クリスマス、プレゼントの開封。
リリーから届いた花をいくつも散りばめたキーホルダーはスーツケースに付けていつでも見れるようにした。リーマスからはチョコを直接、ピーターはDADAのトレーネ先生に教えて貰ったらしく、寒さに弱い私に体温を上げる魔法を掛けてくれた。セブルスは資金がまだ無いので『好きな時に何かしてあげる券(有効期限なし)』というある意味贅沢なプレゼント。シリウスは私にマフラーをプレゼントした後、己に届いた呪いのかかったプレゼントを燃やしてた。ジェームズは自撮り写真だった。燃やした。いい暖が取れた。
2月はバレンタイン、愛の日。
男性陣がやる気を出し、女性陣は届いたカードの送り主が誰かとソワソワする。分かっちゃいたけどロージー・ベルというハッフルパフの女の子誑しのイケメン女子が無双状態だった。私には数通カードが届いたけど名前なんてしらないので1年生は声を揃えて『騙されてる』と言っていた。ほら、私は一目惚れの女だから。
3月末からはイースター休暇。
クリスマス休暇より増えた居残り組がこの休暇も何回かグリフィンドールでお泊まり会となった。リリーも残っていて、一緒に手を繋ぎながら眠りについた。ちなみに今回もスリザリン生のノットとエイブリーが各寮から人気が出ていた。解せない。ジェームズが拗ねていた理由が前回こんなに面白い行事を寝て過ごしてしまった事についでだったのでみんなで天然パーマを倍増させた。上級生からお菓子を貰ったので一種のパーティー状態だ。
そして5月。
「分からない分からない分からなーいッ!」
夕食後、大広間。
「おやー? Ms.コワルスキー? まさかこんなことも覚えられないんですかー?」
「シリウスなんて耳元で蚊の羽音が永遠に鳴り続ければ良いのに」
「地味にダメージ行くやつだな」
目の前にいるシリウスに馬鹿にされながら学年末試験の対策に勤しんでいた。
得意科目は魔法薬学、薬草学。苦手科目は魔法史と変身術とDADA。そして実技は全般ダメだ!杖を使う科目は、実技は捨てた!
「ていうかシリウスは勉強しなくて大丈夫なの?」
「余裕」
「はぁ……。可愛い子達に教わりたい。リリーとか頭良いのに」
「エバンズはスネイプに付きっきりだろ。まぁ勉強風景見たけど、両方頭良いみたいだぜ?ジェームズはリーマスに、ピーターはトレーネ先生とお勉強会。──お前は残り物の俺だ」
「か、可愛くな〜〜い!」
思わず机に突っ伏す。
やる気が出ない、魔法史眠い、覚えられない。そもそも学年に1度だけって言うのがおかしいんだよ。絶対分けた方がいいって。分割払いしたいんだよ。
「シリウスは英国紳士なんかじゃない、品がない、魔法界の王族とか嘘だ」
「へいへい、さっさと解き直せよ。とにかく暗記科目は書いて覚えろ。ただし、スペルが違う!」
「痛ったァ!? ……うぅ、仕方ないじゃん。異国語だよ異国。イギリスのスペルにまだ慣れないんだよう!」
チョップを食らった頭を押さえて睨みつける。国境の壁がダイレクトにぶつかってくるこの感じ。アメリカの言語って世界共通語じゃないのかなぁ!
テレビやネットを見たい。車に乗って風を感じたい。
可愛い子とか美しい人を愛でて英気を養いたい。目の前には可愛くないシリウスしか居ないとかただの拷問でしか無い、脳内で補完して自家発電してみようか……。
「あっ! 自家発電!」
思い当たった人物に私はガタリと席を立つ。
あの人がいるじゃないか! 私より年上で美しくて可愛いもの綺麗なもの大好きで私より守備範囲広くて私の容姿が好きで私も容姿が大好きな可愛いは正義同盟の彼が!
「コワルスキー? ついに狂ったか?」
「最善策を思いついたんだ。助っ人を連れてくる!」
「既に狂ってたか……っておい待て!」
制止の言葉に聞く耳待たず、私はスリザリン寮へと向かった。
「──というわけで連れてきました。こちら、Mr.ルシウス・マルフォイでございます」
「やァMr.ブラック」
数秒フリーズした様だが、ちょっと来いや、とシリウスに手の甲を見せたジェスチャーで呼ばれる。ニッコリと笑う姿を今日も美しいと心の中で絶賛しながらお呼ばれしたシリウスの元に近付く。
彼は肩を組んだ状態、つまりは近い距離で聞こえないように話始めようとする。
シリウスは大きく息を吸い込んだ。
……ん? 大きく?
「このっ、節操なし馬鹿ーーーーッ!」
「い゛ッ!?」
耳が、耳がキーンってする!
私の耳死んでない!? 大丈夫!?
「おおう、鼓膜が……。ッ、笑うなそこのスリザリン上級生!」
通りすがった上級生に悪態をつく。
子犬に噛み付かれた程度しか思ってないのかフンと馬鹿にしたように鼻を鳴らした。
「きぃー! 今度の夏好きな人に告白する為に木陰でこっそり練習しているスリザリン生のあんたなんか哀れみの目で見られながらフラれればいいんだーっ!」
「なっ! な、なんでその事知ってんだよ! グリフィンドール下級生ッ!」
「こっそりアンタのいい所アピールしておいてあげるから頑張れよね!」
「言われなくとも頑張るわ馬鹿!」
あれは間違いなく同学年であるノットの兄上。叫び方が一緒だ。いやぁ、惜しいんだよな。顔が惜しい。美形に近いんだけどコレジャナイ感が否めない。
「で、マルフォイとはいつからだ?」
「あれは確か……7か月前の事でした」
「おい待てそれ限りなく果てしなく入学直後じゃねェか」
「あの頃の私は想像以上に多い可愛い子と美しい人に目が回って、どうして私の記憶上でしか再生されないんだと思っておりました」
「……おぉ」
「その時出会ったのだ、私は運命の同志に。彼は私にカメラをくださいました。まるで泥雑巾のように扱われた下僕屋敷妖精が本の隙間からご主人様の靴下という衣服を見つけたレベルの喜びでございました」
シリウスは冷たい目をして私を見る。
「簡潔に答えろ」
「可愛いは正義同盟」
「……そうか、マルフォイは同類だったのか」
目じりに何かキラリと輝いた。非常に遠い目をしている。
「驚かせて申し訳ございませんMr.ブラック。次期当主であらせられるお方とこうして寮を違えた後でも交流出来ることを心から嬉しく思い」
「つまりどういうことだコワルスキーの同類」
「──可愛いに含まれるのでMr.ブラックの写真と交換で勉強会にお付き合いします」
「コワルスキー!」
この閣下はめちゃくちゃメンタルが強いので全く気にした様子を見せずグリフィンドール席に堂々と座った。互いに互いの顔を見ながら勉強したいので私は彼の向かいに座る。ついでにとシリウスを隣に座らせた。
さすが、よく分かってますね。
もちろんですとも、コレが逆の立場ならそうしてくださいますから。
目で会話する私達。愛は世界を救う、私の中の世界は平和です。
はーー、今日も美しいなぁ!
「ルシーに頼みたいのはたったひとつだけ」
「その様子だと純粋に勉強を教えて欲しいというわけじゃないようですね」
「察しがいいなぁ」
「これまでや変態ども。コワルスキー、お前マルフォイのことをまさか愛称で呼んでるのか?」
その通りですとも! ……最初は敬意を込めて師匠とか呼ぼうと思ったけど、ルシーは上下ではなく横の繋がりだ。それに本人も婚約者であるシシーと同じような愛称で心底喜んでいるようだったし。
「とにかく、ルシーには教科書を音読してもらいたい」
「……音読?」
訳が分からないといった様子で首を傾げるルシーとついでにシリウス。私はある種の裏技を用いることにした。
「…──私、好みの人が言ったセリフは全て覚えてる」
「気持ち悪い」
はっきりと正直な気持ちを口にしたシリウスくん、安心しておくれ、あなたのことは覚えてない。
リーマスとかピーターが言ったシリウスの話というのは覚えてるけど。
「魔法史のビンズ先生とか、呪文学のフリックウィック先生とか、好みじゃないから覚えてないんだよね」
「なんとなく分かりますけど、流石にここまでは…」
「ルシー、引かないで。そんな扱いされてもご褒美にしかならないけど」
「それも理解出来ません」
「……別方向の変態どもなんだな」
こういう可愛い子に対しての反応はルシーと気があったことがない。十人十色、お互いがお互いの性癖を認め合ってはいるので問題ない。というか、お互いに顔があれば問題ない。
「はァ、Ms.コワルスキー。危ない教科は?」
「魔法薬学と薬草学以外全て。一番やばいのは魔法史です」
「分かりました。では、魔法史の音読から始めましょう」
「……終わったら全部覚えているか小テストするからな。悪ぃマルフォイ、テスト作るから少し席を離す」
「私が変に思われない程度の距離にいてくださいましたら、自由になさって構いませんよ」
魔法史の小テストは70点だった。取れなかった30点が全てスペルミスだったので、シリウスは予想以上に引いていた。
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張り詰めた空気が続く中、ジェームズとシリウスは余裕と言わんばかりにいたずらを被らず仕込み続けるので全学年全寮の人間から今までと比べ物にならないほどの殺意や怒気を浴びせられた。
「ジェームズとシリウスの動物耳コンビうるさい! こっちは集中してるんだから黙って!」
もちろん私もテストがピンチなのには変わりない。無心で杖を振り続けていたのに邪魔されて、正直かなりキレていた。
「ミリー暗記大丈夫だったじゃん」
「スペルなの! 私に言語の壁が邪魔をするからギリギリなの! 実技が全く出来ないから本当にギリギリなの! 今回ばかりは本当に勘弁して!」
覚えた言葉をそのまま言えても、書き示すと大概ミスになる。実技でマイナスになる事が確定したこの試験、筆記はもう確認するしかないから少しでもマイナスを減らそうと頑張っているのに!
「なんで出来ないの?」
「イヴァナ! コイツ爆発四散希望だって!」
「よっしゃきた!」
一緒に実技の練習をしてた同室のイヴァナはなんでもかんでも爆発させてしまう才能の持ち主なのでやる気満々で杖を振るった。
爆発オチなんてサイテー! というジェームズの声をBGMに目の前に居座る試験という敵を倒す為、もう一度頑張ろうと思った。
目下の敵は今日の午後から行われる変身術だ。マッチを針?虫をボタン? ……そんなの以前にうんともすんとも言わないんだよ。
スリザリン生に本気でスクイブなんじゃないかって完璧善意で心配されるくらいには。泣いたね。
「ピーター?」
視界の端で寮から出ていく姿が見えた。声をかけてもフラフラと出ていって反応がない。えっ、普通に心配。ごめん嘘死ぬほど心配、風邪かな。
もう少しでテスト始まるというのに……。
「──グリフィンドール生、実技試験開始しますよ」
マクゴナガル先生の声を遠くに聞きながら、試験会場の部屋とは別の方向に歩き出した。
1日1話ということは夏休みの終わりに向けて死のカウントダウンが始まっているという事。後半になるにつれ更新してくれるな時よ止まれと願うはず。
アメリカとイギリスでは英語にすごく差があって面白いですね。ちなみに主人公はニューヨーク出身という事にして文化の差を取り入れてます。冬が、嫌いです。
不穏な気配を察知。多分次で1年生の出来事はほぼラストかなー、と思います。