「さぁ、杖を置いて、教科書を閉じて。それでは今日は死の呪いについてお話をしましょう」
麗しのMr.オリオンが危険な色気を孕んだ表情でそう言った。
「今回する授業は最後の禁忌です」
罪のような言葉に、教室にいた全員がゴクリと唾を飲んだ。
1番離された席にいるはずのリーマスとピーターとリリーの嚥下音が、冷たいほどに静まった空間で耳に届いた。
「なんっでお前がスリザリン側に居るんだよ…」
隣に座ったセブルスを差し置いて、後ろに座っているエイブリーが私に声をかけた。
「セブルスに挨拶は?」
「もう今朝した。やぁスネイプ。今日も護衛がやかましいな」
「2回目だな、やぁエイブリー。もうかれこれ7年もコレなんだ、飽きるくらい慣れた」
セブルスは7年間で背もグッと伸びてわたしと頭一つ分は差が出来てしまった。私が150cm代だからより一層差が出来ちゃうってのもあるけれど。
いつも関節が痛いと文句を言ってる。そこが可愛い。
食べる量と重たい物を受け付けない可愛らしい天使みたいな胃のせいで縦に伸びるのに横に広がらない体格が悩みみたい。可愛い。カリンチョリンのセブルスも可愛いよ。
皆が一生懸命食べさせるから血色はいいし髪ツヤもいいし不健康ってほどでは無いんだけどね。
「私ってほら、純血主義だからさ」
「純血主義は不名誉の称号じゃない」
「失礼すぎる。純血って美形が多いじゃない?」
「たのむから俺たち純血主義に謝れ」
コソコソとノットが私に文句を言う。その声を聞いてMr.オリオンがこちらを流し目で見た。
心臓が掴まれたような気持ち。
「うっ、心臓が苦しい。これが……死の呪い……」
──バシン!バコン!
ノットとエイブリーが後ろから思いっきり教科書を丸めて叩きやがった。
うるさいってことね?あなた達に言われても響かないんだけど。
「ミリー、しー」
隣で天使が口元に手を当てて普段家名でしか呼ばないのにこういう時だけ名前で呼ぶんだから天使どころか小悪魔みたいで卑怯だよぉ。
「──ゴホン。さて、話の続きをしましょう。シリウス」
「っ!」
「死の呪文の呪文名は分かるかな?」
「…………アバダケダブラです」
シリウスがやりにくそうな顔をしてる。
Mr.オリオンはシリウスと違い美しい顔をしているので横を向いた状態でも宗教画そのもの。あまりにも絵になりすぎる。写真を撮らせて欲しいけれど、Mr.オリオンの嫌がることはしたくない。
「よろしい。座りなさい」
「……おう」
「この中で死の呪文に当たった事がある者は居ないと思うので、死の呪文が何たるかを説明させてもらいます」
「コワルスキーとピーターは目の当たりにしてたけどな」
「……??????」
Mr.オリオンは小首を傾げた後話を戻した。
「死の呪文は最後で最悪の魔法とも言われます。発動の難易度は高く、通常の呪文とは一風変わっています。……必要な物は3つ」
杖から光が走り、空中に文字がえがかれた。
サラッと難しそうな魔法を手足のように使いこなす姿、美しすぎる。
「一つ、理論の理解。こちらは他の魔法でも必要ですが、死の呪文は最も難しい理論を学びます。1部例外は居ますが、あなた方がこれから受けなければならないイモリも、この呪文を前にすれば赤子も同然でしょう」
美しすぎて頭の痛い単語が出てきても鎮痛剤のように痛みが引いていく。これが万能薬ってことね。
心臓は痛いのに心が幸せ。人間って自己矛盾的な存在なのね。
「二つ、強力な魔力。一流の魔法使いでも1部のみ。君たちの魔力だと1回もまともに使えないでしょう。無制限に何度も連射できる人物は闇の帝王くらいでしょうね」
「……っ」
誰かが小さく息を飲んだ。
「そして三つ、強力な殺意。殺すという気持ちがなければ発動しません。生ぬるい考えで使えるような魔法ではない。……あなた方は人を心から殺したいと思ったことはありますか?誰かを憎み、恨み、死すら生ぬるいと。この者を必ず殺さねばと」
痛いほどの沈黙の中、眠りにつく子供に語りかけるような優しい声色でMr.オリオンは死について語った。
「それが憎悪でも慈悲でも、罪なんて法が、人が定めただけのものに過ぎません。人を殺したい、人を生かしたい。その欲は方向が違うだけで他人の命を左右する行為は強欲です──であれば、私は終わらせたい」
「ひっ」
我慢できなかった悲鳴が私の口からこぼれる。
だってあまりに綺麗だったんだもん。
もう語彙力が無くなるし是非とも私を終わらせて欲しい、私の死因Mr.オリオンがいい。
「さて防衛術ですが。死の呪文は例外なく、生者は居ません。万能と思われるプロテゴでさえ貫通します。生物に当たれば即死、無機物に当たれば破壊します」
ブンと勢いよく杖が稲妻の形をした軌道を描いた。
「──アバダケダブラ」
「うわ!」
私の目の前に緑色の閃光が放たれたので、慌てて教科書を眼前に持っていくと、教科書に当たってビリビリにやぶけた。
「なるほど。流石の反射神経ですね」
「親父何やってんだ!」
「おや、私はMs.コワルスキーが必ず避けられると確信して放ちましたよ。─死の呪文は抗うだけ無駄です。ですが今のように、無機物が破壊される性質があるように。物陰に避けるか躱すしか方法はありません」
物理的な方法ってことよね。つまり。
喧嘩慣れしててよかったって心から思ったわ。生き延びれるとかじゃなくて、Mr.オリオンに呪文を向けられたという意味で。
「Mr.二つほど質問が」
ちょろりとピーターが可愛い手を上にあげた。
可愛い、そんじょそこらの人間はまず勝てない。
不安げに下げられた眉や見上げる瞳は恐らくこの教室全ての人間を魅了するだろう。いや、する。
「あー、Mr.ペ、ティグリュー?どうしました」
「……ありがとうございます。お聞きしたいのですが、優秀と言われる魔法使いの魔力だと、死の呪文は何度使えますか?」
「……。そうですね。5回ほど、でしょうか」
「普通の呪文だと掠れるだけであれば一部を除き発動しませんが、死の呪文は少し掠れるだけでも発動しますか?」
「します」
「ありがとう、ございました」
ピーターはペコリと頭を下げて着席をした。
普段と違い少し嫌そうな顔をしたMr.オリオンが咳払いをして振り返った。
「Ms.コワルスキー、立ちなさい」
「もちろんです喜んでMr.オリオ…ブラック!いえ、マイロードとお呼びした方がよろしいですか?」
「小鳥みたいに騒ぎますね、貴女は」
これは褒められたに違いない!
喜びに頬を染めているとゴミ虫を見ているような目で蔑まれた。生きててよかった。
「レディ、もし大事な人が死ぬほど苦しい目に遭った時、貴女はどう行動をしますか?」
「……?」
「例えば、自殺したいほど生きているのが苦痛だと言われたら。貴女は大事な人を殺しますか?それとも救いますか?」
私は即答出来なかった。
もし天使が殺して欲しいといわれたら、私は自分のエゴで生かせるだろうか。それともそれに従って殺すだろうか。
「貴女は悩みますよね」
Mr.オリオンが気付けば目の前にたっていた。
至近距離から見詰められると、なんだか遠いどこかへと連れ去られているような気持ちにさせられる。
「……私には、結論付け出来ません」
自分の気持ちに正直になって答えた。
「倫理的には救うべきだと思います。そして生きていて欲しいと、救われるべきだと願います。ですが、苦しさの物差しは他人では計り知れない。だから本人の意図を無視して、私は自分のエゴを貫き通せないかもしれない」
本当に分からないんだよね。
可愛い子や美しい人至上主義で生きていると、自分の欲望なのか他人の意見依存なのか分からなくなってくる。
「……ただ、例えそれで闇に属しようと死のうと生きようと。私は友で居続けます。どれだけ罪を犯そうが、自分が死のうが、他人が死のうが。私はそばにいます」
「他者任せですねぇ」
「はい。大事な人の出した結論は尊重したいです。そしてそれを否定しないで生きるのが私の価値観です」
個人の属性に興味が無いもので。
死者だろうと生者だろうと、私は天使を愛するよ。
「…………だからでしょうね。貴女は」
Mr.オリオンはそう一言だけ言って授業を締めくくった。
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「お前って親父に結構気に入られてるよな」
「!!???!???」
授業終わり、グリフィンドールの談話室で驚きの意見が放たれた。
「確かに、半純血って括りで見ても名前と特徴覚えられてるのミリーくらいだよ」
「そうだよ、ワーミーの質問の時見ただろ?あのブラックのあんちくしょう、名前うろ覚えだったよ!?」
「僕、それに関しては別にどうでも……」
リリーがそっと隣の席に座った。
「そういえば、貴方達ハロウィンの対決みたいなのしてたじゃない?」
「うん、そうだよ」
「そうねリリー」
「結局セブとエミリーコンビ、ポッターとブラックコンビ、どっちが勝ったの?」
「うーん、判決が難しい」
1年の時は動物耳のクッキー
2年の時は花火と霧
3年の時はゴタゴタしてて何も出来なかったし
4年の時はリーマスの脱狼薬
5年の時はオーケストラで演奏会
6年の時は味変ケーキ
今年は秘密の部屋を発見したことと受験で何も出来てない
「1年の時以外交互に勝ち星を上げていたから、現状引き分け」
「動物耳クッキーは俺らの負けでも文句は無いんだけど」
「こっちも悪戯を読まれてた以上負けみたいなものよ」
そう、1年の時のイタズラがお互い負けだと言い張っている。
よって、一旦判決は引き分けにしようという形を取っているのだ。
「来年は絶対勝ってやる」
「おっと、私達も負けてないわよ。仕込みはまだだけど、計画は練っているんだから」
リーマスやピーター、そしてその他2人は普段から悪戯をしているため目立つ。しかしセブルスと私はハロウィン特化!というかそれ以外の研究が忙しくてあまり他に時間を割けないというのが本音。
今年、秘密の部屋が見つかって本当に良かった。おかげで研究の進むスピードが段違いに早くなったから。
「ふふふっ」
鈴を転がしたような可憐な笑い声が全ての思考を上塗りするように耳に入ってきた。
えっ、天使?
「私達、学校を卒業したって友達なのね」
「当たり前じゃないか!」
「えぇ、当たり前。それがどれだけ嬉しいか」
リリーがあまりにも可愛すぎて、私はなんでも出来そうな気分にさせられる。世界、掌握出来るかもしれない。闇の帝王とかって厨二病なんかには負けないわ。
「私も悪戯仕掛け人として一つ悪戯を仕掛けたいの」
「協力するよアイ!」
「リリーの協力なら惜しまないわ!」
「ふふ、ありがとうポッター、エミリー。そうね、じゃあポッターに手伝ってもらおうかしら」
「喜んで!」
「オーマイガー……」
WINNERと言わんばかりに名誉あるポジションを手に入れたジェームズが憎くて憎くて仕方ない。
「卒業後にやろうと思うから、よろしくね」
「任せてよ」
何かの手違いで死んでくれないかな、ジェームズ。
「あ、卒業と言えばさ。皆卒業製作とかはどうなったの?」
既に忍びの地図という、人の行き交いさえも記載するという代物を完成させたリーマスが可愛く首を傾げた。
所々の傷がワイルドで可愛いね、リーマス。
「僕は全然。さすが賢者の石、難し過ぎるよ。それっぽいのは出来たけど、今日聞いた授業でちょっと改良していこうかなって」
「俺もまだまだだな。闇の魔術は幅が広すぎる。表に出てこないものも多いし、卒業したら横の繋がりで更に知見を深めるさ」
「未だにシリウスが闇の魔術の研究をしているのがびっくりなんだけど……。まぁ、僕は無言呪文も杖無しもなかなか様になってきたよ」
「私は既に完成してるわ。まぁほんとうはもう少し大きな生物を作りたかったのだけど、百合の花を生きてる魚にしてみたの。命を吹き込むっていったらいいかしら。難しかったけど……お世話になったしスラグホーン先生にプレゼントしちゃったわ」
スラグホーン、許すまじ。
私がその宝を貰いたかったけど!リリーの意見を尊重します。くっ、この恨み、はらさでおくべきか。
「ミリーは秘密なんだっけ?」
「あ、うん。でももうすぐ出来るよ。あとは契約……仕上げだけだから」
「今なんかすげー嫌な言葉聞こえなかったか?」
「気のせいよ。私は、イモリが終わったあとに……卒業式の前とかに仕上げちゃうね」
ピーブズ使い魔計画。
在校生も教師陣もいる状態でやらなきゃ意味が無いじゃない。
「でもそれより前にイモリがあるから卒業出来るか分からないんだけどね……ハハハ……」
「頑張れよ、赤点常連」
1部だけだし!1部だけだし!
魔法生物は1位だし!
シリウスの口撃に思わず泣いてしまった。
──終わりが始まる