ハリーの聞こえた謎の声というのは結局分からず仕舞い。翌朝鶏の羽がいっぱいついていたことを除けば特別な事件もなかった。
そして今年もハロウィンの季節がやってきた。
「絶命日パーティー?」
「そう」
グリフィンドールの寮付きの幽霊であるニックが落ち込んだような表情をしていることにザワザワとグリフィンドール生は『振られたんじゃないか?』『グリフィンドールの得点が伸びないのに悩んでるんじゃないか?』といった噂が乱立していた。そんな折に、ハーマイオニーとロンに何か知っているのではないかと問われ、私は原因がわかっていたのでそれを絶命日パーティーだ、と答えた。
「自分で自分の死んだ日をお祝いする日みたいな感じよ」
「うぇ〜、趣味悪〜」
ロンに同意するようにうなずいた。確かに趣味は悪いかもしれない。
「私ニックにその絶命日パーティーに招待されていたの」
「死者以外も行けるんだ」
「うーん」
私を生者カウントしているのか、死者カウントしているのか。それはゴーストにならないとわからないが、私は素直に生者だと言うことを頷けず少し悩ましい素振りを見せてしまった
まぁ、魔法生物と言う括りから見ると、ゴーストも魔法生物も、分類的には似たような分類に位置するし、ゴーストも生者と同じ存在と言っても過言ではない。まぁ私は幽霊の類は専門にしてないので。
「それでお前は行くの?」
「断った結果が、あれよ」
要はニックが落ち込んでいる原因は、私。ロンは何をしたんだよと言いたげな視線を向けてきた。
ニックの絶命日は10月31日つまりはハロウィン。ただ私は可愛くないニックよりも、他に優先すべき用事があったってだけ。
「絶命日パーティーに灰色のレディが来るなら、ぜひ行かせていただいたのだけど、レディ来ないんだもの」
「もしかしてあなた生者も死者も見境がないの?」
「ただの生死で好みの人と出会えるタイミングを逃すだなんて、もったいないじゃない?」
「んー、キモイね」
かわいいハーマイオニーは顎に手を当てて少し悩んだ後私に聞いてきた。
「絶命日パーティーって一体何をするの想像がつかないんだけど」
「興味があるなら行ってみてもいいと思うんだけど。きっとニックも喜ぶだろうし。でも個人的にはお勧めしないわ。寒い空間で色のない可愛くないゴーストたちがひしめき合って腐ったり真っ黒な食べ物を片手にやれどういった死因だの話して、黒板に爪を立てるような音楽を聞いたり。思い出すだけでうんざりしちゃうわ」
「それは…………なかなかね」
特に蛆がわいた食べ物なんて実家が飲食店の私に喧嘩売ってるようなものね。昔、ジェームズとシリウスに誘われて一緒に行ったのだけどひどい目にあったわ。天使たち誘わなくてよかったと心から安堵した。
「ところで、ミリ?あなたどこかへ行くような格好をしているけれど、一体どこに行くつもりなの?」
ハーマイオニーの首をかしげる姿、なんてかわいいの。その姿を見ただけで、私を生きていた価値があるわ。
「今から私はハリーと一緒に」
──今年もお墓参りに行くの。
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ハーマイオニーとロンに別れを告げ、ハリーと一緒にゴドリックの谷に来た。もちろん、生徒が2人で行けるはずもなく、きちんと教師の許可を取って引率付きでやってきた。
去年はダンブルドアだったけど、今年はマクゴナガル先生だ。
「マクゴナガル先生、飛行術とてもうまいんですね」
「あなたには負けますよ。ポッター」
ダンブルドアは姿くらましができたけれど他の教師はそうもいかないので、私はマクゴナガル先生の後ろに乗せられ、箒でやってきたのだ。
空を飛ぶ感覚、安定性が悪いのが難点ね。
あと、私を乗せるのを嫌がる箒はちょっといい加減にしてほしいかも。次からは飛行系の魔法生物でいきましょう。
「先生って前に週刊魔女に載ってたらしいですね」
「よく知っていますね」
最強の魔女だったとか文言が載ってあった。
ギルデロイが週刊魔女のスマイルチャーミング賞を5回も受賞したと聞いて、過去の分を読み漁ってみたのね。エミリーが卒業した2年後位に乗ってあった気がする。
「僕、2人に挨拶してくるね」
ハリーは箒から飛び降りると墓石に向かって走っていった。
「父さん、母さん。久しぶり。今年はマクゴナガル先生に連れてきてもらったんだ、2人もマクゴナガル先生に教わってたんだよね?」
ハリーの語る姿にマクゴナガル先生はほろりと涙を流す。
「あの様な悲しい事件を、二度と引き起こしてはならないと心に誓いました……」
すこし離れた位置でハリーの会話を邪魔しないようにマクゴナガル先生と語り合う。
「ハリーが1歳の時に2人は亡くなったと聞きました」
「えぇ、闇の帝王に襲われ。ハリーを守って2人は息絶えたと。ダンブルドア達は遺体を利用させてはならないと全て灰に。魔法使いの血も骨も悪用されやすい、両親を悪用し、ポッターが再び狙われては……。彼らも眠るに眠れないでしょうから。だから、ここには実は骨は残って無いのです」
「そう、でしたか」
「その変わり、灰と杖を埋めています。彼らの魂は必ずここにあると」
純『血』と言われるように魔法使いの血液には様々な効果がある。血の繋がりがあるせいでハリーの身に危険が及ぶなどとなれば、確かにリリーもジェームズも嫌がるだろう。
「Ms.コワルスキー。貴女の叔母のエミリーも悲しい運命を辿ってしまいました」
「そうかしら」
私はぼんやりハリーの景色を見ながら独り言のように呟く。
「私は……。確かに傍にいれば何かを変えられたのかもしれないけど、それで後悔はしてないと思ってるわ。バラバラでどこにいるのか分からないけれど、きっと、私の友情は崩れ落ちて無くなって、無かったことにはならないって」
過去を悔やんだって仕方ないもの。今は今で割り切らないと。
私が何かを成し遂げられるほど立派な人間じゃない。けれど、信じ抜くことは出来る。
「悲しくなんかないわ、かけがえのない友達と、相棒と、先生と、家族にも恵まれて。最後の瞬間まで決して絶望する事なんて無かった……」
「…………コワルスキー」
「……──って!エミリーなら言うと思うの!」
危ない危ない。
確実にエミリーの発言だったわ。
慌てて誤魔化したのだけど、マクゴナガル先生は感動物とか友情物に弱いのでそれどころじゃなかったらしい。上手く誤魔化せたようだ。
「マクゴナガル先生、私ハリーの生家を見てきてもいいですか?」
「えぇもちろんです。マグル避けがかかって普通の空き家に見えていますが、魔法族には問題なく見えるはずです」
ハリーはまだ楽しそうに笑顔を浮かべて話していたので、後ろ髪を引かれながらも私はゴドリックの谷を駆け巡った。
シリウスがピーターを殺した事、そしてあの日の真相。
私も直接目で見て確認しないと納得できない。
色んな所を直接この目で確認し、違和感や何かが残っていないか見ていく。
私は。
「リリー……!ジェームズ……!」
会いたい、会いたいよ。
そうだ、ポッター家の生家に行けば何か分かるかもしれな……!
「うぎゃ!?」
べちーん!
急ぎ足で抜け道を駆けていれば足元に転がった物に気付かずに転がった。
いてててて。足元の不注意が過ぎる。
ボロ雑巾のような大きな塊。なんだろうと思って布を捲ると、中の物に見覚えがあって……。私は無言で渋顔を作り、スーツケースの中に入れた。
ジェームズの実家についてはちょっと後回しね。
「……おかえりミリ。どういう感情の顔?」
「巻き込まれたのがハリーじゃなくて良かったけどせめてダンブルドアに押し付けたかったなって顔よ」
==========
ホグワーツに戻ればパーティーが始まるとのことだったが、夕食も取らずに部屋に戻り日記を取り出して拾い物に大してどうしようか大いに悩んだ。
──ねぇトム。人間拾ったのだけど
──随分ぶりに開いたかと思ったら急に何?
ゴドリックの谷で衰弱したクィレル、拾っちゃいました。
あれからクィレルがどうなったのか気になってはいたけど私の目の前に差し出せとは言ってないよ?
──症状はユニコーンの血。解毒薬は飲ませた。でも闇の魔術で支配されていて結合した部分が無くなってるから闇の魔術に対する防衛術とかで修復しなきゃいけないかも
──本当に何?
──後頭部に他人の顔(状態不明)がくっ付いていたのだけど、外れてるのよね
ひとまず私の仮眠用のベッドに横にした。
パッと見、純粋に衰弱しているようにしか見えないのだけど。
──一応、検査をしてみたら?
──そうするわ
無許可で申し訳ないけど血液が手っ取り早い。全ての情報が含まれていても過言じゃない。
指先を軽く切って血液を採取する。
まぁクィレルは知った顔だから助けるけど、せめて匿われるなら意識は保っておいて欲しい所だわ。
可愛くないからどうでもいいけど。
──余計なことに首を突っ込まずに大人しく他の人に渡せばいいのに。校医とか
──お尋ね者だから無理よ
──むしろ逆になんでお尋ね者を庇ってるの!?
私は過去にヴォルちゃんも匿ってたのよ。舐めないでちょうだい。
庇ってるわけじゃないけど、ただの気まぐれね。
血液をいくつかにわけて薬剤を交ぜ反発しないか検査をする。ユニコーンの血と混ぜてもなじまず悪性反応が出たってことはユニコーンの呪いは解毒されたってことね。
なら目が覚めるまで一旦待ってみましょう。
クィレルに『起きたら危険なので必ず小屋から出ないこと。飲み物は枕元。一日三回は様子を見に来るから食事はそれまで我慢して』という書き置きをしてひとまずスーツケースから出ることにした。
──ありがとうトム、ひとまず何も問題はなさそうだから本人が目覚めるのを待つわ
──問題しか無いんだけど、ミリがいいならもういいや
──じゃあ私は一休みしてから夕食でも貰いに行くわね
──待って!
──何?
焦ったような文字が浮かんできたので首を傾げながらトムの言葉を待った。
──あのさ、ハグリッドって知ってるかな?
──えぇ。巨人のハーフよね
──この日記には恐ろしい記憶が記されてあるんだ。君が良ければ50年前、この学校に何が起こったのか見せることが出来るんだ。良ければ見せよう
──いえ、結構よ
──わかった、じゃあ日記を机に置いて……NO!?
別に興味無いもの。隠された真実とか、可愛くない人たちには。
──また今度ね。今は疲れてるから
──そっか。じゃあまた今度見てよ
──約束は破らないわ。もう二度と
友達との約束を破るのはこりごりね。
まだ夕食は始まったばかりでしょうから、夕食を厨房で食べてハリーに挨拶をして…………。
そんなことを考えていたらいつの間にか私は大広間の傍にまで来ていた。
体がどっと疲れた気がする。日記も部屋に置いておくつもりがどうやら持ってきてしまっていたみたいだし。
「何かある?」
松明に照らされた壁に文字が塗り付けられていた。ちょうど私の視界と同じ位置。
秘密の部屋は開かれたり
継承者の敵よ、気をつけよ
水たまりに反射した光が松明の下の物体も照らしていた。
松明の腕木に尻尾を絡ませてぶら下がった、硬直した姿のミセス・ノリスがいた。
目は見開き少しも動かない。
「ミセス・ノリス!」
私があわてて引き下ろすと、周囲がうるさくざわめいた。
何百という足音が聞こえてきて、壁の文字を認識した。私が抱いたミセス・ノリスを見て、痛い程の沈黙が流れている。
「ミリ!」
ハリーがハーマイオニーとドラコとロンとネビルを連れて人混みを掻き分けるようにやってきた。
「ハリー、夕食は?」
「皆で食べたよ!それより、一体これどういうこと……?」
状況を整理する時間が欲しい。
継承者とは?秘密の部屋とは?これは石化?それとも硬直?
「ミリ…?」
ネビルも心配そうに首を傾げている。私がこの惨状を引き起こしたなどとは考えていない目だった。
「…………ヒキガエル」
「トレバーがどうしたの?」
ぴちゃぴちゃと水たまりが踏まれる音を聞いて、今年も厄介な事件に巻き込まれる運命にあるホグワーツにため息を吐いた。