夏休み。
小屋から微笑ましい笑い声と汚ぇ笑い声が同時に聞こえる中、私とヴォルちゃんとシリウスで魔法生物に餌をやっていた。
「あ、ヴォルちゃんそこテボいるから」
「──ップロテゴ!」
「コワルスキー、テボって?新入り?」
「不可視化出来るイノシシ」
「そんな可愛い存在であってたまるか。獰猛種だ、MOM分類XXXXの、どちらかと言うとイボイノシシだろう。突進されればホグワーツのガーゴイルにクアッフル並の速度でぶつかる気持ちでいることだな」
「テボってよりテロじゃん」
シリウスが慣れた様子で兎を放り投げていく。
クルクルと喉を鳴らしながら私の可愛い魔法生物達は一口で食べて進めていた。
「あ、ヴォルちゃんそこマピーいるから」
「マピー……? ──うおっ!?」
水辺から手を伸ばしたマピーがヴォルちゃんを水中に引きづり込んだ。
「対策出来ないから識別名じゃなくて種族名で忠告してやれよ。というかコワルスキー、お前水中系の魔法生物持ってたっけ?」
「去年来てくれたの」
「へぇ、このスーツケースさらに凶悪になるのか」
「私卒業したら家を買い取って全部拡張工事して魔法生物と暮らす予定よ。私、この前のクリスマス休暇でルサールカの情報を探しに行ったじゃない?」
「ルサールカが何か知らねぇけど突然抜け出したな」
「その時ブルガリアの小父様が、環境工事を生業とする魔法使いを紹介してくれたのよ。中々素晴らしい腕だったわ」
「どっから出てきたんだよブルガリアの小父様」
東ローマ帝国の歴史を探りたくて向かったんだけど、やっぱり休暇届けも外出届けも出さずに抜け出した状態じゃまともな散策は出来なかった。魔法もまともに使えないし。でもその代わりにポートキーの繋がりを入手出来たのは1番の収穫! ポートキー、調べても出てこないし路線わからなかったんだよね!
「ブハッ! ……ぜぇ……ぜぇ……助けんかエミリー・コワルスキー……」
「あら、ヴォルちゃんなら平気だと思ったのだけれど」
「この俺様がマーピープル如きに敬意を表すとでも思ったのか……!」
「全く!」
マーピープルのマピー。
魔法省分類XXXXの水中人。ちなみにホグワーツの黒い湖の中にもマーピープルがいる。
去年は時々マピーをスーツケースから出して黒い湖を自由に泳がせていた。
ユニコーンやケンタウルスの様に敬意を持って接すれば基本的に害のない心優しい種族の子だ。知性が高いからね!
「ケルピーが見えた瞬間流石に息を忘れたぞ」
「水中だから息できるわけないじゃない」
「普通はな……!」
ケルピーのケピー
同じく魔法省分類XXXXの幻獣。色んな姿形をするけど基本的に海馬の姿をしている。次点で海蛇の姿かな。
最近はえら昆布を食べて一緒に海中散歩を楽しむのがブーム。
私は学生だから基本的に一種類一匹しか所持許可を持っていない。寂しい思いをさせてしまっているか心配だったけど、マピーもケピーも同じ水中族だしマーピープルは水魔を飼う特性があるから水魔であるケルピーとも相性がいい。とても仲良くしてくれている。
はぁ……うちの子天才……可愛い。
あ、マピーが顔だけひょっこり水面から出している。
「きゃああああああああああああッ!」
「うっっるさ! いきなり叫ぶな!」
「失礼な、マーミッシュ語よ。マーピープルと話すための言語。勉強したの」
「ほぉ、エミリー・コワルスキーは動物言語もできるのか」
「1部だけどね。マーミッシュ語は比較的やりやすいわ」
「きぃいいいっ!」
「えっ、ああああうううッ」
「きゅいいッ!」
「叫びあいにしか聞こえないけどな。マーピープルはなんて?」
「…………ヴォルちゃん最高にカッコイイねって」
「ブホッ」
「おい何故吹いたシリウス・ブラック」
「やめといた方がいいと強く勧めておいたわ」
ヴォルちゃんはもしかしたらマーピープルの視界にはかっこよく映るのかもしれないけど、うちの子は嫁にやりません。
マピーはいたずらっ子だからなぁ。
ヴォルちゃんがなんてことない顔をして服を一瞬にして乾かした。
実は実技得意のジェームズでも苦手とする衣類乾燥魔法。風化させないように乾かすのは非常に難しいらしい。ジェームズよりリリーの方が生活直結の魔法は得意なのかもしれないね。
リリー、なんてったって優秀で綺麗で可愛くてカッコイイから。彼女最近影でなんて言われてると思う? グリフィンドールの騎士様だよ。野郎共を凌いで騎士様だよ。
ちなみに姫はピーター。魔王はリーマスだ。
ジェームズとシリウスは知らないけど、ジェームズはこの前同学年で行われるランキングバトルの『恋人にしたくないランキング』部門で4年連続1位を獲得した。私が4年連続2位であることを除けば大賛成するランキング結果だったわ。
逆に今年の恋人にしたいランキングはハッフルパフのロージー・ベル(♀︎)だったよ。けっ、あのイケメンが!
「あ、あー。えっとMr」
「名を呼ばぬのであれば卿と呼べ」
「……卿。あんたは一体なんの目的が合ってコワルスキーとこうしてつるんでいるんだ?」
ヴォルちゃんは数秒悩んだ素振りを見せた。
シリウスの疑問はご最も。見るからに偉い立場についてるヴォルちゃんがホグワーツを卒業してない小娘の相手を毎年夏休みおはようからおやすみまでしてるんだよ。え、ロリコン?
「投資だな」
「とうし。」
まともな理由に思わずオウム返しをしてしまった。
「シリウス・ブラックよ。そもそも、魔法生物学というものは学びこなす為にセンスが必要だ」
「センス……ッスか」
「魔法薬学も防衛学も変身学も、理論があるからこそ努力でどうとでもなる。ただ、魔法生物という不規則的な生き物を相手にする学に最も必要なものはその場その場を乗り切る為のセンスだ」
ヴォルちゃんはパシンと肉付きの悪い手で私の頭を叩いた。
「コレは俺様が今まで見た中で最もセンスがある。その感性を研ぎ澄ます事を邪魔する『その他』を俺様直々に削ることによって、コレはますます魔法生物学の発展に手を貸すこととなるだろう」
「……なら、あんたがコワルスキーを囲えばいいじゃねぇか。ホグワーツから連れ出し、友をも殺し、その他を全て殺しちまえば」
いやちょっとまちなさいシリウス・ブラック。
なんで物騒な発想をさ、明らかに実行しそうなヴォルちゃんに勧めるわけ? 遠回しの自殺願望?
ヴォルちゃんの口からでなくお前の口からそんな発想が出たことが何よりも驚きなんだけど。
「今は──その必要はあるまい」
「……。」
「不服そうだなシリウス・ブラック。ブラック家の異端児よ。良いだろう、俺様は気分がいい。分かりやすい解答をくれてやる」
ヴォルちゃんは目を細めた。
「
純血主義(確信に近い予想)のヴォルちゃんの口から零れ出た褒美の言葉は、血統ではなく個人を優先してくれた事実だった。
シリウスの頬が引き攣る。
うーん。
「コワルスキー、俺たちズッ友でいような」
「──正直ヴォルちゃんに評価されても好みじゃないからわりとどうでも」
「コワルスキーと縁切るわ」
そういうやつだよお前は。というため息が前と横から同時に聞こえた気がしたけど多分気の所為だと思う。手のひらの返し方が早すぎて最早ドリル並。
そんなことより小屋の中でどうしましょうって呟いたリリーの声が聞こえた気がするからそちらを優先したい今すぐ愛の狩人が向かいます。そう、私がね!
「そういえばヴォルちゃん」
「……なんだエミリー・コワルスキー」
「私、将来ヴォルちゃんの為に働くつもりないよ?」
「おいバカやめろ!」
「…………お前が純血であったとする。金を積まれてもこちらから願い下げるわ愚か者め」
他人に頭下げそうもないヴォルちゃんが頭下げる勢いで要らない不良品はこちらでーす! 行け、オカミー! そのハゲ絞めるんだ! 無言で首を横に振らないでください。
口を塞ぎかけ、そのまま停止したシリウスの手をサッと払う。何ヴォルちゃんと見つめあってるのよ。仲良くしたいの? 仕方ないな、付き合いの長い私が一皮脱いであげようじゃない。ハー、やれやれ。(建前)
「んじゃ二人で話してていいよ。私戻るから」
「おい待てコワルスキー。俺とお前はズッ友だろ? 置いてくな」
「ねぇ情緒安定してくれない???? リリーが困って私に頼りたい気配を察知したから戻りたいんだけど(本音)」
「適当ぶっこいて逃げ出そうとすんな馬鹿」
私がリリーを言い訳に使うわけないじゃないぶん殴るよ。
ひっつき虫のモノマネに挑戦するシリウスを引きずりながら小屋の中に向かう。
そういえば卒業制作、皆は何をするんだろうか。
ホグワーツに卒業制作なんてものは無いけど、折角様々な分野の優秀生徒が揃いまくった悪戯仕掛け人だ。あっと驚く様な卒業制作を作ってみたい。
バン! と気持ち的には思いっきり開けたいけど振動で魔法薬だったり食器だったりが雪崩起こしたらたまらないのでそっと開く。
「リリー! 呼んだ!?」
「え、うそ、呼んだわ」
「……Ms.コワルスキーは人間に擬態した魔法生物なのか?」
「コワルスキーはコワルスキーって言う新種の生物なんだと思います」
小屋の中組と外組はもれなく同時にドン引きしていた。
ホントに漏れがなくて笑えない。いや、普通分かるでしょ。うちのリアム兄さんとかそれ。
「リアム兄さんのココア飲みたいな」
「いきなりどうした???」
──バンッ!
「ミリーッ、呼んだかい!?」
「兄さんここには倒れたら不味い物沢山あるから勢いよく開けないで」
「ごめんね! ココアすぐ持ってくるよ!」
別にココアは要らないかな。
「えっ、要らないならなんで呼んだの……?」
スーツケースに顔を突っ込む形で天井から息を切らして顔を覗かせたリアム兄さんを指さして無言で私の親友達に訴える。
これがコワルスキークオリティだよ。ちなみに心の中で思ってても大体バレるよ。これを普通と言わずしてなんて言うの? 変態? 褒め言葉だね!
「ところでリリーの困っていることって?」
「え、ミリー待って僕は無視なの? 兄さん仕事ほっぽり出して駆けつけたんだけど」
「(この兄にしてこのコワルスキーか。つーかスーツケース置いてる部屋ならともかく下のパン屋からどうやって聞こえたんだよ)」
「シリウス、顔に全部書いてある。うるさい」
「えっと、卒業制作で何をするか迷っていたんだけど……。コワルスキー家の神秘にしようかしら」
「密着取材なら万事大歓迎ッ!!」
「ミリーが兄さんを無視する……悲しい……イオ嬢と付き合うことになったの教えてあげないから……」
「──ッッ!?!??!??」
突然の爆弾に首がひねり飛びそうな程の勢いで兄さんを見上げる。
え、イオ嬢って兄さんの同級生でご近所にすむイオ嬢だよね!? あの! 黒髪めちゃくちゃ強め美人の! お父上のマリウスさんがイケメンだったから娘のイオ嬢も親に似てイケメン寄りの美人になったあの! 嘘でしょ!? アメリカ中が敬う高嶺の花じゃない! なんで兄さんと!?
兄さんは私の驚きを察したのかそのお綺麗な顔面をドヤ顔に染め上げてバタンとスーツケースの蓋を閉じて仕事に戻って行った。
……今夜問い詰めよう。
「それで皆は卒業制作、何をするの?」
リリーが可愛らしくコテンと首を傾げた。心臓と諸々鷲掴みにされて多分内臓全部持ってかれたわ。この仕草、可愛い子にしか許されない行為。ジェームズがやったらぶん殴ってるから。訂正、ぶん殴ったから。
「僕は脱狼薬の完成を。正直仮完成の状態から完成に持っていくには根本から組み立て直さなければならないかもしれない。間に合わない可能性もある。が、そう思うと……──ワクワクする」
にんまりと小悪魔みたいな表情でセブルスが笑うから私は軽率に死んだ。来世でも会いましょうね。仲良くしてね。
「間に合わないといえば僕もかも。流石に秘匿して1人で出来ると思えないからぶっちゃけちゃうんだけど、賢者の石を作りたいなって」
えへへー、とかんっっわいい口から溢れ出たのは魔法界出身の可愛くない純血野郎ども4人がピッタリと同じタイミングで固まる程衝撃的なワードだった。ヴォルちゃんの家名を知らないから憶測だけど、純血主義っぽいし多分彼も純血。
「……ピーター、それは流石に、生涯目標じゃないかな?」
「未知の状況から作るなら兎も角、この魔法界において賢者の石は前例があるんだから欠片でも入手出来たらきっと大丈夫だよ!」
「…………俺様も全面協力しよう。興味がある」
賢者の石ってなんぞや。
そう思っていたけどヴォルちゃんが乗り気なので多分脱狼薬並に大事な物なんだろうな。いやヴォルちゃんが乗り気だろうが乗り気じゃなかろうが愛しのピーターの事だ、私は手伝うに決まってるけど。
「僕は……そうだね。地図を作りたいな。ホグワーツの地図。抜け道とか書いた秘密の地図」
にっこり笑ってリーマスが素敵な提案をする。
ホグワーツ出身生なら抜け道の一つや二つ皆知っているだろうからそれを集めるだけでもかなりの情報量だ。ジェームズが嬉しそうな顔をした。ワクワクしてますみたいな表情している。子供みたい。
「いいね! 後世で僕たちの様なイカした生徒に引き継いでいこうよ!」
「イカしたっていうかイカれた生徒だろ」
「なぁにスニベリー。悪戯仕掛け人といえば僕らグリフィンドールの男4人が出てくることに嫉妬してるのかい?『え、お前って
「僕はお前たちみたいにいつでもかつでもバカスカ悪戯を小出しにして驚きの質を下げたくないからな」
「ふぅん、気にしてるんだ」
「同じマローダーズのリリーとコワルスキーも僕派だ。そっちこそ嫉妬してるんじゃないのか? すまないな、綺麗所を両手に持ち合わせてしまって。お前みたいな雑草は持てないんだ」
死因:セブルス。
私はこの尊さに膝から崩れ落ちすぎて一体何度膝を痛めつけたらいいのだろうその痛みですら私の生きるこの世界が現実だと教えてくれるありがとう世界ありがとう宇宙。この星、この世界、この時代、この運命にどうもありがとう。
「シリウスは?」
「あー。俺は……」
シリウスがチラッとヴォルちゃんに視線を向けたあと観念した様な顔で口を開いた。
「……闇の魔術を、研究しようかなって」
「え!?シリウスが!?陰険スニベリーじゃなくて!?」
「お前は一々僕に喧嘩売らないと気が済まないのか。殴るぞ、コワルスキーが」
「行きます」
「「来るな!」」
魂の双子はシンクロした動きで私の握り拳から距離を取った。私は魔法生物と日頃から触れ合っているから、筋力及び体力には自信あるよ。なんと体脂肪率は15%を切ってるの!
「いや、ほら。純血一族ってどうやっても闇の魔術に惹かれるところあるじゃん。もしかしたら純血と闇の魔術には密接な関係があんのかなって。敵を知り己を知れば百戦危うから……あーえっと。敵じゃなくて……。──ま!そういうことだ!ジェームズはどうするんだよ」
「えぇー……。まぁ、僕はまだ決まってないけど。杖無しか無言呪文出来るようになりたいよね。ミリーは杖あっても使えないけど」
「ジェームズは息吐く度に喧嘩売らないと気が済まないの?吸うよ、エヴィルが」
「ごめんそれはほんとに勘弁して」
エヴィルに人間の脳みそは食べさせてないから味は知らないけど、脳みそが美味しいことは知っているよ。
私のテリトリーで私に勝てると思うなよジェームズ・ポッター。明らかに過激なヴォルちゃんでさえ大人しくしているんだから。
「エミリー・コワルスキーは決まっているのか」
心を読まれたのかと思うほどタイミング良く睨まれたので、私は元気よく答えた。
「内緒っ!」
もう決まっているのだけどね。魔法生物学者界のエキスパートである私なら1人でもやれそうだし、多分私が出来なきゃ皆出来ない様な内容だから。
「どーせドラゴンブリーダーの資格でも取るんだろ」
「それはまぁするけど」
「するのか」
ただドラゴンは目くらましの呪文を使えないと資格貰えないから呪文の代わりになる魔法薬の開発を進めなきゃならない。ここはセブルスに手伝ってもらう所存。
あ、ヴォルちゃんには言ってもいいかも。
多分興味ないだろうし、もしかしたら年の功でいい方法知っているかもしれない。
視線を向けると私の気持ちに気付いたのか目があう。それと同時にため息を吐かれた。泣くよ。ヴォルちゃんは好みじゃないから悲しくないけど。
「で、何をするつもりなのだ」
ヴォルちゃんが体を傾けて耳を私に近付ける。
視界の端でシリウスがナイナイナイナイと首を横に振って現実逃避しているのが気になったけど、私は普通に口を近付けた。
「──ピーブズの使い魔計画、とか?」
ピーブズ。誰の味方でもないトリックスター。ゴーストと似て非なる存在であり、魔法生物とも似て非なる存在。
そんな彼を魔法生物の分類に当てはめてしまいたい。誰にでも迷惑をかけるポルターガイストではなく、誰でも迷惑をかける守護霊として。スーツケースの仲間たちのように。
私がそこまで考えていると顔面をベシリと叩かれた。痛いわ。
「やめておけエミリー・コワルスキー」
苦虫を噛み潰したような顔でヴォルちゃんが吐き出した。
おや?
おやや?
「ヴォルちゃんもしかして……──苦手?」
チョークスリーパーはダメだって!!!!
シリウスはヴォルちゃんが何者か気付いている様子です。うーん、誰なんだろうなー!