─矛盾─   作:恋音

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8.壁

 

 学年末パーティがやって来た。

 トレーネとの争いから数ヶ月、大広間には全学年の生徒がそれぞれの寮に別れて騒ぎながら座っている。

 

 年に数回ある大事な日には正装として黒い帽子を被らなければならず、ジェームズやシリウスはダサいとブーブー文句を垂れていた。

 

「エミリーエミリー。セブが見えるわ」

「んんっ、2人共可愛い」

 

 スリザリン席でセブルスがリリーに向かって小さく手を振る。横に座っていたノット達がいじるのに対し、顔を真っ赤にして何かを訴えていた。多分『まぁたマグル生まれにお熱だぜ』『うるさい黙ってろ』的なやり取りだと思う。

 セブルス、ちゃんとスリザリンに馴染めたんだなぁ!

 

 彼はリリーの正面に座っていた私にようやく気付いて『んべっ』と舌を出して可愛い!! 無理可愛い!! 可愛いが無限に溢れてくる!

 

「まぁたやってるよあの二人」

「スネイプの奴、好かれてる自信でなんか変な方向に行ってるな」

「まぁミリーの好き好きアピールは大変分かりやすいからね。はぁー、典型的ないじめられっ子だと思ったのに」

「そこの双子、うるさい」

 

 

 あの日はダンブルドア先生が学校におらず、対処はマクゴナガル先生がしてくれた。

 ジェームズの魔法で見世物の如く引き摺られていたトレーネと、後頭部から血を流してボロボロの私(ついでに泣いたせいで目も充血して声もガスガス)がシリウスにおぶさって居たから相当びっくりさせてしまっただろう。

 

 アドレナリン出てたから気が付かなかったけど後頭部ぶつけた時に出血してたらしい。目立ちにくいけどピーターのローブ血で汚していた……。私とした事が……。

 えっ、それでも空中に放り出された時私を抱き締めて守ってくれたのとか、私が気付かない様に気を配って指摘しなかったピーター本当に天使過ぎない?

 

 ちなみにピーターは魔法道具の悪影響が出るかもしれないので一応私と一緒に医務室のお泊まりになった。お互い一晩で終わったけど。

 

 

「はぁ、勝ちたかったなぁ」

 

 ジェームズが緑に彩られた広間を見て不満そうに呟く。

 寮杯はスリザリンの物だ。

 

 可愛い天使は皆向かいの席に座っているので満面の笑みで観察して時間を有意義に過ごしていると校長が現れた。

 あれがアルバス・ダンブルドア。

 この世で1番偉大な魔法使いかぁ。ニュート伯父さんの方が凄いと思うんだけどな、魔法生物のエキスパート。

 

「こうしてまた1年が過ぎた!7学年の皆は卒業を迎え、新たな旅路へと足を進める。ま、他学年は学んだ事を空っぽにする夏休みへと突入するんじゃがのぉ……。おや?ここは笑う所じゃぞ?」

 

 苦笑いなどを含め、微妙な笑いしか無い。

 ダンブルドア先生はゴホンと咳き込んだ後寮の得点を言い連ねる。

 

 4位、グリフィンドール340点

 3位、ハッフルパフ389点

 2位、レイブンクロー405点

 1位、スリザリン430点

 

 うん、間違いなく魂の双子が寮の点数を減点しまくったからね。予想はしていた。何が勝ちたかった、だよホグワーツ最大減点対象。

 

「スリザリンよ、3年連続の寮杯獲得おめでとう。しかしじゃな、わしは少々点を入れておきたい者がおる」

 

 ざわざわと周囲がざわめく。

 

 

「ピーター・ペテイクリュー。咄嗟に友を、命をかけて庇い、己を犠牲にしようとも助けようとしたその心意気、並大抵の覚悟では出来まい。ワシとしてはマーリン勲章の緑を差し上げたい所じゃがの! ──グリフィンドール、40点加点!」

 

 ピーターは呆然としていたが向かいに座っていたシリウスにもみくちゃにされて椅子から滑り落ちる。可愛い。シリウスは後で覚悟しとけ。

 

「そしてエミリー・コワルスキー。類まれなる魔法生物の使い手よ。その子達と上手く協力し、友を救い出した事。そしてその勇気を称え! グリフィンドールに60点!」

 

 わぁ! という歓声と共に弾幕は赤へと変わっていく。10点の差を付けて、グリフィンドールが逆転したのだ。

 お祝いムードになってグリフィンドールが盛り上がる中、ジェームズが大きな声で静止をかけた。

 

「あの件には、もう1人の立役者がいる。彼が居なければ完全に無力化出来なかった! ダンブルドア! 僕は、スリザリンのスネイプも、評価するべきだと思う!」

 

 スリザリンが驚いた顔でグリフィンドールのジェームズを見ていた。

 そしてダンブルドア先生は、悪戯を企む子供のようにニヤニヤと笑いながら目を細めた。

 

「ほっほっほっ、そうじゃったそうじゃった。歳をとると物忘れか激しくていかん。──セブルス・スネイプ。テスト中であろうと友の危険を察知し飛び出すその心優しい行動に、わしはスリザリンに20点を」

「っな!」

「そしてジェームズ・ポッター」

 

 テスト中だったと言うことをバラされたセブルスは顔を真っ赤にする。そしてジェームズは僕?と首をかしげた。

 

「──先程の発言、わしは大変感銘を受けた。グリフィンドールに10点!」

 

 爆発的に騒ぎ声が広がる。

 

 大広間が赤と緑の色々で彩られる。2分割された飾り付けではなく、まばらに彩られた空間。

 

「……うわぁ、これダンブルドアの手のひらの上だったやつだ。僕の行動も読まれてた? 恥ずかしい何これ凄い恥ずかしい」

 

 頭を抱えて身を縮めたジェームズがボソボソと耳を真っ赤にして呟く。

 

「寮杯はグリフィンドールとスリザリンじゃ!」

 

 乾杯!という声を聞いて私はようやくフリーズしていた体を動かした。

 

 

 

「──いや今更かよッ!」

 

 大広間で笑い声が響き渡った。

 寮の垣根を越えた笑い声が。

 

 

 

 

 ==========

 

 

 

 

「頼むコワルスキーッ! 俺の家はスリザリンとグリフィンドールの仲が大変よろしく無い家なんだ! 仲介に入ってくれ!」

 

 マグル育ち半純血のグリフィンドール生に、スリザリン純血貴族家庭のグリフィンドール生が頼み込んだ。

 

 

 

 

 ==========

 

 

 

 

「はじめまして、Ms.ブラック。突然の訪問申し訳ございません」

「ただいま。ちょっと話がある、俺が今から親父呼んでくるから。コワルスキーと待っててくれ」

 

 帰ってきた息子に怒鳴り散らそうと思っていたブラック夫人は息子と共に帰ってきた突然の来訪者にキョトンと目を丸くした。

 

 

 

「──待たせたなコワルスキー。親父を呼んでき」

「予想はしておりましたが本当にやはり奥様はお美しい。本当に旦那様は女性のご趣味がよろしく、1種の嫉妬を覚えますね」

「ま、まぁ。口がお上手ですこと」

「この気持ちに偽りなどございません。心から美しいと思って」

「コワルスキー、人の母親を口説くな」

 

 バシリと頭叩かれて渋々口を閉じる。

 

「……それで、シリウス。連絡も寄越さず突然連れて来たそのお嬢さんは純血の子かな?」

「いいや、違うぜ親父。こいつは半純血、らしい」

「母の旧姓をゴールドスタイン、父をマグルに持つエミリー・コワルスキーでございます」

 

 挨拶の礼をしてニコリと微笑む。

 純血よ永遠なれ、と家訓を掲げるブラック家で私は平常通り。このメンタルを買われて家族仲悪化防止に努めさせていただく。

 

 Mr.ブラック……シリウスの父親は顔を歪め、母親は怒りで顔を真っ赤に染め上げた。

 

「シリウスッ!お前というやつはスリザリンではなくグリフィンドールに入った挙句ッ!こんな穢らわしい口だけの小娘をブラック家に招くだなんて!」

「奥様のお怒りはご最もです!私とて高貴な方々の住まうお屋敷に訪問させていただくなど、とても敷居が高い事でございました!後口だけじゃなく心から思っております!しかし、しかしながら!」

 

 私は悔しいという顔をして言葉を続ける。

 

「ご子息がグリフィンドールなどに入った原因を、根源を、お伝えせねばならぬ事がございます!見不相応ながらこうして参りました……ッ!」

 

 奥様に負けない様なテンションで訴えるとびっくりした表情で言葉を飲み込んでいた。他者に怒鳴って大きく見せようとする人種は怒鳴り返えされると一瞬怯む習性がある。小学校の同級生がそうだった。

 

「ご子息がグリフィンドールに入った件、私は大変残念な心できいておりました」

「ッ!えぇ、そうでしょうともそうでしょうとも!決して許せることでは無いですわ!」

「しかし、その件に怒りを覚えるべきはご子息では無い」

 

 すぅ、と奥様の表情が抜け落ちた。何を言っているだこの小娘は、と言いたげな視線だ。の、罵りは無いんですか!ぶっちゃけここで止めたのは罵ってもらいたくてわざと止めたんですけど!

 

「何故、か、お伺いしても……?」

 

 はぁぁあ静かに怒れる奥様の冷たい視線が私にビシビシと突き刺さっ、て痛い!?

 

 横を見るとシリウスが机の下で私の足を摘んでいた。思考回路読まれていたみたい。

 

「あの組み分け帽子には圧力が掛かっていた。と言えば、最早誰の思惑か、そして真に責めるべきは誰なのか分かるでしょう……」

 

 視線をさり気なく下へと向ける。

 こ、これ以上直視してたら目が潰れるかもしれない……!恐ろしいよブラックの名前が!世の中ブラックの名前を聞けば絶対に美形だと思って間違いなさそうだ!

 

 ……なんでシリウスは残念なんだろう。美形じゃなくてイケメンなのが惜しすぎるよ。

 

 

「……何故、そうだと分かって?」

「彼がスリザリン気質だからです。Mr.ノットやMr.エイブリーとよく話をして気が合っている様子でした。そして何より、私も強制的に組み分けされたグリフィンドール生だからです」

「では、キミは、えーっとMs.コワルスキーはダンブルドアが何故圧力を掛けたか、予想出来ますか」

「…………えぇ。私にしか、恐らく気が付かなかったでしょう」

 

 こんな時でも冷静に当主としての仮面を被れるの純粋に凄い。私は隣で軌道修正してくれるシリウスが居なかったら本音がボロボロ出てたと思う。

 

「母は純血の血筋です。出身はアメリカの魔法学校、イルヴァーモーニーです」

「……なるほどな、ホグワーツ出身じゃないからこそ娘を預けるのに不信感が勝り、ツテを使って調べた、と」

「しかも伯母は世界各地を飛び回る闇祓いです」

「ッ!」

 

 小さく息を飲んだ。シリウスが膝を思いっきりつねって何言ってるんだよ、ってアピールしてくる。

 

「闇祓いの伯母か、それで情報を確信出来たのだね?」

「えぇ。伯父がダンブルドアの贔屓にあっていましたし、伯母と母と私は意見を合致させました」

 

 ダンブルドアがホモである、と!

 

「まぁそもそもゲラーうんちゃらバルトって魔法使い?と戦い勝利を収めた親族らしいので元々ダンブルドアに不信感があったようですよ。彼らに何があったのか教えて貰えませんでしたが」

「……なんと、ゴールドスタイン、なるほど、ポンペーティナ・ゴールドスタインの。なるほど、では伯父というのはあの本の」

「お察しの通りでございます」

 

「何??言ってんだ??」

「シリウスステイ」

 

 今は話の内容分からなくても黙っている時です。無い頭振り絞って天使との戯れを封じ込めてシリウスの為にイギリス人の大好きな言い回しを考えたってのに!

 

「いや、待てよ、シリウスクッキー食べる?」

「ッ、食べるッ!」

 

 ポケットから包装されたクッキーを取り出して、開封する。手渡す前にシリウスは横から一つ摘んで口の中に放り入れた。

 

「シリウス、全く、行儀が悪い」

「次期当主の自覚が足りないのでしょう。しばらく自由にさせて世間の厳しさを教え込むのも一興だと思いますけど、おっと失礼。出過ぎた真似を……」

「いや構わない。……礼儀作法は叩き込んでいるはずだがそんなにがっつくとは嘆かわしい」

 

 シリウスがモサモサと食べながら己の父親を睨む。なら食べてみろよ、と言いたげにクッキーの残りを差し出そうとした。

 

「まってシリウス、それはキミ専用だからダメ」

 

 うん?と首を傾げたシリウスは段々自身に起こった変化に気付いたみたいだ。

 がしりと肩を掴まれ訴えられる。

 

「あーはいはいごめんごめん。って聞こえてないよねぇ?いい加減学んでよ、物に仕込まれかねない危機感とか」

「……コレは、魔法薬の…ッ、何か、か?」

 

 目を細めてMr.ブラックがクッキーの残骸を見る。

 

「す、素晴らしいですね。まさか魔法薬の残り香が見えるのですか」

「精巧に作られている。ふむ、毒物を仕込むのも簡単そうだが。味の方は?」

「こちらの魔法薬の分量を失敗して焼き消してしまったクッキーと同じ味です。もちろん毒味はしましたが」

「魔法薬の効果は?」

「耳封じと口封じです。その、まだ聞かせるのには早いかなー、と、思いまして。後耳塞いだら絶対口煩く訴えそうなので」

「……この状態を予想してたと?」

「いいえ全く。特急の中でうるさいから使ってしまおうかと思っておりました」

 

 興味津々と言った様子でクッキーを眺めるシリウスの父親可愛過ぎないか? 知的好奇心の塊?

 

「ダンブルドアはきっとシリウスを狙っています。性的な意味で」

「……組み分け帽子の圧力は恐らくその狙いだろうな」

「ダンブルドアに心酔させ、手の内に縛り込む、と考えてもいいでしょうが。どちらにせよ危ういです。とても」

 

 いやホモ説自体は浮上しているけど流石に捏造だからね。流石に生徒に手は出さないよ、教師だし。なんで騙せてるんだろう。まさか実体験?

 

 ま、いいか! 偉大な魔法使いはこんな話程度で潰れるわけがないし! 子供の悩みを解決する為に利用したっていいよね!

 

「どうかご子息をグリフィンドールに所属する事を許してあげてください。どんな立場になろうとも。私がご子息を、傍で守ります。尊き血筋のお方を護って死ねるのなら半純血なりに名誉な事でしょう!」

「キミはまさかシリウスを好い──」

「──あっ、それだけは無いです」

 

 片手をあげて静止させる。それだけは嫌です。

 

「ではもうそろそろお暇させて頂きたいと思います。お忙しい中お二人揃って時間を取らせてしまい申し訳ございません」

 

「いや、穢れた血の混ざる根っからのグリフィンドール生。とても有意義な時間になったよ」

 

 ピクリ、と頬が引き攣る。

 シリウスが聞こえてないからって嫌味全開だな元スリザリン生。

 

「それは大変、ようございました。身分違いな私に心を砕いて頂き恐悦至極……」

 

 美形に言われたってご褒美でーーす! 残念でした!

 とってもいい笑顔で返します!

 

 ありがとう! ナイス罵り!

 

「あ、そうだ」

 

 玄関に向かうとご丁寧にお見送りをしてくれたので追加で口を開く。マナーなんて何も学んでない小娘相手によく貴族の仮面を被れるよなぁ。

 貴族たるもの、って言うよりこれぞ王族って感じだァ。

 

「──トレーネ先生の件、残念でしたね」

 

 

 

 

 

 

 笑顔で私は宣戦布告をする。

 トレーネを教師に推薦したオリオン・ブラックは顔から笑顔を消して私を温度の無い目で見下げる。

 

 怒りで睨むとかより恐ろしくて、私の背中がゾクゾクする好きぃ。

 

「私アメリカ人なので遠回しな言い方嫌いなんですよね」

「へぇ?」

 

「私はまだ力が無いし、地位も無い、ツテがある訳でも無いし、ぶっちゃけ実技が出来ない」

 

 致命的な欠陥ばかりだし、私が相手にしてるのは魔法界の王族の様な雲の上の存在だ。

 

「でも、喧嘩は売れます」

「随分安上がりな喧嘩ですねェ」

 

 美人は笑う。

 

「私の喧嘩内容はこうです。『闇側なんて存在、要らないと思いません?』」

 

 シリウスに見えない角度で杖先が向けられる。仏頂面のシリウスは気付いてないみたいだ。

 

「それ相応の理由があるのでしょうね」

「当然です」

 

 

 私は満面の笑みで告げた。

 

「美人には陽の光を浴びながら幸せそうに笑って欲しいんで!」

 

 逃げる様に走り去った。

 本音も本音、張本音。

 

 だってブラック家やっぱり美人ばっかり!本当にシリウスったら残念!

 

 ……闇側とか言われてるけど、戦略だとか憎しみだとかに染まる顔は美人に似合わないよ。これで多少は考えてくれると、いいと思ったんだけど無理だろうな。

 

 

 まぁ私身近な天使が闇側に行くって言ったら全力で着いて行くけどね。

 

 

 

「よし、ロンドンで少し遊んでから帰ろう!」

 

 美人に冷たい目で見られたという感動が私にはまだ残っていたのでこのテンション凄い。




ダンブルドアをホモに仕立てあげて、グリフィンドールは渋々入らざるを得なくなった状態のシリウスって設定。

ホグワーツ外ではスリザリンとグリフィンドール、出生の壁なんてブラック家の皆さんの反応が普通の状態かなー。なんて思うけどね。
正直主人公の今の状態は他人に生き様押し付けようとしてる悪人にしか見えない。闇の中でしか生きられない生物を無自覚に殺そうとしてる感じ。
例え……水で泳いだら移動が楽だろうと思ってアリの巣に水注ぐ子供とかかな。

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