─矛盾─   作:恋音

58 / 126
2-14.秘密の部屋

 

 楽しい楽しいクリスマス休暇が終わり、学校が再開した。セブルスの宿題は馬鹿みたいな難易度で、おかしいなと頭を捻っていたらどうやら他の子より難しい宿題を渡されていた様だった。

 最高です。なんということをしてくれたのセブルス。

 

 そんな最高に意地悪でキュートな悪戯を味わった私は、ここ最近の日課になっていた罰則を行いにやってきていた。私にとってのロマンであり秘密の部屋と言っても過言じゃないわね。

 

 仕事をしているセブルスの横顔の何と美しく官能的で絵画のように絵になる。地下室の怪しい雰囲気や暗い照明と相まって似合うわ。

 

 

「……ところでコワルスキー」

「はぁい♡」

「クリスマス休暇はマルフォイの館に向かったと聞いたが……。何をした?」

「お2人に挨拶をしてー、料理を一緒に食べてー、あとは軽い旅行と別荘にも招待してもらったの」

「問いかけ方を変えよう。何をやらかした?」

「………………自覚なしね!」

 

 ただすこぶる幸せだったということだけはここに記しておかなければ後世に伝わらない。

 

 はぁ、愛しのルシーとシシーに出会えただけでもとんでもなく幸せだったというのに。シシーが私だけを呼び出して自室に招いたあと、ギュッと抱き締めて泣いてくれたのはこの上ない幸福だった。

 私のために泣いてくれるだなんて、なんて貴重なの。その涙、ビーカーに入れて採取して永遠と保存しておきたかった。言い値で買う……。

 

「Ms.グレンジャーも招かれたことに関して、教員は大混乱だった」

「あぁ、私のストッパーだったみたい。それにほら、純血の中でもマグルに寛容で交流があるのってマルフォイ家じゃない?」

「まぁそうだな」

「ハーミーの混乱した様子も可愛かったけど、1日経てば持ちうる知識欲でどんどん二人に質問を投げかけていて、とても充実した休暇を過ごせたと思うわ」

 

 干したトカゲの目玉を取り出す作業が終わったので次はサイズ事に仕分けしていく。パッパッパッと作業を進めていけばセブルスは私の手元を見て訝しげな顔をした。

 

「相変わらず、なぜ適当に見えて正確に出来るのか疑問ですな」

「褒めてくれてありがとう!手が感覚で覚えていると言ったらいいのかな…?ちなみに魔法生物を抱っこすることで体重も計測出来るわ!流石に、大きい子はグラム単位では分からないけど……」

 

 セブルスは魔法薬学ガチ勢なので、専攻じゃない私の作業に学生時代もいろいろ文句を言っていたことを思い出した。

 ヴォルちゃんみたいに上には上がいるもんだし、私は所詮手段でしかないから。魔法を使えない代わりに魔法薬で何とかしていたというか。

 つい最近転生してから多少使えるようになったとは言え、フィルチも魔法が使えない中他の手段で何とかしていたことを考えると大変だったでしょうね、という感想が浮かんでくる。悪戯止めなくてごめんねフィルチ、クソ爆弾を手で片付けるのは大変だったよね、でも主犯はジェシリだから!

 

「そういえば、実技が終わっている私とフィルチって似てるのよね」

「どこからフィルチの名前が生えてきたのか分からないが、ミセス・ノリスのマンドレイク回復薬がそろそろ出来上がるであろう」

「え、ほんと?」

「左様。毎日毎日、罰則が終われば見舞いに向かうルーティンを変えることだな」

 

 疑っている訳ではないのだけど、セブルスの報告が早くてびっくりした。

 マンドレイクが育つのももう少し先だろうに、なんでだろう。

 

「ほう、どうやらコワルスキーはマンドレイクの収穫時期を把握している様だが、近年開発された『保温魔法を利用した促進栽培方法』をご存知ない模様」

「えっ、何それ何それ!」

 

 薬草自体を温める方向?それとも温室を温める……は今までもやってたよね。でも全部上手く行ってない記憶があったんだけど。収穫を早められると言うよりは温かい時期に育てる物を温室で育てる、というような形だとばかり。

 

「簡潔に言えば室内を温める保温魔法を薬草自体にかけるという素人でも思いつきそうな簡単な方法である。が、そのために必要な吸収率の早い栄養剤がまだこの世に無かった為、その方法は確立されなかった」

「そうよね」

「しかし、ある一定の生物の排泄物や素材をコンポストに入れることで魔法薬の土壌という物を開発することが成功した。そのため薬草の成長率は大いに高まったというわけだ。ご理解いただけたかね?」

「今度論文を読んでみるわ!……でもそうね、回復薬が出来るのならそろそろ行動に移してもいいかも」

 

 魔法生物の世話があり、そして手伝いが居ない私には危険に踏み込むリスクがあったのだけど、クィレルを助手にして或程度教育も終わったし魔法薬があるならそろそろ大丈夫でしょう。

 

「何を企んでいる?」

「そろそろバジリスクたんをどうにかしようと思って。秘密の部屋にカチコミ行ってくるわ。石にされたらよろしくね」

「は!?」

 

 よし、作業終わり。

 するとコンコンと扉をノックする音が響いた。

 

「ハッフルパフ4年、セドリック・ディゴリーです」

「……入りたまえ」

「課題の回収物の提出と、質問があって参りました。スネイプ先生のお時間はいかがでしょうか」

「じゃあ今日はこれで。バイバイスネイプ先生、残りも頑張って」

「コワルスキー!」

 

 叱られそうな気配を察知。

 私は喜んで叱られるのだけど、お客さんがいるみたいだから言われる前にさっさと退出をしてしまった。

 

 

 

 

 さて、秘密の部屋だけど、入口の答えはマートルのトイレにある。

 そしてバジリスクの移動経路は配管。入口が分からないのだけど、よくよく調べればあったのよ。蛇のマーク。

 

 過去に悪戯仕掛け人とゴーストと一緒に部屋の空間を見つけた時はどうにかして入ろうと試行錯誤していたのだけど、結局いもりの試験や就職準備もあって時間が足りなかった。あと二年早く見つけれていれば、今の私みたいに探す時間を取れていたのだけど。

 

 そして、トムが蛇語を話せるということが分かったのだ。

 残念ながら私とトムは同じ空間に居られない為、直接教えてもらうことは出来ないのが蛇語を諦めることになったきっかけね。

 

 

 

 

「ルスキー……Ms.コワルスキー!」

 

 肩をグイッと引っ張られて顔を除くと、薄灰色の瞳が私の瞳を覗き込んでいた。

 

「あー、ハッフルパフのイケメン男……」

「セドリック・ディゴリー。こうして話すのは初めてかな」

「えぇそうね。イケメンに用は無いのだけど……」

「君には無くても僕にはある。さっきスネイプ先生の所で話していたことを立ち聞きしてしまったんだ」

「それをバカ正直に伝えに来たの?」

「僕は君に何か嫌われるようなことをしたかな?言葉の節々に棘を感じるのだけど」

「べっつにぃ?」

 

 双子やリーと同い年の彼は、私の大好きなアジア系美人のチョウ・チャンの片想い相手なのだ。チョウの視線を独り占めする男、許すまじ。

 

「ところで君はアメリカのミリ・コワルスキーだよね?」

「そうだけど……」

「僕の父は魔法生物規制管理部の職員なんだ。それで、最近ホグワーツを騒がせしているバジリスクについて君に解決策があるのなら、ぜひ同行させて欲しい」

「それは構わないのだけどセドリック。貴方はこんな2年生の戯言を信じるというの?」

「信じるよ」

 

 イケメンのまっすぐした視線を向けられ、少しステューピファイをくらったような感覚に襲われた。

 

「いいわ、そういう馬鹿って好きよ。顔は嫌いだけど。今から向かうから準備してちょうだい」

「魔法使いたるもの、魔法の杖1本でいいだろう?最年少ドラゴン使いさん?」

 

 エイモス・ディゴリーの名前はニュート伯父さんから聞いた事あったけれど、きっと彼の息子ね。そういえばダンブルドアからイギリス魔法省に挨拶に行かないか誘われていたのだけど、後回しにしていたっけ。

 

「その話!」

「聞かせていただいた!」

 

 どこからともなく現れた双子が、リーを引っ張りながらやってきた。

 

「抜け道?」

「よくわかったな。双子はホグワーツの抜け道に詳しいんだ」

「ホグワーツ二詳しいと言っても過言じゃないぜ」

「そうそう、どこにだって行けちゃうんだ」

「それこそスリザリンとか」

「ホグズミードにだって」

「なんでホグワーツ(いち)じゃないかって?」

「フィルチには負けるからさ!」

「あぁ……暴れ柳の下ね。あそこのコブを殴ると大人しくなるからおすすめ。あ、それともゴースムーアのグンヒルダの像?ハニーデュークに繋がってるとこ」

「訂正しよう、俺たちホグワーツ三詳しいのかも知れない」

「そうだな兄弟、流石に驚いた」

 

 着いてくるのはいいけど、4年生なんだから自分の身は極力自分で守って欲しいのだけど。

 それを条件に言えば、4人は同時に頷いた。

 

 

 

 

 

 

 

「マートル、ピーブズ」

「なぁに初代、何するの?」

「秘密の部屋に行こうと思って。だからもし何かあったら知らせてね」

「魔法生物相手だろ?なら大丈夫だって!勝算があるから行動に取ってるんだろ?」

「えぇ。あと爬虫類は冬眠するから、寒いうちにした方がいいと思って」

 

 私は携帯電話を取りだした。

 いやー、3キロくらいある肩掛けの携帯電話からつい1、2年前にようやく軽量化されて持ち込めるようになったのだから苦労激変だよね。

 

「ミリ、これなに?」

「マグルの電子機器。覚えておくといつか使えるけど、マグルの電子機器をホグワーツに持ち込むと壊れるというのは、環境が悪かったり無線を傍受する機能がないから出来た話なの」

 

 トランシーバーを持ち込んだ時に爆発したのは流石に驚いたわ。ピーターと検証の結果、機器から外側に出た見えないもの、というのが魔法の保護と相性が悪く攻撃されてると錯覚してしまうらしい。

 つまり、録音は使えるということ。

 

『……──…!』

 

 携帯電話から蛇語で話す私の声が流れた。すると秘密の部屋への扉が開かれる。

 覗き込んでみれば垂直の穴と言っても過言では無い配管が繋がっていた。

 

「す、すげー。こんなところに……」

「今の流れたの何?」

「蛇語。入口はパーセルマスターしか開けないの。友達に頼んで録音して貰ったから開けただけよ」

 

 さぁ、落ちるよ。

 私は勢いよく穴の中に滑り落ちて行った。

 

 

 

 枝分かれした配管の中の1番大きな場所をえらんで落ちていく。地下牢よりもさらに深い位置まで降りただろう。

 カーブの度にドスドスと私のあとを続いた彼らのぶつかった音と悲鳴が聞こえてくる。

 

 出口から放り出されると湿った地面に降り立った。着地の綺麗さ、パーフェクト。

 

「うー、いてて。おいフレッド、足をのけてくれよ」

「残念リー、そいつはジョージ。今週はな」

「ベトベトだ……。皆無事かい?」

「ルーモス、光よ」

 

 当たりが魔法で照らされ、よく見えるようになる。助かるわ、私も一応ルーモス程度なら使えるようになったのだけど、持続するかと言われたら否なのよね。すぐ魔力が尽きる。

 

「いい4人とも。バジリスクはいわゆる魔法使い殺し。何かが動いた気配と、私の指示、そのどちらかがあれば必ず目をつぶること。そしてあまり意味が無いと思うけどプロテゴも自分にかけるのよ。とっても強力なやつをね」

「どちらも間に合わなければ?」

「私が盾になる。その代わり、守れるのはたったの1回だけよ。その後は指示無しで逃げて貰わなきゃならないわ。逃走方法はアクシオで箒を呼んで飛んで逃げる、または……」

「または?」

「手鏡でバジリスクの眼を見てさっさと石化をしてしまう。餌にはならないし、いつか先生が回収して治してくれるから」

「君の再短距離でグリフィンドール生の心得を求めてくるとこ、嫌いじゃないよ」

 

 先頭に立ってずんずん進んでいく。

 4人とも緊張しているのか黙って着いてきていた。

 

 足元にはネズミ達の骨など、小動物の骨しかない上に少し乾燥している。時間経過があったとみて間違いないかな。

 

 おおきなカーブを曲がると、緑色に輝くとぐろを巻いた何かが見えた。目を見開いて見てみると、それは6メートルは優に超える蛇の抜け殻。

 

「おいおい……バジリスクって、こんなにデカイのか……?」

「貴重な素材ね。後でスネイプ先生に貢ぎましょう。その時は手伝ってね」

「未来の予定を立てられるとなんだか安心するよ」

 

 目下はバジリスクだ。脱皮した後の皮は牙を向かない。

 爬虫類は脱皮を繰り返すが、ある程度成長した個体と冬眠中の個体はほぼ脱皮をしない。後者なんてゼロに等しい。ということは夏あたりか秋口が、それくらいに脱皮した後だろう。

 体力の消耗も激しいはず。

 

 

 道を更に進むと蛇の刻印がされた扉であろうものが現れた。エメラルドの瞳の蛇の彫刻に、再び録音した蛇語を聞かせると扉が開かれていく。

 

 

「っ!」

 

 広い空間だった。私の後ろで小さな悲鳴を上げた。

 その空間で今度こそ鮮やかで綺麗な緑色の、巨大なバジリスクがとぐろを巻いて眠っていた。

 

「全員、頭を下げて地面を見ていて」

 

 私は1歩ずつ近付くと、ピット器官で反応をしたのか蛇の王がゆったりと顔を上げる。

 

「眠っている中起こしてごめんなさい。私の名前はミリ・エミリー・コワルスキー。このホグワーツの生徒よ」

「…………。」

「私は貴方の細かい言葉は聞き取れないし、伝えることも出来ない。けれど、貴方みたいに長生きをした頭のいい子ならきっと伝わっていると思ってこうして喋っているわ」

 

 私は目をつぶったまま問いかける。

 

「私の後ろにいる彼らは、まだ子供。見逃してくれると嬉しいわ。そしてもし、貴方に私と対話をするつもりがあるなら目を閉じて欲しいの。私は貴方をしっかり見てみたいから」

「「「「!?」」」」

 

 驚く気配を尻目に、私は3秒だけ時間を待つ。

 目を開くと、瞼を閉じた大きな美しい蛇が私の目の前に居た。

 

「あぁバジリスク。貴方って本当に素晴らしいわ。この美しさにサラザール・スリザリンは魅了されていたのかしら。それとも愛していたのかしら。トムから聞いた通りだわ」

 

 ぴくりとまぶたが揺れた。

 

「あぁ、トムはね、私の友人なの。私の声に聞き覚えがあるかしら。トムが私の肉体を借りて貴方とお話していたのだけど、トムの助けが会ってこうして貴方に会うことが出来たの」

 

 私はバジリスクにそっと触れた。

 嫌がられない。

 

 この子、すごくいい子だ。

 

「あのねバジリスク。良かったら、私とお友達になってくれないかしら。随分、お腹が空いたでしょう?」

 

 脱皮して、そして長年小動物しか食べてこなかったということは容易に分かる。お腹が空いていてイライラしたのよね。人を食べてしまっても良かったのに、それをしなかったバジリスクはとても優しい子だわ。

 

 日記もポケットに入れたままだから、話が伝わらなければトムに交代しようと思っていたけれど、自分の言語しか分からない馬鹿な私に比べて賢いバジリスクのおかげでコミュニケーションに問題が起きなかったのが大きい。

 

「一緒に行こう」

 

 大きな美しい蛇の王は、その美しい体をくねらせて私を抱き締めた。

 

 

 

 

 

 

「君、本当に頭どうかしてる」

 

 4年生達に半泣きで叱られてしまった。どうして。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。