─矛盾─   作:恋音

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4.悪戯

 

「……コワルスキー、準備はいいか?」

「大丈夫、極自然に渡すんだよね」

「うん」

 

 ハロウィン当日の朝早く、あの魂の双子に対する仕返しとしてセブルスが作った悪戯道具を持ってコソコソ話しながら大広間に向かっていた。

 

「にしても、まさか先生方に理論を聞きに行くだけで点がもらえるとは思ってもみなかった」

 

 仕返しの為に変身術のマクゴナガル先生や魔法薬学のスラグホーン先生、それにDADAのトレーネ先生に聞きに行った。やましい事は何もしてないので正直に言ったら全力でバックアップしてくれた。

 薬自体を調合してる場所を誤魔化すのが大変だったけど、下手な教室使ったら魂の双子にバレるから……。

 

 そして何より先生方は『2寮の生徒が仲良くて嬉しい、アイディアも計画も安全性があって素晴らしい』というニュアンスで加点してくれた。

 

「グリフィンドールとスリザリンって関係だから、中々に珍しいんだろうね。2人でずっと行動してたし」

「……その、リリーにフォローは入れてくれたか?」

「あァ、入れるまでも無かったけど」

 

 ここ1ヶ月セブルスと一緒に居たので恋する男の子としては想い人が勘違いをしないかが不安だったようだ。

 

 リリーとは同室なので一応私がフォローしようと思ったんだけど、リリーって『セブ、私が話すと真っ赤になって可愛いのよね。守りたくなるわ』と素で言う紳士だし、セブルス大好き人間だから、セブルスと私の恋愛模様だなんて1ミリ足りとも考えてなかった。

 『セブと仲良くしてくれてありがとう!』だってさ。とても輝かしい笑顔で言われたからアレはもう保護者の視点だね。

 

「あ、エミリーおはよう」

「おはよぉーアベル」

 

 ハッフルパフのローブを纏い美形の従兄が挨拶をする。今日も言葉で現せない顔面をしてるね。宝。

 にしても、随分久しぶりにアベルと会話をした気がするな。学年も最上級生と新入学生、寮も別々となると接点ないね。

 

「2ヶ月経つけど、どうだ?」

「もう最高だよ。上級生の人とも仲良くなれたし、可愛い天使は沢山いるし。──紹介するね、この子私の天使!」

「は、初めまして。セブルス・スネイプです。コワルスキーの戯言は基本スルーして行く方針で、な、仲良くしています」

 

 少し照れ気味に言ってくれたセブルス可愛すぎかな?私ほんとこんなに幸せでいつ死ぬんだろう。燃え死ぬよ。

 

「スリザリン生か。エミリーだから予感してたけどホントに馬鹿だよな」

「……そうですね」

「アベーール?」

 

 含みのある言い方やめて欲しいなイギリス人!

 相変わらず美形だなこの野郎!

 

「あっ、スリザリンと仲良くするのが馬鹿って言ってるんじゃないぞ?」

「大丈夫です、分かってますから。存在自体が馬鹿な事くらい」

「良かった、従妹に騙されているわけじゃないんだな。あ、俺はアベル・スキャマンダー。見ての通りハッフルパフの7学年で監督生だ」

「減点という武器でコワルスキーを制御出来ないのは残念ですね」

「顔って武器があるからまだ平気さ、ありがとな」

 

「私置いてけぼりなのに凄い勢いで罵倒されてるんだけど、アベルとセブルスだとご褒美にしかならないのでなんだか嬉しいぞ。私の事よく分かってるね!」

 

 アベルは私を一瞥するとセブルスの肩に手を置いた。

 

「俺は今年で卒業する」

「はい、頑張ります」

「単語で話さずに主語入れよっかー!?」

 

 嬉しそうに卒業の話を持ち出すアベルは紛れもなく私の扱いを心得てるな。心臓が二重の意味で悲鳴を上げているぅ!

 

 同じ学校に通えなくなる事と可愛いがすぎる事、コレエミリー検定の試験に出るので覚えておくように。

 

「あ、エミリー。トリックオアトリート」

「はいどうぞ」

「やりぃ、コワルスキー家のビスケット!」

「コワルスキー家はビスケットじゃなくてクッキーですぅ!」

 

 昨日せっせと厨房借りて作っただけある。実家がパン屋という事もあり小麦料理は大概レシピがある。その中でも大量生産出来るレシピの方。

 我が家はイギリス在住のスキャマンダー家が訪問してくるので、地元によくある蛍光色料理はあまり作らない。だからこっちでも受け入れられると思って作ってみた。

 

 ……セブルスがまさかおねだりするとは思ってもみなかったよ。可愛かった。味見係としてちゃっかりポジションをゲットしたセブルスに『それ、もう無いのか?』なんて悲しそうに言われたら、気付けば作り過ぎてたね。

 

「そっかー、エミリー居るからいつでもコワルスキー家の飯が食えるのか」

「あの、そんなにコワルスキーの料理って美味しいんですか?」

「母親も父親も料理上手いからコイツら兄妹二人共上手いよ。今度Mr.スネイプも作ってもらえよ、あ、でもパイだけは頼むなよ。アレは叔母さ、あー、エミリーの母親の腕が桁違いだから」

 

 あー褒められてる。

 嬉しすぎてニヨニヨしていたらアベルの友人らしき上級生が現れた。

 

「あ、この子駅で見た子」

「スキャマンダー、彼女?」

「……さすがにこれはない」

「アベル、それ、私に凄く失礼」

 

 死んだ顔で首を振ったアベルの姿に頬を膨らませる。英語覚えたての日本人か。

 私はアベルの彼女だと思われてたのね。私は彼女じゃなくて奴隷になりたいのでお断りします。

 

「周りはその外見に騙されないという利点を生むのでお前が傷付くだけで世界は平和だ」

「一目惚れ、って詐欺だよね……。『一目惚れです好きです→やっぱりいいですごめんなさい』って何度言われた事か……。私がフラれたみたいになってるのホント理不尽」

「馬鹿、馬鹿。馬鹿コワルスキー。それは一目惚れが詐欺なんじゃなくて、お前が詐欺なんだ」

 

「さーてお腹が空いたなー! かぼちゃケーキあればいいなー! そーれセブルス行くぞー!」

 

 

 セブルスの口癖が『馬鹿』になる前に背を押して目的地へ向かう。話を誤魔化してるなんてことはないよ。まさかまさか、可愛いセブルスの話を逸らそうだなんて!

 

「エミリー! お前クリスマス戻る?」

「戻らなー…あー、兄さんが……」

「手紙くらい書いてやれよ」

「週一だよ!」

「戻ってやれ」

「……面倒臭いのは年に1度でいい」

「じゃあ伝えとくな」

「ありがとー!」

 

 この様子から見るに休暇毎に来てくれてたんだなぁ、と思うとアベルを益々好きになるよね! 私の従兄がこんなにも可愛い!

 

「……お前兄と同じ顔だって言ってたよな」

「うん」

「ポッターに似てるんだろ?」

「リリーに対する態度とかめんどくさい所そっくり。私が地味に帰りたくない理由分かる?」

「分かる。という事は兄妹揃って顔面詐欺師なのか」

「これは間違いなく褒められてる」

「百味ビーンズ1粒足りとも褒めてない」

 

 ホントセブルスったらこの2ヶ月で随分とクールになったよね。

 あしらい方が上手くなったというか、扱いに慣れたというか。

 

 懐いてくれとは言わないし兄さんみたいになれとは絶対言わないけど初々しさが足りない。不服は無い。情緒不安定みたいだけど私これ己の性癖が浮気性だから超安定してるんだ。

 

 キツめの扱いしても私は嫌になるどころかご褒美になるので離れる所の話じゃないんだけどね!嫌悪滲ませる顔すらセブルスは可愛いので気軽に罵って欲しい。

 

「今度ビスケ、っ、クッキーの作り方教えてくれよ」

「作り方流石に覚えたんじゃないの?」

 

 

「だからお前は馬鹿なんだコワルスキー。お前はやり方が分かっても箒には乗れないだろ、そういう事だ」

 

 この天使積極的に心を抉ってくる。

 ため息と共に吐き出された言葉はとても納得出来た。母さんのパイはレシピ真似しても作れないから。

 

「あ、セブ! エミリー!」

「「リリー!」」

 

 私達を見つけたリリーが嬉しそうに笑って駆け寄る。その笑顔に値段は付けられない。天使の笑顔を見ただけで疲れきった私の心は洗われる。つまり常に天使と共にいるので私は疲れ知らずだ。

 

 まぁ私のことはどうでもいい! リリーが可愛すぎる!

 

 

「エミリーはさっきぶりね」

「先行っちゃってごめんね、私と違ってリリーはとっても素敵な女の子だから身嗜みはきちんとしないとね」

「身嗜みをちゃんとしないエミリーはすぐ出ちゃうんだから……。セブが可愛くて大好きなのは分かるけど、折角綺麗なのに勿体ないわ」

「まぁね! 母さんが美しいから! それにしてもリリーは見た目だけじゃなくて精神的な凛々しさがあるからそんなにも素敵なんだろうね」

 

 もちろん見た目も大好き。愛してる。

 若干フワフワとパーマのかかった細い赤の髪も、日の照った森や草の様な鮮やかな緑のアーモンド型の目元も。優しそうな雰囲気は性格が滲み出てるのに、その中にハッキリ存在する筋の通った信念。どれもこれも美しくて可愛い。

 

「──そこのお2人さん、息を吐くように口説き合わないで欲しいな。僕もエバンズを口説きたい」

 

 私がリリーの魅力に何度目かの心を捧げているとターゲットであるジェームズが声をかけてきた。

 

「おはようリーマス! ピーター! あとついでにジェームズとシリウスも」

「俺らついでかよ」

「むしろ逆になんで天使を優先させないと思ったの?」

 

 シリウスの言葉に心から首を傾げたい。お前私の何を見てきたの?

 

「おはようエミリー」

「……おはよー、えみりー」

 

 笑うリーマスと寝ぼけた状態のピーターが挨拶をしてくれる。1ヶ月以上グリフィンドール談話室で会わない同寮生って中々珍しい。

 

「リーマス大丈夫?」

「えっ」

「……え?」

「はぁ?」

 

 そこらかしこからなんか色々言葉が飛んできた。なんでよ。

 するとその場を代表してジェームズが言ってくれた。

 

「ミリーが、欲望を優先してないって」

「天使が体調崩してたら悶えるより先に心配するに決まってるじゃない。心配しないとかその人本当に心臓動いてる?」

「お前全体的に発言ぶっ飛んでるよな」

 

 顔色の悪いリーマスが大丈夫と困った様に笑ってくれたので話を切り上げる。先月も確か顔色悪かったし、両親の面会でホグワーツに居なかったから、触れない方がいいだろう。

 

「そうだスネイプとミリー! トリックオアトリート! お菓子くれないと悪戯しちゃうぞ」

「期待してるぜ、二人共」

 

 ニヤニヤと笑いながら双子が言う。流石にセブルスは彼らが苦手なので私の背中に隠れるかと思ったら、顔を輝かせた。

 

「えっ?」

「おっ?」

「食べてみてくれるか!?」

 

 セブルスが包装されたクッキーを持って双子に詰め寄った。ジェームズは口を真一文字に結んでキョロキョロしてるが、シリウスは困惑した様子で短く言葉をもらしている。

 

 視界の端でリーマスがパグの様な表情をしながら胸に手を当てた。何をそんなに謝っているんだろう。

 

「これ、本当に美味しいんだ! コワルスキーのクッキーなんだけどな、僕、おかわりしたくらい美味しかった! 貴族のキミらが美味しいと感じるかは分からないけど、冗談抜きで美味しいんだ!」

 

 きゃわいい!

 

 案の定ジェームズとシリウスは戸惑った表情で……まてよアレは可愛さを噛み締めてる顔だな。そして自分の感情についていけてない奴。

 

「リリー」

「どうしたの?」

「あの可愛い生物の胃袋掴んじゃった?」

「完璧にね。じゃあ私の胃袋も掴んでくれる?あ、交換ね!」

「リリーが手ずから作ったものを私の体内に取り込めるってこれ合法でいいんだろうか。内臓売るべき?」

 

 私の涙腺が可愛さでオーバーヒート起こして火を噴きそう。

 

「分かったよ! 分かったから離れて!」

「お腹が空いてる時に食べるのが一番だ、食べてみろ!」

「なにこの大興奮スネイプ! 誰が得するの!?」

「私だ」

「ミリーだったのか」

「暇を持て余したセブルスと私の」

「どうでもいいから早いとこ食って悪戯行くぞジェームズ」

「「邪魔をするなよ!」」

 

 ジェームズと声を揃えて罵倒する。シリウスはノリというものを分かってないんだよこのお坊っちゃんめ!

 セブルスの期待の目から逃げられない2人は大人しくクッキーを食べることにしてる。口に入れた瞬間驚きに染まっているので大成功だ。

 

「えっ、なにこれ美味しい」

「はぁー?意味わかんねぇ! なんだよコレ!」

「だろ! だろ! 最初食べた時はふざけるなコワルスキーと思った!」

 

 美味しいって感情は伝わるのにキレ気味なのが不服でならない。当然セブルス以外ね。

 

「セブー?」

「あ、どうしたのリリー」

「ふふっ、私のお菓子も貰ってくれるかしら」

 

 セブルスの表情が輝いた。

 その時だ。ポンッと栓が抜けたような音がしたと思ったらクッキーを食べ終えた筈の双子の姿に変化が起こる。

 

 ジェームズは鹿の角と耳と尻尾。シリウスは黒犬の耳と尻尾だ。私とセブルスは顔を見合わせてハイタッチをする。

 

「これキミらがやったの!?」

 

 なんてことだ! と大騒ぎするジェームズに周囲を通りかかった人達は吹く。滑稽な格好だ。

 

「僕とコワルスキーからの悪戯だ。苦労したんだぞ、そのポリ」

「あんなどぎつい色したポリジュースの成分どうやっていじくってビスケットに混ぜれたんだよ!? くっそー、やる事は分かってたのにこういう手で来るとは思わなかった……!」

「えっ、は!?ど、どういう事だよポッター!」

 

 やばいといった表情でジェームズは口を噤む。計画知られてた?なんで?あっ、リーマスが謝ってたのってコレか!

 じゃあ何、ジェームズとシリウスは分かってて掛かりに行ったって事!?

 

 シリウスの方をバッと見るとニヤリと笑うイケメンの姿があった。イケメンはこの世から消え失せろ。

 

「これあれだろ、変身術と魔法薬学。それと成分の制御としてDADAと呪文学。よく出来てるよな、ぶっちゃけくそ不味いかと思ってた」

「なんで知ってるの!?」

「秘密」

 

 セブルスは仕返ししてやろうと意気込んでいたのに向こうの方が1枚上手で消化不良の様だ。でも私分かってる、来年はやり返してやろうって思っているの。

 

「スネイプ!キミって才能あるよ!悪戯仕掛け人にならない!?」

「………………正気か!?」

「正気だよ!これ闇の魔法も入ってるんだろ!あんな物騒な魔法をこんな事に変えることが出来るだなんて!僕ら揃えばホグワーツに暴風雨でも呼び寄せられそう!」

 

 それは問題だと思う。

 

「い、嫌だ、僕、お前が大嫌いだから!」

「おうふ……ストレート過ぎて謎のダメージを受けたよ……」

 

 胸を押さえてヨロヨロと呻くジェームズ。セブルス可愛いなぁと思いながら傍観の姿勢を保っているとシリウスが耳元に口を寄せてきた。

 

「……コワルスキー、お前スネイプに何した?」

「アレはセブルス本来の可愛さだよ現実逃避しないで」

 

 シリウスは奇っ怪な物を見る目で私の天使を見なおす。あ、ハロウィンという事を思い出してジェームズがリリーに集りに行った癖に『お菓子』と書かれた紙を渡されたみたいだ。ドヤ顔するセブルスと真逆で血を吐きそうな顔してる。

 

「アレは完璧、気に入ったぞ、アイツ」

「あの可愛さに傾倒しない人間が居たら私はまず呪いがかかってないか考えるね」

「お前流石にそれは馬鹿だろ」

「毎日セブルスに鳴かれてる。もうそろそろ口癖になりそう」

 

 どう考えても私のせいです。

 

「とりあえずさァ、コワルスキー」

 

 シリウスは催促する様に手のひらに物が置けるような形で私に手を差し出した。

 

「ビスケットおかわり」

「クッキーだからあげません」

 

 クッキーって呼び方だけは譲ってたまるか。




悪戯仕掛け人にセブルスとエミリーが追加された。

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