ギルデロイに捕まり、闇の魔術に対する防衛術の教室で作業をすることになった。
「封筒に宛名を書かせてあげましょう」
積み上げられた手紙の住所を新しい封筒に宛名を書いていく作業。
千通はあるんじゃないだろうか、見るだけで嫌気がさす程の量。
私は椅子に座って早速ギルデロイの手伝いをするために宛名を書いていく。
ファンレターの返事を書くとの事だけど、もしかして宛名だけでも嫌気がさすようなこの量の手紙に全て返事を書いているの?
筆まめどころか愛がないと書けないよ。
手がジンジン傷んでくる様な量を書き続けていく。
ホグワーツの生徒の名前もちらほらあったので綴りを確認しながら書いていた。
「ロックハート先生、貴方ってすごいのね」
「うん?」
「冒険譚の文才も当然のことながら、ファンを心から大事にしている。貴方は書くことに対する才能がきっとあるのね」
「そ、そうかな」
「そうよ!論文を書くだけでも大変。数字や効果や手順、感覚、それらを全て言語化してつかれる穴が無いように書かなければならない。苦手とする所だわ。その点貴方の隙の無い文章と言ったら!」
ギルデロイの教科書は、内容にいくつか不足点があったり果たして本当にそんな習性を魔法生物が持っているのかとか、疑問に思う点はいくつかあった。だが、それを上回る程面白かった!
「一つ一つの文が生き生きしていて、目を通す度に脳裏に風景や姿が浮かんでくる。魔法生物に対する描写や理解度が低いのは仕方ないとしても、風景描写や人間の掛け合い、ストーリーのハラハラドキドキ感。そして納得したの、この量のファンレターを貰える程の文才だって」
理系であり体育会系の私にはこの分量を書くなんて考えられない。
「そ、そこまで褒められると照れてしまいますね」
「は?可愛い」
ギルデロイって照れ顔が1番可愛いのでは?
この男、スマイルなんて凡庸な部分では語りたい無い魅力がある。
「エミリー、愛しい人。そこまで両思いだとは」
「いやそれはちょっと話が違うわ」
「君は本当にエミリーにそっくりだ……。そうか、君は私のために来た愛の使者。つまり、私の恋人になりたいと?いやはや、困りましたね」
「うん、ちょっと落ち着きましょう?」
ギルテロイが私に近寄ってそっと手を取る。
その瞬間、ゴンゴンと強く慌てたようなノックが聞こえてきた。
「この神聖な時間を邪魔するとは、一体どなたですか……」
「失礼する!」
険しい顔をした我が天使が舞い降りた。
せ、セブルス……!眉間のしわも含めて丸ごと愛しているわ!ずっと一緒にいようね!
「セブルス・スネイプ……」
「Ms.コワルスキー!貴様のせいでピーブズが暴れている!抑えんか大馬鹿者!」
「えっ!?」
ピーブズが!?
慌てて立ち上がった。
「全く貴様は迷惑ばかりしかかけん!しばらく罰則地獄を覚悟するんだな」
「ご褒美……?」
イライラした様子のセブルスが私の手を引いた。
「失礼、これをお返し願います。代わりに手伝いを寄越しましょう」
「ごめんなさいロックハート先生!そういうことなの!また授業で会いましょう!」
急かすように引っ張るセブルスが可愛すぎる。迷子の子供を親が手を引いているような錯覚を抱く。
「……相変わらず、邪魔な男だ」
ギルデロイの聞こえるか分からない程小さな独り言は、私の耳にはきっちり入ってきたのだ。
──バタン!
ヅカヅカと大股で不機嫌そうに歩くセブルスに黙って着いていく。くあー、斜め後ろから見る姿も天使だな……!
「………………視線がうるさい」
「視線すらも!?」
セブルスは私を連れ、地下室までやってきた。魔法薬学の教室に入ると、そこにはルーナとピーブズがいた。
「ピーブズ!あばれたって!?」
「え、ピーブズ?大人しいもんだったけど?むしろ暴れたのはお前の方だろ」
「あれぇ?」
「……はぁ、嘘に決まっているだろうこの馬鹿」
ルーナは私の姿を見てにっこり微笑んだ。
「エミリー大丈夫?顔が青いよ?」
「だい、じょうぶよ」
セブルスの前で『エミリー』という単語を使われたことに少し冷や汗が出た。チラリとセブルスを横目で見ても特に何も反応していなかった。焦った。
「ルーナがスネイプ先生を呼んでくれたの?」
「うん、だってエミリーがそう言ったんだもン」
「ありがとうルーナ!貴女って本当に天使みたいに麗しくて可愛いのね。もちろん見た目だけじゃなくて精神が!」
ニコニコのルーナは天使そのもの。
こんなにも天使な可愛い子を世界が放置出来るわけが無い。せめて厳重に守りを固めなければ。一旦ボウトラックルを捕まえてルーナに懐くように飼育してみるべきかしら。
「Ms.ラブグッド、素早い対応だった。レイブンクロー2点」
「ほんと?嬉し」
「Ms.コワルスキー。迷惑。グリフィンドール2点減点」
「ルーナ、私からの2点受け取ってね……」
泣いてない。私がマクゴナガル先生から貰った2点が、巡り巡ってセブルスの手に渡りルーナにプレゼントされた世界で1番尊い2点に変わったのよ。これを誇らずに何を誇ると言うの。
「コワルスキーは残れ、ラブグッドは寮に大広間に行け。そろそろ夕食の時間だろう」
「わかったよスネイプ先生。じゃあねエミリー、また会いましょう」
「もちろんよ!」
セブルスは無言で私を見下ろした。
なんだか怒られている様な気がして、ピーブズに助けを求める。ヘルプピーブズ!セブルスの口から出てくる『Love』って言葉の衝撃に頭が働かないの!
「コワルスキー、何故残されたか分かるか?」
「えっと、迷惑をかけたから、かな?」
「それもある」
「ピーブズ帰っていい?」
「居ろ」
セブルスは腕を組んで二の腕を2回トントンと叩いた。仕草がエッチ。
「その、馬鹿みたいに、真っ青な顔に、心当たりはないのか?」
私、そんなに顔青い?
そう思ってピーブズを見ると、ピーブズは『ニックと同じくらい』と呟いた。なるほど、死人も同然と。
「最近、なんだか寝ても寝てないような気がして。寝不足なの」
「ロックハートと何か問題でも起こっているのか」
「知ってる!?ギルデロイったら照れた顔がとっても可愛いの!それだけで疲労なんて一気に取れちゃうわ!」
「馬鹿者!」
聞いとらん!とセブルスは私の頭を思いっきり引っぱたく。
「って言うか、セブルス。ロックハートに関してはお前も他人事じゃ無いだろー?」
ピーブズがやれやれと言いたげに肩をすくめる。
「なんだと?」
「なんだっけ。学生時代あったじゃん、お前のこと恋のライバルだと勘違いしたあいつが、お前のこと敵視してたやつ」
あったわね。
私にはハート型の石を、セブルスには割れた石を送っていたという事件が。
「結局シリウスがエミリーを助けたから無事だったけど、ピーブズとしても今のミリを一人にさせらんないよ。ミリはエミリーそっくりだし、今は『子供』みたいに見てるけど、絶対襲ってくるぜあいつ」
ギルテロイの父親であるMr.ロックハート(好みじゃないので名前は覚えてない)に騙されて2人きりにさせられたんだ。それで危うく私の純潔が散らされる前にシリウスに助けられて。
そんなことを思い出していると、セブルスは口元を手で覆って白い顔をさらに白くした。
「ま、マダムポンフリー!」
「呼ぶな」
急患です!私のセブルスが今にも倒れそう!
駆け出そうとした私のことをセブルスが止めるのでグッと衝動を抑え込んだ。
「大丈夫……?苦しい?しんどい?」
「…………違う」
セブルスは私の目を見て言った。
「我輩に、そんな記憶は
「……興味がないってこと?」
「違う」
それとも、意図的に。
「オブリビエイト……?」
ふと、学生時代の記憶を思い出した。そうだ、あの事件の後、なんだか不自然にギルテロイの話題が一切出なくなった。
それも私に近しい人の。
ギルテロイは特にあれ以降コンタクトは無かったけれど、そういえば話題に出る前に…。
Mr.ロックハートに杖を突きつけられたことがあったっけ。
私はダンブルドアに忘却術を使われても天使たちの事は覚えていたし、私だけ使われていたけど忘れてない可能性がある。
「コワルスキー、貴様はこれからしばらく罰則だ」
「え♡もちろん!喜んで!」
ご褒美みたいな時間の提案に私は喜び飛び跳ねてしまった。
あんな別に可愛くない教師(親世代)のことはどうでもいいや。
「素材の仕分け、下処理、鍋の掃除、資料の作成。やることは山のようにある」
「本当に罰則の内容じゃない…。任せて、得意よ」
「なお、我輩は他の仕事があるため作業場には居ない。ノルマを淡々とこなし、放課後の時間を活用したら夕食はここで摂ることを許そう」
セブルスがいないの残念すぎる。
でもセブルスの助けになれるなら私はなんだってしちゃうわ。
そして『ロックハートに関わらないように先約を入れて置いてやるから、誰も入ってこない教室できちんと休息と食事を取れ』って言ってくれている優しさにキュンキュンしちゃう。
「罰則に喜ぶなど、随分変わり者のようだ」
「変わり者で結構!私は天使の為になる事なら喜んで罰則でもなんでもやるわ!むしろご褒美」
「……初めてでもあるまいに」
探るような視線を向けられている。
「罰則?確かに初めてでは無いけど…──スネイプ先生からの罰則は初めてよ!」
むしろ2人きり(ゴーストはノーカウント)なのも初めてね!
セブルスの視線は和らいで、視線を逸らされた。セブルスの黒曜石のような瞳は相変わらず美しかったのに、今日はここまでらしい。
「……。罰則内容は明日改めて説明する。今日はもう戻れ」
「はーい。じゃあねスネイプ先生、しっかり夕食を食べるのよ?紅茶だけは許さないからね?肌を見たら分かるんだから」
「ピーブズ連れて行け」
「ピーブズは!こいつの!保護者じゃないー!」
無理矢理退出させられ、ハリー達と久しぶりに夕食でも食べて癒されようと思っていたら、廊下で偶然出会った目的のハリーが私に一つ質問を投げかけた。
「今、『引き裂いてやる』って言葉が聞こえなかった?」
「聞こえてない、けれど……?」
なんだかおかしな予感がする。
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「少し聞きたいことがある」
「お前は……ロックハートについて何を覚えている?もう、お前くらいにしか聞ける相手が居ないんだ。
──ワームテール」