私は昼食をスリザリンでとっていた。
はい、ある意味出オチです。
「今日も可愛いね、ドラコ♡」
「ファーストネームで呼ぶ許可を出した覚えは無い!」
最初の1週間をグリフィンドールで過ごしたので、次はスリザリンに張り付く予定だ。
グリフィンドールでは『私=災害』という認識がされている様なので若干スリザリンに同情的だ。
ねぇジェームズ、私のことを全学年にとってはた迷惑な存在にさせたから救われた人がいたよね。そう、賢い貴方がそう仕組んだ。
だから私は今でも、寮の垣根を越えた友情を育むための台風の目になるつもりだよ。
「父上に言いつけるからな!?」
「え、もちろん!喜んで!」
「なんで喜ぶんだよ……。わけがわからない……」
それはそれとして己の欲望に忠実に天使を愛でるんだけどね!
頭を抱えたドラコはため息を吐くと諦めた様に机のサンドイッチを手に取って口に含んだ。
「む、これ美味しいな」
「あ?ほんと?ありがとう」
「……なんでお前がお礼を言ったコワルスキー」
油がささってない自転車みたいにギギギとこちらを振り向いた。
「私結構早起きで朝の4時に起きるのよね」
「老人か?」
「屋敷しもべ妖精に頼んでパンを作らせてもらったの。コワルスキースペシャル最新作、麦芽入り野菜たっぷりタンパク質たっぷりサンドイッチ。筋肉はタンパク質から。私は屋敷しもべ妖精に頼んでスネイプ先生の机に大量のサンドイッチを持っていく様にお願いしておいたわ」
「ありがた迷惑って言うんだぞそれ」
ちらりとセブルスの方を見ると諦めたようにモソモソと食べていた。全部は食べきれないだろうから、屋敷しもべ妖精にお願いして新しいのをつくってお昼届けてもらおっと。
セブルスの好きな照り焼き味を作ってあげたいところだけど、流石に味付けに特徴がありすぎるから1回でバレかねない。
叔母の秘伝の味って言ったらいけるかな……。
「ウィーズリー!お前のところの寮生だろ!回収しろ!」
「嫌だよ、それグリフィンドールの不良品。マルフォイにあげる」
「しんっっそこ要らん!」
嫌がってる顔も可愛いね。
通りがかったハリーとロンに文句を言っている。
「僕さ、マルフォイのことそんなに好きじゃないって言うか、いけ好かないやつだなって思ってたんだけど」
「喧嘩か?」
「ミリにそこまで好かれてる時点で仲間意識が芽生えてるよ。お互い頑張ろうね。あと七年」
「……」
「いまドラコは『素直に同意するのは癪だけど確かに仲間意識は芽生えてるからイエスもノーも言わない状態で誤魔化して困った時に助けてもらお』って顔してるよ」
「変な翻訳をするな!」
青白い顔だから顔に赤みが集まればすぐに分かりやすい。
「可愛いねドラコ!産毛に光が反射してキラキラ輝いてるよ。性格も思わず目と耳を奪われてしまうほど魅力的で、まるで右の頭みたい」
「……?なんだ、その右の頭って」
「ルーンスプールの右の頭は批評家なの」
アフリカの小国ブルキナファソに生息する三又のヘビで、左の頭は立案者。真ん中は夢想家。右の頭は批評家。右の頭は絶え間なく耳障りな音を立てて左と中の頭を邪魔するから、右の頭だけが亡くなっている個体をよく見るって感じ。でも右の頭には強力な毒があって1番危険で1番魅力的。
「お前以外にそんな例えするやつ居るか?」
「多分居ない」
「そもそもルーンスプールが何か知らない奴の方が多いだろ」
ドラコは魔法生物学もしっかり学んでいるらしい。賢くって天才。さぞかし親御さんがしっかり勉強をする環境を整えていたのでしょうね。あっ、両親ルシーとシシーだった!分かりきってる〜!
しかもドラコもそんな環境に置かれて真面目に勉学に取り組んで来たからこその実力なんだろうね。偉い、偉すぎる。偉すぎてマーリン勲章。愛しすぎて口から卵吐いちゃいそう。
「ミリ、私たち先に行くわよ」
「はーい。後で追いつくわ愛しのハーマイオニー」
ハーマイオニーは出自からかスリザリンにはあまり近寄らないけれど、私の姿があれば軽く挨拶をしてさっさとどこかへ向かってしまう。律儀で好き。
それとは反対に魔法界の貴族の血を引いてるハリーとあとついでにロンはスリザリンに居ても容赦なく話しかけてくれる。
今日みたいにスリザリンに同情しながら、だけど。
「ハリーは私が育てるね……」
「逃げろポッター!」
見てろよジェームズ。お前が居ない全寮制という環境を利用してお菓子やご飯を食べさせて細胞ごと塗り替えてやる。たった4ヶ月で全身の細胞をコワルスキー産にしてしまうんだから……。罪深い行為だわ。
「ところでドラコ、貴方の純血貴族としての知識を伺いたいのだけど」
「(嫌そうな顔)」
「ハリーの家に、ううん『生き残った男の子』の意味が分からないんだけど。貴方の知っていることを教えてくれないかしら」
訝しげな顔をしていたけど、ドラコは何かを思い出したかのように口を開いた。
「そうか、アメリカのマグル生まれだったな」
「ドラコにプロフィールを覚えられている?神に感謝すべきじゃない?ありがとう世界。天使を遣わしてくれて」
「おい、話を聞く気があるのか?」
「うん?初対面から今の会話に至るまでした会話は全て覚えてるよ」
「キッッッ」
「流石に私が居ない場所や私としてない会話は覚えてないけど……」
「よかった、よかった。いや良くない」
ドラコが安心したように胸を撫で下ろしたけど、犬が濡れた毛を弾き飛ばす様に首を振った。
「とにかくハリー・ポッターは、10年前に名前を言ってはいけないあの人と対峙し、唯一生き残った。ここまで言えばいくら馬鹿な貴様だろうと分か」
「──Ms.コワルスキー。スリザリンの生徒にこれ以上迷惑を掛けるのをやめていただきたい」
どろりと溶けるような声が脳裏に麻薬の様に響く。
「Mr.マルフォイ、本日のスリザリンの1年は飛行術であろう?この馬鹿など無視すれば良い。学習能力の無い馬鹿を相手にするだけ時間の無駄であろう」
軽率に私を殺しにかからないで欲しい。死んじゃう。不死鳥の様に蘇り、夏の蚊の様にまとわりつくけど。
「グリフィンドール10点減点」
スネイプ先生?
私貴方からの減点数20越えちゃったんだけど?
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その日の午後、1年生にとってはじめての飛行訓練の授業のため校庭に集まっていた。禁じられた森が見える芝生の上、箒がいくつか並べられている。
マダム・フーチ先生が鷹の目の様な鋭い眼光で生徒たちに注意を光らせる。そして箒のそばに立つよう指示をだした。
「右手を箒の上に突き出して。そして『上がれ』と言いなさい」
私は鼻息荒く手を突き出して言った。
「──上がれッ!」
私の手の中に収まるはずだった箒はビュンと思いっきり自走して逃げ出した。
「逃げるってレベルじゃないでしょ!なんでよ!!もう少し段階踏んでくれたっていいじゃない!この無機物捻くれ伝統箒!!」
箒のあんまりな態度に憤慨する。
1年生達はクスクスと笑っていた。
「ミリ・コワルスキー、分かっていました。見学です」
「なんでよ!!」
癖があるからって買い換えない低予算の飛行術なんて大嫌いだ!
ハリーが天才的な才能で箒を一発で呼び寄せたりしていた中、所々生徒たちも呼べている。結局箒を呼び寄せられたのは私以外全員、という。
「ねー、なんで言うこと聞かないの!魔法道具と相性が悪すぎてフーチ先生に同情されるレベルなんだけど、ぐ、ちょ、逃げようとしないで……!」
物理的に握りしめた箒がしなって私の手から逃げ出そうとしてくる。この、くそ箒!ギッタンギッタンに折って焼き芋作ってやるからね!?
「さぁ、私が笛を吹いたら地面を強く蹴ってください」
1年生たちは既に箒にまたがって飛び立とうとしている。いーな。変身術が使えたから飛行術もわんちゃんいけるかなって思ってたのに──
「こら、戻ってきなさい!」
ネビルが合図よりも先に箒に振り回されるように飛び立った。ぐんぐんと壁にぶつかりそうなくらいの速度。
「ネビル・ロングボトム!」
キラリとネビルから何か透明なガラス玉が落っこちたけど、フーチ先生の叫び声に私は服の中から愛しい彼女の名前を呼んだ。
「──エヴィル!」
私が投げた繭玉は呼び声に合わせて緑と青の美しく毒々しい翼を広げた。空を飛ぶと棘がギロリと背中に生え、つんざくような鳴き声を上げた。
「粘膜を!壁に張り付けさせて!」
吐き出した粘着性のある液体がスウーピングエヴィルの口から吐き出され、ネビルを壁に無理矢理くっつかせる。
ネビルは苦しそうな顔をしていたけど、箒から引き剥がされたことにホッとし、そして自分が城の壁に不安定な状態で張り付けられたことに顔を青くした。
「エヴィルいい子。戻っていいよ」
エヴィルはかつてより大きくなった体躯で甘えたように私の頬に頭を擦り付け緑色の繭に戻った。
「フーチ先生!今の隙にネビルを。あの粘膜は10分くらいしか持ちません」
「10分もてば優秀です」
フーチ先生は杖をひとふりすると地面をクッションの様にした。
そして次にネビルが空を浮かんだ。え?エヴィルの粘膜?簡単に剥ぎ取られましたよ。流石先生。でも悔しい。
「ネビル・ロングボトム、なぜ勝手に飛んで行ったのです!グリフィンドール1点減点です」
「そ、そんなぁ」
ネビルが泣きそうな顔をしたが、個人的には怪我が無いだけ加点10点加えてもいいくらい。もちろん私にね。
フィルチ先生はカンカンに怒ってネビルを説教していた。
「……あ、これか」
ネビルが落としたであろうガラス玉を拾い上げると、中から真っ赤な煙がもくもくと浮かび上がっている。
「思い出し玉?」
忘れたことがあると赤くなるって話をピーターがしたことあった。実際お目にかかったことは無かったけど、ピーターの言っていた特徴と同じという事は確定したと言ってもいいだろう。
……私は、何を忘れてるんだろう?
「いや、天使以外忘れるかぁ」
さもありなん。ごく当たり前の事に気付いて頷いて首を傾げて顔を上げた。
するといくつもの視線が目に入る。
軽蔑。恐怖。期待。恐れ。
ハリー達から注がれる私への感情の多さに私はビクリと肩を揺らした。体が思わず震える。
そんな。そんな……!
──可愛い子からの視線だなんてご褒美だわ!!
あっ、ロンから『お前絶対喜んでるだろ』って視線が送られた。酷いじゃない。思ってないけど。
「ミリ・コワルスキー。咄嗟の判断でよくやりました。ネビル・ロングボトムが怪我ひとつ無いのは貴女のおかげです。ありがとう。グリフィンドールに10点差し上げます」
「やったあ!」
「それはそれですが、見るからに怪しいペットを持ち込みましたね?コワルスキー?──今すぐ校長先生と話して来なさい」
「げぇっ」
素直に喜べない褒め言葉はやめていただけません?