5年になってそれぞれが卒業制作の本格計画をし始め、なんやかんや4年以上ほぼ毎日一緒にいたセブルスとでさえ別行動が多くなった。
私はピーブズの使い魔の件について調べ始めていた。
使い魔、と言っても実はその定義はかなりふわふわしている。
例えばリリー・エバンズ。彼女が使役している生物はヒキガエルだ。同級生の中に鼠や猫、そして梟。そう言った生物を従えている者は多い。
それに対して私がガッツリ使役しているのはユニコーンやスウーピングエヴィルなどの魔法生物。
『生物』と『魔法生物』
呼ばれ方が違うこの意味をマグル出身の私はこう仮説した。
──マグル界に知られているかいないか。
魔法界で動物図鑑を見ればわかる通り、猫だろうと鼠だろうとユニコーンだろうと同じ魔法省部類が定められている。
だから本質的には同じなんだろうけども、生物と魔法生物は使い魔としての格が違うのだ。だって魔法生物は、マグルに知られないよう生き延びているから。その魔法という特殊さで。
私は禁書棚から『魔法生物との魔術回路』を手に取った。
魔法省の魔法生物規制管理部には3つの部署が存在する。1811年、当時の魔法大臣のナンタラスランプみたいな名前の奴がヒトたる存在の定義が定められてから。
『動物課』『存在課』『霊魂課』
動物とは魔法社会の法律を理解できる知性を持たず、立法に関わる責任を担うことができない生物である。
存在とは魔法社会の法律を理解するに足る知性を持ち、立法に関わる責任の一端を担うことのできる生物である。
霊魂とは肉体を捨てこの世に尚も存在し続けている痕跡の過去形存在である。
まぁ狼人間援助室が存在課にあるのに狼人間登録室が動物課にある時点でお察しだとは思うが。
そう、ガバである!そりゃもうゲームでバグだらけの欠陥クソゲーをヴォルちゃんと大爆笑しながらやった記憶レベルにはガバである!
霊魂課なんて『そのほか』みたいなもんだしね。
さて、魔法生物の存在定義のガバガバさは置いておき本題に戻ろう。
使い魔の定義がふわふわしている理由の一つとして、契約がない事だ。
多数の魔法生物を使い魔として従えている(この言い方は好きじゃない)私としては、曖昧なんだ。
友達になれた!仲良くなれた!
と、そう思ったのはケトルバーン先生が連れてきたサンダーバードやニュート伯父さんが使役している魔法生物。
あ、私の子だ。
そう確信出来る瞬間は確かに訪れる。それは絆とも言えるし勘とも言える。
知性の高い魔法生物ではなく、知性の低い生物を使役する場合、あらかじめ百貨店などで魔法をかけるらしい。
なんの呪文かはまだ教えてくれなかった。どうやら卒業してから知識だけは伯父さんが教えてくれるらしい。
魔術回路のつなぎか「──エミリー・コワルスキー!」
「ひぇ!」
「また禁書棚の方に来たのですね!」
禿鷹そっくりのマダムピンスがカンカン状態で現れた。うぇえなんで見つかるのよォ!
「グリフィンドール5点減点です!」
「うぅ……そんなに怒っちゃいやん」
「10点減点」
ス……、と真顔になられた。
ダメだわコレ怒りが頂点に達して無になるやつ。
説教はご勘弁願います──!
最高速度で普通の方に逃げ込んだ。あっぶなぁ、マダムピンスに捕まるとだいぶ時間を使っちゃうんだよね。
うーん。忘れ去られた古い魔法と呪文は前読んだし……十八世紀の呪文選集も読んだ。そもそも使い魔及び魔法生物の研究者が少なすぎるとエミリーは思うわけ。
魔法生物という存在の性質上、秘匿しなければならない事が多いというのは分かる。実際私が知っている『魔法生物界言外禁止事項』の中で、ガッツリ影響されるのはユニコーンの角だ。
ユニコーンの角は実は月一で生え変わる。ポロッとね。
希少価値をつけて高く売り捌いてるってわけ。まぁ大概は魔法薬とかに入れて効果を上げたりほかの素材の数を少なくするのに利用して利益率を上げてるのがほとんどなんだけど。
「──月が満ちる」
隣からの野太い声に思わずびっくりしてそちらを向くと、トンボみたいな眼鏡をかけたレイブンクロー生が居た。
「深淵を覗く機会は巡り会う。春が死ぬ時、繋がりは濃く深く。終わりを誘う。瞳は緑に包まれ、そして視るだろう。始まりもなく終わりもない深淵を。しかし彼女は終わりを知ることとなる。そして門の鍵を──」
「図書館で喋っているのは誰ですッッ!」
マダムのカンカン怒鳴り声。
私はビクリと肩を弾ませてバサバサと本を落っことしてしまった。
「……………………よぉくわかりましたエミリー・コワルスキー」
ぽん、と肩に手を置かれた。
「あはは。マダム、さっき話してたのはそっちのレイブンクロー生で」
「おやまぁ、貴女の目はどうやら人間の目とは違う出来のようで。レイブンクロー生なんて居ませんよ」
「ば、馬鹿な……!?」
さっきまでボソボソと喋ってたのに!?
「それより、貴重な本、落としましたね」
この、本オタクめ……!
私は心の中の恨み言を盛大に吐き出した。ただし、脚力として。
「ごめんマダム!デートはまた今度し」
「インカーセラス!」
「おぎゃあ!?」
しゅるんと蔦がどこからか伸びてきて私の体を縛り付けた。マダムピンスは杖を片手に『どうだやってやったぞ』みたいな顔をしていた。普通に腹立つ。
「この私を図書館で声を荒らげさせるだなんて。えぇいいです、貴女の手伝いをしてあげましょう。この図書館に相応しくないと自覚する手伝いをね」
罰則決定ルートです。とんだとばっちりじゃん!
==========
「アッハッハッハッハッ!」
ピーブズの笑い声が校長室の前の廊下に響く。
マダムピンスの罰則は笑い事じゃないんだけど。まさか本棚の本を全て掃除していく羽目になるとは。少しでも破いたら魔法飛んでくるし。
「それで年下のレイブンクロー生にしてやられたってわけ!?お前ってほんと面白いよな!」
「面白くないわ。面白いのはせいぜいマダムピンスの顔が禿鷲通り越してドラゴンに見えたくらいよ」
「眠れるドラゴンは起こすべからずだよ!」
ドラゴンは積極的には起こしに行くべきだと私は思うな!
私はヘラをぐるっと回した。
「Ms.エミリー。生徒から『コワルスキーが悪臭振り撒いてます、あれはきっと闇の魔術です先生防衛して!』……なんて告発があったのですが」
「あ、ごめんなさいDADAの先生」
名前覚えてないな。
「貴女私の名前覚えてないでしょう」
「よくわかったね!こいつ好みじゃないやつに関しては大概ポンコツだから期待しない方がいいぜ!」
「なんでピーブズが答えるのよ」
DADAの先生はため息しか出ないようだった。
「なぜここで魔法薬掻き回しているんです」
「悪臭でダンブルドア先生誘き出し作戦? 私、お気に入りの場所悪臭で汚したくないの。先生許して?」
「そっちが本音でしょう」
呆れ返った先生は杖をビューンヒョイとすれば魔法薬の入った大釜が空に浮かぶ。ああ! 私の貴重な透明化薬試作が!
今のところ透明化するけど悪臭で場所がバレちゃうっていう難点があるけど。
「エミリー・コワルスキー。罰則です」
「1日2回も!?」
「は、むしろ私の前に誰かから罰則受けた状態でこんなこと仕出かしてるんですか? 私あなたを自分の子にしたくないんですが」
「むしろ私もお断りですけど?」
なんで勝手にフラれたみたいになってるのかエミリーちょっとよく分かんない。
ピーブズは空中でうひゃうひゃと笑い飛ばしている。物理的にポルターガイストで。いやポルターガイストって物理なのか?
「ともかく着いてきなさい」
「はぁい」
あ。
「先生なんて名前だっけ?」
DADAの先生は私と目を合わせて言った。
「──ロックハート」
==========
目を覚ますとレイブンクローの生徒が私の目の前に居た。
「えっ、可愛い!」
「嗚呼! おはよう、僕のエミリー・コワルスキー」
男の子。とも言える幼い少年。
可愛い可愛い子。
私がホグワーツの可愛い好みの子を知らないとでも思うたか。
「ギルデロイ・ロックハート……?」
「えぇ!」
ロックハート。
あれ、そういえばDADAの先生もロックハートだったような。
「貴女は酷い人です。僕と貴女はずっと通じ合っているというのにあのどこのどいつか分からないスリザリン生やグリフィンドール生と一緒にいて」
「……うん、うん。うん?」
なんかおかしい感じの表現、最初に混ざってなかった?
シュル……。
私のネクタイが解かれた。
「僕のいとしい人」
えっ顔がいい!
どうしよう。顔面の可愛さでとてもごり押されてる気がする。ちょっと待ってこれ何が起こってるの?DADAの先生は?罰則は?
馬乗りになる形でロックハートは私を押さえつけている。今いるのはベッドの上……? この独特な色々な物が染み付いた匂いはDADA準備し…──顔がいい。
蕩けるように笑みを浮かべるロックハートの顔面に意識を全部持っていかれる。
「ちょ、ちょっと待ってロックハート。私と貴方、多分初めましてだと思ったんだけど」
「でも僕は貴女を知ってるし貴女も僕を知ってる」
「そりゃそうね」
私が可愛い子を見逃すとでも?
「貴女にずっとずっと贈り物を届けていました。僕の愛を伝える恋の石を」
恋の石。小石?
もしかして、永遠に届いてくるハート型の小石……。
「うひゃぁ!?」
ぞわりと背筋に寒気が走った。
下半身を見るとロックハートが私の太もも当たりを下から上になぞっている最中。
はっはーん。エミリー分かっちゃった。
……これもしかしなくても貞操の危機とやらでは。
「パパに協力してもらったんです」
「へ、へぇパパに。DADAの先生のことかな」
ズルズルと上へ逃げ出すも腰をがっしり掴まれて引き戻された。うぎゃあ。
「僕と貴女は結ばれてるのに。あのスリザリン生が仲を引き裂く。だから、もう、事実を作ってしまいましょう」
パチン。
これは第1ボタンの外れる音。あと、動いてみて分かったんだけど、これ、スカートのホックも外れてない? 嘘、絶対外れてるって確信できる。
そうしてロックハートは私の下腹部。
………………子宮の辺りを愛おしそうにさすった。
顔が可愛い。こんな状況なのに顔面の良さに悶える私を誰か殴って欲しい。
「う、うっ、」
「ん? どうしたのですか」
「──ウトラ!」
胸ポケットから飛び出したウトラがロックハートの顔面を思いっきり引っぱたいた。
突然の衝撃で顔を覆うロックハートの手から無理矢理抜け出す。可愛い子を無下に出来ないけどちょっと落ち着こう!ね!
私一目惚れ詐欺師だぞ!多分ロックハート、キミは幻を見てるだけなんだ!
──ばんっ!
扉が大きな音を発した。
──バンバンバン!
殴りつけるような音に意識を持っていかれて、私はロックハートの魔法に気付かなかった。
「ウィンガーディアムレディオーサ!」
ぶらりと私自身が宙に浮かぶ。ああああお客様!お客様おまちくだされ!スカートが!スカートが!脱げます!
ガンッ、と扉が蹴破られる音と共に現れた乱入者は現状を見た。
逆光でよく見えないけど、可愛い子とか麗しい人じゃないのは確か。
「今すっげえ腹立つこと思われた気がするけどまあいい! アクシオ!エミリー・コワルスキー!」
グインっとした内臓を引っ張られ感覚。魔法生物のアトラクションの時の数倍酷い。
私はその声の主に抱き寄せられた。
「し、シリウス?」
「よぉ、迎えに来たぜプリンセス!」
そして私を肩で抱え──脱兎の如く逃げ出した。
「ほんっっっっっとーーーーにてめぇトラブルしかうまねぇな!ToLOVEるってか!ばーか!」
「たすけてくれてありがとう!でも後で覚悟しとけアホ!」
ギルデロイ・ロックハートくんの登場でした。可愛い子への苦手意識を植え付けたかったんじゃ。