─矛盾─   作:恋音

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3-10.戻った君と戻れない僕ら

 

 嫌がる所か喜んで罰則に向かうコワルスキーを見て、僕の心臓は吐きそうなほど動いていた。

 

 早く、早く確かめたい。

 コワルスキーの口から。

 

 急ぎ足で教室へ戻る。

 

 

 杖を振るい扉を勢いよく閉めると、その勢いでコワルスキーが驚いた顔を見せた。

 

「うわ、びっくりした!」

 

 なんて言えばいいだろう。

 君はエミリーなのかと聞けばいいか、それとも確信したように行った方が言い逃れ出来ないだろうか。

 

 コワルスキーを見下ろせば、違和感がある。こんなに見下ろしていただろうか。

 

 あぁ、身長が違うからか。

 僕らが1年の時は少し僕の方が背が低かったから、目線に違和感があるのか。

 

「どうしたの?」

 

 グン、と耳奥に懐かしい声色が響く。

 人は最初に声を忘れると言うけれど、聞けば思い出は沢山蘇ってくる。

 

「セブルスと……」

「ん?」

 

 口から本当の願望が飛び出ると、もう止まらなかった。

 

「っ、セブルスと、呼んでくれ」

「セブルス……?」

「エミリー……っ!」

 

 視界がボヤけた。

 

「エミリー、エミリー、どうして……!」

「ぎゃ!」

「エミリー!」

 

 情けなく腰にしがみついて泣いてしまった。

 こんなつもりじゃなかったのに、僕は情けなく泣いた。

 

 寂しかった。会いたかった。

 勝手に死んだことに怒ってた。

 でも、またこうして会いに来てくれて……本当に嬉しかった。

 

「お願いだから、コワルスキー、エミリーだと言って……」

「……。」

 

 黙りこくったコワルスキーは、泣きわめく僕の頭を撫でた。

 

「相変わらず泣き虫ね、スニベリー?」

「スパイラルホーン」

「泣き顔も可愛いだなんてどうしたらそうなるの?前世で世界でも救った?」

「う……!」

「うわぁまた泣いちゃった!?」

 

 どうしようどうしようと慌てるコワルスキーに涙がまた止まらなくなる。

 無くなったものが帰ってきたのが嬉しくて。

 

 らしくない、情けない泣き顔を晒してしまった。

 

 

 

「……落ち着いた?」

「なんで僕よりお前の方が落ち着いているんだよ」

「そりゃ11年間この状態なんだもの」

「それ、も、そうか……」

 

 恥ずかしいやら懐かしいやら、足に力が入らなくて座り込んでしまった。

 

「なんで分かったの?」

「コワルスキーが馬鹿だからだよ」

「うーん、納得」

 

 僕の言った嘘を愚直に信じる馬鹿はこの世に二人と居ないだろう。

 

「本当は、言わないつもりだったの」

「……?」

「私は死んで、もう居ない状態で世界は進んでいるし。居ないのが当たり前になってる」

 

「──そんなわけない!」

 

 居ないのが当たり前?

 それほど薄情になったつもりは無い。

 

 人生に大きな影響を勝手に与えて、勝手にいなくなって、戻ってきてもその穴埋めすらしないつもりだったと?

 どこまで自分勝手なんだ。

 

「僕らはお前が居ないせいで!」

 

 どれだけ会いたかったと思っているんだ。

 

「まだ今でも、コワルスキーの後ろ姿を探しているんだ……。僕達は、もう……奇跡に縋るしか……」

 

 なんだかちょっとイラッとしてきたな。

 

「……なぁコワルスキー、忘れてくれ」

「なんでぇ!?えっ、ご乱心?」

「僕だけがこんな動揺してるの腹立つんだ。エミリー、お前も僕に騙されろ」

「えぇ〜〜〜?理不尽〜!そんな可愛いことある?理不尽をこの身に受ける幸運is何?」

「うわぁ、コワルスキーだ」

 

 普段なら割と無視をする内容でも、沸き立つ喜びで笑顔を浮かべてしまう。

 あ、笑顔のせいで死んでしまった。これこれ、懐かしい。

 

「──僕は、よからぬ事を企む者だ」

 

 この罰則の出来事だけ完全に忘れるように調節する。

 さぁ、忘れてくれ。

 

 ネタばらしは…………僕らが揃った時にしてやるから。

 

 

 

 ==========

 

 

 

 

 その後、さり気なく確認したところきちんと忘れていることが確認出来た。

 それでもコワルスキーはリリー達のことを探り出そうとするから、慣れないスリザリン生を救出ついでに阻止した。

 

 普段から使っていたマートルのトイレは、きっとコワルスキーが占領することになるだろう。一瞬の寂しさを抱きながらも、コワルスキーが戻ってきたという感情は大きく、浮き足立つような気持ちだった。

 

 

「リリー、今年も来たよ。あとついでにポッターも」

 

 毎年ハロウィンはまだ夜も明けてない霧の深い早朝にゴドリックの谷でリリーに会いに行く。

 朝露で湿った土が靴に張り付くが、この時期は仕方ない。

 

 今年は、報告したいことだらけだ。

 

「まず、二人の子供が入学してきた。ポッター、お前の憎たらしい顔にそっくりだ。生き写しかとも思ったが、なかなか素直で純粋だ。お前のように魔法界で貴族だなんだと持て囃されて傲慢になった鼻持ちならない姿とは比べ物にならないだろう」

「相変わらずMr.ポッターに対しては酷いですね」

「レギュラス」

 

 レギュラスは忙しい身。こうして会えるのも年に2度あるか無いかだが、必ずこの時期に時間を狙って墓参りに来る。

 

「ハリー・ポッターでしたね。本来兄が後見人なのでブラック家でも保護しなければならないのですが、兄は例のあの人を殺そうとしたということから絶縁状態ですもんね」

「で、あろうな。故にリリーの方からの後見人ということで我輩が援助していた。ブラック家の援助と比べると貧相だがな」

「兄上が救いようの無い馬鹿だから──父上に嵌められるんですよ」

 

 魔法で百合の花のリースを作る。

 僕も、と言いながらレギュラスは下僕屋敷妖精に持たせた百合の花束を墓前に置いて祈った。

 

「どんな子でした?」

「マグル生まれらしい子ではあった。緑の目をしていて……」

「それはそれは」

「リリーかと最初思ったけど、あの目はコワルスキーに良く似ている」

「……っ」

 

「まあ、コワルスキーはハリー・ポッターのことを猫っ可愛がりしているから、さぞかしあいつの目にはジェームズ似とは写ってないのであろうな」

 

 僕の発言に驚いたのはレギュラスと……懐に入れていたネズミだ。

 

 ──ボンッ

 

 人間体にもどった動物もどきが僕に驚きの目を向けている。

 

「セブルス……どういうこと……!?もしかして、あの、姪っ子ちゃんに何か関係が」

「ピーター、その姿のままでいるのは危ないから早くネズミに。……代わりに僕が聞きますから」

「ありがとう」

 

 再び小さなネズミに戻ったピーターは抗議をするように後ろ足をテチテチと踏みしめている。

 

「ミリ・コワルスキーという子供が同じく入学してきた。素晴らしい判断であったな、ワームテール。一目見て即座に逃げ、コワルスキーに捕捉されなかったのは僥倖」

「つまり…………?」

「そのミリが、僕らの知っているエミリー・コワルスキーの……転生体とも言うべきか。昔の記憶を有したまま、またイギリスに戻ってきた」

「「……!!」」

 

 息を飲む声。

 どういう流れで判明したのか、『罰則』の内容は細かく伝えない状態で自白させたことにして二人に伝えると、ポロポロと耐えきれない涙を流していた。

 

 落ち着くまでしばらく経った後、ややあって口を開く。

 

「僕はコワルスキーの記憶を1部だけ消した。つまり、僕や二人が『ミリ・コワルスキーがエミリー・コワルスキーである』だなんて思っていないはずだ」

「……なるほど、なにかと利用出来そうですね」

「まぁ、そうだな」

 

 墓石にスコージファイをかけて誤魔化す。ネズミの表情から、ワームテールは僕の企んでいることがそんな崇高なものではないというのが分かったのだろう。

 後輩の前だから勘弁してくれ。

 

「裏からこっそり守れますね。ワームテールを前にしてもMs.コワルスキーは、ピーターだと気付かないでしょうし」

「いや絶対気付く」

「チュウ!」

「………………嘘でしょう?特徴のある動物もどきならともかく、ネズミですよ?」

「あいつの変態度を舐めるなよ。ワームテール、会いたい気持ちは分かるが、情勢がひっくり返るまでしばらくコワルスキーと鉢合わせだけは死ぬ気で避けてくれ」

「まぁ……本当に死ぬかもしれませんしね……」

 

 念には念を入れるべきか、とレギュラスも納得したようだった。

 

「二人の前で言うのははばかられますが」

 

 レギュラスがリリーとポッターの墓石を見ながらワームテールを持ち上げた。

 

「我が君に救ってもらった命ですから、大事にすべきですね」

 

 

 

 

 

 ホグワーツに戻りピーターを部屋に匿えばエミリーがハリー・ポッターと共に教員席へと来て校長と僕へひとつの提案をした。

 

「ハリーの両親の墓参りに行きたいの。どちらか着いてきてくれない?」

「却下だ」

「良いぞ」

「ダメでしょうが校長!」

 

 コワルスキーがエミリーである以上、墓参りに行きたい気持ちも分かるが、辛い思いをさせるだけになるのでは無いだろうか。

 

 そんなことを考えているが、リーマスを引き合いに出され渋々引き下がる。

 

 いつの間にやら、リリー達が死んだということは知っている様子。思っていたよりも動揺した姿が見えないが、あまり本心などを語らないコワルスキーの癖だ。というか己の感情にさほど興味が無い他人主義というか……。

 

 

 校長もあの二人も抜け、ハロウィンパーティーが始まるもトラブルは止まらない。

 

「──トロールが、あら、現れ、まし……た」

 

 責任者のいない間に現れた魔法生物。僕もそれなりに腕があるとはいえ、賢者の石狙いだろうということは十中八九。

 コワルスキーの手助けも望めない以上、自分で侵入者が居ないか確認する。

 

 あれが、第三者の手に渡ると非常に厄介だ。

 

 3つ頭の魔法生物に足をやられたが、リーマスの時と比べれば動けるため罠が何も突破されてないことを確認してすぐさまトロールの対応に向かった。

 

「クィレル……」

「セセ、セブルス……!どうしてこん、こんなところに」

「生徒の避難を確認するのは悪いことかね?」

 

 そして、トロールを手引きしたのはクィレルであろう。拭いきれない異臭がニンニクの匂いを突き破って微かに鼻につく。

 

 こちとら7年間コワルスキーと世話をしていたんだ。おかげで魔法生物飼育学は得意科目のひとつ。

 

「──セブルス」

 

 クィレルの後ろから声が聞こえた。

 

「…………その、声は」

「クィレル、下がれ。俺様がセブルスと話そう」

 

 腕の死喰い人の刻印が僅かに熱を持つ。

 ヴォルデモート。

 消滅したとはいきても、死んではいないだろうというのがデスイーターの総意。

 

 まさか、クィレルの後ろに居たとは。

 

「セブルス……」

 

 クィレルのゴクリと息を飲む音。

 

「──ミリ・コワルスキーは何者だ?」

「……エミリーの、姪の様です。無論貴方様も聞いているでしょうが」

「あまりにも、似すぎやしないか?」

「奇妙な程に…………」

 

 この方の、真意は分からない。

 謝りながらもコワルスキーを殺した犯人。リリー達をころし、そして僕らを救いあげた。

 

「セブルス、そのまま教師としてダンブルドアを探るのは無論だが……コワルスキーも守れ」

 

 目を見開く。

 

「やつもまた、魔法生物学のトップクラスになるだろう。貴重な才能だ」

 

 これでも、コワルスキーの次に僕らの中ではヴォルデモートとの付き合いが長い。

 僕はこの言葉が本心ではあるだろうが真意では無いと考えた。

 

「御意に……」

 

 どちらにせよ、僕にとっては都合がいい。

 コワルスキーがリリーの子と共にいれば、コワルスキーはそいつを庇う。身代わりになろうとする。

 

 だから、そのコワルスキーを僕が守れる。しかも我が君の命で。

 

 

 

 

 

 

 

「いやです!わずか11歳の子供が興奮状態のトロールを怪我なく捕獲できた時点で私はもう魔法生物をこの子に教えたくありません!エミリー・コワルスキーの再来どころかパワーアップじゃないですか!」

 

 ケトルバーンの悲鳴に、そうですと心から言いたかった。

 

 

 なお、クィディッチの大会で箒に錯乱魔法をかけたクィレルを飛び蹴りしたコワルスキーは、多分わざとなんだろうな、と思いながら減点したのだった。

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