─矛盾─   作:恋音

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1-12.賢者の石

 

 

 ユニコーンは無事に保護された。というかした。

 きっちり手に持っていたスーツケースの中から、ユニコーンの外傷用の傷薬を手に取ってぶちまけた。うちの子のユニの分だけど、傷付いたユニコーンを放置しておく訳にはいかない、と。私を追いかけてきたハグリッドに状況説明と、不審者を見つけた事の説明。

 怪我したユニコーンを私のスーツケースに保護して、治療を加える。『不審者に飛び蹴りなんてするな!』と、真っ青なセブルスとマクゴナガル先生にしこたま叱られた後、罰則は終了となった。

 

 そんなホグワーツは試験も終わり、あとは結果と終業式を待つばかりと言ったタイミング。

 

 めいいっぱい可愛いの言葉を紡いだとて言い足りない、世界遺産みたいな可愛いハリーにお願いごとをされた。

 

 賢者の石を守るのを手伝って欲しいとの事だ。

 

「お願い!ミリ!」

「私がハリーのお願いを断ると思っていたの?」

「微塵も」

「さすがうちの子、天才」

 

 どうやらハーマイオニーとドラコとロンが一緒になって賢者の石を探しているらしい。

 話を聞く限り、教師陣が後生大事に隠しているけれど、多分セブルスがそれを狙っている、かもしれないのだと。

 

「なんで、『多分』スネイプ先生?」

「当初ではハーマイオニーが『錯乱魔法を掛けたのはスネイプだった!』って言ってたんだけど、この前の罰則でミリってば不審者に飛び蹴りかましてたじゃん?」

「うん」

「僕のこと透明マントで隠れてても見つけられるくらいの変態さんが、ただのマントを被ったスネイプを見分けられないわけが無い」

「それはそうね」

「つまり……不審者がスネイプでは無い可能性の方が高くなってきちゃって」

 

 グリンゴッツ銀行に預けられていた賢者の石、それをハグリッドが確保してダンブルドアが隠した。そしてその後、グリンゴッツ銀行に誰かが盗みに入り、その犯人は今も賢者の石を狙ってるのだという。

 

「でもダンブルドアが守りを担ってるならそこまで心配しなくてもいいと思うけど」

「でもハグリッドが、フラッフィーの眠らせ方を教えちゃったんだ!」

 

 罠のひとつを担っているハグリッドの口の軽さにため息吐く。そりゃ、不安になるわけだ。

 

「ドラゴンの卵を貰った時に教えちゃったんだ」

「ひとまず、ダンブルドアとマクゴナガル先生に相談しよう」

「ダンブルドアも居なかったんだよ。だから皆で急いでミリを連れてきて助けになってもらおうと思って」

 

 もう少し!早く相談して欲しかったかも!

 でも相談してくれたのでそれに五体投地で感謝しつつ、金縛りにあっているネビルを談話室に置いて走った。

 

「なんでネビルが……?」

「ハーマイオニーが」

「さっすがハーマイオニー!魔法の腕も並外れて優秀ね!ごめんねネビル、あとは任せて」

 

 ハリーが自分で持っている透明マントはハーマイオニーとドラコとロンに貸して、部屋の前に向かったそうだ。つまり生身で私を呼びに来たと言う。

 

 ど、度胸怖〜〜。

 地理も把握してないような1年生がフィルチやミセス・ノリス相手に逃げ延びてグリフィンドールまで戻ってきたの?すごい、天才すぎる。

 この度胸には流石の私もジェームズの血筋と確信出来ちゃった。悔しい。ジェームズなのに。

 

「ミリ連れてきたらミリの透明マントでいいやって思って」

「うちの子天才じゃない……?」

 

 その考えが浮かぶのも偉い。人に頼れてとても偉いね。いい子。

 

「そこにいるのはだーれだ」

 

 透明マントを2人で被りながら階段を登っているとピーブズに出会った。やば、と言いたげに私の袖を握るハリー。

 

「やっ、ピーブズ」

「え、初代?」

「今から賢者の石探しに行くんだけど、それを『秘密』にしておいて貰ってもいい?特にー、泣き虫のかわい子ちゃんにはね」

 

 マントから手を出して挨拶すると、ピーブズは恭しい礼をして去っていた。

 

 ホグワーツでの秘密は皆の秘密。

 きっとセブルスに伝えにいったことだろう。

 

「ミリ、すごいね」

「うっ、可愛いハリーの純粋な賛美が私の荒んだ心に染み渡る……!」

 

 ハリーは尊敬から一転、怪訝な目をして私を見た。その視線ですらもご褒美です。

 

 

 辿り着いたら扉の前で透明マントに隠れたかわい子ちゃんの気配がしたので、私は透明マントから顔を出して声をかける。

 

「着いたよ」

「扉を開けたけど、フラッフィーが眠らされちゃってたんだよ」

 

 第1関門、魔法生物は誰かに突破されてる様だった。これは、確かに危機感を抱きますね……。

 教師が仕掛けた罠がこの先どれだけあるのか知らないけれど、危機感を抱くに決まっている。

 

「私が行ってくるから、皆はここで待ってて」

「何言ってるの、僕らも行くよ」

「そうだ、コワルスキー。僕もポッターに同感だ。魔法下手のお前だけで行かせるために呼んだわけじゃない」

「怖いけど、賢者の石を守らなきゃ……。学校も授業もそれどころじゃ無くなっちゃうもの」

「そうだよ!君にばっか危険な目に合わせないって!」

 

「──うちの子達かっっっわいすぎない?」

 

「もう1人で行けよ」

 

 ロンが速攻で手のひら返しをした。

 

 

 

 

 

 フラッフィーの眠っている足元を潜り抜け、スプラウト先生が設置したであろう悪魔の罠をハーマイオニーが何とかして、フリットウィック先生が仕掛けたであろう飛ぶ鍵をハリーが箒に乗って確保する。

 マクゴナガル先生が仕掛けたのだろう、人間版チェスみたいな悪趣味なチェスを指し手のロンが解決させる。

 

 いや、この子達凄いな?

 1年生が破るのは想定外だっただろうけど、それぞれが得意分野でカバーしあっている。

 

 私はチェスのゲームで少し怪我をしてしまったけど、ロンが犠牲になる指し方をするだろうと思ったので慌てて立ち位置を変わっていたのだ。

 

「僕ら、案外やるね」

「でもミリが怪我しちゃったわ。いえ、むしろ馬に乗った状態から剣で攻撃されて避けちゃうのが凄いのだけど。アクション映画を見てる気分だったわ」

「もー、ロンもミリも無茶しないでよ」

 

 そして先に進むと、とある罠が貼られてあった。部屋の真ん中に移動した後、炎で囲まれたのだった。前門の黒炎、後門の紫炎。

 

 論理パズルの暗号文と、いくつかの薬瓶と、ギミック。セブルスが設置したものでしょうね。この炎の悪戯、シリウスがセブルスと私に仕掛けたことあるし。

 

「ちょっと待って、今解読するから……」

「必要無い」

 

 ドラコが薬瓶をいくつか空けたり揺らしたりすると1つの小瓶を取り出した。

 

「多分、これとこれが魔法薬。前にスネイプ先生に教わった事がある」

 

 純粋な魔法界の知識として解決したはいいが、ドラコは苦々しい顔をしている。可愛い。写真に収めたい。撮れないから私の網膜に焼き付けておこう。

 

「量が圧倒的に足りないと思うんだ」

「じゃ、ドラコそれ私に頂戴?」

 

 私でもわかるけど、この少ない量じゃ2人分にしかならないだろう。こちらの人数は欠けることなく5人。

 

「それに、侵入者を防ぐ罠なのに正解がある方がおかしいのよ」

 

 わんちゃん手酷い後遺症とかあるかもしれない。これは危なくて貴重で飲ませられないので私が預かろう。あと毒薬と酒とヒントも。スーツケースを普通に開いて中に入れると、一度閉じて拡張用にセットしたあと開いた。

 

「虚空?」

「電気つけてないから暗いの」

 

 手だけ伸ばして壁際を探ると、大人のサイズの革製ローブを人数分取り出した。

 

「はい、着てね」

「なにこれ」

「耐熱ローブ。悪霊の火レペルだと流石に防げないけど、これくらいなら防げる」

 

 軽く黒い炎に触ってみた感じ、火傷はするだろうけど焼失はしないくらいの熱量だった。ドラゴンの炎が防げるレベルのローブでいけそうだ。

 

 大人用のローブなので裾は引き摺る。

 ベルトで固定させて動きやすい状態まで調節。

 

「JP?なんか書いてあるよミリ」

「ほんとだ、僕のはSS。サイズとか製品元の国か?」

「気にしなくていいよ」

 

 ローブのフードを深く被って私は4人に語りかけた。

 

「私は、戻るのをおすすめするけど」

「「「「戻らない!」」」」

「言うと思った」

 

 危機感というより冒険心の方があるのだろうか。仕方ないから私は前を向いた。

 

 大丈夫、皆は私が命に替えても護るから。

 

 

 

 息を止めて炎の中をゆっくり進む。肺を焼かない様に、急ぎ足になってローブが捲り上がらない様に慎重に。手を繋いで進んで行く。

 

 ようやく黒い炎を抜けて最後の部屋に到達すれば、そこにいたのはクィレル先生だった。

 

「やっぱり、貴方だったのね。クィレル」

 

 元レイブンクロー生のクィレルは、かつての学生時代と同じようにひきつけや吃りも無く、普通に喋っていた。

 

 おかしいと思ってたのよ。年齢的に私達と在学期間が被るはずなのに、クィレルみたいな吃り癖のある男子生徒見た事ないな、って。可愛くないから気づかなかったけど、つい最近クィレルの事を思い出した。

 それこそドロップキック2回目を決めた辺りで。

 

 

「コワルスキー、厄介な奴め。薬品は1つだから、ポッターだけが来ると踏んでいたのだが」

「お生憎様。私が可愛い可愛い我が子をみすみす1人で行かせると思う?あなたもホグワーツ生なら分かるでしょ?」

「ミリの子じゃないからね、僕」

「ママって呼んで」

「ポッター、本当にキモいなコイツ……」

 

 ドラコが辛辣なツッコミを入れてくれる。最高だと思います。

 

「まさか、クィレルが。僕てっきり、スネイプだと思ってたのに」

 

 ロンが怯えながら問いかけると、クィレルは低い声で笑った。

 

「セブルスか?」

「気安くファーストネームを呼ぶんじゃねぇよこのスットコドッコイのハゲ頭」

「(無視)確かにセブルスは育ちすぎたコウモリみたいに飛び回って、まさにそう言う事をしそうなやつだ」

「分かるわセブルスのコウモリ感って目立つのにさも自分は目立ちませんみたいな顔してるのあのアンバランス感最高に可愛いわよね」

「(無視)スネイプの傍にいれば、誰だってか、かわいそうな、どど、どもりの、ク、クィレル先生を疑いやしないだろう?」

「セブルスの威圧感半端ないわよね。あの瞳でどれだけ罵られたいか…!緊張してどもっちゃうのも仕方ないわクィレル、そう言う運命なのよ」

 

 

 

「すげー、こいつら全然、まるで会話してない」

「会話のキャッチボールどころかクィディッチしてる。お互いブラッジャーぶつけ合ってるな」

「ミリがとうとうスネイプの事クィレルに釣られてか対抗してか名前呼び始めちゃった。可哀想」

「醜い争いね、見てられないわ」

 

 1年生がボソボソと可愛いけど失敬な会話をしてる。後でお菓子あげるから、ちゃんと集中して。

 

「もしかして、僕をクィディッチで殺そうとしたのは貴方が?」

「そうだ。もう少しで箒から落とせそうだったのだが、スネイプが私のかけた呪文を解く反対呪文を唱えてなければもっと早く叩き落とせたんだ。そしてこいつが!邪魔をしなければ!」

 

 私は腕を組んで言った。

 

「セブルスの近くに座って、そしてハリーに手をかけた貴方が悪いわ!」

「後半は認めるが前半は違うな?」

「そもそも、なんで貴方賢者の石を狙ってたの?」

 

 クィレルはギロリと私を睨んだ。

 

「ユニコーンの血は呪いの作用がある。魔法生物学6学年で習うはずよ。そこまでして、延命にこだわった理由は何?」

「……ご主人様のためだ」

「うわぁー!可愛くない野郎の『ご主人様』ほど気味が悪いものってないね!センス悪い?大丈夫?病院行く?」

「ミリ、ミリ、あんまり言うのやめてあげてよ」

「そもそもユニコーンを穢したことも許せないけど、その匂いをプンプン漂わせたままユニコーン襲うだなんて犯人俺ですって言ってるようなもんじゃ無い。頭が悪い?大丈夫?私たちの学年でよかったら2年生から同級生始める?」

「ミリ!こら!」

 

 この場にはみぞの鏡があった。

 ダンブルドアの仕掛けた罠がみぞの鏡だとすると、クィレルはそれに手こずっている。

 

 私は冷静さを見失わせて制圧する必要性が出てくるってわけ。

 

「コワルスキー……!そのスーツケースにも懐にも触るな!」

 

 ピクリと動けば警戒された。

 あー、流石ホグワーツ生。絡みがなかったレイブンクロー生でも、エミリーの情報は把握しているらしい。あとついでに私もね。

 

「──クィレル、俺様が話す」

 

 この場で、誰の声でもない第三者の声が響いた。

 

「ご主人様、あなた様はまだ十分に力がついていません!」

「いや、貴様にそいつは無理だ」

 

 クィレルがターバンをしゅるしゅると解く。するとクィレルは後ろ向きになって。

 後頭部に顔がついていた。

 

「ぎゃっ!」

「ひっ……!」

 

 私の背中に庇ったドラコやハーマイオニーの小さな悲鳴が聞こえる。ハリーは悲鳴が出ないくらい固まっていた。

 

 ん?

 

「──ヴォルちゃんじゃん」

 

 やっほー、と手を上げたら後頭部に着いた気持ち悪い物体は眉間に皺を寄せ、そして叫んだ。

 

「このっ、大馬鹿者が!!!」

「なぁ!?」

「敵にドロップキックを!食らわせるお転婆が!どこにいる!」

「ここです!」

「なにがやっほー、だ!敵に!対する!警戒心と!殺害したものに対する敵意を!どこに置いてきた!」

「耳が痛い……」

「…………お前、記憶は!」

「えっと、おはようからおやすみまでセブルスの可愛い姿なら一切忘れてないわ!」

「隠す気が無いのかこの大馬鹿者!!!」

 

 ゼーハーと通常でもしなさそうな死にかけた息切れに、私はスーツケースの扉を開けた。

 

「コワルスキー……聞いてるのか……っ!」

「うんもちろん」

 

 私はスーツケースの中からゴブレットを取り出した。ぐっつぐつに沸かしたゴブレット。

 

 罰則にあった日からちまちまセブルスの薬草ぬすんでは作ってたんだよね。

 

「こ、コワルスキー……?」

「ユニコーンの血が接種されたのって、どっちの胃?」

 

 まぁ、どっちでもいいか。頭は2つだけど身体はひとつっぽいし。両方可愛くないし美しくも無いし。適当で。

 

 私は背中を向けているクィレルに、一瞬で肉薄して蹴飛ばした。

 前から思いっきり倒れたクィレルと、空を見上げてるヴォルちゃん。

 

 

 そして私はヴォルちゃんの口に、ゴブレットを叩き込んだ。

 

「ゴボゴボゴボゴボ!」

「ミリ何やってんの!?」

「あ、吐かないでねヴォルちゃん。それ、ユニコーンの血の解毒剤。貴方が今どういう状況でどんな状態になってるのか分からないしもしかしたら悪影響とか副作用とかあるかもしれないけど、ユニコーン傷つけたんだからどうでもいいよね」

「がほ!ゴボッ!ッ!ッ!」

「ミリ!ミリ!あの聞こえちゃいけない声が聞こえるんだけど!溺れてるって!」

「ほーらイッキイッキ。……ヴォルちゃんさぁ、いい大人なんだから他人に寄生せずに自立したら?」

「コワルスキーお前正気か!?」

「ミリ!やめてあげてちょうだい!せめて息継ぎ!」

 

 1年生たちは可愛い事。こんな汚ぇヴォルちゃんにも優しいんだから。慈悲深くて尊いね。

 

「ハイハイ、賢者の石あげるから」

「えっ」

「はいこれ。──セブルスが授業で間違えて手順ミスって作った魔結晶。内緒よ?宝物なんだから感謝して」

「誰がいるか!」

「え、こんな延命装置なのに……?お金にもなるのに……?言い値で買う人が続出でしょ……?」

「貴様限定でな!!??」

 

 

 

 

 ちなみにですが。

 クィレルの肉体を持ったヴォルちゃんと喧嘩させまいと1年生が体張って止めてくれました。必死で可愛い。

 そしてクィレルは普通に逃げたし。私はしこたま1年生に怒られたし。急いで追いかけてきたセブルスとダンブルドアは賢者の石がまだ取られてないことや状況に混乱していました。

 

 いやー、濃い1年だったな。

 




次回第1章が終わります。
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