「あれ?ハーマイオニーさっき先に出なかったっけ?なんで後ろにいるんだよ」
「あっ、あー、忘れ物して、だから戻ってたの」
「『忘れちゃった!』ってバタバタして戻ってくハーマイオニー可愛かったな……」
「幻覚?」
ハーマイオニーが恐らくタイムターナーを使って授業を受けているため、しれっとフォローをしつつ地下へ向かう。
今日、木曜日はとんでもなく幸せな日だ。
「こんにちはドラコ。こんにちはパンジー。午後も可愛いね」
「朝も聞いた……」
「コワルスキー、ドラコが可哀想よ。絡まないで」
「いいんだパンジー。慣れてきたって言えば慣れてきた。慣れれば聞き流せる。それより僕ら以外に被害が行く方が申し訳ないだろう」
「うっ……それは……」
スリザリンと合同授業だから教室まで皆で進む。慣れた道を皆迷うことなく歩く子供たちのなんと可愛いことか。
「お、ドラコ。またコワルスキーに絡まれてるのか」
「セオドール、同情するなら変わってくれ」
「ハリー・ポッターと愉快な仲間たちに任せる」
「それ僕も入ってるやつだろ」
ドラコが私から離れる様に小走りでスリザリンのセオドールの元へ向かった。
「今日の授業は縮み薬?」
「そうだよブルストロード。予習した?」
「してない……ロングボトムは?」
「僕もしてない……」
「ブラウンは?」
「もちろん、してない」
「──グリフィンドール!スリザリン!邪魔だ早く教室に入りたまえ、両方2点減点!」
魔法薬学教室の前に辿り着いてもだべっていたので、セブルスの怒号が響き渡った。
「全く、貴様らは共通の敵のせいで結束して……」
セブルスは不機嫌そうに眉間にシワを寄せているが、ここ2年でトップレベルに機嫌がいい。それを悟られない様に不機嫌ぶっている。
その証拠にほら、発言が全部ストレート。セブルスは仲良くなればなるほど、機嫌がよくなればなるほど、簡潔に罵倒してくるし悪態つく。距離があれば湾曲な言い方をするので、余程ご機嫌らしい。
「はわわ、可愛い……」
「正気か?」
同じ机に座ったクラッブが首を傾げる。
私の机はクラッブとゴイルとネビルだ。ネビルは薬草学と魔法薬学が得意だから、苦手な2人に一緒にサポートをしているって感じだ。
「ネビルがこんなに魔法薬学得意になるとは」
「うん……。スネイプ先生が怖かったんだけど、ミリのおかげでね。なんか、苦労してるなってなっちゃって」
コソコソとセブルスにバレない様に教えてくれた。なるほどね、1年の頃は先生への苦手意識だったのか。
「なぁロングボトム……適当でいいのか?」
「違うよゴイル。均等に刻まなきゃ」
「……ふぅん、適当じゃダメなのか」
クラッブとゴイルは純血貴族のネビルに懐いていて、ネビルも自己肯定感が低かったけど頼られたおかげで成績も自信も伸びている。
「クラッブもゴイルも食べるの好きでしょ?」
「「うん……」」
「料理も科学よ?魔法薬学も料理も、手順や材料の大きさや量で味や食感は大きく変わるの。料理に興味無い?」
「俺たち食べるの専門だから……」
「ふふ、じゃあ料理に興味が湧くように私の最上級のフルコースを用意してあげる、技術さえ身につければレシピをプレゼントするけど、すっごく難しいわよ」
「「……最上級、フルコース」」
「……コワルスキー、やかましい。我輩の授業でよそ見に雑談とは、随分いいご身分ですな」
「スネイプ先生♡どうしたの、嫉妬?」
「嫉妬など、何故する必要がある?」
「つまり私の最愛ビッグラブがスネイプ先生だって信じてらっしゃる!?なんて幸せ!?」
冷たい目を私に向けていた。うっ、そんな姿も愛おしい。
「コワルスキー」
「なっ、なに?」
「……パッドフットという名に覚えは?」
どっ、、、、、え?
質問の意図が分からないのだけど、これ、え?
知ってるっちゃ知ってるけど、これ、どの意図?
私の記憶を探ってるとか?それとも姪に対しての親切心?
「えっと、聞き覚えはあるけど」
「………………ほぅ?」
片眉をクイッとあげて探るような目つきになる。開心術は使われてない様だけど、何を探られているのか分からなくて胃がなんだか変な悲鳴を上げているような。いえ、むしろ心臓が喜びの声を上げているみたいだねこれ。
「スネイプ先生の視界の大部分を占めている今の私、モリアーティ教授を押しのけてライヘンバッハの滝に飛び込んでもいいかもしれない」
「コードレスバンジーが趣味であれば是非とも我輩の見える場所で芸術的に飛んで欲しいものですな」
つまり離れた場所で死ぬな、って事よね。
うーん、可愛いが過ぎるわセブルス・スネイプ。嫌味に混ぜたそのデレ、私が見逃さないと思わないでよね!
「ミリ、遠回しに死ねって言われてるから」
「えっ……?」
ネビルの解釈と私の解釈が真逆になっちゃった。
==========
さて、今日の楽しみはまだまだ終わらない。木曜午後の授業と言えば、みんなお待ちかね闇の魔術に対する防衛術だ。
そしてそして、今年の闇の魔術に対する防衛術の教師は!
そう、リーマス・ルーピン!
私の可愛い狼ちゃんだ!
「ふふふっ、ふんふふーん」
「すっっごいテンション高いなこいつ」
「ポッター、解説を頼むよ」
「ブレーズ、君の僕に対する意識がどう言ったものなのか1度考えたいけど、答えは非常に簡単だよ。ルーピン先生もミリの好み」
「うわぁ……(やな事聞いたって顔)」
「あれ、グリフィンドールとスリザリンじゃん」
闇の魔術に対する防衛術と魔法薬学は入れ違いの授業。グリフィンドールとスリザリンが闇の魔術に対する防衛術の教室に向かっていると、ハッフルパフとレイブンクローが魔法薬学の教室に向かう。すれ違った3年生達はそれぞれ目を見合せた。
「こんにちはマイケル、アーネスト。そこに隠れてるMr.ゴールドスタインも、いるの分かってるからね」
「家名で呼ぶな!」
「アンソニー。そんなに私と仲良くなりたかったの?言ってよ先に」
「こいつ……っ!ポッター、手綱ぁ!」
「だから、君らさ。僕はミリの保護者じゃないしお世話係、ましてや飼い主でもないんだけど」
「そう!どちらかと言うと私が保護者!」
「誕生日同じの人がなんかいってら……」
流石に1学年がすれ違うとなると幅を取る。
お互い、特に止まることなくすれ違えた。
「そうだアンソニー!今度親戚の集まりがあるのだけど貴方も来るー?」
「親戚の!枠に!入れようと!するな!」
中指と共に吐き捨てられてしまった。照れ屋なのね。ぶん殴るわよ。
「そう言えば、シリウス・ブラックの目撃情報があるって」
「うそでしょ?」
シェーマスがどこかから手に入れた新聞を握りしめて興奮気味に「ここからあまり遠くない」と言っていた。
「マグルの女性が目撃したんだ。もちろん、その人はほとんどわかってないけど」
生徒たちが闇の魔術に対する防衛術の教室に入った時、リーマスはまだいなかった。皆座って座学の準備をしていると、リーマスが聖母のように優しげに微笑んで入ってきた。
ふぅ!その笑顔、とんでも威力〜!
「やぁ皆、教科書はカバンに戻して杖だけ持ってついておいで。実地訓練をしよう」
期待半分、心配半分。
私がいそいそと準備してまっさきにリーマスの傍に行くと、虚をつかれたようにビックリしたあと少し安堵したのか素で微笑んだ。
わ、びっくりした。心臓が握りしめられたのかと思った。大丈夫かな、なんか変な汁出てないかな。
「君は私の事大好きだねぇ」
「もちろん!」
私に続いて教室を皆で出る。授業中のため誰もいない廊下を通って進むとピーブズがいた。鍵穴にチューイングガムを詰め込むところだ。
「ピーブズ……」
「うわぁ!おいおい驚かせるなよリーマス、マヌケ!バーカ」
「フィルチが困るだろう?ダメじゃないか」
「箒を取れなくしてやろうと思ってね!」
やいのやいのとじゃれあっている2人。
ピーブズと目が合ったかと思えば、私に泣くふりをして擦り寄ってきた。
「おーいおいおい。ぐすんぐすん。聞いておくれよ、この魔王教師、ピーブズの邪魔するんだ」
「……ピーブズ、ひとつ聞くけど。私がどっちを優先すると思う?」
「…………ばーーーーーか!」
ピーブズは罵倒を上げながらヒュンとズームアウトしていった。リーマスが後片付けをするように、鍵穴のチューイングガムの処理をしていた。その手際はあまりにも美しい。
「さぁ、お入り」
リーマスの勧められた教室に入るとそこには洋簞笥が置かれていた。先生用の着替えを入れる物だった。
ガタンと不規則に揺れるのを見て、皆は不安そうになっていた。さりげなく私のローブを掴むドラコ、すっごく可愛い、鼻血出そう。
「心配しなくていい。中にまね妖怪、ボガートが入ってるんだ」
曰く、昨日の午後に取れたてのものらしい。
「さて問題です、ボガートはなんでしょう?」
「形態模写妖怪です。私たちが1番怖いと思うのはこれだ、と判断するとそれに姿を変えることが出来ます」
「素晴らしい」
リーマスとハーマイオニーの姿、あまりにも絵になりすぎる。画家を、画家を呼んで!魂を込めた絵を!作成してちょうだい!
そういえば、ボガートは昔ノクターン冒険をしていた時に柱時計の中でもがいていた子を見つけたことがあったなぁ。ちなみに面白がって開けたのでボガートだということが分かった。ピーターとジェームズを同時に見たボガートが、どっちの恐怖を模写しようか焦った結果、半身ナメクジという化け物が爆誕したことは胸に秘めておこう。
行政に報告もしくは私が手に入れようとした。けど店主がその姿を見て大爆笑して飼うと言っていたので諦めたのだ、その後どうなったかは不明ね。
「君たちがこの子を滑稽だと思わせる姿を想像してしまえば、彼を退散出来る。さぁ、笑顔で続いて……リディクラス、バカバカしい!」
「「「リディクラス!」」」
杖は殆ど必要ない魔法なのだけど、皆きちんと呪文の練習をしている。
そしてリーマスが一番最初に指名したのはネビルだった。
「さぁ、杖を出して。準備はできたね?」
コソコソと何かを話していたふたりが悪戯を企んだように笑っている。
洋簞笥からガタガタと音を鳴らして出てきたのは箒だった。
箒がビュンビュンと飛び回る。
「り、リディクラス!」
ネビルは魔法を唱えた。すると箒は手足が生えてボウトラックルのような姿になったあと、踊り始めた。うーん、巨大ボウトラックルも怖いっちゃ怖いと思うんだけどな。危険度は低いとは言え。
「さぁパーバティ!前へ!」
どんどんとリーマスは指名をし、生徒は次々と魔法を成功させている。
ハーマイオニーが10点満点のテストで9点を取れなかった物を恐怖の対象として出した時は、皆して大笑いをした為ボガートがびっくりしてきたようだけど。
ドラコは怒ったシシーが出てきたりと、様々な姿が出てくる。
みんなの1番怖いと思う物が見れて楽しいわ。
そういえば、私は何が1番怖いんだろう。
友達に罵倒されても嬉しいし、恐怖の対象ディメンターでも怖くはなかった。
案外ピーブズ?いやでも、魔法生物の括りに入っているのだから怖いと思うはずがない……。ヴォルちゃんの後頭部憑依はホラーみを感じたけれど、どっちかと言うと怒りを覚えてるし、恐怖ではないよね。
「さぁミリ!次だ!」
リーマスの呼び声に私は前に出る。
結局怖いものが分からないまま来てしまったけど、ボガートはあくまでも魔法生物だし、いざとなったら物理でなんとかしましょう。うんうん。実技劣等生だもの。
「魔法が不発でも他の子がサポートするから安心していい」
「あはは……」
エミリー時代から杖を振る授業が向いてないのは、うん、何も言わないで。涙が出ちゃう。
私の前に変身したボガートは、私を見てしゅるしゅると変身していった。
私が最も怖いと考えているものに。
「………………え?」
そこには想像もしてなかった姿が目の前にあった。
「違う、違う違う違う!そんな、そんなわけがない!私が!違う!」
──ウェアウルフがそこにいた。
顔に傷をつけた、薄灰色の狼人間が。