─矛盾─   作:恋音

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2-2.閉ざされた駅

 

 

 ギルデロイ・ロックハートのサイン会をルシーの力を借りて回避した。回避出来てないところはあるけれどそこはまあ言わないで欲しいかな。

 

「み、ミリ?」

「父上ごめんなさい!コワルスキー!出てこい!」

 

 私がルシーの腰にしがみついたまま堪能していたらマントを捲りあげてドラコが私の手を引っ掴んだ。

 

「コワルスキー!」

「ごめんドラコ。私、ここに永住するね……」

 

 めっちゃいい匂いする。役得すぎる。

 

「ドラコ、対応が違うよ」

 

 ルシーの優しい声がドラコを窘める。ルシーは一呼吸置くと、甘美な声で言い放った。

 

「──ほっぺにキスをしてあげましょう」

「どうぞこちらが私の頬です」

 

 マントから飛び出し傅き顔を差し出す。するとルシーはその美しい顔でにっこり笑うと腰を曲げて私の頬に軽いキスをした。

 

 心臓がドコォン!と大きな音を立てて命の危険を知らせてきた。

 こんなご褒美あってもいい…の……?

 

 目から涙がとめどなく溢れてくる。体験というこの瞬間をどうやって具現化させてどうやって保存すべき……?

 否!!!!!(クソデカボイス)

 私は今、脳みそをフル稼働させて体温と触感と艶と匂いと情景全てを記憶に染み付きこませる!

 

「ドラコ、止まったよ」

「コワルスキーは父上まで唾をかけるのか!?こいつの有効範囲どうなってるんだ!?」

 

 マルフォイ親子の尊いやり取りを拝聴する。あぁ耳と目と心が幸せすぎる。

 

「あら、ルシー君?」

「クイニーさん。相変わらずお美しいですね。お世話になってます」

「「「「!?」」」」

「そちらも。シシーちゃんは元気?」

「えぇ、妻も元気です」

 

「ミリのおばあちゃんってマルフォイのお父さんと知り合いだったの?」

「いや知らない……。というかあの方コワルスキーの祖母なのか……?」

「うちの両親とロンの両親が混乱してるのだけどどういうことなの?これ」

「おいマルフォイ、お前の家ってあの純血主義なんだよな?」

「そのはず………………」

 

「ルシー君は……。あぁなるほど、お察しの通りよ。事態の把握が早いのね」

「はは、貴女の開心術は相変わらず素晴らしい。おかげで確信に至りました。美しさをただ讃えるだけでは同一人物だとは思わなかったですが、私を頼ったのです。……頼られるのは存外悪くないですね」

「そうね、本当にそう。知らせてあげられなくてごめんなさい。心配してくれていたのに」

「いえ。私も、あれ以来直接コワルスキー店に立ち寄れなかった。本当は立場も外聞もかなぐり捨てて再会を喜びたい所ですが、私の立ち位置は不安定です。帰って妻に報告をさせていただきたいのですが、許可を頂けますか?」

「ええ。こちらとしても。……本当はイギリスに行かせるつもり無かったのよ。だから、ぜひ伝えてあげて。そしてありがとうルシー君」

 

「あの、父上?」

「あぁドラコ、紹介しよう。我が家で特別な日に限り出しているパンがあるだろう?」

「は、はい。好物の」

「パン……あっ」

「こちらのMs.クイニー・コワルスキーのご主人がされているパン屋で買い付けているのだよ」

「こんにちはドラコ君。私の娘が学生時代ルシー君にお世話になってね。その繋がりで買い続けてくれる常連さんなの」

「コワルスキー……の………………」

「ドラコ。この子の扱い方は慣れれば簡単なので上手く扱いなさい」

「マルフォイのお父さん、ミリ固まったままなんだけど何か魔法でも使った……?」

「処理能力以上の衝撃を与えたのでしばらくそのままです。あぁ大丈夫、返事が出来ないだけで話はちゃんと聞いてますし覚えてますから。ですよねぇ、ミリ?」

 

 はい、もちろんですルシー。

 1単語、発音の節々に至るまで覚えてます。

 

「そんな貴女にひとつ再会のプレゼントです」

 

 ルシーは私の腕に古びた本を握らせた。

 そして耳元に唇を近付けて囁くように忠告を放った。

 

「……次は、決して命を投げ出すような馬鹿な真似をしないように」

 

 その美貌は本当に意味がわからないほど目が眩むけど逆らってはいけない何かを彷彿とさせる笑顔を繰り広げている。無理、怖いから逆らわない。

 というか喜んで従います。

 

「ドラコ。学友との挨拶はもういいかな?」

 

 帰ろう、という提案をして4人は顔を見合せた。英雄ハリーはともかく、親マグルのハーマイオニーや血を裏切るウィーズリーとの友好関係に何も言わなかったことに混乱しているのだろう。

 

「ま、またホグワーツで……??」

「う、うん……?」

「また、ね?」

「さような、ら、マルフォイ?」

 

 4人ともなんだか普通の友達みたいなやり取りをしている。可愛い。

 

 残された3人が互いに首を傾げている。

 

「ミリ、そろそろ正気に戻りなさい」

「…………母さん、私、死んだのかもしれないわ」

「何を寝惚けた事を言ってるの?」

 

 死んだのよ、と言いたげな視線を受けた。母さんは美人だからその視線でさえ愛おしい。

 

 

 

 ==========

 

 

 夏休みはあまりにもあっという間に終わった。

 教科書を買いに行った時にルシーに出会ったりしたけれど、あれから音沙汰は無かった。

 

 ハリーと過ごした夏はあまりにも贅沢で幸せで。

 秘密のスーツケースの中を手を繋いで案内したりハリーの苦手な魔法薬の予習を一緒に行ったり。魔法だけではなくノーマジ的な観光も楽しんだ。朝になればセントラルパークで一緒に体を動かし近くの駅でショッピングをした。もちろん保護者として兄さんもいたけれど。リバティ島に行って自由の女神の前で一緒に写真を撮りブルックリン橋の大きさにハリーが驚いたり。

 

 最終日にはスキャマンダー家がコワルスキー家に現れ、マリウスおじさんも招いて豪華な夕食を食べた。ハリーの大好物はもちろん全部用意して。

 ニュート伯父さんの息子でありエミリーとリアム父さんの従兄弟であるアベルとはなんだかんだ今世で初めて会ったので『エミリーです!』なんて挨拶をした。泣きつかれた。

 

 学生時代オーグリーを飼っていたブルガリアの純血であるクレイ・アストロノフとアベルが結婚していたのだから本当に驚き。

 彼らの間にはジニーと同い年の息子が居て、名前をロルフと言った。ハリーは一足先に先輩風を吹かせていて最高に可愛かったわ。

 

 ロルフとはホグワーツ特急で会うことを約束して、私とハリーは一緒の布団に潜り込んで新学期が楽しみだと語り合った。

 あまりにも楽しみすぎて眠れなくて、リアム兄さんが持ってきてくれたアツアツのココアを飲んでようやく眠りにつけそうだった。

 

 あぁ、可愛いハリー。愛しのハリー。

 私はきっと貴方の為ならなんでも出来るわ。

 

「よく聞いてハリー」

「なあにー、ミリー」

 

 寝ぼけ眼で伸ばしたからか、私の名前の呼び方がジェームズの呼び方と重なった。

 

「恐れることも寂しがることも無いわハリー。貴方の周りには友達がいて家族もいる。誰にも利用されずに、貴方だけの人生は貴方が選んで生きて」

「うん……」

「そしてちゃんと後悔が出来るように生きるのよ」

「後悔出来ないように、じゃなくて?」

「えぇ。間違えてもいいもの」

 

 私はハリーの頭を撫でておやすみのキスをした。

 

「おやすみ愛しい子。良い夢を」

「ふふふ、きっと、お母さんがいたら、こんな…」

 

 寝息まで可愛いのはきっと夢の中でリリーと会っているからなのかもしれない。あぁ、私も早く会いたい。明日、久しぶりにセブルスに会える事を考えてなんの問題もなく眠りにつけた。

 

 

 

 

 

 翌日。ホグワーツ特急に乗り遅れなければ本当に問題なかったんだけどね!

 

 

 

 

 

「ど、どうしよう」

 

 ガシャン、とハリーの抱えていたカートがひっくり返り周囲のマグルが注目する。

 何度やっても9と3/4線へ繋がる道が閉ざされた。

 あまりの異常事態に半泣きになるハリーの頭を撫で、怪我をした弟の怪我を手当するフリをしてその場で待機した。

 

「落ち着いてハリー。そもそもここへ来ている保護者も出入り出来なくなっている筈だわ」

「で、でも特急ってもう出ちゃったよね!?」

「マグルに見られてる、って事はマグル避けも解除されている。そうなった以上、急に中から保護者達が出てくるのもまずいわ。こんな異常事態だもの、ひとまずホグワーツへ手紙を届けるわね。ヘドウィグを借りても?」

「う、うん」

 

 親マグルの人達に保護者からの手紙がフクロウ伝手に届けられるということは空の便は常に問題ない。

 私はホグワーツ教師宛に『ホームへの道が閉ざされハリーと私が取り残された状態だ』という事を書いてヘドウィグに託した。

 マグルの前でフクロウが飛び立つ姿をあまり観られても良くないと思うので、試作品だけど目くらましの薬をヘドウィグに掛けて完璧だ。

 

「さ、ハリー。同じ場所に居たら困るから待機場所を変えましょ」

「うん?」

 

 キングクロス駅の近くにあるエミリー時代に行きつけのカフェに行き、携帯電話を取り出して様々な所に連絡をかける。

 

「もしもしリアム父さん?うん、そうなの、乗れてなくって。母さんなら多分姿くらましで帰ると思うけど……」

「もしもし議長?はい、ミリ・コワルスキーです。ロンドンのキングスクロス駅の出入口分かりますか?はい、あそこにノーマジ避けと出入りの魔法がかかってると思うんです。他にもあるかもしれませんが……。はい、そこが使えなくなりまして。ノーマジ避けの方は大問題だと思うので忘却処理と再度魔法の処置をイギリスの魔法省に伝えてください」

 

 ささっと家族とアメリカの魔法省、マクーザに連絡を入れる。これで処置は大丈夫だろう。

 

「ミリ、すごいね」

「えへへ。ハリーに褒められるだなんて嬉しいわ」

 

 ハリーの荷物は人目に付くので私のスーツケースに苦労しながら人影でしまった。路地裏で普通にマグルに見られたけどエヴィルの体液で作った忘却薬をぶち込んだので問題ないはず。人体実験はまだだけど……。

 

 ひとまず、不自然な姿じゃなくなったのでカフェで腰を落ち着かせているってわけ。

 

「例えばだけど、これがロンと一緒だったらどうなってたかな?」

「うーん。ひょっとしたら空飛ぶ車やバイクに乗って無理矢理ホグワーツに行ってたかも」

「空飛ぶ車とかあるの?」

「車は分からないけど、バイクなら見た事あるわ」

 

 シリウスが卒業間際乗っていたのを思い出す。

 あ、ちょっと友情シックになってきた。来年辺りアズカバンに行ってシリウスの事について聞かなきゃなぁ。

 

「暇だし、何しようか」

「こんなゆっくりしてていいの?」

「どの道待つしか無いのだから、せっかくなら楽しんで待ちたいじゃない?ロンドン観光するわけにはいかないし……」

「ミリのその豪胆な所ある意味憧れるよ」

「大丈夫よ、こんな程度でホグワーツを退学になるとは思えないわ。それなら双子は何度退学になってることやら」

 

 たしかに。なんて可愛らしく笑うハリー。

 ハーマイオニーやドラコと会えてないのは残念だけど、こんな時間もちょっと悪さをしているみたいで悪くない。

 

 そんな雑談に花を咲かせ、軽食を楽しみながら勉強すること約3時間。

 

 

「──待機場所を変えるのであれば、その場所も手紙に書け馬鹿!」

 

 マグルでも馴染めるようなラフな服装をしたセブルスが息を荒くしてカフェに迎えに来てくれた。

 えっ、可愛い。私服可愛いね?

 

「可愛いすぎて鼻血出そう」

「ミリ、最初は謝ろうよ」

 

 ド正論。

 

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