「ミリ、魔法生物の世話を手伝うのは百歩譲って構わぬよ。じゃが、なぜクィリナスがおる?」
「あ、おはようクィレル。起きたのね。寝起きに混乱するような状態でごめんなさいね。起き上がっても問題のない状態なら引き出しの中に栄養キューブが入ってるからそれを食べて……あと水分も近くの棚に……そうそれそれ。無理しない程度に胃に入れてね」
「…………………………何故片腕をぐにゃぐにゃさせて遊んでいるんだ?」
開口一番の疑問そこでいいの?
感触が面白いからよ。びよよよーん。
名実ともにギルデロイの可愛さに骨抜きになってしまった私は、魔法生物の世話係の補助としてダンブルドアを呼び出した。最高権力者だろうがなんだろうが私のスーツケースの中の魔法生物を放置する方が危険なのだから、四の五の言ってられないの。
医務室でマダムに許可を貰ってスーツケースに2人で入れば起き上がっていたクィレルと目が合った。そういえば拾ってたかも。随分遅いお目覚めねプリンセス。
というわけで栄養剤を時々入れていたのが幸をなしたのか、比較的健康なクィレルも使わない手は無い。2人に指示を出しながら魔法生物に餌をあげていた。
「今夜だけは手が足りないから、2人ともよろしくね」
「コワルスキーのスーツケース怖い……怖いよぉ……」
「クィリナス、泣くでない。泣いたらもっと危ないぞ。魔法生物の成績で優を取ったお主なら最大限注意すれば何とか生き残れるはずじゃ」
「ダンブルドア先生……!」
私は片手しか使えないんだから過剰に怯えるような茶番をしないで早く手を動かしてちょうだいよ。
ああでもないこうでもないと私の指示にダンブルドアとクィレルはあたふたと従う。
何とかいつものお世話を終わらせた2人は慣れない体力仕事に机に突っ伏していた。魔法使い情けないなぁ。リリーとリーマスはこういうの得意みたいで息切れ無くお世話してたよ?
「クィリナス……。本当は色々と聞きたいことがあるんだが、ひとまず今日は去るよ」
「はい……、ダンブルドア先生。一つだけ、私は喜んで闇の陣営に下ったわけでは無いと……」
「分かっておるよ…………」
腕をぐにゃぐにゃさせてユニコーンのユニとニコ(クィレルに傷つけられていた個体)と遊んでいた。ニコは雄だったし、もしかしたらこのまま番になるかも知れないわね。
「ミリや」
「ん?」
「今年はハリーをお主の家に誘……連れ帰ったそうじゃな」
「えぇ。虐待されてると聞いて」
エミリーの時代はセブルスの家庭環境まで頭が回らずジェシリに先手を取られたけれど、ハリーの家庭環境対策で同じ轍を踏む訳にはいかない。
ダンブルドアは言いにくそうな顔をしていたが、意を決した様に私に口を開いた。
「ハリーには血の護りがあり、リリーの血族のそばいると守りになるんじゃよ」
「それで?」
「ミリ、ハリーをペチュニアから連れていくでない」
「…………ダンブルドア」
私は周囲を見渡して言った。
「血の護りよりコワルスキー家の方が安全だと思うのだけど」
もっと細かく言うと、この魔法生物だらけのスーツケースね。
「だーからお主は本当に嫌なんじゃ…………」
なんも否定出来ん。そう言いたげに天を仰がれた。失敬。
セブルスの作った骨生やし薬の痛くて苦しくて苦い時間をにっこにこで過ごした私は、1日絶食したあと厨房で色々仕事をし、セブルス産の骨が入った左手で日記を開いた。
──こんにちはトム
──こんにちはミリ。最近また連絡が無かったけど何かあったのかい?
──えぇ、骨が無くなってね
──……????
慣れない左手の筆記だけど読める程度にはなっているらしい。
──もしかして右手を、その、何らかの事故で治療してるのかな?
──どうしてそう思うの?
──筆跡が左手で書いたみたいだから。どうかな、合ってるかな?
──半分ね。治療したのは左手。もう完治してるわ。今は左手で書いてるの。
──なんで??
──右手の骨も無くしてまたセブルス産の骨にしたいから支障が出ないように訓練してる感じね
──なんで????
私は食育を通して天使たちの細胞を塗り替えるという業を犯しているけれど、逆のことはしていなかった。つまり!私の細胞を天使産にする!
流石の私も人間の体を吹き飛ばすのは治らないリスクが大きすぎて踏み切れないけれど、骨抜きと骨生やしという事が出来ると知った今、出来れば全身の骨を生やしたい!セブルスの魔法薬で!
きっと難易度は高いだろうけど生徒たちでもいいわよ。どうぞ思いっきり実験台にして……。
──まぁ、いいや。君が変なのは分かってるし
──ごく当たり前のことだと思うわ
──僕としてはもう少し君と会話がしたいな。どんなものが好きなのかとか、君の人生とか、今ホグワーツで何が起こってるのかとか、教師は誰になったとか、心を開いて話して欲しいんだ
──好きな物は天使。アメリカ生まれアメリカ育ち。推しの教師はオリオン・ブラックとセブルス・スネイプ。ホグワーツでは概ね問題なしよ
──色々ちょっと待って欲しいところはあるけど。ホグワーツでは本当に何も無いの?
──えぇ。解決策のある課題ね
──…………本当にかい?
やけに疑うなぁ。
本当よ本当。確かにホグワーツには毎年何かしらの問題が起こることで定番なのだけど、どれもこれも割と中心で解決してきたから問題ないわ。
特に今年の問題なんて。
──バジリスクの対策も秘密の部屋の場所も全部分かってるんだから平気よ
──!!!!???
──是非ともバジリスクに1回だけでもいいから会ってみたくて仕方ないの。本当に。大物爬虫類の魔法生物なんてドラゴンくらいしか飼育経験が無いから!
──なんて??????
秘密の部屋は実はエミリー時代の最高学年で見つけているのよね。リーマスが抜け道を含めた地図を製作している途中で、マートルが壁を抜けた場所に道が続いていることを発見して。入口をどう開ければいいのか分からないけれど、最終的に壁をぶち壊せばOKよ。
──秘密の部屋に行けばバジたんと会えるかしら
──バジたん
──あ、そうだわ。困ってることがひとつあるの
──それって……?
──Mr.アブラクサスの孫とアフターヌーンの約束をしているのだけど、お菓子の味に納得いかないのよね
──秘密の部屋を差し置いて抱える問題がそれ?
──ジャパンアフターヌーンだから和菓子や稲荷寿司を用意してるのだけど、紅茶の味と微妙に合わなくって
私の和食は限りなくヴォルちゃんの好みになってるから、初の和食を味わうドラコ達に不快な思いをさせないか心配。
完璧に仕上げて、今週末のコワルスキークッキングでお披露目するの。
──だからトム、アドバイスよろしくね
──日記にアドバイスを強請られても君が料理下手だったら意味無
──おやすみトム。良い夢を
──書いてる途中なのに!
さて、寝ますか。寝れるかな。
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トム・マールヴォロ・リドルは記憶であり日記であり、闇の帝王の過去だった。
日記に書き込めば書き込むほど、所有者の魔力を糧に所有者の身体に憑依する。
憑依されている間は記憶もなく、気付けば体も魔力も乗っ取られ、最終的には死に至らしめる事が出来る。
そんなトム・リドルは所有者であるミリ・コワルスキーについて相性が悪いと思っていた。
秘密など何も無いように開けっぴろげにするくせに、会話を全然しない。秘密主義だと最初は思っていたが、数度会話をしているうちに自己主張が薄いのだと言うことが分かった。キャラは濃い癖に。
気が向いたよう数日、数週間ぶりの会話。
挨拶だけはこまめにやるくせに、やり取りが少なくて魔力を上手く奪えない。
そして嘘つきだ。
ミリ・コワルスキーに初めて憑依した時、ミリが本当に2年生の身体だということに気づいた。教科書も2年生だ。私物の少ない一人部屋。
でも生まれ変わりだなんて。
そもそもオリオンがこんなアホの子を相手にするだなんて思えなかった。西暦や生まれから考えてもオリオンと知り合う機会など無いだろうに。
最初の憑依はバジリスクを目覚めさせること。
次にバジリスクの天敵である鶏を駆除した。
魔力が少ない上に忠誠心が強いのか癖が強いのか杖も使えない。そのため全て力技だった。
スクイブだと言われてもおかしくないギリギリレベルの魔力しかないのに、これが生まれ変わりだとは片腹痛い。
そして3度目の憑依はハロウィンだった。
「この……!文字くらい……!魔法で書かせろよ……!」
──秘密の部屋は開かれた。
壁にペンキで書きなぐった疲労感にトムは肩で息をしていた。この魔力量、もしかしたら乗っ取っても実体化出来るか不安なのだけど。
魔法だったら一瞬だったのに無駄に時間がかかってしまったせいで、猫に見られてしまった。ニーズル混ざりの猫だという事が一目でわかった為、慌ててペンキを片付けバジリスクに殺すように命令した。
その猫が、ミリを見て大きくショックを受けた表情をした気がしたけれどもきっと気のせいだった。
「ふ、ぅ。ひとまず、第1発見者になるのはまずい。この場から離れなくっちゃ……!?」
たった数分の活動であっという間に魔力切れだ。
所有者の魔力の低さ。
魔力を奪う時間の少なさ。
これらが大きく足を引っ張る。
トムは自動的に日記に戻ってしまった。
気が向いたように数日ぶりの会話をする癖に、毎日挨拶は欠かさない。
本当に不思議だった。
ミリ・コワルスキーの言ってることは半分以上理解出来ないけれど、トムの周りにいないタイプな事は確かだった。
「(僕にもし、姉がいたらこんな感じだったのかな)」
友達にしては近くて家族にしては遠い。教えることは何も無いのに教えられる事が多い。
君に毎日おはようとお休みを言われる内に、そんな寝ぼけたことを思うようになってしまった。
「(なんて、闇の帝王らしくは無いか)」
トムは4度目の憑依を行った。
今日は人間を殺そう。教師でもいいな。
それにしても一生懸命起こした事件が『特に問題ない範囲』だと言われて少しムッとしてしまった。
そしてミリの体を乗っ取り、少ない魔力でベッドから起き上がると、耐え難い空腹に襲われた。
「ミリ、食事を摂れよ」
次の日記には食事について文句を言おうと思い、机を見れば。
……そこには紅茶と見た事のない色とりどりの食べ物が置いてあった。
「…………メモ?」
食べ物の下に、飛ばされないようメモが置かれてある。トムはそれを見て目を見開いた。
──親愛なるトムへ
ちゃんと食べてアドバイスよろしくね
貴方のセンスに期待してるわ ミリ
「……なんだよそれ」
ミリの声色で疑問が口に出た。
どこまで分かっていたのかという疑問や危機感よりも、こんな能天気なメッセージに笑いが込み上げてくる。
「……トム。親愛なるトム。トムへ……」
自分の平凡な名前が途端に特別なものに思えてきた。
ミリの声で自分の名前を呼んでみてもなんだかしっくり来ない。
「ねぇ、ミリ。君、本当に馬鹿な子だねぇ」
トムは茶色くじゅわりと液体が染みでるあまじょっぱい匂いの軽食を口に入れた。
「──は?なにこれ美味すぎない?」
余談ではあるが、トム・マールヴォロ・リドルはヴォルデモートの過去である。
コワルスキーの和食の腕は『ヴォルちゃん』を味見係にして鍛えたと言っても過言では無い。
──馬鹿なミリへ
紅茶をダージリンにすればいい
また作って トム