─矛盾─   作:恋音

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21.リーマス

 1974年10月31日。透き通る空に浮かぶ星を打ち消すほど明るく辺りを照らす満月の中。

 イタズラの祭典とも言える待ちに待ったこの日、にだ。

 

「あの研究好き共はどこに行ったんだよ」

 

 ジェームズ・ポッターは最高に不機嫌であった。

 

 イラつきを隠す様にミートパイを口に放り込むと、苦労して作ったイタズラの被害先をキョロキョロと探す。

 

 ホグワーツの毎年恒例行事。ハロウィン。

 普段厳しい先生方も今日この日は多少優しくなる。この合法的に悪戯が許される日に、悪戯をせずして誰が悪戯仕掛け人であろうか!

 

 ジェームズ・ポッターとシリウス・ブラックのコンビ、そしてセブルス・スネイプとエミリー・コワルスキーのコンビがトリックを競う姿は同学年から上の認識から最早イベントとして恒例行事となりつつあるのにも関わらず……。

 

「はぁーーーー、あの薄情者め」

 

 件の2人が姿を現さないのであった。

 

 不機嫌に頬を膨らませるジェームズの傍にはシリウス、そしてピーター・ペティグリューの姿があった。ただ、今日が満月な為リーマス・ルーピンはそばにいない。ハロウィンが終われば拙いながらも夏休み完成させたアニメーガスで動物に成り、そばに居ようと言う計画だった。

 

 余談だがリリー・エバンズはスキルアップになるからとアニメーガスを習得。逆に言えばアニメーガスを習得してないのはセブルスとエミリーだけ、ということになる。

 

「まぁまぁ、気分入れ替えようぜジェームズ」

 

 シリウスが宥めるようにそう言えば、ハムスターのように食べ物を頬張ってピーターが頷いた。

 

「大体リーマスもリーマスだよ。ただの帰省にあんな傷だらけになっちゃってさ。僕らが気付かないとでも思ったのかな」

「つったってお前気付いたの2年だろ」

「わっかりやっすい壁作ってさー。必要以上に関わろうとしなかったし」

 

 ブツブツとちり積もった愚痴とも言えない文句を口に出す。

 シリウスはやれやれと言いたげに肩を竦めてた。

 

「でもっ、ん、セブルスとミリーはどこ行っちゃったん……」

 

 ふと、食べ物を飲み込み口に出そうとした言葉が尻すぼみに消えていく。ロウソクの火が揺らいで消えるように。

 

「??」

「ピーター……?」

 

 視線が大広間の入口に向けられ固まった彼を不思議に思い、思わずシリウスがピーターの視線の先を向いた。

 

「えっ」

 

 ピキッ、とシリウスが釣られて固まってしまった。連鎖する様に綺麗に固まってしまった友人2人にジェームズは盛大に取り乱した。

 

「えっ、なになになになに、まってこわい。お前たちの視界の先に何があるの?僕振り向けないんだけど」

「………」

「何か言ってよォ!メデューサでもいるの!?」

「……マーリンのヒゲ」

「くっそーー!シリウス・ブラックの色欲魔ーーーッ!」

 

 覚悟を決めて振り返った。

 

 

 

 

「えっ」

 

 覚悟を決めていたジェームズすら体が固まる。なぜ、どうして。

 

 ここでもう一度言うならば、今夜はバリバリ満月であるということ。

 

 

 

 

「……──リーマス」

 

 3人の視界の端に、お姫様抱っこで登場したリーマスがいた。

 

 どっちに驚けばいいんだろう。

 

 

 ==========

 

 

 

 

「無理無理無理無理無理!」

「いける、理論上はいけるんだ」

「理論上行けたとしても倫理的にアウトな匂いがするよお!」

 

 叫びの屋敷と噂されるボロボロの小屋の中で1人、月夜に心を奪われているリーマスの所へセブルスと一緒に突撃した。

 月め、許さん。リーマスの心を奪うとは何事だ。

 

 それにしてもセブルスの見るからに怪しい液体を無理矢理飲まそうとする様は脳内のネジぶっ飛んでて可愛いなぁ。

 

 私はゴブレットを2つ両手に携えてそう考えた。

 

「ねぇセブルス聞いてる!?えっ、ちょっ、目がヤバいって犯罪者みたいな目してるって!エミリー!助けて!」

 

 小屋の端で攻防を繰り広げる天使達。

 素晴らしく清い光景。この世に生まれて良かった。あぁ、天におわすマイゴッド。この天使はてめぇにはやらん。お前の物ではなく私の可愛い天使である。

 

「リーマス……。私とセブルス、3回一緒に夜を明かしたんだ」

「それ大分やばくない!?」

「安心しろ理論上は行ける」

「理論上の事しか言えないのッ!?」

 

 人間にはまだ早すぎるーーーッ!なんて可愛い事をいいながら首を横にブンブン振って拒否するリーマス、その可愛い首がとれそうよ。

 

 

 脱狼薬の完成。

 

 ──は、正直まだ出来てない。

 

 

 効果という意味でも辛うじて効くレベル。理論上は。

 これはウィアウルフの歴史の第1歩なのよ……!ゴブレット3杯分、各種それぞれ効果は違うけれど飲んだら間違いなく人狼化を抑えられるし、月を見ても平気!な!はず!理論上は!

 

 チャイナ産のトリカブトの茎を煮込んだ煮汁をアメリカ産のトリカブトの花にかけてトリカブトの毒性のバランス問題は解決させた。頭冴え薬からの参考。

 あとは生ける屍の水薬から狼の部分を眠らせる眠りに特化させた部分の効果を参考にして。催眠豆を14個にアスフォデルの球根を2個。変身薬の化ける成分から毒ツル蛇が脱皮した皮と、リーマスが体調万全の時の髪の毛に、──大本命の満月草。これは人狼化という意味でも材料的にピッタリだった。

 あと変身の効果を『反転』させるものだから、ポリジュース薬に使う不純を司る二角獣の角ではなく、純粋を司る一角獣の角の粉末を5本。

 

 これが今セブルスが持ってる脱狼薬のベースである材料だ。

 本当はフロバーワームという子の粘液で魔法薬を縮小させたかったんだけど拒否反応が激しく出るから原液のままで出してるけどまだまだ改良の余地あり。

 

 あとは拒否反応を抑える薬がひとつに体調を整える薬がひとつ。

 ゴブレットで。

 

「最悪3杯目は飲まなくていい。1杯目と2杯目は続けて即座に飲むんだ」

「あ゛ーーーーッッ待って待って待って待って!人類では克服出来ない前衛的な臭いがする!悪臭もこれの前では箒をぶん投げて逃げ出すから!」

「大丈夫だ今のお前は魔法生物だ」

「人類じゃなければいいってもんじゃないからァあぁぁぁあ゛あ゛あ゛ぁ!!」

 

 

 5分後

 

 

「ぅ゛ぇっ、ぉ、おぇ……」

「吐くなよ」

「ダークマターを通り越してブラックホールが僕の中に存在してると思ったら死ねる……」

「セブルスの子がリーマスの中に……!」

「エミリーそういう言い方やめ…ぅぇ……」

「悪阻か?」

「殴るよ」

 

 フォアグラされるガチョウの気持ちが分かった、と言いながら両手と膝を地面について唸ってるリーマス。生理的な涙がボロボロ出ている姿は宗教画でもおかしくない。

 レオナルド・ダ・ヴィンチを呼ぼう。ここにモナ・リザが可愛いねって言えるくらいの美がここにあるよ。

 

「即効性だろうから外出るぞ。もうハロウィンが始まってる時間だ」

「足に来てる……不味さって言うレベルじゃない鬼畜さが足に来てる……」

「任せて」

 

 私はそっとリーマスの体を持ち上げた。

 世間的に言うお姫様抱っこの体勢で。

 

「エミリー!写真を撮るぞ!」

「うっ、可愛い子を腕に抱えた状態でセブルスの満面の笑み+初の名前呼び……?ここが……天国……?」

「うぇ……吐きそう……」

「吐くなよ」

「吐かないでね」

「僕の友人は総じてクソです神様……」

 

 そしてついに満月を眺めることが出来たリーマスは言った。

 

「満月の衝撃を上回るくらいの不味さが感動を相殺してきた」

 

 

 

 

 暗転

 

 

 

「リーマスッ!」

 

 ジェームズが他の寮の机すら乗り越え慌てて駆け寄る。

 続いてシリウス。そして可愛いお姫様が続くが転びかけて、それをリリーがローブを引っ張ることで防いだ。

 

 ピーターとリリーの組み合わせとんでもないな。核爆弾?

 

「リーマスッ、リーマス!」

「あ、うん、リーマスだよ」

 

 目玉が飛び出そうなほど仰天したジェームズがリーマスに詰め寄る。私がお姫様抱っこしてるから衝撃が伝わって来た。

 

 うーん!エクセレント!この驚きっぷりは最高だね!

 

 意地でも落とさない様にしてたんだけどリーマスの降りたそうな気配を察してそっと地面に降臨させる。はわわ、天使だ。

 そういえばシリウスをプリンセスホールドした時はもう死ぬしかねぇって顔してたけどアイツ顔芸向いてるわよね。

 

「どうして、リーマスっ、体、体は、体調は!」

 

 地に降り立った天使に無作法にも肩を掴みジェームズが体を揺さぶる。

 

「平気……ではないけど大丈夫だよ」

「リーマス!」

 

 ジェームズを押し退け愛しのリーマスにシリウスが抱擁した。リーマスが幸せそうだからよし。

 

「あのさ、シリウス、僕ずっと」

 

 涙目でリーマスがにっこり笑う。

 

「ずっと君のこと苦手だった」

「今言うか???」

「だって君さ、諦め悪くて。必要以上に関わって欲しくないのに秘密を暴こうとするし。ジェームズはその点良かったよ。気付いても普通に過ごしてくれた」

 

 あぁ、分からんでもない。

 ジェームズは友情大好きマンで短絡的に見える。だけど、ここぞという時は誰よりも冷静になれる。悪戯仕掛け人のブレイン。

 対してシリウスは普段冷静ぶってるけど、実は誰よりも友情に熱い男だ。

 

 ジェームズ、覚悟決めると演技上手いしね。口からでまかせがどんどん飛び出る。

 

「わっかるぅ〜!シリウス、リーマスがいないとギャン泣きだったしね!」

 

 ゲラゲラ笑いながらジェームズがシリウスを指さした。何その情報面白すぎる。

 

 

「君たちと一緒に過ごした満月は、とても待ち遠しくて、すごくワクワクした。そんな気持ち、初めてだったんだ。ありがとう!」

 

 

 リーマスは誰よりも綺麗に笑った。いつもの貼り付けた様な、必要以上に人と距離を取ろうと自分を隠す笑みではなく。満面の笑みを。

 

「ところでジェームズ、吐きそう」

「えっ、ちょっと待って、ふく、袋!」

「吐くなよ」

「絶対吐かないでよね」

 

 吐いた瞬間セブルスが魔法で無理やり押し込む気満々だから。胃の中で直に魔法薬錬成する気満々だから。

 

「はー、やっと落ち着ける」

 

 横からポツリと強がりの言葉がこぼれる。

 

 眠気MAXのセブルスが吐き戻し対策で杖を取り出したままだったので、私も杖を取り出してコツンと杖をぶつけあった。ゴブレットで乾杯するように。

 

「悪戯完了、だね」

 

 キョトンとこちらを向いて視線を合わせた後、私の天使は幸せそうに笑みを深めた。

 

「ああ」

 

 ねぇセブルス、次は貴方の番だよ。

 

 

 

 セブルスは吐き気で言葉に出来ない悲鳴を上げるリーマスの背中を叩く。

 ただでさえ人類は克服できない理論上はいける前衛的な物体を飲んで吐き気が止まらない中だったんだから死ねるよね。

 リーマスは助かったと言わんばかりに私の背中に逃げ込んだ。私はどうやら今日で死ぬ様子です。燃え死ぬ。

 

 

「すっ、スネイプ」

 

 私の手を離れてセブルスはカエル野郎の元ににじり寄る。蛇に睨まれた蛙は数歩後退したが机のせいで立ち止まった。

 

「ジェームズ・ポッター」

「ハッ、はい!」

 

 覚悟を決めるようにセブルスはその解像度の高い綺麗なお手手を握りしめた。

 

 選手、手を大きく振りかぶる。

 

「歯を……──食いしばれッッ!」

 

 いったーーーーー!!!

 セブルス選手やりました!可愛い拳がジェームズ選手にクリーンヒット!筋肉増強剤が無事効いている様で何よりです!

 

「うわぁ……バキッていったぞ……」

「えぇぇぇえぇ……」

 

 ピーターとシリウスが思わずといった様子で私の傍に避難してきた。リリーはアラ、と驚いた様子で頬に手を当てているかっこよくて可愛いとか最強だと思うわリリー。

 私イケメン嫌いなんだけどリリーは大好きだからイケメンでも愛せる。というか愛さざるを得ない。全人類愛すに決まってるじゃない。国民総幸福量はイギリスがダントツで1位だわ。

 

「ッ、一体なんなんだお前は!めんどくさい男だな!お前のせいで右手は痛いし!」

「普通に理不尽!」

 

 思わずといった様子でセブルスが叫んだ。

 

 そりゃ、思いっきり殴ったからね。

 その上普段肉体的な運動をしないし1年の時箒の練習してる最中貧血で倒れるくらいには脆い体してるしね。

 

「ここ1年ほんとに大変だったんだぞこっちは!ずっと薬のことばかり考えているのにお前という男と来たら僕の手の届かない位置に荷物を移動させるし、読みかけの本の栞を10ページずらすし、服の口を縫い付けるし、悪戯と称したクソ魔法をぶつけてくるし、くそ爆弾で一体どれだけ悪臭に煩わしさを覚えたと思っているんだ!」

「魔法はぶっちゃけ実験も兼ねてた!人に洗浄魔法をかけると口から泡が出るなんて驚きだよ!」

「いつの間にスリザリンに侵入したのか知らないが僕の髪の毛を絡ませるし!寝不足だし!扉に小指ぶつける魔法をかけるし!そのせいで今日3回もぶつけたんだぞ!」

「待って事実無根の冤罪が続いてるんだけど」

 

 怒りで顔をりんごみたいに真っ赤っかにさせて拳を握りしめたままセブルスが叫び続ける。

 

 はーーあーー幸福量上がったよ。過剰供給で私は死の間際。ありがとう、おめでとう。

 

 

 セブルスはゴン、と大瓶に入った予備の脱狼薬を懐から取り出した。

 

「──これは脱狼薬、まだまだ改良の余地しかないがようやく第1歩が完成したんだ。この中にもちろんトリカブトが入っている。お前が言ってた薬は、これだ」

「脱狼……薬?」

「お前は本当にクソめんどくさくて感情の整理すら出来ないガキンチョでめんどくさくて寂しがり屋でプライド高くてめんどくさい男だが」

「僕これ貶されてるよね間違いなく喧嘩売ってる?言い値で買うよ」

 

 ボロッと耐えきれなかった涙がセブルスのひとを虜にする瞳から零れ落ちた。

 

 

「僕はお前と…………友達になりたいんだ…ッ、」

 

 わ゙だじじん゙ぜがい゙の゙がみ゙に゙な゙る゙!

 そのこぼれ落ちた世界で1番神聖な液体を私が保管するんだァ!

 

「エミリー・コワルスキー、表情がうるさい」

「派手な背景は黙ってて」

 

 私の感情を邪魔したシリウスの顔面を叩く。避けられた。チィッ!

 

「スネイプ……」

「僕は、お前たちといて楽しかったんだ。研究も好きだけど、バカみたいに騒いでるの、好きだったんだ……。お前が居ないのは、酷く寂しい」

 

 寝ぼけ眼で頭をゆらゆらと揺らしながらセブルスが訴えかけている。きゃわいい。セブルスの姿をかたどったこういう玩具を世界は作るべき。

 

 ……幼少期からセブルスの可愛さに触れて大丈夫かしら。人格崩壊しない?

 

「ぼ、僕も……スネイプと友達にな……」

「だがそれとこれとは話が別だ!お前はどうして短絡的な解決策しか生み出さないんだ!お前絶対スラムの政策は炊き出しとかしか考えられないタイプだよな!」

「君実はすごく眠たいな!?寝ろ!」

 

 ステューピファイ!と叫びながらジェームズが呪文を唱え魔法を放てばセブルスはスコンと気絶した。

 

「全く、めんどくさいのはどっちだよ……」

 

 肩で呼吸をしながら汗を拭うジェームズ。どっちもどっちだよ。

 

 ……まぁ。

 

 

 

 

「『リーマス』で『ルーピン』なんて誰が見ても人狼を連想するよね」

「「「「「「コワルスキーッ!」」」」」」

 

 タブーに触れたようで全校生徒一同から合唱が入った。私も眠たいんだ、察してよ。




リーマスはローマ建国神話のレムス(狼に育てられた)と同じ綴りある。
ルーピンも「狼のような」を意味するlupineと類似している。

いつもより地の文にキレがないのも爪が甘いのもコワルスキーがめちゃくちゃ眠たいからである。この後沢山睡眠した。という筆が上手く乗らなかった時の言い訳。
基本的にコワルスキー視点で進んで行くのでコワルスキー無しで起こるイベントは今現在は書くつもりはありません。回想として出したりラジバンダリします。

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