─矛盾─   作:恋音

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2-9.魔法生物学者の真髄

 

 

「お前か!お前がミセス・ノリスを殺したのか!」

 

 アーガス・フィルチが形容し難い表情で私を指さして非難した。

 

「お前だ!お前だな!お前が殺したのか!」

「アーガ……」

「舐めないでちょうだいフィルチ!」

 

 フィルチが金切り声で叫んでる間にダンブルドアが他の数人の教師を従えた現場に到着した素早くドラコ、ハーマイオニー、ロンの脇を通り抜け、ハリーの肩を寄せた。

 しかし、私はフィルチに言いたいことがある。

 

「──私が!ニーズルが混ざってる猫ちゃん相手に酷いことをすると思うの!?」

 

 

「…………たし、かに」

 

 

 ミセス・ノリスはフィルチと同じく憎らしいけれど、それはそれとしてこんな賢い生物私が愛さないわけが無くない!?こっそりミセス・ノリスに餌をあげ続けても靡かない高貴なところも可愛いのに!?

 絶対ニーズルの血が混ざってるもん。

 

 魔法生物ビッグラブの私が、殺すわけ無くない!?

 

「アーガス、一緒に来なさい。ミリ、お主もおいで」

「校長先生、私の部屋が1番近いです。すぐ上です、どうぞご自由に」

 

 ギルデロイがそう提案してくれたので、セブルスとギルデロイとその他一同で部屋にやってきた。

 

 ミセス・ノリスの固まった体を優しく撫でる。

 呼吸も体温も全て無くなっているけれど、逆に温もりが一気に無くなることは不自然だ。

 

「フィルチ、ミセス・ノリスと別れたのはいつ頃?」

「い、1時間くらいだ……!たったそれだけだ……!」

 

 フィルチはえぐえぐと顔から汚い汁を大量に垂らしている。汚いな。気持ちは分かるけど。

 

「ミリ、ミセス・ノリスを見せてくれぬか」

「もちろん。でもその前にスプラウト先生とケトルバーン先生もよんでくださる?」

「……?うむ」

 

 ダンブルドアは守護霊の呪文で2人の先生に校長室へ来るように言った。きっとハロウィンパーティーに参加していただろうしすぐに来てくれることだろう。

 ダンブルドアはミセス・ノリスを机に乗せ、鼻がくっつきそうなくらい近い距離で覗き込む。ヒックヒックとしゃくり上げるフィルチの背中をさすって、私はフィルチに言った。

 

「大丈夫よフィルチ、ミセス・ノリスは死んでないわ」

「本当か!?」

「えぇ、私が保証するわ」

 

 フィルチはガバッと顔をあげた。

 私の発言にはダンブルドアも流石に驚きだったらしい。

 

「ミセス・ノリスは石化している状態みたい。呪文とかじゃなくて」

「ミリや、なぜ分かる?」

「ミセス・ノリスを石化させたのが魔法生物だから」

「あぁ……(諦め)」

 

 ダンブルドアは視線をミセス・ノリスに戻した。

 

「はっきり言うわね。バジリスクよ」

「バジリスク、ですって?」

「そうなのマクゴナガル先生、スリザリンの紋章のモデルとなった蛇のことです。本来ならひと目見ただけで死に至るのだけど、きっと水溜まりの反射で見たのでしょうね……。幸いなことに死亡してないから、石化を解けばミセス・ノリスは元通りよ」

「石化を解くにはどうしたらいいんだ!?」

 

 フィルチに詰め寄られた。

 

「スプラウト先生が今期はマンドレイクを授業で育てていたでしょう?マンドレイクが成長し次第、ポーションマスター大天使セブルス・スネイプがマンドレイク回復薬を作って……」

「不名誉な称号を付けるな馬鹿者」

 

 可愛いセブルスに頭を叩かれた!嬉しすぎるんだけどこの幸運をどう表現した方がいいの?

 セブルスの打撃音を目覚まし時計として登録したいくらい健康にいい。朝から幸福に浸れると思うの。

 

 それにしても不機嫌そうに顔を歪めているけれど、どちらかと言うと私に対して不機嫌になっているんじゃなくて苛立ってると言ったような表情だわ。

 はあ、可愛い。油っこい髪の毛も日に当たらないから真っ白な肌も、細長い指も、神経質な服装も全部が愛おしい。同じ空間でセブルスの吐いた息を吸い込む行為が合法的に行えるだなんて最高ね。

 

「で、コワルスキー。貴様の見解はそれだけか?」

「あ、いいえ。バジリスクと言えばサラザール・スリザリンが飼っていたと言われるけど、実は生み出すのがすごく簡単で。腐ったバーカ?が最初に飼育したのだけど、ヒキガエルの腹の下で温めるだけで作れちゃうの」

「バジリスクは、育成が禁止されていましたね」

「流石マクゴナガル先生。そうです。だから悪意を持って作り出した人物がもし居るのなら其方も解決しなければいけません……ね……」

 

「……ふむ、ミリの見解は正しいようじゃよアーガス」

「本当ですか!?」

「わしでさえ調べるのにそれなりの時間を有するというのに、本当にミリは気持ち悪いのう」

「ダンブルドア!」

 

 借りにも校長が生徒に向かってその発言はどうかと思うんだけど。

 

「ダンブルドア先生、呼びましたかな?」

 

 するとスプラウト先生とケトルバーン先生がやってきた。

 ダンブルドアは石化したことなどの諸々の説明をし、2人の先生は驚く。

 

「さすがエミっ」

「コワルスキー、対抗策は何がある?」

 

 ギルデロイの言葉を遮るようにセブルスが問いかけた。

 う、可愛い。

 

「対抗策という程でもないけれど、バジリスクの目は直接見ないことね。直接見たら普通に死ぬわ」

「つまり……直接見なければ良い、と」

「そういうこと!今回は水溜まりだったけど、鏡とかもきっと有効ね。曲がり角にカーブミラーを付けるべきだわ」

「…………それは、シュールだな」

 

 もちろん携帯鏡も必要だろうけど、どこかの真っ赤なローブの人達は忘れそうだもの。

 するとケトルバーン先生がスススと近寄ってきた。

 

「直接、でなければメガネなどはどうでしょう?」

「あ、ダメね」

「なるほど、ガラスやレンズでは不可能と」

「想像でしかないけれど屈折率が高くないと直接見たことにはならないと思うんです。そもそも眼球だって屈折してるでしょう?望遠鏡とか魚眼レンズならそのまま見た判定にはならないでしょうけれど」

「ほほー!面白い!いやー、私は魔法生物は自信がありますが、計算チックな事は苦手なものでね」

「分かるわ、ケトルバーン先生絶対理論系苦手でしょうし。私は論文が苦手!」

「ところで、なぜ屈折率に至ったか聞いても?」

 

 ミセス・ノリスだけでは例が足りないのでは?との質問に私はあっけらかんと答えた。

 

「マートルの死因はバジリスクを直接見たせいですよ?彼女メガネかけているでしょ?」

 

 私の発言のせいで、場は蜂の巣を続いたような混乱に陥ってしまった。ごめん、知らなかったんだみんな。

 

「黄色い双眸と目が合ったって言ってるけど、黄色の目に殺されるだなんてバジリスク以外無いじゃない?まぁバジリスクが黄色の目をしてるだなんてのはサラザール・スリザリンの文献でしか残ってないから情報源としては弱いけど」

「Ms.コワルスキー、同じ魔法生物学者として言わせて貰うが。魔法生物が絡んだ君は本当に気持ち悪い!」

 

 ケトルバーン先生もこちら側でしょ!

 

 

 ==========

 

 

 

 

 ミセス・ノリスが石化し、バジリスクが犯人だと言うことは全校生徒に知れ渡った。そこらじゅうに屈折率の高い鏡が取り付けられ、生徒はみんな鏡を持ち歩いている。ありすぎて気持ち悪いほどに。

 

 ビンズ先生の魔法史の授業では『秘密の部屋とは?』という質問が投げかけられ、図書室からサラザール関連の本は消えた。

 秘密の部屋とは何なのか、継承者の敵とは誰なのか。

 

 私が第一発見者のせいでサラザール・スリザリンの継承者だと言う噂が流れたが、ほぼ全ての先生が『絶対違う』と断言してくれたおかげで世迷いごとに終わった。

 酷かったのはセブルスで、彼は『サラザール・スリザリンもこの者が継承者だと知れば助走をつけてぶん殴るであろう、以上だ』だそう。私も殴られたい。セブルス・スネイプはアルファベットがサラザール・スリザリンと同じくSSだからむしろ継承者ならセブルスだと思うの。

 

 ちなみにサラザールの壁画に惚気たらサラザールは呆れてどこかに行ったらしい。酷い。

 

 

 

「バジリスクがどんな大きさか分からないけど、きっと配管を渡っているのよ」

 

 マートルには子供たちを巻き込みたくないので何も情報を漏らさないようにお願いしている。けれど、学年一の秀才ハーマイオニーは断片的な情報だけでグイグイ真相に近付こうとしている。

 

「むしろ僕としてはマルフォイが継承者なんじゃないかと思うけどな」

「バカねロン。私達一緒にハロウィンパーティーに参加してたじゃない。あの文字をマルフォイが書くのは無理よ」

 

 クィディッチ、グリフィンドール対スリザリン。

 実況席は首になったのでハーマイオニーとロンと一緒にハリーとドラコの勇姿を目に焼き付けていた。

 

「で、そこの全身赤緑人間は何がしたいわけ?」

「両方応援したい……!」

「いっそ清々しいよ。そこまで吹っ切れると」

 

 赤と緑の旗を持ちながら全身も赤と緑の服に染めて天使なシーカー2人の戦いを見守る。可愛い、愛おしい、天使。好き。

 

 相変わらずクィディッチは怖いけれど、見ないわけにはいかない。

 

 

 するとどういうことだろうか。ブラッジャーが狂ったのかハリーに向けて思いっきり飛んで行く。何度も何度も。しつこいほど。

 

「──ハリー!」

 

 グリフィンドールの選手達がハリーからブラッジャーを引き剥がそうと苦戦しているのだが、豪速球の鉄の塊は躊躇なく襲いかかる。

 怪我人どころか死人が出そうな試合なんだけど!?

 

「クィディッチってこんなに危ない競技なの!?」

「そんなわけないだろ!たまたま、2年連続ハリーが災難なだけ、だと思う!」

 

 対戦相手であるドラコも困惑した様子。

 ブンブン飛び回るブラッジャーを2人で避けながらスニッチを探している。

 

 急にハリーが急降下し始めた。

 ドラコも後を追うように下がっていく。

 

 ハリーはドラコが諦めたあとも手を伸ばし続け、ついには両手を箒から離して伸ばした。

 

「ハリー!」

 

 観客席からそのまま飛び降りてハリーに駆け寄る。なんて馬鹿な真似を……!

 

「ハリー、ハリー!意識を飛ばしちゃダメ!痛いけどすこし我慢してね……!」

 

 ハリーのほっぺたを叩いて起こす。

 腕が思いっきり折れて変な方向に向いているのを見て、私はハンカチをハリーの口の中に入れた。

 

 折れた腕を持って元の位置に戻した。

 

「ふん!」

「〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!!!???」

 

 バキッと音がして、ハリーの目に涙が溜まる。

 痛かったね、ごめんね。

 骨折は元の位置に戻したあと治すから早めに位置だけは戻しておかないと、変な形になっちゃうから。

 

「ハリー、心配するな、私が治してあげましょう」

 

 ハリーを抱えようとした時、いの一番に駆け寄ったギルデロイが杖を構えていた。

 

「ダメよロックハート先生。マダム・ポンフリーを呼ばなきゃ」

「いいえエミリー、私におまかせください」

 

 ギルデロイが杖を振り回し、ハリーの上に向けた。まずい……!

 

 私はハリーに魔法が当たる前に急いで自分の左手を割り込ませた。

 気持ち悪い感覚が肩から始まり指先まで広がる。

 

「あっ」

 

 ギルデロイの声に何があったのか私はきちんと確認した。

 なるほど、骨抜きか……。

 

 

 

 

 マダム・ポンフリーのお冠の声に私はビクリと肩を揺らす。叱られた数多の記憶が甦ってくる。

 ごめんなさいマダム、夜中抜け出して大怪我させたこととか魔法薬の失敗でどえらい目にあったり魔法生物に怪我負わされたりして昼夜問わず叩き起して……。

 

「骨折ならあっという間に治せますが、骨を元通りに生やすとなると」

「先生、私はいいからハリーを先に」

「貴女ならそういうと思いました」

 

 ハリーの痛みを耐える声を聞いて、マダムはあっという間に骨折を治してしまった。

 

「コワルスキー、貴女が骨の位置を元の位置に戻しましたね?」

「はい、そんな感じです」

「骨折慣れしてますね……。正しい処置です。が、痛み止めを飲ませた方が良かったかもしれませんね」

「それは、思ったのだけど。魔法薬で治療する場合変な反応をしたら死んでも死にきれませんから」

「せめて魔法……は、使えませんでしたね」

 

 ハリーは申し訳なさそうな顔をして私を覗き込んだ。

 

「ハリー、さっきは痛かったでしょう。ごめんね」

「ううん。僕は、君が僕のことを僕より大事にしてくれるのを分かってたから……。その、心配かけてごめんなさい」

「……ハリー、貴方が無茶をする度に、私はどうしたらいいか分からなくなるの。お願い、無理をしないで。あんな無茶な飛び方をしないで。どうか、楽しませるようなスポーツをして欲しいの」

 

 クィディッチ反対運動でもしたらいいのかな。

 

「うん、気を付ける」

「分かってくれて嬉しい。ハリー、ありがとう」

 

 大丈夫、ハリーに降りかかる災いは全て私が代わりに引き受ける。悩みも、運命も、丸ごと全て。

 ハリーには普通に生きて欲しい。悩みなく友達といつまでも仲良く過ごして欲しい。

 

「ところでマダム。骨生やしって……」

「苦くて痛いですよ、少なくとも一晩」

「服薬……少しだけ待ってもらってもいいですか?」

 

 マダムは渋るような顔をした。

 申し訳ないけど、私は腕が使えないだけで痛くないし1時間か2時間だけ待って欲しいの。

 

「……魔法生物の餌だけ」

「あぁ、確かに薬を飲んだあとではろくに出来ませんね。……その状態でもろくに出来ないでしょうが」

「僕手伝うよ!夏休み手伝わせてもらったし」

 

 ハリーが可愛く手を上げたけど、私は無言で首を横に振った。

 

「ハリーは早くハーマイオニーとドラコとロンに報告してあげて。特にドラコはすごく心配してたから。あとブラッジャーを鎮めてくれたチームメイトにお礼ね」

 

 ハリーに手伝わせた部分って、あまり危険がない範囲でしかないから……。

 

 手は物理的に足りてないから手伝いはどうしても必要。でも、難易度的に手伝えるのはケトルバーン先生か悪戯仕掛け人か……校長くらい。

 

「それとダンブルドアを呼んでくれない?」

「うん……分かった」

 

 こき使うならダンブルドアよね。

 

「ミリ、大人しくしててね」

「……えぇ。()()()()()()()()()()()()筈だから、安心してね」

 

 咄嗟に利き手じゃない方を差し出したけど、利き手の方が安心だったかもしれないなぁ。

 

「コワルスキー、安心なさい」

「はい?」

 

 マダム・ポンフリーはニコニコ笑顔で骨生やし薬を持ってきた。

 

「──この薬、セブルスが作りましたから」

「こんな幸せなことがあっていいの?」

 

 可愛い子の魔法を食らって可愛い子の魔法薬を飲めるだなんてさてはここは桃源郷だな?

 

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