─矛盾─   作:恋音

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1-3.入学おめでとう

 

「……ミリ・エミリー・コワルスキー」

 

 

 ホグワーツのグリフィンドールで7年間勉学に励み、魔法生物飼育学を得意とする優秀な生徒を。──あの日、自身がいながらも喪ってしまった1人の生徒を思い出す。

 

 校長室で、新たに入学してくる1年生のリストを見たアルバス・ダンブルドアは、エミリーの姪にあたる彼女のプロフィールを見た。

 

 

 

 1980年7月31日生まれ。

 

 かつてエミリーが友として過ごしたリリー・エバンズとジェームズ・ポッターの息子と、同じ誕生日だ。

 

 予言の子が云々とか、米国魔法界から入学申請が届いたとか、闇の帝王とか、そういうのは一旦頭の片隅に追いやられる。

 アルバスの頭の中に思い浮かぶ言葉はたった一つ。

 

「う、うむ、その、いや偶然、うーん、き、きついのぉ」

 

 ちょっと教育者として口から出してはいけない単語が出てきかけて、アルバスは苦い顔をした。

 

 

 

 ==========

 

 

 

 

「うぇ〜。なんだよミリ、お前ハリーと同じミドルネームな上に、誕生日も一緒なんだ!?はっきり言って、すっごく気持ち悪いね」

 

 ハグリッドのランプと私の持ってきた複数の懐中電灯を頼りに1年生は険しい階段を登りきった。

 

「分かるわ運命よね」

「ミリ、僕の言葉聞いてる?なんで気持ち悪いって言葉聞こえないの?」

「ハリーの上がった息を聞きとるのに優先してるから、かな」

「やめてやめてやめて、そんな照れたような顔で気持ち悪いこと言わないで。おぇ」

 

 ゴンゴンゴンとハグリッドが扉をノックすると中からマクゴナガル先生が現れた。

 先生はハグリッドとやり取りをしながら1年生を見渡し、ハリーや私の姿を見て目を見開く。そして悲しそうに目を伏せたあと、咳払いをして雰囲気を切り替えた。

 

「皆さん、ホグワーツ入学おめでとうございます」

 

 マクゴナガル先生はホール横の控え室に1年生を案内して新入生の歓迎会と組分けの儀式が始まる旨を伝えた。

 

「寮は4つあります。グリフィンドール、ハッフルパフ、レイブンクロー、スリザリン。皆さんの一人一人の行いが寮の得点になり、学年末に最高得点の寮には寮杯が与えられます。反対に規則に違反した場合は減点になりますがね。……どの寮に入るにしても、皆さん一人一人が寮にとって誇りとなるように望んでいますよ」

 

 新入生はソワソワと落ち着かない様子。

 ……懐かしいなぁ。

 私たちの学年は、どの寮にいても比較的仲が良かった。朝は毎日スリザリンで食事をとって、お昼は色んな寮に行ってみて、夜はグリフィンドールでとる。チラホラと寮の垣根がなくなっていって。無くしていって。

 

「組分けって何をするのかな?試験とか……」

「ん、帽子を被るだけだって。そこまで心配しなくて大丈夫だよハリー」

「帽子を?」

 

 魔法界の不思議なことに慣れないハリーはキョロキョロと心配そうに緊張していた。

 

 可愛い。小動物。

 出会った頃のセブルスくらいのサイズ感で可愛い。これが目が合うくらいまで大きくなったら……ヤバいってことは経験則です。

 

「そういえばミリって落ち着いてるけど、家族が魔法族?なの?アメリカ出身って言ってたよね」

「両親はマグルだよ。魔法が一切使えないの。でもパパの心を読むスキルとかママの視線一つで私を魅了しちゃうとこは魔法だと思ってる」

 

「ハッ、なんだ、マグル生まれなのかお前」

 

 私の説明に被さるような言葉。プラチナブロンドの天使が鼻で笑って私を見下しながら近付いて来てくれた。

 

「可愛いねエンジェル♡♡♡もっと罵って♡♡♡」

「罵りを欲する人初めて見た……」

「僕は純血の魔法使い、そしてポッター、お前も純血の血を引いてるんだ。ついでにそこのウィーズリーもな」

 

 ドヤ顔で威張るルシーとシシーの愛の結晶がベリーキュート──

 愛おしさ1000倍って感じ。

 ルシーとシシーの子だから、とかリリーの子だから大好き、って感情はあんまりないけれど、統計的に純血貴族の顔の良さは純血を語る上で欠かせない。

 

「純血って最高よね、貴族だからどうしても結婚は近縁となってしまうから血筋が混ざりっけなくて」

「そうだ!(ドヤっ)」

「美形が多くて興奮しちゃうのよね!」

「そう……えっ?」

「私純血の顔面偏差値の高さが大好き過ぎて純血主義名乗ってるもの」

「………………えっ?」

 

 組分け前にこんなにベラベラ話しているのは私たちくらいだから、自然と周囲の視線が集まる。

 

 混乱した顔の天使たちを見て笑った後、私は新入生全員に語りかけた。

 

「騎士道精神を宿す勇敢なグリフィンドール!」

「心優しく勤勉で公平なハッフルパフ!」

「独創的で叡智に富んだレイブンクロー!」

「賢くて友達想いのスリザリン!」

 

 偉人の名前を冠した寮の名前。魔法生物の方が素敵だと思うけれど、私は各寮の信念がとってもとーっても大好き。

 

「でも。臆病で慎重なグリフィンドール生も、独創的で変わり者のハッフルパフ生も、ずる賢こくて困ったレイブンクロー生も、優しくて勇敢なスリザリン生も、どんな人だっているって知ってるわ」

 

 そして人間の性質がたった4つに分けられないのだって知ってる。

 

「自分に向いてるから?そうなりたいから?憧れの人がいるから?どこの寮を選んでも、何になってもいいの!だって選択肢はあなた達自身しか持ってないのだから!どの寮でも意味は無いわ、意味は自分で見つけるの。好きな場所で好きな様に生きる、それこそがイギリスの魔法学校、ホグワーツ!」

 

 だから私はホグワーツに通いたかった。

 伯父さんに言われたからとかじゃなくて、自分の意思でここに立っていた。

 

「ホグワーツ入学おめでとう!」

 

 毎年1年生に贈っている言葉を、私は祈りを込めて今年も贈った。

 

 

 

 

 

 

「──おいこのクソ帽子!なんでスリザリンかハッフルパフじゃないんだよ!切り刻んで魔法生物の餌にしてやろうか!!!!」

「コワルスキー!!!!」

 

 即答でグリフィンドールでした。

 

 

 ==========

 

 

 

 マクゴナガル先生に引き摺られて、幽霊にさえも呆れられてグリフィンドールの席に着く。

 

「こんにちは、レディ。私はグリフィンドールの幽霊のニコラスと言います。ぜひサー・ニコラスと呼んでくださいね」

「あー、えっと、確かほぼほぼ首なしニック?」

「そうとも言われますね!まぁもちろん。……そんなこと、初代のキミは言われずとも分かっているでしょうが」

 

 グリフィンドールの寮付き幽霊のニックはニコニコと笑顔でそう言い放つと、他の1年生に向かって挨拶をしに行った。なんか、今何かを言っていたようだけど私はそんな好みじゃない幽霊のことよりも優先すべきことがあった。

 

 私の周囲の生徒は『ポッターを取った!』とハリーがグリフィンドールに選ばれたことに対して歓喜の声を上げていたけど。

 

「やぁミリ・コワルスキー」

「グリフィンドールに入学おめでとう」

「俺はジョージ、こっちはフレッド」

「ちなみに先週は俺がジョージでこっちがフレッド」

 

 珍しい一卵性の双子だ。

 私は横目でちらりと確認すると視線を一定の場所に戻す。好みじゃないので、優先順位が低いの、ごめんなさい。

 

「組分け帽子を刻んでやるなんて発言が1年生の口から出るなんてビックリしたよ。ところで──まじでどこ見てるんだ?」

 

 私の視線の先を辿った双子は『へぇ』って納得したような顔になった。

 

「こりゃ驚いた、君は随分スネイプ先生(・・・・・・)にお熱らしい!」

「えぇ(ガチのトーン)」

「えっ、あの、そんな食い気味で返事が来るのは想定してなかったんだけど」

「可愛過ぎて目が離せないとはこの事。一瞬目があったのだけど速攻逸らされたから意地でも目を合わせてやろうと思ってさっきっから瞬きすらしてないの。ドライアイにはキツいわ」

 

 

 ──セブルス・スネイプ

 

 大広間に入った途端、教師の席にまさか愛しの天使がいると思ってなくて。

 

 ぐわりとこぼれそうな涙を必死に押さえ込んだ。

 

 セブルスもまさか『コワルスキー』が入学してくるとは思ってなかったのだろう。私を見て大きく目を見開いたあと、泣きそうなのを我慢するように眉間に皺を寄せ視線を逸らした。決してこちらを見るまいと言った感情。傍から見れば不機嫌そうに見えただろう。

 

 可愛く不器用で友達想いの泣き虫ちゃん(スニベルス)

 想像より早く、予定より早く、私は友人を再び目にすることが出来て嬉しくて心から感謝した。死んでない。生きている。健康とは言い難い顔色と肉付きと髪質をしているから恐らく彼の周りであれこれ言ってくれる人は少なかったんだろうな。

 それでも……生きていてくれた。

 それが本当に愛おしくて嬉しくて。

 

 マクゴナガル先生に『コワルスキー・ミリ』と名前を呼ばれた時は教師陣がざわつき出した。だけどセブルスはさらに眉間の皺を深くしてスリザリンの方に視線を逸らしてしまった。可愛い。シワの数だけ愛の手紙を贈りたい。

 

 ぱちぱちと形だけの拍手で新入生を歓迎している仕草。表情。視線。

 

 

「──まるで天使みたいね」

「こいつぁ驚いた。まるで話を聞いてないぜ兄弟」

「そして耳も悪ければ目もセンスも頭も悪いらしい。あの仏頂面の可愛いと正反対にいる教授を天使だって?」

「悪魔の間違いだろ!」

 

 机に置いてあったフィッシュアンドチップスを双子の口にお見舞した。

 

「フレッドとジョージ。新入生に絡むな」

「違うよパーシー、多分ミリに双子が絡まれてるんだよ……」

 

 監督生の印を付けた眼鏡の赤毛とロンがやってきた。やぁロンさっきぶり。

 

「ミリと同じになっちゃった最悪」

「ハリーとハーマイオニーと一緒の寮になれたのが幸せで堪んないの♡」

「うげぇ……」

 

 嫌そうな顔をするロンを座らせて私はパーシーと呼ばれた監督生に挨拶をした。

 

「私、ミリ・コワルスキー。キラキラピカピカの新入生。貴方は監督生だとお見受けしたのだけど、監督生に選ばれるくらい優秀な貴方なら魔法界や教師の事に詳しいと思って、聞かせていただけないかしら?」

「あ、あぁもちろん!嬉しいよ、こんなに素直で礼儀正しい子がグリフィンドールに入って来てくれて」

「!?」

「「!!??」」

 

 何かを言おうとしたロンに私はキッシュを口にぶち込んだ。

 

「僕はパーシー・ウィーズリー。5年生の監督生で、この双子とロンの兄弟なんだ。こいつらに意地悪されたら遠慮なく僕に言うといいよ」

「ありがとうパーシー。その時はよろしくね」

 

 握手を交わす。

 なるほど、ウィーズリーだったのか。道理で落ち着く顔だと思った。

 

「ところであそこでぶすくれてる蝙蝠みたいな真っ黒で可愛い彼はどう言った立場の人かしら」

「ん……?あぁ、セブルス・スネイプ先生だね。スリザリンの寮監で、魔法薬学の教授だよ。どうりでクィレル先生がオドオドしてるわけだ、彼は本当は魔法薬学を教えたくないらしい。クィレル先生の席を狙ってるって皆知ってるよ。闇の魔術にすごく詳しいんだ」

「……俄然スリザリンに入るべきだったぁ(号泣)」

「だ、大丈夫だよ。怖そうに見えるけど……いや実際怖いけど……あの、真面目にしてる生徒をいじめたり罵ったりする人じゃないから。泣かないで」

「いじめたり、罵ったり……ッ!?」

 

 驚いた顔をしてパーシーを見るとアワアワと慌てていた。

 

 真面目じゃなかったら、いじめられたり罵られたり出来ちゃうってこと!?

 うそ、こんなご褒美があっていいの!?

 

 というかセブルスの生徒になれるの私!?

 セブルスの友達にもなれるし生徒にもなれるって徳を積んでも積んでも叶えられる願望じゃない。これは……世界救った……?もしくは世界を作った……?

 

「だ、大丈夫かい?」

「かろうじて致命傷で済んでる……」

「それは済んでるって言わないのでは」

 

 心配してくれたパーシーの手を握って私は再び視線を合わせた。

 

「えっ!?」

「あともうひとつ。その、私アメリカのマグルと近しい環境で育って。イギリス魔法界の近代史についでに詳しく知らないんだけど」

「う、う」

「その、具体的に言うと10年前?ハリーの両親に何が起こっ……」

「うわあああ!」

 

 パーシーは顔を真っ赤にして私の手を離した。

 

「ぼ、僕は!他の新入生とも離さなきゃいけないから!その!だからこれで失礼するよ!」

 

 そしてつかつかと他の新入生の所へ向かっていった。ウンウン、監督生として生徒を気遣えてまるでリリーみたいに素敵ね。

 

「すっごい嫌なもん見ちゃった。まるでスネイプに罰則与えられた時みたいな」

「パーシーの奴、見る目がないな。よりにもよってスネイプにお熱な奴に惚れるだなんて」

「残念ながらミリってば、ハリーにもマルフォイにもハーマイオニーって子にもお熱な奴なんだ」

「わぁ、ご愁傷さま」

「自覚が無いならなお悪いね」

 

 え?私の顔が良くて一目惚れされやすいって事?前世から知ってるけど。

 

「ハリー、こっちで食べよう」

「今行くよロン!」

「いっぱい食べるハリーったら可愛すぎて額縁に飾りたい♡」

「でたよ……」

 

 

 

 新入生の歓迎会は問題らしい問題は起こらず無事にダンブルドアの気の抜ける挨拶で終わり、それぞれが寮に向けて動いていく。

 幽霊や規則的に動く階段、喋る絵などホグワーツで初めて魔法に触れた者は皆驚き、不安と期待に表情を染めた。そういえばダンブルドア曰く、4階の右端の廊下に立ち入るなという話だったけど、4階の右って確かうるさいおしゃべり絵画があるだけだった気がするんだけどな。

 

 1部はとても眠そうだけど、隠しドアを潜り抜けてあと少しで着くという頃。

 

「ピーブズだ」

 

 杖や甲冑が飛び、迷惑にも1年生に襲いかかろうとしているのを見て、パーシーが『出てこい!』と警告を放った。

 

「おおおおぉぉぉ!かーわいい1年生ちゃん!なんて愉快な標的なんだ!」

 

 ピーブズは意地悪な甲高い声を上げ、1年生に向かって急降下した。皆ひょいと身をかがめる中、私だけが普通に立ったままだった。

 ピーブズはポルターガイスト程度にしか干渉出来ないから。

 

「……ッ!?」

 

 私の目の前でぶつかる寸前、ピーブズがギョッと目を見開いたまま停止した。目が合う。

 

「………………エミリー……コワルスキー」

「あの、ピーブ……」

「ッ!う、うそ、ウソだ!ピーブズは、なんで!近寄るな!触るな!」

 

 思わず手を伸ばしたらピーブズは慌てて距離を取り、私から背を向けた。

 

 どういうこと……?

 

「Ms.コワルスキー。君、一体何者?」

「アメリカ人の魔女……」

 

 魔法を使えた試しがないけどね。




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さてお待たせしました──次回、授業です。
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