─矛盾─   作:恋音

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前回までのあらすじ
人狼露見→魂の双子とスネイプが対立→やったるぜヒャッハー

3年生の話ではなく、3年の終わりの夏休みの話。


20.研究者

 

 3年生の間、セブルスとジェームズは喧嘩をしていた。

 優しくて可愛くて軽率に私を燃え死なせるセブルスは大して可愛くもないジェームズに悪戯をされながらも研究し続けた。

 

 魔具を使っていた賢く応用能力が高く発想力が桁違いなピーターが何かに気付きさりげなくジェームズとシリウスを動かしてセブルスに危害が行かないようにしたり。

 この現状の責任の一端を握っていると察してしまった優しくて責任感が強くて影で悪戯仕掛け人の人形師(パペッター)と呼ばれるリーマスが何とか仲を取り持とうと頑張ってみたり。

 

 

 それに比べてヘナチョコのあんちくしょジェームズはセブルスに悪戯。構ってちゃんなくせに実際目が合ったらすぐ逸らす。

 それに腹を立てるセブルスはますます頑固になってガン無視の一途を辿る。フン、って鼻を鳴らすセブルスは可愛すぎて辛かった。死ぬかと思った。心臓がバックバック踊り狂ってそこから灼熱の炎が飛び出るかと。

 

 

 悪戯というのもまだ可愛いものだ。基準が魔法生物の悪戯だけど。

 例えばくそ爆弾投げ込まれたり。魔法が投げ込まれたり。

 

 オラオラ〜セブルスくーん、って感じで直接絡みに来ないけど無視は鬱憤が溜まるみたい。リーマスからのチクリより。

 

 

「あんっっっっっのくそMM共(イタズラ好き)が……!」

 

 セブルスが鬱憤溜め込んでるけど。

 

「すごいねセブルス、やり返さずに目的の為に淡々と作業を続けるの……」

 

 それがジェームズを煽ってる事に気付かない辺りがとても可愛い。

 

 

 時は3年終わりの夏休み。

 3年はジェームズに悩まされたと言うよりジェームズに煩わされ脱狼薬に悩んだ年だった気がする。ホグワーツ内は可愛いらしい応酬だったのかもしれないね。大人の世界はよく分からないからハッキリは言えないけど、闇の帝王とかいう頭病んでる人が勢力拡大して大変みたい。子供は邪魔だからと長期休み残ってた同学年多いし。

 

 とにかく、そんなセブルスと私は、セブルスの家庭環境の色々もあって今回の夏休みは私が引き取ることに!パンパカパーン!

 

 1年2年とジェームズシリウスにその役目を取られてたからね。あ、親御さんの許可はちゃんと貰ったよ。

 

 チップ120%を実行しちゃった。

 

 とりあえずお父上にチップ握らせたけどお母上にもこっそり魔法で渡しといた。多分それで正解。セブルスに知らせたら絶対怒られるだろうから教えてないけどね。

 

「ミリー、ミリー」

 

 コンコンと部屋をノックする音がした。そこから聞こえてくるのはリアム兄さんの声。

 

「どうしたの兄さん」

「ミリーにお客さん来てるみたいなんだけど、店まで降りてもらっていい?」

「ん、了解」

 

 行ってくるね、とセブルスにラブコールを送ると、無言でスーツケースを開いて飛び降りてしまった。塩対応もご褒美です!

 

「ねェミリー、ぼくそんなに男っぽくないかな」

 

 階段を降りて店まで行く途中リアム兄さんがぽつりと呟いた。

 ピーン、と閃く。

 

「当ててあげようか兄さん。私だと間違えられて『エミリー、髪切ったんだ、似合ってるね』とか言われたでしょ!」

「そんなもんじゃないよ。『おい出来損ない、パン作る暇があるならさっさと作業を進めないか』って思いっきり罵倒されたんだけど」

「まぁ兄さん顔は私そっくりだからね〜!」

「待ってその発言に謎は無いの?」

「私を知ってる人ならその評価って妥当だと思わない?」

「ミリー!?学校で何やらかしてるの!?」

 

 『やらかしてる』って選択肢が出てくる時点で兄さんも大体察してるんじゃない。

 私はパン屋コワルスキーへと続く扉を開いて店内に入った。

 

「はぁいお客様。どなた?って……」

 

 そこに居たのは黒いマントで身を包んだ男が2人店内で佇んでいた。

 他のお客さんは遠巻きに見ている。

 

 ヴォルティーグぅうう!

 

 

「Fuck you!」

「同じ顔が2つあるとか最悪だなエミリー・コワルスキー」

「その見るからに怪しいですアピールなんなの!?営業妨害も甚だしいわ!最低!もうこっちきて!もっとまともな格好出来ないの!?」

「な…ッ!貴様、俺様が誰だと」

「ただのOB!」

 

 イギリスには無い風習でビックリした覚えがあるんだけど、あの国あんまり母校とか愛さないんだね。

 母さんや父さんなんて生粋のアメリカ人だから母校の名前が彫ってある指輪持ってんだけど普通に。私もそれが普通だと思っていた。

 

 つまり私と同じ学び舎に通っていた人物だと知った周囲のアメリカ人は警戒心を解いた。

 

 同じ学校出身ってアメリカでは凄く尊ぶ事なんだぞ!心の距離が一気に縮まる魔法の言葉なんだぞ!常識よ!

 

「なんだいエミリー。お前どこの学校行ってんだ?」

「伯父様の勧めで彼の母校に。この見るからに悪い事してそうな格好してる人も同じ学校出身なのよ。勉強と国風教えてくれる約束してたけど……まだアメリカに慣れてないみたいなの」

 

 肩を竦めながらヤレヤレと言った様子で常連客の小父さんに軽い説明をする。私はヴォルちゃんとその連れを押して奥へとむりやり押し込んだ。おいとか講義の言葉が聞こえた気がするけど多分気のせいだわ。うんうん。

 

 バタン、と扉の閉まる音。

 

「──ごめんなさいMr.スミス、よかったら焼き立てのパン食べてね。ハァイ、元同級生さん、そろそろ減量しないと不味いわよ。そのお腹、パンみたい。あら?父さん?そんな縮こまってどうしたの?」

 

 一応店内のアフターケアをしていたら厨房でカチコチに固まったジェイコブ父さんが扉の方を見て呆然としていた。

 

「父さん?」

「……いや、やばいやつとの既視感が。俺のトラウマが……蘇る。あぁハニー……行かないでくれ……」

「一体何があったのよ父さん達親世代に」

「聞くな」

 

 呆れ果てた私は兄さんとバトンタッチをして客人の元へと向かった。

 

 

 

 

「それでヴォルちゃん、そちらの方は?」

「俺様の知り合いだ。魔法薬学に精通している」

 

 マントの下からギョロリと丸くした目で観察された。

 ふむふむ、警戒されてるわけね。

 

 

 私は素直な人間なので思ったことをすぐに口に出した。

 

「ヴォルちゃんの知り合いって可愛くない人しかいないの?ヴォルちゃんが可愛くないから?類が友を呼んじゃった?」

「不敬」

 

 頭を思いっきり叩かれた。馬鹿になったらどうしてくれるんだ。

 

 ギャンギャン騒ぎながら歩いていたからなのか私の部屋からセブルスが顔を出した。

 あっ、可愛いッッ。この世の果てで恋を唄う少年って感じがする可愛い。クリクリしたまだ幼い感じが残る顔付きが心臓を鷲掴みする。新手の殺害方法。

 

「闇の帝王すら使えないであろう見るだけで人を殺せる魔法……!」

「いつも通りだすまない」

 

 セブルスがヴォルちゃん達に向けて謝った。

 はわぁ、私の友人めっちゃ可愛い……。リリーとセットで一体いくら位出せば貰えるのだろうか。言い値で買う。ただし私の全財産で帰る程安いわけが無いので分割払いがきくとありがたいです。

 

「僕の部屋じゃないですけど、立ち話もなんですから中に」

 

 セブルスの勧めで全員が私の部屋に足を踏み入れる。ヴォルちゃんは狭いとブツブツ文句を垂れながらも私がセブルス用に出した座り心地のいい椅子に勝手に座った。蹴り落としてやろうかこの魔法オタク。

 

「セブルス・スネイプです。コイツの友人を不本意ながらしてます。貴方が、この馬鹿の協力者の……?」

「ヴォルティーグだ。こっちは魔法薬学に精通した学友だ」

「Mr.プリンス、と呼んでくれたまえ」

「「はい、Mr.プリンス」」

「よろしい」

 

 仲良く声を揃えるとMr.プリンスはヴォルちゃんを見た。

 無言の訴えに応える様にヴォルちゃんは首を1度縦に動かして厳かに言い放った。

 

「エミリー・コワルスキー、お茶」

「エミリーはお茶じゃないのでヴォルちゃんだけ出てきませーん!」

 

 Mr.プリンスは綺麗にずっこけた。

 

「このように、貴様が警戒する必要性も無いほど能天気な奴だ。むしろ警戒すればするだけ無駄だ。分かったな」

「……左様で」

 

 主語のないやり取り(主語自体はあるけど大概言葉を省く)ので良くわからなくて首を傾げるが、Mr.プリンスのちりちりとした警戒心がふと緩和されたのが分かった。

 

「それで、どこまで完成した」

「ははん、マグル出身舐めないでよね。マグルの医療関係を探ってワクチンとかからヒント貰ってた。ヴォルちゃんとか、というか魔法族全般杖でなんでも出来ちゃうからマグルの方が医療関係の技術がすごい」

 

 なんせ高いお金を払ってマグルの調合器具とか使ってやってましたから。と言っても、マグルの医療関係っていう伝手は夏休み入ってすぐのロンドンで手に入れたんだけど。

 うん、マグルの写真技術教えてくれた師匠の親って言うんだ。その伝手。

 

「何回か取り掛かってみたけど理論に片をつける前に君達が来たから」

 

 スーツケースを開けて作業室にご案内する。

 Mr.プリンスは若干戸惑っていたみたいだけど、貴重な魔法生物の材料が多くあるとしって心做しかワクワクしてるように見えた。

 

「しかし、マグルの医療機関か……」

 

「マグルが不可能な事を魔法使いが出来るんだから、魔法使いが不可能な事を出来る可能性があるじゃない?」

 

 それが今回人狼という感染症の治療薬作成の技術であっただけ。ヴォルちゃんはマグル差別激しいから多分Mr.プリンスも激しいと思うからフォローを入れてみる。

 

「マグルは魔法族と違って杖が使えない分、そこら辺は発展してますから」

「だよね。未だに魔法界不便なところあるもの、テレビとか映画とか」

「キッチン用品とかもだな」

「あと食事文化」

「「「それは国の未発達部分」」」

 

 あーー、マグルとか魔法界とかひっくるめて食事文化はダメダメなのね。うん、マグルだろうと食事は控えよう……。

 

「とりあえずヴォルちゃんとMr、これ見てちょうだい」

 

 作業台の引き出しに入れた書類を取り出して、2人に見せた。

 

「必要最低限の土台は出来たのよ!」

「僕がな」

「もちろんセブルスが!」

 

 自慢げにというよりめちゃくちゃ自慢しながら書類を眺める2人にドヤ顔をする。私のセブルス本当に可愛くって賢くって強くってすごいでしょう!

 

「そこから数種類作ってみたんだけど、とりあえず効果が分からないから理論を計算する作業に入る予定。……まあトリカブトの種類多すぎて膨大な作業になるから1年目安で」

「ふむ、これは失敗であるな」

 

 つらつらと説明を重ねていたらMrが1枚を燃やした。

 

「あーーっ!」

「まず飲み合わせが悪い。イギリスのメジャーなトリカブトと魔法生物素材は通常だとそこまで相性は悪くないのだが、魔法生物という生きた物には大変に相性が悪い。故に、ウィアウルフには毒になりすぎる」

 

「──セブルスの文字が!」

「悲しむところはそれでいいのかコワルスキー……」

 

 横でセブルスがめちゃくちゃなため息を吐くのだった。そのため息を肺いっぱいに取り込んだ私は燃えカスを瓶に詰める。

 勿体ない。セブルスの……あとついでに私の努力の結晶、無駄だとわかっているけど集めてしまう……。

 

「…………やばさが増したなエミリー・コワルスキー」

「そもそも、何故トリカブトが我がイギリス魔法界で狼殺しと言われていると思っているのだMs.コワルスキー?」

 

 顎を上げ、煽る様に首を傾げるMr.プリンス。

 ぐううう。

 

「わ、分からない……」

「でしょうな。流石は蛮族、まだ魔法界にて暮らし日が浅い。──にもかかわらず常識を持たない状況下で良くもまぁ無駄に設備及び素材を無駄にしましたな。紙が大変に勿体ない」

 

 い、言われてみれば……!

 言い返したくて対抗する言葉を探して視線をウロウロさせていると気分を良くしたのかMr.プリンスはにんまりとドヤ顔をした。

 

「はっ、腹立つ〜!」

「口を慎めグリフィンドール生。我が君の前であるぞ」

 

 

「……まあ無礼不敬は今更な話ではあるがな」

 

 去年の暑い夏(物理)を共に過ごしたヴォルちゃんは死んだ目で明後日の方向を眺めた。

 

「あぁ、そういえばルシウスが」

「美形過ぎて情操教育に悪いから子供が出来た時子供が可哀想に思えると私の中で話題のルシーが!?」

「そうだな、そのルシウスが「流すのですか……」今後関わるつもりはない、それはそうとして写真を送り合う様にしよう、と言っていた。俺様の前で、堂々と」

「はわわわわわ(わかったよありがとうヴォルちゃん)」

 

 語彙力の大半を乗せたトロッコが激しい音と衝撃を与えながら沼地に落ちて行った。さようなら心の中のトロッコ。

 貴方が壊れても私の中では永遠に生き続けるよ。私の中で壊したんだけど。沼の底で元気にね。沼の底は寂しいだろうから新たにいくつかそちらに送るよ。

 

「それよりMr.プリンス!貴方とてもすごい人なのですね!すごい、材料と量から反応と効果を暗算できる人なんて初めて見た……!」

 

 あーーーーーー(トロッコが沼に送られる音)

 

「私は魔法薬学に精通している。このくらい出来て当然だ」

「よ、よろしければ……僕にコツを教えて貰えませんか……?」

 

 上目遣いセブルスへっへっへっへっ可愛い無理だ私は今日この日命日とする。

 ハー、顔面の偏差値高すぎて家を失う。家を売り払ってでも貢ぎたい。こんなに私の好みに優しくって大丈夫なんですか?それで私の相棒とかもう私をどうするつもりなの…っ!

 

「手取り足取り腰取り私が教えてぇーーーーーー!」

「──セブルス、この変態を止めよ」

「褒めないでください図に乗ります」

「褒めてないが??????」

 

 

 変態だなんて照れる!




久しぶりです書けました。
Mr.プリンス(スネイプ先生のお爺さん)の資料を探していたんですけど見つからなかったのでスネイプ先生をモチーフにもう作ってしまいました。

一応親世代の学生時代はプロローグなのです。雰囲気と間柄は大分かけたのでプロローグ終わらせるためにも、4年生からは重要なところだけ書き連ねていきます。

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