「し、死んだかと思った……」
セブルスが漏れ鍋まで送ってくれて、ハーマイオニーとロンと無事合流出来た。
夏休みは、もう思い出すだけで笑みが零れるくらい幸福な時間を送れたの。でもそれはそれとして心臓にすこぶる悪い。セブルス、私室じゃかなりラフだから夏の暑さに負けて腕まくりしていた姿はちょっと饒舌に尽くし難かった。
夏、大好き。腕まくりって、心の弱い部分をギュッと握り締められるよね。
「ミリ!新聞と月刊魔女を見たわ、すごいのね」
「ありがとうハーマイオニー!ハーマイオニーみたいに優秀な魔女に褒められるととっても誇らしくってなんとしてでも平和な世界を作らなきゃいけない気持ちになるね」
「いつものミリ」
ハーマイオニーの可愛い姿にニッコニコだった。
「やぁミリ」
「君のおかげで去年は散々」
「でもおかげで名前が売れた」
「もう巻き込まれるのは勘弁だけど!」
「双子が自ら巻き込まれに行ったんじゃない……。あっ、ジニー♡2年生の準備は終わった?」
「こんにちはミリ。おかげでね」
「ジニーの髪ってうる艶でこまめに手入れされていてすごく綺麗よね。貴女の髪に合う素材をもっているのだけど、良かったら貰ってくれない?」
「素材?」
「うん、不死鳥の羽っていう美しい羽なんだけど」
「「絶対貰っちゃダメだぜジニー」」
「言われなくても無理よ!」
断られてしまった。
ウィーズリー家は今日も賑やかで、漏れ鍋の机はいっぱいになっていた。
どうやらハリーはアーサーさんに『シリウスについて気をつけるように』という忠告を受けているようだった。少し首を傾げながらどこか他人事のように頷いたハリーはとんでもなく可愛い。
ハリーの『ブラックが僕を狙っているって……?』と
言っている声が聞こえてくるから、きっとハリーの可愛さにメロメロになったシリウスの奇行に注意するように言ってくれているのだろう。
「そうだパーシー、首席おめでとう」
「ありがとう。君こそバジリスクの件、凄いよ。あの双子が旅行に行っても家に居てもずっと同じ話をするからうんざりしていたけどね」
「それはご愁傷さま」
バジたんに関しては許可と論文の方に少し苦労したから、今度から報告書だけ渡してギルデロイに書いてもらうようにしよ。
「そういえば監督生にもなれたんだって?」
「首席は自動的に監督生になるからね」
「あら、例外もあるのよ?成績優秀者が模範的な生徒とは限らないもの」
ジェームズとかいい例だよ。
「──さぁ子供達!そろそろ電車の時間だよ!」
モリーさんが合図をすると、ウィーズリーの男たちは『イエスマム!』と挨拶をしてドタバタと片付け、終わった者から順次出て行き始めた。
「ミリ、バジリスクなんだけどさ」
「うん、どうしたの?」
ロンが不思議そうな顔をして私の横に並んだ。
「論文ってのが必要で、あのロックハートと一緒に書いたんだろ?」
「えぇ。もう少し詳細に言えば、私が書いた論文をギルデロイが添削した、と言った方がいいかな。だから論文には彼の名前と、あとは一緒に行った双子たちの名前も乗ってるの」
「君ロックハート苦手そうだったけど、大丈夫だったの?」
「私のプライド的に苦手なんて言葉は使いたく無かったけど、言われてみればそうかも。決闘クラブから避けられちゃったから、逆にこっちからグイグイアタックしてみたの。押すのは慣れてても押されるのに慣れてないみたい。あんなにファンがいるのにね。それより彼の文才に心底惚れ込んでいるから今度実業家の祖父に紹介しようかと思って……」
「わかったわかった!」
もういいってば、と言いながら先に行ったウィーズリーの兄達に声を掛けていた。
「ねぇスキャバーズ見なかった?」
「ロニー坊や持ってないのか?」
「まぁ心配要らないって」
「そうだな。スキャバーズは隠れんぼが上手いし、去年もその前も部屋でしか現れなかったんだろ?」
「そうだけど……クルックシャンクスに食べられたりしたら……!」
「ただの猫より怖いものが近くにいるだろ?」
「そう、あのトランクにな」
「もうその話は聞き飽きたってば……」
クルックシャンクス?
聞き覚えのない生物名に首を傾げれば、ハーマイオニーが見慣れない猫を飼っていた事に気付いた。
「この子がクルックシャンクスよ」
「あ、この子すごく賢い子ね。ニーズルの血が混ざってるし、ニーズル成分が強いかも」
「そうだったの?」
クルックシャンクスが私に向ける気持ちが伝わって来る。ハーマイオニーは私が守るのよ!って踏ん張ってるみたい。可愛いね。すごく大人しい子だ。
「ふふ、そんなに心配しなくてもホグワーツはいい所よ。少し危険は多いけど、貴女のご主人様は私も守りたい人なの。一緒に守らせてね」
「ミリって時々、動物と会話をするみたいよね」
「言語としての細かい会話は難しいけど、簡単な心を読むくらいなら出来るのよ」
「何それ、教えてくれない?」
「もちろん!」
と言っても無意識に使っていたようなものだから、教えるのは下手かもしれない。その事を先に伝え、ハーマイオニーに開心術というものがある事を教えた。
「どこかで聞いたことがあるわ」
「高度な魔法ではあるの。クイニー母さんは開心術に優れているのよ。私は人に対してはさっぱりなんだけど、魔法生物に対して無意識に使ってるみたいでね」
雑談をしながら電車に乗ったからかコンパートメントは埋まっていた。
「あ、ドラコ。こんにちは、今日もすっごく美しいのね。最近身長が伸びたせいで美しさに磨きがかかりすぎてもはやダイヤで出来た彫刻のように綺麗だわ」
コンパートメントを覗きながら空いてる席が無いか探していると、我が天使が見えた。
ドラコは私を一瞥したあと、本に視線を戻した。
「はいはい美しい」
「ミリってば挨拶の度に褒め言葉を言わなきゃ死んじゃうのかな?」
「こんにちはネビル、それとクラップとゴイル。珍しい組み合わせね」
「聖マンゴでちょっとな。用がないならさっさと別のコンパートメントを探した方がいいぞ、埋まるから」
確かに4人入れるコンパートメントに4人入っている状態。可愛いドラコに名残惜しさを感じるけれど、仕方ない。
するとそう歩かない内にツギハギのローブを頭まで被った大人が一人座っているのを発見した。胸が何故かどくりと跳ねる。
少し狭いかもしれないけどここにしましょう、とハーマイオニーが入った。5人入ることになるけれど、5人どころか7人くらいで入ってた身からすればまだ余裕。
「…………天使の気配?」
コンパートメントに入れば予感が確信に近いものになる。
「この人誰だと思う?」
「──リーマス、」
「そう、リーマス・ルーピン先生。頭の上の荷物に書いてあるわ」
なんてこと……!
リーマス、本当にリーマス?
いいえ心がリーマスだって語りかけてくる。私の心の情熱のままに確信するわ。彼が私の愛しのリーマスだってことを。
すやすや眠り姫みたいに寝ているリーマス。1度眠ると早々起きないとは言え、ここまで寝入っているのは珍しいかもしれない。
軽くローブを持ち上げて顔を確認した。
「ちょっとミリ、起こしちゃうわ」
「うっ……!」
私は口元を押さえて膝から崩れ落ちた。
リーマスを気遣うハーマイオニーも可愛いけれど、すやすやと眠るリーマスの寝息を録音して永遠とスピーカーで聞いていたい。
あぁでも、顔色も悪ければ傷も増えている。
「可愛い…………っ!」
「「はぁ」」
「まーた始まったよ……」
ロンの諦めたような声色が聞こえた気がするけどハリーとハーマイオニーのため息の方が大きく聞き取れてしまったため、この場の呼吸を優先した。天使から吐き出された息を取り込まないと。
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ハーマイオニーの言うことにはリーマスは『闇の魔術に対する防衛術』の教師だろうということだった。ソワソワする心を必死こいて落ち着かせながら天使たちの会話も1文字たりとも逃げ出さずに頭に飛び込んでくる。
そうね、ギルデロイは杖を取って誰かに教えるより筆を取って世界を作りたいと言う美しいことを言ってホグワーツの教師を辞めたから、空いてる枠は一つしかないよね。
「それにしても残念だろミリ」
「この世界はこんなにも幸福で運命で最高に幸せで溢れてるのに?」
「何言ってるの?」
「折角君がバジリスクなんて大物を捕まえて、しかも飼育許可まで貰ったのに。シリウス・ブラックが脱獄したせいですぐに話題が上塗りされたじゃないか!」
「ロン、しー」
ハリーの『しー』って言い方可愛すぎない?優しい心もだけど、歯の隙間から零れる息の音と仕草に全人類が虜になっても仕方ない。むしろ抗えないから当然の事象ね。
「可愛すぎてメロリンしちゃう」
「気にしてないみたいよロン」
「そうなのハーマイオニー。私の偉業が変なおじさんに上塗りされたことに関して不服ではあるけれど、ファッジが来てマーリン勲章の話を持ってきてくれたから大丈夫よ」
「マーリン勲章ですって!?」
「マーリンの髭!」
ハーマイオニーとロンの驚く声にハリーと目を合わせる。
そうなのだ、実はセブルスの不在のタイミングで今のイギリス魔法省の魔法大臣のコーネリウス・ファッジがやってきて、魔法生物学者としてイギリスに本格的に移住して闇祓いや危険生物専門のポストに将来ついてくれないか、という提案をされていたのだ。
エミリーの時には無かった勧誘なので、エミリーの時の反省を活かして早めにイギリスに取り込んでおきたいのかもしれない。
もちろん断ったわ。お役所仕事は好きじゃないの。
ファッジの勧誘は鬱陶しいのだけど、優遇という点には惹かれざるを得ない。
仕方ないのでマーリン勲章を受けることで話が一旦落ち着いた。
「マーリン勲章は三等級に別れているの。勲一等はもちろんダンブルドアみたいな人よ。コーネリウス・ファッジもだけど、近年で言えば例のブラックと英雄的対決をしたピーター・ぺティグリューもそう。あとはドラゴンからマグルを救ったティリー・トークとその家族や、優れた修復魔法の使い手のオラベラ・ナットリー……」
「よく分かったよハーマイオニー。ミリは何等だっけ?」
「単独でドラゴン、バジリスク、マンティコア、ワンプスキャット、ヌンドゥ、レシフォード、アクロマンチュラ。合計7匹の最高危険度の魔法生物の友好的な飼育。ということで勲二等よ」
本当は手が足りないから一人で完全に共存出来る訳ではないのだけど、貰えるものは貰っておかなきゃだめね。いつか天使達の役に立つかもしれないし。それに私レベルの魔法生物学者はそうそういないんだもの!
「すごいわ!ロックハート先生も勲三等だったわよね。勲二等の魔法生物学者と言えばあのニュート・スキャマンダーと同じじゃない!」
「ニュート……さん?」
「ハリー知らないの?今年度から始まる魔法生物飼育学の教科書を書いた方よ。幻の動物とその生息地の」
すると、急に電車が止まった。まだつかないはずの時間帯の急停止、何があったのか状況を把握しようとするも明かりも消えてしまい、あたりが真っ暗闇になった。
「一体何が起こったんだ?」
ロンの声を聞き、私は荷物から懐中電灯を取り出して辺りを照らした。
「光……もしかしてコワルスキーか?」
「ミリ、ここ!?」
コンパートメントの外から光につられてドラコとネビルがやって来た。
「二人とも、クラッブとゴイルは?」
「あいつらずっと寝てるんだ。呼び掛けても起きやしないから扉だけ閉めて置いてきた」
一体何が起こってるのか確認しようとして、コンパートメントの反対側の窓に影が映った。
急に気温が下がってくる。吐き出した息が白くなる。
「全員静かに」
私の声にピタリ、と状況を把握しようとする声は止まった。疑問も多いだろうに、いい子達だ。
パキパキと霊気を漂わせながら、廊下に影がやってきた。
顔がすっぽりと黒い頭巾で覆われており、墨を水に垂らしたようなぼやけた輪郭の静物。
もはや生物と言ってもいいのだろうか、そんな曖昧な存在が居た。これは…──
「──ディメンターちゃん!♡」
「………………ミ、リー?」
吸魂鬼と言われる物だ。
背後から、喉が枯れたような寝起きの声が聞こえてきた。
「おはよう、寝坊助さん」
「ミ……!」
「お説教はあとでよろしくね、先生。……さてディメンターちゃん、いらっしゃい。幸福ってやつを食べてくれない?どういう感覚なのかな……?不快感が出るのか、それとも多幸感が減っていくのか、すごく興味があるの」
私は吸魂鬼の実態があるのか無いのか分からない手をガっと掴んで握った。
「キスで死ぬってどういう感じなのかな?1回してみてくれない?即死魔法?それとも分離?あぁ、興味がある!アズカバンに行かないと会えないと思っていたけど、こんなところでディメンターに出会えるだなんて幸福以外の何ものでも無いわ!さぁさぁさぁさぁ!吸い取ってみて!言葉はある程度通じるんでしょ?だって看守だものね。それとももしかしてだけどもう吸い取っている最中……?」
「あぁもうこの子は……。──エクスペクトパトローナム」
私の肩をグイッと抱き寄せたリーマスの杖から真っ白で温かな光が盾のように放たれた。
とてもその光を嫌がるディメンター。
右にも左にも天使、目の前に興味があったレア魔法生物。
「幸せの最大風速……!」
「体調は!?」
リーマスは心配したように私の肩をギュッと掴んで真正面に立った。
「まるで炭酸リチウムみたいな、鬱々とした嫌な気持ちを吹き飛ばす可愛さ(断定)あまりにも万能薬過ぎる……!しかもそれでいて美しい?嘘でしょマーリン、こんな、健康に磨きがかかっちゃう……!どうしよう、こんな空間タダで居ていいの?マダムポンフリーもびっくりするくらいの健康だわ」
「ごめんなさいルーピン先生、この子いつもこうなんです、正常です」
「ハーマイオニーどうしよう、幸せすぎて飛び跳ねてしまいそう!」
「飛び跳ねないでね?あとこの空間でそんなに幸せなの貴女くらいよ。ネビルとハリーは特に悪影響なんだから」
「「大丈夫!?」」
リーマスと私の声が重なる。
ハリーはネビルと一緒に寒そうに固まっていた。
「ハリー、ネビル、大丈夫よ。私がいるんだもの」
「はは……確かに……。ミリが居てくれるとそう思う」
「うん、何とかしてくれる感がすごいね」
ドラコが、悪影響を受けた2人の家庭環境に気付いたのか眉間に皺を寄せた。
「楽しい気持ちなんて少しも浮かばないのに、なんでミリってむしろ絶好調なんだよ」
「ディメンター泣かせだな。ウィーズリー、気にするな、例外だ」
「こういう時は…」
チョコが一番。私がスーツケースから取り出そうとチョコのお菓子を持てば、横からリーマスがチョコレートを差し出した。
「こういう時は、チョコを食べなさい」
ハリーはキョトンと目を見開いたあと、ちゃんとお礼を言って頭を下げた。
「うっ、うちの子達が可愛い」
「だからミリの子じゃ無いってば!」
リーマスが地面に着いていた膝の埃を払ってコンパートメントの扉に手をかけた。
「私は他の所を覗いて来るから、皆でチョコを食べていなさい。皆よく頑張ったね。それと……」
リーマスは私を見てすごく辛そうに顔を顰めた。
「危険な物に近付かないように。もっとも、君は言っても聞かないんだろうけど。僕らの願いだよ」
涙は流れていないのに、リーマスが泣いている様な気がした。
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「新学期おめでとう!みんなにいくつかお知らせがある。ひとつはとても深刻な問題じゃ」
組み分けも終わり、ダンブルドアが警告を放った。
曰く、アズカバンの吸魂鬼、ディメンターがホグワーツの出入り口を固めているとの事だ。
許可なく学校を離れたらダメだという事、そして変装や透明マントでさえ無駄だと言う。
「言い訳やお願いを聞いてもらおうとしてもディメンターには生来出来ない相談じゃ。だからけして、自ら話しかけたり近付いたりするでない。誰1人として、たとえ魔法生物学が得意だからと言って、分類上は魔法生物に入っていたとしても、決して、けっっっっっして、危害を加えるような口実を与えるでないぞ」
ダンブルドアの視線がわざとらしく私に突き刺さる。可愛くないので無視した。
それよりセブルスとリーマスが教員席で隣に座っているのが嬉しくて仕方ない。心無しかセブルスも嬉しそうにしているのがさらに幸せになってしまう。
「……はぁ。皆、1年生のフォローを頼むぞ。──では、楽しい話に移ろうかの」
待ってました!
新しい教員の紹介、との事でダンブルドアがリーマスを紹介した。
「ルーピン先生じゃ。空席になっておる闇の魔術に対する防衛術の担当を引き受けてくださった」
まばらな拍手の中にいっそう大きく鳴り響く拍手があった。そう、つまりは私のことである。
「……おい、あの先生みすぼらしくて頼りないと思ってたけどさ」
「うん……。あのコワルスキーが大歓迎してる」
「腕はどうであれ、アレの好み?」
「ミリ・コワルスキーの好みだなんて恐ろしい」
「「「「お可哀想に」」」」
おい、レイブンクロー。聞こえてるからね。
「スネイプの顔見てみろよ」
ロンの言葉に改めてセブルスの顔を見る。苦虫を噛み潰したような視線をリーマスに向けていた。傍から見れば恨んでるように憎らしいように見えるだろう。
そんな中、ハリーが既視感の答え合わせをした。
「──スネイプ先生、ミリを見る時の目つきみたいだ」
ちなみに魔法生物飼育学のケトルバーン先生は『私、Ms.コワルスキー相手に教えたくありません!手足と心が1本でも残っているうちに余生を楽しみたいのです!ほほっ!やってられるか!』と投げ捨てて辞めたので、ハグリッドが教鞭を取ることになっていた。