろうが、寮が違おうが分け隔てなく接するその心。わしは教師として大変嬉しく思う」

「別の寮生は敵じゃないわ。ホグワーツはこんなにも面倒臭い学校なんだから。だって──……」

 

 

「……ほう!そうかそうか!そう、捉えてくれるか。……エミリー、わしはキミを希望に思う。どうか、素敵な学校生活を送っておくれ」

 

「ッ、はい、先生!」

 

 スッキリとした私は、満面の笑みでそう返した。

 

 

 

 

 

 

 

「お前俺の質問聞いてくれた?」

「あっ」

 

 シリウスの言葉で忘れていた質問の存在に気付いた。




まあ気付かなかったのは質問だけじゃないけど。

久しぶりにハーメルンに投稿したらなんか楽曲機能が付いてた……。すまない、私は多分使わない。それと喘息で今期は死にそうですが来年から超ハイペースになるので。

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