ホグワーツはクリスマス休暇へと入った。12月の終わりとなると雪も積もり、その身が寒さで震える。
ドラコ・マルフォイは、ひょんな事から『虐待されていた』という事を知った己の友人がホグワーツ城に居ることに思いを馳せて居た。
「ドラコ、どうしたんだい?」
「父上。いえ、ハリー・ポッターのことが気にかかって」
「あぁ、生き残った英雄、か」
父親のルシウス・マルフォイはいい繋がりが築けていることに少し安堵した。自分の立ち位置が複雑であるため、息子を守るには有効な友人関係になるだろう。
「ハリー・ポッターはどんな人物だ?」
「……そうですね。少し傲慢で、ものを知らない癖に知ったふうな口を聞く生意気な男だと思います。でも、虐待されていたと知った今……虚勢を張ってるように見えますね」
制限された生活をしていた割に活発で人間関係に対する怯えがない。大人であろうとビクビク怯えずに噛み付けるのは、その傲慢さが救いになっているのだろう。
あと、落ち込んだり怯える暇が無いくらい振り回す問題児がいるのも大きいだろう。『ここまでならあばれて大丈夫!わがまま言っても大丈夫。大人も友達も嫌ったりしないよ、怒らないよ!』と先陣切ってくれるからというのは癪ながら助かるのだ。
「彼は今もホグワーツに?」
「はい。ウィーズリーと共に残っています。ニコラス・フラメルについての書物を探す……と言っていますが。どうせあいつらの事だ、見つけられないでしょう」
「ニコラス・フラメル……。あぁ、なるほど」
「ご存知ですか?」
「もちろんだとも。だけど、私からは言えないね」
賢者の石はちょっと関わりたくないので。
ルシウスはにっこり笑い、ドラコは何を言っても答えてくれない表情だと分かって苦笑いをした。
「……。それより、ポッターは大丈夫かな」
虐待を受けずに済むから城に残っているのはまだいい。ドラコはハリーを残してしまった事を少し後悔していた。
父親に無理言ってでもクリスマス休暇はマルフォイ邸に避難させれば良かった、と。
「どうしてだい?」
ルシウスが問う。
「それは──」
ところ変わって同じくクリスマス休暇で帰宅しているパンジー・パーキソンは母親に愚痴っていた。
「せっかくドラコと仲良くしようと思っていたのに!朝から晩までストーカーみたいにくっついてるくそ女がいるし、ハリー・ポッターもロナルド・ウィーズリーも邪魔だし!」
「パンジー……呪いをかけてしまいなさいよ」
「もうとっくにかけた!でもあの穢れた血のくそ女!シレッと避けるし!見てないのに!」
「野蛮なのよ」
母親のビオラ・パーキソンはマグル生まれの穢れた血を蔑む娘を撫でて『流石我が娘』と鼻高々だった。
「しまいには…!当たっても問題ない呪文だと思ったら!わざと当たりに来るし……!」
「ん?」
ちょっと雲行きが変わってきた。
なんの事か分からないけれど、ビオラにはホグワーツ4年生の時に出会った摩訶不思議生物が『いつもパグみたいにキュートで可愛いのねパーキソン!そろそろ名前で呼んでもいい?ヤダそんな可愛く怒らないで!…………怒るなら手酷くして』と言っている姿が脳裏に浮かんだ。
そんな世紀の変態がまさか娘と同じ学年にいるわけがない。そうだ。あのレベルは滅多に居ないし歴史上にあれ以上のものはいないだろう。
「たまたま避けそびれただけよ。間抜けなのね」
「そう、かなぁ?」
パンジーの不服そうな顔にビオラは気の所為だと思い聞かせた。
「とにかく、あの女が──」
はたまたところ変わりグリーングラス家。
ダフネ・グリーングラスは父親と母親、そして来年入学する妹のアストリアと歓談を楽しんでいた。
「勉学面では特に問題ない様だな」
父親のアルゴ・グリーングラスは学生時代を思い返して、テストの日付けを考えていた。
「もちろん。だけど、マグル生まれが邪魔で」
「勉強しか出来ないのだろう。問題ない。所詮血筋には勝てんのだから」
「そう、ですね。……あぁ、血筋と言えばハリー・ポッターが1年ながらグリフィンドールのシーカーに選ばれていましたよ」
「シーカーに?」
「はい。お父様は確か、ハリー・ポッターの父親と在学時期が被ってましたよね?」
「………………まぁ」
ちょっと遠い目をしてしまった。
いやぁ、ポッターの同学年濃かったからな。
「ジェームズ・ポッターもシーカーだった。学生時代は何度か試合をしたことがある」
「お父様はビーターでしたっけ」
「あぁ、そうだよ。シーカーとは直接対決は無かったが、グリフィンドールはベイン夫婦のビーターのコンビがすこぶる厄介だった」
今年はウィーズリーの双子がビーターだということはアルゴも把握している。連携が取れる人物がペアだと本当に厄介なのだ。
「あ、でも今年は少し変わったことがありまして」
正直ダフネは飛行術やクィディッチに興味が無い。だけど、直接見て、そして噂を聞いて。懸念点がひとつあった。
「緑の悪魔が現れたんです」
「…………うん?」
「グリフィンドールの生徒の──」
再び場面は代わりノット家。
セオドール・ノットは父親のテディ・ノットに質問を投げた。
「父上。叔父上はいついらっしゃいますか?」
「スタンレーに何か用が?」
テディは弟の姿を思い出した。
彼は家督争いから外れるために結婚せずに1人で様々な場所を転々としているため、ノット家に早々来ない。
何の用だろうかと首を傾げると、セオドールは微妙な顔をしていた。
なんでそんな微妙……?
「……叔父上に教わった危険な魔法生物が、ホグワーツに出まして」
「なんだと!?」
ケトルバーンの持ち込みか、それかハグリッドか。禁じられた森にキメラが生息しているという噂を聞いたこともある。テディの脳には様々な可能性が浮かぶ。
「どんな生物だったか分かるのか?」
「はい。叔父上が特に注意すべきと言っていた生物でしたから。スウーピング・イーグルという生物でした」
「!!???!!!??」
「生徒の持ち込みなのですが、持ち込んだ生徒が──」
親がホグワーツ生の生徒は、きっと言うだろう。ホグワーツに入って起こった不思議なこと。そして変わった人間がいた事を。
「──コワルスキーがいるから」
「──コワルスキーが邪魔すぎる」
「──コワルスキーというマグル生まれが」
「──コワルスキーというのです」
「コワルスキー!???!」
クリスマスだと言うのに親世代は悪夢みたいな名前を我が子から聞いて、怯えた声を出した。
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「クリスマスかぁ」
「なんでそんな落ち込んでんの…?」
メリークリスマス。ミリ・コワルスキーです。休暇に入ってからくしゃみが止まらないんだけど、もし噂をしているなら時間差じゃなくて同時に噂をして欲しい。肋骨折れるわ。
「…………私帰宅しなかったでしょ?」
「え、うん。ハリーが居るから帰らない!って駄々こねて居座ってるもんね」
「……………………実家からの催促が」
休暇に入ってから毎日何十通も身内から届く『帰ってこい』の催促に、私はそろそろ頭を抱えていた。
今日もフクロウで届けられた手紙の束をロンに指させば、ロンでさえドン引きの顔をした。
「……心配かけてるのは分かってるし、魔法も何も出来ない2人が不安がるのも分かってるのよ」
「家族皆マグルなんだっけ?」
「1部を除き大多数がマグルね」
クイニー母さんもアメリカの魔法学校に通っていたからイギリスのホグワーツには詳しくない。下手に魔法界を知ってる分クイニー母さんのストレスの方がマズイだろう。
と、言えど。今は友人をホグワーツに置いておく方が心配だ。
「そういや、ミリのお兄さんもマグルなの?」
「兄……?」
「何その怪訝な顔。入学直後言ってたじゃん、兄と一緒の部屋だったとかって」
そういえば、言っていた様な?
天使の発言は覚えてるけど自分の発言は覚えてない。歳かな。
「…………君の記憶力って極端過ぎない?」
「よく言われる。まぁ、今は一人っ子。でも兄さんは魔法が使えなかったわ」
「重たい話題を出すなら事前に言ってくれないかな!?」
ロンがいきなり私を非難し始めた。失敬すぎる。
「そういえばロン。貴方の両親からセーターが届いたわ」
「ママのウィーズリー家特製セーターだ。毎年編むんだよ」
ハリーから手紙が、ハーマイオニーからお菓子が、ドラコからアクセサリーがクリスマスプレゼントとして届けられた。ロンからはハリーとハーマイオニーとドラコの3人が写った写真。
ロンがいちばん私のドツボを突いてくるプレゼントだった。
「あ、パーシーが来た。あぁ、双子に遊ばれてやって来たのか」
Pと書かれたセーターを頭から被って身動き取りずらそうにしている。それをハリーが見て笑っていた。どうやら双子が無理やりパーシーに着せたらしい。
「いいかいハリー。いつも監督生やロンと同じテーブルに付くんだろうけど、今日だけはだめだ。だってクリスマスは家族が一緒になって祝うもんだろ」
双子がそういうので私はハリーの手を取った。
「じゃあハリーは私と一緒に食べようね」
「えー、ミリと?」
嫌そうな顔をしているけど目の奥で喜びの色が見え隠れしている。
可愛い。素直になれない反抗期ってこういうこと……?愛おしい。リリーと私の子が愛おしすぎるよ。
「もう私たち家族みたいなものじゃない?」
「それは過言だよ」
「可愛いハリー。ママって呼んでいいよ」
「僕の母さんを横に置かないで」
「横に置いてるのはハリーのお父さんだから大丈夫。私とリリーと、ハリーで幸せな家庭を築こうね」
「人の母親を気安く呼ばないでよ」
クリスマスパーティーは相変わらずだった。朝から晩までご馳走が並び、残された教師もこの日ばかりはお酒を飲んだりして楽しそうにしている。
ハグリッドは相変わらずお酒に弱くて、酔っ払ってマクゴナガル先生の頬にキスをしに行くし。魔法のクラッカーの中に書いてあったジョークの紙をフリットウィック先生が読み上げたり。七面鳥のサンドイッチやコワルスキー家特性のクリスマスケーキや、マフィンなど。粉ものを取り扱うなら私以上の適任はいないからこっそり用意していた。
おかげで大盛況。ハリーも喜んでくれた様だった。
そして私は、もう1人の友人が気になって夜中抜け出した。
「こんばんは、スネイプ先生」
「……グリフィンドール、10点減」
「話しかけただけでそれはちょっと酷くないかしら!?それに今は休暇中だから減点も加点もなし、でしょう!?」
「生徒は出歩き禁止の時間帯に出歩いている貴様が言うことかコワルスキー?」
地下に向かう廊下ですれ違ったセブルスを呼び止めると、セブルスはいやそーな顔をした。
「で、何の用だ……」
「クリスマスパーティーに一度も顔を出してないでしょう?どうせ朝から何も食べてないと思って。休暇で時間の区切りがないから私生活が疎かになると考えたのだけど。予想は違ってた?」
私はサンドイッチとケーキを籠から取り出した。そして籠に戻してセブルスに無理矢理おしつける。
「……。」
セブルスは当てられて不服です、みたいな感じで私を睨んだ後、ため息を吐いた。
「コワルスキー、まさかその為だけに?」
「私にとっては、すごく重要な事ですよ。セブルス・スネイプ先生」
貴方の心配をしないで、一体誰がすると言うの。
死んでも、生まれ変わっても。貴方が相棒に心配を掛けている事は変わらない。
セブルスがふと眉間に皺を寄せた。
時間もあまりなさそうなので手短に伝えたいことだけを伝える事としよう。
「メリークリスマス。いい夢を」
カツカツと急ぎ足でやってくる音が聞こえて、思わず透明マントを被る。
「コワルスキー貴様……!」
「あぁスネイプ先生、いいところに。誰かが歩き回っていたら直接先生にお知らせするんでしたよね。誰かが図書館の、しかも閲覧禁止の場所にいましたよ」
フィルチだった。
ごめんフィルチ、居る。むしろ直接スネイプ先生にお知らせした私が言うことじゃないかもしれないけど、我が相棒ながらフィルチとの相性が良すぎる。性格悪いなぁ。そういうところも可愛い。
「閲覧禁止の棚……?それならまだ遠くまでは。他の形跡は?」
「ランプがひとつ、ありましたねえ」
「……夜目が効かない人間か」
ふと可愛い気配を感じた。
ビクリと揺れた様な感覚で空気が動いた気がする。
可愛い子センサー発動……!
ふむ。すこし開いた扉が怪しいな。
足音を消してフィルチにバレないように入って見ると、可愛い子の気配が更に強くなった。
「……もしかしてハリー?」
「…………ドン引きしてもいい?」
本当に居た。
どうやらハリーも透明マントを被っていたようだ。
「スネイプ先生、何も罰則とか無かったの?」
「休暇明けが怖いけどね。どこから聞いていたの?」
「メリークリスマス、って所ら辺から」
あぁ、道理でセブルスが微かに異様な反応を見せていたんだ。セブルスも透明マントでジェームズに悪戯されていた経験があるため気配には敏感だ。
気付いて言わないでくれたのね。優しい子。
「君も透明マント持ってたんだね。誰に貰ったの?」
「自信作だよ」
「ミリが作ったってこと!?」
「そうとも言うかも」
原材料のデミガイズのイズがウチにはいるし、ブラッシングの度に抜ける毛が勿体なくて透明マント作っていたのよね。
でもやっぱりポッター家の透明マントの質感にはなかなか追い付かない。うーん、どうやったら再現出来るのかな。
「あ、そうだミリ。僕迷子になっちゃってさ、寮まで送って欲しいんだけど」
「喜んで!」
「この部屋埃っぽいし大きな鏡しか無くてさ。どこなのか分からないんだよね……」
ふとハリーの視線を追うと確かに大きな鏡があった。
反転文字になっているけれど、鏡の枠の上の方には『望みを映す鏡』と掘られてある。願望が鏡として現れる魔道具って事?
「大きいだけで普通の鏡だったよ」
「そっか、じゃあ一緒に行こっか。……バイバイ」
「……??誰に向かって言ってるの?」
私は鏡の中に映る悪戯仕掛け人達に別れを告げて、ハリーの手を引いて寮へと戻って行った。
あれは、見ちゃいけないものだったな。
前半楽しすぎました。