ドラゴンが見つかった。
何を言っているのか分からなかったが、ミネルバからそれを聞かされた時『ついにとうとうやったか』という感情の方が強かった。
「チャールズ・ウィーズリー。説明を頂こう」
「う、スネイプ先生……」
珍しい組み合わせでの罰則。
コワルスキー1人だけでは見つかるようなヘマを今更しないだろうが、あの地図を持っていなければそれもありうるだろうか。それとも降って湧いたドラゴンに興奮して注意不足だった。後者だな。
「私は今夜の罰則の準備がありますから」
そう言って怒ったミネルバが去る。卒業したはずのウィーズリーから、どう言った経緯だったのか説明を聞けば、ため息を吐いた。
そうか、ハグリッドか。全く、これだからグリフィンドール生は……。
「それで、資格があるし育成出来る環境があるからミリ・コワルスキーがドラゴンを引き取ったんです。それにしても彼女、凄いですね。僕も噂だけは聞いていたんですが、アメリカのミリ・コワルスキーと出会えるだんて!あの子はすごい才能ですよ、絶対今後の魔法生物学会に革命を起こすに違いないですし!あのトランクの中身は僕にとっての楽園のようでした!もう少し時間があれば隅々まで見たかった……!」
ウィーズリーが力説する。その熱量は魔法生物に関わるものあるあるなのだろうか。
そして愚かにもウィーズリーは僕に同意を求めた。
「スネイプ先生、彼女、本当にすごいんですよ!」
キラキラと顔を輝かせ、たかが1年の実力を把握していないであろう教師に力説するウィーズリー。
「──とっくに知っている」
僕の相棒だ、それくらいしてもらわなきゃ困る。
その日の夜中の11時。罰則として集まった1年生はコワルスキーの周辺に団子になってくっついている。こうして見ると可愛げがある。ポッターやブラックなどは怯えたりせずにズンズン先を進む愚か者達だったから。
「グリフィンドール生とスリザリン生が夜中に出歩いて!多くの点を引いて!危険な生物と会っていたなんて!」
「ミネルバそこら辺で」
その言い方は我々にも刺さるからやめてくれ。
「──怪我でもしたらどうするんですか!!」
「ミネルバ!」
わざとだなミネルバ・マクゴナガル。
夜中に出歩いて減点されて怪我を負った僕の話はやめろ。
何が面白いのか、同じ減点されたコワルスキーまで笑って微笑ましげに僕を眺めていた。
お前に関しては今は言及しないが、同じ巣穴のアナグマだからな?
ちなみにミネルバはリーマスが人狼だということを知っていたようだった。のちのち教師になり教えられた為、コワルスキーが『キメラが居た』という嘘は通用してなかったようだ。
「セブルス、辛くはありませんか」
子供たちが罰則に向かい、残されたミネルバは僕を気遣った。
「Ms.コワルスキーは、エミリーととても似ています。貴方が辛いのであれば、関わらないように調節することだって出来ますよ」
「……辛くはありませんな。この場所でエミリーが尽き果てた姿は、相変わらず夢を見ますが」
「そうでしょうとも」
「それよりも、あの腑抜けた笑顔の方が多く夢に見ます。少し離れた場所から見守るのも、それはそれで楽しいですな」
「まぁ……」
その後、『ユニコーンの血を啜ってる不審者がいて飛び蹴りしてきたんですけどどうしたらいいですか!?』と駆け込んできたコワルスキーに二人がかりで説教をした。
「……ミネルバ、辛いです」
「……無効です」
「そんな馬鹿な……」
==========
「よーう、スニベリー!」
ピーブズが深夜に現れた。
相変わらず腹が立つ顔をしているし、相変わらずやかましい。
僕はキーキーやかましい存在が苦手だ。屋敷下僕妖精やピーブズはその最もたると言ってもいい。
何年も近くにいるのでもう慣れていたが、エミリーが亡くなってからは少し疎遠気味だったがコワルスキーが戻ってきてようやく元通りになった。
「聞いちゃった、聞いちゃった」
「何だ急に」
「今からミリ・コワルスキーがハリー・ポッターと一緒に賢者の石を探しに行くんだってさ。秘密だぜ?」
頭が痛くなった。
なるほど、伝言役か。恐らくコワルスキーが意図的に頼んだのであろう。
「コワルスキーはなんて?」
「えっ、なんでそんなこと聞くの」
「何となくだ」
クィレルの姿をまず確認して、居ないことが分かったので即座に罠を確認しに向かう。
コワルスキーが向かった、ということは魔法生物は間違いなく突破されている。
眠りにつく魔法生物を潜り、それぞれの教師が仕掛けた罠が突破されているのを確認する。
僕が仕掛けた魔法薬の試験は薬も酒も何もかもすっからかんに無くなっていた。
自分用に持ってきた魔法薬を飲み込めば、立ち込める炎に向かって突き進んだ。
「セブルスや!」
「ダンブルドア」
「ピーブズから聞いた、お主もじゃろう」
そして視界が晴れると、羽交い締めにする1年生と、されているコワルスキーが目に入った。
「クィレルは……」
居ない。逃げたか。
「賢者の石が盗まれておらん……?」
何も触れてない、とブツブツつぶやく校長に叱咤をしてコワルスキーに説明を求める。
「いや。ちょっと喧嘩の売買をしてたら止められて」
「はぁ…………」
コワルスキー、エミリーの時より酷くないか。
クィレルが居たというのは分かっている。つまりヴォルデモートとも対面したということ。
それと喧嘩をしただと?
死因を忘れたのか死因を!
「──コワルスキー、シレンシオ」
「……はい」
やかましい口を呪文無しで塞いで他の子供たちに説明を求める。
子供たちの装備は懐かしい物で、高学年時によく着ていた防火服だった。僕のものはドラコが使っているようで、ポッターは親のものを使っている様子。わざとこの分配にしたのだろう。
「それで、ミリがクィレル先生と喧嘩を始めてしまったんです」
「…………本当になんなんだあいつは」
「僕らが聞きたいです!なんだってあんな変なんだよミリは!」
「スネイプ先生、クィレル先生の後ろにも人の顔があったんです。最初は私、悪魔みたいに恐ろしくて……目をつぶってしまったんです」
「それとも、喧嘩をした、と」
「はい……。そのせいか、なぜか逆に怖くなくなってきて」
だろうな。
コワルスキーとヴォルティーグさんの組み合わせは、周りも毒気を抜かれるというか。警戒するだけ怖がるだけ損をするような気持ちになる。
子供の精神に悪影響を及ぼさなかった事だけは褒めてやろう。
危険な目に遭うのは僕だけでいい。百歩譲ってコワルスキーだ。
だからこの冒険の思い出が、危険で嫌な思い出ではなくワクワクして不思議で笑えるような思い出にしたコワルスキーの手柄を褒めてもいいだろう。
「真似だけはするなよ」
「したくとも出来ませんって……」
いやポッター、お前なら絶対出来てしまうから肝に銘じろ。
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「リアムさん」
「セブルス……?」
リアム・コワルスキー。エミリーの兄でもあり、ミリの父。
エミリーが亡くなってからこうして直接会うのは初めてかもしれない。
僕がコワルスキーの墓参りに行く時は誰にも合わないようにするのが基本だったから。
「久しぶり、だね。随分歳をとったじゃないか」
「えぇ、互いに」
ホグワーツ特急から帰ってくる生徒を待っている保護者の中に、見慣れた顔があった。
歳をとってシワができ、老けた為かコワルスキーと少し違う顔つきになっている。
「リアム、彼は?」
横にいる黒髪の女性が僕のことを聞いた。
「彼はセブルス・スネイプ」
「あぁ、あの」
「そう」
『あの』で伝わるのか。すごく複雑な気持ちになりながらも、紹介されたので頭を下げて名乗った。
「セブルス、彼女は僕の妻のイオだ」
「あぁ……。あのイオ嬢」
「待って、どの??」
よくコワルスキーが近所に住むド好みの美人さん、と言っていた方か。
なるほど、そういえばリアムさんもイオ嬢と付き合ったと言っていた記憶が僅かにある。
「コワルスキー家は大変でしょう」
「…………まぁ、そうね。でも愛しいわ」
「分かります」
心からそう思っているのだろう。微笑んだイオ嬢は、どこかで見覚えのある笑顔を浮かべた。
「セブルスは……今何を?」
「教師を」
僕は駅を見ながら言う。
ホグワーツの教師だとわかったリアムさんは懐かしそうに目を細めた。
「セブルスだよね、毎年エミリーのお墓に花を添えてくれるの」
「……はい。迷惑でしたか?」
「とんでもない。……いつまでも、エミリーのこと大事にしてくれてありがとう」
「それは、逆に感謝を述べたいほどです。いつまでも大事にされていると実感するので」
「……?それってどういう」
僕はリアムさんの目を見てはっきり告げた。
「僕は、今年から墓参りには行きません」
この人は人の心を読むのが上手い。開心術を無意識に使っているマグルだ。魔法使いになれるような魔力はないが、家系の影響が大きいだろう。
そんな彼は家族に対して開心術を上手く使えるが、他人に向けてはそう使えない。有名な開心術の使い手、クイニー・ゴールドスタインには敵わない部分だ。
そこが今は助かった。
特急の汽笛の音が鳴り響く。
リアムさんは驚愕の色を顔に浮かび上がらせ、喜ぶ様に口を開いた。
「セブルス……まさか……!?」
「彼女はまだ知りません。11年間も騙された僕の意地返しだと思ってください」
墓の方から参ってくるんだから、僕の相棒は相変わらず僕のことが好きすぎるな。
ちなみに、新学期早々トラブルに巻き込まれた相棒殿と英雄殿を迎えに行くはめになった時は物理的に墓にしてやろうかと思ったが。